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投稿TS小説第141番 Blood Line (3)(21禁)

 幹彦は夢を見ていた。それが夢なのか現実なのか、見ている本人には判断できなかったけれど。白い髪の女性が微笑みながら近づいてくる。見知った顔、良く知る微笑み。しかし幹彦が彼女の名前を呼ぼうとしても思い出せない。自分の記憶力を苦々しく思いながら、微笑みを返す。
 もう手が触れあえる程に近づいた時、その女性はモーフィングするように鏡に映った幹彦になっていた。焦りながらきょろきょろと周囲を見回しても誰もいない。そして鏡も無くなっていた。
(――いつも独り、なんだ……)
 目から熱い涙が溢れていた。目を開くと白い天井が歪んでいる。一瞬、幹彦はそこがどこなのか解らなかった。混濁した意識は幹彦の心臓の鼓動を速くさせていた。
(ここは? あれ? 僕は……)
 次第にはっきりしてくる意識は、昏倒する前の記憶を呼び起こしていた。自分が病室に寝ているのだとその時理解していた。
 身を起こそうとするけれど、身体がうまく動かせない。布団が掛かっている感覚はあるのに、ほんの少ししか動かないのだ。幹彦は不安にかられて辛うじて動かせる首を回し周囲を見渡してみる。左腕には点滴が刺さっている。右に目を転じてみると何かの波形を映し出すモニターが置かれていた。幹彦は心拍モニターだと思っていた。そして案の定、室内には誰もいない。
(身体、動かない。なんで? 手はっ足はっ? ……ってこれなんだ?!)
 自分の手足の存在を改めて確認しようと視線を動かすと、仰向けになっているせいで若干形は崩れているけれど、それまで慣れ親しんだ肉体には有るはずもない隆起が否応なしに目に飛び込んできた。それが何なのか、幹彦の知識には入っている。しかし男の幹彦には有ってはならない。
 心臓の鼓動が耳に届いてくる程、速くなっている。幹彦は不安と非現実的な世界に放り出されたせいか、口を開けて浅く速い呼吸をしていた。使いもしない酸素が血中に溜まってくる。
 有るはずが無いモノ、乳房の存在は、幹彦に高野との最後の会話を思い起こさせていた。男の脳を女の身体に移植する、そんな会話だった筈。麻酔で混沌としていた意識ははっきりした事を思い出させなかったけれど、目の前にある事実はそれが本当だと告げている。
(あ、そ、そんなっ。あり得ないよっ。誰かっ、誰かあっ! う?!)
 誰かを呼ぼうと声を上げた筈だった。しかし幹彦の口からは音が出ず、代わりにひゅーひゅーと空気だけが肺から押し出されてくる。その新たな驚きは幹彦の呼吸を一層早めていた。
(なんで? なんで声が出ないんだっ?! 声っ、どうして!)
 緊張からか胃がぎゅーっと収縮して痛くなってくる。そして指先が痺れ意思に反して反り返ってきた。勿論気分も悪くなっていた。幹彦にはそれが酸素の摂取過多による過呼吸症候群だとは知らない。知らないが故に恐怖なのだ。
 物理的な身体の変化に加えて変調がある。これでパニックにならない方がおかしかった。幹彦はあっという間にその波に飲み込まれていた。泣き喚くけれど声が出ない。誰か来て欲しいと願った時、白衣の人物が扉を開けていた。
「0087号、お加減どうで、やだっどうしたの?」
(た、助けてっ)
 駆け寄る看護士が幹彦の異常に気付いた。しかし様子を一別した後はゆっくりした動きに代わっている。
「大丈夫よ、これつけて呼吸しましょう。はい、そんなに浅く速くじゃなくてゆっくりね」
 ビニールの袋をポケットから取り出し、そのまま幹彦の口元へ持っていく。一瞬、幹彦の顔に恐怖が宿った。このまま窒息させられるのかも知れない、そんな気がしたのだ。
(いやだっ、そんなのしたら死んじゃうだろ!)
 幹彦本人はぶんぶんと首を振っているつもりだったけれど、その動きは緩慢で看護士に容易に捕捉されていた。
「あなた、パニックで過呼吸症候群になってるのよ。酸素採りすぎちゃったのね。酸素って身体に入り過ぎると毒になるのよ」
(過呼吸、なに? 死なないの? 殺すんじゃないの? なんだ……)
 萎んだり膨らんだりするビニールの向こうで、高野が扉を開けて入ってくるのが見える。看護士の説明で落ち着きを取り戻していた幹彦に再び緊張が走る。
「あ、所長」
 ベッドの脇にやって来た高野から、身体をよけようとしたけれど、幹彦の身体は動かせなかった。
「あー、そのままそのまま。君が何をしたいか良く解るよ。目を見ればね。佐藤さん、ちょっと外しててくれないか」
(待って、この人と二人にしないでくれよっ)
 佐藤と呼ばれた看護士はナースステーションにいる旨を伝えるとそそくさと部屋から出ていってしまった。それを見送り扉が閉まったのを確認してから、高野が幹彦を見下ろす。その目にはいつも見られない歓喜があった。
「さて。まだ神経が繋がって間もないから解らないだろうね。オペは無事終了した。0106号、君はめでたく女になった訳だ。どうかな、感想は? ってまだ解らないか」
 解ってはいたけれど、面と向かって言われるとその事実はショック以外の何ものでもない。身体さえ動けば幹彦は高野に殴りかかっていたかも知れない。
(やっぱり、これって……! 元に戻せよぉっ!)
 唇を噛み締めながら高野を睨むけれど、状況は何も変わっていなかった。男だった自分は今はもう見る影もない。
「そう、それは乳房だね。今の君はいい身体してるよ。元の持ち主は反抗的だったからね、君はいい子でいて欲しいね。あ、君の身体は上の奴らが処分したよ。0106号は無事『廃棄処分』になった訳だ。もう元には戻れんよ」
 戻れない、その言葉を聞くと同時に幹彦の目からぽろぽろと涙が溢れていた。

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