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【投稿小説】第2型ライフ ⑦

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
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作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード7》

 ウイルス性性別転換症。通称TS病。
 現在は第2型がメジャーであるため、原初の病原体やそれによる症状は「第1型」とつけて呼ぶ場合が多い。
 1型TS病、発祥の地アメリカでは『プリミティブ型』とも呼ばれるそれは、男女どちらにも同じ割合、同じ確率出かかる病気だ。風邪と同様に初期段階で治療すれば反転しかけた性別も元に戻ることもあるし、性徴が現れない事もある。
 2型TS病、これは外来の病原体と反応して突然変異した病原体によるものと言われている。男性が発症することが多く、一度発症したらその進行は止められず、ほぼ完全に性別は反転する。「ほぼ」と言うのは、あまり年を取ってから発症するとかなり中途半端な性転換で終わってしまうらしい。
 そもそもどうしてこの病原体は人間(広く言えば多くの脊椎動物)の性別を反転させるのだろう? そのメカニズムはまだ解明されていないが、ある学者が建てた仮説によると「あまねく生命体の性別バランスを保ち種の保存の一助となるために存在するのでは」とのこと。本当のところはどうなのか。
 ところで近年、新たな突然変異体が出現した。まるで毎年のように新型が現れるインフルエンザウイルスのように。
 それが、第3型のTS病だ。

 第3型TS病。
 これは第2型と逆で女性に多く見られる(いや現在のところ男性が患った例のない)症状だ。その症状は男性に比べて発症率の低い女性が第2型を患って性転換する場合と全く同じで、ただ発症率の割合と病原菌の違いしか存在しない(研究者たちによる今の考え)ようだ。
 第2型の登場で、世界中の先進国では女性の割合が多くなってきている。学者が唱える「あまねく生命体の生物バランスを保つ」のがTS病の役目だと言うのなら、第2型の誕生で偏った男女比を元に戻そうとしているのだろうか?
 それは、成績が中の下のおバカな中学生ごときには分からない。
 分かることは、たったひとつ。
 せっかく俺に好意を告白してくれたキノットが、
 せっかく恋人同士になれたキノットが、
 それを患ってしまったのだ。

 旅館、名桜(めいおう)。
 ロビー。
 俺はただ、自失呆然としていた。
「キノットが、TS病……? 第3型って……?」
「うん。だから半年のうちにあたし、男の子になっちゃう」
 追い打ちのように改めて言われた。
 俺にはもう、キノットにどんな言葉をかければいいか、いや自分をどう納得させるかも分からないでいた。
 キノットは続ける。
「もう1週間くらい前かな、少し体中の節々が痛くなって病院に言って相談したら分かったんだ。でも代表に選ばれたからには、どうしても出場したい。先生に相談して、痛み止めをもらってたんだ。
 それとこの病気のことも、大会が終わったらミカンに真っ先に言うつもりだった。ホントだったら詩の月町に帰ってこっそり言うつもりだったけど」
「そ、そっか。俺だけに。そりゃありがとう…… でも、いつかはバレるぞ? 少なくとも中学卒業までには性転換も終わってるんだろ?」
「そうだね。だからお医者さんやお母さんたちとも一緒に考えたんだ。
 中学生のうちは女子で通す。その代わり高校には男子として入学すると言って受験するつもり。体育は本格的に体つきが替わったら休むことにする。水泳部も10月の県大会で終わりだし、そこまでは水泳も続けたいかな」
「………… ……そっ、か」
 俺は小さくつぶやき、キノットも静かにうなずいた。
 俺はぬるくなり始めた甘酒をぐいと飲み干し、ゴミ箱にむかってポイと放り投げる。きれいな放物線を描き、ゴミ箱に吸い込まれた甘酒のガラス瓶は「ガチャン」と音を立てた。
「ねぇ、ミカン」
「ん?」
 キノットもコーヒーをひと口飲んで、小さく言った。
「あたしが男の子になっても、好きでいてくれる?」
「……そんな当たり前なこと聞くなよ」
 俺はそう答えて、キノットの背中に腕を回す。
 そして。

「はむ……」

 俺は、キノットの唇に少し残るコーヒーの味を感じた。
 ブラックコーヒーとか、かなり久しぶりだ。
「みふぁん……?」
 唇を放す。
 あとには銀色の光がひと筋。
 俺は言った。
「それでも俺は、お前が男でも女でもキノットのことが好きなんだ。あ、でもそしたらホモになっちまうかな、俺。キノットこそ、そんな俺でも好きでいてくれるのか?」
「……えへへへ。そんな当たり前なこと、聞かないでほしいなぁ」

 その日の夜は、ずっとロビーにいた。
 ずっと眠れないでいるキノットはソファーに腰かけ、甘酒を飲んでいい気分になった俺はそんなキノットの太ももに頭を預けて膝枕を堪能していた。
 翌朝、それを見て騒然となった水泳部員に尋問の嵐を受けたのは言うまでもない。

 やがて。
 夏休みが終わり、新学期になって校長先生に水泳部の功績をたたえられ、様々な部活では2学期中盤の試合やイベントなどを期に3年生が続々と引退し、高校受験のための勉強に励む。
 俺はキノットとふたりで一緒に受験勉強に取り組んだ。たまに樋本と江戸川も顔を出すが、ふたりはふたりで別の場所で一緒に勉強しているらしい。柚木は八重山部長…… 前部長といっしょの高校を目指しているようで、こちらもこちらで一緒に勉強している。
 キノットが俺の家で勉強をしているとたまに柚木がひとりで来ることがある。その時はよき友人としておもてなしし、たまに勉強のはかどり具合を交換し合って、互いに分からないところを教え合う。
 アセロラジュースを3人で飲んでいると、キノットが柚木に尋ねた。
「それでさユズキ。スグ(=八重山の名前)とはうまくいってるの?」
「ん? ああ、そこそこね。たまに家に押しかけてくることもあるから、マンガ雑誌とかマメに捨てないとちょっと白い目で見られるのがちょっと大変かな。八重山、ああ見えてヤキモチ焼きで束縛強いところがあるから。まぁ、日ごろからポカーンとしているオレにはそんなに苦にならないのかもな」
「うまくいってるんだ。そりゃよかったよ。確かにユズキってどこかポカーンとしてるもんね。何て言うか、ミステリアス?」
「八重山もそんなこと言ってた。オレのどこが好きなの? って聞いたら、キノットが言ったようにミステリアスなところに魅かれたんだと。こっちは普通にしてるつもりなんだけどなぁ」
 まあ、何にしてもうまく言っているのはいいことだ。
 柚木も言う。
「そう言うお前たちこそどうなんだよ」
「あたしたちもいい感じだよ。ねー、ミカン?」
 キノットは臆面なく答えるが、俺は頭を掻いて詰まった答えを何とか引っ張り出そうともがく。
「恋愛事情ってもうちょっとつつましやかであるべきなんじゃないかなぁ……」
 そんなこんなで、受験勉強は進んだり進まなかったり。

 そんなこんなで俺たちは、部活動引退後の日々を過ごす。
 時に水泳部にお邪魔して後輩たちの指導および新部長である小松伊代を励ましに。
 時に受験勉強の息抜きに遊園地に遊びに出かけに。
 時に、恋人同士でしかできないイチャイチャした時間を満喫しに。
 他人から見ればあまり面白くない、それでもそれぞれに充実したとも言える時間を……
 ……ちょっとだけすっ飛ばすか。

 そして翌年。
 まあそんなこんなで、俺たちはめでたく高校生になった。
 ……ちょっとだけじゃないな。半年はすっ飛ばしたか。
 俺とキノット、柚木、そして八重山は同じ詩の月高等学校に、江戸川と樋本は別の高校に、それぞれ進学した。
 そして。
「……ねぇ、ミカン。変じゃないかな?」
 俺にそう言うのは、前は長かった銅色の髪を短く切りそろえたひとりの男子生徒。
 色白で女顔。ついこの前まで中学生だったのだからと言われそうだが、本当に中学生が無理して高校の制服を着ているようにしか見えない。ましてや、半年前まで女の子だったのだから。
「それを言うなら俺だって。どうかな、キノット?」
 すっかり男子への性転換を終えてしまった、キノットだった。
「うん、似合ってる。上を着崩してスカートも詰めたら、もっとミカンらしくていいんじゃないかな」
「入学式からそりゃ無理だな。男子制服のキノットも何だか新鮮だ。卒業式は女子の制服着てたのに」
「あははは!」
 詩の月中学校の卒業式では、キノットは女子の制服を着て臨んだ。
 中学校卒業と同時に女子としての自分も卒業し、高校生となって新しい未来をスタートした今、男子としてのスタートも切るのだと言ったのだ。
 そこに。
「おーい、入学式遅れるぞー!」
 そう遠くから声をかけてきたのは、柚木だった。隣には八重山もいる。
 おーおー入学早々お熱いねぇとからかってやりたかったけど、俺は人のことなど言えそうにない。
「おう、今行く!」
 そう短く返して、俺はキノットの手を取った。
 俺の方が握ったのに、キノットの手は少し俺の手よりも力強さを感じる。
「なぁ、キノット」
「ん?」
「俺ら、互いに性別が逆転しちまった同士だよな」
「言われてみれば、そうだったね」
「何て言えばいいか分からないけど、これからもよろしくな」
「どこからどうそこにつながったか分からないけど、ぼくこそよろしく」
 そして互いに笑って。

「あ~あ、何だか甘酸っぱいなぁ」
「何が?」
 一緒に、歩き出す。



《世界設定》
神奈川県桜原市
 よく作者の作品の舞台となる街。
 モデルは作者の地元。あまり有名じゃないけど意外とラーメン大国。
 よろしければ一度お立ち寄りください。
 作者の他の作品は、そのついでにお読みください。



《THE END》



……『?』

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