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【投稿小説】第2型ライフ ⑥

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
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作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード6》

 そして大会当日。
 8月第2土曜日。
 神奈川県北部、桜原市に位置するスポーツ施設。
 全日本中学生水泳競技大会会場、桜原ヴィゴラススポーツセンター。
 水泳用のプールのほか、大小の体育館、道場、アスレチック施設などが充実しており、屋上ではフットサルやテニスなどができる人工芝具もある。そのうちプールは地下に位置し、ひな壇の客席の最後列をぐるっと囲むガラス窓から自然光を取り入れることができる(天井の上は体育館になっていて、直射日光は届かない)。
 八重山部長をはじめとする俺たち選ばれなかった組は、柚木やキノット達を全力で応援した。
 個人競技やリレーなど、選手6人は大活躍してくれた。
 300メートルリレーでは女子の須田と小松のタッチ&ゴーのタイミングのずれが多少タイムに影響したようだが、個人では誰もが全力を発揮できたと思う。もちろん優勝候補とされた手ごわい選手には悔しさを味わわされたが、個人では男子の河内夏文が準優勝及びキノットが三位入賞、300メートルリレーでは三位の中学校と僅差と言う健闘を果たした。
 柚木やキノットたちはもちろん入賞できなかったことを悔やんでいた。小松は泣き出してしまったが、俺たちは責めることなくよくやったと肩を叩いて彼女を励まし続けた。
 もちろん、団体でも個人でも優勝を手にしたかった。それは誰でも、どの中学校のどの選手でも同じ。数ある選手の中かから個人入賞を手にしただけでも快挙だ。八重山部長はそう言って部員一同をねぎらった。

 旅館、名桜(めいおう)。
 その名の通り、旅館のいたるところに桜の木が植えられており、大きな庭園にはこれまた大きな桜の木が鎮座している。まるで龍が空に上るかのようにうねりにうねった幹が美しい。
 その庭園を一望できる2階の広間で、俺たち水泳部の部員たちは夕食を取っていた。明日に試合を控えた柚木と須田に合わせて、旅館にはタンパク質と野菜を中心にした食事を用意してもらった。俺たちのような試合に出ない組、キノット達のように今日で試合が終わってしまった組も同様だ。
 川夏先生が音頭を取る。
「みなさーん、今日は大変お疲れ様でしたぁ! 優勝こそ逃しましたが、詩の月中学校からふたりの入賞者が出たことは大変誇らしいことです。河内くんとサンペレグリノさんの栄光を称えるとともに、選手皆さんのがんばりとその他の部員の応援の頑張りを称えたいと思います!」
 川夏先生はビールが入ったグラスを手にし、僕ら部員たちは続く。
「それでは、乾杯!」
 川夏先生の言葉に、部員たちも続いて乾杯と叫ぶ。
 そこからは大盛り上がりだった。
 疲れのあまり食が進まない部員もいれば、カラオケマシンの電源を入れて音痴な歌を歌う部員もいたり、他にはお膳を女子の列に持って行っていちゃつく男女もいたりした。八重山部長はその立場からあからさまに柚木に絡む様子はないが、事情を知っている俺は八重山部長の視線がよく柚木に向いているのにいやでも気づく。
「ん……?」
 ふと見れば、キノットが僕の方を見ている(俺は女子の列に座っており、キノットは俺の隣の席だった)。
 どうやらキノットも八重山部長のことに気付いているようだ。
 ――たぶんあとで抜け駆けするよねー?
 ――ああ、するだろうな。
 アイコンタクトでうなずき合う。
 すると、ほかの女子部員がキノットを取り囲んだ。
「キノちゃーん! 入賞おめでとー!」
「ホントホント! 詩の月中のヒーローだよぉ!」
「キノちゃんは女の子なんだからヒロインでしょー?」
「やめてって、やめて、首折れる、あたたた!」
 北斗〇拳継承者か。一子相伝か。
 するとキノットを取り囲んだ女子たちのうち俺に近いところにいた女子、江戸川はるみが背後から俺に抱き着いてきた。
「ユガっちぃ~。キノちゃんの師匠としてどうなのよ。誇らしいんじゃないの、この胸が?」
 江戸川はそう言いながら、中学生にしては発達して泳ぐのに邪魔になった胸を揉んできた。
「ひゃっ!? やめろよ江戸川! 飯食ってんだぞ、男子の前だぞ!」
「じゃあ男子の前じゃなければいいんだ、このエッチ~!」
「お前にだけは言われたくねぇよこのおっぱい星人が!」
 おかげで煮込みシイタケが胸の谷間に落ちてにゅるにゅるしている。男子が見て赤くなって、茶碗を持った左手で股間を押さえてる。やめろやめろ。
 するとキノットは言った。
「うん、本当にミカンには感謝してるよ。ろくに泳げないまま入部したあたしに丁寧に泳ぎ方を教えてくれて、たった1年ちょっとで大会に出られるまでになったんだもん。今日の3位は、ミカンと一緒に勝ち取った賞だと思うよ」
「お~お~、青春だねぇ! もうあんたら付き合っちゃいなよ!」
「付き合ってるよ?」
 キノットの爆弾発言。
 これには「付き合っちゃいなよ」とはやし立てた部員、樋本伊代もその表情が凍りつく。
 いや、周辺にいた女子部員全員が凍りつき、男子部員たちも箸でつまんでいた料理をぽろっと落とす。
「………… ……マジ?」
「マジ」
「……うおぉ! うおぉマジか! 手ぇ出しちゃったか、いやこの場合は出されちゃったのか! あぁもう本当にごちそうさまだよあんたたちは!
 その後はもう、ただただ騒々しかった。
 いつの間にか河内とキノットの入賞祝い兼慰労会から俺とキノットのカップル成立祝いへとなり果て、キノットを狙っていた男子は滝のように涙を流しながら俺の首やら浴衣やらをひっつかんで揺さぶり続けた。
「うおおおおお! オレが狙ってたサンペレグリノをよくも横取りしやがってぇぇぇ!」
「許さないからな! 彼女を幸せにしないと絶っ対ぇーに許さないからな!」
「分かったから、分かったって、むち打ちになる! あとセクハラ!」
「何がセクハラだ、元男のくせに!」
 俺は俺で男子に恨み交じりの激励をもらい、隣を見ればキノットもキノットでたくさんの女子たちに囲まれ、抱きつかれていた。
 結局せっかくの料理は冷めてしまい、食べ終わったのは1時間後。しかもお膳が何度も蹴飛ばされたために食べたい料理がこぼれてしまって食べられなかった。あいつらにはあとで何かおごらせよう。

 その日の夜。
 就寝時間をとうに過ぎた、午前0時過ぎ。
 俺はふと目が覚めてしまった。
 むくりと起き上がって周りを見て見れば、同室の女子たちが小さな寝息を立てている。だが、そこにキノットの姿がない。
「キノット…… トイレかな?」
 女子に割り当てられた客室を出てスリッパをはき、非常口の誘導ランプだけの薄明かりを頼りにトイレへと向かう。結局用を済ませてトイレから出てくる間に、キノットとはすれ違わなかった。
 ――じゃあどこだ? ロビーかな。ついでに自販機にも寄って行こう。
 思った通り、階段を下りてロビーに行くと、そこにキノットはいた。
 ソファーに深く腰掛けて、手にはホットコーヒーの缶を両手で握っている。
 ロビーは薄暗く、照らしているのはわずかなオレンジ色の光とやはり非常口への誘導ランプ、そして自動販売機のショーウィンドーから洩れる光だけ。それなのにと言うべきかだからと言うべきなのか、キノットの銅色の髪が、いつもより際立って輝いている。
「キノット?」
 俺の言葉に、キノットはこちらを向いた。
「ミカン? 眠れないの?」
「いや、ちょっくらトイレに。そう言うキノットは?」
「うん。今日の大会で3位入賞したこともそうだけど、ミカンと付き合ってるって告白して水泳部のみんなにもみくしゃにされたのがどうも落ち着かなくて。もう興奮しっぱなしだよ」
「そっかぁ。そりゃ悩ましい嬉しさだな。そんでコーヒー飲んでたらまた眠れなくなるぞ?」
「いいよ、もうあきらめた。眠くなるまで起きといちゃう。大会までたくさん頑張ったんだから、今くらいは色々あきらめちゃっていいよね?」
「いいと思うぞ、俺は」
 そう言って、俺は持っていた小銭入れからコインを取ってホットの甘酒を買う。
 キノットの隣に座ってそれを開封すると、ガラスの容器からは甘い香りが立ち込め、俺とキノットはそろって飲み口に鼻を近づける。すると必然とふたりの頬が当たってしまうため、俺たちは慌てて顔を離した。
「あははは…… こうしてると恋人っぽいね」
「だな。もう恋人同士だけど。性別は同じなのに」
「あ、そうだ…… それなんだけどね、ミカン」
 俺が甘酒に口をつけると、キノットは少し思いつめたような表情と声になって、言った。
「中学生だからドーピング検査はないしそんなヤバい薬はもちろん使ってないけどね、あたし、痛み止めを飲んで今日の試合に出たんだ」
「痛み止め? どこか悪いのかよ」
「悪いって言うか、ちょっとね。でも、ミカンにとってかなりショックな話だからちゃんと聞いてね?」
「ショックなって、おい……!?」
 待てよキノット。
 痛み止めを飲んで試合に臨むほど、それも俺にとってかなりショックな話って。
 一体お前、どんな病気にかかってんだよ。それとも大ケガでもしていたとか?
 せっかくの甘い甘酒の味、甘い香り。
 もう一度寝るために心落ち着かせるために甘酒を飲んだはずなのに、全然落ち着かない。
 俺は前身の血液が凍るような感覚を覚えた。
 呼吸ができなくなっていくような気がした。
 そして。
「あたしね……?」
 キノットは告白した。



「TS病なんだって。それも第3型の」

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