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虹のしずく ③④ 文:巫夏希 キャラデザ:ミュシャ

文: 巫夏希 https://skima.jp/profile?id=30287



 地下室に到着すると、魔女は透明化魔法――正確には認識しづらくする魔法――を解除した。
「あれ? 解除して良かったの?」
「……まあ、流石にここまでやってくる人は居ないでしょう。夜の見回りと言ってもここは城の外れ。だから人がやってくることは……」
「お前達、ここで何をしている」
 第三者の声が聞こえて、思わず彼女たちは身構えた。
 そして、階段の手前に、一人の騎士――ルークが立っているのが見えた。
「……まさか、この城にこのような地下室があるとは思わなかったが……。お前達はいったい何者だ? 何を目的にここにやってきた? 大人しく答えるのが身のためだ」
「それを答えるとでも?」
 くすくすと笑みを浮かべる魔女。
 それを見て、ルークは見覚えがあるようだった。
「貴様……、まさか夕闇の魔女か! どうしてこのような場所に……。かつて王国の宮廷魔女として活躍していた時もあったが、急に行方不明になったと聞いた。どうしてこのような場所に居るのか、そしてそのような盗賊風情の女と一緒に居るのか、お教え願おうか!」
 剣を構え、魔女に立ち向かおうとするルーク。
 しかし魔女はなおもあまり気にする様子はない。
「ははは。……私に立ち向かうか。私が夕闇の魔女と知ってなお、立ち向かうか!」
「夕闇の魔女だからって、絶対に死なないはずがない!」
「ふふふ。だが、これなら……」
 彼女の手には、瓶が握られていた。
 その瓶の中身は虹色に輝き、どろどろとしている。
「それは! この城に伝わる秘宝、虹のしずく!」
「飲むことにより大量の魔力を与えるといわれているその液体。まずはあんたたちで試してみようかしらねぇ!」
 そして。
 魔女は瓶の中にあった液体をそのまま飲み干した。
「秘宝、虹のしずくが……!」
「おーっほっほっほ! これで私も魔力を無尽蔵に使えるはず……! まずはあなたたちで試して差し上げましょう!!」
 そうして。
 魔女は、そのまま杖を振りかざした。
 すると、マリーとルークを囲むように煙が立ちこめていく。
「げほっ、げほっ。何だ、魔力が無尽蔵でも、使えるのはこんな目眩ましか……!」
「おい、夕闇の魔女! 何で私まで魔法をかける必要があるんだ……!」
 そうして、煙が消えていくと――魔女の不敵な笑みが見えてきた。
「おい、夕闇の魔女! いったい全体どういうことだ……あれ? 私、こんな声低かったっけ?」
「おい……! どういうことだ、なんで僕の目の前に、僕がいるんだ!」
 声色がマリーのままで、目の前にマリーが立っていた。
 しかし、そこに鏡があるというわけでもないし、話をしているのも自分というわけでもない。つまりこれは――。
「まさか、」
「もしかして、」
「「入れ替わってるーーーーーー!?」」
 二人はお互いを指さし、叫ぶ。
 それを見ていた魔女は、右手で口元を隠しながら、高笑いをした。
「おーほっほ! 入れ替わりの魔法はかなり魔力を使うと聞いたけれど、こうも簡単に使えるとはね! さすがは、魔力の塊である『虹のしずく』を飲み干しただけのことはある!」
「まさか入れ替わりの術を覚えているとは……。さすがは夕闇の魔女、といったところか!」
「おおい、ちょっと待って待って! その格好で胸を気にせず動かないでえええっ!」
「えっ?」
 そう言った瞬間、ぼろん、とマリーの胸が露わになった。
「……!?!?」
「ほうほう。どうやら、入れ替わりの後も行動は前の人間に依存するものらしいなあ?」
 露わになってしまった胸を見て、顔を赤らめるルーク。
 対してマリーは、入れ替わった後のその大柄な身体にもかかわらず、俊敏な動きを見せると、ルークの頭にチョップを食らわせて、何とか胸を収納した。
「人の胸をじろじろと見ているんじゃないわよ! ……あー、でも今はあんたの身体か。でも! 元々は私の身体だったんだから!」
「ああ……、それは済まない。けれど、けれどだね! これで見るなというのもおかしな話ではあるまいかね!」
「それとこれとは話が別だ!」
「あーはっはっは! 戻したくば、私の家まで来るんだね! そうしたら報酬を差し上げようじゃないか、ミス・クランベリー!」
 そうして、再び高笑いをして、あっという間に消えてしまった。
 残されたのは、心が入れ替わったマリーとルークの二人だけだった。

ミュシャさん納品
キャラデザ:ミュシャ https://skima.jp/profile/?id=22398



「とにかくだ、対策を立てようじゃないか。問題はどうすれば良いか、という話だ」
 城下町の酒場にて、崇高たる騎士様となったマリーが骨付き肉にがっついている。
 対して盗賊になってしまったルークは「うん……」と俯きつつ、少しずつゆっくりと紅茶を飲んでいる。
 普通に見ると、「何か性格がそれっぽくない」的に思うかもしれないが、それもそのはず。今の二人は心が入れ替わっているのだ。
「おい、いい加減にしろ。私の顔でしょぼくれるな。私はいつも前しか見てないんだ」
「だったら! 僕の身体でそういう汚らしい食べ方しないでよ! 口の中に食べ物が入ってるじゃないか」
「何だと?」
「やるかい、ここで」
 二人の雰囲気が険悪になる。
 しかし、直ぐにそれを排除したのは、マリーの方だった。
「やめだ、やめ。二人は被害者なんだぞ。こんなところで争ってどうする。絶対にあの夕闇の魔女を倒して魔法を解除してもらうしかねーんだからよ」
「そりゃそうだけれど……」
 ルークとマリーは食べ終えたのか、食後のティータイムに移行していた。
「とはいえ……何だ、お前、意外ともてるのな。何度も女性陣に声をかけられたぞ。何度、言葉遣いを直されたことか」
「王国の騎士と言えば、高給で、戦力が強くて、顔も整っているの三本柱だからね……。はっきり言って、安定した職業と言えるだろうね。特に、戦争も起きない今の世界じゃ」
「そりゃそうだな。戦争も起きないから、このような世界になった。人間が、仮に罪を犯しても罰が低くなったのもそれが原因だ。人間の権利を主張しだしたのも、最後の戦争裁判が終わってからだったか?」
「詳しいんだね、意外と。……そういう情勢には耳を傾けない人間だと思ってたけど」
「私の父親はな、戦争で死んだんだよ」
 ルークは、それを聞いて何も言えなかった。
 そして、少しして、謝罪する。
「ごめん」
「別に良いよ。昔の話だ。……だから私はまともな職業には就けなかった。この国には、『レール』というシステムがあるだろ? 成人になったら自分がどの職業に就くのか占って貰って、そのあとはその職業に就くというシステム。きっとあんたもそうやって騎士になったんだろうけれどよ」
「まあ、そうなるね。僕の場合は……父も騎士だったから、偶然だったけれど」
「ふうん。成る程ね。……で、話を戻すけれど、私の場合は父が死んでから母がずっと私を育ててくれた。けれど、母も病気で亡くなった。それからだよ、私が盗賊をやり始めたのは」
「サポートシステムに加入することは考えなかったのか?」
「私はこの国が大嫌いだ。だから、私は国が運営している孤児サポートシステムなんてものに加入しようなんて思いもしなかった。当然、あんたも嫌いだ」
 食べ終えた後のナイフでびしりと差すマリー。
「……ま、国のすべてがすべて良いことをしているとは言えないよ。確かに、国が悪いことをしてしまったという事実だって歴史の上では残ってる。だから二度と戦争を引き起こさないように、システムを構築した。それが……」
「それが『レール』って訳かい? へっ。魔女みたいなレールからの外れ物だって居るのに、よくそのシステムが十中八九正しいって言えるね。結局は、今居る外れ物には蓋をして、今居る人間からそれを出さないための苦渋の策だろう?」
「そりゃ、そうかもしれないけれど……。でも、はっきり言って詳しいことは誰にも分からない。全部は国王殿下の意のままだからね」
「どっちが正義なんだか、分かったもんじゃねえな」
 そうして、マリーは立ち上がった。
「何処へ?」
「決まってる。あの魔女をぶっ潰す。勿論お前も手伝えよ? お前も被害者なんだからな」
「そりゃ分かってるが……。対策とか何も考えなくて良いのか?」
「考えたところで、魔女の家には罠がたくさん散りばめられているだろうさ。だったら、真っ正面から向かってやる。それが私の考え方だよ」
 それを聞いて、ルークは深い溜息を吐く。
「やれやれ。盗賊ってのは乱暴って聞いていたけれど……ほんとうにその通りなんだね」
「おいおい。今、外から見れば盗賊なのはお前だぞ? ……まあ、いい。ややこしいことになるから、それについては言わないでおこうか」
 そうして、二人は旅立つ。
 目的地は、城下町の外れに建つ、夕闇の魔女の住まう家。

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