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【投稿小説】全てを俺にください<2> 作 Haseyan 挿絵 名取そじ

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 悪夢だ。悪夢を見ていた。自分自身が形のない魂だけの存在となって、必死に孝一の身体を追いかけている。何故か勝手に歩いて行ってしまう、十六年連れ添った“自分”。どれだけ走っても、その背中に飛び込むことはできない。

「捕まえた」

 可愛らしい少女の声。けれど、それは悪魔の宣告にも等しい。魂の腕が掴まれ、振り返れば、そこには天才マジシャンの璃奈がいて。

「私を、あげる」

 魂だけの存在に向かって、飛び込んできた。



 ゆっくりと瞳を開ける。微睡から覚めていく。ここは、トイレだろうか。それも普通よりも広い、多目的トイレだ。どうやら便座の蓋に座ったまま眠ってしまっていたらしい。

「な、んで……寝て……?」

 頭が痛い上に、何やら重たい。額に手を置こうとして、違和感に気づいた。
 手の甲に触れる前髪が柔らかい。まるで日ごろから手入れをしている女性のようにさらさらで、何より視界の端にちらちらと金色の髪が移り込んでくる。質も、長さも、色も、孝一のものではないのだ。

「なにこ……れ? あれ、あーあーあー……」

 一度、気づいてしまえば次々と違和感が湧き出してきた。まず声がおかしい。高く澄んだ少女の愛らしい声が、自分の喉から溢れてくる。反射的に触った喉には出っ張りなんてものはなく、あまりにすべすべな肌に驚かされた。
 その手だって小さくて、指は細長く、綺麗な形の爪にはネイルなんてものが塗られているのだ。一体、自分はどうなってしまったのだろうか。
 トイレに備え付けられた鏡を見つけ、慌てて立ち上がる。だが、頭で思い描いた動きと、実際の動作が噛み合わない。軽く足を捻って、床に前倒しで倒れそうになり──

「よっと」

「わっ!?」

 その前に何者かが腕を差し込んで、支えてくれた。危うく汚い床とキスするところだ。混乱する頭はトイレの中に誰かがいることをすっかり忘れ、お礼を口にしようとする。

「ありが……」

 しかし、実際に言葉になることはなかった。ただ絶句する。支えてくれたのは、他でもない孝一だった。当たり障りのないと評された、男子高校生の自分自身だ。それが何故か、目の前にいる。

「お、おれ?」

「俺なんて言わないの。元俺の私」

「は、え、何言って……」

「鏡見れば? 少しはわかるんじゃないかな」

 自分自身が、何か不可解な言動を取っている。混乱が極限に達し始め、言われるがままに鏡を覗き込んだ。

「これ、鳴宮さん……?」

 果たして、そこに映ったのは困惑して間抜けな顔を晒した少女、マジシャンの鳴宮 璃奈だった。それでも絵になる辺り、彼女の美貌が窺える。
 全身を覆い隠すコートに身を包んだ璃奈は、こちらに動きと全く同じ動きを返した。頬に触れれば、鏡の中の彼女も頬に触れる。手を開いたり握ったりしても、当然のように彼女は追従した。

「…………」

 何も言葉が出てこないまま、自分自身を見下ろした。
 持っている覚えのないコートを着ている。床までの距離が明らかに普段よりも近い。恐る恐るコートの中を覗いてみれば、ニットにロングスカートとやや大人っぽい女性の服装に身を包んでいた。

「いい加減、理解した?」

 背後から慣れ親しんだ声がかかり、唖然と振り返る。そこに立っているのは、自分自身、つまりは孝一だ。信じられない。けれど、この状況を説明できるものは一つだけだった。

「き、君……鳴宮さん……?」

「元、鳴宮 璃奈ね。今の私は羽山 孝一。普通の男子高校生よ」

「ちが、そうじゃなくて! 俺たち、入れ替わってるんだよね!?」

 あまりに落ち着き張った自分の身体に、思わず縋りつく。どうにかして元に戻らないと非常に困るのだ。友達を待たせている。日曜が終われば、明日からまた学校が始まる。
 そもそもどうして入れ替わってしまったのか。必死に記憶を掘り起こして──あの、貪り合うような情事を、ようやく思い出した。

「え、あ……あれで?」

 顔が熱くなる。あれ以外に原因は考えられなかった。二人で溶け合って、一つになっていくような感覚。その中で、自分から孝一という情報が引き剥がされ、代わりに璃奈という身体を押し付けられた。
 この状況を見る限り、決して錯覚などではなかったのだ。

「思い出した? 君は私を求めて、私がそれに応えた。その結果がこれよ」

「そ、そんな……っ、ごめん! 急に女の子にあんなことして!」

 あの時は正気ではなかったのだ。そもそも、女子の入っているトイレに、迷いなく踏み込んだ時点でおかしかった。下手をしなくても犯罪だ。謝れば済む話ではないとわかっている。だが、今はすぐにでも元に戻る手段を模索しないといけなくて──

「ねえ、鳴宮さんは何か知ってるんだよね? 元に戻す方法がわかるなら……」

「はっ」

「え……?」

「あはははっ! どんだけ鈍いのよ! なんで謝ってるの? 全部、私が仕組んだことなのに!」

 嗤っている。孝一が嗤っている。別の人間に乗っ取られた孝一が、本人ではあり得ないほどに馬鹿笑いしていた。

「私が君に暗示をかけて、ここまで誘導したの。勝手に憧れてくれてたから、簡単だったわ。それから言葉を誘導して、無理やり私の言葉に同意させた。あのキスは儀式よ。お互いに同意したうえで、激しく求め合う。そうすればあら不思議、身体が入れ替わっちゃう! 種も仕掛けもございませんってね!!」

 暗示、だとか。魔法、だとか。とても頭に入ってこない。自分自身でも見たことがないほどに、孝一の顔が凶悪に口角を吊り上げている。

「どうして、そんなこと……」

「──自分の人生に嫌気が差したからよ。私を、鳴宮 璃奈を貰ってくれてありがとう。今日から君が璃奈よ」

 血の気が引いた顔で──璃奈は眼前の男を、

「そして、今日から私が……俺が、羽山 孝一だよ。君の人生、大切にするからさ」

 孝一の口調を真似する孝一を、見上げた。

「まあ、頑張って。天才マジシャンだなんてもてはやされる人生だよ? しかも可愛い女の子。羨ましいなぁ、俺がなりたいぐらいだ」

「ま、待ってよ! 君だって嫌だろ!? 知らない男に自分の身体を使われるんだよ!?」

「別にどうでもいいかな。言ったじゃん、璃奈の人生に嫌気が差したって。だからもう俺にとって他人。もうその身体は璃奈のものなんだから、璃奈の好きにしていいよ。あっ、そうだ! 元男子だったら、女の子のか・ら・だ、興味あるでしょ? お家に帰ったからお楽しみかな?」

「そ、そんなのどうでもいい! 早く、元に戻してくれよ!」

 一瞬、想像してしまった光景に、璃奈は顔を赤くする。
 煩悩を振り払い、孝一に迫ろうと腕を伸ばした。だが、簡単に手首を掴まれてしまう。暴れても、ビクともしない。女の子の璃奈では、男性の孝一には、力で敵うはずがない。

「無理。俺が微塵も戻りたくないし」

「は、離せ! 無理に決まってる! すぐに周りにバレる!」

「──バレるわけない。私の周りの人間なんて、誰も内面を見てなんかないんだよ」

「……ひぃっ」

 興奮と嗜虐に塗れた声が、急速に冷める。凍てつくほどに冷め切った孝一の視線が、璃奈の、璃奈の向こう側に向けられていた。それがあまりに恐ろしくて、短い悲鳴と共に小柄な身体が竦む。
 その隙に、孝一の唇が言葉を紡いだ。

「ステージ裏に帰れ。ママと合流。家に帰るの。君は鳴宮 璃奈なんだから、璃奈の家に帰るのは当然だよね?」

「う、ぁ……お、れは、璃奈……? だから……」

「そう。いい子だ。わかったらすぐに行く。君のママ、きっと怒ってるからね」

 また、これだ。思考に靄がかかる。頭の中がフワフワとして、自分で物事を考えられなくなる。孝一の言葉だけが正しいのだと、勝手に身体が従ってしまう。
 帰らないといけない。璃奈の家に。だってもう、俺は璃奈なのだから。

「じゃあね、私」

 自分のものだったはずの声を背に、璃奈は多目的トイレを後にした。


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