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星の海で(9) 「二人のラヴァーズ」  (1)有閑

(1)有閑-------------------------------------------------------

 第106遊撃艦隊所属、戦艦ピエンツァは、旗艦アンドレア・ドリアに次ぐ大型の打撃戦艦である。
 かつては艦隊旗艦を勤めたこともある設備の整った艦だが、既に艦齢50年を越す老齢艦だった。
 しかしながら幾度となく機関の更新を受けており、最新鋭艦にもひけを取らない速力を誇っていた。
 常に前線にあったにもかかわらず、歴戦をことごとくかいくぐって来た幸運艦であるピエンツァは、その幸運にあやかりたいと所属を希望する、人気の高い艦であった。

 そのラウンジでは、一人のラヴァーズがカウンターに座っていた。
 彼女――グレース・ボイルは、あまり容姿には恵まれていなかった。
 人の手によって体を作り変えられているラヴァーズは、その役割のために整った顔立ちと、魅惑的なプロポーションを持っているのが普通だった。
 しかしグレースは身長も低く小太りで、胸も平均からすればやや小さめで、女性的な特徴に乏しかった。
 顔は潤んだ大き目の瞳こそ魅力的だったが、低めの鼻の周りにはそばかすがあった。
 また口元も平凡で、薄めの唇はルージュを差してもセックスアピールに欠けていた。
 赤茶けた髪はブラシを受け付けないほどに癖が強く、伸ばすと手に負えなくなるため、短めに切り揃えられていた。それらは個性といえないことも無かったが、他のラヴァーズたちと比べると、見劣りがすることも事実だった。
 そのためか、彼女にはその名をもじって、“グリース・ボイルド(煮立った機械脂:あばたの意)”という不名誉なあだ名まであった。
 ラヴァーズの容姿は個人ごとに様々ではあったが、よほどの理由が無い限りは細身の長身に整った顔立ち、艶やかな髪を持っていることが多く、グレースはその中にあって異端であった。
 彼女はラヴァーズとしての自分自身に、欠点があることを自覚していた。

 しかし彼女には、すばらしい資質があった。
 ひとつは料理の腕前であり、抜群の味覚センスを持つ彼女の焼くパイは絶品といわれおり、それを目当てにラウンジに通い詰める者もいた。
 そしてもうひとつは、豊かな声量を持った美しい歌声。
 流行のアップテンポな歌は苦手ではあったが、クラシックオペラや切々と歌い上げるバラードは聴く者を魅了した。
 そして気配りがうまく、めったに感情を乱さない穏やかな性格の彼女には、兵士たちの心を癒す母性があった。
 外見は十人並みかそれ以下ではあったが、彼女には人間としての魅力があった。
 それゆえに、一見するとラヴァーズには見えない彼女のことを、本当の女性であると勘違いする者も多く、彼女に求婚する兵士もいた。
 グレースは容姿では他のラヴァーズに劣ってはいたが、決して人気の無いラヴァーズではなかった。
 しかしそれは彼女をよく知ったうえでのことだった。まだ配属されて間もないグレースの魅力が、艦の乗組員達に知られるようになるには、まだしばらくの期間が必要だった。

09_1.jpg
挿絵:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/

「暇ですね、マスター」
「そうですね」
「ラヴァーズの当番が私一人じゃ、お客さんも来ないのかなぁ」
「そんなことは無いと思いますよ」

 ラウンジの営業が始まって、既に2時間が経っていた。
 普段であればそれなりに席が埋まっている時間ではあったが、今日は客の一人もおらず、ラウンジには営業責任者でマスターのエリオ・セルバンテス少尉と、グレースの二人だけしかいなかった。

「葉月さんや真理亜さんがいれば、もうちょっとここも賑やかなのにね」
「お二人は残念でしたね。でも僕はグレースさんも魅力的だと思いますよ」

 ピエンツァにはグレースの他にもラヴァーズが2人いて、葉月はそのうちの一人であったが、病気を理由に先週のうちに辞めてしまっていた。そして真理亜は3日前に殉職したばかりだった。

「お世辞はやめて。私は自分が不細工だってことは、判っているの」
「グレースさんには、もっと違う魅力があるでしょう? ピエンツァに配属になって、まだふた月にもなっていないじゃないですか。そのうちグレースさん目当てで、通ってくる人もいますよ」
「私が目当てなんじゃなくて、私の焼いたパイが目当てでね」

 自嘲気味にグレースは言うと、ため息をついた。
 “グレースのパイ”は、以前にも食べたことがある兵士が、たまたまピエンツァにも乗っていたらしく、航海にでてから数日のうちには、知れ渡っていた。
 評判が評判を呼ぶ形で、ラウンジの開店時には、順番待ちが出る日もあった。
 今日も開店早々に『艦隊の某幕僚幹部から是非にと頼まれた』と、艦橋勤めの士官から拝み倒された。そのため仕方なくホールでテイクアウトされてしまい、僅かな残りもあっという間に売切れてしまっていた。
 その後客足もぱったりと途絶え、グレースはマスターと所在無げに薄い水割りを舐めながら、時間をつぶしていた。
 そこに一人の兵士が息を切らせてやってきた。

「はぁ、はぁ……。グレース! パイはまだあるかい?」
「あら、なぁに、藪から棒に。もう21時よ。残念ながら売り切れです」
「あーあ、今日こそはと思ったんだけどなぁ。Bシフト勤務は不利だよなぁ」
「お酒と、チーズやクラッカーならあるけど」
「いや、いいよ。また来るよ」
「飲んでいけばいいのに。気分転換に来たんでしょ?」
「残業時間中に、ちょっと抜け出してきただけなんだ。またの機会に」
「そう、残念だわ」

 グレースはそういって、兵士を見送った。

「開店休業ね……」
「でも勝手に閉めるわけにも、いかないですしね」
「明日の仕込みでも、しようかしら?」
「それが、残念ながらパイ生地に使う小麦粉が無いんです。夜のラウンジは食堂ではないので、小麦粉は食堂部に優先的に回されるので……」
「そう……。それじゃあますます、お客さん来なくなるわね」
「明日の補給艦で、葉月さんの代わりのラヴァーズが来るそうですよ。小麦粉も、もしかしたら手に入るかもしれません」
「葉月さんの代わり? どんな人?」
「さぁ? 僕は人事部ではないので……」
「でも、これで少しはローテーションに余裕が出来るわね」
「グレースさんは、出ずっぱりですからね」
「おかげでここも、流行らないけどね」
「いえ、そんなことは……」

 グレースよりも年若いマスターは、口ではそういったものの、彼女が当番の時は明らかに客足が落ちていたことも確かだった。

「いいのよ、マスター。私はラウンジ“ロシナンテ”の“アルドンサ・ロレンソ”なんだわ。実際私は醜い女で、化粧とドレスと、ラヴァーズであるという肩書きだけで、ドゥルシネーアを演じているだけなんだわ」
「なら私は、“ドン・キホーテ”といったところでしょうか?」
「マスターは、そうね、“サンチョ・パンサ”かしら? 私にはたとえ気がふれていたとしても、慕ってくれるような、道化者の騎士なんていないから……」

 マスターはグレースの魅力が何であるかを理解してはいたが、彼女がピエンツァに配属されてまだ2ヶ月に満たない。
 彼女自身の魅力が艦所属の兵士たちに認識されるには、まだ時間がかかると思っていた。
 だがそれを彼女に言っても、今はまだ慰めにすらならないことも判っていた。

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