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星の海で(9) 「二人のラヴァーズ」 (6)告白
(6)告白-------------------------------------------------------
ヴァイオラはラウンジの後片付けをマスターに任せ、グレースの部屋へと急いだ。
ドアを叩いて、グレースの名を呼んだが、中から応答は無かった。
暫くそんなことを続けたが、まるで応答が無いことと、マスターの言葉も気になって、ついに鍵を使うことにした。
部屋の照明は落とされていて、真っ暗だったが、狭い部屋のベッドに人の気配があった。
グレースはドレス姿のまま、ベッドにうつぶせになっていた。
「グレース……」
「どうやって入ってきたのよ! 鍵はかけておいたはずだわ」
「そのことはあとで。お願い、私の話を聞いて」
「話すことなんてないわ、大嫌いって言ったでしょう?」
「そんな、悲しいこと、いわないでよ……」
ヴァイオラはグレースの2度目の言葉の刃に、泣きたい気持ちになった。
沈黙が続き、二人の動きは止まったままだったが、やがてグレースは体を起こして、ヴァイオラを睨み付けた。
「出て行きなさいよ」
その言葉にはっとしたヴァイオラは、顔を上げた。
グレースの怒りが解けていないことを悟ると、手に持っていたポーチから小さな冊子を取り出して、グレースに差し出した。
「これを、見て」
「銀行の通帳? なんで?」
「いいから!」
差し出された通帳の、残高を見たグレースは驚いた。
「こんなに?! これなら今すぐにでも退役できるじゃない。違約金を払っても十分におつりが来るどころか、小さなお店ぐらいは開けるわ」
「でも……、まだ足りないのよ」
「どうして? これだけあれば十分じゃない。あなたはラヴァーズを早く辞めたいんでしょう?」
「足りないのよ。私の夢をかなえるには」
「夢?」
「二人分の退役違約金と、手術のお金。それと当面の生活費」
「二人分? それに手術? 誰か、具合の悪い恋人でもいるの?」
「私とグリィ、二人分の退役違約金と、私の性転換手術のお金よ」
「ヴィーと私の? それに、性転換手術?」
「私はあなたと結婚したいの。私は退役して、あなたをお嫁さんにしたいのよ」
「な、い、言っている事の意味が、わからないわ」
「私はあなたを愛しているの。ずっと一緒にいたいの。結婚したいのよ! だから一緒に退役して。 そして私は男に戻って、あなたを自分の妻にしたいの!」
「ちょっと待って! ヴィー! な、何を言ってるのか……」
グレースはヴァイオラの言葉に混乱していた。
「私がどうして、あなたの側に居続けたと思う? あなたを愛していたからよ。離れたくなかった。だからあなたに他の男を近づけたくなんて、なかったわ」
「そ、それじゃ、マルコが死んだのは……」
「あれは偶然。誤解しないで。あの男の事は、本当にただの偶然よ。あの男は自分のミスで死んだだけ。私は何もしていない。それは、確かにあなたとあの男が付き合うのを邪魔はしたけど……。でも本当に私はあの男の死に関しては無関係よ」
「それじゃ、グプターは……」
「本当に、まだ何もしていないわ」
「でも……いえ、あなた私のことなんて、自分の惹きたて役ぐらいにしか、思っていなかったんじゃ……」
「私がいつ、あなたのことをそんな風に言ったの? 私は周りの人間がなんと言っても、あなたに魅力を感じていたわ」
「で、でも、突然そんなことを言われても……」
「私、今度のことで思ったの。もう私は我慢しない。自分の夢をかなえるために、もっと具体的に行動することにしたの。もうあなたは誰にも渡さない。私は今すぐにでも、人事部に二人分の違約金を叩き付けて、艦を降りたくて仕方が無いわ。一緒に来て! グレース!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ヴィー!! 本気なの?」
「本気よ」
ヴァイオラの表情は真剣そのものだった。
ラウンジでは華やかで、男を手玉に取るような妖艶な笑みと、プライベートでは子供のように甘えるばかりの顔が、グレースの知っているヴァイオラの顔だった。
だが今のヴァイオラの顔は、真剣に何かを訴える、強い意志を持った者の顔だった。
「でも、あなたは今までそんなこと、一言も……」
「それは、私だって自分に自信が無かったからだわ。だって、私もグレースも、ラヴァーズで……女同士で、でも、あなたは私にいつも呆れていて、それに……本当は嫌われちゃっていたなんて……、そんな事に気が付きもせずに、……こんなこと、言えなかった……」
ヴァイオラは胸の奥に閉じ込めていたものを、搾り出すように吐き出すと顔を伏せた。
「ヴィー、あなた……」
グレースがヴァイオラの肩に手を当てると、ヴァイオラははじかれたようにグレースに抱きついた。
「グリィ! 結婚してよ! 私と結婚してっ!」
ヴァイオラは涙声でグレースに訴えた。
グレースはヴァイオラが真剣であることは判ったが、彼女の願いには頭が混乱していて、言葉が出ないまま、泣きじゃくりながら子供のように自分に抱きつく、ヴァイオラの頭を撫でていることしか出来なかった。
ヴァイオラはラウンジの後片付けをマスターに任せ、グレースの部屋へと急いだ。
ドアを叩いて、グレースの名を呼んだが、中から応答は無かった。
暫くそんなことを続けたが、まるで応答が無いことと、マスターの言葉も気になって、ついに鍵を使うことにした。
部屋の照明は落とされていて、真っ暗だったが、狭い部屋のベッドに人の気配があった。
グレースはドレス姿のまま、ベッドにうつぶせになっていた。
「グレース……」
「どうやって入ってきたのよ! 鍵はかけておいたはずだわ」
「そのことはあとで。お願い、私の話を聞いて」
「話すことなんてないわ、大嫌いって言ったでしょう?」
「そんな、悲しいこと、いわないでよ……」
ヴァイオラはグレースの2度目の言葉の刃に、泣きたい気持ちになった。
沈黙が続き、二人の動きは止まったままだったが、やがてグレースは体を起こして、ヴァイオラを睨み付けた。
「出て行きなさいよ」
その言葉にはっとしたヴァイオラは、顔を上げた。
グレースの怒りが解けていないことを悟ると、手に持っていたポーチから小さな冊子を取り出して、グレースに差し出した。
「これを、見て」
「銀行の通帳? なんで?」
「いいから!」
差し出された通帳の、残高を見たグレースは驚いた。
「こんなに?! これなら今すぐにでも退役できるじゃない。違約金を払っても十分におつりが来るどころか、小さなお店ぐらいは開けるわ」
「でも……、まだ足りないのよ」
「どうして? これだけあれば十分じゃない。あなたはラヴァーズを早く辞めたいんでしょう?」
「足りないのよ。私の夢をかなえるには」
「夢?」
「二人分の退役違約金と、手術のお金。それと当面の生活費」
「二人分? それに手術? 誰か、具合の悪い恋人でもいるの?」
「私とグリィ、二人分の退役違約金と、私の性転換手術のお金よ」
「ヴィーと私の? それに、性転換手術?」
「私はあなたと結婚したいの。私は退役して、あなたをお嫁さんにしたいのよ」
「な、い、言っている事の意味が、わからないわ」
「私はあなたを愛しているの。ずっと一緒にいたいの。結婚したいのよ! だから一緒に退役して。 そして私は男に戻って、あなたを自分の妻にしたいの!」
「ちょっと待って! ヴィー! な、何を言ってるのか……」
グレースはヴァイオラの言葉に混乱していた。
「私がどうして、あなたの側に居続けたと思う? あなたを愛していたからよ。離れたくなかった。だからあなたに他の男を近づけたくなんて、なかったわ」
「そ、それじゃ、マルコが死んだのは……」
「あれは偶然。誤解しないで。あの男の事は、本当にただの偶然よ。あの男は自分のミスで死んだだけ。私は何もしていない。それは、確かにあなたとあの男が付き合うのを邪魔はしたけど……。でも本当に私はあの男の死に関しては無関係よ」
「それじゃ、グプターは……」
「本当に、まだ何もしていないわ」
「でも……いえ、あなた私のことなんて、自分の惹きたて役ぐらいにしか、思っていなかったんじゃ……」
「私がいつ、あなたのことをそんな風に言ったの? 私は周りの人間がなんと言っても、あなたに魅力を感じていたわ」
「で、でも、突然そんなことを言われても……」
「私、今度のことで思ったの。もう私は我慢しない。自分の夢をかなえるために、もっと具体的に行動することにしたの。もうあなたは誰にも渡さない。私は今すぐにでも、人事部に二人分の違約金を叩き付けて、艦を降りたくて仕方が無いわ。一緒に来て! グレース!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ヴィー!! 本気なの?」
「本気よ」
ヴァイオラの表情は真剣そのものだった。
ラウンジでは華やかで、男を手玉に取るような妖艶な笑みと、プライベートでは子供のように甘えるばかりの顔が、グレースの知っているヴァイオラの顔だった。
だが今のヴァイオラの顔は、真剣に何かを訴える、強い意志を持った者の顔だった。
「でも、あなたは今までそんなこと、一言も……」
「それは、私だって自分に自信が無かったからだわ。だって、私もグレースも、ラヴァーズで……女同士で、でも、あなたは私にいつも呆れていて、それに……本当は嫌われちゃっていたなんて……、そんな事に気が付きもせずに、……こんなこと、言えなかった……」
ヴァイオラは胸の奥に閉じ込めていたものを、搾り出すように吐き出すと顔を伏せた。
「ヴィー、あなた……」
グレースがヴァイオラの肩に手を当てると、ヴァイオラははじかれたようにグレースに抱きついた。
「グリィ! 結婚してよ! 私と結婚してっ!」
ヴァイオラは涙声でグレースに訴えた。
グレースはヴァイオラが真剣であることは判ったが、彼女の願いには頭が混乱していて、言葉が出ないまま、泣きじゃくりながら子供のように自分に抱きつく、ヴァイオラの頭を撫でていることしか出来なかった。
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