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子供の神様 (31) by.アイニス

(31)

 ずかずかと歩く伍良に引きずられる形で祐輔も歩き出す。何だか祐輔はずっとぼんやりしていて、伍良は手を放すタイミングを見失った。結局は手を繋いだままスポーツ用品店の前まで来ていた。
「おいおい、しゃんとしろよ。もう到着したぞ」
「伍良の手って思ったよりも華奢だな。もっと力強い印象があった」
「……いきなり恥ずかしくなるようなことを言うなよ。俺は女の中では力が強い方だぞ」
 女になって手が繊細になっている自覚はあっても、友人に指摘されたのはショックだった。祐輔の頭の中では男だった頃の伍良の手の印象が残っているのだろう。それを崩すことになったのは面白くない。伍良は繋いだままの手を振り払うようにほどいた。
「女になってしまったんだから仕方ないだろ……」
「伍良と一緒にいると男友達といるように錯覚することがあるよ。昔の伍良は男に混じって遊んでいて、誰にも負けないくらい強かったからかなぁ」
 ぼそっと伍良は不満を口にする。祐輔は不思議そうな顔でまだ伍良の体温が残る手を見詰めていた。
 気を取り直してスポーツ用品店に入ると、それだけで伍良の機嫌は回復した。色々な商品を見ているだけでも楽しい。サッカーに限らず伍良はスポーツが好きなのだ。プロ選手が使っているのと同じモデルの商品を見るだけで心がウキウキしてくる。
「最近は手芸に凝っているようだからスポーツに興味がなくなったかと思ったよ」
「そんなことはない。俺は今でも体を動かすのは好きだな。スポーツウェアを買っていこうかなぁ」
 祐輔のシューズ選びをそっちのけでついつい店内を見回っていた。それに祐輔は文句を言うこともなく伍良の後ろについてくる。目を輝かしてスポーツグッズを眺める伍良を友人は楽しそうに見ていた。
「これは恰好いいのになぁ。サイズが合いそうもないか」
「それに男性用だよ」
「女性用でも同じのがあればなぁ」
 気に入ったデザインのスポーツウェアがあったが、残念なことに体格が合いそうもない。
「祐輔が試しに着てみてくれよ」
 男だった頃の伍良と祐輔は身長がほぼ同じだ。伍良が男のままならどんな感じに着こなせたか想像したくて祐輔に着用を頼んでみた。
「なかなかいいな。男ぶりが上がって恰好いいぞ。俺も着たかったなぁ」
「そ、そうか。予定にはなかったけど、伍良が褒めるなら買っていこうかな」
 風と雷をモチーフにデザインされたスポーツウェアを着た祐輔は勇ましく見えた。やけに祐輔が凛々しく思えて、つい見入ってしまう。男としての羨ましさや憧れと同時に、女としての好意が伍良の中で芽生えていた。
 祐輔はスポーツウェアを買うことにしたが、伍良はなかなか気に入ったデザインを見つけられずにいた。どうしても男のウェアばかりに目がいくのでサイズが合わない。
「伍良ならこのウェアが似合いそうだよ」
「それかぁ。洗練されているとは思うけど、色が明るすぎないか」
 伍良が迷っていると、祐輔がピンクの薔薇のような明るい色のスポーツウェアを指差した。折角祐輔が助言してくれたので言葉を取り繕ったが、甘い色合いなのでそんなに趣味じゃない。それでも別の視点からの新たな発見があるかと思って、試しに着てみることにした。
「思ったよりもいい感じだ。うん、これはこれでありかな」
「明るい雰囲気で爽やかだね。伍良に合っていると思う」
 外で使う衣服にピンクというのは抵抗があったが、実際に着てみると健康的な色気が感じられて悪くない。いつもとは違う魅力が感じられる格好だ。
「祐輔がいいと思うならこれにするか。俺も気に入ったよ」
 なるべく男物に近いデザインのものを買おうと思っていたが、祐輔の選んだスポーツウェアは今の伍良の姿にマッチしている。女でいるうちは今の容姿に似合う服なら何でも構わないという気がしてきた。それに体にフィットしていて動きやすそうだというのも大きい。
「余所見ばかりしてしまうな。ここにはシューズを選びに来たのに」
「急ぐわけじゃないから別に構わないよ」
 スポーツウェアを選んだところで本来の目的を思い出し、伍良は苦笑しながらシューズを見に行った。このところスポーツ関連のことから遠ざかっていたので、興味の赴くままに行動してしまった。
「ほどほどの価格で祐輔の足に合うのはどれかな」
 履き心地を重視して何足も祐輔にシューズを試着してもらう。同じサイズの靴でもメーカーによって微妙に大きさが違うのだ。
「つま先で立ってみてくれ」
「ちょっときついかな。指が自由に動かない」
「それじゃ駄目だな。こっちはどうだろ」
 足に負担が少なくて動きやすいものを探す。サッカーのことになると伍良は真剣でこだわってしまう。スポーツ少年の顔に戻って、伍良は祐輔と一緒にシューズを探した。そのかいあって納得のいくものを購入できた。
「久しぶりにサッカー部としての連帯感を感じたなぁ」
「伍良のお陰でいいシューズを買えたよ」
 祐輔のシューズ選びの手伝いをしたことで、サッカー部に所属している気分に戻れた。スポーツ用品店から出ても達成感があって伍良は機嫌が良かった。
「俺もサッカーシューズを買ったからさ。これから広場でサッカーをしようぜ」
「えっ、これから遊びに行かないのか?」
 伍良の提案に祐輔が驚いたような顔をする。これからサッカーをするのは想定外だったようだ。だが、伍良はサッカーがしたくてたまらなかった。それには相手がいる方が好都合だ。
「祐輔と一緒にサッカーがしたいんだけど駄目かな?」
「う、うーん」
 可愛く小首を傾げて祐輔に頼んでみる。上目遣いで祐輔の顔を覗き込んでみた。女としての可愛らしさを悪用したが、それだけサッカーがしたかったのだ。
「お願いだからさ。俺と一緒にサッカーをしようよ」
 悩んだままなかなか首を縦に振らない祐輔に対して、伍良は優しく手を握ってお願いしてみた。男としてはやはり可愛い女に頼み事をされると弱いらしい。それは長年の友人であっても同じようだ。
「仕方ないなぁ。わかったよ」
「やった!」
 両手を上げて喜ぶと、テンションの上がった伍良は小走りで家にサッカーボールを取りに行く。距離を離された祐輔はやれやれと肩を竦めていた。
「最近は女らしくなってきたけど、またサッカー少年みたいな顔になっているね。そんな伍良も好きだけどさ」
 軽く溜息を吐くと、祐輔は駆け足で伍良を追いかけた。

(女に振り回されて、あの男が少し哀れじゃなぁ)
 伍良が買ったばかりのスポーツウェアに着替えていると、瑞穂が祐輔を気の毒がっていた。祐輔は伍良の自宅の前で待っている。
(女とこれから遊ぶということで、男の方は気合が入っておったからなぁ)
「そうかぁ? 祐輔は俺とならいつでも遊べるはずだろ。瑞穂の考え過ぎだ」
(そうかのぉ。靴を選ぶ手伝いをして欲しいというのは、伍良を誘う口実だと思ったのじゃが)
「そんな回りくどいことをするような奴じゃないと思ったけどなぁ」
 祐輔とは気兼ねない友人関係を築いてきた。何の遠慮もいらないはずだ。
(男同士のままだったら、相手も気楽でいられたじゃろう。だが、男と女になったことで、異性を意識していると思うぞ)
「そうなのか。でも、それは年頃の男なら女の子に持つ自然な感情じゃないのか。俺だけが特別じゃない」
 伍良も男のままだったら、可愛い女の子と一緒に遊べたら楽しかったはずだ。祐輔が意識してしまうのは相手が女だからであって、それは伍良に限った話ではないと思う。
(ふむ、それもありうる話か)
「あまり変なことを言うなよ。俺も異性として祐輔を意識しちゃうじゃないか。面と向かったら顔を見られなくなりそうだ」
 今までの友人関係はなるべくそのままでいたい。祐輔に異性としての男性を感じることはあったが、体が女になった気の迷いだと思いたかった。これ以上の悩み事を抱えたら、頭がパンクしてしまう。
「待たせて悪いな。俺の部屋を使えばいいと思ったけど、もうスポーツウェアに着替えたのか」
「壁に隠れて素早く着替えたから問題ないよ」
 伍良が玄関から出ると、祐輔もスポーツウェアに着替え終わっていた。どうやら家の敷地で着替えたらしい。以前なら一緒に伍良の部屋で着替えたはずだ。男を外で待たせることが当たり前の対応になっている。女として学校に通って女子の集団に混じっているうちに無意識に男女を区別していた。女に馴染んでいるのだろう。
「やっぱり恰好いいな」
 スマートなスポーツウェアを着た祐輔は、精悍な顔立ちが引き立っている。瑞穂が余計なことを言ったせいで、友人の顔を見ると変にドキドキしそうだった。

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