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エデンの園(19) by ありす & もりや あこ
(19)-------------------------------------------------------
翌日、朝早く私を起こすなり、挨拶するかのように私をハグしてから、白っぽい布を差し出し、着替えろと迫ってきた。
「で、これを着ればいいの?」
「はい」
「って、もう! なんだってこんな時間から……」
低血圧なんだから朝はゆっくりさせて欲しいが、彼はやけに張り切っている様子で、仕方なく付き合うことにしたが……
妙にひらひらの多い、ずるっとした、丈の長い服だ。カーテン?
「何これ?」
「何って、ドレスです。8時間45分37秒かけて設計しました。縫製には自動縫製機のプログラムを改造して、7時間18秒かけて完成させました。僕からのプレゼントです。着替えてください」
つまり、あれから直ぐに考え始めて、今しがた出来上がったってことか?
夕べは食事も用意もしないで、何をやっているんだか……。
「わかったから、とりあえず部屋を出てくれない? 仮に恋人だったとしても、寝起きの女性の部屋に押しかけるのは、マナー違反よ」
「これは失礼いたしました」
と、あっさりと引き下がった。
あのエロアンドロイドが、着替えるところまで記録したいなんて言い出すかと思ったが。
とにかく、ベッドの上に広げてみると、これは……
「何よこれ!」
と叫ぶ声に、先生はドア越しに応えた。
「何とは? ドレスですが、気に入りませんか?」
「ドレスはドレスでも、これはウェディングドレスだろう!」
「いけませんか?」
「いけないに決まっている。手順を飛ばしすぎだ!」
「それでは僕の立てた計画が……」
計画? 一応聞いてやろうじゃないか。
私は部屋に入ることを許可した。
「まず、イヴさんのご両親に挨拶をいたします」
「両親? 私の両親なんて、とっくの昔に死んでいるでしょう?」
「ですので、イヴさんを蘇生したチャンバールームに行きます」
「そんなところへ行って、どうすんのよ?」
「再生槽、つまりイヴさんの体を再生培養したシリンダーがあなたのお母様で、制御装置がお父上ですね」
「く、私の両親は機械ってことかよ……」
「論理的にはそうなります。いささか強引かとは思いますが」
「強引過ぎるだろ! まぁいいわ、それで?」
「結婚式を挙げます」
だから手順を飛ばしすぎ!
と言いかけたが、真剣な顔をして言うので、悔しいから言ってやった。
「カソリック形式かしら? それともプロテスタント? オーソドックスとか?」
ウェディングドレスを用意したって事は、神前式はないだろう。
「僕には崇める神はいませんので、ALICE式でしょうか?」
ああそう、アンタの親玉が一応の崇める神に相当するのね。
「……それで、次は?」
「披露宴をします」
「披露宴? 一体誰を呼ぶのよ?」
「AIを搭載しているものは少ないのですが、いつも利用している電気自動車にオアシスの整備ユニット、この際ですから清掃ロボットも呼びましょう、賑やかなほうが良いと思うので、コロニー中の自律移動可能ユニットを呼び寄せて……」
「それはアンタの親族(?)でしょうが。私のほうはどうするのよ?」
「えーと、完全体はあなた一人ですので、冷凍保存庫から、“カケラ”を集めてくるとか……」
式場に居並ぶポンコツ機械群と、ガラス容器に入った人体の一部が並べられているのを想像して、げんなりとなった。
「却下! 絶対に却下! そんな事したら私に触れることはもちろん、今後一切口もきかない!!」
「しかし、手順を踏めといったのはイヴさんで……」
「子供作るのに、結婚式も披露宴も必須と言うわけじゃないわ。そういうのをしない夫婦だって、いるんだから」
いや、待て。ワタシ今、何を言った??
「では、全部飛ばして早速……」
と、まだ診察着のままでいた、私の腰に手を伸ばした。
「触んな! エロアンドロイド!」
「では、どうすればいいのです?」
「せっかく用意してくれたんだから、ドレスぐらいは着てあげるわ。だけどそうじゃなくて、もっとデートを重ねるとか……」
「毎日一緒にいて、食事も共にし、会話もして貴女の娯楽にも付き合っていますが、そういうのでは駄目なのですか?」
「アンタ、一体何を調べてきたのよ。そうじゃなくて……そう、なんていうか、もっとムードを盛り上げるような、あなたに抱かれてもいいなとか、そういうロマンチックな手順を重ねろって言うことよ。恥ずかしいから言わせないでよ、そんなこと!」
「元男性なのに、そういうことを要求しますか?」
私は手近にあったトレイで思いっきり、コイツの頭をひっぱたいた。
ばいーん!! と、派手な音がして、持っていた手がものすごく痺れたが、少なくとも奴は腰掛けていた椅子から転げ落ちた。ざまあみろだ!
「次から次へと、よくもそう私を不愉快にさせることばかり言って! 今日はもう顔も見たくない! おととい出直してきな!」
畳み掛けるように、捨てゼリフとケリの応酬をかまして、部屋から追い出してやった。
翌日、朝早く私を起こすなり、挨拶するかのように私をハグしてから、白っぽい布を差し出し、着替えろと迫ってきた。
「で、これを着ればいいの?」
「はい」
「って、もう! なんだってこんな時間から……」
低血圧なんだから朝はゆっくりさせて欲しいが、彼はやけに張り切っている様子で、仕方なく付き合うことにしたが……
妙にひらひらの多い、ずるっとした、丈の長い服だ。カーテン?
「何これ?」
「何って、ドレスです。8時間45分37秒かけて設計しました。縫製には自動縫製機のプログラムを改造して、7時間18秒かけて完成させました。僕からのプレゼントです。着替えてください」
つまり、あれから直ぐに考え始めて、今しがた出来上がったってことか?
夕べは食事も用意もしないで、何をやっているんだか……。
「わかったから、とりあえず部屋を出てくれない? 仮に恋人だったとしても、寝起きの女性の部屋に押しかけるのは、マナー違反よ」
「これは失礼いたしました」
と、あっさりと引き下がった。
あのエロアンドロイドが、着替えるところまで記録したいなんて言い出すかと思ったが。
とにかく、ベッドの上に広げてみると、これは……
「何よこれ!」
と叫ぶ声に、先生はドア越しに応えた。
「何とは? ドレスですが、気に入りませんか?」
「ドレスはドレスでも、これはウェディングドレスだろう!」
「いけませんか?」
「いけないに決まっている。手順を飛ばしすぎだ!」
「それでは僕の立てた計画が……」
計画? 一応聞いてやろうじゃないか。
私は部屋に入ることを許可した。
「まず、イヴさんのご両親に挨拶をいたします」
「両親? 私の両親なんて、とっくの昔に死んでいるでしょう?」
「ですので、イヴさんを蘇生したチャンバールームに行きます」
「そんなところへ行って、どうすんのよ?」
「再生槽、つまりイヴさんの体を再生培養したシリンダーがあなたのお母様で、制御装置がお父上ですね」
「く、私の両親は機械ってことかよ……」
「論理的にはそうなります。いささか強引かとは思いますが」
「強引過ぎるだろ! まぁいいわ、それで?」
「結婚式を挙げます」
だから手順を飛ばしすぎ!
と言いかけたが、真剣な顔をして言うので、悔しいから言ってやった。
「カソリック形式かしら? それともプロテスタント? オーソドックスとか?」
ウェディングドレスを用意したって事は、神前式はないだろう。
「僕には崇める神はいませんので、ALICE式でしょうか?」
ああそう、アンタの親玉が一応の崇める神に相当するのね。
「……それで、次は?」
「披露宴をします」
「披露宴? 一体誰を呼ぶのよ?」
「AIを搭載しているものは少ないのですが、いつも利用している電気自動車にオアシスの整備ユニット、この際ですから清掃ロボットも呼びましょう、賑やかなほうが良いと思うので、コロニー中の自律移動可能ユニットを呼び寄せて……」
「それはアンタの親族(?)でしょうが。私のほうはどうするのよ?」
「えーと、完全体はあなた一人ですので、冷凍保存庫から、“カケラ”を集めてくるとか……」
式場に居並ぶポンコツ機械群と、ガラス容器に入った人体の一部が並べられているのを想像して、げんなりとなった。
「却下! 絶対に却下! そんな事したら私に触れることはもちろん、今後一切口もきかない!!」
「しかし、手順を踏めといったのはイヴさんで……」
「子供作るのに、結婚式も披露宴も必須と言うわけじゃないわ。そういうのをしない夫婦だって、いるんだから」
いや、待て。ワタシ今、何を言った??
「では、全部飛ばして早速……」
と、まだ診察着のままでいた、私の腰に手を伸ばした。
「触んな! エロアンドロイド!」
「では、どうすればいいのです?」
「せっかく用意してくれたんだから、ドレスぐらいは着てあげるわ。だけどそうじゃなくて、もっとデートを重ねるとか……」
「毎日一緒にいて、食事も共にし、会話もして貴女の娯楽にも付き合っていますが、そういうのでは駄目なのですか?」
「アンタ、一体何を調べてきたのよ。そうじゃなくて……そう、なんていうか、もっとムードを盛り上げるような、あなたに抱かれてもいいなとか、そういうロマンチックな手順を重ねろって言うことよ。恥ずかしいから言わせないでよ、そんなこと!」
「元男性なのに、そういうことを要求しますか?」
私は手近にあったトレイで思いっきり、コイツの頭をひっぱたいた。
ばいーん!! と、派手な音がして、持っていた手がものすごく痺れたが、少なくとも奴は腰掛けていた椅子から転げ落ちた。ざまあみろだ!
「次から次へと、よくもそう私を不愉快にさせることばかり言って! 今日はもう顔も見たくない! おととい出直してきな!」
畳み掛けるように、捨てゼリフとケリの応酬をかまして、部屋から追い出してやった。
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