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【投稿小説】とある冒険者の受難 第2話 

作:馬耳エルフ
イメージイラスト&挿絵 えたみ https://twitter.com/eta_64


第1話はこちら


【とある冒険者の受難 第2話】

カーテンの隙間から優しい陽光が差し込んだ時、潮は自分の部屋のベッドの中で静かに目を覚ました。
ベッドから出て寝間着を脱ぎ、洋箪笥にしまうと、引き出しからブラを取り出し、てきぱきと装着した。
カップに豊満な胸の膨らみを収める作業に最初のうちは四苦八苦していたが、潮の体が女になって3ヶ月。
慣れとはすごいもので、当初は四苦八苦していたブラの装着も今では簡単にこなせるようになっていた。

部屋の鏡に映る黒のレースがあしらわれた下着姿の自分の姿を見て、潮はため息を付いた。
ブラやショーツと言った女性用の下着の着用に関しては当初は、男のプライドから断固拒否していた。
胸を収めるためにサラシで対処しようとしたが、潮の胸はサラシで巻くにはあまりにもボリュームがありすぎたため、やむを得ず断念した。
それから暫くは胸に何もつけずに生活していたが、歩くたびにブルンと大きく揺れる胸の双丘を持て余し困っていた。
街に出た際に胸が揺れるたびに周りの男のいやらしい視線、そして揺れるたびに服と乳首が擦れる痛みに苦しめられるはめになった。
頭の中は男と時のままだが、体はもう完全に女なのだ。
もはや、自分の体は女物の下着抜きでは日常生活すら支障をきたす現実を思い知らされた。
鏡に写った自分の姿に嘆息するのもこれで何度目だろう。
23年間男性として生きてきた面影はもはやどこにも残っておらず、華奢だが長身で女性を象徴する部位の出っ張り具合は見事なまでに膨らんだ大人の女がそこには映っていた。

日課であった朝の家事をひとしきり終えた潮はその場に立ち尽くし、部屋の天井を見上げため息をついた。
ある一つの悩みに頭を痛めていたからだ。

現在、冒険者界隈を席巻している噂がある。
それは…
『あの高名な魔術師マロックと恐ろしく強い冒険者のコンビが魔物の討伐依頼を飛ぶ鳥落とす勢いでこなしている』
『恐ろしく強い冒険者の方は絶世の美女である』
『その美女は最低限の部位だけが隠れた露出の多い鎧を纏って戦っている』
と言うものだ。
潮はその噂が真実であるということを知っていた。
ただひとつ、その噂に誤りがあるなら美女ではなく女体化した元男であるという点だが、潮が女になった際にその場に居合わせたマロック以外はその真実を知りようがないのが現状である。

潮はあのダンジョンで女になって、早くも3ヶ月が経とうとしていた事実に暗澹たる思いがした。
その間、潮とマロックは男に戻るための情報収集を行っていた。
それと並行して、魔物討伐の依頼も積極的にこなしていた。
情報収集とは手間と金がとにかくかかる。
今回のダンジョンから持ち帰った戦利品である戦乙女の武具とそれを装備した際の潮の強さ。
それを資金繰りのために活用してはどうか、という考えから始めたのが魔物討伐だった。

魔物討伐の依頼は冒険者の活動の中でも特にハイリスクハイリターンの典型であるため、自発的にこなしている冒険者はほとんどいない。
討伐に失敗したら報酬は一銭も出ない上、仕事柄、高確率で命の危険が付きまとうからだ。
その分、通常の依頼よりも報酬は高額という利点もある。
潮はこの3ヶ月で5件の依頼をこなしたが、その報酬の合計は去年の潮たちが冒険者としての活動で稼いだとほぼ同等である。
魔物討伐の依頼を潮たちに持ち込む者たちは金に糸目をつけなかった。
そうした依頼人は心底魔物の被害に悩まされているので、報酬の額は普段潮たちがこなしてきた遺跡調査や資源採取の任務に比べ報酬の桁が2個ほど違っていた。
無論、報酬の高さは討伐する魔物の強さに比例する。
どの魔物も、並の冒険者では歯が立たない難敵だったが、戦乙女の武具を纏った潮の強さからすればたやすく勝利できる相手ばかりだった。

それにしても、瞬く間に自分の噂が広まってしまうとは、潮にとって予想外だった。
最初は噂が広まり有名になることに関して特に抵抗は無かった。
表向き、湊潮は任務のため遠出していることになっており、女の姿になった潮はマロックに新しく弟子入した新米冒険者ということになっている。
最初のうちは自分の名が冒険者界隈で有名になることにさほど抵抗は無かった。
魔物討伐で知名度が上がり冒険者として名が轟けば、様々な人間が潮に仕事の依頼や情報交換のために会いに来るだろう。
その中には潮が男に戻るための糸口になるような情報を持っている人もいるかもしれないという希望的観測があった。
では現実にはどうだったかというと…。

様々な人と接触する機会が増えた分、多様な情報を得られる機会も増えたことは確かだった。
だが、有益な情報を持ってきてくれる人間は誰も居なかった。
いや、そうであったとしても情報交換に応じてくれる人間ばかりなら良かった。
その訪問者の半数以上が、依頼や情報交換のためではなく潮が噂通りの美女かどうかを確認することが目的のような連中だったことは潮を大きく失望させた。
潮の容姿の美しさが噂以上であることに大喜びする者、体を舐めるように見て満足して帰っていく者、挙句の果てには一目見て求婚してくる呆れた者までいた。
そういった不逞の輩が予想以上に多いことは潮の悩みの種となっていた。

「はぁ・・・。有名になるってのも困りもんだな」
「確かに、こんな大きなもんをぶら下げてたら耳目を集めるのも当然じゃな」
「えっ?ひゃわっ・・・!」
それは一瞬の出来事だった。
物音も気配も無く背後に立っていた何者かの声が聞こえたと思ったら潮の両脇の下から何かが伸びてきた。
それが人間の腕であることを認識した時には既に遅かった。
両手が潮の豊満な乳房を包み込むように服の上から揉みしだいた。
時間にして1秒足らずではあったが、潮の巨乳を欲望に赴くまま蹂躙した両手は、仕上げとばかりに乳首の上を正確に指ではさみ刺激を与えてきた。
「んんっ・・・、このっ!」
潮は自らの胸に狼藉を働く不届き者に向かって蹴りを放ち、ふっ飛ばした。
?今日も変わらずええ乳しとるのう、実にええ。この大きさと張りを両立する乳とはなかなか出会えんぞ」
潮の胸を揉みしだいたマロックは蹴りが命中した腹の部分を押さえつつニコニコ笑った。
「話しかけても返事が無かったもんでつい。スマンな」
「だからって、挨拶代わりに胸を揉むのはやめろっていつも言ってるだろ」
「おや、トシのせいか忘れっぽくていかんな。確か潮に先日言われたのは尻を触るなだったと思うのじゃが」
「どっちも駄目に決まってんだろ!」
女になった潮にとっての悩みのひとつがマロックだった。
男に戻るための情報収集をしてくれている事に関しては感謝しているが、この老人の手癖の悪さには毎度のことながら頭を痛めている。
先程のように、胸を揉むなど日常茶飯事。
潮が気付いただけでも、着替えを5回は覗かれたし風呂に入っている時に謎の視線を感じたこともある。
潮も心は男のままなので、女性に対しそういった欲求を向ける気持ちは理解できるが自分自身がその対象にされるなら話は別だ。
うら若き美女が女好きの老人とひとつ屋根の下で暮らす難しさを味わうことになるとはつい最近までは思ってもみなかった。

「で、情報集めの進捗は?」
「はっきり言って、想像以上に難航しとる」
「そうか、やっっぱり簡単には元に戻る方法なんて見つからないか」
「お前さんの場合は、呪いを受けたわけでも薬で体が変わったわけでも無いのが問題じゃな」
潮の肉体が女性に変化した原因は自らが生来有していた異能が過剰なまでに発動したからだ。
もし、これが呪いによるものなら解呪すればいい。
薬による変化なら、元に戻る薬を見つければい。
しかし、外部からの働きかけではなく自身の能力のために女になってしまった潮はそれらの方法では元に戻れない。
その結果、どのような指針に則って情報収集をしていけばよいのか手探りな状態で行うこととなった。

「以前から調べてた性別逆転の杖の話はどうだった」
「あー、あれなんじゃが。やっぱりガセだったようじゃ」
「そうか。またハズレか」
潮は失望とともに嘆息した。
潮の最優先事項は男に戻る方法をつきとめることである。
しかし、それに関しては遅々として進まず足踏みしているというのが現状だった。
それとは対象的に冒険者としての収益は順調なまでの黒字を記録していた。
当然といえば当然で、報酬の高い魔物討伐の依頼ばかりをこなしてきたのだ。
そんな状況に潮は言葉に出来ないもどかしさを感じていた。

「そう言えば潮、お前さんに手紙が届いておったぞ」
潮は手紙の内容を確認した。
どうやら、領地を魔物から救ってくれた礼も兼ねてパーティーに招待したいのでぜひとも参加してほしいとのことだ。
「あ~思い出した、あの貴族のオッサンか」
潮は1ヶ月前のことを潮は思い出した。
怪鳥の退治を依頼しに訪れた頃からやたら潮に熱い視線を向けていたあの貴族だ。
依頼を受けて戦乙女の鎧の姿で挨拶に行ったときなど、傍目から見てもはっきりわかるほど潮の肢体をジロジロと見ていた。
悪い人ではないようだが、今回の招待も単にお礼だけが目的ではなく下心が滲み出ているような気がした。
さて、どうするか。
潮は迷っていた。普通なら欠席の意を伝えるところだが、貴族との面識を持つことは冒険者としては大きな利点となるからだ。
もし、この機会にこの貴族と確たるコネクションを築けたなら何かと冒険者としての活動をする上での助成を期待できる可能性はある。
貴族とは仕事柄、領地の管理をするために自身の領地だけでなく周辺の土地に対しても目を配らせているものである。
ひょっとしたら、潮が求めている男に戻る方法の断片くらいはこの先、彼の耳に入ってくるかも知れない。
ここで友好関係を結んでそういった情報を優先的に回して貰えれば元に戻れる日もくる確率も少しは高まるだろう。
何よりこういった華やかな催し物とは無縁な人生を送っていた潮にはパーティーに関して単純に興味があった。
潮は貴族の誘いを受け、パーティーに出席することを決意した。

そしてパーティー当日。
貴族の手配した迎えの馬車に乗り、会場である貴族の屋敷に移動した。
豪奢で広く気品のある住居だった。
屋敷に設けられた準備室で潮はパーティー用の赤いドレスに着替えた。
鎖骨と肩の露出した赤いパーティードレスを着るのは男として抵抗があったが、魔物討伐の際に装備する戦乙女の武具に比べれば遥かに露出が少なかったため我慢できた。

「ほう、なかなかにそそる格好じゃな」
「うるさいっ、ジロジロ見るな」
「これなら華やかな場で浮く心配は無さそうじゃな。
 それにしてもスタイル抜群の美人というのは得じゃな、何を着ても様になっとるぞ」

マロックがドレスから覗く胸の谷間に向けてジロジロと好色な視線を送るのはいつものことと受け流せたが、屋敷の執事からも同種の視線を浴びせられたことはげんなりした。
それにしても、男という生き物は元男である潮から見ても悲しいほど欲望に忠実であることに気が滅入る思いだった。
潮たちがパーティー会場に到着した時点で多くの参加者が会場で立食を楽しんでいた。
鳴り響く弦楽器の奏者が奏でる音楽、色とりどりの料理、華やかな雰囲気。すべて潮が未体験のものだった。
入場した際、潮とマロックに視線が集中した。
若い女と老人の2人組は珍しかったこともあるだろうが、原因は潮の美貌にあった。
たちまち、会場の男たちの目線は潮に釘付けになった。

潮とマロックが貴族に挨拶を終え今後の協力を取り付けている際もパーティー会場の男たちは潮は周囲の視線を感じていた。
そんな視線を一身に浴びる潮は堂々とした様子だった。
その後、マロックがパーティーの参加者相手に情報集めのため、潮から離れた時のことである。
「おや。今お一人ですかな」
先程挨拶を終えたばかりにも関わらず、このパーティーの開催者である貴族が潮に話しかけてきた。
気さくな様子で潮に語りかけてきたが挨拶が目的ではないようだ。
この男が、現在進行形で潮に女としての興味を持っていることはすぐに理解できた。
その証拠に、貴族の視線は潮の胸にさりげなく向けられている。

「このような盛大な席にお招きしていただき嬉しく存じます」
「今回のパーティーは我が所領で暴威を振るう魔物を退治し平穏を取り戻したセレモニーです。その当事者たるあなた方をお招きするのは当然でしょう」
「以前の件は依頼をこなしただけのこと。お心にかけていただき恐縮です」
社交辞令を口にしつつも潮にはこれが建前であることは理解できた。
冒険者と依頼人の関係とは基本的に依頼をこなした時点で終了する無機質なものがほとんどだ。
依頼が完了した後、わざわざ接触を試みるのは依頼の遂行が不十分で報酬の返納を要求するか再び面倒事が起きたかといった場合がほとんどだ。
魔物討伐の依頼は達成したので前者の可能性は無い。この貴族の領地で厄介事が起きた話は聞かないので後者の可能性も無いだろう。
間違いなく、この貴族の目的は潮との再会にあるのだろう。


「実を申し上げますと、貴方とは以前からじっくりと話をしたいと思っていました」
貴族は潮の手を取った。
「一曲だけ私と踊っていただけますか、話は踊りながら」
用件があるならこの場で言えばいいのに。
潮はそう思った。
こういったキザな男の申し出は潮が女になってから何度か体験してきた。
その都度、断るか逃げるか、はたまたしつこい場合は鉄拳制裁も交えて追い払っていた。
だが今回ばかりはそういう気にはなれない。
この貴族の誘いを邪険にすれば、これを機会に取り付けられるかもしれない協力関係も立ち消えることになる。
それに、どういうわけかこの男にパーティー会場の場で熱烈に言い寄られても上手にあしらえる自信と安心感が潮にはあった。
潮は貴族からのダンスの誘いを受けることにした。

一方、パーティー会場で情報収集をしていたマロックは会場の人間の視線がひとつの方向に向けられていることに気付いた、
マロックもそちらへ視線を向けてみると、このパーティーの主催者である貴族と潮が美麗で激しいダンスを踊っていた。
踊りながら何かを2人で話しているようだがマロックの位置から会話の内容は聞き取れなかった。
パーティーの主催者と参加者の女性の中でも群を抜いた美貌を誇る潮のダンスは会場の出席者の目を引くのは自然だった。
マロックはその様子に違和感を覚えた。
こういった華やかな場に慣れているであろう貴族が達者な踊りを披露するのはわかる。
だが潮はどうだ。
潮とは13年以上の付き合いのマロックは、潮がこういった社交場でのふさわしい振る舞いができるタイプでない事は知っていた。

「失礼ながら、冒険者の身でありながらここまで可憐に舞う方がいるとは思いませんでした」
踊りを終えた貴族は感心した表情で潮に礼を言った。
「いえいえ。未熟なダンスに突き合わせてしまった上、せっかくのお誘いもお断りして申し訳ございません」
「何をおっしゃいます。貴方の気持ちも汲み取らず勝手な申し出をしたこちらこそ謝罪するところです」
この貴族が潮にした申し出は、この領地に住まい治安を守る役目を潮にしてほしいというものだった。
もちろん、この貴族の目的が領地の治安維持のためだけに潮を雇おうとしているのではないことは明らかだった。
自分のそばに置きチャンスを見計らい接触、あわよくば愛人としての関係を築こうとしている下心がミエミエだった。
いつもの潮なら、妻子がいる立場で自分に言い寄る男など実力行使で応えていたところだが、今日に限って自然と穏便な断り方が自然に出来たことに自分でも驚いていた。
「今はまだ自由気ままな冒険者としての活動に専念したいのです、どうかご容赦を」
そう言って潮はニッコリと微笑み人差し指を自分の唇に当て、その指をそっと貴族の唇に当てた。
貴族は熱に浮かされたような恍惚とした表情でその場を後にした。

踊り終え一息ついた頃、一人になった潮に男たちが話しかけてくる。
ある者は潮と一曲踊るために、またある者は潮への興味から素性や経歴を聞いてきた。
全員に共通しているのは潮に気に入られようと必死だということだ。
その後も潮の元に男たちが引っ切り無しに寄ってきた。
言い寄る男たちを場馴れした淑女のごとく相手にしつつパーティーを楽しんだ。
普段は自分に言い寄ってくる男たちの追い払いはマロックに任せているのに今日の潮は違った。
相手の要望はきっぱりと突っぱね、なおかつ相手に対して角の立たないように優しくあしらい続けた。

そんな様子をマロックは後ろから観察していた。
やはり様子がおかしい。
湊潮という男は、決して器用なタイプではない。
しつこくつきまとう男に対しては言葉の拒絶ではなく、殴る蹴るで応戦する部類の人間である。
それが今日に限ってなぜここまで完璧な淑女として振る舞うような器用な真似が出来るのか。
潮の中身が男のままであることは、マロックもよく理解している。
それがどういうわけか今の潮は歩き方や、男たちと会話する仕草、果てはグラスに手を伸ばす指先まで華やかな宴に場馴れした令嬢のような色気を感じる。
3ヶ月前まで、華やかな社交場と無縁で生きてきた男だった潮になぜこんな芸当ができるのだろう。
なぜ、今日の潮は普段とは違うのか。
そんな疑問が解けないままパーティーは閉幕した。

「いやー。パーティーなんて生まれてはじめての経験だったけど思ったより楽しかったな。料理もすごく美味しかったし」
帰りの馬車の中で潮はパーティーの体験談を口にした。
とは言え、ほとんどが出された料理の感想、他には言い寄る男たちの下心についての愚痴だった。
「特にあの貝料理。最高だったな。今度真似て作ってみようかな」
もはやパーティーで貴族と美麗なダンスを披露して会場の視線を独り占めしていた淑女の姿はそこには無く、美味い料理の思い出に浸るいつもの潮に戻っていた。
「言い寄ってくるアホな男共が多かったのには呆れたけど、それに関してはどっかの誰かさんほど酷い奴はいなかったからホッとしたよ」
足を開いたまま座り、パーティーでの苦労を語る潮は女性らしさとは程遠いいつもの潮だった。
マロックに目を向けつつ潮は言った。
「全く、呆れるほどいつも通りじゃの」
先程までの宴の場で見せた淑女ぶりは幻だったかのように潮の様子はマロックが知る普段通りの様子の潮にマロックは訝しんだ。

話し続ける潮をよそにマロックはパーティー会場の潮と現在の普段と変わりない様子の潮を比べて改めて強い疑問を感じた。
先程まで参加していたパーティーでの潮の洗練された立ち振舞いは何だったのだろうか。
そして今は元通り、マロックもよく知る湊潮に戻っている。
湊潮は器用なタイプの人間ではない。
自分に近づく出席者から情報を収集するために華やかな催しに慣れた淑女を演じていたという可能性は考えにくい。
何より、あの時の潮の仕草や表情からは演技らしき不自然さは全く感じなかった。

マロックは静かに思案した。
記憶を巻き戻し、潮の異変がどこからだったのか思案を巡らせる。
確か、パーティー会場である貴族の屋敷に到着するまでは普段と変わらない様子だった。
記憶にあるうちで言うなら、屋敷に設けられた会場に踏み入ったあたりから違和感はあった。
入場した潮は周囲の参加者に視線を向けられても、どこか堂々としていた。
普段ならば男性からの好奇の視線にあれほど難色を表情に出していたのにだ。
美麗なパーティードレス姿も相まって一国の姫君のような高貴さと気品を纏っていた。
おそらくあの辺りから潮はいつもとは違う振る舞いを身に着けたと考えられる。
ふと、1つの考えがマロックの脳裏に走った。
マロック自身もその考えに確信が持てなかったため、最初は勘違いだと一笑に付そうとした。
しかし、否定しようとすればするほど色濃く信憑性を増していった。

潮は男の頃から家事が得意だったので気が付かなかったが、潮はエプロン姿で家事をする際、いつもより動作が俊敏になったように見えた。
当の本人も、エプロンを着ているときは家事が手際よく進むという旨のことを言っていた。
先の宴席での振る舞いもこれで説明がつく。
パーティードレスに身を通した潮は、意識しないままパーティードレスの性能を引き出していたのではないか。
その結果として、宴の場にふさわしい淑女としての立ち振舞が可能になったとしたら…。

これはマロックの想像に過ぎないが、潮の異能には当人も把握していない隠された力があったのではないだろうか。
湊潮の異能は武器や防具の性能を引き出すだけでなく、戦闘とは関係のない通常の衣類の力を引き出すことも可能だとしたら。
そして、潮もそのことについては自覚していない。
ただ、あくまでこれはマロックの仮説に過ぎない。
そして、マロックという男は仮説が思い浮かんだら正誤を確かめずにはいられない性分である。
その時、ふと思いついた。
潮にあの衣装を着せてこの考えが正しいかどうか白黒はっきりつけようではないか。。
もし今回思いついた仮説が正しければ、その異能をマロックにとって最高の形で発揮するはずである。
(そうと決まれば、家に帰ったら早速あの服を着てもらうか、こりゃあ楽しみじゃ)
そんなマロックのたくらみを知る由もなく、潮は馬車の外の景色に目を向けていた。

第二話 了 <第三話はこちら

コメント

小説もイラストも楽しみに待ってます
さて、マロックの毒牙はどのように潮を襲うやら

現在、イラスト待ちで準備中です!

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えたみさんにお引き受け頂きました!

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えたみさんに打診してみます!

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身につけた服に依存して本人の意志と関係なく能力を発揮してしまうなら、やっぱり潮は異能を逆手に取られてひどい目に合う展開になるんだろうか

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  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
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