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子供の神様 (27) by.アイニス

(27)

 親しみを持った視線が伍良に集中していた。中心選手の一人だった伍良は部員の注目を集めることはあったが、その時とは視線の質が違うように思われた。好意を持った優しさが混じっている。異性に対する反応だった。伍良を歓迎しているのだが、慣れない雰囲気に足が竦みそうだ。
「持ってきてやったぞ」
 部員の目に晒されるのが恥ずかしくなって、伍良はズカズカと部室に入ると素っ気なく祐輔にミサンガを突きつけた。
「あ、ありがとう。そんなに急がなくても、バイトの時でも良かったのに」
「……すぐに見せたかったからな」
 大勢がいる前でミサンガを差し出された祐輔は、照れたような顔をしていた。
「見事な出来だと思うよ。折角だから伍良に結んで欲しい」
「……いいけどさ」
 注目されながら祐輔の手首に巻くのは恥ずかしかったが、自信作なので最後まで面倒を見たいという気持ちがあった。
「格好いいと思うぞ」
 ミサンガを巻いたことで、祐輔の男ぶりが増したように見えた。
「くそっ、見せつけてくれるぜ」
「もしかして、付き合っているのかよ。伍良ちゃんを独り占めしようなんて、許されざる暴挙だ」
「羨ましいなぁ。俺も欲しいよ」
「ごちゃごちゃとうるさいぞ。祐輔には世話になったから、そのお礼だ。お前らが勘違いするような仲じゃない」
「がくっ」
 サッカー部の連中にはやし立てられて、伍良は憮然とした顔で文句を言った。全く失礼な奴らだ。
 ミサンガを渡されて喜んでいた祐輔だが、伍良の言葉で部室の隅で落ちこんでいた。
「それなら俺の分も作ってくれよ」
「俺も、俺も」
「伍良ちゃんに作ってもらったら練習にも身が入るからさ」
「お前らなぁ。もう糸は使い切ったから、同じのは作れないぞ」
 部員全員の図々しい要求を聞いて、伍良は呆れた顔になってしまった。口実をつけて断ろうとしたのだが、サッカー部の連中は諦めが悪い。
「伍良ちゃんとお揃いでないのは残念だけど、作ってくれないかなぁ」
「材料なら用意するから」
「好きな風に作ってくれればいいからさ。いつまでも待つよ」
 男連中に周りを囲まれて、汗と埃の臭いが押し寄せてくる。背が低くなった伍良は、すっぽりと男の壁に隠れてしまう。むさ苦しさで息が詰まりそうだ。
「お前ら、そんなに近寄るな。暑苦しいぞ。わかった、わかったから」
 一緒に練習をした仲間から必死に頼まれると嫌とは言いにくい。伍良は仕方なく承諾した。
「ひゃっほぅ、やったぜ!」
「女の子の手作りなんて初めてだ」
「これでますます部活に頑張れるな」
 伍良の返事を聞いた部員たちは、歓声を上げて手放しで喜んでいた。ちょっとした代物で単純な男連中だと思う。今まであまり意識してなかったが、女になった伍良には魅力があるらしい。女の武器があるというのは一つの発見だった。
「その代わり、家で余っている古い布とかの材料があれば欲しいな」
「任せておけ。探しておくよ」
「それくらいお安い御用さ」
 試しに意識して可愛く笑顔を作ってみると、男連中は鼻の下を伸ばして意気込んでいる。思ったよりも威力があって、伍良は内心で戸惑い引きそうになった。
「それじゃまたな」
 必要な用件は終えたので部室から出たが、本当はもっと雑談でもするつもりだった。以前とはまるで伍良の扱いが異なっている。空気に馴染めない。
(男に媚びるような笑顔をしておったな。女として男にもてはやされたくでもなったか?)
「そんなんじゃない。笑顔一つで材料集めに協力してくれるなら安いと思ったのさ。俺一人の力じゃたかが知れている」
 一人きりになったところで、瑞穂が伍良の態度について疑問を投げかけてきた。もちろん女として振る舞って媚を売るのは敬遠したいが、伍良一人の力で男に戻ろうとするのは難しい。協力を得るための代価が笑顔なら安いものだ。
(男に戻るのを諦めたわけではなかったのか)
「早く男に戻らないと試合に間に合わなくなるからな。多少は無理もするさ」
 瑞穂と喋りながら帰り道を歩いていると、後ろから駆け足が近づいてきた。覚えのある気配に振り向くと、制服に着替えた祐輔が立っていた。急いで駆けてきたようで息が切れている。
「はぁ、はぁ、一緒に帰ろう」
「いいけどさ。練習が終わったばかりで疲れているのに、そんなに飛ばさなくても」
 伍良は苦笑しながら足を止めて、祐輔の息が整うのを待っていた。帰り道でするのはサッカーの話題ばかりだ。
「ミサンガで気合が入ったよ。全国大会まで行けるよう頑張る。そうしたらチアガールをして欲しいな」
「そこまでいけたら応援してやるか」
「やった、必ず伍良を全国に連れて行くよ」
 伍良の家に到着したところで、祐輔はミサンガを巻いた右腕を掲げた。伍良の声援が欲しいらしい。本格的に試合が始まる前にどんなことをしても男に戻るつもりだったので、伍良は励ます意味で承諾した。罰ゲームが待っているなら、必死になるというものだろう。伍良の内心を知らない祐輔は、素直に喜んでいた。

「俺って可愛いのか」
 自室でまじまじと鏡で顔を眺めてみた。目元に愛嬌があって整っている顔だとは思っていたが、男を魅了できるような容姿だとは思わなかった。試しに優しい微笑みを浮かべてみると、はっとするような印象に変わる。まるで妖精のように可憐だった。
「……確かに可愛いかもしれない。女になったことに慣れなくて、ずっと仏頂面だったからなぁ。表情を和らげるだけでまるで違う」
 笑顔になるだけで、鏡の中の少女に惚れてしまいそうだ。伍良は頬を桜色に染めながら、色々な笑顔を試してみた。少女から極上の笑顔を向けられると、体の芯が熱く溶けてきそうだ。
(呪ったとはいえ、妾の豊穣の力も含まれておるからな。女としての魅力と性欲が増大しておるのじゃ)
「魅力はわかるけど、性欲ってどういうことだよ」
(妾の力は実りに関係するからのぉ。男を引きつけて、たくさんの子を産むためじゃ)
「男の裸を見て変な気分になるのはそれが原因か。厄介だなぁ」
(意志を強く持てば平気じゃぞ)
「簡単に言ってくれるよ」
 実のところ、脳裏にはサッカー部員の裸が焼きついている。それを思い浮かべてしまうと、また自慰に走りたくなるのだ。伍良は性欲を持て余して、熱く重苦しい溜息を吐いた。

 翌日は昼休みを利用して、伍良は図書室に来ていた。あまり勉強熱心ではない伍良が図書室に来るのは久々だ。
「瑞穂はマイナーな神様だからどうかなぁ」
(馬鹿にされている気がするぞ)
 苦労するかと思ったが、郷土史を調べると瑞穂の名前はあっさり見つかった。百年前までは意外と知られた神様だったらしい。信仰も盛んだった。
「千年以上前から信仰されていたのか。見た目で騙されるけど、とんだお婆ちゃんだ」
(失礼な奴じゃ。神には寿命がないから、年は関係ない。妾の歴史を知ったなら、もっと敬わぬか)
「古い神様だというのはわかったよ。近代化で農業が衰えた結果、信仰がどんどん廃れていったのか。昔はお祭りとかもやったみたいだなぁ」
 学校の図書室では詳しいことはわからないと思ったが、調べれば調べるほど瑞穂の名前が出てくる。とても紙一枚ではまとめきれない。
「大昔に神を馬鹿にした男が女にされた逸話も載っているな。昔も同じことをしていたのか」
(そんなこともあったかのぉ)
「この昔話によると村人は男に戻れず、村の若者と一緒になったみたいだ。俺にとって希望にならないよ」
 伍良にとって救いのない話なので、気持ちが沈みそうになった。
 昼休みだけではとても瑞穂のことを調べられない。本腰を入れて調べる必要がありそうだ。やることばかりが増えて、体が二つ欲しくなった。

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