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【好評発売中】魅惑の闘技場 作.真城悠 絵.蜂密柑 第二章1

第二章

 オレは忙しく働いた。
 社長にとりあえず目的地に行ったことくらいは報告しなくちゃと思ったのだが、これだけでかい会社の社長ともなると内部の人間が会うのもアポイントがいる。
 思い切って受付に話しかけてみた。
「樋田社長はいらっしゃいますか?」
「はい?樋田でございますか?」
 型通りの答えだ。メイクが似ているのか先日の社長秘書の美人によく似た受付の美女が答える。
「事務課の遠藤です。先日社長に呼ばれた件で…」
「えっと…事務の遠藤さん…アポイントは…」
「何もないです」
 少し考えた受付美女。
「…どういうこと?」
「…え…何が?」
「社長なら出張で一週間は帰らないわ。週一の朝礼聞いてなかったの?」
 同じ社の人間と分かった瞬間タメ口だ。
「…変なアポ取らせないでくれる?あたしが怒られるんだけど」
「そう言わずに。携帯番号伝えてもらうだけでも」
「あんた正気?社長にあんたに電話しろっての?」
「でも、社長に呼び出された件だから…」
「(ため息)一応訊くけど、仕事の話でしょうね?」
 どう考えても「あれ」は社長の趣味だろう。
「プライベート…かな」
「社長と平社員がプライベートで一緒に釣り仲間だったりするわけ?映画の見すぎよ」
「もういいよ。直接社長室に行くから」
「わーったわーった!…秘書課の…社長秘書のケイコがあたしの友達だから…一応そんな話があったって伝えとくわ」
 あの美女は「ケイコ」さんというらしい。
「助かります!」何故かこっちは敬語でペコペコしてる。
「(小声で怒鳴る)いいからどいて!次のお客さん!」
「あ…」
 直(すぐ)に後ろにならんでいたビジネスマンが前に出て来る。
「いらっしゃいませ」
 あっという間に受付スマイルにも戻って声も一オクターブ高くなってやがる。女は怖い。…もっとも、そのこの世で一番不可解な存在にこの間このオレがなったわけだが…。

 そのまま数日が経過した。
 平社員としては下手に動けない。
 仕方が無くその日の業務を淡々とこなす。
 しかしどうしてもあの夜のことを考えてしまう。
 本当にオレが女になってウェディングドレスなんて着たんだろうか…。こういう風に言葉にして考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなる。
 仕事は毎日夜八時近くまで続いた。
 ドアトゥドアということでいうなら仕事が終わってから自分の部屋にたどり着くまで長いと二時間は掛かる。途中でコンビニに寄って夕食を準備したりするからだ。
 母が死んでからというもの、学生時代には当たり前だった自炊もキツいものがある。こんな時間に帰宅するともなればなおさらだ。
 四千円という大枚をはたいて買った米一〇キロを少しずつ炊いては適当なおかずと共に食べる日々だ。東京のど真ん中に住んでいて月に手取り一二万円では当然そうなる。家賃が四万円もするのだ。
 社長からも、「ハウス」からも連絡は来なかった。
 名刺にはなけなしの金で契約させられたスマートフォンの電話番号が入っていたはずだが、履歴には何も残っていない。
 …本当にそんなところって存在しているのだろうか?
 あれだけ体験しておきながらまだ信じられない自分がいた。
 だが…手元にある通帳を睨む。
 そこには確かに五〇万円の文字が刻まれている。
 手元に一万円を残し、四九万円を貯金した。直後に諸々(もろもろ)の引き落とし日がやってきたため、結果として五〇万円の額面となったのだ。
 つまり、オレは毎月たった一万円の余剰金でやっと生活していたってことになる。
 スマートフォンを充電器に差し込んだ。
 ウチにはテレビもパソコンもない。このスマートフォンが世界を繋ぐ唯一のデバイスだ。
 玄関と台所、そして自室のたった3部屋しかないこの部屋から脱出できる気配も見えない。
 六畳の部屋にはゴミ捨て場から拾ってきた炬燵(こたつ)台と、質屋(結構今も営業してる)流れの炬燵(こたつ)布団、そして万年床がある。
 そういえば…。
 オレはあの日のみやげをとりあえずぶち込んでおいたコンビニの袋をかき分けた。
 …あった…。
 茶封筒だ。
 確か「思い出したくなったら開けろ」みたいなことを言っていた気がする。
 ハサミを出しているのももどかしく、ノリをべりべりと剥がした。
 …写真?
 逆さに振ってみる。
 そこから先は驚異の洪水だった。
 出てきた写真には純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい花嫁が「これでもか」と映っていた。そしてその舞台は…あの部屋だ。大きな鏡もある。鏡の内側にカメラを設置したとしか思えないアングルのものもある。
 そして…時田にヴェールを上げられてキスをする瞬間まで激写されている。
 全部で三〇枚はあっただろうか。
 あっという間にテーブルの上は写真で埋め尽くされた。
 …なんてこった…やっぱりあの話は本当だったんだ…。
 ここに映っている花嫁は自分だ。間違いなく。
 そしてあの顔…時田も映っている。
 ということはあの部屋は隠しカメラだらけだったってことか…。いや、というよりも人が女にされたり女装させられたり…女の女装ではある(?)が…するところを観察して楽しむ連中が、言ってみれば「最初に女にされる」美味しい瞬間を逃す訳が無いのだ。
 とはいえ、自分の元の姿は一枚も映っていない。
 仮にこの写真を他人に観られたところで、少なくとも同一人物認定などされないだろう。されるわけがない。
 …もしかして、オレがそれなりに化粧映えするツラだったから選ばれた?ってことか??
 背筋がブルっとした。
 冗談じゃない。やめてくれ。
 とはいえ、タニマチ…会員と「闘士」は直接顔を合わせることも出来ないというじゃないか。…全くどういう関係なんだよ…。

 オレは休日だった次の日、秋葉原に来ていた。
 五〇万円は確かに大金ではあるが、六〇〇万円の借金を持つ身としては「焼け石に水」だった。
 恐らく必要になるのでパソコンを買いに来たのだ。
 結果的に性能がそれなりにいいらしいノート型を買った。一五万円もした。今後のことも考えてディスプレイはなるべく広めにした。
 いかんな…この調子だとあっという間に無くなってしまう。
 ほぼ入ったことも無いファーストフード店で風景を見ながらぼんやり考えていた。子供の頃は金が掛かるので買い食いも外食も殆(ほとん)どしたことが無かった。なるほどこうして数百円で済ませられるなら便利なものだ。「金で時間を買う」ってなもんだ。
 貧乏ヒマなしとはよく言ったもので、こちとら「時間で金を買う」みたいなことばかりしていた。
 オレって結局どうしたいんだろう…。
 今の会社は毎日日付けが変わるほど働いてる様な部署ではないので、ある意味生活は楽だとも言える。給料は手取りでたったの一二万円だが、特に使い道があるわけでもない。趣味らしい趣味もないし、職場環境的に飲み会も無い。妻子だっていない。酒もたばこもギャンブルもやらない。
 風俗に通う趣味も無ければ「ソーシャルゲーム」の課金をする趣味も無い。
 五〇万貰ってるなんて奴は流石にオレよりはモーレツ社員だろう。でなければ困る。
 オレは「可能な限り贅沢で高い夕飯を一回くらいは食べてみよう!」と勝手に思った。
 「吉田家」の牛丼の大盛りと卵、みそ汁で合計七〇〇円だった。
 七〇〇円だなんて、二日分の食費だ。それをたった一食で使うなんて…。
 だが、確かに美味かった。
 オレはその後特に何をするでもなく、生来の貧乏性もあってかなり重いノートパソコンを箱ごと持って帰った。
 持って帰る間中もずっと考えていた。

 金のため…なのか?

 どういう巡り会わせなのか分からないが、オレはとにかく社長…というかあの「闘技場」に選ばれたらしい。馬鹿馬鹿しい話ではあるが、現実にこうして信じられない様な買い物も出来た。あの金が身の回りに存在することそのものは事実らしい。
 本当に金の為に魂というか男としての尊厳を売り渡すみたいなことをしてもいいんだろうか?
 とはいえ「金の為に働くのが卑しい」訳が無い。金を得なければ干上がってしまう。
 ただ、それでも限度はある。
 表現が難しいがヌードグラビアみたいなものなんだろうか。ポルノ俳優とか。
 もしも時田の能力が「ヴェールアップ」などという馬鹿馬鹿しいものであると本当にするならば、キスをした段階で終わりということになる。…犯される危険性は無い…か。
 男の尊厳以外に危険性はなさそうだ。
 花嫁姿の女装にしても、俳優…役者なんて日常的にやってるといえなくもない。お笑い芸人だってそうだろう。
 そう考えると益々どうと言うことは無いとも思えてくる。

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