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子供の神様 (42) by.アイニス

(42)

 風呂から上がって頭の血が下がると、伍良は己のした行為に赤面してしまった。あれだけ大声で喚いたのだ。瑞樹に聞かれたのは間違いない。面の皮が厚い瑞穂は平気な顔でくつろいでいるが、伍良は気が気でなかった。廊下を渡る足音が聞こえてくると、足が震えだしてしまう。
「お待たせしましたね。夕飯をお持ちしました」
 瑞樹が襖の向こうから一声かけてくる。声には怒った響きはないが、顔を見るのが恐ろしかった。神社で恥も外聞もなく騒いだのだ。怒りを押し殺しているのかもしれない。
「ほほぅ、蕎麦か。気が利くのぉ」
「はい、姉上様の好物ですからね。私が腕を振るいました」
 室内に瑞樹が入ってくると瑞穂の目が輝く。夕飯として用意されたのは山盛りの蕎麦と天ぷらだった。瑞穂の喜んだ顔を見て、瑞樹が微笑みを浮かべる。怒っていないように思えるが油断はできない。瑞樹は姉に対しては甘いようだからだ。それが伍良に適用されるとは限らない。
「伍良さんの分は並盛にしましたが、足りないようであれば仰ってください」
 机に置かれた蕎麦は角が立って瑞々しい。まるで職人が打ったような見事な出来栄えだ。伍良が迷惑をかけても手は抜いていなかった。
「そ、その、さっきは風呂場で騒いで申し訳ありません」
「別に気にしていません。私も若い頃には色々としたものです。伍良さんの声を聞いて、久々に血が燃えました。私も混ぜて欲しかったですよ」
「えっ、冗談ですよね」
 瑞樹から艶やかな流し目を送られて、伍良は狼狽していた。冗談には思えない色っぽい微笑みを見ると、身の内が震えそうになってくる。瑞樹の肌からは芽吹いたばかりの新緑のような爽やかな匂いがしていた。
「伍良は妾のものじゃ」
「あらあら、それは残念ですわ」
 瑞穂が止めなければふらふらと誘いに乗ってしまったかもしれない。危ないところだった。
「瑞樹は清楚なように見えて、妾よりもねちっこいところがあるぞ。下手に相手をしたら伍良が枯れてしまうわ」
「姉上様が相手をしてくださらないのが悪いのです。それに昔とは違って自制するようにはなりましたよ」
「この件に関しては信用できんわ。もっとも、妾の力が復活したら、相手をするのもやぶさかではない」
「約束ですよ。楽しみにしております」
 姉妹の会話が終わると、瑞樹は部屋から退出した。近くで会話を聞いていた伍良は、瑞樹が乱れるところを想像して体を火照らせている。清楚な雰囲気を持つ瑞樹がどんな風になるのか興味津々だった。
「瑞樹が本気になったら伍良は搾り取られるぞ。くれぐれも手は出すな」
「わ、わかったよ」
 真剣な顔で瑞穂に注意をされて、浮ついていた伍良は気を引き締めた。人が良いように見えても相手は神様だ。理解が及ばないところもあるだろう。油断は禁物かもしれない。
「わかったならよい。それでは頂くとしよう。久しぶりの蕎麦じゃ」
「うん、頂きます」
 朱塗りの箸を持った瑞穂は、涎で口元が濡れそうになっていた。ずっと我慢をしていたらしい。まずは一口、何もつけずに啜っていた。
「口の中で蕎麦が弾けるわ。瑞樹の腕前はなかなかのものじゃ」
「喉越しがいいから幾らでも食べられそうだ」
 瑞穂は薬味を入れずに蕎麦を啜っていた。天ぷらにも手をつけていない。僅かな蕎麦の香りを楽しんでいるようだ。
 伍良が天ぷらにも手を出してみると、衣がさくさくとして美味しい。どんどん腹に入っていったが、蕎麦が空になる頃には満腹になっていた。
「もっと食べられる気がしたのになぁ」
 瑞穂が体の中にいないので、胃袋が並の大きさに戻っていた。いつもでは困るが、美味しいものはたくさん食べたくなる。伍良の隣ではまだ山盛りになった蕎麦を瑞穂が食べていた。おそらく十人前以上あっただろう。食の衰えない瑞穂を羨ましそうに伍良は見る。小柄な女の体なのが少し残念だ。
「足りぬのか。仕方ないのぉ、少し妾の分を分けてやろう」
 伍良の顔を見て、まだ空腹だと思ったらしい。瑞穂は物惜しみしながらも、一人前分の蕎麦を分けてくれた。
「あ、ありがと」
 男の時だったらともかく、今の状態ではかなり苦しい。だが、食い意地の張った瑞穂が、折角譲ってくれたのだ。無下にはできない。
「ああ、蕎麦だけではなく天ぷらも欲しいのか。これは手落ちじゃったな」
「うぉ、もう十分だよ」
 僅かに滲んだ悲壮な顔を見て、瑞穂はまたもや勘違いしていた。蕎麦だけでは伍良が不満だと思ったらしい。わざわざ一番大きいえび天を乗せてくれた。
「そうかそうか。一緒に同じものを食べる夕飯はいいものじゃ」
「……俺もそう思うよ。ううっ、山葵が鼻に染みるなぁ」
 瑞穂の好意が腹に重たい。伍良は笑顔がひきつりそうになりながら、必死に蕎麦を啜っていた。

 山奥にある神社では、夜になると物音が一切しなかった。あまりに静かで怖いくらいだ。少しは雑音が聞こえた方が安心できる。いつもとは違う環境で寝付くのに時間がかかるかと思ったが、目覚めた時には朝になっていた。
「伍良は寝るのが早かったな。布団に入ると同時に寝息を立てていたぞ」
「……思ったより疲れていたのかな」
 睡眠を削ってバイトや小物作りに勤しんでいた。体力はあるので平気なつもりだったが、疲労は蓄積していたらしい。爽快な目覚めだった。
「朝食をお持ちしました」
 昨日は苦しくなるまで蕎麦を食べたのに、瑞樹の用意した朝食を見ると空腹を覚えた。味噌汁、焼き魚、漬物といった純和風の献立だ。瑞穂の茶碗は大ぶりなもので、御飯が山盛りになっている。
「おかわりじゃ」
 蕎麦を十人前は食べたというのに、瑞穂の食欲は衰えることを知らない。見た目は小さくても、力士のように大食漢だった。
「瑞樹の味噌汁は懐かしい味がしたぞ」
「自家製の味噌で昔から作り方は変えていませんから」
「ふぅ、満腹じゃわい。やはり自らの口で味わうのはいいものじゃ」
 伍良の口で食事を味わっている時には、瑞穂が満足してなくて空腹感が残っていた。常に伍良は空腹に悩まされたのだが、今日の瑞穂は食事に満足しているようだった。
 このままお茶でも飲んでゆっくりとしたくなるが、伍良は木工細工について習わなければならない。あまりのんびりはできなかった。
「それでは作業場に行きましょうか」
「はい、お願いします」
 そわそわした様子の伍良を見て、瑞樹から声をかけてくれた。
「姉上様はどうされますか?」
「では、邪魔にならぬところで見ているとしよう」
 作業場に行くと木の匂いが充満していた。様々な太さの材木が置かれている。古い器具ばかりかと思ったが、電動のドリルもあった。
「年季の入った道具が多いですけど、新しいものもあるんですね」
「便利ですからね。まずは木に親しむところから始めましょうか。材料は幾らでもありますから、失敗しても大丈夫ですよ」
 瑞樹は手頃な大きさの角材を手に取ると、目にも留まらぬ速さで削り始めた。木くずが飛び散ったかと思うと、あっという間に木彫りの熊が完成する。猛々しいものではなく、ぬいぐるみのように可愛らしい子熊だ。
「やけに愛らしいですね。厳めしい神様の像でも彫るかと思いましたよ」
「伍良さんの作ったぬいぐるみを参考にしました。馴染みのある形の方が立体を思い浮かべやすいでしょう」
「確かに似ていますね。でも、瑞樹さんの手が早すぎて、飲みこめなかったです」
 芸術に対する理解力は高くなったつもりだが、瑞樹の技術が卓越し過ぎて理解が及ばなかった。
「今作ったのは見本ですから安心してください。一から教えますので。まずは下絵からですね」
 瑞樹は新しい木材を手に取ると、子熊の木彫り人形を正面、左右、背面から見た図面を描きこんだ。それを参考にして立体を思い浮かべながら彫っていくということらしい。
「まずは伍良さんも角材に下絵を描いてください。それからノミや彫刻刀で彫っていきましょう」
「わかりました。確かに実物大のモデルがある方がやりやすいですね」
 指示に従って、子熊の木彫り人形を参考にしながら伍良は木材に絵を描いた。実物があるので、図面を描くのはさほど難しくなかった。何もないところから立体図面を描くとしたら大変な作業になっただろう。
「では、ノミを使って輪郭を粗く彫っていきます。それから彫刻刀で形を整えましょう」
 瑞樹から道具の使い方を教わりながら、伍良はほぼ一日中角材を彫っていた。休憩したのは昼におにぎりを食べた時くらいだ。
「広い作業場が使えるのはありがたいですよ」
 木くずが大量に飛び散るので、広い場所を使えるのは助かる。掃除をする手間を考えると、自宅ではなかなか作業できないだろう。彫刻刀を握る手が赤くなったが、伍良は手を放さなかった。
「見ているだけでは飽きてきたぞ。瑞樹よ、何か遊ぶものでも作ってくれ」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
 瑞穂は伍良の作業をずっと眺めていたが、短時間で変化が現れるようなものではない。素人なので作業の進みは遅いのだ。暇になってきた瑞穂は、瑞樹に頼んで玩具を作らせていた。
「さすがに神業だなぁ」
 瑞樹の作業を見て伍良が息を呑む。図面もなしに木材からけん玉や独楽が生まれていた。まるで市販品のように整った形で、あとは色さえ塗れば完璧だろう。
 奉納品の修理も瑞樹が行えば簡単なのだろうが、それでは人の想いが再生されない。壊してしまった伍良の手で修理しなければ意味がないのだ。
「独楽の図柄は妾も描くとしよう。さて、どんな形が良いかのぉ」
「回転した時に綺麗な模様が浮かぶようにしたいですね」
 姉妹で語らいながら玩具を作っている。楽しそうな会話を聞いていると、作業に必死な伍良の気分も少し和んだ。
「妾は伍良が来るまで独楽遊びを欠かしたことはなかったぞ。瑞樹では勝負になるまい」
「さすが姉上様ですね。でも、そう簡単には負けませんよ」
 独楽が完成すると、姉妹は投げゴマで勝負を競っていた。最初は声が控えめだったが、段々と熱狂的になっていく。
「……仲が良いのはいいことだよな」
 本気の声で騒ぐ姉妹に伍良は溜息を吐いた。作業に集中できない。瑞樹は礼儀正しくはあるが、姉妹だけあって本質では瑞穂に似ているのかもしれなかった。一声かけたくなったが、神様の立場では対等に遊ぶ機会は少ないのだろう。伍良はもう一度息を吐くと、黙々と木材を削っていた。

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