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投稿TS小説第131番 やさしい魔法(5)

作.うずら
絵.いずみやみその http://honeypoko.fakefur.jp/

主人公イメージラフ カズ
カズ



そででぬぐいながら、数十メートルも歩いただろうか。
ざりっ
背後、数メートルぐらいの位置。
誰かがいる気配がした。
俺が驚いて足を止めると、そいつも止まる。
振り返るのが怖い。
早足に歩き始めると、その足音も早足になった。
俺が気づいたことに、気づいているんだ。
そのくせ、距離を置いたまま、近づいて来ようとはしない。
いつでもいたぶれる得物だと思っているのだろうか。
どうしよう。どうしよう。


こんなことだったら、ちゃんと家までカズに送ってもらえばよかった。
迂回してでも、人家のある方を通ればよかった。
恐怖で何も考えられなくなっていたけど、すぐ先はアパートを建設してる途中の空き地だ。
そこにさしかかったとき、足跡が一気に近づいてきた。
やだ、やだ。
逃げようにも膨らんだ胸、慣れないスカート、サイズの合わない靴が障害になって、上手く走れない。
どうして、俺ばっかり。
思いのほか強い力で、肩を引かれる。
「やあっ、助けてぇ!! カズ、カズっ!」
恥も外聞もない。
俺はこの時、完全に我を忘れて、普通の少女と同じ様に泣き叫んでいた。
「やだぁ、犯されるっ!! 変態、痴漢っ!」
「何わめいてんの、このお馬鹿!」
ゴツッ
あ、れ?
慣れ親しんだ、ゲンコツの痛み。
「姉、貴?」
「そうよぉ、ひ・ろ・み、ちゃん」
「…………」
「『カズ、カズぅ~っ』だってぇ。もう、笑っちゃうわぁ! ぷっ、あははっ」
聞きたくもない、皮肉じみた声。
容赦なく人を追い詰める、いやらしい声。
いつもなら、どうしようもなく警戒してしまうのに、今だけは心底嬉しい。
「……っく」
「それに、なに、あの恋する乙女! 目なんかウルウルで、絶対に演技じゃないでしょ!? あはは、お腹痛いっ」
「ふぇっ、ぐすっ……こわ、かったっ!!」
「へ?」
気がつけば、安心で涙が溢れて止まらなくなっていた。
道路に座り込んで、それでも姉貴を睨みつける。
だって、怖かったのも姉貴のせいだから。
「変態に、ひっく、レイプされるのかって、っ、本当に怖かったんだからなっ!」
「あ、えっと、ごめん」
俺の怒りが本気だと感じ取ったのだろう。素直に頭を下げた。
毎度毎度、やりすぎることの多い姉貴だけど、反省だけはする。
だから、憎みきれないんだ。厄介なことに。
「ほ、ほら、いつまでも泣いてないで、ね」
手を引いて起こしてくれた。
柔らかいお尻を叩きながら、立ち上がる。
「顔、ぐしゃぐしゃよ? これで拭きなさい」
「ん……」
渡されたミニタオルで顔をぬぐう。
そんな俺の手を握ったまま、姉貴が歩き出した。
鼻をすすりながら、それに従う。
「久しぶり、だな」
「何が?」
「こうやって歩くの」
昔、本当に子供の頃。
友達と喧嘩して一人で泣いていたら、姉貴が必ず迎えに来てくれた。
ここなら誰にも見つからない、っていうところに隠れていても。
「そうね……。あんたの泣き顔もだけど」
「うっさい」
姉貴と手を繋いだまま歩いて、我が家に着いた。
ふと、思い出す。
「俺、女の子なんだけど……」
「可愛いわよ?」
「そうじゃなくて! このまま帰ったら、親父たちパニックになるんじゃないか?」
存在しない姪が、突然家にやってくることになるんだから。
そんな俺の心配を余所に、姉貴は軽やかに頷いて門に手をかけた。
「ああ、大丈夫。認識ゆがめてるから」
「え? 認識? ゆがめる?」
どういうことだろう。
いや、まあ、それを言い出したら、今の俺だってどうなんだって感じだけど。
昼まで男だったのに、な。
「深く考えなくても、入れば分かるって」
「お、おう」
見慣れたドアを開ける。
玄関もいつもどおり。
違いといえば、姉貴や母さんよりサイズの小さい女物の靴があるぐらいだ。
「誰か来てるのか?」
「ううん」
「……もしかして、俺、の?」
「そうよー。広海ちゃんは海外の叔父さんの家からホームステイに来た女の子だもの」
「はあ!?」
「で、広樹は替わりに海外に行っちゃった」
待て、待て待て。
俺は英語なんて話せないぞ!?
いや、そういう問題じゃない。
「っていう設定だから、大丈夫よ」
「お、お前なぁ」
「だ・か・ら、家の中でもちゃんと恋する乙女でいないとダメよ?」
「ぐはっ」
憎めないなんて、思った俺が馬鹿だった。
こいつ、本当に悪魔だ。
「あら? あらあら、お帰りなさい」
「ただいまー」
「た、ただいま、です」
母さんが居間から顔を出した。
その弾みで、つい演技のスイッチが入ってしまう。
姉貴がそんな俺を見て、にやにやしている。
いつか目に物見せてやる……。
「広海ちゃん、どうしたの? 足、怪我してるじゃない! 跡になったら大変!」
「え、あわわ!?」
姉貴以上に強引な母さんに引っ張られ、風呂場に連行される。
濡れたらいけないから、とスカートを脱がされてしまう。
「ちょっと痛いけど、我慢してね」
「っ」
そう言って、母さんが血で汚れた膝にシャワーをかけはじめた。
少し涙目になりながら下を見ていると、どうしても下着が目に入る。脇をリボンで結ぶタイプの、フリルがついたショーツ。
自分のなんだけど、女性物の下着を凝視するというのは罪悪感がある。
母さんのなすがままになって、ふんわりしたバスタオルで足を拭いてもらう。
「はい、これで土は落ちたわ。女の子の足に傷跡が残ったら、可哀想だもの」
「あ、ありがとうございます」
なんか、息子としては複雑だ。
姪だってことで、優しくしてくれてるんだろう。
「さ、それじゃご飯にするから、手伝ってもらえる?」
「は、はいっ」
慌ててスカートを履いて、近くにかけておいたピンク色のエプロンを着ける。
前面は特に飾り気もないけど、後ろは大きなリボンで結ぶようになっているお気に入りの一品だ。
って、あれ?
俺、そんなエプロン持ってないぞ。
「広海ちゃーん?」
「はい、今行きます!」
母さんが、キッチンから俺を呼ぶ。
仕方ない。今はそんなことを考えてる暇はなさそうだ。
後でじっくり姉貴を問い詰めればいいよな。

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