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【投稿小説】専用プールにご用心〜TS姉妹とその後のこと〜(挿絵4枚付き)

作 ととやす
挿絵 蜂蜜柑

1
夏樹「ひゃっほー!プールだぁ!」
春人「おいおい、ちゃんとシャワー浴びろって!」
炎天下のプールサイドに出るや否や駆け出す海パン姿の弟、夏樹。まだまだ小×生、元気いっぱいなのは分かるけど、もう少し落ち着きをだな。
ザッパーン!
「こらー!飛び込みは禁止です!」
大きな水しぶきが上がり、監視員のおじさんが声を荒げる。っておい、何やってんだあのバカ!
春人「こら〜夏樹!」
夏樹「へっへっへ〜」
ただいるだけで汗が滴り落ちるほど暑い夏の日、これが俺 四谷 春人にとって忘れられない一日になることを、この時はまだ知らなかった。

夏休みのある朝。クーラーから出るひんやりした空気を浴びながらテレビを観ていた。健全なる高校生としてはいかがなものかと自分でも思うけど、昨日は遅くまで親友の東と遊び回っていたのだ。・・・本当は宿題を終える予定だったが、東から呼び出されてしまったのだった。
今日こそは宿題を! が、とりあえず昼過ぎまではダラダラして疲れを癒すか。そんなことを考えていたら、ドタドタと二階から足音。ややあって、
夏樹「春人兄ちゃん、プール行こうぜ!」
バン!リビングの扉を叩くように開けて弟の夏樹が現れた。
夏樹「夏休みなんだからさ、遊んでくれよ!」
春人「・・・」
どうしたものか。正直なところ、昨日の疲れもあるので休みたい。しかし、高校に入ってからあまり構ってやれていない弟の頼みを断るのは少し胸が痛む気も。
春人「近くの市民プールなら、いいけど」
夏樹「やったぁ!兄ちゃんとプールだぁ!」
春人「ただし!」
浮かれる夏樹に対し、ピシャリと告げる。
春人「騒いだり、人の迷惑になることをしない、約束できるな?」
夏樹「サワイダリ、ヒノトメイワク・・・?」
春人「いいね?」
ポカーンとした夏樹。こいつ、ちゃんと分かってるのか。
夏樹「できらぁ!」

そんなこんなで近所にある市民プールにやってきて冒頭に至るのだった。
案の定テンションが上がりきった夏樹は早々に監視員のおじさんから大目玉をくらった。
夏樹「ちぇー、なんだよあのおっさん。ちょっとくらいいいじゃんよぉ」
春人「お前なぁ、あれ程言ったろう・・・おかげで俺まで巻き添えで怒られちゃったじゃないか」
夏樹「そだっけ? まぁ、切り替え切り替え!」
言うや否やパッと立ち上がり、プールサイドを駆け出す夏樹に、ため息を漏らさざるを得ない。元気があり過ぎるのも考えものだ。
春人「おーい、待てよぉ!」
あまり目を離してもいられない。俺も昨夜の疲れを押して立ち上がり、目立たない程度の速度で夏樹の後を追ったのだった。

2
夏樹「ん? なんだこれ? ・・・専用プールはこちら?」
春人「専用、の前の部分が滲んでて読めないな」
夏樹とともに矢印付きの看板を見て首をかしげる。
この市民プールには俺も子供の頃から何度か来たことがあるが、こんな奥まった目立たないところにもう一ヶ所あったっけな?
夏樹「よし、行ってみよう!」
春人「お、おぅ。でも専用って書いてるからなぁ」
もし規則に反してしまったら、またさっきみたいに監視員に怒られてしまうのでは。そんなことを考えていると、
「わーい、楽しかったねぇ!」
「ね、すごく気楽でよかったわ」
看板の先の方から、俺と同年代か少し上くらいだろうか、若い女性2人組がこちらに向かって歩いてくる。
春人「あっ、わわっ!」
プールにいるということは、つまり、その、女の子2人は水着姿で。め、目のやり場に困る。俺とて年頃の男、女の子に興味がないと言ったら嘘になる。しかし彼女いない歴=年齢だし、なんか緊張するし、今日は弟も来てるし。
そんな俺の態度を見てか、一瞬こちらに訝しげな目線をくれてからすぐ愛想笑いを貼り付け、ペコリと会釈をして俺たちの横を通り抜ける女の子たち。
ふー、緊張したぁ。
夏樹「春人兄ちゃん意識しすぎだよ。気にせずでーんとしてたらいいのさ、見てな!」
言うや否や、
夏樹「おーい、お姉ちゃん! バイバーイ!」
大声を上げて手を振る夏樹。な、なんてことを・・・恐々として夏樹の視線の先に目をやる。あっ、笑顔で手を振り返してくれてる。
夏樹「なっ? 女の子なんてこんなもんだよ。」
えへんと胸を張る夏樹。こいつ俺より何歩も上を行ってやがる。っていうか小×生相手にこの様な俺って。とほほ。
夏樹「さーって! なんか知らねーけどこの先は普通にプールがあるみたいだし! 行くぞー、兄ちゃん!」
ダッと駆け出す夏樹。
春人「また怒られるからやめろー!」
つられて後を追う俺。
そのため、残された女の子たちの会話が俺たちの耳に入ることはなかった。
「さっきの男の子可愛かったね〜お隣はお兄さんかな?」
「多分そうじゃない? あの人もなかなかカッコ良かったよね! でもさ」
「うん。あの兄弟、プールの方へ行っちゃったけどいいのかな?」
二人して首を傾げる美少女たち。
「ここから先は女の子専用プールなのにね」
もしもこの話を聞いていたら・・・後々まで俺は悔やむことになる。

3
夏樹「ははっ、なーんだ、ちょっとボロいけど、すげー広くて泳ぎやすいじゃん! こっち来て正解だな、兄ちゃん!」
春人「本当だな。なんでこんなに人が少ないんだろう?」
だだっ広いプールには俺と夏樹以外、片手で数えられるほどの人しかいない。それも、
夏樹「またまーた鼻の下伸ばさないようにね、兄ちゃん」
春人「そ、そんなことしねぇよ!」
不思議なことに、そこにいたのは皆綺麗な女の子ばかり。アイドルグループがお忍びで来たのだろうか、という程に顔もスタイルもちょっとそこらでは見かけないレベルだ。
夏樹にはあぁ言ったが、あんまり露骨になりすぎない程度にちょっと見ておきたいという気も・・・。なんてことを考えていた、その時だった。
夏樹「あっ?!」
突然、夏樹が声をあげた。夏樹の短く刈られた髪が長くなっていく。肩口まで一気に伸びた髪が、風に吹かれてふわりと舞う。・・・まるで女の子のように!
変わっていったのは髪だけではない。二次性徴を迎える前の夏樹の身体が、少しずつ、少しずつ丸みを帯びていく。日々の運動で幼いなりに絞られた四肢にも脂肪がついていき、骨格自体も縮んでいっているようで。そのためか、履いていた赤い海パンがずり落ち、大きくなったお尻にかかってしまっていた。顔も丸く、ふっくらとしていって・・・。
ぷくり。
男の子なので当然外にさらけ出していた乳首が大きくなって。胸もほんのり、膨らんでいく。・・・まるで夏樹と同年代の女の子のように!
春人「な、夏樹・・・?」
自分の姿に唖然とする夏樹。あまりの出来事に渇いた笑みすら出てくる。
夏樹「ヒャン! な、何じゃこりゃ?!」
夏樹は急に股ぐらを抑えた。ま、まさかアソコが!?
春人「だ、大丈夫か、夏樹! い、今すぐ病院に・・・」
しかし、次の瞬間
春人「?!」
異変は俺にまで迫っていた。

いち

4
春人「うぐっ!」
骨が軋むような、今までに感じたことのない気味の悪い感覚。ふと腕を見ると、それなりに焼けた肌の色がスーっと白くなっていくのがわかった。同時に、二の腕から手の甲、さらには指にも生えていた体毛が消え失せる。目を下に向ければ、脚も同じようになってた。恐らくは脇や下の毛も・・・。
後に残るのは、雪のように真っ白で、きめ細かな肌。
春人「ああっ!?」
部活のおかげでそこそこ見れるレベルまで出来ていた筋肉がみるみる落ちていき、その代わりとでもいうかのように全身に柔らかな皮下脂肪が蓄えられていく・・・さっきの夏樹と同じように!
お腹周りがぐぐぐっ・・・とくびれ、骨盤が広がるような感覚。尻がムチムチと大きく張っていき、女性のヒップのような妖艶な曲線を描いていた。 骨格の変化に伴い、脚が少しずつ、少しずつ内股へ曲がっていく。
春人「くっ、あっあぁ・・・!」
呻き声のトーンが高くなっていく。数年前に声変わりを終えた男子高校生とは思えない程に。男らしく骨張っていた輪郭が丸くなり、顔も小さくなっていくのがなんとなく分かる。夏に向け、行きつけの床屋で短く、軽く切っておいた髪が艶を帯び、サラサラと伸びていく。
春人「くはぁ・・・んっ!」
喘ぎ声に変わりつつある声が漏れる唇も、ぷるんとした艶っぽいものになり、眉が細く弧を描き、睫毛も伸びていく。
春人「やんっ!はぁあ!」
薄くなった胸板に鎮座した桜色の乳首がツン!と立ち上がった。気付けばその大きさは元々の2倍か、それ以上にまで・・・。
春人「ひょ、ひょっとしてこのまま・・・」
2つの胸が、鼓動に合わせてむくむくっ・・・と徐々に膨らみ始めた。脂肪を蓄え、体積を増していく胸。
春人「うわぁ!!」
思わず手で胸を押さえ込む。 が、抵抗は虚しく、ゆっくりと、しかし確実に胸はむにゅむにゅと膨らみを増していく。
残す所はあと一か所だった。
春人「っ!・・・あっ!あぁぁああっっ!!」
俺の股間が突然大きく反りかえり、ビクンビクンと脈打つたびに小さくなっていく。
春人「ちょっ、ちょっと、まってぇ!」
やがて触ってみないとどこにあるかわからない程まで縮んでしまう。そして、そのまま手をすり抜けるように消えていった。
春人「うっ、ぐぅ!」
一瞬、下腹部が掻き回されるような感覚がしたと思うと、股間にあるはずのない割れ目が刻まれていく。
春人「ひゃっ!?」
こうして、俺の身体は一瞬にして女の子になってしまったのだった。しかし、変化はここでは終わらない。
春人「なっ・・・あんっ!」
生まれたばかりの俺の乳房(!?)がギュッと締め付けられる感覚。男であれば知ることのない未知の感覚に、思わず顔が赤くなる。
春人「お、俺・・・」
「俺」という一人称に違和感を覚えるほど可愛いらしい声が溢れる。出来たての胸はいつの間にか柄の入った緑色の水着で包まれている。
春人「そ、そんな・・・」
股間にも子供の頃履いていたブリーフのような締め付け感。違うのはその内側にあった俺のイチモツが、もう存在していないということ。いつの間にか海パンはビキニのボトムへと変わり俺の股を覆っていた。
キュッと股ぐらを抑えるそれは、幾分頼りなくなってしまった自分の股間を自覚させるのに十分で・・・。
春人「きゃあ!」
嬌声が溢れた。反射的に指で触れた股の付け根には当然慣れ親しんだモノはなく、かわりにビキニ越しに敏感な秘所を刺激してしまう。
春人「嘘・・・これって・・・」
次第に動悸や息切れは落ち着きはじめ、胸の重量感を思い出して下に目線を向ける。
大きく膨らんだ2つの乳房は、確実に自分のものであった。 ちょっ、と持ち上げてみると、柔らかく、重い。作り物なんかじゃない、確かに自分の身体にくっついているという感覚が。それは、つまり。
春人「俺、女の子に〜!?」

5
夏樹(?)「に、兄ちゃん!」
動転のあまり、夏樹のことが意識から飛んでいた。声のした方角を見ると、どことなく夏樹の面影の残る女の子が。
春人「お、お前、夏樹なのか!?」
肩口まで伸びた黒髪、ほんのり膨らんだ胸元。健康的な小麦色の肢体を包むのは、やはり女の子向けの水着だ。ブラジャーに似たビキニトップ、太ももがあらわになったボトム。どこからどう見ても、夏樹と同年代の小×生の女子にしか見えない!
夏樹「う、うん。お、俺たちなんでこんな・・・ち◯ち◯もない! 身体もプニプニしてる! む、胸まで・・・。兄ちゃん、俺たち女の子になっちゃったんだよ!」
分かっていたことだが、改めて事実を突きつけられるとサッと頭から血の気が失せる。
春人「と、とにかくここを出よう! 更衣室へ戻るんだ!」
急いでプールサイドへ移動し、ザバッと水から身体を上げる。
ブルン
その勢いで柔らかく膨らんだ胸が揺れ、思わず赤面してしまう。それを誤魔化すようにダッと駆け出し・・・転びそうになる。
夏樹「危ねぇ!」
後ろから夏樹の声。女の子の身体って、男のとは肉のつき方だけじゃなく、重心まで違うのか! ブルンブルンと揺れる胸をギュッと抱えるように抑え、小走りで元来た道を進む。長くなった黒髪が背中に当たりくすぐったい。と、そこでちょうど同年代の男女二人組とすれ違った。ちらっ。二人と目が合う。
春人「やばい、見られた」
夏樹「急ぎすぎだって!」
サッと急ぎ足で通り抜けたところで、夏樹が追いついてきた。こんな姿を他の人に見られるなんて。恥ずかしさのあまり、耳まで赤くなったのを感じる。
夏樹「どうせここから更衣室まで距離あンだしさ、人の目は避けれねぇって!」
春人「は、はい・・・」
立場逆転。普段危なっかしい夏樹にたしなめられるなんて! とほほ。
こうして不思議な「専用プール」から離れた俺たち。残されたカップルの会話を耳にすることはなかった。
「さっきの女の子、同い年くらいかな? すっごい可愛かったね〜!」
「ちょっと、鼻の下伸ばさないでよ! でも確かに綺麗だったわね。スタイルもいいし、髪もサラサラで羨ましい〜! 後ろから付いて来てた娘は妹さんかな? あの子も可愛かったわね」
「そうそう! 絶対大きくなったらお姉さん似の美人になるよぉ! 美人姉妹で眼福眼福♪ 」
「やっぱりこの"女の子専用プール"、美人になれるって噂は本当なのかも! あたし、入るの俄然楽しみになってきちゃった!」
「ボクァ、プールサイドからゆっくり眺めさせてもらうよん。何たってあのプールは女の子のものだからね!」

6
更衣室の入り口に立ち、はたと気づく。今の俺たちは、男女どっちに入ればいいんだ!?
男として入場したけど、今の身体はどう見ても女の子で。このまま男の方に入ったら、どんな目に遭うことか・・・。
反射的に手首に括られたロッカーキーを見やる。
夏樹「あれ?」
夏樹も同じことを考えていたようだ。俺と同じポーズで固まっている。プールに入場した時、俺たちのロッカーキーは男であることを示す青色だった。しかし今、二人の手首に引っかかったキーの色は・・・ピンク!
春人「女子更衣室に入れってことなのかな・・・?」
ゴクリ。不安と、一欠片の好奇心で唾を飲む。いいのか!? 本当に大丈夫なのか!?
頭の中で様々な思惑が錯綜し、破裂しそうだ。ジリジリと照りつける太陽の熱も判断力を奪っていく。ええい、ままよ!
意を決した俺は夏樹と顔を見合わせ、ゆっくりと「女子更衣室」と刻印された扉を開いたのだった。

に


7
幸いなことに、俺たち二人以外に人はいなかった。夏樹と顔を合わせ、洗面台の鏡に自分の姿を映す。
春人「何だよ・・・これ・・・」
そこに映っていたのは頬を紅潮させた、 腰に届かんばかりの長い黒髪の女の子だった。 顔は男だった頃の面影を残してはいるものの、顔のサイズそのものが小さくなり、 少し目が大きくなったようにも見える。
春人(やっぱり女の子に!? しかも、この身体・・・すごく・・・)
無駄毛ひとつないすべすべで白い肌、艶のある長い黒髪、キュッとくびれたウエスト、丸くて大きい安産型のお尻、そして
春人(胸が、ある。それもかなり・・・大きい!)
プールを出る時と同じように、自分の胸を水着越しにそぅ~っと持ち上げてみる。
タプン
男の時には、鍛えて盛り上った筋肉だった。今は、同じ盛り上がりでも柔らかい脂肪に。水の抵抗もなくなり、その重量感をたっぷりを実感する。ふと見やった鏡の向こうには、頬を真っ赤に染めた少女が自分の乳房を強調するような妖艶なポーズをとっていた。
春人(か、可愛い!)
正直なところ、我(!?)ながら学校のクラスでも上位に位置づけられそうな美少女っぷりだ。それにこのグラマラスな身体つき。胸の方も高校生としてはかなり・・・。
こんな美少女が肌も露わにビキニ姿で目の前に。男の頃ならとてもじゃないが目も合わせられなかっただろう。しかし、これは今は自分の身体なわけで。
春人「ふっ、ふふっ」
夏樹「・・・ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃんってば!」
春人「はっ!」
気付かぬ間に笑みが溢れていたことをようやく自覚する。いったいどうして俺はこんなことを!
夏樹「俺たちさ、もう元の男には戻れないの?」

8
そういって、何かをスッと差し出してくる。薄手で花柄の刺繍が施された白いハンカチ。どう見ても女児向きにしか見えないその端には黒いマジックで「四谷なつき」と書かれていた。
春人「これは?」
夏樹「俺のロッカーに入ってた。でも俺、こんなの知らない、持ってなかったはずなのに! それに・・・」
パッと俺の手首が掴まれロッカーへ誘導される。よっぽど動揺したのか、戸は開け放たれ、中身が散乱している。
夏樹「俺のロッカーのはずなのに、ヒラヒラのワンピースや女のパンツが入ってる! さっきのハンカチとか、サイフとかも全部女物になってる!」
わなわなと震えを抑えきれない様子の夏樹。ややあって、ふぅと大きく呼吸し、ポツリと呟いた。
夏樹「直感なんだけど俺たちさ、生まれた時から女だったってことになってんじゃない? 兄ちゃんも自分の物調べてみたら?」
打って変わって驚くほど落ち着いた声。それには有無を言わさぬ力があって。
ガチャ
俺は自分のロッカーを開く。その中を脇から夏樹が覗き込む。
夏樹「やっぱりね」
レースの刺繍が施されたピンク色のショーツ小さく丸まっていた。そして、それとお揃いのブラジャーも。他には同じく桃色のバスタオルにプラスチック製のクリアバッグ。どれもこれも、俺には見覚えはないはずのものだ。さらには、
春人「ス、スカートまで」
着てきたはずの制服のズボンは見当たらず、女生徒用の制服のスカートと、白いブラウスがそこにあった。このロッカーの中身を見て、男子高校生のものだとは誰も思わないだろう。それはつまり、夏樹の予想が当たっているということに!?
サイフ(これもデザインが変わっていた)も確認する。入っていた金額は、元と完全に一致した。しかし、高校の学生証には今の俺と同じ顔をした女の子の写真と、「四谷春香」という名前が記載されている!
なんだよ、「春香」って! ついさっきまで俺は男で、「春人」だったのに!

9
無言でどちらともなく着替えを始める。夏樹も俺と同様、「なつき」という女の子ということになっているらしい。読みは変わらないが、漢字からひらがな表記になっているようだ。
いまだに女の子になってしまったことにどぎまぎ戸惑う俺と違って、夏樹の順応は早い。ポイポイポイっと水着を脱いであっという間にスッポンポンに。
春香(うわぁ、夏樹のやつ、やっぱり完全に女の子じゃん)
惜しげもなく肌を晒した夏樹、今の「なつき」の身体には、とてもじゃないが小×生男子だった面影は微塵も見当たらない。口をへの字に結んでいつの間にか「なつきの物」になっていたサマードレスをつまみ上げ、じっと見つめている。水色のそれが、今のなつきにはきっとよく似合うだろうな・・・そう思いかけて。
春香(嘘。俺、なんでこんなこと考えてるんだよ。まるで本当に妹を見てるみたいじゃないか!)
忘れるな。俺も、あいつも男だったのだ。
なつき「っつ! なんか、胸が擦れてチクチクすんなぁ。兄ちゃんみたいにでっかいブラが必要かもな!」
ニシシと笑うその姿を見て少し安心する。姿が変わっても、やっぱりなつきは夏樹なんだな。
フッとひと息漏らし、ついに意を決した俺。
シュルリ
ビキニの上下を脱ぎ放ち、ピンクのショーツとブラジャーを身につけるのだった。

10
春香「うぅ、やばい・・・」
なつき「我慢しなって。俺もスースーするンだしさ!」
水着を脱ぎ、苦労して下着を身につけたそのままの勢いでスカートを履き、逃げるようにプールを後にした俺たち。とりあえず家に帰ることにしたのだが。
春香「無理無理! こんなカッコで歩くの無理ィ!」
元々男だった俺が、女子の制服姿で街を歩き回ることを想像して欲しい!
女装しているような気恥ずかしさしかない!
何とも頼りないスカートを穿いて脚を出して歩く感覚。ひらひらしたスカートが太腿に触れる度に下半身が剥き出しになっていると再認識させられる。
春香(何て・・・恥ずかしいんだっ!)
フゥと風が吹くたびに、パンティが見えていないか気になる。うちの学校の制服ってスカートが短かったんだなぁ。クラスの女の子がスカートの裾をカバンで隠して階段を上がる姿を度々見かけたけど、
春香(まさか俺が同じ苦労をするなんてぇ)
そして胸の膨らみが輪を掛けて恥ずかしい・・・動くたびに上下左右に揺れて、乳首が擦れてしまう。
春香(ブラジャーの付け方が甘かったのかな?)
もちろん俺がブラジャーを着けるのは今日が初めてだ。その内側から受ける弾む感覚、揺れる肉の感覚。これらを自覚するたびに、ブラジャーが女の子にとって必需品だってことをつくづく思い知らされる。もしノーブラだったらと想像するとゾッとする。
春香(!? あー、またこっち見られたぁ)
しかも道を擦れ違う男達がオレの胸に視線を落としていくのを感じる。これは自意識過剰なんだろうか?
でもあの目線はゼッタイ・・・。
トホホ・・・見る側だった俺が見られる側になってしまうなんて。

そんなことを考えながら、ゆったりゆったりと二人して家に向かう道すがら。ふと、視線の先に人影を認めた。あれは俺と同年代の男のようで・・・?
春香「あ、東ァ!?」
よく見慣れたシルエット、ヒョコヒョコした特徴的な歩き方、近づくにつれはっきりしてくる自信に満ちた強い眼差し。そのどれもが、俺の親友である東 洋平のものに相違なかった。

11
なつき(まずいな)
兄ちゃんのやつ、あのアズマって男の人が見えてからめちゃめちゃ挙動不審じゃん。これじゃ帰るまであと何時間かかっちゃうんだろ?
確かあれだよなー、昨日兄ちゃんが遊んでたっていう一番の親友。まぁそりぁ仲良い友達にこんな姿見せたくないってのは分かるけどさ、だからってあんなあから様にうろたえて髪とか服のヨレを気にしちゃうなんて・・・。本当の女みたいじゃん!
・・・なんていうか、イタズラしたくなっちゃうよな!
擦れて少し痛む胸元を抑えながら、にやぁとした笑みを隠せない俺。っていうか、隠す気もない。女の身体になってからこっち、なーんもイタズラできなくてウズウズしてたんだ!
こんな可愛い女の子になった兄ちゃん、いじらなけりゃ男(女?)がすたる!
幸い、兄ちゃんはアズマに夢中でこっちに全く気付いていない。チャンスだ!
俺たちとアズマの距離がどんどん近づく。流石に向こうもこちらに気づいたようで、「おっ!」という表情になる。こんな時の兄ちゃんの行動は分かってる。「挨拶」だ。
照れたような、困ったような表情のまま、ぎこちなげに右手を挙げる兄ちゃん。左手にはピンク色のプールバッグ。となると、「そこ」のガードはガラ空きだ。
なつき「うりゃぁ!」
ファサァァァ
春香「ふえ?」
下から上へ突き上げる動きとともに、薄く柔らかな緑色の布が舞う。兄ちゃんのスカートは、風とともにヒラヒラと。そして、その下に隠されていた真っ白な太ももとピンク色のパンツが眩しい。
決まった。クラスの女どもに仕掛け続けた必殺のスカートめくりが炸裂したのだ。
へへへ、アズマ、目が点になってる!
さて、うちの兄ちゃんは?
口をパクパクさせながら、見る見るうちに耳まで真っ赤に。
春香「や、やだ・・・。み、見られた・・・」
あれ? なんか思ってた反応と違う。ここ、俺を怒るところよ?
東「あっ、あのっ、その四谷サン・・・?」
いたたまれなくなったのか、おずおずとアズマが声をかけてきた。しかし、それも聞こえないのか、微動だにしない兄ちゃん。
なつき「兄ちゃん? ご、ごめんよ・・・?」
すると兄ちゃんの瞳はみるみる涙でいっぱいになっていき、
春香「きゃあああぁぁぁ〜〜〜っ、いやあ、みないで!!!」
悲鳴をあげて、手で胸元を隠しながら、踵を返すや走り出したのだった。
なつき「えええええ!!!!」
東「ちょっと待ってくれよ!」
全速力で逃げる兄ちゃんをアズマと二人で追いかける。火事場の馬鹿力か、異常に早い兄ちゃんを捕まえるまでにおよそ30分もかかった。大声で叫びながら逃げるもんだから、ご近所にも迷惑をかけてしまったのは言うまでもない。
なつき(乙女(?)の羞恥心、なめてたぜ・・・)
もちろん、原因は俺だから兄ちゃん含め方々に謝って回ったんだけど、その時にはアズマも一緒になって頭を下げてくれた。急に声かけておどかしてしまったからってさ。
ふーん、いいやつじゃん。別にこの時に確かな予感があったわけじゃなかったけれど、なんとなくこういうやつならそそっかしい兄ちゃんのことを大事にしてくれそうだなと思った。
チクリ
いてて、さっきからなんでこんな乳首が擦れてヒリヒリすンだろ?

さん

12
それから、数ヶ月後のとある休日。

何かがおかしな一日だった。よく知った街、歩いたことのある道、行き慣れた店。みんなみんな、知っていた。真新しいものは一つもなかった。
彼のことも、よく知っていた。一緒に勉強したことがある。一緒に帰ったことがある。肩を組んでバカ話をしたことがある。・・・休日に一緒に遊んだこともある。みんなみんな、知っていた。真新しいことなんて、なかった。
だからこれは、絶対何かがおかしいのだ。俺も、彼も、何も変わってないはず、何も特別なんかじゃないはずなのだ。そう、いつもと同じ、ただ二人で一緒にいるだけなんだから。
だから。こんなに胸がうるさいなんて、絶対におかしい。
春香「今日はありがとう・・・・」
東「う、うん。また!」
今日。東に誘われて映画を観に行った。二人で。これって、デート、っていうのになるのかな? なんでだろう。ずっと胸のドキドキが止まらなくて。映画なんて頭になんて入ってこなくて。用事は終わったから、後は帰るだけでいいのに。どうしてこんなにさよならするのが寂しいって思っちゃうの?
春香「じゃあ。バイバイ」
迷いを断ち切るように、はっきりと東に告げて背を向ける。いくら身体が女の子になっちゃったからって、いくら東が「春人」とバカをしていた頃のことを覚えてないからって、この人は、東は「友達」。そのはずなのに。
東「は・・・春香ちゃん!」
突然の声にビクっとして振り返る。いつもの自信満々の笑みは何処へやら、頬を染めてこちらを真剣に見つめる東。
春香(東のこんな表情、初めて見る・・・)
親友だった、男だった頃には見ることのなかった東の姿。この顔を見ることのできた「春香」自身に少しだけ嫉妬する。
春香「なに・・・かな?」
東「キス・・・していい?」
ドキン!
バクバクとした心臓の音が響く。東にも聞こえてるんじゃないかとまで思えるほど。
春香(断らなきゃ)
直感で分かる。ここで断らないと、俺は、もう・・・。
春香「っつ・・・!」
なんで!? どうして何も言えないの!?
もしかして、俺は、もう?
正面に東の顔が。頭の中で警告が鳴り響く。けれど、身体がいうことをきかない。
そして、
春香「う、うん・・・」
はっきりと東に意思を伝える。肩が抱き寄せられ、近づいてくる東の顔。気がつくと、ゆっくりと自分の目が閉じていくのを自覚する。
春香(こういう時、自然に目が閉じちゃうんだ・・・)
ソッと二人の唇同士が触れ合う。身体に温かいものが満たされていく。
春香(これは、二人にとって初めてのキス。ファーストキス・・・なんだ・・・よね)

やけに夕暮れがキレイに映えたこの日。「俺」は「私」になった。

13
優梨「うっひょ〜みろよ、なつきィ! カップルがチューしてんぜ!?」
なつき「んぁ?」
隣を歩く友達、優梨がハイテンションな叫び声を上げる。
なつき「んなもん別にそこまで珍しいことでもねーだろ?」
優梨「だってよー、アレぜってぇファーストキス同士だぜ?」
いやらしく音を立てながらアイスを舐め、ニヤつく優梨。我が友ながら相当な悪戯っ子っぷり・・・最高だな! 時々こいつが本当に女なのか疑っちまうよ。まぁ、身体を見ると俺よりだいぶ発育が良いし、胸も膨らんでるから女だって分かるんだけどさ。体育の着替えの時に俺と違ってもうブラジャーつけてたし!
しかし実際のところ、俺こと四谷 夏樹が「なつき」って女になってから、優梨の存在には助けられているのは事実だ。男の友達と話すのに近い感覚で接することができる同性の友人ってのは、女になりたての俺には本当にありがたい。・・・なんか男だった頃も優梨に似た男の友達とつるんでた気もするけど。
ぶっちゃけ、今はカップルよりも俺のアイスが当たりかどうかの方が興味あったが、優梨が言うんじゃしょうがない。一緒になってからかってやるか!
なつき「ほ〜ん、で、どこだよ?」
優梨「あっちー」
優梨が指差す方を見て・・・アイスを落としそうになった。
なつき「なっ、なっ、んなぁぁぁぁぁ〜!?!?」
そこにいたのはうちの、兄(?)。一緒にいるのはアズマかよ!
あいつら、いつの間に。しかもあのフインキ、完全に恋人同士じゃん!
優梨「どしたー、なつき? 固まってんぞー?」
急に動かなくなった俺を見て、怪訝な表情を浮かべる優梨。
なつき「い、いやー。あ、あれはやめとかないかぁ」
変な汗がダラダラと流れる。
優梨「へ? そう? ってかお前汗やばくね?」
なつき「いや、ま、まだ残暑ってか、暑さ残ってっからな〜」
優梨がじっとこちらを見つめる。
優梨「怪しい。なんか隠してんだろ?」
ダメだ。優梨は隠し事を見抜くのが上手い。観念してはっきり言うしかねぇか。
なつき「じ、実は・・・」

14
優梨「だっはははは! こりぁケッサクだぁ!」
ちぇ! 優梨に弱み握れちまったな。
優梨「悪い悪い! いやー、まさかあの女の人がなつきの姉ちゃんなんてさぁ! 世の中狭いっていうかなんていうか! でもすげー美人だったよなぁ」
なつき「・・・」
ちょっと前まで俺たち二人で兄弟だったんだぜ?とは口が裂けても言えない。このまま姉妹として生きていくしかないのかな。
でも優梨の言う通り、兄ちゃん・・・いや、今は姉ちゃんか。姉ちゃんはここしばらくで一気に綺麗になっていったと思う。最初は身につけることさえ嫌がっていたブラジャーやパンツ、スカートなんかも今ではサラッと、元から女だったかのように着こなしている。それだけじゃない。さっき東と一緒の時に着ていた服も「年頃の女の子」って感じの可愛らしいデザインだった。白を基調としたブラウスは清楚な雰囲気の姉ちゃんにはよく似合っていたと思う。いつの間に手に入れたのやら。髪だってバッチリとセットして、緑のリボンで結んであった。どっからどうみてもあれは「若いお嬢さん」って感じで、男子高校生だったなんて信じるやつはいないだろう。きっとアズマのために、いっぱい努力したんだろう。
俺には無理だ。あんな格好をするなんて。女になったあの日以降、あの水色のサマードレスは袖を通していない。着るのは今日みたいなオーバーオールとか、半パンとか、妥協してキュロットスカートだ。姉ちゃんみたいに胸が膨らんで、可愛い服を着て男とキスをするなんて、想像するだけで嫌だ。
女になった直後は、姉ちゃんも俺と同じ風に考えていると思っていたのに。それとも、アズマが兄ちゃんを姉ちゃんに変えてしまったのだろうか? 「女になった男」から、本当の「女の子」に。それともあれは姉ちゃんが自分から?
ふぃーっと息を吐き出す。なんか、二人を見てから胸がモヤモヤしている。
優梨「ま、よかったじゃねえか」
ポツリと優梨が呟く。
なつき「え?」
優梨「ちゃーんと好きな人ができて、その人と結ばれる。どんなことがあったとしても、でも、それが一番良いのさ」
優梨は時折こうやって普段の姿からは似つかわしくないマジメなことを言う。正直、言ってる意味を完全には理解できていない。でも、こいつが、優梨が俺のことも考えて話してくれるのは分かる。伝わる。それがすごく嬉しい。ちょっと元気が出てきた。じゃあついでに、反撃といこうか。
なつき「ところでさ、お前は好きな人いるのか?」
みるみる赤くなる優梨。
優梨「はっ、はっ、はぁー!? い、いるわけねーだろ!」
なつき「いやいや、もう顔見ただけで分かったわ。あれかー? 幼なじみだとか言ってたあいつかー?」
優梨「や、やめやめ! からかうなよなぁ! そーいうなつきはどうなんだよ!?」
なつき「うーん、俺はいないかなぁ? 男にキョーミねえし!」
優梨「いやー、分からねぇぜ? まだまだお互い小×生だし! なつきもこれから男子と恋に落ちちゃうかもよ〜」
そう言ってウププ、と笑う優梨。
なつき「はっ、俺が男と恋愛? 絶対あり得ないね!」 
そうさ、姉ちゃんはアズマとよろしくしてるといいや! 俺は「俺」であることを忘れないぜ!
お母さんが買ってきてくれた、フリフリのついたシャツの袖を指で弾きながら、この頃の俺は静かに誓ったのだった。
膨らみかけた胸の痛みが、いつも以上に強く感じられたのを今でもよく覚えている。

15
それから十数年後。

結婚式が終わり、参列者は皆教会の入り口で新郎新婦を待つ。各々が色とりどりの造花の花弁を携えて。空は青く晴れ渡り、まさに人生の門出を祝うのにふさわしい雰囲気だ。
優梨(いやー、ほんとギリギリだったわ)
ヘアメイクにドレスへの着替え。せっかくお呼ばれしたのだから悪目立ちしない程度にバッチリと決めてやる、と意気込んだのがいけなかった。お陰で式場には刻限ギリギリで滑り込む羽目になり、今日の式の参列者の顔をほとんど見れていない。
優梨(ほんとに綺麗だったなぁ)
式の光景を思い出し、思わず笑みがこぼれる。っとと、まだフラワーシャワーまで少し時間があるようだし、旧交を暖めるとしますかね!
うわー、あれ明日香か!? 小学校で同じクラスだった!めっちゃ美人になってんじゃーん!
おぉ、サッキーじゃん! 確か大学の先輩と結婚したって風の噂に聴いたぞ!
キャアキャアと年齢も忘れて大騒ぎ! 会うのは久々でも、話をすれば昔に戻る。それが友達ってもんさ。
ひとしきり旧友たちと話に花を咲かせ、一息ついていた。すると、
??「あの、優梨ちゃん、よね・・・?」
背後から女の人の声がした。クルッと振り返ると、そこには艶のある黒髪を短めにまとめた美人さんが。見間違えるはずがない。
優梨「あー、春香姉さん! お久しぶりですぅ! どうですかー最近は? ってかパーマあてたんっすね! めっちゃかわい〜」
春香「うふふ、ありがとう。優梨ちゃんとは私の式以来ね。色々あるけど元気よ。優梨ちゃんも元気そうでよかったぁ」
春香姉さんは親友のなつきのお姉さん。初めて会ったのってあたしが小×生の頃だっけ? 
よくなつきの家に遊びに行ってた時からずっと仲良くしてくれているあたしの憧れの女性だ。美人だし、スタイルも良いし、賢いし、何より誰に対しても優しい。春香姉さんの雰囲気に包まれているだけでいつも心がフワフワと暖かくなるのだ。昔よく恋バナとか恋愛相談とか乗ってもらったっけなぁ、懐かしい。いつまで経ってもこの人は変わらないなぁ。いや、一つ変わったことがあるみたいだ。
優梨「お腹の方は、その。どうですか?」
春香「ありがとう。おかげさまで経過は順調よ。・・・もう少し早く産まれてくれていたら今日フラワーガールをさせられたのに、ね?」
そう言ってペロリと舌を出してイタズラっぽく笑う春香姉さん。か、可愛い・・・とても人妻には思えねぇ。久しぶりに会った春香姉さんの魅力にメロメロになっていると、
東「春香。ここにいたのか。おっ!優梨ちゃん久しぶり!」
ヒョコッと春香姉さんの旦那さん、洋平さんが顔を出す。いやー、やっぱ美男美女の夫婦が並ぶと絵になるわー。結婚して数年経つのに幸せオーラハンパねぇ。・・・っていうか、ガキの頃この二人がキスしてるとこ覗き見たんだよな。今更ながら罪悪感が。
優梨「あはは、お久しぶりです! それにしてもまさかなつきが結婚するなんて! 確か会社の後輩クンでしたっけ、お相手。」
罪悪感を誤魔化すように話題をなつきの結婚に逸らす。
春香「そうなの。でもほんとにねぇ・・・まさか、なつきが、ね」
どこか遠い目をする春香姉さん。四谷姉妹の深い事情はよく知らない。けど、何となくそうなんじゃないかなという予想はずっと持っている。なつきにも、もちろん春香姉さんにも言う気はないけれど。
さっきの式を見ても尚、なつきが男と結婚するなんて信じられない。あいつから連絡が来た時なんてビックリしすぎて飲んでた紅茶噴き出しちゃったもんなぁ。結婚の理由は本人曰く、「色々あんだよ」って詳しくは聞けなかったし。
なんてことを考えていると。
からーん、からーん
軽やかな鐘の音が響く。そろそろお出ましかな。

16
鐘の音が収まるや、扉が開く。教会の中から互いに腕を組んで歩く男女が一組。白いタキシードを着た旦那さん、確か西野さんだっけな?
そして我が大親友のなつきである。柔らかな色合いのウェディングドレス、端正に整えられた髪。そして色とりどりの花で飾られたブーケ。どこからどう見ても素敵な花嫁っぷりだ。
「おめでとー!」
誰からともなく歓声と拍手が上がり、造花が舞い散る。あたしの知っている人から知らない人まで、たくさんの人に祝福されて笑顔を浮かべる二人。そんな姿を見て、
優梨「へっ、なかなか似合ってんじゃん・・・(ズビッ)」
いつのまにか涙がにじんできた。どんな風にからかってやろうかと思ってたのに。あんな幸せそうな姿を見せられたらさぁ!
小学校の終わり頃、胸が膨らみ出して「女になりたくない〜」なんて駄々こねるところを一緒にブラ買いに行ってやったなつきが。別の高校に通ってからも「他の女友達できねぇ」なんて言ってうちの高校にまで遊びにきてたなつきが。たくさんの人に囲まれて、あんな笑顔になるなんて!
少しずつ、あたしのいる場所まで近づいてくるなつきと西野さん。仲良さげに腕組んじゃって! ふと、あたしに気づいたのかこちらに目線をくれるなつき。ヤバ、泣いてるのばれる!
慌てて取り繕ってももう遅い。こちらを一瞥したなつきはニヤァァと笑う。子供の頃と同じように。
優梨「ちくしょー、幸せになれよ!」
こうなりゃヤケだ。両手いっぱいまで集めた造花をなつきに向けて目一杯ばら撒いてやる! これがあたしからの祝福だ。存分に受け取れぇ!!
いつの間にか涙は吹き飛んで、笑顔になっていた。あたしも、なつきも、その場にいる皆が笑顔だった。

よん

17
式が終わり、先月から同居を始めた家へ帰る。荷を下ろしてからは疲れ果て、二人して無言のまま風呂に入り、寝る支度を始めていた。並んでベッドに横になり、電気を消したところで、
「今日はどうだった?」
と今日から夫になった人、太陽が声をかけてきた。
なつき「んー、まぁ楽しかったかな」
太陽「なっちゃんが楽しんでくれたようで、俺も嬉しいよ〜」
いつもながらのほほんとして気の抜ける声だ。
太陽「にしてもなっちゃん、良いお友達たくさんいるね! あの披露宴で友人代表スピーチしてくれた人、すっごい良い人なんだなって伝わってきたよ!」
なつき「あぁ、優梨ね。式で泣くつもりなかったのにあいつがめっちゃ泣くから俺まで泣いちゃったよ・・・」
太陽「泣いてるなっちゃんなんて滅多に見たことなかったからビックリだよー。お義姉さんもお子さんが生まれる前に来てくれてよかったー」
なつき「あぁ、そうだな」
太陽「なっちゃん」
なつき「んー?」
太陽「僕と結婚したこと、ほんとによかったの? 後悔してない?」
んだそりゃ。まだそんなこと考えてやがったのか。
なつき「そりゃあさ、新卒で職場入ってきたピッカピカのお坊ちゃんだったお前に出会った時はこうなるなんて考えてなかったさ」
あの頃を思い返すと今でも自然と笑みが溢れてくる。
太陽「僕も、配属先のメンターだったなつき先輩と結婚することになるとは思ってなかったよ」
顔は見えないが、夫も笑ってくれている気がする。
太陽「初めて会った頃はツンツンしてて、この先輩怖い〜って震えてたんだよ」
なつき「あぁー、すまん。付き合いたてのころは距離感掴めなくって、一緒に歩くのも恥ずかしかった。その、女として誰かと付き合うのが照れ臭かったんだよ」
太陽「ま、僕もこの通りのまんまる体型だからねぇ。一緒に歩くのが畏れ多かったんじゃないかなぁ!?」
その体型を誇るような口ぶりに思わず苦笑する。少しは痩せろ、このバカ。
なつき「でもさ、今は違うよ。俺はお前になら良いかなって。お前となら一緒にいれるって、そう思ったんだ。」
男でも、女でもなく。ただ一人の人間として見てくれるお前だったから。
太陽「そっか、ありがとう。それを聞けて安心したよ。これからも、よろしくね。」
なつき「・・・あぁ、今後ともよろしく。ついでに、こっちからもいいか?」
太陽「なんでもどうぞ」
なつき「俺が昔男だったって言ったらどうする?」
しばしの沈黙。その後に。
太陽「まさかぁー! 一瞬マジかもって思っちゃったよ。なっちゃんだからねぇ」
なつき「どーいう意味だよw」
まっ、そりゃあ信じねぇよな。俺や姉ちゃんが「夏樹」と「春人」だった証拠なんてもうないし。写真や日記なんかも全て女の子として育ってきたものに置き換わってたし、あの不思議なプール・・・後で知った「女の子専用プール」も、あれからまもなく改装になってなくなってしまった。あのプールが一体なんだっのかは今となっては分からない。

なつき「こーんな美人つかまえて、マジかもたぁ失礼なやつめ!」
うりうり、いじめてやる!
太陽「うわー、疲れてるから、疲れてるからぁ!」
でもそうだよな。この日のために髪も伸ばした、美容にも気を使った。全てはこいつに綺麗だなって思ってもらえるように。これが女でなくてなんなのだ。なんてことを思っていると、
太陽「でもさ、なっちゃんがなっちゃんでありさえすれば、君がどんな姿であっても僕は惹かれてたと思うんだ。」
ドクン。
その一言に胸が熱くなる。
太陽「だからさ、元がどうとか、気にしなくていいのさ。君は君でいればいいんだ。僕はそれをまるっと受け止めるだけさ。」
あぁ、そうか。俺は、ずっとその言葉を待っていたのかもしれない。
太陽の言葉で灯された胸の熱は瞬く間に全身に広がって・・・。
ギュッ。
暗闇の中、彼に抱きつく。
なつき「・・・したい。」
太陽「どんとこい、です!」
くそう、こっちからのアプローチをサラッと受け止めやがってぇ!
なつき「今日は止まんないかもよ? 宣言通りしっかり受け止めてね、"あたし"の旦那様?」
太陽「な、なつきセンパ〜イ? お、お手柔らかに・・・」
ごちゃごちゃ言う口を塞ぐ。もちろんあたしな唇で。
どちらともなく服をはだけ、生まれたままの姿でベッドに入る二人。きっと今日も男の頃にはなかった部分を弄られ、あたしは声を上げるのだろう。でもやられっぱなしは性に合わない。やられた分はキッチリ返してやる。それが自分。それが俺/あたし、ナツキなのだから。

20200612公開

コメント

ととやすさんの小説の描写も最高ですし、蜂蜜柑さんのイラストも最高でした。
プール内の挿絵二枚好きですね…。

以前の作品も楽しく読ませて貰ってましたが、今作も読んでいて高揚するくらいに面白かったです。
二人ともハッピーエンドになったのもまたいいですね。
自分もそのプールに飛び込みたい。

読んでいただきありがとうございます!
その通りです。
実は他にも過去作品のキャラクターがカメオ出演しておりますので、もしよかったら探してみてくださいね。

優梨は「僕の幼なじみたち」に登場してましたよね

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