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星の海で(8) 「Natal」   (15)終幕

(15)終幕-------------------------------------------------------

 所属不明艦の撃沈から6時間後、被害の後処理が一段落した頃、フランチェスカは提督執務室にリッカルドを尋ね、開口一番に抗議した。

「リッカルド、せっかく敵の足を止めたのに、なんで撃沈したのさ」

 リッカルドは机の引き出しから何枚かのプリントアウトを出し、フランチェスカに渡した。

「これを見ろ、フランチェスカ」
「何……?」
「1ヶ月ほど前から、艦隊の後方を伺うように接近する物体があった。付かず離れず、こちらの哨戒網に引っかかるかと思えば、また消えることを繰り返していた」
「一ヶ月前から?」
「トイブルク星域を、離脱した頃からだな」
「それはセンサーの調整中で、誤認と言う話だったのでは?」
「センサーには異常はなかった。調整も完璧だった」
「って言うことは……」
「監察官が本艦の査察に来たのは、我々の艦隊が無線封止をして、訓練を始めた時だったよな」
「いつから、その事に……?」
「いや、最初は全く関連がつかめなかった。だが、あの監察官には、怪しい点がいくつもあった」
「じゃ、リッカルドは最初から、あの二人が怪しいと思っていたの?」
「まぁな。それに、あのデカパイのラヴァーズの軍事裁判の時も、何かがおかしかった。もっともそれは、今になって関連性に気づいただけなんだがな」
「私に、教えておいてくれれば良かったのに」
「確たる根拠もなしに、お前の仕事を増やすこともないと思ってな。それにお前、あの監察官のこと嫌っていただろう?」
「そんな事は、関係ないだろ」
「それに、オマエなら俺とは違う視点で、何か気がつくんじゃないかと思ったんだ」

 そういうとリッカルドは、端末を操作し始めた。

「しかし、予断があっては奴もシッポを出さないと思っていたんだが、ずいぶんと大胆にしでかしてくれたものだ」
「でもそれなら尚の事、奴らの正体を確かめておいたほうが良かったんじゃ?」
「これを見ろ」

 リッカルドはキーボードを叩く手を止めて、デスクの上のモニターをフランチェスカのほうに向けた。

「敵艦の写真? 激突された時のだよね?」
「敵艦の右舷側面、艦橋の下の方を良く見てみろ」
「こ、これっ! この識別番号……」
「中央艦隊の識別番号だ。それも、廃棄予定の鹵獲品のな」
「偽装、なんじゃないの? さもなければただの偶然だとか……」
「プロジェクト“Natal”」
「リッカルド、どうして、それを……?」
「お前も、俺に黙っていたな」
「それは……。でもリッカルドは知っていたの?」
「俺も詳しくは知らない。だが、艦隊司令の辞令を受け取ったときに、オヤジから警告されたんだ」
「オヤジさん? 第5軍管区司令長官の? なんておっしゃったの?」
「『“Natal”には関わるな』。俺は何のことかわからずに問い直したのだが、オヤジはそれ以上のことは何も言わなかった」
「……」
「だから俺は独自に調べてみた。その結果、あの艦は非常に危険だと考えた」
「ガリエスタ条約……」
「それ以上は言うな。今回の事件は、単なる敵の偶然の襲撃。日誌にもそれ以上の記録は残さない。緘口令も敷いた。お前も忘れろ」
「エルザは……。あの子はどうするの?」
「あの少女はただの身元不明の遭難者。そう報告を受けているし、それ以上のことは詮索しない」

 そういうとリッカルドは、激突してきた艦の写真を、端末から消去した。

「だが犠牲者が出た以上、葬式だけはしないとな。ここが宇宙空間でよかった」
「遺体は、宇宙葬が決まりだからね。葬式が終われば、何一つ残らない」
「正体不明の艦との偶発事故で、本艦が損傷。衝突時に偶然にも居合わせた、監察官と事務官の2名は殉死。以上だ」
「なかった事に、するんだ……」
「ああ、そうだ。あの少女がNatalに関係があったということは、我々以外には誰も知らない。旗艦の損害も、転移航法に失敗した不明艦との衝突事故として扱えと、先ほど中央艦隊群司令部から、直接の指示を受けた」
「中央艦隊群司令部から?」
「笑えることに、第一報を入れたら、俺のサイン欄だけが空白の“作成済みの報告書”が送られてきたよ」

 そう言うと、やれやれといった様子で、応接セットのソファに席を移した。
 フランチェスカも来客用に備えられているバーカウンターから二人分の飲み物を用意すると、リッカルドの隣に座った。
 フランチェスカは、どうにも納得が行かなかった。
 なぜ、中央艦隊が偽装してまで、事件をもみ消そうとしたのか。

「ねぇ、リッカルド、中央艦隊は……」

 リッカルドにその事を問おうと見上げると、いつものだらしのない顔が目に入った。

「だが惜しいことをしたな。アリシアは美人だったからな。おっぱいもデカかったし……ん? 待てよ? ということは、あのエルザとかいう娘も、何年かすれば、きっと……むふふふふ~」
「リッカルド! この、スケベ提督め!!」

 ソファの上で揉みあった後、フランチェスカはなんとなく思った。
 リッカルドはフランチェスカの問いを、わざと誤魔化そうとしたのではないかと。

「ねぇ、アリシアのことなんだけど……」
「なんだ?」
「アリシアは、トイブルク5のことを口にすると、ものすごく怖がっていたんだ」
「彼女が恐れていたのは、トイブルク5が消滅させられてしまったことで、消滅させたことじゃないんだろう」
「それはそうだよ。彼女はたまたまその場に居合わせただけで、作戦には関わっていなかったんだから」
「同じ惨劇を、二度経験したら、人はどうなると思う?」
「どういう意味?」
「おまえ、ガリエスタ人の事、知っているか?」
「ガリエスタ人?」
「エンシェントノーツ・ガリエスタ。半ば伝説になっている、少数民族のことだ。ガリエスタ星系に、古くからいた原住民だといわれている。だが“ガリエスタの悲劇”で、この世から完全に消えてしまったと、記録ではなっている」
「それが、アリシアと何の関係があるの?」
「成人したガリエスタ人は、美しく輝く銀色の髪に、紅い瞳を持っていたそうだ……」

08_5S_20150201211051fe3.jpg
挿絵:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/

 フランチェスカの脳裏に、愁いを帯びたアリシアの顔がよぎった。

「……そしてその銀色の髪には、未来を予知したり、触れた者の心を感じとったりする、不思議な力があったとも伝えられている」
「それじゃ彼女は、そのガリエスタ人の生き残りだったっていうの?」
「さあな、俺にはわからん……」

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 翌日、ごく限られた人数だけが集められ、宇宙葬が行われた。

 棺のうちのひとつには、胸に手を当ててまるで眠っているかの様な、アリシアの遺体が納められていた。
 エミリアはエルザの肩にそっと手を添えて、棺の傍に立たせた。
 そしてアリシアの虹色に輝く、長い銀髪をひと房手にとって、エルザに握らせた。

「エルザ、ママにお別れを言いなさい」
「……まま、さようなら」

 半透明のふたが閉じられ、棺はアンドレア・ドリアからゆっくりと離れていった。

 漆黒の宇宙の闇、永遠の旅路へと……。


<第9話に続く>

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