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【投稿小説】全てを俺にください<3> 作 Haseyan 挿絵 名取そじ

 迷いなくショッピングモールを歩いた璃奈は、これまた迷いなく関係者以外立ち入り禁止の扉を潜った。だが、周囲の店員が注意してくることはない。さも当然のように、璃奈の姿を一瞥するとすぐに仕事へ戻っていく。
 知らないはずなのに、知っている。そんな奇妙な感覚に操られ、璃奈は控室と書かれている部屋へと踏み込んだ。

「……璃奈」

 そこで椅子に座っていたのは、四十前後の女性だった。顔立ちは純日本人で髪も瞳も黒だったが、何となく璃奈と雰囲気が似ている。きっと彼女が母親なのだろう。
 そんな自分の母親であり、赤の他人でもある女性の怒気に、理性が僅かに戻ってきた。口が自由に動く。話すことができる。

「お花を摘みに行くと言って、一体どこを……」

「お、俺は璃奈じゃありません! 助けてください、どういうわけか身体を入れ替えられて!」

 信じてもらえるかどうかなんて、考慮している暇はなかった。とにかく璃奈の置かれた立場を訴える。元に戻るためには、一刻もはや──

「──いッ?」

 横っ面に激しい衝撃。予想だにしない暴力に、璃奈は立つことさえできず、床に倒れ込んだ。痛みよりも、混乱が先に湧き上がる。母親を見上げて、ようやく彼女に殴られたのだと察した。

「どんな言い訳をするのかと思えば……俺、ですって? ああ? 口調には気を付けろって、私は散々言ってるわよね!? エンタメでは印象が大事なのよ! 人前でそんな喋り方をして、売り上げが下がったらどうするつもり!?」

「え、ま、まって……そうじゃなく、う、かはぁ!?」

「口答えするな! わかったかどうかだけ聞いてるの!!」

「わ、わかりました、わかりましたッ……! だから、やめてください……」

 鳩尾に女性の爪先がめり込む。流石に本気で蹴り上げてはいないのだろうが、苦しいものは苦しい。どうして、孝一がこんな目に合わなくてはならないのだ。
 友達と遊びに来て、話題になっているマジックショーを見ただけで、どうしてこんな──

「ったく。地上波の撮影日も近いんだから直しておきなさい。ほら、立て。帰るわよ」

「で、でも……」

「なに?」

「ひ……ぃ。ごめんなさい、すぐ行きます」

 溢れ出してくる涙をどうにか耐える。それは男として情けないという気持ちもあれば、下手に泣けば目の前に女性に再び殴られるのではないかと、恐怖していたのもある。孝一が──元の璃奈が、この身体を押し付けてきた理由が少しわかった。
 彼女はこの環境から逃げ出したかったのだ。
 
 家に帰るという暗示も残っている。次々と変化していく状況に、混乱して、恐怖する璃奈は強く抵抗できないまま、母親の運転する車に乗り込まざるを得なかった。



 璃奈の家は、大豪邸だった。見た瞬間に大金持ちが暮らしているのだと、思い知らされる。今どきの日本で使用人が働いている屋敷など初めて見た。だがしかし、そんな屋敷で取る夕食は驚くほどに冷たいものだ。
 味は絶品である。もちろん、物理的に冷めているわけではない。しかし、璃奈の味覚は精神的な負荷から、まるで働いてはくれなかった。

「…………」

「…………」

 広い食卓で、璃奈と母親がフォークとナイフを動かす音が響く。会話は当然のように存在しない。
 璃奈の中身が入れ替わっていることを隠し通すのならば、無言なのも歓迎しただろう。だが、璃奈としては一刻も早く元に戻るため、第三者に事情を話したかった。尤も、璃奈の凶悪な母親に言葉をかける勇気は、もう底をついてしまっていた。

「……っ」

 不安が胸を締め付ける。明日からも天才マジシャンとして生活が、この身体には続いていく。しかし、璃奈ではない璃奈では、手品なんてできっこない。絶対に失敗する。失敗すれば、母親に殴られる。
 孝一の方も心配だ。元の璃奈は恐らく、人の身体でも好き勝手に行動する。新しく手に入れた人生を謳歌するつもりなのだろう。元に戻れても、孝一としての人生がどう変化してしまっているのか、想像できない。
 そもそも、璃奈は孝一に戻ることができるのだろうか。もし戻れなければ、このまま女性として生きなくてはならないのだろうか。

「……ごちそうさまでした」

「…………」

「あ、の」

「風呂入って寝るんだよ。さっさと動きなさい」

「は、はぃ!」

 声を裏返らせながら、急いで席を立つと廊下に飛び出した。だが、風呂がどこにあるのかわからない。それほどまでにこの屋敷は広いのだ。
 どうするべきか悩んでいると、正面から使用人らしき男性が近づいてきたので、急いで駆け寄る。

「あのお風呂って、どこですか?」

「え? このまま突き当りをだけど……」

 璃奈の質問に使用人は答えつつも、首を傾げた。雇い主の娘が家の構造を尋ね出すのは、不可思議なのだろう。いや、いっそ彼に事情を打ち明けるのはどうだろうか。
 僅かに思案し、却下した。彼はただの雇われだ。母親に意見する権限なんてないだろうし、頭のおかしくなった少女に付き合う道理もない。

「あ、ありがとうございますっ」

 変に追及されるのも億劫で、璃奈は逃げるように風呂場へと足を運んだ。
 
 扉を潜ると、そこは脱衣所になっていた。内側から鍵を閉められるようで、慌ててロックする。璃奈の身体と入れ替えられてから、ずっと誰かが傍にいた。だから、独りで落ち着ける時間は、これが初めてだ。
 今なら誰にも見られていない。璃奈の母親が殴ってくることもない。そう、安心してしまったからだろうか。

「ぅ、うっ……! ひ、ぅぅ!」

 嗚咽が零れる。必死に目元を抑えても、涙が溢れてくるのを止められない。

「あ、ぁあ……っ、な、んで……俺がこんな、こんなぁ……!」

 扉を背に、抱えた膝に顔を押し付ける。脱衣所に響く少女の泣き声。それが余計に腹立たしい。璃奈は、本当は男だ。こんな高い声ではない。こんな理不尽な目に合わされる謂われはない。
 悔しくて、怖くて、心の中が滅茶苦茶になって。ダメだった。泣いても泣いても、涙が止まらないのだ。

 それは経験のない過剰なストレスによるものなのか。それとも、身体が少女になってしまったせいで、涙腺も弱くなってしまっているのか。判断のしようがないが──とにかく、女の子ように璃奈は泣き喚いた。

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