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星の海で(10) 「Be My Lover」 (8)フェアリーズ・ナイト
(8)フェアリーズ・ナイト ----------------------------------------------------
一日おいてさらに翌日、フランチェスカが開店準備のためラウンジに急ぐと、そこには既にエミリアが待っていた。
「フランチェスカさん」
「ああ、エミリア。どうしたの?」
「今日は私と一緒の当番ですよ」
「そうだったっけ? よろしく」
「ええ、私もご一緒出来るの、楽しみにしておりますのよ」
「そ、そう?」
「ええ。だって、こんなにかわいらしいラヴァーズなんて、めったにいらっしゃるものではありませんから」
「ありがとう。でも、まだ一度もお誘いは無いけれどね」
「フランチェスカさんのかわいらしさに、皆さん気後れしていらっしゃるだけですわ」
「そんなことないわ。私自分でも判っているんだけど、化粧もドレスのコーディネイトも良く判っていないから……」
「それならよろしければ私が、少々ご指南して差し上げますわ」
「そっか、エミリアはラヴァーズの元教官だったんだものね。お願いします!」
「ええ、喜んで」
エミリアの指導は化粧やドレスのコーディネイトにとどまらず、立ち居振る舞いや言葉遣いにも及んだが、フランチェスカは改めてそういったことを聞いていると、恥ずかしい物を感じた。
自分はラヴァーズとして、なんといい加減だったのかと。
教えを乞ううちに、自分が如何にラヴァーズとして中途半端だったかを、思い知らされると同時に、エミリアの女性的魅力が自分とは比較にならないほどであることを、痛感させられた。
話していれば話すほど、その女性的魅力を感じさせ、知れば知るほど魅了させられる。 そんな理想の女性に近かった。
もし自分が男のままだったら迷わず、求婚してしまうだろう。
フランチェスカはそう感じると同時に、例の噂の真偽にまで、想いが及んでいた。
「ええと、他に教えておかなきゃいけないことは、あったかしら……」
ラヴァーズ教官時代のことを思い出しながら、腕を組んでいるエミリアに、フランチェスカは思い切って尋ねた。
「ねぇ、エミリアは、その……、艦隊に誰か好きな人いるの?」
「唐突な質問ですね」
「うん……。ごめん」
「そうですねぇ……。かわいい妹になら、教えなくもないですよ」
いたずらっぽく微笑むエミリアに、フランチェスカはわざと甘えるように言ってみた。
「エ、エミィお姉ちゃん!」
「なあに? フラン」
「お姉ちゃんは、誰か好きな人がいるの?」
「もちろん、いますよ。将来のことまで考えています」
「だ、誰っ!?」
フランチェスカは姉妹ごっこもそっちのけで、思わず大きな声になってしまった。
「それは秘密です」
エミリアは口元に人差し指を当ててウィンクした。
「ず、するい!」
「フランは、誰か好きな人いるの」
「そ、それは私も秘密です!」
「ずるい妹ね。妹は、姉に隠し事はしないものですよ?」
「横暴だー」
「うふふふ……」
「ふふふ……」
二人は互いの児戯に少しだけ笑い合うと、エミリアが尋ねた。
「ねぇフラン、あなた、歌は歌える?」
「少しなら、たぶん。士官学校時代はカラオケ得意だったし」
「あら、意外ね。それならダンスはどう?」
「うーん、ダンスというほどではないけど、トリポリの地上訓練で、モダンバレエなら少し……」
「地上訓練って、陸戦部隊の訓練で?」
「あ、いえ、訓練部隊の隊長の奥さんから、ちょっとだけ教えてもらったの」
フランチェスカは、アンドレア・ドリアに乗る前の短い間ではあったが、思い出深かった地上訓練のことを思い出していた。同時に、自分にバレエだけでなく、他にも大切なことを沢山教わったあの人に、エミリアは良く似ているとも思った。
だから、エミリアがリッカルドと恋仲になっていたのだとしても、尊敬していたあの人に似ているから、諦めることもできるのだという気持ちにもなっていた。
「そうか、バレエね……。それなら何とかいけるかな?」
「今度は、何をするの?」
「あのね……」
エミリアの提案に、最初は尻込みしたフランチェスカではあったが、言われたとおりに体を動かしているうちに、自然とその気になっていった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
その夜のラウンジは特別だった。
普段は埃を被って、ラウンジの隅の一角を占領している時代物のピアノが、飾りではないことを証明し、ラヴァーズが単なるホステスや、擬似恋愛の相手だけでないことを示すように、ステージが開かれた。
そのステージでは、二つの異なる華麗な花が主役だった。
成熟した女性の妖艶な美しさに、高い気品を演出するエミリア。
少女の様な可愛らしさと、清楚さの中に秘めた危うさを演出する、フランチェスカ。
相異なる魅力を持った二人のラヴァーズに、ラウンジは大いに盛り上がった。
エミリアがしっとりとしたバラードを歌い終えると、ラウンジにはため息とともに大きな拍手が沸き起こり、多少ぎこちなさはあったものの、フランチェスカが本国のハイティーンアイドルが歌うような、アップテンポな歌とダンスを踊れば、熱烈なラブコールが上がった。
艦内各所にある休憩所のモニタや、通路を通じてラウンジの様子が伝わると、座る席も無いほどに兵士や士官たちが、ラウンジに詰め掛けた。
リッカルドとフェラーリオもフランチェスカの気づかないうちに、ラウンジに現れていた。
リッカルドはフランチェスカを一瞥すると、『お前があんなふうに歌ったり踊ったりするのは初めて見た』と一言だけ言うと、エミリアの方へ行き、いつものように手をとってキスをすると、エミリアの隣に座った。フランチェスカはそれを横目で見ながら、他の士官や兵士たちのいるテーブルに混じった。
それを見た兵士や士官たちは、3人の関係に付いて流れる噂について、ひとつの結論が出たと、囁きあった。
曰く、“ガルバルディ提督はジナステラ大尉との関係を解消し、エミリアに乗り換えた”。
もちろんそれはエミリアの策で、そうした噂が真実性を持ちうるこの場において、密かに流させたものだった。
それは2人の耳にも届いたが、反応はそれぞれ違っていた。
フランチェスカは諦観の表情で、リッカルドは不安と落ち着きの無い表情を隠せずに、聞こえていない振りを装った。
一日おいてさらに翌日、フランチェスカが開店準備のためラウンジに急ぐと、そこには既にエミリアが待っていた。
「フランチェスカさん」
「ああ、エミリア。どうしたの?」
「今日は私と一緒の当番ですよ」
「そうだったっけ? よろしく」
「ええ、私もご一緒出来るの、楽しみにしておりますのよ」
「そ、そう?」
「ええ。だって、こんなにかわいらしいラヴァーズなんて、めったにいらっしゃるものではありませんから」
「ありがとう。でも、まだ一度もお誘いは無いけれどね」
「フランチェスカさんのかわいらしさに、皆さん気後れしていらっしゃるだけですわ」
「そんなことないわ。私自分でも判っているんだけど、化粧もドレスのコーディネイトも良く判っていないから……」
「それならよろしければ私が、少々ご指南して差し上げますわ」
「そっか、エミリアはラヴァーズの元教官だったんだものね。お願いします!」
「ええ、喜んで」
エミリアの指導は化粧やドレスのコーディネイトにとどまらず、立ち居振る舞いや言葉遣いにも及んだが、フランチェスカは改めてそういったことを聞いていると、恥ずかしい物を感じた。
自分はラヴァーズとして、なんといい加減だったのかと。
教えを乞ううちに、自分が如何にラヴァーズとして中途半端だったかを、思い知らされると同時に、エミリアの女性的魅力が自分とは比較にならないほどであることを、痛感させられた。
話していれば話すほど、その女性的魅力を感じさせ、知れば知るほど魅了させられる。 そんな理想の女性に近かった。
もし自分が男のままだったら迷わず、求婚してしまうだろう。
フランチェスカはそう感じると同時に、例の噂の真偽にまで、想いが及んでいた。
「ええと、他に教えておかなきゃいけないことは、あったかしら……」
ラヴァーズ教官時代のことを思い出しながら、腕を組んでいるエミリアに、フランチェスカは思い切って尋ねた。
「ねぇ、エミリアは、その……、艦隊に誰か好きな人いるの?」
「唐突な質問ですね」
「うん……。ごめん」
「そうですねぇ……。かわいい妹になら、教えなくもないですよ」
いたずらっぽく微笑むエミリアに、フランチェスカはわざと甘えるように言ってみた。
「エ、エミィお姉ちゃん!」
「なあに? フラン」
「お姉ちゃんは、誰か好きな人がいるの?」
「もちろん、いますよ。将来のことまで考えています」
「だ、誰っ!?」
フランチェスカは姉妹ごっこもそっちのけで、思わず大きな声になってしまった。
「それは秘密です」
エミリアは口元に人差し指を当ててウィンクした。
「ず、するい!」
「フランは、誰か好きな人いるの」
「そ、それは私も秘密です!」
「ずるい妹ね。妹は、姉に隠し事はしないものですよ?」
「横暴だー」
「うふふふ……」
「ふふふ……」
二人は互いの児戯に少しだけ笑い合うと、エミリアが尋ねた。
「ねぇフラン、あなた、歌は歌える?」
「少しなら、たぶん。士官学校時代はカラオケ得意だったし」
「あら、意外ね。それならダンスはどう?」
「うーん、ダンスというほどではないけど、トリポリの地上訓練で、モダンバレエなら少し……」
「地上訓練って、陸戦部隊の訓練で?」
「あ、いえ、訓練部隊の隊長の奥さんから、ちょっとだけ教えてもらったの」
フランチェスカは、アンドレア・ドリアに乗る前の短い間ではあったが、思い出深かった地上訓練のことを思い出していた。同時に、自分にバレエだけでなく、他にも大切なことを沢山教わったあの人に、エミリアは良く似ているとも思った。
だから、エミリアがリッカルドと恋仲になっていたのだとしても、尊敬していたあの人に似ているから、諦めることもできるのだという気持ちにもなっていた。
「そうか、バレエね……。それなら何とかいけるかな?」
「今度は、何をするの?」
「あのね……」
エミリアの提案に、最初は尻込みしたフランチェスカではあったが、言われたとおりに体を動かしているうちに、自然とその気になっていった。
その夜のラウンジは特別だった。
普段は埃を被って、ラウンジの隅の一角を占領している時代物のピアノが、飾りではないことを証明し、ラヴァーズが単なるホステスや、擬似恋愛の相手だけでないことを示すように、ステージが開かれた。
そのステージでは、二つの異なる華麗な花が主役だった。
成熟した女性の妖艶な美しさに、高い気品を演出するエミリア。
少女の様な可愛らしさと、清楚さの中に秘めた危うさを演出する、フランチェスカ。
相異なる魅力を持った二人のラヴァーズに、ラウンジは大いに盛り上がった。
エミリアがしっとりとしたバラードを歌い終えると、ラウンジにはため息とともに大きな拍手が沸き起こり、多少ぎこちなさはあったものの、フランチェスカが本国のハイティーンアイドルが歌うような、アップテンポな歌とダンスを踊れば、熱烈なラブコールが上がった。
艦内各所にある休憩所のモニタや、通路を通じてラウンジの様子が伝わると、座る席も無いほどに兵士や士官たちが、ラウンジに詰め掛けた。
リッカルドとフェラーリオもフランチェスカの気づかないうちに、ラウンジに現れていた。
リッカルドはフランチェスカを一瞥すると、『お前があんなふうに歌ったり踊ったりするのは初めて見た』と一言だけ言うと、エミリアの方へ行き、いつものように手をとってキスをすると、エミリアの隣に座った。フランチェスカはそれを横目で見ながら、他の士官や兵士たちのいるテーブルに混じった。
それを見た兵士や士官たちは、3人の関係に付いて流れる噂について、ひとつの結論が出たと、囁きあった。
曰く、“ガルバルディ提督はジナステラ大尉との関係を解消し、エミリアに乗り換えた”。
もちろんそれはエミリアの策で、そうした噂が真実性を持ちうるこの場において、密かに流させたものだった。
それは2人の耳にも届いたが、反応はそれぞれ違っていた。
フランチェスカは諦観の表情で、リッカルドは不安と落ち着きの無い表情を隠せずに、聞こえていない振りを装った。
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