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子供の神様 (26) by.アイニス
(26)
「はっくしょん!」
女らしからぬ大きなくしゃみの音で伍良は目覚めた。体がだるくて目蓋が重い。薄目を開くと、外はまだ薄暗い。もう少し寝たかったが、布団に入らず大股を開いた開けっ広げな格好を見て目が覚めた。
「うわぁ、後始末をしないで寝たから酷いことになっている……」
昨夜の痴態を思い出して、伍良は羞恥で頬を染める。パンツは脱ぎっぱなしで股間が丸見えだし、放置した愛液が白く乾いていた。いそいそとパンツを穿いたが、ごわごわとしている。
「ううっ、乾燥した愛液で股間が痒いな。両親が目覚めないうちにシャワーを浴びてこよう」
自慰の疲れが残っていて布団に潜りたかったが、このままの恰好では居心地が悪い。伍良はシャワーを浴びて、ベトベトしている体を洗い流した。血行が回復して、寒さで固くなった体がほぐれてくる。眠気もましになって、頭がすっきりしてきた。
「女の快感は凄かったけど、なるべく控えないとなぁ。病みつきになりそうだ」
恥ずかしい姿を晒している自覚はあったのに、恥も外聞もなく快感にのめりこんでしまった。甲高く甘い声がまだ耳の穴で渦巻いている。まるで麻薬のような誘惑だった。
「ふっ、すっきりした。妄想も一緒に流れ落ちたかな」
石鹸の清潔な匂いを嗅ぐと、脳裏を占めていた淫らな気持ちも漂白されるようだ。起床には少し早い時間だが、布団に入ったら熟睡してしまう。
「体操でもしておくか。いつでも復帰できるようにしないとなぁ」
男に戻れたとしても体がなまっていては使い物にならない。せめて体力を維持する努力はすべきだろう。
「腹が減ったなぁ」
喫茶店で食べた夕飯は豪華だったのに、体を動かすと空腹を感じた。瑞穂がいるせいで燃費が悪い体だ。
(妾も腹が空いたぞ)
「昨日、散々食っただろ。もう少し手加減してくれよ」
(難しいのぉ。信仰があれば平気なのだが、今は食うことで存在する力を補っておるのじゃ)
「信仰ねぇ。どうすればいいのかなぁ」
信仰の拠点となる神社がなくなれば、神は人々から忘れ去られてしまう。時間が経つほど瑞穂を知る人は少なくなるだろう。つまり信仰を得る機会がなくなるのだ。
(もっと妾のことを知る人が多くなればいいのじゃが)
「奉納品を直すだけではなく、瑞穂の知名度も回復しないといけないのか」
考えてみると、伍良は瑞穂のことをほとんど知らない。知っているのは、伍良の住む地域の五穀豊穣を司っていたということだけだ。
「調べてみるか」
瑞穂から聞いてもいいが、それでは知識が偏るだろう。農作業が盛んだった頃なら、瑞穂について書かれた本があるかもしれない。色々と面倒だとは思うが、これも男に戻る為の手段だ。
(考えるのもいいが、妾は腹が空いた)
「俺ばかりが苦労して気楽な神様だよ」
溜息を吐きながらリビングに行くと、テーブルには朝食が並べられていた。
「使わなくなった裁縫道具を出しておいたわ。好きに使ってちょうだい」
伍良に気づいた母親は、年季が入った木の裁縫箱をくれた。持ってみると、ずっしりとした重さがある。
「ありがとう、助かるよ」
(伍良の祖母の持ち物を譲り受けて使っていたようじゃ。祖母から娘、そして孫に伝わったわけだ)
「大事にする」
「そうしてもらえば、道具も喜ぶわ」
薄汚れた裁縫箱だったが、瑞穂から由来を聞くと粗末な使い方はできない。裁縫箱を開いてみると、糸や針、鋏といった道具が一通り揃っている。これなら練習に使うのに十分そうだ。道具の使い方は水咲に教わればいいだろう。
裁縫箱の確認をしてから、伍良は椅子に座った。朝食は特大の目玉焼きだ。白身の上にゴロゴロと黄身が並んでいる。伍良の家で目玉焼きに使う調味料はケチャップだ。
「あの厄介な客はまだ来るだろうなぁ。リベンジできるようにするか」
人前で下手くそな絵を描くというのは面白くない。マスターに強制されることなら、せめてまともな絵を描きたかった。伍良は目玉焼きをキャンパスにして、ケチャップで絵を描く練習をした。喫茶店とは違って、家で使うケチャップは口が狭い。線が細いので絵を描くには向いているが、ケチャップの勢いが強くなるので操作が難しかった。
「練習が必要だな」
熱中し始めると止まらない。負けず嫌いな伍良は、練習を積んで男性客を見返しやろうと決意していた。
学校に到着すると少し眠かった。きちんと寝なかった影響だ。ホームルームが始まるまでうとうとしていた。
「昨日は初日で慣れなかったから疲れたか?」
「い、いや、大丈夫だ」
不意に聞こえた声に伍良は体温が高くなった。一気に目が覚める。祐輔の声を聞いて、裸を思い出していた。昨日のエッチな経験が脳裏に蘇る。慌てたような声になってしまった。
「顔が熱っぽくて少し目がむくんでいるな。大変だったら教えてくれよ」
「う、うん」
伍良を心配して祐輔が顔を近づけてきた。精悍な顔が間近に迫ると、心臓の鼓動が高くなった。男を好きになる趣味はないはずなのに、祐輔の爽やかな男らしさには好感が持てた。
放課後になって、伍良は手芸部の部室に行った。
「このミサンガを作った時と同じ糸は余ってない?」
手首に巻いたミサンガを見せて、水咲に同じ色の糸がないか聞いてみる。祐輔と約束したので、同じ柄のミサンガを作るつもりだった。もしなければ、糸を買ってこないといけない。
「ミサンガを作るなら、あと一人分はあるかな。伍良君が使うならあげるよ」
「悪いな。今日もまたミサンガを作るよ。他のことはおいおい教えてくれ」
「伍良君が興味を持ったことをやればいいから。でも、急に熱が入ってきた感じだね。もしかして好きな人にあげるとか」
「そ、そんなことはないぞ」
祐輔の顔を思い出して、焦ったような声になる。サッカーの応援であって、個人に対する好意ではないはずだ。
「怪しいなぁ」
水咲にからかわれながら、伍良は糸を受け取った。サッカー部の声が聞こえる窓側の席に座る。少しでも祐輔の声が聞こえると、ミサンガの製作に気合が入る気がした。
「凄く集中していた。網目が綺麗だよ」
「人にやるから、俺の精一杯を振り絞ったつもりだ」
完成したミサンガは最初のものよりしっかりしていた。納得できる仕上がりだ。
伍良は気が抜けたところで水咲に話しかけられて、ぽろっと人にあげるものだと告白してしまった。
「誰かなぁ、教えてよ」
水咲が興味津々な笑顔になる。追及の手を逃れるのは難しそうだ。
「バイトを紹介してもらったから、祐輔に対するお礼みたいなものだよ。サッカー選手がミサンガをするのは珍しくないだろ」
「伍良君と仲がいい祐輔君かぁ。うんうん、納得した」
「含みのある言い方だなぁ」
伍良の顔から苦笑が漏れたが、好意的な言い方なので水咲に不快感はない。内心で照れ臭かっただけだ。
手芸部の活動が終わってから、伍良はサッカー部の部室に向かった。自信作を早く祐輔に披露したい。サッカー部にいた頃の感覚で、当たり前のように外にある部室の扉を開けた。部室に充満していた汗と埃の臭いが伍良の鼻に襲ってくる。日常的に嗅いでいた臭いなのに目と鼻を刺激して咽そうだ。練習が終わったばかりでサッカー部員は着替えていた。
「誰かと思えば伍良ちゃんか」
「いきなり扉が開いたから驚いたよ」
「サッカー部の部室に来る女子は伍良ちゃんくらいだね。どうかした?」
汗で濡れたサッカー部員の肌が窓から差し込む夕日を受けて光っている。まるで大理石の彫像のように逞しい。惚れ惚れするような肉体美が並んでいる。今の伍良の頼りない体とは雲泥の違いだ。心の中で嫉妬と羨望、それに僅かな女の情欲が駆け巡っていた。
「はっくしょん!」
女らしからぬ大きなくしゃみの音で伍良は目覚めた。体がだるくて目蓋が重い。薄目を開くと、外はまだ薄暗い。もう少し寝たかったが、布団に入らず大股を開いた開けっ広げな格好を見て目が覚めた。
「うわぁ、後始末をしないで寝たから酷いことになっている……」
昨夜の痴態を思い出して、伍良は羞恥で頬を染める。パンツは脱ぎっぱなしで股間が丸見えだし、放置した愛液が白く乾いていた。いそいそとパンツを穿いたが、ごわごわとしている。
「ううっ、乾燥した愛液で股間が痒いな。両親が目覚めないうちにシャワーを浴びてこよう」
自慰の疲れが残っていて布団に潜りたかったが、このままの恰好では居心地が悪い。伍良はシャワーを浴びて、ベトベトしている体を洗い流した。血行が回復して、寒さで固くなった体がほぐれてくる。眠気もましになって、頭がすっきりしてきた。
「女の快感は凄かったけど、なるべく控えないとなぁ。病みつきになりそうだ」
恥ずかしい姿を晒している自覚はあったのに、恥も外聞もなく快感にのめりこんでしまった。甲高く甘い声がまだ耳の穴で渦巻いている。まるで麻薬のような誘惑だった。
「ふっ、すっきりした。妄想も一緒に流れ落ちたかな」
石鹸の清潔な匂いを嗅ぐと、脳裏を占めていた淫らな気持ちも漂白されるようだ。起床には少し早い時間だが、布団に入ったら熟睡してしまう。
「体操でもしておくか。いつでも復帰できるようにしないとなぁ」
男に戻れたとしても体がなまっていては使い物にならない。せめて体力を維持する努力はすべきだろう。
「腹が減ったなぁ」
喫茶店で食べた夕飯は豪華だったのに、体を動かすと空腹を感じた。瑞穂がいるせいで燃費が悪い体だ。
(妾も腹が空いたぞ)
「昨日、散々食っただろ。もう少し手加減してくれよ」
(難しいのぉ。信仰があれば平気なのだが、今は食うことで存在する力を補っておるのじゃ)
「信仰ねぇ。どうすればいいのかなぁ」
信仰の拠点となる神社がなくなれば、神は人々から忘れ去られてしまう。時間が経つほど瑞穂を知る人は少なくなるだろう。つまり信仰を得る機会がなくなるのだ。
(もっと妾のことを知る人が多くなればいいのじゃが)
「奉納品を直すだけではなく、瑞穂の知名度も回復しないといけないのか」
考えてみると、伍良は瑞穂のことをほとんど知らない。知っているのは、伍良の住む地域の五穀豊穣を司っていたということだけだ。
「調べてみるか」
瑞穂から聞いてもいいが、それでは知識が偏るだろう。農作業が盛んだった頃なら、瑞穂について書かれた本があるかもしれない。色々と面倒だとは思うが、これも男に戻る為の手段だ。
(考えるのもいいが、妾は腹が空いた)
「俺ばかりが苦労して気楽な神様だよ」
溜息を吐きながらリビングに行くと、テーブルには朝食が並べられていた。
「使わなくなった裁縫道具を出しておいたわ。好きに使ってちょうだい」
伍良に気づいた母親は、年季が入った木の裁縫箱をくれた。持ってみると、ずっしりとした重さがある。
「ありがとう、助かるよ」
(伍良の祖母の持ち物を譲り受けて使っていたようじゃ。祖母から娘、そして孫に伝わったわけだ)
「大事にする」
「そうしてもらえば、道具も喜ぶわ」
薄汚れた裁縫箱だったが、瑞穂から由来を聞くと粗末な使い方はできない。裁縫箱を開いてみると、糸や針、鋏といった道具が一通り揃っている。これなら練習に使うのに十分そうだ。道具の使い方は水咲に教わればいいだろう。
裁縫箱の確認をしてから、伍良は椅子に座った。朝食は特大の目玉焼きだ。白身の上にゴロゴロと黄身が並んでいる。伍良の家で目玉焼きに使う調味料はケチャップだ。
「あの厄介な客はまだ来るだろうなぁ。リベンジできるようにするか」
人前で下手くそな絵を描くというのは面白くない。マスターに強制されることなら、せめてまともな絵を描きたかった。伍良は目玉焼きをキャンパスにして、ケチャップで絵を描く練習をした。喫茶店とは違って、家で使うケチャップは口が狭い。線が細いので絵を描くには向いているが、ケチャップの勢いが強くなるので操作が難しかった。
「練習が必要だな」
熱中し始めると止まらない。負けず嫌いな伍良は、練習を積んで男性客を見返しやろうと決意していた。
学校に到着すると少し眠かった。きちんと寝なかった影響だ。ホームルームが始まるまでうとうとしていた。
「昨日は初日で慣れなかったから疲れたか?」
「い、いや、大丈夫だ」
不意に聞こえた声に伍良は体温が高くなった。一気に目が覚める。祐輔の声を聞いて、裸を思い出していた。昨日のエッチな経験が脳裏に蘇る。慌てたような声になってしまった。
「顔が熱っぽくて少し目がむくんでいるな。大変だったら教えてくれよ」
「う、うん」
伍良を心配して祐輔が顔を近づけてきた。精悍な顔が間近に迫ると、心臓の鼓動が高くなった。男を好きになる趣味はないはずなのに、祐輔の爽やかな男らしさには好感が持てた。
放課後になって、伍良は手芸部の部室に行った。
「このミサンガを作った時と同じ糸は余ってない?」
手首に巻いたミサンガを見せて、水咲に同じ色の糸がないか聞いてみる。祐輔と約束したので、同じ柄のミサンガを作るつもりだった。もしなければ、糸を買ってこないといけない。
「ミサンガを作るなら、あと一人分はあるかな。伍良君が使うならあげるよ」
「悪いな。今日もまたミサンガを作るよ。他のことはおいおい教えてくれ」
「伍良君が興味を持ったことをやればいいから。でも、急に熱が入ってきた感じだね。もしかして好きな人にあげるとか」
「そ、そんなことはないぞ」
祐輔の顔を思い出して、焦ったような声になる。サッカーの応援であって、個人に対する好意ではないはずだ。
「怪しいなぁ」
水咲にからかわれながら、伍良は糸を受け取った。サッカー部の声が聞こえる窓側の席に座る。少しでも祐輔の声が聞こえると、ミサンガの製作に気合が入る気がした。
「凄く集中していた。網目が綺麗だよ」
「人にやるから、俺の精一杯を振り絞ったつもりだ」
完成したミサンガは最初のものよりしっかりしていた。納得できる仕上がりだ。
伍良は気が抜けたところで水咲に話しかけられて、ぽろっと人にあげるものだと告白してしまった。
「誰かなぁ、教えてよ」
水咲が興味津々な笑顔になる。追及の手を逃れるのは難しそうだ。
「バイトを紹介してもらったから、祐輔に対するお礼みたいなものだよ。サッカー選手がミサンガをするのは珍しくないだろ」
「伍良君と仲がいい祐輔君かぁ。うんうん、納得した」
「含みのある言い方だなぁ」
伍良の顔から苦笑が漏れたが、好意的な言い方なので水咲に不快感はない。内心で照れ臭かっただけだ。
手芸部の活動が終わってから、伍良はサッカー部の部室に向かった。自信作を早く祐輔に披露したい。サッカー部にいた頃の感覚で、当たり前のように外にある部室の扉を開けた。部室に充満していた汗と埃の臭いが伍良の鼻に襲ってくる。日常的に嗅いでいた臭いなのに目と鼻を刺激して咽そうだ。練習が終わったばかりでサッカー部員は着替えていた。
「誰かと思えば伍良ちゃんか」
「いきなり扉が開いたから驚いたよ」
「サッカー部の部室に来る女子は伍良ちゃんくらいだね。どうかした?」
汗で濡れたサッカー部員の肌が窓から差し込む夕日を受けて光っている。まるで大理石の彫像のように逞しい。惚れ惚れするような肉体美が並んでいる。今の伍良の頼りない体とは雲泥の違いだ。心の中で嫉妬と羨望、それに僅かな女の情欲が駆け巡っていた。
コメント
折り返し地点ということで、更新は一区切りなのでしょうか?
他の作品の連載も始まってますし。
他の作品の連載も始まってますし。
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新連載は短期集中ですのでしばしお待ちください。