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【投稿小説】牛上家の子供 ④
【投稿小説】牛上家の子供 ①
【投稿小説】牛上家の子供 ②
作.名無しのゴンベエ
イメージキャラ作成&挿絵:シガハナコ
「肝試し…?」
「そっ。今度河原で夏祭りがあるだろ?そこで時間をつぶしたら男子オンリーで行くんだ」
夏の空の下、僕とケンちゃんは放課後に駄菓子屋に来ていた。
住宅街の中にポツリとあるそこには、うめせんべい(税込二十円)やチョコゲッツ(税込十円)、僕が今食べてるチューチューゼリー(税込二十円)などが吊るされたり箱でばら売りされている。
また店先の自販機の横には『ラストファイト』『バブルパズル』『カエル大名様』と言った、小×生には今一つ馴染みのない古いゲームがある。しかしどれも五十円でプレイ出来るので不満は無い。
何時間居ても店主のおばあちゃんは文句を言わないうえ、非常に安い娯楽を提供してくれるため、お子様のお財布に優しいこの場所は僕やケンちゃんのような小×生たちの数少ない憩いの場所になっている。
ランドセルを下して、『ラストファイト』をプレイし始めたケンちゃんは僕を横目で見ながら話を続けた。
「場所はとっくの昔に潰れた病院。学校の裏山をずっと奥に歩いていくとあるんだ」
「…」
「そしてそこには怖~い幽霊が出るんだって!女の子の幽霊が居るんだって!なっ?!面白そうじゃん!怖そうじゃん!あっやられちゃった…」
「ガチじゃん…」
夢中になってはしゃぐケンちゃんを他所に、僕は苦笑いしか出来なかった。
「ヤバいってそれ。絶対近づいちゃダメなやつだよ。行かないほうがいいやつだよ!」
「何だ何だビビってんのか?まだまだオツムもお子ちゃまだもんな!」
「ちょっとやめてよ!」
「ハハハ、なんて言いたいけど俺もぶっちゃけ怖いんだよねぇ。行きたくないんだけど次の日のあだ名が『弱虫カマ野郎』にはなりたくないんだよ。お前もだろ?」
「うう…そもそも誰なの?そんな場所教えた人」
「ああ、確かねぇ…」
その瞬間ケンちゃんの手の動きがぴたりと止まった。そしてゆっくりとこちらに顔を向けて言った。
「━━━確かお前じゃなかった?」
「ええっ!僕が!?」
僕は驚いて声を荒げてしまった。食べていたチューチューゼリーをつい落としてしまった。
ケンちゃんが言うには、その肝試しに行こうって言い出した子は、真夜中に僕にその廃病院があることを教えられたらしい。
ある日、すっかり日が暮れた夜道をジョギングしていたら、人気のない真っ暗な道でひとりポツンと突っ立っていた僕が居たらしい。
そして僕はその子を見ると笑って裏山を指さし、
『あそこに行ってごらん、面白いのがあるよ…ウフフフ……!』
とその子に言ったらしい。
だから面白がって肝試しを計画したんだと、その子から聞いたそうだ。
僕は全力で否定した。
「そんなわけないじゃん!僕そういうの一番苦手なんだよ?潰れた産婦人科なんて聞いたこともないもん!」
「そう言えば…確かそいつアオイが桃色の着物を着てたって言っていたっけなあ…」
「桃色の着物…?ほらやっぱり僕じゃないよ。『女みたい』って馬鹿にされてるけどさすがにそんなの着ないよ!僕以外の別人だよ」
「だよなあ、冷静に考えればそうか…」
ケンちゃんは片腕で汗を拭いて言った。
そうだ絶対にありえない。僕は基本的に家と学校、それ以外の公園含む公共施設以外全く出歩かない。ましてや学校の裏山なんて一人で入るには不気味すぎるから、あまり行かない。そんな僕が廃病院の存在を知っている訳がない。
大体、僕には女の子の服を着る趣味なんてないのだ。全部につじつまが合わなくなる。僕はそう自分に言い聞かせた。
「とまあそんなわけだから気が向いたら言ってくれ。待ってるから」
「分かった…とりあえずお兄ちゃんに許可取ってから行くね。一緒に帰る?」
「おーう!俺ラスボス間近だから先行ってていいぜ」
「分かった。じゃーね」
とにかく、クラスメイトの男子が行くならしょうがない。学級内ではそんなに地位のない僕が拒否すれば、仲間外れにされかねない。善は急げと、踵をかえしてケンちゃんと別れようと歩き出した時だった。
『クスクスクス…』
ふと、どこからか女の子の笑い声が聞こえてきた。夏の暑さにやられた幻聴とか、耳鳴りなんかじゃなく、澄んだ高いソプラノ声が一瞬僕の脳内を横切った。
少し気になって立ち止まり周りを見渡しても、ゲームに夢中になっているケンちゃんか、駄菓子屋のうたた寝しているおばあちゃんぐらいしかいない。
「……?」
あとは交差点のど真ん中で、プールバッグとランドセルを引っさげた僕しかいない。だが確かに声が聞こえた。不気味なほどに澄んだ笑い声が…
「━━━どうした?道端で突っ立って」
後ろからケンちゃんが声を掛けた。ゲームオーバーしたのか、画面に背を向けラムネを口に入れている。
「い、いやなんでもないよ!」
とっさに我に返り、慌てて首を振った僕はまたねとケンちゃんに手を振り、急いで家路へと足を動かして行った。
その背後のカーブミラーに映る光景に、もう一人自分以外の誰かがこちらを見ていることに気づかず…。

【投稿小説】牛上家の子供 ②
作.名無しのゴンベエ
イメージキャラ作成&挿絵:シガハナコ
「肝試し…?」
「そっ。今度河原で夏祭りがあるだろ?そこで時間をつぶしたら男子オンリーで行くんだ」
夏の空の下、僕とケンちゃんは放課後に駄菓子屋に来ていた。
住宅街の中にポツリとあるそこには、うめせんべい(税込二十円)やチョコゲッツ(税込十円)、僕が今食べてるチューチューゼリー(税込二十円)などが吊るされたり箱でばら売りされている。
また店先の自販機の横には『ラストファイト』『バブルパズル』『カエル大名様』と言った、小×生には今一つ馴染みのない古いゲームがある。しかしどれも五十円でプレイ出来るので不満は無い。
何時間居ても店主のおばあちゃんは文句を言わないうえ、非常に安い娯楽を提供してくれるため、お子様のお財布に優しいこの場所は僕やケンちゃんのような小×生たちの数少ない憩いの場所になっている。
ランドセルを下して、『ラストファイト』をプレイし始めたケンちゃんは僕を横目で見ながら話を続けた。
「場所はとっくの昔に潰れた病院。学校の裏山をずっと奥に歩いていくとあるんだ」
「…」
「そしてそこには怖~い幽霊が出るんだって!女の子の幽霊が居るんだって!なっ?!面白そうじゃん!怖そうじゃん!あっやられちゃった…」
「ガチじゃん…」
夢中になってはしゃぐケンちゃんを他所に、僕は苦笑いしか出来なかった。
「ヤバいってそれ。絶対近づいちゃダメなやつだよ。行かないほうがいいやつだよ!」
「何だ何だビビってんのか?まだまだオツムもお子ちゃまだもんな!」
「ちょっとやめてよ!」
「ハハハ、なんて言いたいけど俺もぶっちゃけ怖いんだよねぇ。行きたくないんだけど次の日のあだ名が『弱虫カマ野郎』にはなりたくないんだよ。お前もだろ?」
「うう…そもそも誰なの?そんな場所教えた人」
「ああ、確かねぇ…」
その瞬間ケンちゃんの手の動きがぴたりと止まった。そしてゆっくりとこちらに顔を向けて言った。
「━━━確かお前じゃなかった?」
「ええっ!僕が!?」
僕は驚いて声を荒げてしまった。食べていたチューチューゼリーをつい落としてしまった。
ケンちゃんが言うには、その肝試しに行こうって言い出した子は、真夜中に僕にその廃病院があることを教えられたらしい。
ある日、すっかり日が暮れた夜道をジョギングしていたら、人気のない真っ暗な道でひとりポツンと突っ立っていた僕が居たらしい。
そして僕はその子を見ると笑って裏山を指さし、
『あそこに行ってごらん、面白いのがあるよ…ウフフフ……!』
とその子に言ったらしい。
だから面白がって肝試しを計画したんだと、その子から聞いたそうだ。
僕は全力で否定した。
「そんなわけないじゃん!僕そういうの一番苦手なんだよ?潰れた産婦人科なんて聞いたこともないもん!」
「そう言えば…確かそいつアオイが桃色の着物を着てたって言っていたっけなあ…」
「桃色の着物…?ほらやっぱり僕じゃないよ。『女みたい』って馬鹿にされてるけどさすがにそんなの着ないよ!僕以外の別人だよ」
「だよなあ、冷静に考えればそうか…」
ケンちゃんは片腕で汗を拭いて言った。
そうだ絶対にありえない。僕は基本的に家と学校、それ以外の公園含む公共施設以外全く出歩かない。ましてや学校の裏山なんて一人で入るには不気味すぎるから、あまり行かない。そんな僕が廃病院の存在を知っている訳がない。
大体、僕には女の子の服を着る趣味なんてないのだ。全部につじつまが合わなくなる。僕はそう自分に言い聞かせた。
「とまあそんなわけだから気が向いたら言ってくれ。待ってるから」
「分かった…とりあえずお兄ちゃんに許可取ってから行くね。一緒に帰る?」
「おーう!俺ラスボス間近だから先行ってていいぜ」
「分かった。じゃーね」
とにかく、クラスメイトの男子が行くならしょうがない。学級内ではそんなに地位のない僕が拒否すれば、仲間外れにされかねない。善は急げと、踵をかえしてケンちゃんと別れようと歩き出した時だった。
『クスクスクス…』
ふと、どこからか女の子の笑い声が聞こえてきた。夏の暑さにやられた幻聴とか、耳鳴りなんかじゃなく、澄んだ高いソプラノ声が一瞬僕の脳内を横切った。
少し気になって立ち止まり周りを見渡しても、ゲームに夢中になっているケンちゃんか、駄菓子屋のうたた寝しているおばあちゃんぐらいしかいない。
「……?」
あとは交差点のど真ん中で、プールバッグとランドセルを引っさげた僕しかいない。だが確かに声が聞こえた。不気味なほどに澄んだ笑い声が…
「━━━どうした?道端で突っ立って」
後ろからケンちゃんが声を掛けた。ゲームオーバーしたのか、画面に背を向けラムネを口に入れている。
「い、いやなんでもないよ!」
とっさに我に返り、慌てて首を振った僕はまたねとケンちゃんに手を振り、急いで家路へと足を動かして行った。
その背後のカーブミラーに映る光景に、もう一人自分以外の誰かがこちらを見ていることに気づかず…。

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