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魔法少年少女マイティ・ルナ② 作 蜜織 キャラデザ シガハナコ

 どきん。

 胸が大きく高鳴った。
 それは戸惑いと困惑と絶望と、そしてときめきだった。
 沢山の感情が一気に湧き上がり、複雑に絡み合って光を支配する。
どれくらいの時間だろうか。それらの感情をどう処理して良いかも解らないまま、鏡の中の少女と――自分と、見つめあっていたのは。
「それが君の新しい姿だ」
 後ろからかけられた覆面の声に、光ははっと意識を取り戻し、振り返る。
「いや、違うな。それが君の本当の姿なんだ」
「月蝕の最中に生まれた運命の子」
「月の力で戦う戦士」
「マイティ・ルナ。それが君の本当の名前だ。

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キャラデザイン シガハナコ

 覆面達が次々に言葉を追わせる。
 現実感のないその言葉の数々に、光は恐怖を感じるばかりだった。
「マイティ・ルナ……?」
「そう!その名前の方が、戦士としての意識を高く持てるだろう?」
 その名前を聞くと、心がさざめき立つのがわかる。
 たしかに、鏡に映るこの姿には“月野光”という名前よりも、マイティ・ルナという名前の方がしっくりくる感じがした。
 自分の身体が、男子高校生の意識のまま少女に作り変えられてしまったことも、今のこの姿も、その名前も。うっかりすると受け入れてしまいそうになる。
(俺は……俺は!違う……!マイティ・ルナなんて名前じゃないのに……!)
「さあ、儀式の続きだ」
 ぐるぐると頭の中を回る思考に意識を取られすぎていた。
 気がつくと光は後ろから二人の覆面に羽交い締めされていた。
 金属の枷すら壊せたはずの身体が、どういう訳か殆ど抵抗も出来ない。
「なっ……離せよ!離せ!何するんだよ!」
 抵抗しようとあげる声も、自分が出しているはずなのに聞きなれない高い声だった。
 甘く蠱惑的でありながら、透き通った声。
 覆面の腕の中で暴れる光の目の前に、沢山のコードのついたヘルメットが差し出される。ヘルメットから伸びたコードは部屋のほとんどを埋め尽くす、巨大な機械につながれていた。いかにもそれが危険であることは、如何に機械に明るくない光でも理解が出来た。
「その力はただ持っているだけでは持て余すだろう」
「大丈夫、ゴムゴル様がその力を存分に活かしてくださるさ」
「だから少しだけ……その頭の中を弄らせてもらうよ」
 ヘルメットを持った覆面はどんどんと近づいてくる。逃れる術もなく、光の頭にはそのコードと電極で異様に無骨な姿にされたヘルメットが被された。
「ゴムゴル様への忠誠心を植え付けよう」
「ゴムゴルってなんだよ……!くそっ、外せ!外せって!!」
「ゴムゴル『様』だ。言葉を選べ」
 覆面の一人が、機械についたボタンを押した。
 その機械から流れ込んできた電流が、ヘルメットに刺さった電極から、ビリビリと光を苛みはじめる。
「あっ……あああああああ!!やめっ……うぁああああ!!!」
 電流が文字通り頭の天辺から脚の爪先まで流れ込んできて、痛みと痺れが全身を支配する。
 悲鳴を上げて暴れるものの、覆面の力は思ったより強く、逃げ出す事が出来ない。
 電流が身体を駆け巡る中、頭の中は次第に混濁していった。
(俺……なんでこんな目に……)
(そうだ、女……俺は女に、なったから……)
(この姿は月の戦士……マイティ・ルナで……)
(この力はそう、ゴムゴル様……ゴムゴル様の為に使って、お仕えさせていただかないと……)
 思考がどんどん、流れる様に変化していくのがわかる。今こうして全身を苛まれているのも、当たり前の通過点なのだと受け入れ始めていた。
「なかなかオチないな、この女」
「電力が弱いんじゃないか?」
「もうちょっと強くしてみるか」
 そんな覆面達の声も、殆ど意識の外に聞き流していた。
 その時。

 バチン!!

 頭を覆い尽くす電極が大きな音を立ててショートした。
「あぐっ……」
 その衝撃で全身の関節が大きく痺れた。衝撃が伝わったのは、光だけではなかったらしい。
光を羽交い締めしていた二人も、低いうめき声と共に崩れ落ちていた。
 寧ろ光の方が軽傷だった様で、二人から解放された後は普通に地面に足をつけて立つ事ができる。
 焦げ臭ささと共に、正常な思考が戻ってくる。
(俺……今、何を、)
 はあはあと乱れた呼吸を整えながら、被されていたヘルメットを脱ぎ、足元に投げ捨てる。
「おい……まずいぞ!」
「電圧を上げすぎたんだ!機械がイカれちまったんじゃないか!?」
「アイツは今、変身で力が増幅されてるんだぞ!」
 覆面達は焦った様子で、光から逃げ出す様に遠ざかっていく。
「力が増幅……?」
 試しに、手を握ったり開いたりしてみる。確かに全身に力が漲っているのがわかった。身体が何時もより軽い。今にも飛べそうだ。
「へぇ……確かに力、ついてるみたいだな!」
 とん、と地面を蹴ると、驚くほど身体は跳躍した。そのまま遠巻きに自分を観察していた覆面達の前に躍り出る。
「ひっ……」
 目の前の覆面の表情はわからない。だが、明らかに今の自分に恐怖している声だった。
 要するに。
(俺は今、こいつらより強い……!?)
 光の口に、にっと笑みが浮かんだ。
 そのまま手に握ったままだったステッキを振りかざし、覆面達に襲いかかる。
「まずい!」
「こいつに力を使われたら……っ」
 覆面達がわらわらと逃げ出す中、それを追いかけてステッキを振りかぶり、覆面の一人に叩きつける。
 全力で殴りかかった訳でもないのに、覆面は簡単にその場に倒れて動かなくなった。
 殺してしまったかもしれない……なんて考えは、今の光の脳裏には浮かばなかった。
 一人倒したことで確信できた。
(今の俺……強い!!)
 格闘技や戦闘の経験など、ある訳がなかった。
 それはめちゃくちゃな戦法で、力任せにステッキを振るだけの、滅茶苦茶な暴力。
 光は手にしたステッキを武器に、次々に覆面達を殴っていった。大体の覆面は、一発。多くても二発、叩き込めばいずれの覆面も低い声と共に動かなくなる。
 どれくらいの時間暴れまわったのだろうか。
 気がつけば、光の周りには、死屍累々と動かなくなった覆面達が積み上げられていた。最早誰も立ってはいない。
 夢中で行った暴力の余韻で、意識はぼうっとしている。
 研究員に与えたのは打撃のみだったせいか、返り血などはついていない。ただ、額に滲んだ汗を、光は乱雑に拭った。
 あらためて部屋の中を見渡すと、部屋の片隅には光が通学用に使っているバックパックと制服のジャケットが置いてあった。
「……返してもらっていいよな」
 光はワンピースの上にジャケットを羽織り、バックパックを背負う。ジャケットは少女になった今の光には大きすぎる様だった。だぼだぼと袖も余る。
 これからどうするかなんて目算はある訳がない。逃げ出す事すら一瞬躊躇った。
 だが。
 光が暴れたせいなのか、先程のヘルメットのショートのせいなのか。分からないが、部屋に置かれた大きな機械が警鐘を鳴らし始めた。部屋に響き渡るアラーム音。機械にはばちばちと火花が散っている。
「これって……まずいんじゃ」
 今にもこの大きな機械が暴走して燃え出してしまいそうな雰囲気に、少女の姿のまま、出入り口と思しき鉄の扉に駆け寄った。
 扉は固く閉ざされていたが、その横にいくつかあるボタンやスイッチを力任せにいくつか殴ると、何があっていたのかわからないが、プシューッ、と音を立てて鉄の扉は開き、その向こうにはSF映画で見る様な無機質な廊下が続いていた。
 建物の出入り口など検討もつかなかったが、廊下を道なりに走ってゆく。
 途中で先程自分が開けたのと似たような、鉄の扉がいくつか見えた。
 機械の暴走は光のいた部屋だけではなかったらしい。施設内全体でけたたましいアラーム音が鳴り、証明が赤に変わって点滅を繰り返していた。
絵に描いたようにまずい事態だ、ということだけは鮮明にわかった。
「うわぁああああああああ!!」
 通り過ぎようとした部屋の前の扉の奥から、悲鳴が聞こえた。
「満……?!」
 その声が、慣れ親しんだ親友のそれとよく似ていたことでとっさに光は振り返った。
 声の聞こえたドアに駆け寄って、鉄の扉をノック……というよりはただ闇雲に何度も殴った。
「満?!おい!満!!いるなら返事しろ!満!!」
 何度叩いても扉の奥から声が返ってくることはない。
 それどころか、扉の向こうに声が届いているのかさえ、怪しい状況だ。
「満―――ッッ」
 悲痛さを孕んだ光の声をかき消す様に、走ってきた方向から爆発音が聞こえた。
 爆発音は連続して鳴り、こちらに近づいてくる。
 火の気と爆風が光を追ってきて、それに吹き飛ばされた。
 爆風は一気に今の光の華奢な身体を押し飛ばし、気づけば施設の外へと押し出されていた。
 目の前には奥に燃える火の見えるガラスの扉と、いかにもなにかの研究施設だということがわかる白いビルが立っていた。
「満……」
 光の胸中には不安が渦巻いていたが、火事の起こっている施設内には最早踏み込めなくなっていた。
 先程聞こえた声が満だという確証もない……そう自分に言い聞かせ、光は立ち上がった。
 これだけ派手に爆発事故があれば、警察や消防が来るはずだ。少女に変わってしまった今の身体を、だれかに見られるのは怖かった。それが、一瞬この施設から逃げ出すのを躊躇った理由だ。
 光は羽織った制服のジャケットの前を閉め、バックパックを背負って施設に背を向けた。どうやら施設はどこかの山の中にあるようだったが、前には舗装された道路が繋がっている。山の麓にあたるのだろう向こうには、沢山の灯が見える。人里もそう遠くないらしい。
 この姿になって帰る場所等あるのかわからなかったが、この場にいるよりはマシだろう。光は道をたどってよたよたと歩き出した。
 へとへとだった。
 先程まで身体に満ち足りていたエネルギーは消費しきってしまったのか、ぐったりと全身が重たい。
 全身から血の気が引いていく様なふらふらとした感じは低血糖状態なのだろうか。
このままだと倒れてしまう――…そんな風に思った次の瞬間、足元からぽんっと軽い破裂音がして、身体を煙が包み込んだ。
「わっ……今度はなんだよ……っ」
 煙を追い払いながら漏れた自分の声に驚いて、光は自分の喉元を触る。
 声が、低くなっている。
 視界もさっきまでより高く、身体を見下ろすとその身体は見慣れた男のもの、ジャケットの下の服もひらひらしたワンピースではなく普段の制服姿に戻っていた。
「も、戻ったぁあ……」
 まさかこんなに簡単に戻れるとは思っていなかった。
(もしかして制限時間でもあるもんなのかな…)
 どういう仕組みで自分が男と女を行き来できるのかは全く理解不能だったが、兎に角男には戻れるということだ。
 それには涙が出そうになるほど安心した。
 ふと見ると、傍には先程ステッキに姿を変えていたペンが転がっている。そういえば無意識に握りしめて逃げてきたような気もするが、全く意に介してはいなかった。
「くそっ……」
 いきなり巻き込まれた理不尽な事件の象徴ともいうべきそのペンを、投げ捨ててしまおうかと振りかぶる……が、なぜかその手を離すことはできなかった。
 そのペンを捨ててしまおうとすると、とてつもない不安が光を襲う。
 ペンを握った手を振りかぶったまま少し悩み、結局その腕を振るでもなく、光は腕をおろした。それをポケットに乱雑にしまうと、光はまた道を歩き出した。ふらついていた程の体力は、何故か少し戻っているようだった。

③はこちら

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2年ぐらい連載を続けないと…w

あの作品がモチーフになっているということは、この先の展開を期待してしまいますね!

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