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投稿TS小説第131番 やさしい魔法(11)
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作.うずら
絵.いずみやみその http://honeypoko.fakefur.jp/
「さっきの服も良かったけど、今の私服もすごくかわいいよ」
「ホントですかっ!」
「うん。あとさ、昨日みたいな少し濃いメイクより、ナチュラルな今日の方が広海ちゃんには似合ってるんじゃないかな」
そんなところまで、見てくれてたんだ。
すごく嬉しい。
「そ、そうですよね! 私もそう思います」
お化粧の時間がなかった、なんて言えない。
カズくんがナチュラルがいいなら、明日からはずっとナチュラルで決定。
それにしても、引っ付きすぎ、かな?
心臓がすごい速さで打っている。
組んだ腕から音が伝わってないか、心配になるぐらい。
「バイト、どう? 大変じゃない?」
「そう、ですね……まだ二日目ですから」
「あれ? じゃあ、もしかして昨日が初日だったの?」
「はい。なんか運命的ですよねっ」
勢いで言っちゃったけど、恥ずかしい。
カズくんもきっと満更ではないんだと思う。
微笑んで頷いてくれた。
たったそれだけできゅんって胸が高鳴って、嬉しくなる。
男らしくて、でも優しい。そんな笑顔が大好き。
「あ、そうだ。高校はどこなの?」
「え……」
ど、どうしよう。
お姉ちゃんが通ってたところでいいかな?
「聖マリアント学園、です」
「うわ、お嬢さま学校だ。いいの、あんなところでバイトなんかして」
「大丈夫、みたいですよ。お姉ちゃんに無理矢理、入れさせられたんですけど」
「ああ、沙希さんか。あの人、強引だからなぁ。よくヒロが愚痴ってたよ」
そう言って苦笑した。
ごめんなさい。
でも、愚痴ぐらい言わせてもらってもいいよね。友達だもん。
とも、だち……。そっか、私……俺とカズは友達なんだよな。
別に友達が恋人にクラスチェンジすること自体は問題ないんだが、二人とも男だって言うのは問題だ。
「ん? どうかした、広海ちゃん?」
俺は今まで、何をしていた?
腕を解き、急に立ち止まった俺を、怪訝そうに見つめる瞳。
そんな目で俺を見るな。
どくんっ
胸が鳴る。広海としての喜びと、広樹としての困惑。
あのメイド服を着てから、俺はおかしかった。
おかしいことすら気がつけないほどに。
そして、今思い返しても心地良いんだ。
広海であることが。カズに、恋してることが。
「大丈夫? 気分でも悪いの?」
心配そうなカズの声が聞こえる。
そんな声を出さないでくれ。
俺が駄目になってしまう。
広海でありたいと、思ってしまうから。
姉貴がワケの分からない方法で、広海という人物をつくったけど、所詮そんな人間は存在しない。俺は広樹以外にはなりえないんだ。
「なんでも、ない、です」
何とか声を絞り出す。
ああ、これじゃ余計に心配させてしまう。
「ごめん、なさい。今日はちょっと、失礼します」
駆け出した俺の肩に手がかかる。
一度逃げようとした決意が鈍る。
それでもカズから一歩でも遠ざかろうと、振り払う。
「あ……っ」
聞こえない。聞こえてない。
カズの、気になる女の子に拒絶されたカズの悲しい声なんて。
追ってくるかと思った。
本当は追ってきて欲しかったのかもしれない。
でも、誰に引き止められることもなく自分の部屋にたどり着いてしまった。
あ、れ?
「クマ……さん、どこにいったの?」
クマさんがいないよ?
深呼吸して少し落ち着いた。
良く見ると、広海の部屋だったそこは、俺の部屋に戻っていた。
ただ、広海の体であることは変わりない。
クマさんのことも気になるが、ひとまずクローゼットを開ける。
ああ……一応、服は女物なんだな。
この体格じゃ、俺の服なんて着れないから、一安心だ。
でも、なんでいきなり?
そういえば結構な距離を走ったのに、息切れもほとんどしていない。
広樹に戻りつつあるのか、このタイミングで?
もしこれが姉貴のイタズラだとしたら、本気で最悪だ。
どうせなら、ずっと広海だったら、こんな苦しい想いしなくて済んだのに。
「うわ!?」
そのとき、ベッドに転がっていたケータイが鳴り響いた。
誰だろう。
あ……カズ……。
話したい。声が聞きたい。
でも、今の俺は俺なのに、広樹じゃないんだ。
ひざをかかえて、カズが電話を切るまでを耐える。
きっと、きっとメールが来る。
2度目の着信音。1回目より長く鳴り続ける。
メールだったら、俺として返信出来るのに。
その音が消えてからしばらくして、メールが届いた。
差出人は、やはりカズ。
『なんか失敗したのかな、俺。お前に教えてもらった喫茶店に行って、広海ちゃんも自然な感じだったし、たぶん俺に好意を持ってくれてたと思うんだ。』
うん、好きだった。
今でも好きだ。
『帰り道でも、腕を組んでいい雰囲気だったのに、いきなり逃げられちゃったよ。特に気に障るようなことを言った覚えもないし、襲おうとなんか思ってもなかったのに。』
そうだよ。別にカズは悪くない。
悪いのは姉貴と……そして流された俺。
『何だったのか分からないけど、傷ついてる様だったら、代わりに謝っておいてくれないか? すまん。今も混乱してる。』
すまんは、こっちのセリフだ。
いくら謝ってもたりないぐらいに、俺はカズのことをだまし続けている。
そして、今からも嘘をつく。
……『数日前に、姉貴と生理がどうこうって話をしてたから、ちょうど間が悪いときに来たんじゃないのか? それで、恥ずかしくなって逃げたんだと俺は思う。あいつ、お前のこと好きだから。』
好きだよ。
好きだから、こんな虚構がイヤ。
送信ボタンを押しながら、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「うっ、あっ、うああぁぁっ……」
そのままケータイを抱きかかえて、俺は声を上げて泣いていた。

作.うずら
絵.いずみやみその http://honeypoko.fakefur.jp/
「さっきの服も良かったけど、今の私服もすごくかわいいよ」
「ホントですかっ!」
「うん。あとさ、昨日みたいな少し濃いメイクより、ナチュラルな今日の方が広海ちゃんには似合ってるんじゃないかな」
そんなところまで、見てくれてたんだ。
すごく嬉しい。
「そ、そうですよね! 私もそう思います」
お化粧の時間がなかった、なんて言えない。
カズくんがナチュラルがいいなら、明日からはずっとナチュラルで決定。
それにしても、引っ付きすぎ、かな?
心臓がすごい速さで打っている。
組んだ腕から音が伝わってないか、心配になるぐらい。
「バイト、どう? 大変じゃない?」
「そう、ですね……まだ二日目ですから」
「あれ? じゃあ、もしかして昨日が初日だったの?」
「はい。なんか運命的ですよねっ」
勢いで言っちゃったけど、恥ずかしい。
カズくんもきっと満更ではないんだと思う。
微笑んで頷いてくれた。
たったそれだけできゅんって胸が高鳴って、嬉しくなる。
男らしくて、でも優しい。そんな笑顔が大好き。
「あ、そうだ。高校はどこなの?」
「え……」
ど、どうしよう。
お姉ちゃんが通ってたところでいいかな?
「聖マリアント学園、です」
「うわ、お嬢さま学校だ。いいの、あんなところでバイトなんかして」
「大丈夫、みたいですよ。お姉ちゃんに無理矢理、入れさせられたんですけど」
「ああ、沙希さんか。あの人、強引だからなぁ。よくヒロが愚痴ってたよ」
そう言って苦笑した。
ごめんなさい。
でも、愚痴ぐらい言わせてもらってもいいよね。友達だもん。
とも、だち……。そっか、私……俺とカズは友達なんだよな。
別に友達が恋人にクラスチェンジすること自体は問題ないんだが、二人とも男だって言うのは問題だ。
「ん? どうかした、広海ちゃん?」
俺は今まで、何をしていた?
腕を解き、急に立ち止まった俺を、怪訝そうに見つめる瞳。
そんな目で俺を見るな。
どくんっ
胸が鳴る。広海としての喜びと、広樹としての困惑。
あのメイド服を着てから、俺はおかしかった。
おかしいことすら気がつけないほどに。
そして、今思い返しても心地良いんだ。
広海であることが。カズに、恋してることが。
「大丈夫? 気分でも悪いの?」
心配そうなカズの声が聞こえる。
そんな声を出さないでくれ。
俺が駄目になってしまう。
広海でありたいと、思ってしまうから。
姉貴がワケの分からない方法で、広海という人物をつくったけど、所詮そんな人間は存在しない。俺は広樹以外にはなりえないんだ。
「なんでも、ない、です」
何とか声を絞り出す。
ああ、これじゃ余計に心配させてしまう。
「ごめん、なさい。今日はちょっと、失礼します」
駆け出した俺の肩に手がかかる。
一度逃げようとした決意が鈍る。
それでもカズから一歩でも遠ざかろうと、振り払う。
「あ……っ」
聞こえない。聞こえてない。
カズの、気になる女の子に拒絶されたカズの悲しい声なんて。
追ってくるかと思った。
本当は追ってきて欲しかったのかもしれない。
でも、誰に引き止められることもなく自分の部屋にたどり着いてしまった。
あ、れ?
「クマ……さん、どこにいったの?」
クマさんがいないよ?
深呼吸して少し落ち着いた。
良く見ると、広海の部屋だったそこは、俺の部屋に戻っていた。
ただ、広海の体であることは変わりない。
クマさんのことも気になるが、ひとまずクローゼットを開ける。
ああ……一応、服は女物なんだな。
この体格じゃ、俺の服なんて着れないから、一安心だ。
でも、なんでいきなり?
そういえば結構な距離を走ったのに、息切れもほとんどしていない。
広樹に戻りつつあるのか、このタイミングで?
もしこれが姉貴のイタズラだとしたら、本気で最悪だ。
どうせなら、ずっと広海だったら、こんな苦しい想いしなくて済んだのに。
「うわ!?」
そのとき、ベッドに転がっていたケータイが鳴り響いた。
誰だろう。
あ……カズ……。
話したい。声が聞きたい。
でも、今の俺は俺なのに、広樹じゃないんだ。
ひざをかかえて、カズが電話を切るまでを耐える。
きっと、きっとメールが来る。
2度目の着信音。1回目より長く鳴り続ける。
メールだったら、俺として返信出来るのに。
その音が消えてからしばらくして、メールが届いた。
差出人は、やはりカズ。
『なんか失敗したのかな、俺。お前に教えてもらった喫茶店に行って、広海ちゃんも自然な感じだったし、たぶん俺に好意を持ってくれてたと思うんだ。』
うん、好きだった。
今でも好きだ。
『帰り道でも、腕を組んでいい雰囲気だったのに、いきなり逃げられちゃったよ。特に気に障るようなことを言った覚えもないし、襲おうとなんか思ってもなかったのに。』
そうだよ。別にカズは悪くない。
悪いのは姉貴と……そして流された俺。
『何だったのか分からないけど、傷ついてる様だったら、代わりに謝っておいてくれないか? すまん。今も混乱してる。』
すまんは、こっちのセリフだ。
いくら謝ってもたりないぐらいに、俺はカズのことをだまし続けている。
そして、今からも嘘をつく。
……『数日前に、姉貴と生理がどうこうって話をしてたから、ちょうど間が悪いときに来たんじゃないのか? それで、恥ずかしくなって逃げたんだと俺は思う。あいつ、お前のこと好きだから。』
好きだよ。
好きだから、こんな虚構がイヤ。
送信ボタンを押しながら、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「うっ、あっ、うああぁぁっ……」
そのままケータイを抱きかかえて、俺は声を上げて泣いていた。

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