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星の海で(10)  「Be My Lover」 (3)フェルナンド中尉の憂鬱

(3)フェルナンド中尉の憂鬱---------------------------------------------------

 リッカルドがフランチェスカに訓練計画の立案を命じた以上、それを実行しなければ提督としての面目が保てない。
 そしてそれは実行部隊である、兵士・士官たちへと飛び火する。
 連日の激しい戦闘訓練に、音を上げた兵士たちが上官に泣きついた。
 そこで各部隊の先任士官クラスが密かに集まって頭を悩ませた結果、提督に直接掛け合って訓練メニューの軽減を陳情しよう、と言うことになった。

 貧乏くじはフランチェスカの乗機の後席を勤める事もある、フェルナンド中尉のところに回ってきた。
 フェルナンドは“自分は交渉事は苦手だから”と辞退しようとしたが、“前席のフォローは後席の勤めだ!”と言う理由で、押し切られたのだった。
 フェルナンドはしぶしぶ提督の執務室にリッカルドを尋ねた。

「失礼します。提督、ちょっとよろしいでしょうか?」
「今忙しい。簡潔に頼む」

 うずたかく積まれた書類に埋もれそうになりながら、決裁を続けるリッカルドに一瞬躊躇しながらも、フェルナンドは本題を切り出した。

「このところの訓練メニュー、何とかしちゃあいただけやせんか?」
「なんとかとは、なんだ?」
「キツ過ぎます。状況の全く異なる戦闘訓練を日に3回ずつだなんて、聴いた事がありません。過労で寝込んじまう奴もいますし」
「実戦になれば、戦局如何ではこんなもんじゃすまないことだって、あるだろう?」
「そりゃそうですが、整備の連中だって、連日徹夜ですぜ? 訓練弾だって底を尽きかけていますし、推進剤の消費量も馬鹿になりません。これじゃ万が一敵に遭遇したら、弾はあっても出撃できませんぜ?」
「訓練計画は戦闘副官に一任している。副官に言うんだな」
「提督……」

 フェルナンド中尉は、不機嫌を絵に描いたような仏頂面で腕を組むリッカルドに、溜息をついた。
 リッカルドの不機嫌の原因がフランチェスカとの関係にあることは、もはや艦隊の暗黙の事実であった。
 しかし何と言ってそれを切り出すか、ずっと頭を掻いていたが、よい言葉が思い浮かばなかった。

「副官と……、あー、その、ジナステラ大尉と、仲直りしていただけませんかね?」
「なんだと?」
「いまや艦隊中の噂になってますぜ、提督と大尉が喧々諤々の大ゲンカしたって」
「それがなんだ?」
「原因はあれでしょう? 大尉が臨時でラヴァーズの当番やっているって件……」
「関係ない! そんなこと」
「そうですか? それじゃ何が原因だってぇんです?」
「さあな。俺が知るか!」

 リッカルドはサインの終わった書類を既決箱に乱暴に放り込むと、机の上に足を組んで投げ出した。
 『知るか!』も何も、それが原因でしょうと、フェルナンド中尉は言いたかったが、それを言っては話が進まない。

「ま、そりゃ、大尉は非常に魅力的ですよ? 艦隊のアイドルと言っていい。実際、前の艦隊でお相手して戴いた連中なんざ、いまや別格扱い」
「それなら遠慮なく“お誘い”でもかけて見れば良いだろう? 中尉」
「ご冗談を……。っていうか、手なんか出せるわけ無いでしょう?」
「なぜだ?」
「それをあっしに聞くんですかい?」
「訓練メニューの変更なら、お前が“お誘い”でもかけて説得すれば良いだろう。足腰立たなくなるまでヤってやれば、お前の言うことだって聞いてくれるかも知れんぞ?」
「本気で言ってるんですかい? 提督」
「とにかく俺は知らん。文句があるなら直接副官に言え。下がってよろしい」
「やれやれ……」

 取り付くシマも無い様子のリッカルドに、フェルナンド中尉も引き下がらざるを得なかった。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 “提督を説得できなかった”と部隊に戻れば、今度は自分が責められる。そう思ったフェルナンド中尉は、執務室を退出したその足でラウンジへ向かった。
 夜の部のラウンジが開くには少し早かったが、幸いにして開店準備を手伝うフランチェスカを見つける事ができた。

「大尉、ちょっとよろしいですか?」
「あら、フェルナンド。どうしたの? 開店時間にはまだ早いわよ」
「エーと実は、その……たまには戦闘艇の訓練なんか、いかがかなと思いまして……」
「え? 空戦隊はいつも飛んでるじゃない。誰かさんのおかげで、このところ毎日訓練漬けでしょう?」
「そうじゃなくて、たまには大尉もご一緒に。あっしが後席に着きますから」

 テーブルを拭いていたフランチェスカは、フェルナンドをギロリと睨み付けた。

「リッカルドに言われたの?」
「え? いやぁ、そのぉ……」
「リッカルドに言われたんでしょう? 足腰立たなくなるまで、戦闘艇に乗せてしごいてやれって」

 所詮この手の交渉事に自分は向いていないのだ、と悟ったフェルナンド中尉は、頭を掻きながら言った。

「……正直に言いましょう、大尉。提督と仲直りしていただけませんか?」
「何を言っているのかわからないわ。別に私たちは、ケンカなんかしていないわよ」

 そう言いながら、再びテーブルを拭き始めた。

「大尉……」
「そんなことより、どう? 今夜あたり、私を“誘って”みない? たまにはそういう付き合いも、いいでしょう?」
「本気で言ってるんですかい?」
「ラヴァーズに復帰したって言うのに、誰も誘ってくれないのよねぇ。私ってそんなに魅力ないのかしら?」
「いや、そんな事は無いですが……」
「じゃあ、決まりね。私のオゴリでいいから。今夜は暇でしょ? フェルナンド」
「いや、ですからあの、大尉」
「“上官命令”よ。今夜は私に付き合いなさい」
「は、はぁ……」

 フランチェスカは、自分がリッカルドの情婦みたいに思われている事に、気がついていた。
 それが他の男たちが“お誘い”をかけてこない理由だとしたら、一人でラウンジに座っているよりも、誰か別の男が傍にいれば、他の男たちも誘い易いのではないかと考えたのだった。
 そしてそれは確かに効果があった。
 その晩はフランチェスカの周りには、見知った兵士や士官たちが次々と傍にやってきては談笑し、酒を酌み交わしていった。
 もちろん、これはフェルナンドが、事前に各部隊のツテを頼って根回ししておいたからではあったが。
 しかしながら、フランチェスカ自身も自分がラヴァーズあると言うことは抜きにしても、こんな風に皆と飲むのは久しぶりであり、すこぶる上機嫌だった。
 一方、詳細を知らされていない兵士や下士官たちは、フランチェスカが上機嫌なのを見て、提督と仲直りをしたのだと勘違いしていた。これで明日からは平常訓練に戻るだろうと、期待していたからこそ、盛り上がっていたのだったのだが……。


「ふぇルなンドぉ、すこーし、酔っ払っちゃったぁ~。部屋に連れて行ってよぉ~」

 ラウンジの閉店も近くなった頃、へべれけに酔っ払っていたフランチェスカは、まるでお目付け役のように、黙って酒を飲み続けていたフェルナンドに言った。
 フェルナンドは溜息をつくと立ち上がり、周りの兵士たちが囃し立てるなか、フランチェスカを抱き上げて、フランチェスカの私室へと運んだ。

「おみず、ちょうだい」

 とろんとした目つきで言うフランチェスカに、フェルナンドが水を差し出すと、危なっかしい手つきでそれを受け取り、一気に飲み干した。

「ぷはぁ~。ありがと、フェルナンド」
「じゃ、あっしは、これで……」
「何言ってるのぉ、フェルナンドぉ。こんな時間に女の部屋にいて、何もしないで帰るって言うの?」
「酔っ払ってるでしょう? 大尉」
「よっぱらってるわよ。だから何? 好きにしてもいいのよ? 私、今はラヴァーズなんだから」
「大尉……」
「早く服、脱がせてよぉ」
「うわっ! 大尉」

 しなだれかかってきたフランチェスカに、バランスを崩したフェルナンドは、抱き合った形でソファに押し倒された。
 起き上がってフランチェスカを正気に戻そうとしたフェルナンドだったが、既に当の本人はすーすーという寝息を立てていた。

 やれやれ、と思いながらフェルナンドはフランチェスカを抱きかかえ、ベッドルームのドアを開けてフランチェスカをベッドに寝かせた。

「まったく! “誘って”おいてこれかよ!」

 もともと“その気”は無かったフェルナンドだったが、思わずそんな言葉がでた。

「ドレス……脱がしておいた方が、いいのかな?」

 それぐらいの“役得”はあってもいいだろうと、フランチェスカの胸元に手を伸ばした。

「リッカルドの、バカ……」

 それが寝言だと、フェルナンドにはわかっていたが、伸ばした手に奇妙な罪の意識を感じたのも確かだった。

「バカは、あんただよ……」

 フェルナンドは苦笑しながら立ち上がり、フランチェスカに毛布をかけてから、頭を掻きながら電気を消し、ベッドルームから出た。

「いや……、俺もかな?」

 自嘲気味に肩をすくめると、ドアのオートロックをセットして、自室に戻ることにした。

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