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アスランとナタリー ~策謀の秩序~ by.黒い枕&松園 〈5-1〉



王都とは言わないまでも、人で賑わう街。
その街のあるひとつの喫茶店で、二人の人物が密談を交わしていた。
否、『人』と言うのは語弊がある。
片方は世界の平和と秩序を司るエルフ。そして、もう一人は先日勇者一行を襲った魔王軍の残党――ラミアのナーガだった。
今は人間の姿に化けている彼女が、口を開く。
「それで首尾はどうなのかしら――ルート?」
問われたエルフの少年――ルートは、普段通りの微笑で言う。
「問題ありません。こちらの予定通りに勇者一行は国から逃亡しましたよ」
「そう。ならこれで人間たちも、エルフたちもあちらに意識を向けるしかない。――あたしたちが活動するのには都合のいい状態ね。……流石ね」
「当然ですよ」
『まあ、もっとも勇者たちが危うく捕まりそうで、こちらの筋書きが狂いそうでしたがね』と締めくくりながら、ルートは頼んだお茶に手を伸ばす。
そんな彼にナーガは、軽い口調で労った。
「――二重スパイ、お疲れ様」
「……魔王様とは違い、上が馬鹿ばかりでそれだけが悩みの種ですよ。エルフの女王は傲慢で、人間の新国王は小心者の二流王。……私たちにとっては有難いのですが……心労が絶えませんよ」
「頑張りなさいよ、魔王様からの勅命なんだから」
「……勿論です。全ては敬愛すべき我が主のためなのですから」
エルフの女王の忠実な部下である筈のルート。
彼はナーガと同じ、魔王の配下の者だった。
敵側の内部に侵入し、相手の情報を収集しつつ、その思考を上手く誘導する。
首尾は上々のようで、一先ず人間の国と、エルフの国は、今のところ驚異にならないようだ。
「で、どうだったの?勇者たちの実力は……」
「……正直な感想としては、流石の一言ですね。ナナミにナターシャ、ナタリー……そしてアスラン。彼らは警戒に値します」
「……え?あの坊やも……?今は無力な小娘でしかないんじゃないの?」
唯一の懸念。
自分たちの囮となって逃亡しているであろう勇者たちに関して問いかけると、ルートの口から意外な言葉が漏れてくる。
「宝具こそないですが、今の彼らの実力は、他の人間とは比べられないほど高い次元にいます。それに勇者……あのアスランに関しては、どうも妙な力を手に入れたようです」
「……え?力……?何よ、それ?」
「どうも魔王様の遺産の力を取り込み、変身する能力を身に付けたようです。身体能力も、上がっていましたよ」
「変身……身体能力の向上……?どこかで聞いたことあるような……ないような……うーん」
「本来の剣術を取り戻した彼の腕に、私は驚きを隠せませんでした。お陰で体中が傷だらけですよ」
「――そうあなたにそこまで言わせられるなんて、確かにあの坊やは……いいえ、あの勇者は確かにあたしたちの敵ね」
ルートの戦闘能力は魔王にも一目を置かれている。
そんな彼を一時的とは言え、追い詰めるアスランの力。
危険である。
今、ナーガの中で再び彼が、勇者として認められた瞬間だった。
「……でも、勇者たちだって逃げなければならないし、恐らく入れ替わった魂を元に戻そうとしているんじゃないかしら?なら当分の接触は必要ないわね――時期を見て、今度こそケリを付けてやる」
「……そうでないと私が苦労して、彼らを囮にした計画が台無しですよ」
「うふふ、確かに――あっ、それで念の為に確認するけど連中は今、どこにいるのかしら?」
ぴくっ。
仮面のように不動な顔が、僅かばかりに強ばった。
「ルート?」
「いや……それが!その……流石と言うか……」
「まさか……追跡出来てないの!?」
「……はい」
ほぼ完璧な仕事を遂行しているルートにしては、信じられない失敗である。
ナーガの責めるような目線に、慌てて彼は言い訳を放った。
「いや……連中は変装……または変身魔法を使い……こちらが混乱するよう敢えて情報をばら撒いているみたいなんですよ!」
「どういう意味……?」
「ええ……実は部下に情報収集をさせているのですが――」
ルート曰く、ここ数ヶ月――王都での騒ぎから――『ナタリー』と言う娘の目撃情報が後を立たないのだ。
しかも、その情報もところどころ全てが噛み合っていない。
金髪の女剣士が山賊を蹴散らしたと一人の部下が聞いてくれば、今度は別の部下から魔物の巣を退治した魔道士の娘がいた。
致し方なく自分で調べてみれば、魅惑の踊り子が辺境の町の祭りに参加した等――。
その全ての女が、『ナタリー』名乗っているのだ。
「でも、それなら虱潰しで探せば――」
「考えても見てください。勇者たちの捕縛はあくまでも秘密に処理しなければならないんですよ?そのため人為は限られてきます。相手もそれが分かっているんでしょう。だからこそ敢えて情報をこちら側に与えているんです。事実、彼らを見失ってしまいましたよ……はぁあ」
疲れたように吐息をこぼし、ルートがカップに口を付ける。
「ほんと、あの王女も、あの国王も文句ばっかりは一人前で。……そもそもナタリーなんて名前はさして珍しい名前でもないですしね。他の三人に関しても……変装やら、行動する人数を変更しているやらで……毎回調べる度に容姿や、人数……果ては性別すらも違っているんです!……それを分からずに、ネチネチと!……ああ!あの頭をかち割りたくて死んでしまいそうだ!」
勇者たちへの追跡の失敗。
そのことをエルフの女王と人間の新国王に、小言を言われ続けているらしい。
仮の上下関係だからこそ、堪え難い物があるのだろう。
「あっ……そ、そうなんだ。……ルート、頑張ってね?」
初めて見るかもしれない、憤慨するルートの顔に、ナーガは言い掛けた文句を引っ込める。
(……しかし、やっぱり油断のならない人間たちね。……でも、エルフや人間たちを翻弄するには、それくらいやってくれた方がいいのかしら?)
ルートには申し訳ないが、勇者たちにはまだ利用価値がある。
それまでは逃げ続けて貰った方が、こちら側には都合がいいのだ。
魔王軍の再建、そして魔王の復活のために。
そして、その後こそ――決着をつける時だ。
「……あら?」
彼女らの絶対の神――魔王を封印した憎き怨敵への殺意を胸の内にしまったナーガの瞳に、街路を歩く一人の娘が見える。
なかなかの魔力を持っている貴重な『人材』だった。
「……仕事は迅速かつ素早くお願いしますね」
「分かっているわよ」
ルートの任務は敵勢力への情報収集とかく乱。
そして、ナーガは来るべき時に備えての戦力拡大。
にゅる、と漏れ出した舌先で、唇を舐め上げる。
「……お会計は済ませておきます」
「お願いね」
「いえ――全ては魔王様のためですから」
料金を支払いに行くルートに一瞥だけ済ませると、先ほどの娘を追いかけるナーガ。
(……よしよし。順調、順調……これで三十二体目――!)
人混みが溢れ返る道を、何故かスムーズに歩き、やがて裏路地に入る。
瞬く間に本来の姿に戻ると、狭い路地の壁を上へ、上へと登っていった。
「さぁ、いらっしゃい――新しい私の妹!」
その声に、どんな力が、どんな魔力が込められていたのかは定かではない。
だが、その大きな瞳に見据えられたある女性は、フラフラと人気のない裏道へと歩いてゆく。
そして――。
「あれ、わたし……なんで」
「頂き――まーす!!」
「えっ?」
がぶりっ!ぐちゅ、ぐちゅ――げぷっぅ!
数秒足らずの出来事だった。
後に残されていたのは、大型獣の唾液らしき汚濁に塗れた女性の髪飾りだけだった。

魔王の封印による、魔王軍の崩壊、下級魔物の弱体化および鎮圧化に成功した王国。
だが、大規模な人的被害は嘘のように無くなりながらも、唐突な行方不明者は、以前にも増して報告されるようになっていた。
だが、王国は密かに行っている勇者捕縛に力を注いでいるため、そのような報告に対する調査は大したこともせずに処理される。

魔王軍の残党――ラミアのナーガによって、既に多くの国民が、人外なる者へと改造されているとも知らずに。

今日も王国全土は、魔王討伐に浮かれきっているのだった。

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