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星の海で(10)  「Be My Lover」 (2)ラヴァーズ復帰 

(2)ラヴァーズ復帰 -------------------------------------------------------

 フランチェスカ最初の当番日がきた。
 久しぶりに身につけたラヴァーズ用のドレスに、くすぐったい気持ちを感じながら、ラヴァーズが“お誘い”を待つのに使う、ラウンジのカウンターに座っていた。

「大尉、本当にいいんですか?」
「メリッサ、今は“大尉”じゃないわ」
「じゃ、フランチェスカさん。こんなこと、もし提督に知れたら……」
「それは大丈夫。リッカルドの当直時間に合わせてあるから。今頃は艦橋にカンヅメよ」
「あとで絶対、怒られますよ?」
「いいから気にしない。それに、たまには兵士たちの様子を“肌で”知ることも、幕僚としては大切な仕事だわ。それよりどう? このドレス。新調したのよ」
「ええ、かわいいとは思いますけど……」

10_1.jpg
挿絵:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/

 フランチェスカのドレスは、メリッサたちが纏うラヴァーズ用の物とは、趣が異なっていた。
 素肌をさらす部分が極端に抑えられてはいるが、ふんわりと裾の広がったスカートのドレスは、細かな刺繍模様の生地に、フリルや小さなリボンが随所にあしらわれていた。豊かな金髪には細かくウェーブが入れられており、頭には装飾目的の布製のカチューチャが添えられていた。
 それはフランチェスカの、実年齢よりも相当に幼くみえる容姿には、むしろ似合ってはいた。

「動きづらくないですか?」

 狭いラウンジ内での給仕や接客には不向きと思われる、装飾過多な装いにメリッサが尋ねると、フランチェスカは

「え? うんちょっとね。久しぶりにドレスなんて着たから……」

 と、答えた。メリッサは質問の意図が伝わっていないとは思ったが、あえてそれ以上言わないことにした。

 そしてラウンジ開店の時刻。
 士官食堂を兼用しているラウンジの扉が開かれた、ちょうどその時。
 普段はめったに使われない艦内放送が流れた。

『――艦隊司令より連絡。至急、戦闘副官は艦橋へ。繰り返す、戦闘副官は至急艦橋へ。以上』

 聞きなれた声に、フランチェスカは眉を釣り上げた。

「あ、あンの野郎……」

 フランチェスカは怒りに腕を震わせた。けれど無視を決め込んで、動こうとはしなかった。
 メリッサはそんな様子にたじろぎながらも、恐る恐る言った。

「あ、あの……フランチェスカさん? 呼んでますけど?」
「嫌がらせに決まってる! 私は行かない!」
「何かその、本当に緊急事態……かもしれませんし。その、行かれたほうが、よろしいのではないかと……?」

 メリッサがフランチェスカの顔を伺いながら、恐る恐る言うと、再び艦内放送が流れた。

『――再度連絡。戦闘副官は艦橋へ。繰り返す、戦闘副官は至急艦橋へ。以上』

 フランチェスカはバン! とカウンターテーブルを叩くと立ち上がり、どすどすと大またでラウンジを出て行った。

「おい、メリッサ」
「なんでしょう? マスター」
「行かなくて、良いのか?」
「行かない方が、良いかなと……」
「フォローしたほうが、良いんじゃないのか?」
「私なんかがいても、結果は変わらないんじゃないかと思いますけど……」
「ああ、それもそうだな……」

 二人は顔を見合わせると、深いため息をついた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 三十分後、フランチェスカは再びラウンジに現れた。
 少し乱れた髪と、曲がったままの胸のリボンもそのままに、ドレスのスカートを翻しながら大またで歩き、右手には分厚いファイル、左手にはポータブル端末を抱えていた。
 不機嫌そうにじろりとラウンジを見回し、隅のテーブルを占領すると、端末を開いてものすごい勢いでキーボードを叩き始めた。
 その様子に恐れをなしたラウンジの客たちも、触れてはいけないとばかりに背を向けた。
 メリッサは一体どんな修羅場が艦橋で展開されたのかと思うと、まだ一滴も飲んでいないのに頭痛がした。

「おい、メリッサ……」

 ラウンジのマスターを兼ねている厚生部長が、グラスを拭きながらあごでフランチェスカを指した。

「わたし?」
「お前さん以外に、誰が行くって言うんだよ?」
「私だって嫌ですよ。“触らぬ神に祟り無し”って言うじゃないですか。マスターこそ」
「ご免だね。……あんたの言うとおりだな」

 猛然とファイルをめくりながら端末を叩くフランチェスカの様子に、厚生部長も溜息をつくと、再びグラスを拭き始めた。

 ラウンジがそんな状況になっているとは露ほども思っていない兵士たちが、賑やかにラウンジにやってくるたびに、フランチェスカが奥から鋭い眼光を放った。その険悪な雰囲気に恐れをなした者は、慌てて取って返し、気づかずにカウンターに座った鈍感な者でさえも、いつもとは違うマスターやメリッサの様子に気づくと、やっと状況を理解し、そそくさとラウンジから立ち去るのであった。

 フランチェスカがようやく端末を閉じた時、ちょうどラウンジの営業時間も終了になった。
 営業中のラウンジが、キーボード以外に物音ひとつしないほど静かだったのは、アンドレア・ドリアの長い戦闘航海のなかでも、この日だけであったと、後に厚生部長の業務日誌には書かれることとなった。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 翌日、フランチェスカが通常任務のため艦橋に出頭すると、リッカルドは仏頂面で戦闘訓練の計画書を出すように命じた。
フランチェスカが昨晩ラウンジで作成した計画書を提出すると、リッカルドはパラパラとめくり、再提出を命じた。
 リッカルドには戦闘副官であるフランチェスカの業務負担をわざと増やし、彼女をラヴァーズの当番に入れる余裕を無くそうという魂胆があった。

 だが、それはかえってフランチェスカの怒りを買うだけであった。
 立て続けに様々なシナリオの訓練計画を立てて提出しただけでなく、普段なら自分の裁量で判断して、後は提督のサインをもらうだけという雑用レベルの書類を、内容も見ずに“提督の判断を要す”とメモを貼り付けて、右から左へと大量にリッカルドに押し付け、逆にリッカルドの負担を増やした。

 その一方で、ラヴァーズの当番も続けていたが、フランチェスカの事をよく知らない兵士たちが、物珍しそうに話しかけてはくるものの、一向に“お誘い”をかけてくる者はいなかった。
 また“お誘い”をかけようとした兵士も、通常ならありえない太い横棒2本に小さなハートのついた大尉待遇を示す、手製のラヴァーズ章に気がつくと、疑問を感じながらもそそくさと席を離れてしまうのだった。
 そのことは、フランチェスカの不機嫌の原因の一つにもなっていた。

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