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星の海で(10) 「Be My Lover」 (7)フランチェスカ~想い
(7)フランチェスカ~想い -----------------------------------------------------
開店前のラウンジでは、恋バナに没頭している二人の姿があった。
開店準備に忙しいマスターは、それを仏頂面で眺めながらも、二人の邪魔はしなかった。
「フランチェスカさんの魅力がどこにあるか、今すごく判ったような気がする」
「え? どういう……? 今の話の流れで?」
「フランチェスカさんの怒った顔って言うかぁ、困っているところとか、凄くかわいいんだよね。男だったら絶対、ご機嫌取りをしてでも気を引いて、そして笑顔に変えたくなる」
「っ……!」
「もしかして、ガルバルディ提督って、しょっちゅうフランチェスカさんのこと、怒らせたり困らせたりしていません?」
「! …………す、スル」
「それってきっと、フランチェスカさんのことが好きだからそうしているんですよ、絶対!」
「な、なんでそんなこと、ダニエラに言えるのよ……」
「フランチェスカさんは、ご自分のことだからわからないかもしれないけど、男なら、いえ“元、男でも”絶対にそう思います。フェルナンドが言ったとおりだわ」
「ちゅ、中尉までが、なんでそんなこと」
「フランチェスカさんが強引に“お誘い”した晩。酔いつぶれてベッドに寝かせた時に、フランチェスカさんが、酔っ払ってつぶやいたそうですよ。“リッカルドのバカ”って」
「う、ウソ!」
「うそじゃないですよ。彼、それを聞いて、『手を出すよりも、守ってやりたくなった』って言っていましたもん」
「…………」
「それともうひとつ」
「何」
「さっきあたいにこう質問したでしょう? “元男だって判っていて、愛してくれる人がいるのか?”って」
「そ、そんな質問していないわ!」
「ウソ。はっきり言いましたよ。それって、本当は、ガルバルディ提督がフランチェスカさんのことを“愛してくれるかしら?”って聞きたかったんでしょう?」
「そ、そんなことは、無いわよ……」
「自分が相手を愛していても、相手が自分を愛してくれるかって、すごーく気になりますもんね」
フランチェスカは、少し考え込む様に下を向いた。
「それはそうだけどさ……。相手だって、自分の事、その……元男だって知ってるわけでしょ? それでも自分の事、愛してくれるって、そんな自信もてるのかなぁって」
「フランチェスカさんは、ご自分が提督に愛されているって、感じていらっしゃらないんですか?」
「私が? まさか! だいたい、もともとそんな関係なんかじゃないもん!!」
「ふーん」
「何よ?」
「じゃぁ、質問を変えます。フランチェスカさんは、誰か恋人にしたいとか、誰かの恋人になりたいとか、思わないんですか」
「思わない」
「へーえ?」
“本当は知っていますよ”と言わんばかりの顔のダニエラに、フランチェスカはばつが悪そうに目をそらした。
「……なによ、そんなにおかしい? 別に、好きな人がいなくたって、おかしくなんかないし、別にラヴァーズだからって……」
「あたいは、例え相手がどんな過去を持っていたとしても、恋に落ちちゃったら愛せると思うし、フェルナンドにも、そうなって欲しいって思ってますよ」
「そうなんだ……。ダニエラは嫌われるのが、その、好きな人に元男のお前なんか嫌いだっていわれるのが、怖くないの?」
「怖いですよ。あたいも昔、そう思ってた。それで、……あたいはフルほうも、フラれる方もいっぱい経験したから、その度に“もう恋はいいや”って、思ったことも何度もあったんだぁ。でもやっぱり何度も繰り返しちゃうんだよねぇ。だって一人でいると、ちょっと寂しいんだもん。だから性懲りも無く、また恋しちゃう。“きっと今度は”って」
「ダニエラは前向きなんだね」
「フランチェスカさんだって、もっと前向きに恋しても、良いんじゃないですか?」
「私が? だ、誰に?」
「またまたぁ、とぼけたって駄目ですよ。決まっているじゃないですか」
「ふん、あんなスケベ提督に恋だなんて……」
「あたいは、ガルバルディ提督に恋しろだなんて、一言も言っていませんよ?」
「ぐっ……ダニエラの意地悪……」
いたずら娘が格好のおもちゃを見つけたかのように、ニヤニヤとするダニエラとは逆に、フランチェスカは嘘を見抜かれたいたずら娘のように、ぷぅっとむくれた。
「じゃあ、意地悪ついでにもう一つ質問。フランチェスカさんは、不特定多数の男性と自由恋愛したり、時には抱かれたりするのに抵抗がないんですか? それって好きな人がいないからなんですか?」
「別にそういうわけじゃ……。ダニエラはどうなのよ? フェルナンドのことが好きなんでしょう? あなただって」
「あたいのは、これが仕事だから。フェルナンドだってそれはわかってくれる。……と、思う」
「仕事じゃなければ?」
「もちろん! フェルナンドに押しかけ女房しちゃうかも。きゃっ♥」
「そう。いいわね、そういうの」
「そうですねぇ……。仕事だから、そういう役割だから時には恋人でもない人と、肌を重ねることもあるラヴァーズだから、本当の恋のときは真剣にならなきゃって、あたいは思ってる」
「本当の、恋?」
「大尉は、どうです? 本当の恋、したくありませんか?」
「私? 私は……」
「女になったのなら、本当の恋をしなきゃ損ですよ。そして結婚できれば最高。あたいはそう思う」
笑顔のダニエラとは対照的に、フランチェスカの表情は少しさえなかった。
ダニエラと自分は、ラヴァーズになった理由も、ラヴァーズでいる事の意味も違う。
それは当然のことだったが、それが自分の中にあるもやもやを晴らしてくれるとは思えなかった。
「……私はさ、ラヴァーズが艦隊にどれだけ重要な存在か、それを身を持って知っている」
「そういえば、大尉は補給も劣悪な、壊滅しかけた艦隊の士気を立て直すために、ラヴァーズになったそうですね」
「ええ、そうよ。明日にも死んでしまうかもしれない、水も食料も無い、5分後には敵がまた現れるかもしれない。そんな極限の恐怖の中で、何が人を支えてくれると思う? 誰が生きる気力を取り戻させてくれると思う?」
「さぁ? 良くわかんない」
「守りたいものが有るにせよ、無いにせよ。もちろん人によってそれは色々あるかもしれない。でもその対象か、或いは誰かに託せるにしろ、それにはラヴァーズが必要なのよ」
「だから、フランチェスカさんは、あたい達ラヴァーズに良くしてくださるんですか?」
「知ってた? ラヴァーズ関係の物資は、最優先補給指定物の一つなのよ」
「そうなんですか?」
「武器弾薬の補給が滞りがちでも、ラヴァーズへの補給物資だけは、水や食料並に最優先で補給されるわ。なぜだかわかる?」
「いいえ」
「ラヴァーズが艦隊の士気に与える影響が大きいことは、さっき説明したでしょう? 兵士たちは、ラヴァーズが不自由なく過ごせて、毎日のように化粧をして、コロンを付けて、時には新しいドレスを着ていれば、それで補給ラインが生きていると理解するのよ。ラウンジに兵士たちが集まるのは、それを確認する意味もあるの。だから、お酒がなくても、出せるメニューが水しかなくても、皆ラウンジに通うのよ。あなた達を見て、安心できるように」
「だからフランチェスカさんは、ラヴァーズに、女の体になることを選んだんですか?」
「たまたま、くじで当たったからかも」
「えぇっ?!」
「でも、後悔はしていないわ。自分で決めたことだから」
「なんだかうれしいな」
「“うれしい”?」
「自分で決めて、ラヴァーズになった人もいるんだってこと。それに羨ましい」
「羨ましい、って私が?」
「そう」
「そう、かなぁ?」
フランチェスカは、ダニエラの言葉には、いまひとつ理解ができなかった。
開店前のラウンジでは、恋バナに没頭している二人の姿があった。
開店準備に忙しいマスターは、それを仏頂面で眺めながらも、二人の邪魔はしなかった。
「フランチェスカさんの魅力がどこにあるか、今すごく判ったような気がする」
「え? どういう……? 今の話の流れで?」
「フランチェスカさんの怒った顔って言うかぁ、困っているところとか、凄くかわいいんだよね。男だったら絶対、ご機嫌取りをしてでも気を引いて、そして笑顔に変えたくなる」
「っ……!」
「もしかして、ガルバルディ提督って、しょっちゅうフランチェスカさんのこと、怒らせたり困らせたりしていません?」
「! …………す、スル」
「それってきっと、フランチェスカさんのことが好きだからそうしているんですよ、絶対!」
「な、なんでそんなこと、ダニエラに言えるのよ……」
「フランチェスカさんは、ご自分のことだからわからないかもしれないけど、男なら、いえ“元、男でも”絶対にそう思います。フェルナンドが言ったとおりだわ」
「ちゅ、中尉までが、なんでそんなこと」
「フランチェスカさんが強引に“お誘い”した晩。酔いつぶれてベッドに寝かせた時に、フランチェスカさんが、酔っ払ってつぶやいたそうですよ。“リッカルドのバカ”って」
「う、ウソ!」
「うそじゃないですよ。彼、それを聞いて、『手を出すよりも、守ってやりたくなった』って言っていましたもん」
「…………」
「それともうひとつ」
「何」
「さっきあたいにこう質問したでしょう? “元男だって判っていて、愛してくれる人がいるのか?”って」
「そ、そんな質問していないわ!」
「ウソ。はっきり言いましたよ。それって、本当は、ガルバルディ提督がフランチェスカさんのことを“愛してくれるかしら?”って聞きたかったんでしょう?」
「そ、そんなことは、無いわよ……」
「自分が相手を愛していても、相手が自分を愛してくれるかって、すごーく気になりますもんね」
フランチェスカは、少し考え込む様に下を向いた。
「それはそうだけどさ……。相手だって、自分の事、その……元男だって知ってるわけでしょ? それでも自分の事、愛してくれるって、そんな自信もてるのかなぁって」
「フランチェスカさんは、ご自分が提督に愛されているって、感じていらっしゃらないんですか?」
「私が? まさか! だいたい、もともとそんな関係なんかじゃないもん!!」
「ふーん」
「何よ?」
「じゃぁ、質問を変えます。フランチェスカさんは、誰か恋人にしたいとか、誰かの恋人になりたいとか、思わないんですか」
「思わない」
「へーえ?」
“本当は知っていますよ”と言わんばかりの顔のダニエラに、フランチェスカはばつが悪そうに目をそらした。
「……なによ、そんなにおかしい? 別に、好きな人がいなくたって、おかしくなんかないし、別にラヴァーズだからって……」
「あたいは、例え相手がどんな過去を持っていたとしても、恋に落ちちゃったら愛せると思うし、フェルナンドにも、そうなって欲しいって思ってますよ」
「そうなんだ……。ダニエラは嫌われるのが、その、好きな人に元男のお前なんか嫌いだっていわれるのが、怖くないの?」
「怖いですよ。あたいも昔、そう思ってた。それで、……あたいはフルほうも、フラれる方もいっぱい経験したから、その度に“もう恋はいいや”って、思ったことも何度もあったんだぁ。でもやっぱり何度も繰り返しちゃうんだよねぇ。だって一人でいると、ちょっと寂しいんだもん。だから性懲りも無く、また恋しちゃう。“きっと今度は”って」
「ダニエラは前向きなんだね」
「フランチェスカさんだって、もっと前向きに恋しても、良いんじゃないですか?」
「私が? だ、誰に?」
「またまたぁ、とぼけたって駄目ですよ。決まっているじゃないですか」
「ふん、あんなスケベ提督に恋だなんて……」
「あたいは、ガルバルディ提督に恋しろだなんて、一言も言っていませんよ?」
「ぐっ……ダニエラの意地悪……」
いたずら娘が格好のおもちゃを見つけたかのように、ニヤニヤとするダニエラとは逆に、フランチェスカは嘘を見抜かれたいたずら娘のように、ぷぅっとむくれた。
「じゃあ、意地悪ついでにもう一つ質問。フランチェスカさんは、不特定多数の男性と自由恋愛したり、時には抱かれたりするのに抵抗がないんですか? それって好きな人がいないからなんですか?」
「別にそういうわけじゃ……。ダニエラはどうなのよ? フェルナンドのことが好きなんでしょう? あなただって」
「あたいのは、これが仕事だから。フェルナンドだってそれはわかってくれる。……と、思う」
「仕事じゃなければ?」
「もちろん! フェルナンドに押しかけ女房しちゃうかも。きゃっ♥」
「そう。いいわね、そういうの」
「そうですねぇ……。仕事だから、そういう役割だから時には恋人でもない人と、肌を重ねることもあるラヴァーズだから、本当の恋のときは真剣にならなきゃって、あたいは思ってる」
「本当の、恋?」
「大尉は、どうです? 本当の恋、したくありませんか?」
「私? 私は……」
「女になったのなら、本当の恋をしなきゃ損ですよ。そして結婚できれば最高。あたいはそう思う」
笑顔のダニエラとは対照的に、フランチェスカの表情は少しさえなかった。
ダニエラと自分は、ラヴァーズになった理由も、ラヴァーズでいる事の意味も違う。
それは当然のことだったが、それが自分の中にあるもやもやを晴らしてくれるとは思えなかった。
「……私はさ、ラヴァーズが艦隊にどれだけ重要な存在か、それを身を持って知っている」
「そういえば、大尉は補給も劣悪な、壊滅しかけた艦隊の士気を立て直すために、ラヴァーズになったそうですね」
「ええ、そうよ。明日にも死んでしまうかもしれない、水も食料も無い、5分後には敵がまた現れるかもしれない。そんな極限の恐怖の中で、何が人を支えてくれると思う? 誰が生きる気力を取り戻させてくれると思う?」
「さぁ? 良くわかんない」
「守りたいものが有るにせよ、無いにせよ。もちろん人によってそれは色々あるかもしれない。でもその対象か、或いは誰かに託せるにしろ、それにはラヴァーズが必要なのよ」
「だから、フランチェスカさんは、あたい達ラヴァーズに良くしてくださるんですか?」
「知ってた? ラヴァーズ関係の物資は、最優先補給指定物の一つなのよ」
「そうなんですか?」
「武器弾薬の補給が滞りがちでも、ラヴァーズへの補給物資だけは、水や食料並に最優先で補給されるわ。なぜだかわかる?」
「いいえ」
「ラヴァーズが艦隊の士気に与える影響が大きいことは、さっき説明したでしょう? 兵士たちは、ラヴァーズが不自由なく過ごせて、毎日のように化粧をして、コロンを付けて、時には新しいドレスを着ていれば、それで補給ラインが生きていると理解するのよ。ラウンジに兵士たちが集まるのは、それを確認する意味もあるの。だから、お酒がなくても、出せるメニューが水しかなくても、皆ラウンジに通うのよ。あなた達を見て、安心できるように」
「だからフランチェスカさんは、ラヴァーズに、女の体になることを選んだんですか?」
「たまたま、くじで当たったからかも」
「えぇっ?!」
「でも、後悔はしていないわ。自分で決めたことだから」
「なんだかうれしいな」
「“うれしい”?」
「自分で決めて、ラヴァーズになった人もいるんだってこと。それに羨ましい」
「羨ましい、って私が?」
「そう」
「そう、かなぁ?」
フランチェスカは、ダニエラの言葉には、いまひとつ理解ができなかった。
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