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星の海で(10) 「Be My Lover」 (11)フランチェスカ~傷心
(11)フランチェスカ~傷心 -------------------------------------------------------
乱れたベッドに、うつ伏せになったまま動こうとしないフランチェスカに、エミリアは慎重にたずねた。
「提督に、無理矢理……?」
「……」
「酷いことをされたの?」
「強引だったけど、酷いことはされなかった……」
「提督のこと、嫌いになりました?」
「リッカルドが強引なのはいつもだけど……、でも……」
「でも?」
「女って駄目だね、うわべだけの言葉と愛撫で攻め立てられただけで、抵抗できなくなってしまうんだ。いやだって思っていても、体が言うことを聞かない。ウソで塗り固めた言葉も、朦朧とした頭の中では本当みたいに聞こえる。こんなことなら……、いっそ、蔑まれながらレ×プされたほうがよっぽどマシだよ……」
そういってベッドに突っ伏して、すすり泣き始めたフランチェスカを、エミリアはそっと抱きしめた。
「かわいそうに、フラン。でも、リッカルドさんのこと、本当に嫌いになったわけじゃないのでしょう?」
「もう、嫌いだよ……」
「ウソです。本当に嫌いなら、そんな風に泣いたりはしないものですよ」
エミリアは傷ついたフランチェスカに、大切な妹に姉がするように、背中を抱いて額をくっつけた。
「……でも見損なったよ、リッカルドの奴。女なんて力づくで自分の物にして、言うことを聞かせられるとでも思っていたなんて」
フランチェスカもラヴァーズの体を持つ以上、肉体交渉に脆弱なのは仕方のないことではあったが、今そのことをフランチェスカに言うのは逆効果にしかならない。
けれど、エミリアは2人が本当は何を望んでいるのか、それを信じていた。
そして今の二人に必要なのは、関係性の変化と激しい想いのぶつけあいだと、考えていた。
だが、激情は破局への分岐点でもある。だからこそ周囲が慎重にフォローする必要がある。
エミリアはくっつけていた額を離すと、慎重に言った。
「私がラヴァーズになりたての頃は、そう言う風に無理矢理自分の物にしてしまう将校もいたと、聞いたことがあります」
「いまの時代に、そんな事許される筈無いよ」
「そうね。でも、他の誰にも渡したくないと言う気持ちは、きっと同じかもしれないわ」
「そんなの……、ただのワガママだよ。それに、私の気持ちはどうなるの?」
「フランが、はっきりしないのが原因じゃないの?」
「私が? どうして?」
瞳を赤くして見上げるフランチェスカに、エミリアは優しく諭すように言った。
「リッカルドさんがお嫌いなら、フランは幕僚幹部なんだから、具申書を添えて転属願いを艦政本部に出してしまえば、いくら艦隊司令でも人事権を行使できないわ。そうでしょう?」
「……それは、そうなんだけど」
「一緒にいたいと思っているのならば、もっとリッカルドさんを安心させてあげなくては駄目よ」
「……エミィは、リッカルドの味方なんだ」
「そんな風に言われると辛いわ。でも私はフランの味方よ。これは神に誓って」
フランチェスカは付き合いが長い分だけ、リッカルドの女性の好みも知っていた。
それはいまの自分とは違う筈だった。
だからこそ自信がなかった。リッカルドが好むタイプは……。
それに、自分は普通の女なんかじゃない。そのことをリッカルドは、よく知っている筈だった。士官学校時代からの付き合いなのだから。
ラヴァーズになる前の自分を知っていて、それをリッカルドがどう思っているか、フランチェスカの想いは複雑であったし、容易に自分をも納得させられるものでもなかった。
いつの間にか隣に座って肩を抱いてくれていた筈のエミリアが、傍を離れていた。
フランチェスカがそのことに気がつくと、目の前に温めたココアのカップが差し出された。
それを受け取ったフランチェスカは、中身を少しだけ口にした。
砂糖は少なめで、少し苦かった。
フランチェスカはしばらく悩んでから、口ごもるようにして言った。
「ピエンツァで、……リッカルドとは、どうだったの? その……、ずいぶん、仲が良かったみたい、だけど?」

挿絵:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/
恐る恐る、まるで怯える少女のような様子のフランチェスカに、エミリアはフランチェスカの思い悩んでいることが、透けて見えたような気がした。
エミリアは、そっとフランチェスカの口の周りについた、ココアの痕を指で拭うと、自分はフランチェスカが、本当に聞きたいことを知っているというように、笑みを浮かべながら言った。
「気になる?」
「べ、別に……」
「提督は、私には何の関心も持っていないわ。信じておあげなさい」
「うそ」
「本当よ。提督はあれで、身持ちの固い方よ。お話してみて、それが良く分かったわ」
「まさか! あのスケベがそんな筈無い」
「健康な男性ですから、多少スケベなのは、仕方ないでしょう?」
「リッカルドは、私のカラダが目当てなだけだよ!」
「不器用な方ですから、言葉ではうまく伝えられないと思っていらっしゃるのでしょう。本当は、リッカルドさんだって」
「そんなこと、絶対にそんな事無いっ!」
だんっ! とフランチェスカは声を荒らげて、サイドテーブルを叩いた。
「もしかして、フランは、恋を……男性として女性に恋したことがなかったの?」
「……どうして、そんな事聞くの?」
「ある方が……リッカルドさんには士官学校時代、付き合う女性の影も無かったと言っていたので、もしかしたらフランも同じだったのかなって……」
「そう。でもそんな事関係ないと思うけど」
「そう?」
「そうだよ」
「……」
「……」
「恋をするのが、怖いのでしょう?」
エミリアの言葉に、フランチェスカは動揺を隠せなかった。
「自分が相手を好きだとしても、その相手がもし自分のことを好きじゃなかったらと思うと怖いのじゃないの?」
「私は、ラヴァーズになった時点で、自分は恋をしないことに決めたのよ」
「私たちラヴァーズには、恋をする資格なんて、無いとでも?」
「そんなことは無いわ! そういう意味じゃないの……」
「でもフランは、自分がラヴァーズであることに、こだわっているのね」
フランチェスカはうつむいて答えた。
「ラヴァーズの恋愛感情は、普通の人とは違う」
「同じよ」
強めの口調で、即座に否定したエミリアに、フランチェスカは顔を上げた。
「同じよ、フラン。人を好きになるのに、嘘も本当もないし、誰一人として同じ形ではないわ。だけどラヴァーズも、そうでない人も、誰かを好きになる気持ちだけは、同じなのよ」
「でも……」
「違うと思うのは、フランの心の中に、迷いがあるからだわ。でもそれはフラン自身の迷いであって、誰かのせいだったり、ましてラヴァーズだからでもないわ」
「私、自身の迷い……?」
「フランが、本当に思っていること、本当にしたいとおりにして良いのよ」
「でも、怖いんだ……」
「どうして?」
「リッカルドは私なんかよりも、たとえばエミィみたいな……」
“エミリアが幕僚の高位の人物と恋仲になっている”
それはリッカルドのことだろうと、フランチェスカは思っていた。
自分だって、美人でプロポーションも良く、性格も落ち着いていて優しいエミリアならば、恋をしてしまいそうだったからだ。
だからリッカルドが、エミリアに恋しているのならば、それを確かめたかった。
けれどそれを確かめても、その後どうするかまでは考えていなかった。
もし、リッカルドが自分よりも、エミリアのほうを選ぶのならば……。
フランチェスカの表情が、曇り始めたのを見て取ったエミリアは、静かに言った。
「私には気になる方が、提督の他に居りましてよ」
「……だ、誰?」
「私がお慕いしているのは、名前の頭に“F"がつく人ですから」
そういうと、エミリアは優しい笑みを浮かべ、フランチェスカをそっと抱き寄せて唇にかなり近い右の頬にキスをした。
ごく自然に、流れるようなエミリアの動作に、フランチェスカはまったくの無防備だった。
混乱しかけていた上に、突然のエミリアのキスに、フランチェスカの頭の中は真っ白になった。
「……て、あ、え、エミリア! ちょっと!」
フランチェスカが我に帰ったときには、エミリアはとっくに部屋から消えていた。
「“F”がつく……って、わ、ワタシ?? いや、そんな事……。でも……???」
乱れたベッドに、うつ伏せになったまま動こうとしないフランチェスカに、エミリアは慎重にたずねた。
「提督に、無理矢理……?」
「……」
「酷いことをされたの?」
「強引だったけど、酷いことはされなかった……」
「提督のこと、嫌いになりました?」
「リッカルドが強引なのはいつもだけど……、でも……」
「でも?」
「女って駄目だね、うわべだけの言葉と愛撫で攻め立てられただけで、抵抗できなくなってしまうんだ。いやだって思っていても、体が言うことを聞かない。ウソで塗り固めた言葉も、朦朧とした頭の中では本当みたいに聞こえる。こんなことなら……、いっそ、蔑まれながらレ×プされたほうがよっぽどマシだよ……」
そういってベッドに突っ伏して、すすり泣き始めたフランチェスカを、エミリアはそっと抱きしめた。
「かわいそうに、フラン。でも、リッカルドさんのこと、本当に嫌いになったわけじゃないのでしょう?」
「もう、嫌いだよ……」
「ウソです。本当に嫌いなら、そんな風に泣いたりはしないものですよ」
エミリアは傷ついたフランチェスカに、大切な妹に姉がするように、背中を抱いて額をくっつけた。
「……でも見損なったよ、リッカルドの奴。女なんて力づくで自分の物にして、言うことを聞かせられるとでも思っていたなんて」
フランチェスカもラヴァーズの体を持つ以上、肉体交渉に脆弱なのは仕方のないことではあったが、今そのことをフランチェスカに言うのは逆効果にしかならない。
けれど、エミリアは2人が本当は何を望んでいるのか、それを信じていた。
そして今の二人に必要なのは、関係性の変化と激しい想いのぶつけあいだと、考えていた。
だが、激情は破局への分岐点でもある。だからこそ周囲が慎重にフォローする必要がある。
エミリアはくっつけていた額を離すと、慎重に言った。
「私がラヴァーズになりたての頃は、そう言う風に無理矢理自分の物にしてしまう将校もいたと、聞いたことがあります」
「いまの時代に、そんな事許される筈無いよ」
「そうね。でも、他の誰にも渡したくないと言う気持ちは、きっと同じかもしれないわ」
「そんなの……、ただのワガママだよ。それに、私の気持ちはどうなるの?」
「フランが、はっきりしないのが原因じゃないの?」
「私が? どうして?」
瞳を赤くして見上げるフランチェスカに、エミリアは優しく諭すように言った。
「リッカルドさんがお嫌いなら、フランは幕僚幹部なんだから、具申書を添えて転属願いを艦政本部に出してしまえば、いくら艦隊司令でも人事権を行使できないわ。そうでしょう?」
「……それは、そうなんだけど」
「一緒にいたいと思っているのならば、もっとリッカルドさんを安心させてあげなくては駄目よ」
「……エミィは、リッカルドの味方なんだ」
「そんな風に言われると辛いわ。でも私はフランの味方よ。これは神に誓って」
フランチェスカは付き合いが長い分だけ、リッカルドの女性の好みも知っていた。
それはいまの自分とは違う筈だった。
だからこそ自信がなかった。リッカルドが好むタイプは……。
それに、自分は普通の女なんかじゃない。そのことをリッカルドは、よく知っている筈だった。士官学校時代からの付き合いなのだから。
ラヴァーズになる前の自分を知っていて、それをリッカルドがどう思っているか、フランチェスカの想いは複雑であったし、容易に自分をも納得させられるものでもなかった。
いつの間にか隣に座って肩を抱いてくれていた筈のエミリアが、傍を離れていた。
フランチェスカがそのことに気がつくと、目の前に温めたココアのカップが差し出された。
それを受け取ったフランチェスカは、中身を少しだけ口にした。
砂糖は少なめで、少し苦かった。
フランチェスカはしばらく悩んでから、口ごもるようにして言った。
「ピエンツァで、……リッカルドとは、どうだったの? その……、ずいぶん、仲が良かったみたい、だけど?」

挿絵:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/
恐る恐る、まるで怯える少女のような様子のフランチェスカに、エミリアはフランチェスカの思い悩んでいることが、透けて見えたような気がした。
エミリアは、そっとフランチェスカの口の周りについた、ココアの痕を指で拭うと、自分はフランチェスカが、本当に聞きたいことを知っているというように、笑みを浮かべながら言った。
「気になる?」
「べ、別に……」
「提督は、私には何の関心も持っていないわ。信じておあげなさい」
「うそ」
「本当よ。提督はあれで、身持ちの固い方よ。お話してみて、それが良く分かったわ」
「まさか! あのスケベがそんな筈無い」
「健康な男性ですから、多少スケベなのは、仕方ないでしょう?」
「リッカルドは、私のカラダが目当てなだけだよ!」
「不器用な方ですから、言葉ではうまく伝えられないと思っていらっしゃるのでしょう。本当は、リッカルドさんだって」
「そんなこと、絶対にそんな事無いっ!」
だんっ! とフランチェスカは声を荒らげて、サイドテーブルを叩いた。
「もしかして、フランは、恋を……男性として女性に恋したことがなかったの?」
「……どうして、そんな事聞くの?」
「ある方が……リッカルドさんには士官学校時代、付き合う女性の影も無かったと言っていたので、もしかしたらフランも同じだったのかなって……」
「そう。でもそんな事関係ないと思うけど」
「そう?」
「そうだよ」
「……」
「……」
「恋をするのが、怖いのでしょう?」
エミリアの言葉に、フランチェスカは動揺を隠せなかった。
「自分が相手を好きだとしても、その相手がもし自分のことを好きじゃなかったらと思うと怖いのじゃないの?」
「私は、ラヴァーズになった時点で、自分は恋をしないことに決めたのよ」
「私たちラヴァーズには、恋をする資格なんて、無いとでも?」
「そんなことは無いわ! そういう意味じゃないの……」
「でもフランは、自分がラヴァーズであることに、こだわっているのね」
フランチェスカはうつむいて答えた。
「ラヴァーズの恋愛感情は、普通の人とは違う」
「同じよ」
強めの口調で、即座に否定したエミリアに、フランチェスカは顔を上げた。
「同じよ、フラン。人を好きになるのに、嘘も本当もないし、誰一人として同じ形ではないわ。だけどラヴァーズも、そうでない人も、誰かを好きになる気持ちだけは、同じなのよ」
「でも……」
「違うと思うのは、フランの心の中に、迷いがあるからだわ。でもそれはフラン自身の迷いであって、誰かのせいだったり、ましてラヴァーズだからでもないわ」
「私、自身の迷い……?」
「フランが、本当に思っていること、本当にしたいとおりにして良いのよ」
「でも、怖いんだ……」
「どうして?」
「リッカルドは私なんかよりも、たとえばエミィみたいな……」
“エミリアが幕僚の高位の人物と恋仲になっている”
それはリッカルドのことだろうと、フランチェスカは思っていた。
自分だって、美人でプロポーションも良く、性格も落ち着いていて優しいエミリアならば、恋をしてしまいそうだったからだ。
だからリッカルドが、エミリアに恋しているのならば、それを確かめたかった。
けれどそれを確かめても、その後どうするかまでは考えていなかった。
もし、リッカルドが自分よりも、エミリアのほうを選ぶのならば……。
フランチェスカの表情が、曇り始めたのを見て取ったエミリアは、静かに言った。
「私には気になる方が、提督の他に居りましてよ」
「……だ、誰?」
「私がお慕いしているのは、名前の頭に“F"がつく人ですから」
そういうと、エミリアは優しい笑みを浮かべ、フランチェスカをそっと抱き寄せて唇にかなり近い右の頬にキスをした。
ごく自然に、流れるようなエミリアの動作に、フランチェスカはまったくの無防備だった。
混乱しかけていた上に、突然のエミリアのキスに、フランチェスカの頭の中は真っ白になった。
「……て、あ、え、エミリア! ちょっと!」
フランチェスカが我に帰ったときには、エミリアはとっくに部屋から消えていた。
「“F”がつく……って、わ、ワタシ?? いや、そんな事……。でも……???」
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