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白と黒の羽 by.伊達ん子 (2)

言葉を紡ごうとした瞬間、外していた視線を絡めた。

赤。血のように、煉獄の炎のように赤い瞳が俺を射すくめた。さっきまでは晴れ渡るように青かったはず。その視線は俺から反論する意思を奪っていった。

お前、なんなんだ?! 動揺は隠せず、声が震えた。光が透けていた羽根の繭は、それが羽根であった事すら判らないくらいどす黒く変化していた。

見たい物を見るのが人。不安が視覚を変化させたのかしら。嘯くそれが口の端を歪めて笑う。けれど見つめる瞳には笑みなど湛えていなかった。

藻掻く。さっきまで張りつめていた股間が今はそれがウソのように萎びていた。瞬きを一度もせずに見つめる赤い瞳に、俺は呑まれていった。

人ならざる者に抱きすくめられ、動揺は最高潮に達していた。胸の鼓動はこれまで以上に速まり、背筋を冷たい汗が流れていった。

ふふ。これからあなたは一人ぼっちになれるのよ。この、あなたのいた場所で。誰もあなただと思う事なんてなく。親も姉弟も恋人も友達も、誰一人あなただと気づかない。自分がイヤで一人になりたいと思っていたあなたに力を貸してあげる。二度と元に戻れない、孤独故の天国と地獄を教えてあげる。

冷静に聞けばゾッとする事を、明るい声色で語るそれが、俺の背中に回した手に力を込めた。

そんなこと望んでいない。真に受けるなんてどうかしてる。逃げようとすればする程、それの腕がきつく締まった。

そして、仲間を増やす手伝いをするの。いいわね。遠ざかる声は耳に漸く届く程の音だった。けれど、やけに耳に残る言葉だった。意識を失う前にみたもの、それは人ならざる者の身体が俺の中に入っていく、そんな非現実的な場面。俺が俺であった時最後に目にしたもの、だった。
2007/4/13(金)19:13
……ん、なんだよ? 叩くなよ……俺は寝て……。ぼーっとした頭はうまく回っていなかった。薄目を開けると見覚えのないビルの一室。辺りは薄暮で、周囲には男が数人、俺を覗き込んでいた。

次第に意識がはっきりしてくると、胸のあたりを触られている感触がしてきた。

え? え? なんだ? 目の前の男たちの腕が俺の身体に延びていた。男に触られているという気持ち悪さが沸き上がってきた。しかし同時にそれが心地よいことだ、そんな心理も心の奥底に生じて来た。

男達は俺が目覚めたと知り一瞬その動きが止まった。その隙をつき俺は身体を捻って集団から逃れようとした。けれど直ぐさま俯せに押さえ付けられてしまった。

こんな所で寝てた? 裸で? 違う、俺は……そう、あの天使みたいなヤツと。身体に入り込む場面がまざまざと俺の脳裏に浮かび上がってきた。そんな事を考えていると、男達の一人が口を塞げと言った。背後から手を回され俺の口が塞がれた。嫌な予感がし始める。

男が一人俺の前に顔を出した。見知った顔。途中で道は違ってしまったけれど、俺の弟。この辺で知らない者はいない、ワル。その弟がじっと俺の目を見つめながら、そうこうを崩した。

あんたみたいなのが裸でいたら誰だってやりたくなるだろ。こりゃ俺達が悪いか、露出させたあんたが悪いか。考えなくてもわかるだろ。

弟の名前。言おうとしても口を塞がれ明確な音にならない。どうして俺が判らないのか。

宵闇の暗さとホコリっぽい室内がいやにリアルに感じられ、恐怖を煽り立て俺は身震いしていた。男が男に何をしようというのか。弟はワルであっても男に興味があったなんて俺は知らなかった。しかも実の兄に。

男達の手が俺の四肢と身体を持ち上げ運んでいった。ほんの少し移動し、俺の目の前に汚いソファーベッド。所々に染みがつきすえた匂いが鼻腔に広がっていった。

軽い金属の触れる音した方向に目を移すと、弟が下半身をさらけ出していた。

開かせろ、そんな言葉は女に遣えばいい。俺に使う必要はない。夢中で身体を暴れさせるけれど腕も足も掴まれ動けなかった。そしてその時初めて何かが違うことに気づいた。
2007/4/16(月)17:02

<つづく>

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