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【投稿小説】牛上家の子供 ①

作.名無しのゴンベエ
イメージキャラ作成:シガハナコ

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恐ろしい。

この少女が恐ろしい。

私は写真を見てそう思った。



春の新芽が吹き始めたころ、私は旧帝大の精神科医としてある山の中の田舎町に来ていた。

田舎とは文字通り田舎で、車を持たない私が町の移動手段に考えていたタクシーは走っておらず、都市部経由の電車も二日に一度しか無かった。

道行けばかつては運営していたであろう酒屋、タバコ屋は息をひそめ、駄菓子屋に至っては瓶コーラ自販機が故障していた。

一先ず最寄りの、酷く天井の低い定食屋で一服着いたとき、目的地まで迷わずたどり着けるか不安になってしまった。

春の日差しを受けながら、道行く人に何度も道を尋ねた。中には自転車を引く高校生もいて、坂道を歩きながら流行のスマホのゲームについて喋っているのを見かけた。

どうやら過疎化が進んでいるとは言えども、まだ町に活気は残っているようだ。

そんなことを考えながら私は足を動かした。曲がりくねった林道を何とかして歩ききると、ようやく私の目的地に着いた。

山中の田舎町に存在する、この地域で一番の権力を持つ富豪の家、牛上家の屋敷だった。石造りの高い塀に囲まれた建物はまるで要塞のようだった。

チャイムを鳴らすと昭和風の女中が応対した。そのまま流れるように屋敷の応接間に案内され、ソファに座った私にお茶を差し出し、すぐに引っ込んでいった。

お茶を啜りながら待っていると、しばらくしてこの屋敷の主人と見受けられる中年の男が入ってきた。私を見ると安堵の表情を浮かべていたが、何処か血色の悪い表情だった。

私たちは適当に挨拶を済ませた。

「先生、この度は亡き父の知り合いと言うことでこんな山奥に相談に来ていただいて本当に有難うございます…!」

「いえ、人の苦しみにともに向かい合うのが精神科医としての仕事ですから…」

そう言ってお互いに頭を下げたとき、屋敷の主人は懐から一枚の写真を出して私に見せた。

「では、さっそくなのですが…、先生にこの写真の娘を診ていただきたいのです…」

心なしかその写真を持つ主人の手は酷く震えていた。この世にあらざる何かを見たかのように顔面蒼白になって私に差し出した。これまで、精神病患者の親族を見てきた事があったが、どうも見た限り末期的か、あるいはそれ以上なようであった。

しかし、私が訝しげにその写真を覗き込んだ時、その震えの意味が分かった。その姿を見た瞬間、身体中の血液という血液が逆流し、皮膚という皮膚が鳥肌を立てた。

隠すまでもない。それが冒頭、私が恐ろしいと感じた少女の写真だった。

絹のような白い肌。肩まで伸びる透き通った黒髪。端正な顔立ちに、華奢な身体。桃色の着物を羽織るそれは、まさしく美少女と言っても過言ではなかった。

しかし、何処か様子が違った。

まず写真の移された場所が変だった。コンクリートの壁に囲まれた部屋には窓がなく、無限に広がる暗闇にわずかに残された蝋燭の光だけが、そこに移された美少女の姿を私にとらえさせた。

「ここは……まさか」

「はい、我が牛神家の座敷牢でございます…」

「━━━━━!!」

私は言葉を失った。私的な理由で対象を閉じ込め、外界との接触を一切遮断する施設。下手すれば監禁罪で逮捕される代物である。電気が普及し始めた昭和頃には消えていったはずの座敷牢が、まさか平成の世に残っていたとは…。唖然とする私だったが、映る少女の最大の恐ろしさは、決して座敷牢などではなかった。

真に恐ろしいのは、座敷牢に閉じ込められた美しい少女自身だった。

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