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星の海で(10) 「Be My Lover」 (14)Be My Lover
(14)Be My Lover -------------------------------------------------------
二人の様子を離れて見守っていたフェラーリオは、フランチェスカと入れ替わるようにエミリアの隣に座った。
「大尉は、提督のところへ?」
「ええ。フランチェスカさんも、ずいぶんと腰の重い方でしたわね」
「あんなに迷っている大尉を見たのは、初めてでした」
「でもそれだけにきっと、決心も固いでしょうね」
「はい、貴女のご協力に、感謝いたします。お二人の友人として、貴女に感謝いたします」
杓子定規な礼の言葉に、エミリアは少しむっとして、人差し指を立てて言った。
「ところで、ひとつ質問があります」
「私にですか?」
「ええ」
「なんでしょう?」
「なぜ、私のところに、ご相談にこられたのですか? ラヴァーズの誰かに相談するにしても、階級待遇が最上位で、フランチェスカさんのお手伝いもしている、メリッサに相談なさるのが、自然かとは思いますが?」
「それは……」
明らかに答えに窮していると、誰にでもわかるフェラーリオの様子に、今度は満足げな笑みを浮かべたエミリアは、できるだけ優しい声で言った。
「うふふ。実は私、気がついていましたのよ。参謀殿がずっと前から、“私の当番の時に限って”、ラウンジに来てくださっている事」
「う、……そ、それは……」
顔を真っ赤にして口ごもり、下を向くフェラーリオに、エミリアは満足げに目を細めた。
「エミリア殿、ひとつ聞いてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「こんな事を言うのは失礼かもしれないが、元男性だった、あなた方が、その、女性として男性を見ているのか、それともやはり本気などではなくて、義務感とか、単に仕事として割り切っているだけなのか……」
「まぁ、アメデオまで、そんなことをおっしゃるの?」
「いや、私はつまり、その……」
「最近では、ラヴァーズと兵士や士官との結婚例も、多いと聞きますわ」
「それは……、昔から同性婚が無かったわけではありませんし……」
「元男性だったラヴァーズと、普通の男性が結婚するのはおかしい。気持ち悪いと、アメデオは思うのね?」
「いや、決してそんな差別的な考えを持っているわけではなくて……」
「私は、過去の経緯はあるにしても、今の自分は女性だと思っています。アメデオは私の事、そうは思ってくれないの?」
「い、いや、その……、からかわないでいただきたい。自分は」
「誰とでも寝るラヴァーズなんか、女としては最低だと」
「そんな事は決してありませんぞ! 貴女がそうなさっているのは仕事だからであって、もし仕事をする必要が無ければ、自分と……」
「アメデオと?」
「いや、今のは忘れてください。他人の人生に口出しするほど、自分は大それた人間では……」
「誰かに好意を持ったり、恋愛感情を抱いたりする事はどんな人間にも赦されている、基本的権利ですわ」
そしてフェラーリオの耳元にそっと顔を寄せて、囁いた。
「今夜は私も予定がありませんの。もしよろしければ、誘ってくださらない? アメデオ」
「は、はぃ。喜んで!」
エミリアはそっとフェラーリオの左手に自分の手を絡ませた。
そして、エミリアがそっと何かを耳打ちすると、フェラーリオは顔を少し赤らめて、エミリアに左手の人差し指と中指を握らせ、ゆっくりと席を立った。
後に残された飲みかけのグラスの氷が、笑うように音を立てた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
リッカルドは当直士官をパーティー会場へ行かせると、自分一人きりになった艦橋を、ぶつぶつと何かをつぶやきながら、落ち着き無く歩き回っていた。
フランチェスカになんと言うか、それを考えていたのだった。
「“お前はもうラヴァーズじゃないんだから、そんなことしなくてもいいんだ!” ……いや、それは前にも言った。“お前は俺の副官の仕事だけをしてればいいんだ!” いや、それだと……。ああぁっあああ! 何で俺がこんなことで悩まなけりゃいけないんだ! 俺は上司だぞ! 提督だぞ! フランチェスカはなんだ!? 俺の副官だろう! 士官学校時代に散々面倒を見てやった後輩で、一緒にいくつもの戦場を駆け抜けて、戦果を共にしてきたって言うのに! 勝手に女なんかになりやがって! 俺にどうしろってんだ! 俺に!」
だが関係の改善を図らなければ、艦隊の士気にも影響するのは明白だった。
そのときふと、エミリアの言葉が蘇った。
『艦隊の士気? いえ、リッカルドさんの士気の間違いではありませんの? それならば、自ずと何をすべきか、ご自身でお判りになるでしょう? 艦隊のためではなく、貴方ご自身のために、フランチェスカさんにきちんとご自分のお気持ちを、伝えるべきだと思いますわ』
「……俺自身のためにか」
リッカルドは少し考えてから、口に出していってみた。
「“フランチェスカ、お前がいないと、俺は駄目なんだ”
……って、言えるか! そんな恥ずかしいセリフ!! ああぁあっ! くそっ! 何だってあいつは、ラヴァーズなんかになっちまったんだっ!」
しばらく腕を組んで、立ち尽くしたまま再び考え込んだリッカルドだった。
そして、自分を納得させるかのように、口に出した。
「フランチェスカ。お前は、俺だけのラヴァーズでいればいいんだ」
「うん、わかった」
リッカルドは思わぬ方向からの声に驚き、後ろを振り返った。
そこには、パーティードレス姿に少し顔を赤らめた、フランチェスカが立っていた。
「あ、いや……その」
「リッカルドは、……私にとって、とても大切な人だよ。言葉では言い表せない。だから、リッカルドがそんなに言うんだったら、もうラヴァーズの当番はしないよ」
そういうとフランチェスカは、ゆっくりとリッカルドに歩み寄り、リッカルドの手を握った。
左手の人差し指と中指だけを。
計算外の出来事に、リッカルドは動揺を隠し切れなかったが、機会を得てそれを逃す男でもなかった。
リッカルドはフランチェスカを抱き寄せ、白くて小さな頤に手を添えた。
フランチェスカも上を向いて背伸びをし、そして目を閉じた。

<星の海で 終わり>
(E)
二人の様子を離れて見守っていたフェラーリオは、フランチェスカと入れ替わるようにエミリアの隣に座った。
「大尉は、提督のところへ?」
「ええ。フランチェスカさんも、ずいぶんと腰の重い方でしたわね」
「あんなに迷っている大尉を見たのは、初めてでした」
「でもそれだけにきっと、決心も固いでしょうね」
「はい、貴女のご協力に、感謝いたします。お二人の友人として、貴女に感謝いたします」
杓子定規な礼の言葉に、エミリアは少しむっとして、人差し指を立てて言った。
「ところで、ひとつ質問があります」
「私にですか?」
「ええ」
「なんでしょう?」
「なぜ、私のところに、ご相談にこられたのですか? ラヴァーズの誰かに相談するにしても、階級待遇が最上位で、フランチェスカさんのお手伝いもしている、メリッサに相談なさるのが、自然かとは思いますが?」
「それは……」
明らかに答えに窮していると、誰にでもわかるフェラーリオの様子に、今度は満足げな笑みを浮かべたエミリアは、できるだけ優しい声で言った。
「うふふ。実は私、気がついていましたのよ。参謀殿がずっと前から、“私の当番の時に限って”、ラウンジに来てくださっている事」
「う、……そ、それは……」
顔を真っ赤にして口ごもり、下を向くフェラーリオに、エミリアは満足げに目を細めた。
「エミリア殿、ひとつ聞いてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「こんな事を言うのは失礼かもしれないが、元男性だった、あなた方が、その、女性として男性を見ているのか、それともやはり本気などではなくて、義務感とか、単に仕事として割り切っているだけなのか……」
「まぁ、アメデオまで、そんなことをおっしゃるの?」
「いや、私はつまり、その……」
「最近では、ラヴァーズと兵士や士官との結婚例も、多いと聞きますわ」
「それは……、昔から同性婚が無かったわけではありませんし……」
「元男性だったラヴァーズと、普通の男性が結婚するのはおかしい。気持ち悪いと、アメデオは思うのね?」
「いや、決してそんな差別的な考えを持っているわけではなくて……」
「私は、過去の経緯はあるにしても、今の自分は女性だと思っています。アメデオは私の事、そうは思ってくれないの?」
「い、いや、その……、からかわないでいただきたい。自分は」
「誰とでも寝るラヴァーズなんか、女としては最低だと」
「そんな事は決してありませんぞ! 貴女がそうなさっているのは仕事だからであって、もし仕事をする必要が無ければ、自分と……」
「アメデオと?」
「いや、今のは忘れてください。他人の人生に口出しするほど、自分は大それた人間では……」
「誰かに好意を持ったり、恋愛感情を抱いたりする事はどんな人間にも赦されている、基本的権利ですわ」
そしてフェラーリオの耳元にそっと顔を寄せて、囁いた。
「今夜は私も予定がありませんの。もしよろしければ、誘ってくださらない? アメデオ」
「は、はぃ。喜んで!」
エミリアはそっとフェラーリオの左手に自分の手を絡ませた。
そして、エミリアがそっと何かを耳打ちすると、フェラーリオは顔を少し赤らめて、エミリアに左手の人差し指と中指を握らせ、ゆっくりと席を立った。
後に残された飲みかけのグラスの氷が、笑うように音を立てた。
リッカルドは当直士官をパーティー会場へ行かせると、自分一人きりになった艦橋を、ぶつぶつと何かをつぶやきながら、落ち着き無く歩き回っていた。
フランチェスカになんと言うか、それを考えていたのだった。
「“お前はもうラヴァーズじゃないんだから、そんなことしなくてもいいんだ!” ……いや、それは前にも言った。“お前は俺の副官の仕事だけをしてればいいんだ!” いや、それだと……。ああぁっあああ! 何で俺がこんなことで悩まなけりゃいけないんだ! 俺は上司だぞ! 提督だぞ! フランチェスカはなんだ!? 俺の副官だろう! 士官学校時代に散々面倒を見てやった後輩で、一緒にいくつもの戦場を駆け抜けて、戦果を共にしてきたって言うのに! 勝手に女なんかになりやがって! 俺にどうしろってんだ! 俺に!」
だが関係の改善を図らなければ、艦隊の士気にも影響するのは明白だった。
そのときふと、エミリアの言葉が蘇った。
『艦隊の士気? いえ、リッカルドさんの士気の間違いではありませんの? それならば、自ずと何をすべきか、ご自身でお判りになるでしょう? 艦隊のためではなく、貴方ご自身のために、フランチェスカさんにきちんとご自分のお気持ちを、伝えるべきだと思いますわ』
「……俺自身のためにか」
リッカルドは少し考えてから、口に出していってみた。
「“フランチェスカ、お前がいないと、俺は駄目なんだ”
……って、言えるか! そんな恥ずかしいセリフ!! ああぁあっ! くそっ! 何だってあいつは、ラヴァーズなんかになっちまったんだっ!」
しばらく腕を組んで、立ち尽くしたまま再び考え込んだリッカルドだった。
そして、自分を納得させるかのように、口に出した。
「フランチェスカ。お前は、俺だけのラヴァーズでいればいいんだ」
「うん、わかった」
リッカルドは思わぬ方向からの声に驚き、後ろを振り返った。
そこには、パーティードレス姿に少し顔を赤らめた、フランチェスカが立っていた。
「あ、いや……その」
「リッカルドは、……私にとって、とても大切な人だよ。言葉では言い表せない。だから、リッカルドがそんなに言うんだったら、もうラヴァーズの当番はしないよ」
そういうとフランチェスカは、ゆっくりとリッカルドに歩み寄り、リッカルドの手を握った。
左手の人差し指と中指だけを。
計算外の出来事に、リッカルドは動揺を隠し切れなかったが、機会を得てそれを逃す男でもなかった。
リッカルドはフランチェスカを抱き寄せ、白くて小さな頤に手を添えた。
フランチェスカも上を向いて背伸びをし、そして目を閉じた。

<星の海で 終わり>
(E)
コメント
連載お疲れ様でした。
次回作も期待しております~♪
次回作も期待しております~♪
というわけで、「星の海で」はこれでおしまいです。長い間お付き合いありがとうございました<(_ _)>
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キュートだけど深い題材だったと思ったり。
楽しめました。
ありがとです。