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子供の神様 (8) by.アイニス

(8)

 満足した顔で瑞穂は店を出たが、足元がふらついていた。倒れそうだったので、慌てて伍良が支える。瑞穂の顔色は青ざめていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「大事ない。久しぶりに気合を入れたので疲れただけじゃ」
 ゆっくりと歩きながら、瑞穂は深呼吸を繰り返している。顔色は悪かったが、瑞穂の表情は明るかった。
「久しぶりに美味い物を食べた。それに崇められるのは嬉しいものじゃ。つい調子に乗って、力を使ってしまったわ」
「……俺の体を元に戻す為に温存しておいてくれよ」
 伍良は小声で愚痴を言った。店内にいた人々から崇められたので瑞穂の力は少し回復したようだが、店の繁盛を願ってしまったので結局は消耗したようだ。
「何か言ったか?」
「何でもないよ。服を買いに行くか」
 肩で息をしているのに笑顔の瑞穂を見ると、伍良は文句を言う気を削がれた。喜怒哀楽の激しい困った神様だなと思う。
「服を見るのも楽しみじゃ。お主に預けた賞金は好きに使うがいいぞ」
「臨時収入があったのは助かった。もっとも、女の子の服なんて俺にはわからないからなぁ」
 まさか女の子の服を選ぶ羽目になるとは思わなかった。歩いているとおっぱいが服に擦れて奇妙な気分になる。変にむず痒くて落ち着かない。
「今の服の流行は妾にもわからぬ。昔とはかなり変わっているようじゃからな」
 瑞穂の知恵を借りるつもりはないが、服選びには苦労しそうだった。うんざりとした気分でデパートのある方向に向かっていると、級友の一人が向こうからやってくるのが見えた。
「あっ、ミサキチじゃん」
 渡りに船とばかりに伍良は渾名で呼びかけた。級友の名前は、水咲。同じ学区に住んでいるので、小学校の時から見知った顔だ。
「こんなところで会うなんて奇遇だね、伍良君。あれ、伍良ちゃん。あれあれ、伍良君?」
「伍良君がいいな」
「うーん、あたしも伍良君の方がしっくりするよ。何だかおかしいね」
 水咲は少し困ったような顔で首を傾げていた。記憶を改変されているといっても、感覚的なものは残っているようだ。
「頼みがあるけど、時間は大丈夫か?」
 以前なら伍良の方が背は高かったのに、今は水咲を見上げる格好になっていた。変な感じだ。
「部活の道具を買いに行くところだけど、時間ならあるよ」
「悪いけど、俺たちの服選びを手伝ってくれよ。女の服なんて買ったことがないからわからない」
「伍良君は今まで男の子っぽかったからね。少し色気でも出てきたのかな」
 相談内容を聞いて、水咲は悪戯っぽく笑う。からかうように言われて、伍良は口元を歪めて憮然とした顔になった。
「いきなり胸が膨らんで困っているだけだ。本当なら男の服の方が気楽だよ」
「そういえば少し前まではぺったんこだった気がするね。いきなり成長したのかぁ」
 胸の辺りをじろじろと水咲に見られて、伍良は胸を腕で覆い隠したくなった。男だったと覚えてないはずだが、変化した体を観察されるのは恥ずかしい。
「下着もちゃんと選ばないと駄目だよ」
「俺の服は適当でいい。それより瑞穂の服を選んで欲しいな」
 会話の矛先を変えようと、伍良は瑞穂に顔を向ける。女物の下着のことまで考えたら、頭がパンクしそうだ。
「可愛いね。親戚の子?」
「そんなところだ」
「お主は伍良の友達か。妾の名は瑞穂という。よろしく頼むぞ」
「うん、できる限り協力するよ。任せておいてね」
 瑞穂の古風な喋り方を聞いて、水咲はちょっと驚いたようだ。
「少し変わった子だね。珍しい雰囲気をしているよ」
 水咲は耳に口を寄せて、小声で囁いてきた。女の子同士ということで顔の距離を縮めたのだろうが、伍良としては妙にドキドキしてしまった。水咲の息が当たった耳が熱い。
「家庭の事情だからさ。あまり深く詮索しないでくれ」
「わかった。それじゃ三人でデパートに行こうか。うわぁ、ちっちゃくてプニプニの手だね」
「妾を子供扱いするでない」
「そんなことないって」
 水咲は小さな子供にするように瑞穂の手を引いて歩き始めた。瑞穂は頬を膨らませたが、水咲は手を放そうとしない。
「強引な小娘じゃ」
 瑞穂は小さく文句を言って苦笑したが、結局は手を繋がれたままでいる。
「俺の手まで握らなくてもなぁ」
 水咲が瑞穂の相手をしてくれるのは助かるが、伍良の手まで握ってくるとは思わなかった。どうやらスキンシップの多い女の子のようだ。高校生にもなると同級生の女子と触れ合う機会は少ない。伍良は部活動に夢中だったので、特定の女子と仲良くなることもなかった。
「柔らかい手だな」
 滑らかな手の感触が伝わってきて、伍良の心拍が早くなっていた。もっとも、手は差し出すだけで、握り返せない。
「部活で手を使うことが多いから、硬くなっているところもあるよ」
「男の手とは全く違うと思ってさ」
「むぅ、男子と比べられたら素直に喜べないなぁ。伍良君は男子と一緒にいることが多かったから、感覚が男子寄りかもしれないけどね」
 男子と比べられていたと知って、喜んだ顔をしていた水咲が微妙な顔になる。失言にしまったと思う伍良だが、染みついた男の感覚はなかなか抜けない。
「あたしの手よりも伍良君の手の方が滑々しているよ。男子に混じって荒っぽいこともしていたのに傷一つないね。羨ましいなぁ」
「そ、そうかな」
 逆に手を褒められたが反応に困ってしまう。伍良としては頼りない感じがして、どうも落ち着けないのだ。
 デパートの前に到着すると、ようやく水咲は手を放してくれた。ちょっと残念に思うが、安心の方が大きい。変に体に力が入って、肩凝りになりそうだった。
「先に服を選ぼうか。伍良君の服装は体に合ってないみたいだからね。あたしの買い物は後回しで大丈夫」
「悪いな。頼りにさせてもらうよ」
 エスカレーターに乗って女性用の服売り場に向かう。他の用事でデパートに来ることはあっても、伍良が降りたことのないフロアだ。エスカレーターから降りた伍良は、華やかな雰囲気に足が止まっていた。
「今は色んな模様の服があるのぉ。目移りしそうじゃ」
 フロア全体に女物の衣装や小物が置かれている。瑞穂はフロアを見渡して、期待に胸を躍らせて表情を輝かせた。今にもすっ飛んでいきそうだ。
「お主、何を固まっておるのじゃ」
「はぁ、回れ右をして帰りたくなったよ」
 エスカレーターの前から伍良が動こうとしないので、瑞穂は焦れて急かしてきた。場違いな場所にいるようで、非常に居心地が悪い。当然ではあるが、男性客の姿なんてまるでいなかった。
「伍良君は今まで服に関心がなかったから戸惑っているのかな」
「そうだな。母さんが買ってきた服をそのまま着ていたような感じだよ」
「今日はあたしが手伝うから大丈夫だよ。すぐに慣れて楽しくなるって」
「……慣れるのも困るが。ミサキチに任せるよ」
「早くせぬか」
 水咲がいなかったら、服を買う前に逃げたかもしれない。瑞穂に催促されて、伍良は腰が引けた感じで前に踏み出した。どうしても顔が俯きそうになってしまう。
「まずは下着からかな。伍良君はノーブラだよね?」
「えっ、あっ、うっ、そ、そうなるか。でも、ブラジャーなんてしなくていいよ」
「それは駄目だよ。将来的に困るし、胸を痛めることになるよ」
「うっ、ううっ」
 女物の下着まで買うつもりはなかったが、水咲は断固とした口調で言ってくる。知識のない伍良は言い返せない。体中から嫌な汗が出てきて、緊張で胃が痛くなりそうだ。
「誰にだって初めてはあるよ。それにブラをした方が楽だと思う」
「はぁ、わかったよ」
 口では勝てそうにないし、手伝ってもらうのに我儘も言えない。伍良は重い溜息を吐いて、仕方なく頷いた。

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