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星の海で(10)  「Be My Lover」 (12)亜里沙の復帰

(12)亜里沙の復帰 -------------------------------------------------------

 あの晩から2日後、フランチェスカは、メリッサと亜里沙の病室を見舞っていた。
 メリッサが艦医から“快癒したので、もうベッドから出られる”との連絡を受け、それをフランチェスカに報告しに来たので、その足で向かったのだった。

「亜里沙、良くなったんだって?」
「ええ、ご面倒をおかけしましたが、検査結果が出る明後日には、自室に戻っても良いって」
「良かったわね」
「ありがとうございました、フランチェスカさん」
「いえ、別に……私なんて、結局誰からもお誘いかからなかったし、亜里沙の代わりなんてできなかったわ」
「そんなこと無いですよ。マスターが言ってました。フランチェスカさんが当番に出るようになってから、ラウンジの売り上げが150%増だって。わざわざほかの艦から来ていた人も、いたそうじゃないですか」
「そうだったかしら」
「それに、フランチェスカさんのおかげで、私のところにも」
「亜里沙のところに? 何があったの?」
「フランチェスカさんがラウンジに出てくださっているのは、私が病気で休んでいるからだって知った人たちから、たくさんお見舞いをいただきました。“早く良くなってくれ”って、メッセージカードくれた人も。私とってもうれしくって。初めての航海で、このお仕事、うまくやっていけるか不安だったんですけど、私頑張れるって、自信がわいてきました」
「そう、それは良かったわね」
「ええ、フランチェスカさんのおかげです!」
「快気祝いしてあげなくちゃね」
「それでしたら、提督が」

 と、メリッサが意外なことを言った。

「リッカルドが?」
「ええ、明後日、亜里沙の快気祝いのパーティーをする、許可をくださいましたよ」
「パーティー?」
「ええ、明後日は公休日で艦隊の各艦も、哨戒艦を除いて休日シフトだから、他の艦から来る連中もいるだろうって。ついでにアドミラルデイ(提督の日)にしてしまおうとのことでした」
「ふーん」

 アドミラルデイとは、24時間眠ることなく続く艦隊運用において、最小限の人員を残して艦隊の休日とする日で、概ね月に一回ほどの割合で設定される。この日は各艦毎や部隊毎に、親睦目的のリクリエーションが行われる。緊張の続く航海任務において息抜きをできる日であり、兵士・士官たちが楽しみにしている日であった。
 もちろん安全宙域にあって、訓練や敵との遭遇が無いことが開催の条件である。
 所属艦を離れることも基本的には自由で、艦隊に散らばっている仲のよい者同士が旧交を温めたり、また新しい友人を作り、交流関係を広げる機会としたりしていた。中にはお気に入りのラヴァーズを探しに、各艦を渡り歩く者もいた。

「提督まで私のことを気にかけてくださっているなんて、とても光栄ですわ」

 亜里沙は目を閉じて胸に両手を当て、感激している様子だった。
 その逆に、反応の薄いフランチェスカに、メリッサが尋ねた。

「フランチェスカさんは、亜里沙の快気祝いのパーティー、参加なさらないんですか?」
「そ、そんなこと無いわよ。参加するわ」
「私も早速準備をしなくては。では大尉、お先に失礼します。亜里沙、全快おめでとう。また後でね」
「ありがとうございます。メリッサさん」

 フランチェスカは先に退室するメリッサを、目で送ってから、不思議そうに言った。

「リッカルドの奴、何考えているんだろう?」
「何か、気になることでも……?」
「ううん、なんでもない。ちょっと気になっただけ。何か企んでいるんじゃないかと」
「そうなんですか?」
「いえ、たぶん考えすぎだと思う。私、少しおかしいんだわ」

 と言って、フランチェスカは眉間の辺りを押さえた。

「私、知ってます。お二人はケンカなさっているんですよね?」
「亜里沙まで、知ってたの……」
「提督のこと、信じてさしあげて、いいんじゃありませんか?」
「エミリアにも、同じことを言われたわ」
「何か、不安なことでも?」
「不安だらけよ」
「言ってもらってないんですか?」
「何を?」
「“愛している”って」
「リッカルドが、真面目にそんなこと言うわけないじゃない」
「不真面目には言ってもらっているんですか?」
「不真面目って言うか……」

 そういうとフランチェスカは口ごもり、少し顔が赤くなるのを感じた。
 ベッドの上では、リッカルドはそんなようなことを何度も言ったと記憶しているが、それは言ってみれば手続き上の問題で、特別な意味じゃないと思っていたのだった。

「リッカルドさんも、言葉ではうまくいえないのかもしれませんね」
「言葉では?」
「男性から女性に告白するのって、かなり恥ずかしいですよね」
「うん、それはそうだけど」
「だから、言葉に出さなくても、分かって欲しいんですよ。たぶん、態度でははっきりとフランチェスカさんのことを愛しているって言う、サインを出していたと思いますよ。違いますか?」

 亜里沙にそういわれると、確かに思い当たる事がたくさんあった。
 けれど、フランチェスカにとって、それは士官学校時代からの馴れ合いであって、恋愛が絡んでのことではないと、自分に言い聞かせていたのだった。

「ずっと……、ラヴァーズになる前からの付き合いで、今でも自分では答えが出せていないんだ。自分は男なのか、女なのか。体は女になったけど、リッカルドと任務についていると、そんなことは忘れてしまうんだ。だからラヴァーズになって化粧をするのも、ドレスを着るのも、それも任務のひとつだと思っていたんだ」
「二人っきりの時間であっても、ですか?」
「士官学校時代に戻ったような感じ……かな?」
「それなら今は、それでもいいんじゃありませんか?」
「え?」
「先輩と後輩の関係でいらしたんでしょう?」
「そう、だけど……。それじゃ今までと何も変わらない」
「わがままな先輩と、振り回される面倒見の良い後輩。仲の良いお二人のお姿が目に浮かびますわ」
「……」
「私も、艦隊の皆さんも、フランチェスカさんとリッカルドさんが仲直りされるのを望んでいます。たぶん、リッカルドさんも。フランチェスカさんは?」
「私は……、ううん、私もたぶん、そう。でも、いまさらどうしていいか……」
「きっかけは、いつでもどこにでもありますよ」
「どこにでも?」
「“戦場で状況を見誤ったことはない”と言うのが、フランチェスカさんのご自慢でしたよね」
「それは周りが言うのであって、私自身は別に……」
「聡明なフランチェスカさんだからこそ、そのきっかけを見つけることができますわ。必ず」

 しばらく思いつめるような表情を見せていたフランチェスカだったが、やがてため息をついた。

「亜里沙にまでお説教されるとは思わなかったわ」
「すみません、失礼なことを言って」
「ううん、ありがとう。きっと私は誰よりも、こういう問題に関して、未熟なんだわ」
「うふふ。だからきっとみんな、フランチェスカさんを応援したくなるんですわ」

     *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

 亜里沙の復帰を明日に控え、フランチェスカのラヴァーズ当番も今夜で終わりだった。
 どういうわけか、今夜のラウンジは人も少なめで、フランチェスカも見知った艦橋詰めの士官と、当たり障りの無い会話の相手をした程度だった。
 それも去ってしまうと、フランチェスカは暇をもてあましていた。
 隅のボックス席で仲間内だけの談笑をしている兵士たちが一組。
 メリッサはいつの間にかお誘いでもあったのか姿が見えず、ダニエラはフェルナンド中尉と楽しそうに、しかし親密そうに二人だけの時間を楽しんでいるようだった。

 カウンターで酔い覚ましのレモン水を舐めていると、ふと思い出した様に言った。

「ねぇ、マスター」
「何だ?」
「マスターは、好きな人いるの?」
「ん? 俺はとっくに結婚して、妻も子供もいるぞ。知らなかったのか?」
「そう……」
「それがどうかしたか?」
「その人って、普通の女の人?」
「まあな。上司の勧めで結婚した」
「お見合いなの?」
「そうだ」
「それじゃ、恋愛問題の事聞いても、参考にならないか」
「ぶっ、なんだそりゃ。まさか大尉からそんなことを聞かれるとは思わなかったな。ははは」
「笑うことないでしょ」
「まぁ、俺のことを聞いても参考にはならんと思うが、結婚生活においての心構えぐらいなら教えられるな」
「何よ、それ」
「家庭においては、男ってのは見栄っ張りで馬鹿だ。だが、女は賢くて我慢強い」
「それは、名言かもね」
「だろう? 連れ合いと長くやっていくには、それを忘れない事だ」
「でも、それじゃ女のほうが損じゃない?」
「男ってのはおだてておけば、果てしなく上まで上がっていくもんさ。煙みたいにな。それを笑ってやりゃあいいのさ。ひょっとしたら、うっかり何か落としていくかもしれんからな。ははは」

 グラスを拭きながら笑うマスターにつられて、フランチェスカも力なく笑うのだった。

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