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ビーストテイマーズ (16)~(20) By A.I.
挿絵:倉塚りこ
(16)
「これなんかいいと思うわ」
「もっと大人の女性じゃないと似合わない気がするぞ」
「いいからいいから」
ユリが選んだのは桃色の下着だった。レースの飾りがついていて妖艶な雰囲気を醸し出している。滑らかな素材で作られていて光沢があった。
下着を買わせる為にユリが獣毛を剃ったのは間違いない。
「落ち着かない気分になりそうだ」
パンツを履いてみると布地がぴったりと皮膚に密着して、男根がないことを意識させられてしまう。お尻を包み込む滑らかな肌触りは馴染みのないものだ。
毛皮のパンツなら着替えの手間や洗濯すらいらない。面倒なことになったと思うが、毛が生え揃うまでは下着の世話になるしかなかった。
「まさかブラジャーをつける羽目になるとはなぁ」
奇妙な状況にコウは薄く笑った。肩紐のないタイプで扇情的な模様が彩られている。コウの乳房は同年代に比べれば控えめとはいえ、全力で走ればそれなりに揺れる。しっかりと胸を包んで保護するブラがあるのは便利かもしれない。
「……可愛いな」
姿見の鏡には頬を朱に染めて恥らう少女の姿がある。贔屓目かもしれないが、異形の獣耳があっても少女の魅力は損なわれていない。服を着ていない時は野性味溢れる活発な感じだったのに、下着をつけただけで妖艶な魅力を発していた。

顔に幼さを残した少女が、大人っぽい下着をつけた姿は、倒錯感があって魔性の色気がある。
「そうよ、すごーく可愛いのよ。自信を持っていいから」
ユリは我がことのように胸を張って自慢げだった。
「服は清純な感じで攻めてみましょうか。普段の彼女とは違った一面を発見して、彼氏は一発でメロメロよ」
「そんなことをしなくても大丈夫だと思うけど……」
レイから言い寄ってきたのだから、惚れられているのは間違いない。
「油断大敵よ。どこに伏兵が隠れているかわからないんだからね。昨日の味方は今日の敵ってこともあるんだから!」
口は笑みをかたどってはいるが、ユリの額には青筋が浮かんでいる。負のオーラが放出されているようで怖い。
「……まさかレイ君が……レイ君が……」
愚痴っぽくユリは呪うようにレイの名前を呟いている。深く追求すると藪蛇になりそうで恐ろしい。
「こ、この服を着ればいいんだな」
ユリが選んだ服を奪い取るようにして受け取ると、コウは試着室に逃げ込んだ。目で人を殺せる伝説のメデューサのようだった。肉弾戦で勝てない相手には、コウは尻尾を巻くしかない。
「よし、着てみるか」
別世界の扉を開けるようなら不安と好奇。長袖のブラウスは襟首にフリルをあしらっていて華やかだ。
「なかなかはまらないな」
初めて着る薄桃色のブラウスは、ボタンの位置が逆で手間取った。狼に育てられた少女というわけではないのに、この年齢になって服で苦戦するとは思わない。滑稽な自分の姿を思って、コウはおかしみを感じた。
「次はスカート……ね」
眼前にスカートを持ち上げて、コウは吹き出しそうになった。透明感のあるシフォンスカート。恥ずかしさはあるが、冗談のような状況に笑いそうになる。
「そのうち慣れる日がくるのかなぁ」
若い街娘のように友達とお喋りに興じて、お洒落に気を配るようになるのだろうか。天涯孤独の身で野良犬のように暮らしてきたコウには考えられない話だ。
「ありえないわな」
こんなのは仮初めの姿だと思う。どうにか着替え終わったコウは鏡に自分の姿を映してみた。
「ふわぁぁっ」
コウは感嘆の溜息を吐いた。どこぞのお嬢様のように愛らしい少女が立っている。とても暴力の世界で生きているようには見えない。花畑で花を愛でていた方が似合いそうだ。
「……たまにはいいかもしれない」
コウは前言を撤回しそうになった。別人のような姿に心臓の鼓動が早くなる。自分の可愛らしい姿に自惚れてしまいそうだ。
「いいんじゃないかな。レイ君もきっと惚れ直すわ」
「そ、そうかなぁ」
ユリに太鼓判を押されて、コウは満更でもなさそうな顔をした。
「ありがとう。大事にするよ」
ビーストテイマーという職業にいる限り、こんな女らしい格好はなかなかできないだろう。コウ自身、束縛されるような衣服はあまり好きではない。それでも、時には気分転換も必要だろう。
「そろそろ日が暮れるわね」
服屋から出ると影が長く伸びた。店じまいの準備をしている商店もある。かなり長居してしまったようだ。
「急がないと」
服を買い終わった時点でコウは終わりだと思ったが、ユリには立ち寄りたい店があるらしい。
「そんなに時間はかからないから」
最後に立ち寄ったのは靴屋だった。コウの獣足には縁遠い店のような気がする。
「靴なんて履けないぞ」
小石を踏んだくらいではびくともしない強靭な足裏と肉球。獣毛と鋭爪を備えた足。今まで履いていたブーツのような革靴ではすぐに駄目にしてしまう。
「これならいいでしょ」
ユリが選んだのは足先が露出しているボーンサンダルだった。これなら爪は気にならないし、毛で蒸すこともないだろう。元々は兵士が着用していたという、強固な作りのサンダルだ。
「険しい場所に行くこともあるだろうからね。足は大事にしないと」
「これなら激しい動きをしても大丈夫そうだ」
砂漠や氷原を歩くならば、靴は必要となるだろう。依頼によっては遠征もありうる。
「家まで送っていくよ」
買い物を終えると、外は薄暗くなっていた。この街の治安はさほど悪くないが、無法者が出ないとは限らない。
「送り狼だね」
「もう手は出さないから勘弁して」
冗談なのだろうが、手を合わせてコウはユリに軽く頭を下げた。
「たまにならいいわよ」
ユリは悪戯っぽく笑っている。コウは慌てて手を左右に振ったが、女性を相手にしたい気分がないわけではなかった。男のままだったら、ユリを恋人にしていたかもしれない。
「困ったことがあったら相談してね。女の先輩として力になるから」
「その時はお願いするよ」
ユリは頼りにはなりそうだが、いらぬ気苦労も増えそうだ。でも、同年代の女の子との買い物は楽しかった。手を振ってユリと別れると、コウはレイの待つ家へと帰路を急いだ。一日会っていないだけで、心が騒ぐようだった。
「ちょっといいかい」
「急ぐので」
「つれないなぁ。少しぐらい相手をしてくれよ」
路地裏を通って近道をしようとしたコウは、不審な人物に呼び止められた。コウは無視して通り過ぎようとしたが、酒臭い息を吐く巨漢は通せんぼをしてきた。
「……道を変えるか」
苛立ったコウは巨漢を殴り飛ばしたくなったが、折角の服を汚したくはなかった。退路を求めて後ろを振り返ると、凶悪な人相をした男が行く手を遮っている。どうやら巨漢の仲間らしい。
「まさか俺が狙われるとはなぁ」
コウは肩を竦めて嘆息した。ユリを送り届けた後に、無法者に絡まれるとは思わなかった。暗い路地裏なので、コウの姿が完全にはわからないのだろう。せいぜい見えているのはスカートを履いた女の子といったところだろうか。
「お嬢ちゃん、いいことしようぜ」
「やめろよ」
下卑た笑いを浮かべて巨漢が馴れ馴れしく近寄ってくる。酒臭くて鼻が曲がりそうだ。巨漢が不躾に伸ばしてきた手をコウは上半身だけで避け続けたが、そのせいで後ろにいる凶漢の対処が遅れた。
「ひゃっはーっ、足元がお留守だぜ」
奇声を発して凶漢がコウの足元を払う。コウは無様に転んでしまい、買ったばかりの服が砂だらけになってしまった。
「……あ、あれ……変だな……」
転んだ衝撃は大して痛くはなかったが、コウの目からぽろぽろと涙がこぼれた。涙を押し留めようとするが、悲しくなって涙が溢れてしまう。まるで小さな女の子になってしまったかのようだ。
「……うわぁぁん、ああぁん……」
少女は嗚咽を漏らして泣いていた。レイに披露する前に新しい服を汚してしまったことが、コウが思う以上に胸に突き刺さった。 (17)
「へっへっへ」
茫然自失になっているコウを触ろうとした巨漢は、弾かれるように吹き飛ばされた。唸り声を上げてライオンがコウを庇うように立っている。
「迎えが遅れてすいませんでした」
エルを従えたレイが優しい瞳でコウを見ていた。
「ああ、可愛い顔が。ほら、もう大丈夫ですから」
「ぐすっ、う、うん」
幼子のように泣きじゃくっているコウにレイはハンカチを差し出した。その姿は凛々しくて勇者のように頼もしい。涙を拭くのを忘れて、コウはレイに見惚れていた。
「少しだけ待っていてくださいね。邪魔者を片付けますから」
「なんだおめぇ」
凶漢は大柄なライオンの姿に逃げ腰になっていた。
「僕は久しぶりに怒っていますよ。覚悟してください」
レイの声は静かだったが、底知れない凄みがある。空気が凍るようだ。レイが足を踏み出すだけで、凶漢は怖気づいていた。
「ビーストテイマーが猛獣を使って暴れていいのかよ。も、問題になるぜ」
「証拠を残さなければいいだけですよ。骨の一本も残しませんから。他に何か言い残したいことはありますか?」
「ひ、ひぃぃっ!」
エルが人の頭を丸呑みにできそうなくらい大きく口を開くと、鋭い牙が剥き出しになった。凶漢は真っ青になると、足をもつれさせながら脱兎の如く逃げ出した。
「もっとも、生ゴミをエルに食べさせるつもりはありませんけどね」
転倒を繰り返して無様な姿を晒す凶漢をレイは追わずに見送った。あれだけ脅されたら一目散にこの街から逃げ出すだろう。
「この野郎!」
「お酒はほどほどにした方がいいですよ」
背後から台風のように豪腕を振り回してきた巨漢の手首を掴むと、レイは腕を抱え込むようにして投げ飛ばした。
「ぐえぇぇぇっ!」
「酔っ払って寝てしまったようですね。風邪を引いても知りませんよ」
レイは腕を捻って投げただけでは飽き足らず、投げた勢いのまま肘を巨漢の首に落としていた。蛙が潰れたような声を上げて、巨漢は白目を剥いて泡を吹いている。腕がおかしな方向を向いていた。
「お待たせしました」
徒手空拳だったにも関わらず鮮やかな手並みにコウは目を丸くしていた。コウでは力任せに殴るしかできなかっただろう。
「ふぅ、凄いな」
レイの登場で気が抜けたコウは座り込んだままだった。ほっとしてしまうと、足に力が入らない。
「家まで僕に任せてくださいね」
頼りがいのある男はにこやかな顔で、コウの背中と膝裏に腕を回した。そのままコウを支えて持ち上げると、軽快な足取りで歩き始める。
「す、少し待ってくれれば一人で歩けるぞ」
コウは無駄の少ない細身の体ではあるが、筋肉が凝縮されているので重いはずだ。表通りにはまだ人の目がある恥ずかしさもあって遠慮しようとしたが、レイは譲ろうとしなかった。
「まったく、もう」
負担を和らげようと、コウはレイの首に腕を回した。そして、感謝の気持ちを込めて、頬に口づけをした。
家に到着すると、レイはランプに光を灯した。室内が明るくなると、コウはスカートの汚れが気になった。幸いにも破けてはいなかったが、泥がついてしまっている。
「レイにちゃんと見せたかったのになぁ」
もう泣くほどではなかったが、汚す前にお披露目したかった。コウは残念そうな顔でくるりと回ってみた。
「こ、こんな動きにくい格好をするのはどうかとは思うけど、そう悪くはないだろ?」
おずおずと上目でレイの反応を窺ってみる。レイは何も答えずに、ぼんやりとコウを眺めていた。
「お、おい。一言くらい言ってくれよ。似合わないと思ってくれてもいいから。俺だってがらじゃないとは思うぞ」
「……はい」
どうにもレイの様子がおかしい。魂が抜けたように呆けていて、頬がやや赤くなっている。
「疲れでも出たのか?」
魔獣退治で消耗していたのに、喧嘩をしてからコウを家まで運んだのだ。不安に駆られて様子を確認しようとすると、レイはいきなりコウに抱きついてきた。
「う、うわ。どうしたんだよ。泥が服につくぞ」
「物凄く可愛いので見惚れていました。感動の余り、つい飛びついてしまいましたよ」
「そ、そんなに似合うか?」
「もちろんです。僕の為に着飾ってくれるなんて嬉しいですよ」
コウを抱きしめたまま、レイは踊るようなステップを踏んだ。極上の笑みでレイは浮かれている。冷静沈着に見えるレイが年相応に舞い上がって喜んでいた。意外な一面だとは思ったが、笑顔が感染してコウも笑み崩れていた。
ユリに可愛らしい服を勧められた時はどうなるかと思ったが、試してみて良かった。今度会ったら彼女にお礼を言うとしよう。こんなにもレイが喜んでくれるならば、もっと色んな服を試してもいいかもしれない。
レイの感情が紛れもないという証拠に、コウは微かな臭気を感じ取っていた。興奮しているレイの脇が汗ばんで、女を誘う臭いが放出されている。男なら反感を持つかもしれないが、女にとっては芯を溶かすような体臭だ。
「正直な奴だなぁ」
「あっ」
「凄く熱くなっているぞ」
「ええ、コウ君の魅力には逆らえませんので」
すっとコウがズボンの上から股間を触ってみると、盛り上がった突起は燃えるようだった。強い雄の臭いが漂ってきて、雌を虜にしようとする。
コウは期待に胸を膨らませた。逞しい雄の子孫を残そうとする雌の本能。頭が桃色の感情に支配されると、男だった過去は押し流されてしまう。大きな瞳が濡れたように輝いて、妖しい色香を放った。雌犬と化したコウは、尻尾を左右に振っていた。
「ちゅるぅっ、んぅっ、ちゅうぅっ」
異なる磁石のように、二人の唇は自然と交わっていた。分かちがたく唇は結びついて、お互いの体温と唾液を交換し合う。レイは積極的に舌を伸ばして、コウの口腔を弄んだ。
「ふぅん、はむぅっ、ちゅくぅっ……あはぁ、口が溶けそう……」
交尾をする蛞蝓のように淫らに舌が絡み合う。眠たそうに目をとろんとさせて、男に合わせてコウは熱心に舌を動かしていた。溢れ出る唾液がコウの整った顎を汚す。
「ぷはぁ、今度は俺の番だぞ。ああ、美味しそう……」
酩酊したようにコウの頬は朱に染まり、瞳は潤んでいる。一段とレイの股間から逞しい臭いが強くなった。ご馳走を目の前にしているように、コウは上気して色艶を増している唇を舐めた。
「俺に任せておけよ」
「はい、お願いしますね」
興奮はしていても丁寧な口調のままのレイが面白かった。もう少しくだけた感じになってもいいのにと思いながら、コウはレイのズボンを脱がす。ぶるるんと飛び出してきた男根は青筋を立てて凶悪な姿をしていた。
「顔に似合わず凶暴だなぁ」
「す、すいません」
「感心しているだけだ。よく入ったなぁ」
正義の味方のような善良な顔をしているのに、下半身に鎮座している逸物は暴君のようだった。天を衝くように屹立して、網の目のように血管が浮かび上がっている。こんな代物をよく体内に収納できたとコウは自分の体に感心した。女体の神秘だ。
「くんくん、すうぅぅっ、ふわぁぁぁっ」
先走り汁を垂らしている亀頭は、毒キノコの傘のように赤黒く膨れていた。外気に晒された男根は、濃厚で野生的な臭いを放っている。
雌を恍惚とさせる魅惑的な臭いに、コウは鼻を鳴らして息を吸いこんだ。鼻腔が男臭さで満たされて、脳が桃色に染まっていく。以前なら悪臭としか感じられなかったが、雌犬にとっては力強い雄の臭いは特別だった。
コウは期待感に胸を躍らせて、尻尾をぱたぱたと振った。口中に唾液が溢れてきて、喉が大きく鳴る。
「ベッドに座ってくれ」
下半身を露出させたレイをベッドに座らせると、コウは足元にひざまずいた。
(18)
「んく……」
コウは舌先で尿道口を突くと、男汁を舐めてみた。しょっぱいような味がする。男の腰がびくっと震えた。
「うっ、そこまでしなくても……」
レイが申し訳なさそうな声でコウを止めようとした。
「その、無理はしないでくださいね」
男根を舐めさせることにレイは恐縮しているようだ。コウが女になったとはいえ、少し前までは同じものがついていたのだ。
「無理、ねぇ」
コウはきょとんとした顔で小首を傾げた。男根を初めて舐めてみたが嫌ではない。むしろ舌先が熱くなって興奮していた。それにレイだって内心では喜んでいたはずだ。
「他の男なら嫌だけどな。こんないいモノを独り占めはずるいぞ」
「は、はぁ。差し上げられませんが、どうぞご自由に?」
冗談めかして笑うと、コウは宝物のように男根に優しく左手を添えた。右手は陰嚢を支えている。
こんな巨根を一度は持って、女に試したかった。元男として、ちょっとした憧れはある。童貞のまま、女になったので未練は残っていた。ユリと交わって心残りは消えるかと思ったが、残り火は燻っている。
もし自分が男だったら女にどんな風に奉仕して欲しいだろうか。そんなことを夢想しながら、コウは犬のように長い舌を伸ばした。
「じゅるるるぅっ、じゅちゅうぅぅっ……ふはぁ、凄い熱気だ……」
「うくっ……」
レイが快感を堪えるような呻きを漏らす。コウは付け根から一気に男根を舐めた。舌を上下に動かして、男根に唾液を塗りたくる。青黒い血管が脈打って、どくどくと男汁が垂れてきた。男汁と唾液が入り混じり、男根が粘液で光っていた。
「はむっ、れろぉっ……ちゅるぅっ、じゅぱっ、んっ……どうかな?」
「んあぁぁっ! こ、腰から力が抜けそうです」
大きく張った亀頭のえらにそって舌を這わせると、レイは感極まるような声を出した。上目遣いにレイの顔を確認したコウは、満足そうな顔になって舌を走らす。男の感じる絶妙なところを狙って舐め回した。
「あはぁ、感じているみたいだな。弱い場所の予想はつくぞ。んちゅぅ、じゅるぅ……」
「はぁ、とてもお上手ですよ」
「んくっ、ごくっ……当然だろ。伊達に元は男だったわけじゃないからな」
愛しい男が喜ぶというなら、男だった過去も役立つというものだ。じゅるるぅと男汁を吸うと、股間が蒸したように熱くなる。内側がじんわりと濡れて、甘く疼いていた。男を恋焦がれて膣が収縮するのは、愛おしい感覚だった。
「苦くて……しょっぱいけど……いい……はむっ、じゅずぅっ……」
亀頭を咥えると、コウは尿道口から男汁を吸い上げた。男根を舐めるに従って、味の虜になっていく。コウはうっとりとした眼差しで、舌を縦横無尽に動かした。
「あぐぅぅっ、も、もう! げ、限界です!」
レイは切羽詰った顔で腰を震わせた。男根がびくびくと震えて、亀頭が膨れ上がる。コウの口の中で男根が暴れて、白濁した溶岩を噴き上げた。
「うぷぅ、んんっ……けほっ、ぷはぁ……ああ、熱い……」
コウは精液を口で受け止めようとしたが、射精の勢いは留まるところを知らなかった。粘性の高い液体は飲み干そうとしても喉に引っかかる。コウは軽く咽た。口から溢れた精液がとろとろと顎に伝わる。
精液は新鮮な卵の白身よりもぬるぬるして、にがしょっぱかった。口の中がピリピリとしている。チーズのような生臭さもあるが、コウは恍惚とした顔で精液を嚥下していた。
「うわぁぁっ、出し過ぎだぞ……んくっ、ううっ……」
暴れまわる男根はコウの口から飛び出した。亀頭を上下に振って、噴水のように精液を撒き散らす。白い化粧をするかのように、コウの顔は白濁塗れになった。どこもかしこも精液の洗礼を受けて、べとついてしまっている。

「あーあ、折角の服までべとべとだぞ」
「も、申し訳ないです。あまりに気持ち良かったので」
買ったばかりの服まで白く染まってしまった。これは洗濯が大変そうだ。
「このお詫びに今度は僕が服を見繕いますよ。コウ君と一緒に出かけたいですし」
「そ、そうだな。服が一着ではさすがに足りないからな」
ずっと寝床にいたわけで、レイと一緒に街を歩いていない。男と一緒に買い物をするなんて、まるでデートのようだと思った。
「あとで洗いますから」
ブラウスのボタンをレイが外そうとする時、コウはやたらと胸がどきどきしていた。服を男に脱がされるというのが照れくさい。
「……お似合いですよ。とても魅力的です」
「そ、そんなに見るなよ」
妖艶な下着姿を褒められたコウはもじもじと身を縮めた。手で体を隠したくなる。全裸でいるよりも気恥ずかしい。
「うぅぅん、くすぐったい……」
ベッドに横たわったコウの体に次々とレイは口づけをした。紋章を刻むようにコウの皮膚に唇を吸いつけている。艶やかな姿態には、あちこちにキスマークがついていた。
「くふぅん、んんっ……お前なぁ、これじゃしばらく服を着ないといけないぞ……はぁん」
コウは少しだけ恨みがましい目をした。まるで自分の所有物だと主張するように、レイは生々しい赤い印を押している。へその横や足の付け根にまで、唾液で濡れたキスマークが光っていた。
「お返しだぞ」
「つつぅっ……くぅ」
興奮していたコウはがぶりとレイの肩に噛み付いた。まるで吸血鬼の歯形のように、二つの穴が穿たれている。
「くすぐったいですよ」
レイの顔が綻ぶ。コウは肩の傷を癒すように舐め回していた。男の血は甘かった。血が止まるまでの間、飼い主のようにレイは狼少女の頭をずっと撫でていた。
「滑らかな肌触りですね。手に吸い付くようですよ」
「ふわぁぁっ、ひゃんぅ、んんっ……でも、小ぶりじゃないか?」
桃色のブラジャーをずらして、レイはコウのおっぱいを揉み出した。レイは褒めてくれたが、同年代のユリと比べればコウの乳房は小さい。もう少し大きくて柔らかい方が、男にとって好ましいのではないかと思ってしまう。
「僕はそう思いませんよ」
「……もう少しあればいいかなと思って、あぁんっ」
男の手に包み隠されてしまう大きさなので、乳房にもうちょっと質量があればいいのにと望んでしまった。
「そんなに焦らなくても成長しますよ。僕もお手伝いしますから。男の手で胸を揉まれると大きくなるそうです」
レイは優しく微笑むと、乳房を丹念に愛撫した。くにくにとおっぱいが形を変えて、胸の内側がぽかぽかと温かくなる。
「それに子供を出産しても大きくなるらしいですよ」
「ふぅん……ぶは、ははは、そうなったらチョコがおっぱいを独り占めだな」
女児が生まれたら、チョコと名付けるだろう。赤子におっぱいを含ませることを想像すると気恥ずかしくなるが、そんな未来もそう悪くはない。
「それは強力なライバルの登場ですね」
「そうだぞ。お前はライバルの誕生に力を貸しているわけだ」
「でも、今は僕の独り占めですから」
夫婦のように他愛もないことを話し合って、男と女は吹き出すように笑い出した。
「ひゃふぅ、はぁん……乳首が、ぴりぴりする……ああっ!」
「綺麗な形ですし、感度も良さそうですね」
乳首を指の腹で撫でられると、火を灯されたように熱い。乳首を指で摘まれてこりこりと弄られると、炎のように快感が燃え広がる。均整の取れたしなやかな肢体から珠のような汗が浮かんだ。
「はふぅ、やぁ……おっぱいだけで、いっちゃ……はぁんっ!」
声を抑えようとしても、胸に伝わった振動は心を震わす。乳房から温かい波動が全身に広がって、甘い声でコウは咽び泣いていた。桃色のパンツについた染みがどんどん広がって、甘酸っぱい香りが漂う。経験の少ない体は敏感だった。
「可愛らしいパンツですけど、脱がしてしまいますよ」
ぐっしょりと濡れたパンツにレイは手をかけた。ぬちゃりと湿った音がして、秘所に密着していた布地には糸が引いた。
「うわぁ……ううっ、恥ずかしすぎる!」
パンツを脱がされると、秘所は全くの無毛だ。羞恥に悶えたコウは顔を手で隠した。
(19)
初体験の場所は薄暗い森で、月明かりだけだった。今日はちゃんとしたベッドで、ランプの光が灯っている。レイの目ならば昼間のように見通せるだろう。
「これじゃ丸見えだ……」
獣毛で保護されていないと、隅々まで簡単に見られてしまう。コウは真っ赤になって悶えていた。つい先日までは紛れもなく男であり、男の象徴までレイには見られているのだ。羞恥心が倍増してしまう。
「凄く濡れていますね」
「……うぅっ、意地悪。ランプを消せよ」
コウはちょっとむくれた顔をして、脚をぴったりと閉じてしまった。室内を灯すランプの光が、光沢のある肌を浮かび上がらせている。
「コウ君のことをもっと知りたいので」
穏やかにレイは微笑むと、コウの脚を手で円を描くように撫で回した。腰から太股にかけて、力強い手が往復している。男の手に触られた部分から甘い熱が浸透して、コウから緊張が抜けていった。
「しっとりとして肌理細やかな肌ですね」
「……はふぅ、はぁっ……でも、筋肉ばかりで固くはないか?」
千里でも走れそうな脚は、ユリのような脂肪の厚みは少ない。そのことにコウは劣等感を抱いた。ユリのような豊満な肢体が羨ましくなる。
「僕の危機を救ってくれたのはその脚ですよ。誇っていいと思います」
「そう、そうだよな」
純粋な女性と違うことに引け目を覚えたが、この体でなければ魔獣からレイを救えなかったのだ。
「それに食生活が改善されれば、肉付きはふっくらとしてきますよ。成長期ですからね」
「……金欠生活が続いていたからな」
食べられればましで、食事を抜くことはざらだった。レイと生活するようになってからは、まともな食事にありつけている。それに帰る場所があるのはありがたかった。
「女らしい体つきかぁ」
痩せているとまではいかないが、コウの肉付きは脂肪が少なくて薄い。太るつもりはないが、もう少し女らしい丸みが欲しい気はした。婦人服店で自分の体型を鏡で知ってしまうと、どうしても他人と比べてしまう。
「んふぅ、ふふっ、んはぁ……」
太股だけではなく、腰や尻を愛撫されたコウは、喉を震わせて微かに笑った。男におもねるように体型を気にしてしまったことが滑稽だった。以前は気にしたことすらないのに。愚かしいとは思うが、健気な感情は愛おしくもある。
「あっ……」
力が抜けた太股にレイが内側から力を加えると、あっさりと脚を割られてしまった。脚を開いて男を迎えるということを人生で想定してなかったので、この体勢にはかなり恥ずかしいものがある。二度目ということで客観的になる部分もあるからだろう。
「はぅん、はぁっ……不思議な感覚だ……んくぅ、ふぅん……」
蜜に濡れた大陰唇をレイがつつっと指でなぞった。感じたことがあるような緩やかな快感が股間に広がる。男の玉袋を撫でられたような感覚だ。姿は変わったが、元は陰嚢だったのだ。
「まるで大粒の真珠のようですね」
割れ目に沿って指が往復するうちに、秘所の綻びがどんどん大きくなる。花が咲くようにして小陰唇が広がって、愛蜜に濡れて輝く肉芽が顔を出した。まるで桃色の真珠のように光っている。
「……ひゃふぅ、はぁん、んんっ……真珠かぁ……やぁん、そんなに……」
肉芽を指先で摘まれて、コウは甘い悲鳴を上げた。普段は隠れて見えないクリトリスを弄ばれると、頭が真っ白くなるほどの快感がある。
(……小さいと言われているようだからなぁ)
ただ包皮から陰核が剥ける感覚は、男根が勃起する感覚と似通っている。どうしても男の感性が蘇って、コウを複雑な気分にさせた。男根が大きければ、男は優越感を持つのだから。小便をする時にも方向が定まりにくくて面倒なわけで、肉棒だけでも残っていてくれたらと思わぬでもない。
「……ひぐぅぅっ、ひゃぁぁん、はぁはぁ、そこばっかり……くふぅ」
「ずじゅるぅ、ずずぅ……コウ君の声が可憐なので、もっと聞きたくなるのですよ」
「……んぁ、やぁ、ああっ……とんでもない奴に見初められたもんだ……ひふぅ、うあぁ」
レイは女陰に顔を埋めて、肉芽を太い舌で弄った。濁った音を立てて愛蜜を啜られて、コウは羞恥と興奮で体が熱くなる。強烈な快感が全身を貫いて、愛蜜の飛沫がレイの顔に飛んだ。
「はぁぁん、やっ……欲しい……もっと、太いのが……」
股間の疼きが耐えがたくなって、コウは涙目で首を振った。頭の奥が桃色に染まって、男根のことしか考えられない。秘所は涎を垂らして大きく口を開き、桃色の肉襞が期待で蠢いている。
「頬が林檎のように染まって、可愛らしい顔になっていますよ」
「……あぁん、んぁ……早くぅ……」
別人のように鼻にかかった甘い声で、コウはおねだりをしていた。早くしてくれないと体内で膨れつつある熱が暴走しそうだ。
「お待たせしましたね。心行くまでどうぞ味わってください」
「あはぁ、きたきた……」
レイは一度抜いているので、気持ちに余裕があるのだろう。焙った鉄棒のように熱くて固い男根が、コウの秘裂に触れた。待ちわびたモノが当てられ、コウはぱたぱたと尻尾を振る。
「ふあぁぁっ、ひゃぁっ、これこれ! これが欲しかった……すご、大きい!」
歓喜に打ち震えて、コウは悶え泣いていた。世界でたった一つの鍵と鍵穴のように、一部の隙間もなく男根と膣が結びつこうとしている。男根を歓迎して肉襞がざわざわと蠢動して、温かく押し包もうとしていた。
「ひあぁぁっ、いいよぉ……はぁぁん、たまらないよぉ……」
女の甲高く、官能的な声が部屋に響く。歌姫のように男を虜にする声だ。レイが腰を振ると、亀頭のえらがごりごりと内壁を抉った。コウはもう快感を追い求めることしか頭にない。恥ずかしさを忘れて、喘ぎ続けていた。
「あぁぁん、奥まで、固くて大きい……お腹が熱い……んんっ……」
「んくぅっ、ぐいぐいと締め付けてきます。凄いですね……」
レイが下から突き上げると、膣が収縮して男根に絡みつく。亀頭の動きに従って、コウの平らな腹が波打った。
容赦ない締め付けに、レイは大粒の汗を流し荒い息を吐いていた。肉と肉が打ち付けあう音がして、亀頭が子宮口を突きつける。子宮にまで伝わるような振動に、コウは女の幸せを堪能していた。
「コウ君の中は気持ちよくて……もう出そうです!」
「はぁん、中に、全部ちょうだい……熱いのをかけてぇっ……んあぁっ、ああっ!」
コウはレイの逞しい背中に腕を回してしがみつくと、脚を腰に絡めて男に密着した。精液を子宮で受け止めようと身構える。爆発寸前の肉棒が胴回りを太くした。レイは快感に耐えるように歯を食い縛ると、渾身の一撃をコウの最奥に見舞った。
「くはっ、ぐうぅぅっ!」
「ふあぁぁっ、ああっ、お腹に、くるぅ……はあぁっ、真っ白に満たされて……うあっ!」
活火山のように噴火した男根は、煮え立つような白濁の溶岩を撒き散らした。溶岩の奔流が子宮にどぷどぷと流れ込む。お腹の中心が白く燃え上がって、コウは満足感に浸っていた。

「んああっ、あぁん、レイが俺の中に入って……満ちていく……」
夢を見るような陶酔とした表情で、コウは男の熱を味わっていた。コウが絶頂に達しても、男根を離したくはないというように膣は痙攣していた。レイはコウが落ち着くまで、頭を優しく撫でてくれた。
「……あうぅ、恥ずかしい声を出し過ぎだったな……」
一軒家とはいえ、隣近所に響き渡るような嬌声を放っていた。熱が冷めてくると、コウは毛布を頭に被ってしまった。物事には限度というものがあるだろう。本能に流されるままに、雌としてよがっていた。コウに残っている男の自尊心らしきものが、恥ずかしさでのた打ち回っている。
「……はぁ、自重しないとなぁ」
「人目が気になるのでしたら、引越しをするのもいいかもしれませんね。ここは借家ですから」
「それならいつでも……いやいや」
元男としては毎日のように抱かれるのもどうかとは思う。
「郊外に家を建てて、子供たちと暮らすのもいいかもしれません。そんな目標があれば張り合いも出ますからね。依頼を頑張ってこなしますよ」
「家族かぁ」
幼い頃に両親とは死に別れているので、コウは家族には憧れがあった。
「逞しい父親と優しい母親がいる家庭を築くのもいいでしょうね」
「……せめて優しい父親と逞しい母親にしておいてくれ」
母親になっている姿を思い浮かべて、コウは尻尾を左右に振って悶えていた。母親になるかもしれないという実感はまだない。妊娠してお腹が膨れてくれば、現実味を持てるのだろうか。未来図を話し合いながら、男女は親密に戯れていた。
(20)
「洗濯をしておきましたから、昼前には乾くと思いますよ」
「んっ……ありがと」
コウはベッドで伸びをしながら、大きな欠伸をした。まだ下半身に何かが入っている気がする。女の快感は大きいが、体力の消耗も激しい。体力には自信があるコウだが、レイとの交わりは激しすぎた。
「ふわぁっ、まだ眠い」
目を擦りながら、コウはベッドから立ち上がった。テーブルにはもう朝食の準備が整っている。椅子に座ろうとしたコウは、びくっとして尻を上げた。
「つめたっ……あぁ、毛がないんだった」
股間を保護していた獣毛を剃られてしまったので、地肌に直接触れることになってしまう。生えてくるまでは、パンツを履かなければならない。
「パンツならもうじき乾くとは思いますよ」
室内には陰干しをしているブラとパンツが吊り下がっていた。コウは半眼でそれを眺めた。物が少ない無骨な部屋で、桃色の布地が晒されている。男の空間に異物があるようだった。
「違和感があるなぁ」
慣れるまでは自分の下着であっても、奇妙な気分になりそうだ。
「これからは俺が衣服を洗うようにするよ。どんな風に洗濯をしているか教えてくれないか?」
「そんなに手間ではないので、僕は気にしていませんよ」
「……俺が気にする」
発情しやすい体なので、染みつきパンツにならないとは限らない。それに将来のことを考えれば、慣れておいた方がいいだろう。
「役割を分担したほうがいいな。パートナーだからって、頼りっぱなしは良くない」
「わかりました。それでは洗濯はお任せしますね」
「料理についても手伝うからさ。遠慮なく声をかけてくれよ」
猛獣使いという職業柄、刃物の扱いには慣れているが、料理はあまり知らない。せいぜい焼くか煮るだけで、味付けは塩だけだった。これではさすがに侘しい。
「コウ君の手料理が食べられる日が楽しみですね」
「上達してみせるさ」
母親の手料理がまずいとは言われたくないものだ。
「あとさ、俺のことは呼び捨てでいいぞ。ああ、そうだ。試しに呼び方を交換してみないか? 今の俺はその、女なわけだし」
「……えっと、コウ」
「な、何かな、レイ君」
名前を呼び捨てにしていることが多いコウにとって、名前を君付けにすることは特別なことだった。語尾が掠れて、頬には朱が差していた。
「どうにも照れくさくなりますね」
「……それは俺も同じだよ」
気恥ずかしくなって、食事が終わるまで二人とも無言だった。
衣服が乾くとコウは出かける準備をした。丁寧に洗ってくれたようで、精液が染みになっているようなことはなかった。
「明るいうちからよそ行きの服で出かけるのはなぁ」
ユリに買ってもらった服は、普段着にするには洒落ている。この格好で出かけるのは目立ちそうで、コウとしては落ち着かなかった。レイが回収してくれた背負い袋には、替えの服は入っていたが、今となっては体型が合わない。
「デートのようでいいじゃありませんか」
「うぁ、デートって。わざわざ口にするなよ」
レイと二人で街を出歩くなんて初めてだ。男と二人だけで歩くと意識すると、何だか臆病になってしまいそうだ。
「前を見て歩けなくなりそうだな……」
「僕がコウの手を握って先導しますよ」
玄関から出たコウが俯いて歩こうとすると、レイが指を絡めるようにして手を繋いできた。コウはぴんと尻尾を逆立たせ、あわあわと目を丸くしている。血液が沸騰して、心臓が爆発しそうだ。開かれたままの手からレイの体温が伝わってくる。
「……余計に恥ずかしいぞ」
拗ねたような目をしたコウだが、ゆっくりと一本ずつ指を曲げて、レイの手をぎゅっと握り締めた。危険な場所にいるわけでも、仕事を請けているわけでもない。こんな風に出かけてみるのも経験だろう。
「さて、行きましょうか」
「……あ、ああ」
レイの声は陽気で足取りも軽い。逆にコウは手足を硬直させたまま、ぎくしゃくと歩き出した。頼りない歩調だったので、途中で転びそうになって、レイに支えられる有様だった。まともに歩けるようになるまで、三回は転びそうになった。
表通りを歩いていると、ちらほらと視線を感じる。猛獣使いが多い街とはいえ、獣人、それも女が白昼堂々と歩くのは珍しい。同年代の女の子からは、刺々しい目線で睨まれた。
「どうかしましたか?」
(そういや、もてるんだったか)
コウは隣を歩く男の、端整な顔を見上げた。顔に惚れてパートナーになったわけではないので、女の子に憎まれるという事態は想定していなかった。外出用にフード付きのローブでも買った方がいいかもしれない。
「並んで歩いていると、身長差が前よりもあるなと思ったのさ」
話をはぐらかして、コウは思ってみたことを言った。以前ならレイがやや高いという程度だったが、今となっては明確な差がある。狼少女になった時に縮んでいたらしい。
「ちょっと悔しいぞ」
極端に身長が低くなったわけではないが、レイを見上げるのは悔しい気がする。
「負けず嫌いさんですね。そんなところも好きですが」
「……うぅ、その口を縫ってやりたい」
穏やかな顔で微笑まれて、脈拍が落ち着いてきたコウの心臓がまたも高鳴る。もっとも、コウが浮かれている証拠に、尻尾は踊るように振られていた。
「甘い香りがするな」
コウは道の途中で足を止めた。熟した果物の匂いが漂っている。
「この近くに果物屋があるはずですよ」
「見ていこう」
関心が他に向いたコウは手を繋いでいるのを忘れて、ずかずかと歩き始めた。
「本当に果物がお好きですね」
引っ張られる形で歩調を速めることになったレイは少し苦笑している。果物屋では磨いたように艶々としている林檎が売られていた。コウは目を輝かせたが、果物屋の前にいる人物を目にして固まった。獣耳を伏せると、レイの後ろに隠れようとする。
「どうかしましたか? ああ、あそこにいるのはマイさんじゃないですか」
「しぃ、しぃっ」
乙女のような格好をしている姿を見られるのは気まずい。コウとしては黙って通り過ぎたかったのだが、レイは余計な一言を喋ってしまった。名前を呼ばれたマイがこちらに気づいて歩み寄ってくる。
「よぅ、レイ。久しぶり。今日は可愛い娘を連れて歩いているな」
「デートをしていたところですよ」
誤解されるようなことを言われて、コウは慌てて手を振った。
「コウは照れ屋だな。そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ。その服は可愛いじゃないか。まるで恋する女の子だ」
「……姉御、あまりからかわないでください」
「でも、お似合いの二人だと思うぜ。手なんか握り合って羨ましいぞ」
「いや、これは、その……」
適当な言い訳が思いつかなくて、コウは口ごもっていた。赤い顔をしている少女を見てマイは大笑いをすると、わしゃわしゃとコウの頭を撫でてきた。結構強い力なので痛い。
「いた、いたた。もうちょっと手加減してくださいって。縮む、身長が縮むぅ」
これ以上身長が下がったらたまらない。ようやくマイが手を離してくれた時には、コウの髪はくしゃくしゃになっていた。
「あたいもいい男を見つけたいもんだ」
「姉御には声をかけてくる男がちゃんといたと思いますけど」
「あたいより軟弱なのは駄目だ」
マイのお眼鏡に適うには、強い男でなければならないらしい。条件は厳しそうだ。
「これ以上二人の邪魔をするのも野暮だな。そろそろいくわ。酒場で会ったら、カップル誕生を祝って祝杯をあげさせてもらうぜ」
「……心の底からお願いしますから止めてください」
酒の肴にされることだけは遠慮したい。他人事には無関心なビーストテイマーでも酒が入っていれば話は別だ。どんな風にからかわれるかわかったものではない。マイと別れたコウはどっと疲れていた。
最初に立ち寄ったのは古着屋だった。普段着ならば、コウにはこだわりがない。洗いざらしのもので十分だ。
「僕が出しますから、婦人服店に行きませんか?」
「なるべく無駄遣いは避けたいからな。それに郊外に家を買うんだろう」
「え、ええ。僕としてはコウに着飾って欲しい気はしますけど」
「レイ君の好意だけは受け取っておくさ。この服を買ってもらったばかりだし、引退するまでは頑張らないと」
お洒落な服ばかり着ていたら、自分が男だったことや猛獣使いであることを忘れてしまいそうだ。これからも危険な依頼を受けるのだから、腑抜けてしまったら困る。
「ではまたそのうちに」
「その時が楽しみだな」
残念そうな顔をするレイ。プレゼントは嬉しいが、これから共同生活をするのだ。レイに負担ばかりさせるのは気が引ける。
グリズリー討伐の報酬で古着と新品の下着を買うと、今度は冒険者を相手に商売をしている店に入った。冒険者とは、利益、名誉を求めて、様々な場所を探検したり、危険な事件を解決したりする職業の総称だ。つまり猛獣使いも冒険者といえる。
冒険者の店では、主として武器や防具を売っている。戦士らしい格好の人間が武器の品定めをしていた。
「体を守るのに適したものはないかな」
防具の役割を果たしていた皮のジャケットは、グリズリーの攻撃で使いものにならなくなった。コウとしては身軽さを生かす為に、金属製の鎧よりは皮製の方が望ましい。
「これというのが見つからない……」
首の周りに生えた獣毛のせいで、首元が開いたデザインでないと息苦しい。散々に迷った末に、コウは胸元が大きく開いている黒い服を手に取った。
「……うーん、あまりに女らしいか」
緩やかなカーブを描く胸の中央が、まるでハートのように見える。横裾には深い切り込みが入っていて、激しく動くと股間が見えるかもしれないが、動きやすそうだ。守れる範囲は狭いが、材質はしっかりとしている。
「毛で蒸れても困るしなぁ」
「いい素材を使っているようですね。それにあつらえたように似合っていますよ」
「そ、そうかな」
防御力には不安が残るが、素早さで補えばいい。それに狼少女となってからは、厚着をすると居心地が悪かった。野生の獣に衣服を着せようとしても嫌がるだろう。自由を束縛されるようで、コウは裸に近い方が落ち着くのだ。
「これで準備は万端だ」
冒険者の店で黒い服に着替えると、心身ともに引き締まる気がする。猛獣使いとしての気迫が漲ってくるようだ。
「ここしばらく俺は行けなかったし、夕飯がてらギルドに顔出しをしてみるか。好条件の依頼があるかもしれないしさ」
「そうですね。コウとパートナーになったことをマスターに報告しないといけませんし」
次の冒険を探して、二人は意気揚々とビーストテイマーたちのいる酒場の戸を開いた。二人での冒険は今までとは違う世界をコウに見せてくれるだろう。新たな世界を夢見て、少女の顔は希望に輝いていた。
(16)
「これなんかいいと思うわ」
「もっと大人の女性じゃないと似合わない気がするぞ」
「いいからいいから」
ユリが選んだのは桃色の下着だった。レースの飾りがついていて妖艶な雰囲気を醸し出している。滑らかな素材で作られていて光沢があった。
下着を買わせる為にユリが獣毛を剃ったのは間違いない。
「落ち着かない気分になりそうだ」
パンツを履いてみると布地がぴったりと皮膚に密着して、男根がないことを意識させられてしまう。お尻を包み込む滑らかな肌触りは馴染みのないものだ。
毛皮のパンツなら着替えの手間や洗濯すらいらない。面倒なことになったと思うが、毛が生え揃うまでは下着の世話になるしかなかった。
「まさかブラジャーをつける羽目になるとはなぁ」
奇妙な状況にコウは薄く笑った。肩紐のないタイプで扇情的な模様が彩られている。コウの乳房は同年代に比べれば控えめとはいえ、全力で走ればそれなりに揺れる。しっかりと胸を包んで保護するブラがあるのは便利かもしれない。
「……可愛いな」
姿見の鏡には頬を朱に染めて恥らう少女の姿がある。贔屓目かもしれないが、異形の獣耳があっても少女の魅力は損なわれていない。服を着ていない時は野性味溢れる活発な感じだったのに、下着をつけただけで妖艶な魅力を発していた。

顔に幼さを残した少女が、大人っぽい下着をつけた姿は、倒錯感があって魔性の色気がある。
「そうよ、すごーく可愛いのよ。自信を持っていいから」
ユリは我がことのように胸を張って自慢げだった。
「服は清純な感じで攻めてみましょうか。普段の彼女とは違った一面を発見して、彼氏は一発でメロメロよ」
「そんなことをしなくても大丈夫だと思うけど……」
レイから言い寄ってきたのだから、惚れられているのは間違いない。
「油断大敵よ。どこに伏兵が隠れているかわからないんだからね。昨日の味方は今日の敵ってこともあるんだから!」
口は笑みをかたどってはいるが、ユリの額には青筋が浮かんでいる。負のオーラが放出されているようで怖い。
「……まさかレイ君が……レイ君が……」
愚痴っぽくユリは呪うようにレイの名前を呟いている。深く追求すると藪蛇になりそうで恐ろしい。
「こ、この服を着ればいいんだな」
ユリが選んだ服を奪い取るようにして受け取ると、コウは試着室に逃げ込んだ。目で人を殺せる伝説のメデューサのようだった。肉弾戦で勝てない相手には、コウは尻尾を巻くしかない。
「よし、着てみるか」
別世界の扉を開けるようなら不安と好奇。長袖のブラウスは襟首にフリルをあしらっていて華やかだ。
「なかなかはまらないな」
初めて着る薄桃色のブラウスは、ボタンの位置が逆で手間取った。狼に育てられた少女というわけではないのに、この年齢になって服で苦戦するとは思わない。滑稽な自分の姿を思って、コウはおかしみを感じた。
「次はスカート……ね」
眼前にスカートを持ち上げて、コウは吹き出しそうになった。透明感のあるシフォンスカート。恥ずかしさはあるが、冗談のような状況に笑いそうになる。
「そのうち慣れる日がくるのかなぁ」
若い街娘のように友達とお喋りに興じて、お洒落に気を配るようになるのだろうか。天涯孤独の身で野良犬のように暮らしてきたコウには考えられない話だ。
「ありえないわな」
こんなのは仮初めの姿だと思う。どうにか着替え終わったコウは鏡に自分の姿を映してみた。
「ふわぁぁっ」
コウは感嘆の溜息を吐いた。どこぞのお嬢様のように愛らしい少女が立っている。とても暴力の世界で生きているようには見えない。花畑で花を愛でていた方が似合いそうだ。
「……たまにはいいかもしれない」
コウは前言を撤回しそうになった。別人のような姿に心臓の鼓動が早くなる。自分の可愛らしい姿に自惚れてしまいそうだ。
「いいんじゃないかな。レイ君もきっと惚れ直すわ」
「そ、そうかなぁ」
ユリに太鼓判を押されて、コウは満更でもなさそうな顔をした。
「ありがとう。大事にするよ」
ビーストテイマーという職業にいる限り、こんな女らしい格好はなかなかできないだろう。コウ自身、束縛されるような衣服はあまり好きではない。それでも、時には気分転換も必要だろう。
「そろそろ日が暮れるわね」
服屋から出ると影が長く伸びた。店じまいの準備をしている商店もある。かなり長居してしまったようだ。
「急がないと」
服を買い終わった時点でコウは終わりだと思ったが、ユリには立ち寄りたい店があるらしい。
「そんなに時間はかからないから」
最後に立ち寄ったのは靴屋だった。コウの獣足には縁遠い店のような気がする。
「靴なんて履けないぞ」
小石を踏んだくらいではびくともしない強靭な足裏と肉球。獣毛と鋭爪を備えた足。今まで履いていたブーツのような革靴ではすぐに駄目にしてしまう。
「これならいいでしょ」
ユリが選んだのは足先が露出しているボーンサンダルだった。これなら爪は気にならないし、毛で蒸すこともないだろう。元々は兵士が着用していたという、強固な作りのサンダルだ。
「険しい場所に行くこともあるだろうからね。足は大事にしないと」
「これなら激しい動きをしても大丈夫そうだ」
砂漠や氷原を歩くならば、靴は必要となるだろう。依頼によっては遠征もありうる。
「家まで送っていくよ」
買い物を終えると、外は薄暗くなっていた。この街の治安はさほど悪くないが、無法者が出ないとは限らない。
「送り狼だね」
「もう手は出さないから勘弁して」
冗談なのだろうが、手を合わせてコウはユリに軽く頭を下げた。
「たまにならいいわよ」
ユリは悪戯っぽく笑っている。コウは慌てて手を左右に振ったが、女性を相手にしたい気分がないわけではなかった。男のままだったら、ユリを恋人にしていたかもしれない。
「困ったことがあったら相談してね。女の先輩として力になるから」
「その時はお願いするよ」
ユリは頼りにはなりそうだが、いらぬ気苦労も増えそうだ。でも、同年代の女の子との買い物は楽しかった。手を振ってユリと別れると、コウはレイの待つ家へと帰路を急いだ。一日会っていないだけで、心が騒ぐようだった。
「ちょっといいかい」
「急ぐので」
「つれないなぁ。少しぐらい相手をしてくれよ」
路地裏を通って近道をしようとしたコウは、不審な人物に呼び止められた。コウは無視して通り過ぎようとしたが、酒臭い息を吐く巨漢は通せんぼをしてきた。
「……道を変えるか」
苛立ったコウは巨漢を殴り飛ばしたくなったが、折角の服を汚したくはなかった。退路を求めて後ろを振り返ると、凶悪な人相をした男が行く手を遮っている。どうやら巨漢の仲間らしい。
「まさか俺が狙われるとはなぁ」
コウは肩を竦めて嘆息した。ユリを送り届けた後に、無法者に絡まれるとは思わなかった。暗い路地裏なので、コウの姿が完全にはわからないのだろう。せいぜい見えているのはスカートを履いた女の子といったところだろうか。
「お嬢ちゃん、いいことしようぜ」
「やめろよ」
下卑た笑いを浮かべて巨漢が馴れ馴れしく近寄ってくる。酒臭くて鼻が曲がりそうだ。巨漢が不躾に伸ばしてきた手をコウは上半身だけで避け続けたが、そのせいで後ろにいる凶漢の対処が遅れた。
「ひゃっはーっ、足元がお留守だぜ」
奇声を発して凶漢がコウの足元を払う。コウは無様に転んでしまい、買ったばかりの服が砂だらけになってしまった。
「……あ、あれ……変だな……」
転んだ衝撃は大して痛くはなかったが、コウの目からぽろぽろと涙がこぼれた。涙を押し留めようとするが、悲しくなって涙が溢れてしまう。まるで小さな女の子になってしまったかのようだ。
「……うわぁぁん、ああぁん……」
少女は嗚咽を漏らして泣いていた。レイに披露する前に新しい服を汚してしまったことが、コウが思う以上に胸に突き刺さった。 (17)
「へっへっへ」
茫然自失になっているコウを触ろうとした巨漢は、弾かれるように吹き飛ばされた。唸り声を上げてライオンがコウを庇うように立っている。
「迎えが遅れてすいませんでした」
エルを従えたレイが優しい瞳でコウを見ていた。
「ああ、可愛い顔が。ほら、もう大丈夫ですから」
「ぐすっ、う、うん」
幼子のように泣きじゃくっているコウにレイはハンカチを差し出した。その姿は凛々しくて勇者のように頼もしい。涙を拭くのを忘れて、コウはレイに見惚れていた。
「少しだけ待っていてくださいね。邪魔者を片付けますから」
「なんだおめぇ」
凶漢は大柄なライオンの姿に逃げ腰になっていた。
「僕は久しぶりに怒っていますよ。覚悟してください」
レイの声は静かだったが、底知れない凄みがある。空気が凍るようだ。レイが足を踏み出すだけで、凶漢は怖気づいていた。
「ビーストテイマーが猛獣を使って暴れていいのかよ。も、問題になるぜ」
「証拠を残さなければいいだけですよ。骨の一本も残しませんから。他に何か言い残したいことはありますか?」
「ひ、ひぃぃっ!」
エルが人の頭を丸呑みにできそうなくらい大きく口を開くと、鋭い牙が剥き出しになった。凶漢は真っ青になると、足をもつれさせながら脱兎の如く逃げ出した。
「もっとも、生ゴミをエルに食べさせるつもりはありませんけどね」
転倒を繰り返して無様な姿を晒す凶漢をレイは追わずに見送った。あれだけ脅されたら一目散にこの街から逃げ出すだろう。
「この野郎!」
「お酒はほどほどにした方がいいですよ」
背後から台風のように豪腕を振り回してきた巨漢の手首を掴むと、レイは腕を抱え込むようにして投げ飛ばした。
「ぐえぇぇぇっ!」
「酔っ払って寝てしまったようですね。風邪を引いても知りませんよ」
レイは腕を捻って投げただけでは飽き足らず、投げた勢いのまま肘を巨漢の首に落としていた。蛙が潰れたような声を上げて、巨漢は白目を剥いて泡を吹いている。腕がおかしな方向を向いていた。
「お待たせしました」
徒手空拳だったにも関わらず鮮やかな手並みにコウは目を丸くしていた。コウでは力任せに殴るしかできなかっただろう。
「ふぅ、凄いな」
レイの登場で気が抜けたコウは座り込んだままだった。ほっとしてしまうと、足に力が入らない。
「家まで僕に任せてくださいね」
頼りがいのある男はにこやかな顔で、コウの背中と膝裏に腕を回した。そのままコウを支えて持ち上げると、軽快な足取りで歩き始める。
「す、少し待ってくれれば一人で歩けるぞ」
コウは無駄の少ない細身の体ではあるが、筋肉が凝縮されているので重いはずだ。表通りにはまだ人の目がある恥ずかしさもあって遠慮しようとしたが、レイは譲ろうとしなかった。
「まったく、もう」
負担を和らげようと、コウはレイの首に腕を回した。そして、感謝の気持ちを込めて、頬に口づけをした。
家に到着すると、レイはランプに光を灯した。室内が明るくなると、コウはスカートの汚れが気になった。幸いにも破けてはいなかったが、泥がついてしまっている。
「レイにちゃんと見せたかったのになぁ」
もう泣くほどではなかったが、汚す前にお披露目したかった。コウは残念そうな顔でくるりと回ってみた。
「こ、こんな動きにくい格好をするのはどうかとは思うけど、そう悪くはないだろ?」
おずおずと上目でレイの反応を窺ってみる。レイは何も答えずに、ぼんやりとコウを眺めていた。
「お、おい。一言くらい言ってくれよ。似合わないと思ってくれてもいいから。俺だってがらじゃないとは思うぞ」
「……はい」
どうにもレイの様子がおかしい。魂が抜けたように呆けていて、頬がやや赤くなっている。
「疲れでも出たのか?」
魔獣退治で消耗していたのに、喧嘩をしてからコウを家まで運んだのだ。不安に駆られて様子を確認しようとすると、レイはいきなりコウに抱きついてきた。
「う、うわ。どうしたんだよ。泥が服につくぞ」
「物凄く可愛いので見惚れていました。感動の余り、つい飛びついてしまいましたよ」
「そ、そんなに似合うか?」
「もちろんです。僕の為に着飾ってくれるなんて嬉しいですよ」
コウを抱きしめたまま、レイは踊るようなステップを踏んだ。極上の笑みでレイは浮かれている。冷静沈着に見えるレイが年相応に舞い上がって喜んでいた。意外な一面だとは思ったが、笑顔が感染してコウも笑み崩れていた。
ユリに可愛らしい服を勧められた時はどうなるかと思ったが、試してみて良かった。今度会ったら彼女にお礼を言うとしよう。こんなにもレイが喜んでくれるならば、もっと色んな服を試してもいいかもしれない。
レイの感情が紛れもないという証拠に、コウは微かな臭気を感じ取っていた。興奮しているレイの脇が汗ばんで、女を誘う臭いが放出されている。男なら反感を持つかもしれないが、女にとっては芯を溶かすような体臭だ。
「正直な奴だなぁ」
「あっ」
「凄く熱くなっているぞ」
「ええ、コウ君の魅力には逆らえませんので」
すっとコウがズボンの上から股間を触ってみると、盛り上がった突起は燃えるようだった。強い雄の臭いが漂ってきて、雌を虜にしようとする。
コウは期待に胸を膨らませた。逞しい雄の子孫を残そうとする雌の本能。頭が桃色の感情に支配されると、男だった過去は押し流されてしまう。大きな瞳が濡れたように輝いて、妖しい色香を放った。雌犬と化したコウは、尻尾を左右に振っていた。
「ちゅるぅっ、んぅっ、ちゅうぅっ」
異なる磁石のように、二人の唇は自然と交わっていた。分かちがたく唇は結びついて、お互いの体温と唾液を交換し合う。レイは積極的に舌を伸ばして、コウの口腔を弄んだ。
「ふぅん、はむぅっ、ちゅくぅっ……あはぁ、口が溶けそう……」
交尾をする蛞蝓のように淫らに舌が絡み合う。眠たそうに目をとろんとさせて、男に合わせてコウは熱心に舌を動かしていた。溢れ出る唾液がコウの整った顎を汚す。
「ぷはぁ、今度は俺の番だぞ。ああ、美味しそう……」
酩酊したようにコウの頬は朱に染まり、瞳は潤んでいる。一段とレイの股間から逞しい臭いが強くなった。ご馳走を目の前にしているように、コウは上気して色艶を増している唇を舐めた。
「俺に任せておけよ」
「はい、お願いしますね」
興奮はしていても丁寧な口調のままのレイが面白かった。もう少しくだけた感じになってもいいのにと思いながら、コウはレイのズボンを脱がす。ぶるるんと飛び出してきた男根は青筋を立てて凶悪な姿をしていた。
「顔に似合わず凶暴だなぁ」
「す、すいません」
「感心しているだけだ。よく入ったなぁ」
正義の味方のような善良な顔をしているのに、下半身に鎮座している逸物は暴君のようだった。天を衝くように屹立して、網の目のように血管が浮かび上がっている。こんな代物をよく体内に収納できたとコウは自分の体に感心した。女体の神秘だ。
「くんくん、すうぅぅっ、ふわぁぁぁっ」
先走り汁を垂らしている亀頭は、毒キノコの傘のように赤黒く膨れていた。外気に晒された男根は、濃厚で野生的な臭いを放っている。
雌を恍惚とさせる魅惑的な臭いに、コウは鼻を鳴らして息を吸いこんだ。鼻腔が男臭さで満たされて、脳が桃色に染まっていく。以前なら悪臭としか感じられなかったが、雌犬にとっては力強い雄の臭いは特別だった。
コウは期待感に胸を躍らせて、尻尾をぱたぱたと振った。口中に唾液が溢れてきて、喉が大きく鳴る。
「ベッドに座ってくれ」
下半身を露出させたレイをベッドに座らせると、コウは足元にひざまずいた。
(18)
「んく……」
コウは舌先で尿道口を突くと、男汁を舐めてみた。しょっぱいような味がする。男の腰がびくっと震えた。
「うっ、そこまでしなくても……」
レイが申し訳なさそうな声でコウを止めようとした。
「その、無理はしないでくださいね」
男根を舐めさせることにレイは恐縮しているようだ。コウが女になったとはいえ、少し前までは同じものがついていたのだ。
「無理、ねぇ」
コウはきょとんとした顔で小首を傾げた。男根を初めて舐めてみたが嫌ではない。むしろ舌先が熱くなって興奮していた。それにレイだって内心では喜んでいたはずだ。
「他の男なら嫌だけどな。こんないいモノを独り占めはずるいぞ」
「は、はぁ。差し上げられませんが、どうぞご自由に?」
冗談めかして笑うと、コウは宝物のように男根に優しく左手を添えた。右手は陰嚢を支えている。
こんな巨根を一度は持って、女に試したかった。元男として、ちょっとした憧れはある。童貞のまま、女になったので未練は残っていた。ユリと交わって心残りは消えるかと思ったが、残り火は燻っている。
もし自分が男だったら女にどんな風に奉仕して欲しいだろうか。そんなことを夢想しながら、コウは犬のように長い舌を伸ばした。
「じゅるるるぅっ、じゅちゅうぅぅっ……ふはぁ、凄い熱気だ……」
「うくっ……」
レイが快感を堪えるような呻きを漏らす。コウは付け根から一気に男根を舐めた。舌を上下に動かして、男根に唾液を塗りたくる。青黒い血管が脈打って、どくどくと男汁が垂れてきた。男汁と唾液が入り混じり、男根が粘液で光っていた。
「はむっ、れろぉっ……ちゅるぅっ、じゅぱっ、んっ……どうかな?」
「んあぁぁっ! こ、腰から力が抜けそうです」
大きく張った亀頭のえらにそって舌を這わせると、レイは感極まるような声を出した。上目遣いにレイの顔を確認したコウは、満足そうな顔になって舌を走らす。男の感じる絶妙なところを狙って舐め回した。
「あはぁ、感じているみたいだな。弱い場所の予想はつくぞ。んちゅぅ、じゅるぅ……」
「はぁ、とてもお上手ですよ」
「んくっ、ごくっ……当然だろ。伊達に元は男だったわけじゃないからな」
愛しい男が喜ぶというなら、男だった過去も役立つというものだ。じゅるるぅと男汁を吸うと、股間が蒸したように熱くなる。内側がじんわりと濡れて、甘く疼いていた。男を恋焦がれて膣が収縮するのは、愛おしい感覚だった。
「苦くて……しょっぱいけど……いい……はむっ、じゅずぅっ……」
亀頭を咥えると、コウは尿道口から男汁を吸い上げた。男根を舐めるに従って、味の虜になっていく。コウはうっとりとした眼差しで、舌を縦横無尽に動かした。
「あぐぅぅっ、も、もう! げ、限界です!」
レイは切羽詰った顔で腰を震わせた。男根がびくびくと震えて、亀頭が膨れ上がる。コウの口の中で男根が暴れて、白濁した溶岩を噴き上げた。
「うぷぅ、んんっ……けほっ、ぷはぁ……ああ、熱い……」
コウは精液を口で受け止めようとしたが、射精の勢いは留まるところを知らなかった。粘性の高い液体は飲み干そうとしても喉に引っかかる。コウは軽く咽た。口から溢れた精液がとろとろと顎に伝わる。
精液は新鮮な卵の白身よりもぬるぬるして、にがしょっぱかった。口の中がピリピリとしている。チーズのような生臭さもあるが、コウは恍惚とした顔で精液を嚥下していた。
「うわぁぁっ、出し過ぎだぞ……んくっ、ううっ……」
暴れまわる男根はコウの口から飛び出した。亀頭を上下に振って、噴水のように精液を撒き散らす。白い化粧をするかのように、コウの顔は白濁塗れになった。どこもかしこも精液の洗礼を受けて、べとついてしまっている。

「あーあ、折角の服までべとべとだぞ」
「も、申し訳ないです。あまりに気持ち良かったので」
買ったばかりの服まで白く染まってしまった。これは洗濯が大変そうだ。
「このお詫びに今度は僕が服を見繕いますよ。コウ君と一緒に出かけたいですし」
「そ、そうだな。服が一着ではさすがに足りないからな」
ずっと寝床にいたわけで、レイと一緒に街を歩いていない。男と一緒に買い物をするなんて、まるでデートのようだと思った。
「あとで洗いますから」
ブラウスのボタンをレイが外そうとする時、コウはやたらと胸がどきどきしていた。服を男に脱がされるというのが照れくさい。
「……お似合いですよ。とても魅力的です」
「そ、そんなに見るなよ」
妖艶な下着姿を褒められたコウはもじもじと身を縮めた。手で体を隠したくなる。全裸でいるよりも気恥ずかしい。
「うぅぅん、くすぐったい……」
ベッドに横たわったコウの体に次々とレイは口づけをした。紋章を刻むようにコウの皮膚に唇を吸いつけている。艶やかな姿態には、あちこちにキスマークがついていた。
「くふぅん、んんっ……お前なぁ、これじゃしばらく服を着ないといけないぞ……はぁん」
コウは少しだけ恨みがましい目をした。まるで自分の所有物だと主張するように、レイは生々しい赤い印を押している。へその横や足の付け根にまで、唾液で濡れたキスマークが光っていた。
「お返しだぞ」
「つつぅっ……くぅ」
興奮していたコウはがぶりとレイの肩に噛み付いた。まるで吸血鬼の歯形のように、二つの穴が穿たれている。
「くすぐったいですよ」
レイの顔が綻ぶ。コウは肩の傷を癒すように舐め回していた。男の血は甘かった。血が止まるまでの間、飼い主のようにレイは狼少女の頭をずっと撫でていた。
「滑らかな肌触りですね。手に吸い付くようですよ」
「ふわぁぁっ、ひゃんぅ、んんっ……でも、小ぶりじゃないか?」
桃色のブラジャーをずらして、レイはコウのおっぱいを揉み出した。レイは褒めてくれたが、同年代のユリと比べればコウの乳房は小さい。もう少し大きくて柔らかい方が、男にとって好ましいのではないかと思ってしまう。
「僕はそう思いませんよ」
「……もう少しあればいいかなと思って、あぁんっ」
男の手に包み隠されてしまう大きさなので、乳房にもうちょっと質量があればいいのにと望んでしまった。
「そんなに焦らなくても成長しますよ。僕もお手伝いしますから。男の手で胸を揉まれると大きくなるそうです」
レイは優しく微笑むと、乳房を丹念に愛撫した。くにくにとおっぱいが形を変えて、胸の内側がぽかぽかと温かくなる。
「それに子供を出産しても大きくなるらしいですよ」
「ふぅん……ぶは、ははは、そうなったらチョコがおっぱいを独り占めだな」
女児が生まれたら、チョコと名付けるだろう。赤子におっぱいを含ませることを想像すると気恥ずかしくなるが、そんな未来もそう悪くはない。
「それは強力なライバルの登場ですね」
「そうだぞ。お前はライバルの誕生に力を貸しているわけだ」
「でも、今は僕の独り占めですから」
夫婦のように他愛もないことを話し合って、男と女は吹き出すように笑い出した。
「ひゃふぅ、はぁん……乳首が、ぴりぴりする……ああっ!」
「綺麗な形ですし、感度も良さそうですね」
乳首を指の腹で撫でられると、火を灯されたように熱い。乳首を指で摘まれてこりこりと弄られると、炎のように快感が燃え広がる。均整の取れたしなやかな肢体から珠のような汗が浮かんだ。
「はふぅ、やぁ……おっぱいだけで、いっちゃ……はぁんっ!」
声を抑えようとしても、胸に伝わった振動は心を震わす。乳房から温かい波動が全身に広がって、甘い声でコウは咽び泣いていた。桃色のパンツについた染みがどんどん広がって、甘酸っぱい香りが漂う。経験の少ない体は敏感だった。
「可愛らしいパンツですけど、脱がしてしまいますよ」
ぐっしょりと濡れたパンツにレイは手をかけた。ぬちゃりと湿った音がして、秘所に密着していた布地には糸が引いた。
「うわぁ……ううっ、恥ずかしすぎる!」
パンツを脱がされると、秘所は全くの無毛だ。羞恥に悶えたコウは顔を手で隠した。
(19)
初体験の場所は薄暗い森で、月明かりだけだった。今日はちゃんとしたベッドで、ランプの光が灯っている。レイの目ならば昼間のように見通せるだろう。
「これじゃ丸見えだ……」
獣毛で保護されていないと、隅々まで簡単に見られてしまう。コウは真っ赤になって悶えていた。つい先日までは紛れもなく男であり、男の象徴までレイには見られているのだ。羞恥心が倍増してしまう。
「凄く濡れていますね」
「……うぅっ、意地悪。ランプを消せよ」
コウはちょっとむくれた顔をして、脚をぴったりと閉じてしまった。室内を灯すランプの光が、光沢のある肌を浮かび上がらせている。
「コウ君のことをもっと知りたいので」
穏やかにレイは微笑むと、コウの脚を手で円を描くように撫で回した。腰から太股にかけて、力強い手が往復している。男の手に触られた部分から甘い熱が浸透して、コウから緊張が抜けていった。
「しっとりとして肌理細やかな肌ですね」
「……はふぅ、はぁっ……でも、筋肉ばかりで固くはないか?」
千里でも走れそうな脚は、ユリのような脂肪の厚みは少ない。そのことにコウは劣等感を抱いた。ユリのような豊満な肢体が羨ましくなる。
「僕の危機を救ってくれたのはその脚ですよ。誇っていいと思います」
「そう、そうだよな」
純粋な女性と違うことに引け目を覚えたが、この体でなければ魔獣からレイを救えなかったのだ。
「それに食生活が改善されれば、肉付きはふっくらとしてきますよ。成長期ですからね」
「……金欠生活が続いていたからな」
食べられればましで、食事を抜くことはざらだった。レイと生活するようになってからは、まともな食事にありつけている。それに帰る場所があるのはありがたかった。
「女らしい体つきかぁ」
痩せているとまではいかないが、コウの肉付きは脂肪が少なくて薄い。太るつもりはないが、もう少し女らしい丸みが欲しい気はした。婦人服店で自分の体型を鏡で知ってしまうと、どうしても他人と比べてしまう。
「んふぅ、ふふっ、んはぁ……」
太股だけではなく、腰や尻を愛撫されたコウは、喉を震わせて微かに笑った。男におもねるように体型を気にしてしまったことが滑稽だった。以前は気にしたことすらないのに。愚かしいとは思うが、健気な感情は愛おしくもある。
「あっ……」
力が抜けた太股にレイが内側から力を加えると、あっさりと脚を割られてしまった。脚を開いて男を迎えるということを人生で想定してなかったので、この体勢にはかなり恥ずかしいものがある。二度目ということで客観的になる部分もあるからだろう。
「はぅん、はぁっ……不思議な感覚だ……んくぅ、ふぅん……」
蜜に濡れた大陰唇をレイがつつっと指でなぞった。感じたことがあるような緩やかな快感が股間に広がる。男の玉袋を撫でられたような感覚だ。姿は変わったが、元は陰嚢だったのだ。
「まるで大粒の真珠のようですね」
割れ目に沿って指が往復するうちに、秘所の綻びがどんどん大きくなる。花が咲くようにして小陰唇が広がって、愛蜜に濡れて輝く肉芽が顔を出した。まるで桃色の真珠のように光っている。
「……ひゃふぅ、はぁん、んんっ……真珠かぁ……やぁん、そんなに……」
肉芽を指先で摘まれて、コウは甘い悲鳴を上げた。普段は隠れて見えないクリトリスを弄ばれると、頭が真っ白くなるほどの快感がある。
(……小さいと言われているようだからなぁ)
ただ包皮から陰核が剥ける感覚は、男根が勃起する感覚と似通っている。どうしても男の感性が蘇って、コウを複雑な気分にさせた。男根が大きければ、男は優越感を持つのだから。小便をする時にも方向が定まりにくくて面倒なわけで、肉棒だけでも残っていてくれたらと思わぬでもない。
「……ひぐぅぅっ、ひゃぁぁん、はぁはぁ、そこばっかり……くふぅ」
「ずじゅるぅ、ずずぅ……コウ君の声が可憐なので、もっと聞きたくなるのですよ」
「……んぁ、やぁ、ああっ……とんでもない奴に見初められたもんだ……ひふぅ、うあぁ」
レイは女陰に顔を埋めて、肉芽を太い舌で弄った。濁った音を立てて愛蜜を啜られて、コウは羞恥と興奮で体が熱くなる。強烈な快感が全身を貫いて、愛蜜の飛沫がレイの顔に飛んだ。
「はぁぁん、やっ……欲しい……もっと、太いのが……」
股間の疼きが耐えがたくなって、コウは涙目で首を振った。頭の奥が桃色に染まって、男根のことしか考えられない。秘所は涎を垂らして大きく口を開き、桃色の肉襞が期待で蠢いている。
「頬が林檎のように染まって、可愛らしい顔になっていますよ」
「……あぁん、んぁ……早くぅ……」
別人のように鼻にかかった甘い声で、コウはおねだりをしていた。早くしてくれないと体内で膨れつつある熱が暴走しそうだ。
「お待たせしましたね。心行くまでどうぞ味わってください」
「あはぁ、きたきた……」
レイは一度抜いているので、気持ちに余裕があるのだろう。焙った鉄棒のように熱くて固い男根が、コウの秘裂に触れた。待ちわびたモノが当てられ、コウはぱたぱたと尻尾を振る。
「ふあぁぁっ、ひゃぁっ、これこれ! これが欲しかった……すご、大きい!」
歓喜に打ち震えて、コウは悶え泣いていた。世界でたった一つの鍵と鍵穴のように、一部の隙間もなく男根と膣が結びつこうとしている。男根を歓迎して肉襞がざわざわと蠢動して、温かく押し包もうとしていた。
「ひあぁぁっ、いいよぉ……はぁぁん、たまらないよぉ……」
女の甲高く、官能的な声が部屋に響く。歌姫のように男を虜にする声だ。レイが腰を振ると、亀頭のえらがごりごりと内壁を抉った。コウはもう快感を追い求めることしか頭にない。恥ずかしさを忘れて、喘ぎ続けていた。
「あぁぁん、奥まで、固くて大きい……お腹が熱い……んんっ……」
「んくぅっ、ぐいぐいと締め付けてきます。凄いですね……」
レイが下から突き上げると、膣が収縮して男根に絡みつく。亀頭の動きに従って、コウの平らな腹が波打った。
容赦ない締め付けに、レイは大粒の汗を流し荒い息を吐いていた。肉と肉が打ち付けあう音がして、亀頭が子宮口を突きつける。子宮にまで伝わるような振動に、コウは女の幸せを堪能していた。
「コウ君の中は気持ちよくて……もう出そうです!」
「はぁん、中に、全部ちょうだい……熱いのをかけてぇっ……んあぁっ、ああっ!」
コウはレイの逞しい背中に腕を回してしがみつくと、脚を腰に絡めて男に密着した。精液を子宮で受け止めようと身構える。爆発寸前の肉棒が胴回りを太くした。レイは快感に耐えるように歯を食い縛ると、渾身の一撃をコウの最奥に見舞った。
「くはっ、ぐうぅぅっ!」
「ふあぁぁっ、ああっ、お腹に、くるぅ……はあぁっ、真っ白に満たされて……うあっ!」
活火山のように噴火した男根は、煮え立つような白濁の溶岩を撒き散らした。溶岩の奔流が子宮にどぷどぷと流れ込む。お腹の中心が白く燃え上がって、コウは満足感に浸っていた。

「んああっ、あぁん、レイが俺の中に入って……満ちていく……」
夢を見るような陶酔とした表情で、コウは男の熱を味わっていた。コウが絶頂に達しても、男根を離したくはないというように膣は痙攣していた。レイはコウが落ち着くまで、頭を優しく撫でてくれた。
「……あうぅ、恥ずかしい声を出し過ぎだったな……」
一軒家とはいえ、隣近所に響き渡るような嬌声を放っていた。熱が冷めてくると、コウは毛布を頭に被ってしまった。物事には限度というものがあるだろう。本能に流されるままに、雌としてよがっていた。コウに残っている男の自尊心らしきものが、恥ずかしさでのた打ち回っている。
「……はぁ、自重しないとなぁ」
「人目が気になるのでしたら、引越しをするのもいいかもしれませんね。ここは借家ですから」
「それならいつでも……いやいや」
元男としては毎日のように抱かれるのもどうかとは思う。
「郊外に家を建てて、子供たちと暮らすのもいいかもしれません。そんな目標があれば張り合いも出ますからね。依頼を頑張ってこなしますよ」
「家族かぁ」
幼い頃に両親とは死に別れているので、コウは家族には憧れがあった。
「逞しい父親と優しい母親がいる家庭を築くのもいいでしょうね」
「……せめて優しい父親と逞しい母親にしておいてくれ」
母親になっている姿を思い浮かべて、コウは尻尾を左右に振って悶えていた。母親になるかもしれないという実感はまだない。妊娠してお腹が膨れてくれば、現実味を持てるのだろうか。未来図を話し合いながら、男女は親密に戯れていた。
(20)
「洗濯をしておきましたから、昼前には乾くと思いますよ」
「んっ……ありがと」
コウはベッドで伸びをしながら、大きな欠伸をした。まだ下半身に何かが入っている気がする。女の快感は大きいが、体力の消耗も激しい。体力には自信があるコウだが、レイとの交わりは激しすぎた。
「ふわぁっ、まだ眠い」
目を擦りながら、コウはベッドから立ち上がった。テーブルにはもう朝食の準備が整っている。椅子に座ろうとしたコウは、びくっとして尻を上げた。
「つめたっ……あぁ、毛がないんだった」
股間を保護していた獣毛を剃られてしまったので、地肌に直接触れることになってしまう。生えてくるまでは、パンツを履かなければならない。
「パンツならもうじき乾くとは思いますよ」
室内には陰干しをしているブラとパンツが吊り下がっていた。コウは半眼でそれを眺めた。物が少ない無骨な部屋で、桃色の布地が晒されている。男の空間に異物があるようだった。
「違和感があるなぁ」
慣れるまでは自分の下着であっても、奇妙な気分になりそうだ。
「これからは俺が衣服を洗うようにするよ。どんな風に洗濯をしているか教えてくれないか?」
「そんなに手間ではないので、僕は気にしていませんよ」
「……俺が気にする」
発情しやすい体なので、染みつきパンツにならないとは限らない。それに将来のことを考えれば、慣れておいた方がいいだろう。
「役割を分担したほうがいいな。パートナーだからって、頼りっぱなしは良くない」
「わかりました。それでは洗濯はお任せしますね」
「料理についても手伝うからさ。遠慮なく声をかけてくれよ」
猛獣使いという職業柄、刃物の扱いには慣れているが、料理はあまり知らない。せいぜい焼くか煮るだけで、味付けは塩だけだった。これではさすがに侘しい。
「コウ君の手料理が食べられる日が楽しみですね」
「上達してみせるさ」
母親の手料理がまずいとは言われたくないものだ。
「あとさ、俺のことは呼び捨てでいいぞ。ああ、そうだ。試しに呼び方を交換してみないか? 今の俺はその、女なわけだし」
「……えっと、コウ」
「な、何かな、レイ君」
名前を呼び捨てにしていることが多いコウにとって、名前を君付けにすることは特別なことだった。語尾が掠れて、頬には朱が差していた。
「どうにも照れくさくなりますね」
「……それは俺も同じだよ」
気恥ずかしくなって、食事が終わるまで二人とも無言だった。
衣服が乾くとコウは出かける準備をした。丁寧に洗ってくれたようで、精液が染みになっているようなことはなかった。
「明るいうちからよそ行きの服で出かけるのはなぁ」
ユリに買ってもらった服は、普段着にするには洒落ている。この格好で出かけるのは目立ちそうで、コウとしては落ち着かなかった。レイが回収してくれた背負い袋には、替えの服は入っていたが、今となっては体型が合わない。
「デートのようでいいじゃありませんか」
「うぁ、デートって。わざわざ口にするなよ」
レイと二人で街を出歩くなんて初めてだ。男と二人だけで歩くと意識すると、何だか臆病になってしまいそうだ。
「前を見て歩けなくなりそうだな……」
「僕がコウの手を握って先導しますよ」
玄関から出たコウが俯いて歩こうとすると、レイが指を絡めるようにして手を繋いできた。コウはぴんと尻尾を逆立たせ、あわあわと目を丸くしている。血液が沸騰して、心臓が爆発しそうだ。開かれたままの手からレイの体温が伝わってくる。
「……余計に恥ずかしいぞ」
拗ねたような目をしたコウだが、ゆっくりと一本ずつ指を曲げて、レイの手をぎゅっと握り締めた。危険な場所にいるわけでも、仕事を請けているわけでもない。こんな風に出かけてみるのも経験だろう。
「さて、行きましょうか」
「……あ、ああ」
レイの声は陽気で足取りも軽い。逆にコウは手足を硬直させたまま、ぎくしゃくと歩き出した。頼りない歩調だったので、途中で転びそうになって、レイに支えられる有様だった。まともに歩けるようになるまで、三回は転びそうになった。
表通りを歩いていると、ちらほらと視線を感じる。猛獣使いが多い街とはいえ、獣人、それも女が白昼堂々と歩くのは珍しい。同年代の女の子からは、刺々しい目線で睨まれた。
「どうかしましたか?」
(そういや、もてるんだったか)
コウは隣を歩く男の、端整な顔を見上げた。顔に惚れてパートナーになったわけではないので、女の子に憎まれるという事態は想定していなかった。外出用にフード付きのローブでも買った方がいいかもしれない。
「並んで歩いていると、身長差が前よりもあるなと思ったのさ」
話をはぐらかして、コウは思ってみたことを言った。以前ならレイがやや高いという程度だったが、今となっては明確な差がある。狼少女になった時に縮んでいたらしい。
「ちょっと悔しいぞ」
極端に身長が低くなったわけではないが、レイを見上げるのは悔しい気がする。
「負けず嫌いさんですね。そんなところも好きですが」
「……うぅ、その口を縫ってやりたい」
穏やかな顔で微笑まれて、脈拍が落ち着いてきたコウの心臓がまたも高鳴る。もっとも、コウが浮かれている証拠に、尻尾は踊るように振られていた。
「甘い香りがするな」
コウは道の途中で足を止めた。熟した果物の匂いが漂っている。
「この近くに果物屋があるはずですよ」
「見ていこう」
関心が他に向いたコウは手を繋いでいるのを忘れて、ずかずかと歩き始めた。
「本当に果物がお好きですね」
引っ張られる形で歩調を速めることになったレイは少し苦笑している。果物屋では磨いたように艶々としている林檎が売られていた。コウは目を輝かせたが、果物屋の前にいる人物を目にして固まった。獣耳を伏せると、レイの後ろに隠れようとする。
「どうかしましたか? ああ、あそこにいるのはマイさんじゃないですか」
「しぃ、しぃっ」
乙女のような格好をしている姿を見られるのは気まずい。コウとしては黙って通り過ぎたかったのだが、レイは余計な一言を喋ってしまった。名前を呼ばれたマイがこちらに気づいて歩み寄ってくる。
「よぅ、レイ。久しぶり。今日は可愛い娘を連れて歩いているな」
「デートをしていたところですよ」
誤解されるようなことを言われて、コウは慌てて手を振った。
「コウは照れ屋だな。そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ。その服は可愛いじゃないか。まるで恋する女の子だ」
「……姉御、あまりからかわないでください」
「でも、お似合いの二人だと思うぜ。手なんか握り合って羨ましいぞ」
「いや、これは、その……」
適当な言い訳が思いつかなくて、コウは口ごもっていた。赤い顔をしている少女を見てマイは大笑いをすると、わしゃわしゃとコウの頭を撫でてきた。結構強い力なので痛い。
「いた、いたた。もうちょっと手加減してくださいって。縮む、身長が縮むぅ」
これ以上身長が下がったらたまらない。ようやくマイが手を離してくれた時には、コウの髪はくしゃくしゃになっていた。
「あたいもいい男を見つけたいもんだ」
「姉御には声をかけてくる男がちゃんといたと思いますけど」
「あたいより軟弱なのは駄目だ」
マイのお眼鏡に適うには、強い男でなければならないらしい。条件は厳しそうだ。
「これ以上二人の邪魔をするのも野暮だな。そろそろいくわ。酒場で会ったら、カップル誕生を祝って祝杯をあげさせてもらうぜ」
「……心の底からお願いしますから止めてください」
酒の肴にされることだけは遠慮したい。他人事には無関心なビーストテイマーでも酒が入っていれば話は別だ。どんな風にからかわれるかわかったものではない。マイと別れたコウはどっと疲れていた。
最初に立ち寄ったのは古着屋だった。普段着ならば、コウにはこだわりがない。洗いざらしのもので十分だ。
「僕が出しますから、婦人服店に行きませんか?」
「なるべく無駄遣いは避けたいからな。それに郊外に家を買うんだろう」
「え、ええ。僕としてはコウに着飾って欲しい気はしますけど」
「レイ君の好意だけは受け取っておくさ。この服を買ってもらったばかりだし、引退するまでは頑張らないと」
お洒落な服ばかり着ていたら、自分が男だったことや猛獣使いであることを忘れてしまいそうだ。これからも危険な依頼を受けるのだから、腑抜けてしまったら困る。
「ではまたそのうちに」
「その時が楽しみだな」
残念そうな顔をするレイ。プレゼントは嬉しいが、これから共同生活をするのだ。レイに負担ばかりさせるのは気が引ける。
グリズリー討伐の報酬で古着と新品の下着を買うと、今度は冒険者を相手に商売をしている店に入った。冒険者とは、利益、名誉を求めて、様々な場所を探検したり、危険な事件を解決したりする職業の総称だ。つまり猛獣使いも冒険者といえる。
冒険者の店では、主として武器や防具を売っている。戦士らしい格好の人間が武器の品定めをしていた。
「体を守るのに適したものはないかな」
防具の役割を果たしていた皮のジャケットは、グリズリーの攻撃で使いものにならなくなった。コウとしては身軽さを生かす為に、金属製の鎧よりは皮製の方が望ましい。
「これというのが見つからない……」
首の周りに生えた獣毛のせいで、首元が開いたデザインでないと息苦しい。散々に迷った末に、コウは胸元が大きく開いている黒い服を手に取った。
「……うーん、あまりに女らしいか」
緩やかなカーブを描く胸の中央が、まるでハートのように見える。横裾には深い切り込みが入っていて、激しく動くと股間が見えるかもしれないが、動きやすそうだ。守れる範囲は狭いが、材質はしっかりとしている。
「毛で蒸れても困るしなぁ」
「いい素材を使っているようですね。それにあつらえたように似合っていますよ」
「そ、そうかな」
防御力には不安が残るが、素早さで補えばいい。それに狼少女となってからは、厚着をすると居心地が悪かった。野生の獣に衣服を着せようとしても嫌がるだろう。自由を束縛されるようで、コウは裸に近い方が落ち着くのだ。
「これで準備は万端だ」
冒険者の店で黒い服に着替えると、心身ともに引き締まる気がする。猛獣使いとしての気迫が漲ってくるようだ。
「ここしばらく俺は行けなかったし、夕飯がてらギルドに顔出しをしてみるか。好条件の依頼があるかもしれないしさ」
「そうですね。コウとパートナーになったことをマスターに報告しないといけませんし」
次の冒険を探して、二人は意気揚々とビーストテイマーたちのいる酒場の戸を開いた。二人での冒険は今までとは違う世界をコウに見せてくれるだろう。新たな世界を夢見て、少女の顔は希望に輝いていた。
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