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『性転換ペンダント』(18禁)第7話

文:さささ キャラ・イラスト:シガハナコ

夢・後編

 まどろみの中にあるあたしの意識に、一筋の光が差し込んでくる。その光を見つめていると、忘れていた大事なことが、走馬灯のように駆け巡る。「あたし」が「あたし」であるために大切なこと全て、色彩豊かな思い出の数々が、心にしんしんと降り積もる。

 あたしは一人ぼっちで泣いていた。友達の輪に入れずに、ぽつんと寂しく座っている。そこに小さな男の子が近づいてきた。それは今のあたしがよく知っている、ずっと一緒にいる男の子だ。
「ねえ、君なんていうの? 一緒に遊ぼうよ」
「葵ちゃんかぁ。いい名前だね」
「すごい場所を見つけたんだ。僕に付いて来て」
「目を開けていいよ。ここが二人の秘密基地だよ。気に入ってくれた?」
「えっ、いいの? やった。指切りげんまん、嘘ついたら、はりせんぼん飲ます、指切った」
 ねえ蒼太くん。あの時のこと、覚えてる? あたしは覚えているよ。だって、一番大事な想い出だから。
「お母さん、お母さん。今日初めてお友達が出来たの。蒼太くんって言うんだよ。とってもかっこよくて、やさしいの。あたしたちいつか……うふふ、二人だけの内緒なんだ」

 気がつくと、あたしはまだ、あの宝石をぼーっと見つめていた。淡いピンク色で輝いている。
「やるよ。そんなに欲しいんだったら。ちょっと着けてみて」
「えっ、いいの?」
 蒼太くんは何も言わずにうなずくと、緊張した面持ちでペンダントを差し出した。水で汚れを取り除き、ハンカチで丁寧に拭いた後、あたしの首にそっとかけてくれる。
「ありがとう」
 あたしが幸せに浸りながら彼を見つめていると、真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまう。あたしたちはしばらく無言で顔を背けていた。
「ねえ、何か言ってよ」と催促すると、蒼太くんは小さな声でつぶやいた。
「とってもきれいだよ」
 そうやって恥ずかしがっている蒼太くんを見ていると、胸がキュンとしてしまう。蒼太くんのあたたかい手を握り、あたしは肩にもたれかかった。ただそれだけなのに、あたしの身体はほのかに熱を帯びて、トクトクと速まった胸の鼓動を抑えることができない。そしてあたしの唇は蒼太くんの感触を求めてさ迷い、ゆっくりと彼の高揚した頬に近づいていく。


「おーい、蒼太! 秘密基地ってここかぁ」
 急に男子たちの声が聞こえ、あたしは急いで起き上がる。みんなスコップとバケツを持って、音をうるさく立てていた。
「かなり本格的だな。こんないい場所が近くにあるなんて、気がつかなかったよ」
 どかどかと土足でブルーシートを汚していく。せっかく作ったお団子もお料理も、無残に踏み潰された。蒼太くんに作ったものなのに。そう思うと泣きたくなる。
「何だ、葵ちゃんも来てたのか」となれなれしく近づいてくる。
 蒼太くんも蒼太くんで、「いやぁ助かるよ」なんて笑顔で話している。その無神経さに腹が立つ。
「蒼太はいつも葵ちゃんと一緒にいるよな。照れんなよ。好きなんだろ?」
「ち、ちげーよ。あんなへんちくりんなんて、これっぽっちも好きじゃねーよ。この前一緒だったのは……てなわけでさ。だから、好きだなんてありえねーよ」
 全ては聞き取れなかったけど、所々耳に入ってくる。あたしの悪口ばっかり並べて、ひどい。ひどすぎるよ。二人のときはあんなに優しくしてくれたのに、今の蒼太くんは全くの別人だよ。二人だけの秘密基地って約束したじゃない。小さい頃「好き」って言ってくれて、ずっとそれを信じてたのに。信じてきたのに。
 あたしは感情の高ぶりを、押さえ切れなくなっていた。クラスの男子なんて大嫌い。蒼太くんなんて、もっと嫌い。世界で一番大嫌い。
 震えが止まらなくなったあたしは、何も持たずにその場から逃げ出した。しばらくして後ろから声が聞こえてくる。
「おーい、葵ちゃん。誤解だよ」
 何が誤解なの。
「ごめん、悪かった」
 謝ったって絶対に許さないから。
「頼むから待ってくれ」
 もう二度とあたしに近寄らないで。

 家に着くと、あたしは急いでドアを閉めた。トントンとノックする音がしたけど、もちろん知らんぷりだ。
 バッテンのついたカレンダーが壁にかかっている。あたしはそれを見て「はぁ」とため息をつく。あと三日だ。ここにいられるのも、あと三日しかないのに最悪だ。首にぶら下げたペンダントを見ていると、蒼太くんのことが浮かんできちゃう。
「捨てよう」とあたしは決意する。日本の思い出も、あんなやつとの想い出もみんな捨てよう。彼との写真も、これまでもらったプレゼントも全て。そう思って、ゴミ袋に次々とつめこむ。捨てれば捨てるほど、気持ちにぽっかりと穴が開いて、おえつが止まらなくなる。
 涙がようやく乾いたところで、あたしはそっとドアを開ける。既に夕暮れ時で、さすがに蒼太くんの姿はそこになかったけど、見回すと軒下にあたしが忘れていった赤いランドセルと、一通の手紙が置かれていた。
 あたしはその手紙をくしゃくしゃと丸めると、壁に投げつけようとした。でもなぜか心に引っかかりを感じ、未開封のままそっとポケットにしまい込んだ。


 蒼太くんとの想い出は、結局ほとんど処分した。だけどあの二つだけは、どうしても捨てられなかった。手紙とペンダントは、手持ちかばんに入れてある。
 雲の合間からあたしたちの町が見える。空から見ると、あんなに小さくなっちゃうんだね。飛行機は高度を上げ、海岸沿いの街をあっという間に通り過ぎていく。
 それにしても、何でヒステリックに叫んじゃったんだろう。蒼太くんと最後の想い出を作りたかっただけなのに、彼のことを忘れようとすればするほど、むしろ想いは募るばかり。こんなはずなかったって。
「蒼太くんは今何をしているのかな」とどうしても気になってしまい、彼の手紙を取り出した。まだ怖いけど、今なら見ても大丈夫な気がする。シワシワになっちゃったけど、読む分には問題ないし。
 白い封筒を丁寧に開ける。そして急いだ文字で書かれた手紙を、あたしは静かに読み始めた。

「葵ちゃんへ
 秘密基地のこと、みんなにバレちゃった。本当にごめん。誰かが後ろをつけていたみたいで、気がついたときには、既にクラスの男子全員に知られちゃってたんだ。
 男子の一人が『いなくなっちゃう前に、基地をゴージャスに仕上げようぜ』って提案したら、みんな乗り気になってたよ。あいつらもやっぱり、葵ちゃんのことが好きで、寂しいんだと思う。
 オレもどうせなら基地を立派にして、葵ちゃんを驚かせようと思ってしまったんだ。
 先に知らせなきゃダメだったのに、考え足らずで嫌な思いをさせたよね。申し訳ない。

 そうそう、あのペンダント、とても似合ってたよ。実はあれ、この日のために七宝焼きで作ってたんだ。結構自信作だったんだけど、どうかな。
 ずっと渡したかったんだけど、なかなかタイミングが見つからなくて、結局だます形になっちゃった。こうなってしまったのは、自業自得だよね。
 もし迷惑だったら、捨ててもいいよ。葵ちゃんにだったら、たとえ捨てられても納得できるから。
 もらってくれるか不安で、昨日も眠れなかったんだ。あの後、幼稚園の頃と同じように『帰ってきたら結婚して』って聞こうとしてたんだけど、もう無理なのかな。できればいなくなる前に、読んでくれたらいいんだけど。

 葵ちゃんには、心から感謝しているよ。いつも笑顔で接してくれて、どうもありがとう。いいところを見せたくて、見栄を張ってしまったことも結構あったかも。でも、おかげで気分に張りが出てきて頑張れたんだから、よかったのかな。
 実はアメリカに行ってしまうと聞いて、どうしたらいいのか分からなかったんだ。ぶっきらぼうな態度を取って、傷つけてしまったことを、今は反省してる。本当にごめんね。
 
 正直言うと、もう会えないかもしれないのが、すごく寂しいよ。
 どうか重く受け止めないでほしいんだけど、オレは多分これからも葵ちゃんのことが好きなままでいるんだと思う。将来のことは分からないけど、いつか帰ってきてくれることを願ってる。

 最後になってしまったけど、向こうの生活を楽しんできてよ。もし葵ちゃんに好きな人ができたら、正直少し切ないけど、でも思いっきりエンジョイしてほしいな。Enjoy! 確か英語ではこう書くんだよね。絶対にこれからも楽しい出来事が、たくさんあるさ。オレも心からそう祈っている。
 長々と書いちゃったけど、元気でいてね。いつかまた笑顔で会おうよ」

================
前回(6話)までのあらすじ
 不思議な夢を見続けることで、葵の思い出は次々に改ざんされていく。それら全てで「自分は女の子」であることを自覚させられる葵。夢の中で、親友の蒼太に渡されたペンダントの作用により、葵の心も完全な女になった。

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次回は最終回(エピローグを除く)です。これまでの全てが繋がります。

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