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投稿TS小説第132番 そんな、おままごとみたいな……(19)
<19:初夜?>
その夜。クノは、後片付けが終わっても教会に残っていました。なんとなく自分の家に帰る気が、しなかったのです。
まるでそれが当たり前であるかのように、教会の門のところで客人たちを見送り、クララのあとに付いて、ドアを閉めたのです。
二人は黙ったまま広間に戻り、クノは椅子に腰掛け、クララは無言でお茶をいれて、自分もテーブルに着きました。
時折、窺うようにクノがちらとクララを見ますが、クララは窓の外をじっと見つめていました。
飲みかけのカップのお茶がすっかり冷たくなった頃、クララが言いました。
「明日も早いから、もう寝なくちゃ」
「そうだね……」
「……」
「……」
「泊まっていく?」
一瞬ぴくんとなったクノは、下を向いたまま無言で頷き、椅子から立ち上がりました。
クララも黙ったまま椅子から立ち上がると、クノの手をそっと握り、寝室へと歩いていきました。
「ベッド、ひとつしかないけど?」
「うん。……一緒に、寝る」
クララはくすりと笑うと、さっさとパジャマに着替えて、ベッドに腰掛けました。
クノはよそ行きの飾りのついたワンピースを脱ぐと、クララの隣に腰掛けました。
そして、また静寂が訪れます。
クララがそっとクノの小さな手に自分の手を重ねると、クノは伺うかのように、クララを見上げました。
瞳に不安の色を感じたクララは、ゆっくりと思い出を語るような声で言いました。
「私たち、ずいぶんと長い付き合いだよね」
「うん……」
「私は、きっといつかはこんな時が来るって信じてた。 もっともお互い男女も立場も入れ替わっちゃった、こんな姿だけどね」
「クララは、……ずっと待っていたのか? オレのことを?」
「そうだね。でもずっとこのままでもいいかなとも、思っていた。世界が変わるのがコワかったから」
「世界が変わる?」
「そう、”コンラート”と二人で一緒に、当たり前のように暮らす世界が」
「神を裏切ることへの、不安?」
「うーん、司祭は確かに神への忠誠を誓うけど、伴侶を得てはいけないという教えは無いわ」
「そう、なのか……?」
「あなた、規範書をロクに読んでないでしょう? あんなに毎日、教会に来ていたのに……」
「お、ワたしは別に、信仰なんて……。ただ、教会の宣託は正確だったし、クララがいたから……」
「私がいたから?」
「う……、いいだろ、そんなこと」
「良くない。ねぇクノ、真面目に答えて。 私のこと嫌い? 結婚するのは嫌?」
「そんなことはないけど……」
「あいまいに答えないで。私のことが好きなら好きって言って。”愛している”って言ってよ!」
クノは先ほどのパーティの時のことを思い出していました。クララからプロポーズされて、確かに自分は嬉しい気持ちになった。
本当ならあのセリフは、だらしなかった過去の自分が、待ち続けていた過去のクララのために、言うべきものであったのに……。
クノは迷いを振り払うかのようにベッドから飛び降りて、クララの前に立ちました。
小さな少女の姿のクノと、ベッドに腰掛けた青年の姿のクララの目線が同じ高さになりました。
「愛している、クララ。結婚しよう」
「ありがとうコンラート。 私も愛しているわ、大好きだよ!」
そういうと、クララもベッドから降りて床に膝をつき、クノを抱きしめてキスをしました。
そして二人でひとつのベッドにもぐりこみ、少し大きめの枕に額を寄せ合うようにして頭を乗せ、毛布を被りました。
クララの手がクノの腰に回され、抱き寄せられると、クノは緊張に震えて、それまで握っていたクララの手を離してしまいました。
男として、何時か女性を抱くようなことがあったとしても、少女として男に抱かれることなど、想像すらしていなかったクノにとって、結婚するということは別の意味で覚悟が必要なことでした。クララはさっきまで、小さな汗ばんだ手に握られていた手をクノの頬に当て、なるべく優しい声で言いました。
「怖い? でも安心して、クノ。 結婚するって言っても、儀式をして、役場に届けを出して、後のことはゆっくりと考えればいいから。今夜は僕も、”ガマン”するから」
「う、うん。……ゴメン」
”ガマン”する……という、言葉の意味と欲望を抑えることの難しさを知っていたクノは、それでも不安を感じないわけではありませんでした。
しかしクララがゆっくりと、探るように、そっと優しく自分を抱き寄せる様子に、自分への気遣いと優しさと愛を感じて、クノの不安も徐々に癒されていくような気がしていました。そして何時の間にか、クララの寝息に誘われるように、クノも眠りについていました。
<つづく>
その夜。クノは、後片付けが終わっても教会に残っていました。なんとなく自分の家に帰る気が、しなかったのです。
まるでそれが当たり前であるかのように、教会の門のところで客人たちを見送り、クララのあとに付いて、ドアを閉めたのです。
二人は黙ったまま広間に戻り、クノは椅子に腰掛け、クララは無言でお茶をいれて、自分もテーブルに着きました。
時折、窺うようにクノがちらとクララを見ますが、クララは窓の外をじっと見つめていました。
飲みかけのカップのお茶がすっかり冷たくなった頃、クララが言いました。
「明日も早いから、もう寝なくちゃ」
「そうだね……」
「……」
「……」
「泊まっていく?」
一瞬ぴくんとなったクノは、下を向いたまま無言で頷き、椅子から立ち上がりました。
クララも黙ったまま椅子から立ち上がると、クノの手をそっと握り、寝室へと歩いていきました。
「ベッド、ひとつしかないけど?」
「うん。……一緒に、寝る」
クララはくすりと笑うと、さっさとパジャマに着替えて、ベッドに腰掛けました。
クノはよそ行きの飾りのついたワンピースを脱ぐと、クララの隣に腰掛けました。
そして、また静寂が訪れます。
クララがそっとクノの小さな手に自分の手を重ねると、クノは伺うかのように、クララを見上げました。
瞳に不安の色を感じたクララは、ゆっくりと思い出を語るような声で言いました。
「私たち、ずいぶんと長い付き合いだよね」
「うん……」
「私は、きっといつかはこんな時が来るって信じてた。 もっともお互い男女も立場も入れ替わっちゃった、こんな姿だけどね」
「クララは、……ずっと待っていたのか? オレのことを?」
「そうだね。でもずっとこのままでもいいかなとも、思っていた。世界が変わるのがコワかったから」
「世界が変わる?」
「そう、”コンラート”と二人で一緒に、当たり前のように暮らす世界が」
「神を裏切ることへの、不安?」
「うーん、司祭は確かに神への忠誠を誓うけど、伴侶を得てはいけないという教えは無いわ」
「そう、なのか……?」
「あなた、規範書をロクに読んでないでしょう? あんなに毎日、教会に来ていたのに……」
「お、ワたしは別に、信仰なんて……。ただ、教会の宣託は正確だったし、クララがいたから……」
「私がいたから?」
「う……、いいだろ、そんなこと」
「良くない。ねぇクノ、真面目に答えて。 私のこと嫌い? 結婚するのは嫌?」
「そんなことはないけど……」
「あいまいに答えないで。私のことが好きなら好きって言って。”愛している”って言ってよ!」
クノは先ほどのパーティの時のことを思い出していました。クララからプロポーズされて、確かに自分は嬉しい気持ちになった。
本当ならあのセリフは、だらしなかった過去の自分が、待ち続けていた過去のクララのために、言うべきものであったのに……。
クノは迷いを振り払うかのようにベッドから飛び降りて、クララの前に立ちました。
小さな少女の姿のクノと、ベッドに腰掛けた青年の姿のクララの目線が同じ高さになりました。
「愛している、クララ。結婚しよう」
「ありがとうコンラート。 私も愛しているわ、大好きだよ!」
そういうと、クララもベッドから降りて床に膝をつき、クノを抱きしめてキスをしました。
そして二人でひとつのベッドにもぐりこみ、少し大きめの枕に額を寄せ合うようにして頭を乗せ、毛布を被りました。
クララの手がクノの腰に回され、抱き寄せられると、クノは緊張に震えて、それまで握っていたクララの手を離してしまいました。
男として、何時か女性を抱くようなことがあったとしても、少女として男に抱かれることなど、想像すらしていなかったクノにとって、結婚するということは別の意味で覚悟が必要なことでした。クララはさっきまで、小さな汗ばんだ手に握られていた手をクノの頬に当て、なるべく優しい声で言いました。
「怖い? でも安心して、クノ。 結婚するって言っても、儀式をして、役場に届けを出して、後のことはゆっくりと考えればいいから。今夜は僕も、”ガマン”するから」
「う、うん。……ゴメン」
”ガマン”する……という、言葉の意味と欲望を抑えることの難しさを知っていたクノは、それでも不安を感じないわけではありませんでした。
しかしクララがゆっくりと、探るように、そっと優しく自分を抱き寄せる様子に、自分への気遣いと優しさと愛を感じて、クノの不安も徐々に癒されていくような気がしていました。そして何時の間にか、クララの寝息に誘われるように、クノも眠りについていました。
<つづく>
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