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投稿TS小説第141番 Blood Line (19)(21禁)

(う、もう一回!)
 ぎりっと雑巾でも絞るように陰嚢の根本が捻られる。その捻りが、潰れた睾丸を包んだ部分までに達していた。
「ぷぎっ――」
 豚のような鳴き声と共に、泡を吹きながら鹿島の行動が急停止する。目の前で力を無くした腕を見て、幹彦は漸く安堵の息を漏らした。
(……はぁ、やばかったぁ。っと、早く離れないと)
 屹立した状態では喉に刺さっていた鹿島の凶器も、今は萎んで容易に吐き出す事が出来た。涎と一緒に何度も唾を吐き出し、少しでも気持ち悪さを取り除こうとした。
(タイラップ、切らないと)
 血流が滞っているのか、手の感覚が無くなっている。既に性的な興奮状態は無くなっていたけれど、「逃げる」という別の興奮が幹彦の身体を支配していた。性的興奮より微弱な能力ではあるけれど、使わない手はない。鹿島の身体の下にある、手首に巻き付くタイラップをイメージして、リミッターが作動しないぎりぎりで能力を叩き付けた。
(ん、これで自由に――)
 重たい鹿島から手を引き抜くと、タイラップが絞められていた部分から血が流れている。それをスモックの裾で拭いた。
 だらしなく下半身を露出させ、気を失っている鹿島。それを憎々しげに眺め、一瞬蹴ってやろうかとも思った。しかし、そんな事をするより今はここから無事に出る事の方が先だ。
 内側からロックされている扉を慎重に開け、廊下を一瞥し誰もいない事を確認してから足早に部屋から逃げ出した。
(誰にも遭いませんように)
 興奮と緊張からか、心臓がドキドキと高鳴っている。複雑な通路の曲がり角に差し掛かる度、鼓動がより速く、大きくなる。それを抑えようと息を止める。
 もしかしたら、すぐに鹿島が目覚めるかも知れない。あるいは誰かが不審に思ってあの部屋に来るかも知れない。その思いが幹彦を走らせていた。
 建物の出口まで誰にも見られる事無く着くと、目に映る空は既に薄暗い。研究施設の広大な土地は、意外にも緑の芝生や木々が生い茂っている。昼間は、その芝生でのんびり過ごす研究者や、能力者が点在しているけれど、暗くなり始めているせいか殆ど人はいない。殆ど、とは警備に従事している者だけがいるということだ。
 白いスモックで、しかも全身が白い璃紗の身体では、暗闇でも目立つ事この上ない。このまま歩いていってもゲートで捕らえられてしまう。ここで佇んでいても、いずれ鹿島が起きるか発見され監視の目が強化されてしまう。幹彦が考えた方法は一つしかないのだけれど、それを実行するには必要となる「もの」が周囲にない。
(ああ、もうっ。いつもあるのに、なんで今日に限っていないんだよ!)
 能力開発の行き帰りの際に、必ず目にしていたもの。リネン業者のバン。幹彦の計画では、そこに停まっているであろうバンに、リネンと一緒に乗り込むつもりだった。しかし注意深く考えてみれば、今日鹿島に連れてこられた時点で、まだバンは無かったのだ。興奮していたからなのか、とんだポカを犯していた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう。車がないんじゃ、逃げられないよ……)

 どうしたらいいのか。目立つ出入り口で待つのか。それとも他の手を考えつつ、場所を移動した方がいいのか。
 一瞬の逡巡の後、幹彦は周囲を注意深く見回しながら、その場で膝を抱えて座り込んでしまった。場所を変えたとしても、車があるかどうかは解からない。それよりも、確実に来る(はず)の車を、この場で待っていた方が得策だと考えていた。ただ、「その場で」では見つかる確率は高くなる筈だけれど。
(早くこい、来い。――もう、その角まで来てる、絶対そう)
 都合の良い事を考えながら、次第に闇に包まれていく景色を睨んでいた。

 司会者の声以外しない会議室に、けたたましい音が漏れだしていた。ゆっくりとした動きで背広の内ポケットから携帯電話を取り出し、その人物が徐に口を開いた。
「はい、高野ですが。――それで? ふん、鹿島も図体だけだな。いや、いい。そう遠くへは行けないだろう。暫くは放っておけ。それより次の実験体だが――」
 会議の席上だと言うのに、高野は携帯電話で話を始めていた。煙たい周囲の視線にも動じる事もない。反対に冷ややかな視線を浴びせる。高野の周囲には彼よりも年齢が上の人間しかいない。にも関わらず、彼の傍若無人さは容認されている様子だった。
 今日の会議自体、高野が率いる研究施設の成果がどうなっているのか、報告を兼ねたものだ。ある意味主役が不在のまま会議は進行している。尤も、研究施設の設立当初から高野が代表となっていた訳ではない。ある人物がその能力を高く評価し大抜擢された、と噂されていた。
「――だから、そうすればいいんだ。私の言う通りにしておけ。また後で報告してくれ」
 通話の終了ボタンを押すと、メール送信画面に切り替えた。
(全く、大したもんだ。私の言う事をちゃんと理解してるじゃないか。くくっ、今頃いつものバンが無くて焦っているんだろう。理解できたご褒美でもやるか)
 既に打ち込んであったメールの送信をすると、元の場所に携帯電話をしまい込み、何事も無かったかのように平然と書類に目を通す。
(これから暫くは女の生活でも楽しんでおけ、0106号。次の実験体が来たら、こちらから迎えにいってやる。どこにいてもお前の居場所は手に取るように解るからな)
 酷薄な顔に嫌な笑みを携え書類を見る格好をしながら、高野は次の妄想を膨らませていった。

 ほぼ夕闇に閉ざされた研究所の敷地。所々に外灯が点いている。どの位の時間幹彦はそこに座っていたのか、時計を持っていない為解らなかった。スモック一枚きりの姿でコンクリートの床に座っていると、身体が冷えてくる。
 座っている時間、これからバンが来なかったら、と一抹の不安が過ぎっていた。物音が聞こえる度に身体を硬くし、呼吸を止め必死に気配を消そうとする。そして誰も近づいていない事を確認して、ほぅっと息を吐く、それの繰り返しだった。と、その時。
 幹彦が睨む建物の角が、すっと明るくなっていく。闇に慣れた目に少し眩しい位になると角から発光体そのものが現れてきた。
(バン? それとも違う車?)
 一瞬だけ幹彦の方を照らしたライトは、建物の裏口に横付けし、そして消えた。ライトで瞳孔が絞られたからか、視界は真っ暗になってしまった。暫くすると物体の姿が浮かび上がる。
(バンだ! やっと来た。アレに乗っちゃえばこんなとこから出られるんだ)
 それまで、ほんの少し計画は失敗だったかも、と沈んでいた幹彦の心は一気に回復していた。一時間近くも誰にも見咎められず、途方に暮れた時に「偶然にも」やって来たバンについては思考の範囲外に置かれている。勿論、誰かの考えによって、幹彦の行動が誘導されているとは思いも寄らなかった。
 運転席から降りてきたリネン業者はそのまま、幹彦から見ると奥側にあるテールゲートを開きカーゴを押して建物内へと姿を消していった。
 幹彦が座り込んでいる場所からバンまでは、約十メートル。遠くは無いが近くもない。タイミングを上手く取らないと見つかる確率は高くなる。緊張で口内はカラカラになっていた。
(――よし。いくぞ)
 意を決して立ち上がると、裸足の足でコンクリートの床を蹴った。
 建物内部からは窓を通して灯りが漏れ、バンの片側や敷地を照らしている。白のスモックが反射し夕闇に踊る。
 車の進行方向に対して左側に建物。右側が中庭になる。幹彦は息を弾ませながら、車の右側に回り込み一端腰を下ろした。
(はっ、はっ、はっ、ん、璃紗さん、運動不足過ぎ、だよ。はぁ、ふぅ。ふうううぅぅぅ……)
 跳ね回る心臓を抑えるかのように胸に手を置く。大きく息を吐き、リネン業者が入っていった入口をちらっと見た。人影は見あたらない。四つん這いになり、車の後部へと移動する。もう一度辺りをを見回し、不振な影が見えない事を確かめてから立ち上がってテールゲートのノブに手を掛けた。
 小さく金属の留め金が外れる音がして、テールゲートが開いた。幹彦はカーゴで一杯の荷室に転がりこみ、ゲートを閉める。「ばんッ」とちょっと大きな音が周囲に響いた。
(! やばっ)
 息を殺し、カーゴの間に身を潜め待つこと一分ほど。程なくしてリネン業者がカーゴを押して戻ってきた。テールゲートを開け無言でカーゴを詰め込む。
 ぎゅうぎゅうとカーゴに押され、幹彦は居心地が悪い。しかし贅沢は言っていられない。何よりも先ず逃げることが優先なのだから。
 業者は終始いつもの通りの行動で、運転席まで戻ってきた。チェックシートに記入してエンジンをかけ、移動を開始する。
 研究施設の正面ゲートへ着くと、一端停まった。荷室に窓の無いバンは、幹彦の潜んでいる位置からでは外の様子が解らない。ただ、敷地内で停まるとすれば正面ゲートだけだと想像していた。
「お疲れさまです」
 意外と若く元気なリネン業者の声。車中に響くその声に幹彦はどきっとしていた。声が出ない、その事がこれ程ありがたいと思ったことはない。もし声帯があったら、静寂を破ったその声に軽い叫び声を上げていたかも知れない。
「今日もご苦労さん。明日も頼むよ」
「はーい。それじゃ毎度どうも」
 警備員と業者の当たり障りのない会話を聞きながら、幹彦の心はそれまでの不安な動悸とは違った胸の高鳴りを感じつつあった。
 バンは正面ゲートを潜り、山道を下り始めた。
(やった? やった! やった! 抜け出したっ!)
 研究所からの脱出。幹彦が当初考えていたのとは若干違ったが成功したのだ。沸き上がる、躍り上がる程の歓喜を胸に、膝を抱く両腕に力が入る。
(もう、二度とあんな目に遭わなくていいんだ。やった。璃紗さん、やったよ。脱出できたよ)
 確かに幹彦はバンに乗り込んで脱出する事はできたが、今度は降りなくてはいけないのだ。本当ならそれを考えなくてはいけなかった。しかし心地よいバンの揺れは、緊張の糸を切ってしまった。
(……どこかで車が停まったら、急いで、降りなく、っちゃ……)
 揺りかごに身を任せるように、幹彦の意識は深い闇へと落ちていった。


<つづきはこちら>

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