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投稿TS小説第131番 やさしい魔法(17)
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作.うずら
絵.いずみやみその http://honeypoko.fakefur.jp/
―――2日目。
昨日は両親を心配させないために、何とかいつも通りのフリをして過ごした。
でも、ずっと寝つけなかったせいで、頭が重い。
「姉貴に謝って、何とかしてもらわないと……」
ピシッとアイロンを当てた制服に着替える。
少しだけ、気が引き締まった気がした。
隣の部屋に行って、ノックする。
返事が無い。二度、三度。
「姉貴?」
もう、下に降りてるのか。
1階を見て回ってみても、誰も居ない。
父さんと母さんは、仕事だろうから分かる。
この時間に姉貴がいないのはおかしい。
まだ寝てるのかもしれない。
そう思って、玄関を通り過ぎたとき、何か違和感を覚えた。
慌てて2階に駆け上がる。
「おい、姉貴! 姉貴っ!」
相変わらず返事が無い。
それどころか、物音一つしない。
意を決して、姉貴の部屋を開ける。
「な……」
そこは、半ば物置と化した空き部屋だった。
玄関で感じた嫌な予感。急いで、また来た道を戻る。
「姉貴の、靴がない……?」
どういうことだ?
パニックになりながら、姉貴の記録がありそうなものを、片っ端から探していく。
ケータイ。アルバム。保険証。手紙。
どこにも、姉貴の痕跡がなかった。
それどころか、俺がいたという証拠も。
代わりにあったのは、俺がこの家の娘になっていることを示すものだけ。
「これが、姉貴の言ってた副作用、か」
リビングのソファにへたり込む。
時計を見ると、もう授業は始まっている時間だ。
と、そこへ電話のベルが鳴った。
姉貴か!? わずかな希望にすがって、受話器を上げる。
「もしもし!?」
「え、あ、もしもし」
俺の勢いに気おされる相手。
この声……姉貴じゃない。
「私、マリアント学園で広海さんの担任の」
「あ、先生……」
「広海さん? 今日はどうしたの?」
「すみません、体調が悪くて、休ませてください」
何の根拠もないくせに、期待していた分、ショックも大きい。
思わず声が震えてしまったのだろう。
それだけで先生は納得して、お大事にと言い残して電話を切った。
「どこ、行ったんだよ……」
さんざん散らかした物が片付け終わった頃には、夕方の4時になっていた。
疲れ果て、へたりこんでいると、チャイムが鳴り響いた。
汚さないように部屋着に着替えていて、多少みっともないが仕方ない。
玄関に向かおうと立ち上がって、少しふらつく。
「そういや、昨日の晩から何も食ってないな……」
すっかり忘れていた。
それぐらい必死だったのか。
再びベルが鳴る。
「はーい?」
女の子はもっと慎重になりなさい、と母さんに言われてしまいそうだ。
いつもの調子で無造作に玄関のドアを開け、立ちすくんだ。
「や、広海ちゃん」
「カズ……くん」
相手が誰かなのかを確認してから開けるべきだった。
そう思うが、今更どうしようもない。
何とか取り繕わないと。
「えーっと、ヒロいる?」
え? ヒロって、俺は存在しないんじゃなかったのか?
とにかく落ち着け。
状況を把握できるかもしれない。
「お兄ちゃん、ですか?」
あの設定通り海外にいる、でいいのか。それとも、何か違うのか。
頭の中がごちゃごちゃになって、整理に時間がかかった。
そのせいだろう。
しびれを切らしたカズが先に口を開いた。
「えっと、寝起きだった? なんだかボーっとしてるけど」
ちらちらと、俺の格好を観察しながらの発言。
上下のスウェットを着ていたら、たしかに寝巻きにも見える。
う、なんだか恥ずかしい。
「そんなに見ないでください……」
「あ、ごめん」
通りがかった人はどう思うだろう。
玄関先で、若い男女が顔を赤くして俯いていたら。
そう思うと、尚更、意識してしまう。
ほとんど何も考えられない。
「おー、カズ、どうしたんだ?」
「え? ……は?」
後ろ、つまり、誰も居ないはずの家から、唐突に声がした。
慌てて振り返ると、そこには俺がいた。
って、ん? 何で俺?

<つづく>
作.うずら
絵.いずみやみその http://honeypoko.fakefur.jp/
―――2日目。
昨日は両親を心配させないために、何とかいつも通りのフリをして過ごした。
でも、ずっと寝つけなかったせいで、頭が重い。
「姉貴に謝って、何とかしてもらわないと……」
ピシッとアイロンを当てた制服に着替える。
少しだけ、気が引き締まった気がした。
隣の部屋に行って、ノックする。
返事が無い。二度、三度。
「姉貴?」
もう、下に降りてるのか。
1階を見て回ってみても、誰も居ない。
父さんと母さんは、仕事だろうから分かる。
この時間に姉貴がいないのはおかしい。
まだ寝てるのかもしれない。
そう思って、玄関を通り過ぎたとき、何か違和感を覚えた。
慌てて2階に駆け上がる。
「おい、姉貴! 姉貴っ!」
相変わらず返事が無い。
それどころか、物音一つしない。
意を決して、姉貴の部屋を開ける。
「な……」
そこは、半ば物置と化した空き部屋だった。
玄関で感じた嫌な予感。急いで、また来た道を戻る。
「姉貴の、靴がない……?」
どういうことだ?
パニックになりながら、姉貴の記録がありそうなものを、片っ端から探していく。
ケータイ。アルバム。保険証。手紙。
どこにも、姉貴の痕跡がなかった。
それどころか、俺がいたという証拠も。
代わりにあったのは、俺がこの家の娘になっていることを示すものだけ。
「これが、姉貴の言ってた副作用、か」
リビングのソファにへたり込む。
時計を見ると、もう授業は始まっている時間だ。
と、そこへ電話のベルが鳴った。
姉貴か!? わずかな希望にすがって、受話器を上げる。
「もしもし!?」
「え、あ、もしもし」
俺の勢いに気おされる相手。
この声……姉貴じゃない。
「私、マリアント学園で広海さんの担任の」
「あ、先生……」
「広海さん? 今日はどうしたの?」
「すみません、体調が悪くて、休ませてください」
何の根拠もないくせに、期待していた分、ショックも大きい。
思わず声が震えてしまったのだろう。
それだけで先生は納得して、お大事にと言い残して電話を切った。
「どこ、行ったんだよ……」
さんざん散らかした物が片付け終わった頃には、夕方の4時になっていた。
疲れ果て、へたりこんでいると、チャイムが鳴り響いた。
汚さないように部屋着に着替えていて、多少みっともないが仕方ない。
玄関に向かおうと立ち上がって、少しふらつく。
「そういや、昨日の晩から何も食ってないな……」
すっかり忘れていた。
それぐらい必死だったのか。
再びベルが鳴る。
「はーい?」
女の子はもっと慎重になりなさい、と母さんに言われてしまいそうだ。
いつもの調子で無造作に玄関のドアを開け、立ちすくんだ。
「や、広海ちゃん」
「カズ……くん」
相手が誰かなのかを確認してから開けるべきだった。
そう思うが、今更どうしようもない。
何とか取り繕わないと。
「えーっと、ヒロいる?」
え? ヒロって、俺は存在しないんじゃなかったのか?
とにかく落ち着け。
状況を把握できるかもしれない。
「お兄ちゃん、ですか?」
あの設定通り海外にいる、でいいのか。それとも、何か違うのか。
頭の中がごちゃごちゃになって、整理に時間がかかった。
そのせいだろう。
しびれを切らしたカズが先に口を開いた。
「えっと、寝起きだった? なんだかボーっとしてるけど」
ちらちらと、俺の格好を観察しながらの発言。
上下のスウェットを着ていたら、たしかに寝巻きにも見える。
う、なんだか恥ずかしい。
「そんなに見ないでください……」
「あ、ごめん」
通りがかった人はどう思うだろう。
玄関先で、若い男女が顔を赤くして俯いていたら。
そう思うと、尚更、意識してしまう。
ほとんど何も考えられない。
「おー、カズ、どうしたんだ?」
「え? ……は?」
後ろ、つまり、誰も居ないはずの家から、唐突に声がした。
慌てて振り返ると、そこには俺がいた。
って、ん? 何で俺?

<つづく>
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