Latest Entries
星の海で(10) 「Be My Lover」 (13)パーティーの夜
(13)パーティーの夜 ----------------------------------------------------------
アドミラルデイ当日。
アンドレア・ドリアの広いフライトデッキいっぱいに、パーティー会場が作られていた。
デッキよりも一段高い位置で停止させた、艦載艇用のエレベーターにはステージが設けられ、ラヴァーズはもちろん、有志の兵士・士官たちがさまざまなパフォーマンスを繰り広げていた。
会場にはアンドレア・ドリア乗組員以外にも、他の艦から大勢の人間が集まり、大変な賑わいとなっていた。
フランチェスカは裏方に徹し、普段の士官服のまま、雑多な業務を目の回るような忙しさでこなしていた。
そして昼の部が終わり、夜の部は艦内のいくつかの場所に別れて、それぞれに宴会の席が用意された。
ラウンジでは、亜里沙の快気祝いのパーティーが行われ、艦の主だった人物が顔を揃えていた。
昼間は裏方に徹していたフランチェスカも、請われてラヴァーズのドレスに身を包み、会場の華となっていた。
そして会場の隅。宴が盛り上がりを見せる頃合を見計らって、リッカルドは席を立ち、ラウンジを出ようとした。
「あら、提督。もうお戻りですか?」
リッカルドが振り返ると、グラスを持ったエミリアが立っていた。
「艦橋が手薄でな、当直士官が一人居るだけなんだ。せっかくのパーティーだし、彼と代わってやろうと思ってな」
「あら、提督も大変ですわね」
「まぁな、でなきゃ勤まらんよ」
「後で、彼女を行かせますわ」
「ふん」
リッカルドは、鼻で返事をすると、手をひらひらさせて会場を後にした。
エミリアはグラスをマスターに預けると、フランチェスカの元に寄った。
「フランチェスカさん」
「ああエミリア、どうしたの?」
「提督のお姿が見えないですけど」
「リッカルドのことなら、エミリアの方が良く知っているんじゃないの?」
「確かに、今あの方がどちらにいらっしゃるか、本当は私、知っていますわ」
「そう……。それなら、どうして私に聞くの?」
「リッカルドさんが、今どこにいらっしゃるか、知りたくはありませんか?」
「別に、私は……」
「まだ、誤解していらっしゃるのですね」
「だって……」
「私が言いたかったのは、今が“その時”ではありませんか? ということですわ」
「“その時”?」
「仲直りのチャンスだと、いうことです」
「リッカルドが仲直りしたいと思っているかは、わからないよ」
「リッカルドさんのこと、まだ信じてあげられないの?」
「良く、分からない……」
口ごもるフランチェスカの肩に、エミリアはそっと手を載せた。
「私は、とっくにリッカルドさんは貴女に、意思表示をしていると思いますよ。あとは、貴女ご自身の問題でしょう?」
「私の?」
「そう。フランチェスカさん自身は、どうしたいの?」
「……」
フランチェスカは即答することができず、エミリアを見上げた。
今にも泣き出しそうな、恋に怯える少女の様に不安な顔をしていた。
エミリアは少しかがんで目線をフランチェスカに合わせると、優しく語りかけるように言った。
「戦場で判断を誤った事の無いといわれる、聡明なフランチェスカさんも、自分自身の気持ちになると、決心が鈍いんですのね」
「でも、どうすれば良いのか、本当に……、判らないんだ」
「たぶん、リッカルドさんは貴女のことを、自分の副官であると言う以前に、一人の女性として認識していらっしゃるんだと思います。そんな彼の気持ちも、判ってあげてはどうかしら?」
「リッカルドは、私とはなんていうか……、戦友として互いに必要としているだけだと、思うんだ。男ばかりの世界で過ごしてきたから……」
「男同士の友情を超えるような、感情なんて無いと?」
「うん……」
「でも今は、フランチェスカさんは女性なんですよ。元男性なら、信頼に足る女性が常に傍にいたら、どうしたくなるか判りますでしょう?」
そう言われたフランチェスカではあったが、それでもまだ答えを見つけられないでいた。
「それは……」
「リッカルドは、……本当に私が好きなのかなぁ?」
「もしフランチェスカさんが過去にこだわっているのだとしたら、それよりも大切な未来のために、今しなければならないことがあるはずだわ」
「でも、リッカルドは……」
「リッカルドさんは誰が見ても、フランチェスカさんを”独占”したいと思っていらっしゃいますよ」
「けどそれは……、部下としての私が、欲しいだけであって……」
「“お前は部下じゃなくて恋人だ!” なんて、先輩で上司でもある提督が、あなたに言えると思いますか? いえ、それは私なんかよりもずっとお付き合いの長い、フランチェスカさんの方が良くご存知ですよね?」
「……」
「フランチェスカさんが戸惑い、悩んでるのと同じぐらい、リッカルドさんも傷つき、苦しんでおられますわ。だからどうして良いか判らなくて、子供見たいに拗ねていらっしゃるのだと思いますわ」
「リッカルドが、苦しんでる……?」
「彼の不安と苦しみを解消する、おまじないを教えて差し上げます。そうすれば、きっと仲直りできますよ」
そういうとエミリアはフランチェスカの耳元に口を近づけて、あることを囁いた。
「うん……。ありがとう、エミリア。リッカルドとちゃんと話して見るよ」
「ええ、それが良いですわ。リッカルドさんは、艦橋にお一人でいらっしゃいますよ。行っておあげなさい」
「わかった、行って見る」
アドミラルデイ当日。
アンドレア・ドリアの広いフライトデッキいっぱいに、パーティー会場が作られていた。
デッキよりも一段高い位置で停止させた、艦載艇用のエレベーターにはステージが設けられ、ラヴァーズはもちろん、有志の兵士・士官たちがさまざまなパフォーマンスを繰り広げていた。
会場にはアンドレア・ドリア乗組員以外にも、他の艦から大勢の人間が集まり、大変な賑わいとなっていた。
フランチェスカは裏方に徹し、普段の士官服のまま、雑多な業務を目の回るような忙しさでこなしていた。
そして昼の部が終わり、夜の部は艦内のいくつかの場所に別れて、それぞれに宴会の席が用意された。
ラウンジでは、亜里沙の快気祝いのパーティーが行われ、艦の主だった人物が顔を揃えていた。
昼間は裏方に徹していたフランチェスカも、請われてラヴァーズのドレスに身を包み、会場の華となっていた。
そして会場の隅。宴が盛り上がりを見せる頃合を見計らって、リッカルドは席を立ち、ラウンジを出ようとした。
「あら、提督。もうお戻りですか?」
リッカルドが振り返ると、グラスを持ったエミリアが立っていた。
「艦橋が手薄でな、当直士官が一人居るだけなんだ。せっかくのパーティーだし、彼と代わってやろうと思ってな」
「あら、提督も大変ですわね」
「まぁな、でなきゃ勤まらんよ」
「後で、彼女を行かせますわ」
「ふん」
リッカルドは、鼻で返事をすると、手をひらひらさせて会場を後にした。
エミリアはグラスをマスターに預けると、フランチェスカの元に寄った。
「フランチェスカさん」
「ああエミリア、どうしたの?」
「提督のお姿が見えないですけど」
「リッカルドのことなら、エミリアの方が良く知っているんじゃないの?」
「確かに、今あの方がどちらにいらっしゃるか、本当は私、知っていますわ」
「そう……。それなら、どうして私に聞くの?」
「リッカルドさんが、今どこにいらっしゃるか、知りたくはありませんか?」
「別に、私は……」
「まだ、誤解していらっしゃるのですね」
「だって……」
「私が言いたかったのは、今が“その時”ではありませんか? ということですわ」
「“その時”?」
「仲直りのチャンスだと、いうことです」
「リッカルドが仲直りしたいと思っているかは、わからないよ」
「リッカルドさんのこと、まだ信じてあげられないの?」
「良く、分からない……」
口ごもるフランチェスカの肩に、エミリアはそっと手を載せた。
「私は、とっくにリッカルドさんは貴女に、意思表示をしていると思いますよ。あとは、貴女ご自身の問題でしょう?」
「私の?」
「そう。フランチェスカさん自身は、どうしたいの?」
「……」
フランチェスカは即答することができず、エミリアを見上げた。
今にも泣き出しそうな、恋に怯える少女の様に不安な顔をしていた。
エミリアは少しかがんで目線をフランチェスカに合わせると、優しく語りかけるように言った。
「戦場で判断を誤った事の無いといわれる、聡明なフランチェスカさんも、自分自身の気持ちになると、決心が鈍いんですのね」
「でも、どうすれば良いのか、本当に……、判らないんだ」
「たぶん、リッカルドさんは貴女のことを、自分の副官であると言う以前に、一人の女性として認識していらっしゃるんだと思います。そんな彼の気持ちも、判ってあげてはどうかしら?」
「リッカルドは、私とはなんていうか……、戦友として互いに必要としているだけだと、思うんだ。男ばかりの世界で過ごしてきたから……」
「男同士の友情を超えるような、感情なんて無いと?」
「うん……」
「でも今は、フランチェスカさんは女性なんですよ。元男性なら、信頼に足る女性が常に傍にいたら、どうしたくなるか判りますでしょう?」
そう言われたフランチェスカではあったが、それでもまだ答えを見つけられないでいた。
「それは……」
「リッカルドは、……本当に私が好きなのかなぁ?」
「もしフランチェスカさんが過去にこだわっているのだとしたら、それよりも大切な未来のために、今しなければならないことがあるはずだわ」
「でも、リッカルドは……」
「リッカルドさんは誰が見ても、フランチェスカさんを”独占”したいと思っていらっしゃいますよ」
「けどそれは……、部下としての私が、欲しいだけであって……」
「“お前は部下じゃなくて恋人だ!” なんて、先輩で上司でもある提督が、あなたに言えると思いますか? いえ、それは私なんかよりもずっとお付き合いの長い、フランチェスカさんの方が良くご存知ですよね?」
「……」
「フランチェスカさんが戸惑い、悩んでるのと同じぐらい、リッカルドさんも傷つき、苦しんでおられますわ。だからどうして良いか判らなくて、子供見たいに拗ねていらっしゃるのだと思いますわ」
「リッカルドが、苦しんでる……?」
「彼の不安と苦しみを解消する、おまじないを教えて差し上げます。そうすれば、きっと仲直りできますよ」
そういうとエミリアはフランチェスカの耳元に口を近づけて、あることを囁いた。
「うん……。ありがとう、エミリア。リッカルドとちゃんと話して見るよ」
「ええ、それが良いですわ。リッカルドさんは、艦橋にお一人でいらっしゃいますよ。行っておあげなさい」
「わかった、行って見る」
コメント
コメントの投稿
トラックバック
http://okashi.blog6.fc2.com/tb.php/18372-8d0786b5