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【DLsitecom版発売】魅惑の闘技場 作.真城悠 絵.蜂密柑 第一章1 

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第一章

「おい遠藤!」
 いつもの様に自分の仕事部屋に行こうとしたところ呼び止められた。
「社長が呼んでるぜ。社長室だ」
 同期の石川だ。研修の際に席が隣だったので社内では唯一タメ口で話せる間柄だ。
「…社長?」

 会社の中で歩いたことも無い棟の深部にどんどん入って行く。
 いつも見かける灰色の光景とはちがって、誰が来てもいいようにまるでショウルームだ。ホコリひとつ落ちておらず、あちこちの壁に落ち着いた照明と骨董品みたいなものがディスプレイしてある。これが一流企業の社長室への道のりか…。
「事務課の遠藤です」
 社長室手前には「秘書室」があった。
 当たり前だが顔とスタイルと若さ…要は見た目…で選ばれる秘書課は美人揃いだ。正に高嶺の花って奴だ。
 そこを通過し、ノックの後ドアを開け、ハキハキと名乗った。
「おお。まあ掛けたまえ」
「失礼します」
 促していた秘書の美人が笑顔で会釈をする。ドアが閉まった。
 案内された「社長室」は広く、中央に立派なソファがあり、テーブルを囲み、広いデスクがあって、壁には何だか分からないけどどっかの風景画みたいなのが掛かっている。
 妙な表現だが「典型的な社長室」と言う感じだ。
「遠藤くんは…」
 向かいに座った社長が口を開きかけるタイミングで、秘書が緑茶をお盆に二つ乗せて入ってきた。
「どうぞ」
「…どうも」
 少し距離があるのにいい匂いがする。
 ただでさえ美女なのに美女オーラも半端じゃない。社長ともなればこんなのと一日顔を突き合わせられるのか…。
「鈴木くん…内密な話なので呼ぶまで入らない様に」
「はい」にっこり。
 ドアが閉まった。
「ま、遠慮なく。コーヒーが良かったかもしれんが私は緑茶党でね」
「あ、私も緑茶好きです」
 適当なことを言う。
 社長は年齢七〇と聞いている。
 年相応よりも若干若く見えるというくらい。苦労して就職を決めた、知名度はそれほどないが一流企業の社長らしく「財界人」に片足突っ込んでいて、しょっちゅう会費が万単位のパーティに呼ばれて行く。
 実に貫録のある人だった。
「遠藤くんは幾つになったね?」お茶をゾロゾロ飲む。
「…今年の誕生日で二四です」
「若いね」
「…あ、有難うございます」
 この場合は「有難う」でいいのだろうか。良く分からない。
「立ちいったことをお伺いするが、お母様は」
「あ…就職を決めた後亡くなりました」
「それはご愁傷様で」
「有難うございます」
「在籍中なら会社から香典も出したが」
「あ、大丈夫です。もうすべて終わっておりますので」
 この場合は通夜や葬式が終わっていると言う意味だ。
「母子家庭できょうだいもいなかったと聞いているが」
「…はい」
 少ししんみりした。
「あ、でも一流企業に就職が決まって本当に安心してました。有難うございます」
 別におべんちゃら言う訳ではないが素直な気持ちだった。
「そうか…。今の仕事はどうかね?」
「やり甲斐を持って毎日やらせていただいています!」
 これは少しウソだった。
 大きな会社なのだが、ここまで大きくなると事務に掛かる負担もかなり大きくなる。
 こちとら日がな一日朝から晩まで「書類書き」だ。
 それも、言ってみれば「書類のみを書く部署」の総元締めみたいなのから次々に送られてくる書類の転記チェックとか清書とか、要するに社内での「下請け」みたいな部署だ。
 営業みたいに個人成績でのし上がったり、広報宣伝部みたいに華々しくマスコミ応対をしたり、宣伝素材を企画・製作して一流クリエイターやモデルに出会ったりといったクリエイティブな部門ではない。
 今どき大企業が出自の差別をするとは思えなかったが、ごくごく普通の偏差値の大学をごくごく無難に卒業しただけの人間だけに、社内の下請けの下請けみたいな部門に押し込められた形だ。
 それでいてアホみたいに忙しいこともあるかと思いきや、半日は待機になったりする。やっと、決算時期だとか忙しい時期の目星は付く様になって来たが、誰も教えてくれる訳じゃない。全く見通しの付かない窓の無い部屋での生活は、油にまみれたりはしていないが大げさに言えばチャップリンの「モダン・タイムス」ってところだ。
「今日はちょっと君に頼まれてもらいたい」
「はい!どんなことでしょう」
「軽いお使いだ。場所は運転手が知ってる」
「…運転手さん?…ですか」
「ああ」
 送迎付きってこと?たかが平社員のお使いに?
「今日は直帰していい。きみの上司には私から言っておく」
「あ…はい」

 それが来て見ればこのザマだ。
 やっと解放されたオレは気が付くと仰向けに寝転んでいた。
「…あ…」
 見知らぬ天井…ではある。が、気を失っていたらしい。
 …ちくしょう…なんて夢だ…。
 いきなり身体を女にされて…それも目の前でムクムク変形までして…その上ウェディングドレスを着せられてキスされる?…バカバカしい。マンガやアニメじゃあるまいし、男が女になってたまるか。
 …?
 何やら耳の感触がおかしい。
「…!?ッ!」
 オレはまたイヤな予感がして、ガバリ!と一気に上半身を起こした。
「あああああっ!!」
 目の前が真っ白だった。
 白く光沢を放つ生地の洪水だ。これがたった一着の服の分量だというのか!ヤローの適当な服の一〇倍はあるぞ!
 見下ろすと目の前に「胸の谷間」があった。純白のレースに縁(ふち)どられて。
 オレは未だにウェディングドレス姿のままだったのだ。勿論、身体だって女のままだ。
「お気づきになられましたか?」
 聞き覚えのある声だ。
「時田…さん?」
 なんて可愛らしい声なのだろう。この声だけでも理性が吹っ飛んでそのまま押し倒したくなる。自分自身の声なのに。
 妙なもので「自分で自分の姿」を視認することは出来ない。恐らくは今自分の顔はうっとりするほど美しい花嫁メイクがなされているはずだが、それこそゾンビメイクさせられていたとしても鏡を見ないことには分かったもんじゃないということになる。
 …何故か反射的にそんなことを考えていた。
「ははは…大丈夫ですか?本戦を前に『お姫様抱っこ』まで体験して頂くことになってしまって恐縮です」
 …そう言えば何となくその感触に覚えがあるぞ。
 腋の下に突き入れられ、膝の裏あたりを持って運ばれている『身体の感触の記憶』が。
 お、お姫様抱っこだって…!?男のオレが!?
 かあっと顔が赤くなった。
「もっと楽なお姿になって頂くことも考えたのですけどね。残念ながらこの能力はそれほど万能と言う訳ではございませんので」
 「能力」?「能力」といったのかこのジジイは。
 場所はどうやら先ほどの部屋らしかった。
「まあ、とりあえず一通りの説明をいたしましょう。現在ならご理解いただけるでしょう」
「…」
 オレは全身の感触に注意を払った。
 何もかも分かる訳では無かったが、確かに男性器は無い感じがする。そしてクラシックでかつゴージャスなウェディングドレスが目の前に広がっている。
「結論から申し上げますと、私…時田…の持つ能力『ヴェールアップ』は対戦相手のヴェールをめくり上げて唇を奪うと言う能力です」
「…」
「一口に『ヴェールをめくり上げる』といっても、対戦相手にはそれに相応(ふさわ)しい状態になっていて頂かないといけません。何しろ『誓いのキス』ですからね」
「…」
 オレは余りのアホらしさに絶句していた。な、何じゃそりゃ…。
「対戦相手には美しい女性の肉体になって頂き、ウェディングドレスをお召しになってもらいます。というより、それを含めての能力ということになります」
「それが…『ヴェールアップ』」
「その通りです」
 確かにこの話だけ聞いたんじゃ、ヨッパライの妄想以下だろう。
 だが、現実にその「毒牙」に掛かり、慣れぬ胸の谷間を控え目に露出させられ、男の身で嫁ぎ前の生娘みたいな恰好をさせられている。信じないわけにはいかない。
「…それは分かったんですけど…だから何なんです?」
 オレは自分がこのデタラメな状況の真っただ中にいるというのに奇妙に落ち着いていることに気付いた。
「流石ですね。随分落ち着いていらっしゃる」
「…」
 何故かは分からない。ただ、明日をも知れないこの状況では泣いたりわめいたりパニックになったりしそうなものではある。
 昔からオレはこういう時、逆に落ち着いてしまう方ではあった。鳴いてわめいてどうにかなるのなら幾らでもそうするが、恐らく今は何の意味もない。
「安心してください。その状態は一定時間が経過したら元に戻ります」
「!!」
「安心して頂けたようですね」
 この化粧の上からでも分かるほど顔に出ていたらしい。これは仕方が無い。
「じゃあ何故こんな…」
 スカートの分量が物凄くて、ソファからはみ出ている。どうやらスカートを膨らませるための素材が入っているらしく、盛り上がって全く落ち着かない。
「そのままの方がご理解が早いかと思いましてね」
 確かに、元に戻ってしまえば「夢だった」で片づけられそうだが、現にこの有様ではどれほど荒唐無稽な話でも信じざるを得ない。
「…時田さんの技が『ヴェールアップ』なんですよね?」
「いかにも」
「こんなことが出来る人が他にもいるってことですか?」
「その通りです」
「どんな人たちなんです?それは一体何のために!?他の人の能力ってどんなのがあるんですか!?」
 にこりと執事スマイルを崩さない時田。
「一度におっしゃられても一つづつしかお答えできませんよ。そうですね…これまた論より証拠。本日は新人のデビューの日です。というより、そういう日を選んで樋田さんはあなたを派遣なさったのです」
 「樋田(ひだ)」とはウチのあの社長だ。
「え…じゃあ社長も知ってるんですか?」
「勿論です…そろそろ時間ですね」
「時間?…あああああっ!」
 オレの身体にまた違和感がある。馬鹿馬鹿しいが結論を言えば、オレはウェディングドレス姿の女から、ドブネズミ色のスーツにネクタイの男に戻っていた。
「…まるでシンデレラですな。夢の時間はあっという間だ」
 ギシギシと動かしながら見下ろす。間違いなく男に戻っているらしい。
 男に対して「シンデレラ」などと言って侮辱にならないのは一夜にしてスターになる「シンデレラ・ボーイ」くらいだろう。
 だが、事実であったことは間違いない。
「…質問に答えて頂けますか?」
 やはり自分の声は落ち着く。
「確かめなくても大丈夫ですか?」
 自分の身体をと言う意味だろう。
「結構」
「そうですか」
「お願いします」
「質問が多岐に渡りますのでね…」
 時田が円を描く様に歩き出した。オレはソファに座ったままである。
「本日の新人のデビューをご覧になるのがよろしいでしょう」
「新人?」
「ええ。こちらの席は特等席ですよ」
 背後に照明が付いた。
 中央にリングがある。ボードの様な板張りに目の前のガラスが壁となる多角形リングだ。
 オレは思わずソファから立ち上がり、硝子(がらす)の前に設置してあった椅子に移動した。
「…」
「飲み物はいかがです?」
「え?」
「今夜のあなたはVIP待遇です。なんなりと」
「…じゃあ、ホットのウーロン茶で」
「かしこまりました」
 居酒屋でも滅多に見ない変な注文だったのにすんなり通る。
 すると、スポットライトを浴びながら一人の男が入場してきた。周囲にアピールに余念がない。ただ、周囲には人の気配が無い。観客の居ない戦場で戦っていながらどうしてあんなにテンションが高いのだろう。
 そして…驚いた。
 「リング」が異様なほど狭いのだ。
 狭いというか、この「観客席」からの中心までの距離が五メートルも無い。
 この部屋は先端に行くほどすぼまっていて最前部は幅一メートル強というところだ。硝子(がらす)そのものがリングの壁になっており、もしも目の前で寝技の攻防などされたら「密着出来る様な距離」でくんずほぐれずが観られることになる。
「…近い…」
 思わずそうつぶやいていた。それこそ手を伸ばせば掴めそうな距離だ。実際にはガラスに阻まれているのだが。
「お持ちしました。今夜の選手のプロフィールもです」
「…どうも」
 そう言われても何が何だか分からない。対決めいたことをするらしいことだけは分かるが。
 もしかしてあれか?ヤミの闘技場で、人知れず本当に殺し合いが行われていて、その様子をスナッフ・フィルム(本当に人を殺す様子を撮影したフィルム)見るみたいに楽しもうって趣向なのか?
「時田さん、解説お願いしてもいいですか?」
「ええ…ほぅ…」
 パンフレットを一瞥するなり時田が感心したような声を出した。
「何か?」
「パンフレットによると、今夜デビューする新人は『リフトアップ』の使い手だそうです」
「リフトアップ?」
「ええ。リフトアップです」
 『リフトアップ』といえば…確かレスリングの試合で対戦相手を持ち上げるみたいな意味だったはずだ。と言うか確か「リフトアップ」という単語それ自体が「持ち上げる」と言う意味だ。
 これが『ヴェールアップ』だったりしたならば、余りにも異様な造語なので逆に「技」として分かりやすい。だが「リフトアップ」と言われても…。

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