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星の海で(10) 「Be My Lover」 (4)密談
(4)密談 -----------------------------------------------
翌日、フランチェスカは酷い二日酔いで、ベッドの一部品と化していた。
非番の日であることと、ラヴァーズの当番は一日おきと言う事になっていたため、この日は丸一日オフではあったが、頭痛と吐き気に悩まされながら、一日を寝て過ごした。
一方その日の夕刻、ある幕僚幹部がリッカルド艦隊の準旗艦である、戦艦ピエンツァのラウンジを訪れていた。
その目的とは、艦隊のラヴァーズの一人に、相談事を持ちかけることだった。
「エミリア殿」
「あら、フェラーリオ参謀。珍しいですわね。アンディ(旗艦 アンドレア・ドリアの愛称)以外でお目にかかるなんて」
「いや、エミリア殿が、こちらにこられていると聞いたので」
「ええ、ちょっとお手伝いに。でも、わざわざ私に会いに? 感激ですわ」
「その、申し訳ないが、ちょっとお時間をよろしいか?」
硬い表情のフェラーリオに、飲み物の注文をとろうとしていたエミリアはメモをしまうと、参謀をソファに促し、自分も隣に腰掛けた。
「あらたまって、なんですの?」
「あ、いや、実はその、ちょっと相談に乗っていただきたい事がありまして」
「参謀殿の“お誘い”とあれば、受けないわけには参りませんわ。是非、勤めさせていただきます」
フェラーリオ参謀は、腕を絡めようとするエミリアを押しとどめるように手で制し、座る位置をずらした。
「いや、そういうのではなくてですな、ジナステラ大尉のことで、ご相談したい事があるのです」
「フランチェスカさんの?」
フェラーリオ参謀は、艦橋での出来事と、それ以降の二人の非常に険悪な関係について、把握している事を全て話した。
「……とまぁ、そんなわけでして」
「まぁ、だいたい事情は存じておりましたけど」
「そこでここは是非、貴女のお知恵をお借りできないかと……」
「私にですか? それでわざわざピッツ(戦艦ピエンツアの愛称)まで? 参謀殿もご苦労が絶えませんわね。うふふ」
「笑い事ではありませんぞ。艦隊司令と副官があのような状態では、万が一敵艦隊に遭遇でもしたなら」
「それは少し、困った事になりそうですわね」
「そうです、次席幕僚としては、このような状況を見過ごすわけには……」
「お三方は、士官学校時代からのお付き合いだと、窺っておりますが」
「はぁ、確かにそのとおりですが、それが何か?」
「“幕僚”として、お二人の中が険悪であることに、ご懸念がおありなのですか? それとも……?」
エミリアの目は、フェラーリオの言葉に不満であることを、明確に物語っていた。
「……いや、個人的にも、お二人が仲違いされるのは不本意です」
「では、“友人”としてのご依頼と、受け取ってよろしいでしょうか?」
「はぁ……、そうですね」
エミリアは、満足げに微笑むとフェラーリオの手をとって言った。
「そういう事でしたら、私も協力は惜しみませんわ。いえ、是非に。大尉……いえ、フランチェスカさんは私にとっても、大切な友人ですから」
「かたじけない」
「明日は私も、アンディに戻ります。二人の“共通の友人”のために、ここは一肌脱ぎましょう」
「エミリア殿には、策がおありか?」
「無くは無いですけど。それには貴方の協力も必要ですよ。アメデオ」
エミリアは参謀をファーストネームで呼ぶと、片目を閉じてウィンクした。
「でも、まずはそうですね。お二人の馴れ初めから教えていただけますか?」
「それはかまいませんが、プライベートなことはあまり……」
「教えていただける部分だけでかまいませんわよ。私はあまりお二人の関係を存じておりませんので……」
「では、差し障りのない範囲で。お二人は……」
「あ、少々お待ちを。あちらのプライベートボックスで」
ラウンジの隅に用意されている、他人に聞かれる心配のないプライベートボックス席で、二人はフランチェスカとリッカルドの過去と現在、そして未来のあるべき姿について整理し、そして現状の打開策について作戦を練り始めた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
フランチェスカは、あくまで病気療養中の亜里沙の代わりを努めているだけで、彼女が復帰すれば、フランチェスカのラヴァーズ当番も終わる。
せいぜい後1週間か、長くても2週間以内には解決する問題だった。
しかし、険悪な二人の仲がそれで元に戻る保証はない。
フランチェスカが幕僚職に専念するようになると、参謀であるフェラーリオはともかく、エミリアがフランチェスカと会うのは難しくなる。
フェラーリオはこの手の男女問題に、単独で対処する自信がまったくなかった。
となれば、今のこの時期にエミリアの手を借りて、少しでも状況を改善しておく必要があると、考えたのだった。
エミリアの策は、使い古された手だが、フランチェスカの嫉妬心と、リッカルドのヤキモチを煽ることで二人の仲を進展させることだった。
手始めにフランチェスカの嫉妬心を煽るためには、リッカルドがエミリアに懸想しているとフランチェスカに思わせることだったが、リッカルドに正直にその計画を打ち明ければ、リッカルドは性格的に乗ってこない可能性が高いことを、フェラーリオは指摘した。
ならばと、リッカルドの主張どおり、フランチェスカがラヴァーズには向いていないと言うことを示す方法を、三人で考えるということにして、リッカルドにこちらの思惑通りに行動してもらうように画策してみようと言うことになった。
リッカルドとエミリアが頻繁に密会を重ねれば、フランチェスカは不審感を抱くに違いない。
そこでフランチェスカが嫉妬するにしろ、逆に身を引こうとするにしろ、リッカルドに心の隙ができる。
そこに付け込めば、二人の関係を進展させることができるだろうという作戦だった。
フランチェスカにリッカルドが浮気していると思わせるためには、リッカルドを公務にかこつけて頻繁にピエンツァに呼び出す必要がある。そうすれば、フランチェスカに事実を悟られないようにラヴァーズのネットワークを通じて、艶話の噂を流行らせる事も可能だろう。
「提督をピッツに呼び出す、何かいい案はありますか? アメデオ」
「そうですな。こういうのはどうでしょう? 艦隊を二つに分けて、模擬戦の実施計画を立てるのです。アンディを初めとする防御側艦隊は、私とジナステラ大尉で指揮をします。攻撃側のピエンツァには提督に指揮をしてもらいます。副官を貴女にやっていただきましょう」
「私が? でも私は戦闘の指揮補佐なんて……」
「いえ、副官といっても、滞在中の提督の身の回りのお世話や、こまごまとした雑用をしていただければいいのです。戦闘補佐に関しては、ピエンツァにも人材は居りますので、ご心配なく。お願いできますか?」
「それはかまいませんけど、艦隊司令は座乗艦をむやみに移したりは、しないのではありませんか?」
「提督はこのところストレスが溜まっておいでです。“攻撃側の指揮をしませんか?”とでも言えば、のってくるでしょう。それに、“たまにはフランチェスカ大尉と戦術で優劣を競って見ませんか?”とでも言えば、対抗心に火がつくでしょう」
「意外に策士でいらっしゃるのですね」
「それほどでも……。お二人とは長い付き合いですからな」
「わかりました、それで行きましょう。そういう設定なら、色々とこちらの都合のいい出来事も起こせそうですわね」
「そちらの策に関しては、貴女に一任いたします」
「喜んで。では……」
二人は握手を交わすと、席を立った。
翌日、フランチェスカは酷い二日酔いで、ベッドの一部品と化していた。
非番の日であることと、ラヴァーズの当番は一日おきと言う事になっていたため、この日は丸一日オフではあったが、頭痛と吐き気に悩まされながら、一日を寝て過ごした。
一方その日の夕刻、ある幕僚幹部がリッカルド艦隊の準旗艦である、戦艦ピエンツァのラウンジを訪れていた。
その目的とは、艦隊のラヴァーズの一人に、相談事を持ちかけることだった。
「エミリア殿」
「あら、フェラーリオ参謀。珍しいですわね。アンディ(旗艦 アンドレア・ドリアの愛称)以外でお目にかかるなんて」
「いや、エミリア殿が、こちらにこられていると聞いたので」
「ええ、ちょっとお手伝いに。でも、わざわざ私に会いに? 感激ですわ」
「その、申し訳ないが、ちょっとお時間をよろしいか?」
硬い表情のフェラーリオに、飲み物の注文をとろうとしていたエミリアはメモをしまうと、参謀をソファに促し、自分も隣に腰掛けた。
「あらたまって、なんですの?」
「あ、いや、実はその、ちょっと相談に乗っていただきたい事がありまして」
「参謀殿の“お誘い”とあれば、受けないわけには参りませんわ。是非、勤めさせていただきます」
フェラーリオ参謀は、腕を絡めようとするエミリアを押しとどめるように手で制し、座る位置をずらした。
「いや、そういうのではなくてですな、ジナステラ大尉のことで、ご相談したい事があるのです」
「フランチェスカさんの?」
フェラーリオ参謀は、艦橋での出来事と、それ以降の二人の非常に険悪な関係について、把握している事を全て話した。
「……とまぁ、そんなわけでして」
「まぁ、だいたい事情は存じておりましたけど」
「そこでここは是非、貴女のお知恵をお借りできないかと……」
「私にですか? それでわざわざピッツ(戦艦ピエンツアの愛称)まで? 参謀殿もご苦労が絶えませんわね。うふふ」
「笑い事ではありませんぞ。艦隊司令と副官があのような状態では、万が一敵艦隊に遭遇でもしたなら」
「それは少し、困った事になりそうですわね」
「そうです、次席幕僚としては、このような状況を見過ごすわけには……」
「お三方は、士官学校時代からのお付き合いだと、窺っておりますが」
「はぁ、確かにそのとおりですが、それが何か?」
「“幕僚”として、お二人の中が険悪であることに、ご懸念がおありなのですか? それとも……?」
エミリアの目は、フェラーリオの言葉に不満であることを、明確に物語っていた。
「……いや、個人的にも、お二人が仲違いされるのは不本意です」
「では、“友人”としてのご依頼と、受け取ってよろしいでしょうか?」
「はぁ……、そうですね」
エミリアは、満足げに微笑むとフェラーリオの手をとって言った。
「そういう事でしたら、私も協力は惜しみませんわ。いえ、是非に。大尉……いえ、フランチェスカさんは私にとっても、大切な友人ですから」
「かたじけない」
「明日は私も、アンディに戻ります。二人の“共通の友人”のために、ここは一肌脱ぎましょう」
「エミリア殿には、策がおありか?」
「無くは無いですけど。それには貴方の協力も必要ですよ。アメデオ」
エミリアは参謀をファーストネームで呼ぶと、片目を閉じてウィンクした。
「でも、まずはそうですね。お二人の馴れ初めから教えていただけますか?」
「それはかまいませんが、プライベートなことはあまり……」
「教えていただける部分だけでかまいませんわよ。私はあまりお二人の関係を存じておりませんので……」
「では、差し障りのない範囲で。お二人は……」
「あ、少々お待ちを。あちらのプライベートボックスで」
ラウンジの隅に用意されている、他人に聞かれる心配のないプライベートボックス席で、二人はフランチェスカとリッカルドの過去と現在、そして未来のあるべき姿について整理し、そして現状の打開策について作戦を練り始めた。
フランチェスカは、あくまで病気療養中の亜里沙の代わりを努めているだけで、彼女が復帰すれば、フランチェスカのラヴァーズ当番も終わる。
せいぜい後1週間か、長くても2週間以内には解決する問題だった。
しかし、険悪な二人の仲がそれで元に戻る保証はない。
フランチェスカが幕僚職に専念するようになると、参謀であるフェラーリオはともかく、エミリアがフランチェスカと会うのは難しくなる。
フェラーリオはこの手の男女問題に、単独で対処する自信がまったくなかった。
となれば、今のこの時期にエミリアの手を借りて、少しでも状況を改善しておく必要があると、考えたのだった。
エミリアの策は、使い古された手だが、フランチェスカの嫉妬心と、リッカルドのヤキモチを煽ることで二人の仲を進展させることだった。
手始めにフランチェスカの嫉妬心を煽るためには、リッカルドがエミリアに懸想しているとフランチェスカに思わせることだったが、リッカルドに正直にその計画を打ち明ければ、リッカルドは性格的に乗ってこない可能性が高いことを、フェラーリオは指摘した。
ならばと、リッカルドの主張どおり、フランチェスカがラヴァーズには向いていないと言うことを示す方法を、三人で考えるということにして、リッカルドにこちらの思惑通りに行動してもらうように画策してみようと言うことになった。
リッカルドとエミリアが頻繁に密会を重ねれば、フランチェスカは不審感を抱くに違いない。
そこでフランチェスカが嫉妬するにしろ、逆に身を引こうとするにしろ、リッカルドに心の隙ができる。
そこに付け込めば、二人の関係を進展させることができるだろうという作戦だった。
フランチェスカにリッカルドが浮気していると思わせるためには、リッカルドを公務にかこつけて頻繁にピエンツァに呼び出す必要がある。そうすれば、フランチェスカに事実を悟られないようにラヴァーズのネットワークを通じて、艶話の噂を流行らせる事も可能だろう。
「提督をピッツに呼び出す、何かいい案はありますか? アメデオ」
「そうですな。こういうのはどうでしょう? 艦隊を二つに分けて、模擬戦の実施計画を立てるのです。アンディを初めとする防御側艦隊は、私とジナステラ大尉で指揮をします。攻撃側のピエンツァには提督に指揮をしてもらいます。副官を貴女にやっていただきましょう」
「私が? でも私は戦闘の指揮補佐なんて……」
「いえ、副官といっても、滞在中の提督の身の回りのお世話や、こまごまとした雑用をしていただければいいのです。戦闘補佐に関しては、ピエンツァにも人材は居りますので、ご心配なく。お願いできますか?」
「それはかまいませんけど、艦隊司令は座乗艦をむやみに移したりは、しないのではありませんか?」
「提督はこのところストレスが溜まっておいでです。“攻撃側の指揮をしませんか?”とでも言えば、のってくるでしょう。それに、“たまにはフランチェスカ大尉と戦術で優劣を競って見ませんか?”とでも言えば、対抗心に火がつくでしょう」
「意外に策士でいらっしゃるのですね」
「それほどでも……。お二人とは長い付き合いですからな」
「わかりました、それで行きましょう。そういう設定なら、色々とこちらの都合のいい出来事も起こせそうですわね」
「そちらの策に関しては、貴女に一任いたします」
「喜んで。では……」
二人は握手を交わすと、席を立った。
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