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【投稿小説】冴えない高校生を変える、劇薬な非日常 作 あひるカモ 絵 ささみ


「はぁ、困ったな……」
手に持っていた求人情報誌をくしゃりと握りしめる。
テストが終わって学校からの帰り道、僕――軽井沢 優は途方に暮れていた。

今日は待ち望んでいたフィギュアの発売日で、抜かりなく予約をしている。
……そこまではよかった。
つい先日のこと。テスト勉強の息抜きがてらに見ていたネットオークションで、以前から探していたプレミアのつくフィギュアが出品されていた。白熱の競り合いの末に落札したのはいいが、気が付けば前もって用意していた資金を切り崩さざるを得ないほどだった。
予約した商品の支払日には猶予があるとはいえ、約1週間で4万円が必要。高校生にはややハードルが高い。
何か良いアルバイトはないか? と街で手に入れた求人情報誌を眺め、隣町の繁華街をウロウロしてみるも、時給は心許ないか、もしくは高額な代わりに高校生が不可なものか。試しに訊いてみるも、雰囲気が暗そうだからと断られるか。
いずれにせよ、アルバイト探しは難航していた。
「そう都合よくいかないよね……あいたっ」
誰かが捨てたのだろうチラシが風で飛ばされて、行く手を阻むように顔にぶつかる。
「全く、……ん?」
顔から剥がして捨てようとして、思わず目が行った。
チラシはコンセプトカフェのもので、片隅には求人募集が載っていた。

カフェ ラビットアワー アルバイト募集
時給:2000円~
備考:即日払いOK、男性、学生可(但し、学生は深夜帯×)

「これだ……!?」
ダメ元で訊いてみるだけタダだ、破格すぎる条件への怪しさよりも、何とかしてお金を準備したいという思いが上回った。
即座にスマートフォンを手にして、チラシに書かれていた連絡先を打ち込んでいた。


「はい、カフェ ラビットアワーです」
応対したのは、女性のスタッフさんだった。
「か、軽井沢と申します、チラシの求人を見まして」
「はい、求人募集ですね。まだアルバイトの募集は受け付けています」
よかった、とホッとする。
「学生でも大丈夫とのことだったのですが、高校生でも大丈夫でしょうか……?」
「はい、大丈夫です。事前に確認したいことがあります。年齢と身長をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「17歳、身長は157㎝です」
「なるほど……、ところで何か事情でも?」
僕は、予約した商品の支払いのために1週間以内に4万円が必要との旨を伝える。
「……なるほど。軽井沢さんの事情は理解しました。でしたら、今から一度お店に来ていただければ」
「あ、あの、履歴書など準備できてません……」
「そのまま来ていただいて構いません」
それではお待ちしておりますね、と言ってプツンと通話が切れた。
「……もしかして採用してもらえるのかな?」
思う事もあったが、何より資金の目処が立ちそうなことへの安堵が大きかった。



カフェ ラビットアワーは繁華街からやや外れてひっそりした場所に位置していた。
コンセプトカフェなだけあって外見は派手めな外装で、所々にウサギを模したデザインが施されている。初見だと入るのに躊躇がいりそうだ。
恐るおそるドアを開ける。
「いらっしゃいませ、カフェ ラビットアワーへようこそ」
中には露出度の高いバニー姿のウェイトレスが5名程、男性を中心に幅広い年齢層の客が待合席に至るほど入っていて盛況していた。
応じてくれた店員さんは自分より身長が少し高めでスタイルも良く、ただ顔つきから年齢は自分と同じか1つ上ぐらいと見た。
……入るお店を間違えたかな?
「すみません、ただいま20分程度お待ち頂いておりますが」
「ええと、求人募集の件で伺ったのですが」
と、応じてくれたウェイトレスさんが上から下までジロジロと見た後、ははーんと何かを察したらしく、「店長を呼んできますね」と奥のスタッフルームへと入っていった。

しばらくして、先ほど応じてくれたウェイトレスさんがメイド服に身を包んだ店長さんらしき人物を連れてきた。……メイド服??
「軽井沢君かな? 先ほど電話に応じた店長のアリサです」
「軽井沢です、求人募集を見てきました」
ぺこりと頭を下げたのを、アリサさんはじぃーと見ていた。何かを確信したのか、うんうんと頷いてみせる。
「待ってたよ、奥のスタッフルームで詳しい話をしようか」
促されるようにスタッフルームへと入っていく。

スタッフルームは作業スペースとフリースペースの入り混じった、ワンルームの事務所という感じの内装だった。
「ここに座って?」
フリースペースらしきテーブルの一席に促される。正面にアリサさんが座って、ノートパソコンを置いた。
「緊張してるかもしれないけど、気楽に話してね? 気になることは何でも訊いてくれていいから」
そうは言うものの、空気感に飲まれていたし、何より目の前に映るメイド服が気になった。
チラチラと目線が動くのをアリサさんに気づかれる。
「ああ、この服装? 趣味だから気にしないでね」
えぇ……、趣味なの……。
返す言葉にも困って「は、はぁ」と曖昧に誤魔化す。
「ところであの、男性も募集していると聞いたのですけど」
「ええ、男性も募集しているわ」
「それってお仕事内容の方は……」
「ウェイトレスの方ね!」
嫌な予感が的中した。
「ウェイトレスって女性だけなのでは……」
「ああ、話す必要があったわね。ここのお店ではこちらの服を着てもらうのだけど……」
立ち上がって収納スペースにある衣装ケースを漁ると、サイズが合うであろうバニー服を探して持ってきた。
どう見ても女性モノだった、怪訝な顔をするしかなかった。
「これを着るのですか?」
「まあ慌てないで。こちらの服を着てもらうとね、男性でも服に合わせて身体が変化するから」
えぇ……と思うしかなかった。
身体が変化すると言われても疑念しか抱きようがない。
「まぁまぁ、騙されたと思って着てみなよ。そっちに男性用の更衣室があるから着替えてきてね」
そう言って、いつの間にか準備していたであろう服装一式を無理やり渡された。指差す先には『男性更衣室』と書かれていた。
渡されたのはバニー服のセットだけではなく、ストッキング、黒のTバック、ヌーブラ、小道具類、箱に入った靴らしきものまで備わっている。
アリサさんはパソコンに向かい、カタカタと仕事を始めていた。
何かの罰ゲームなのだろうか、からかわれているのだろうか。ただ嘘をついている様子はない。
辱めを受けているような気分でしかないが、お給料の破格さに背に腹は代えられず、ぐっと堪えるしかなかった。



男性更衣室の中はそこそこの広さがあり、ロッカーだけでなく姿見まで備わっている。
その中に置かれているソファーを陣取って渡された衣装を一旦置いた。
まず着方が分からないのだが……と思ったが、着用方法のマニュアルまで完備されていた。
一番目に『全裸になってヌーブラとTバックを着用する』と書かれていたので、衣服を全部脱いだ後、イラストに沿って見真似でつけていく。
「Tバックなんて履いたことないし、なんなら食い込みは大丈夫なのか?」
嫌な予感しかなかったが、着用しないことには何も始まらなかったのでそっと履いていく。太ももを通過してアソコをゆっくりと覆っていく。局部を隠すものとはいっても、男性に備わったモノを収納するようにできているはずもなく――。
やっぱり色々とはみ出るよね、どうしよう……と思ったその時。
――シュルシュルシュルっ
Tバックが肉棒と玉袋をぱくっと包み込んだ。
「????」
痛みはなく、一瞬の出来事に何が起きたのか分からなかった。
中に空洞があるかのように股にあったモノがすっぽりと収まると、何もなかったかのように股に張り付くようにぴたっと密着した。
また、同時にお尻と太ももはむくむくと成長して、ふっくらむちっと弾力のある曲線を描く。
「何が起きているんだ?!」
手を近づけると、アソコにあったであろう位置でスカっと空振りした。Tバックは綺麗な割れ目を作りながら身体にぴちっと喰い込んでいた。存在だけが消え、ただ肉棒のあったであろう感覚自体は残っている。
「な、なんだこれ????」
理屈は分からないが、とにかく見た目の体つきは女の子だった。狐につままれたような気分だ。
戸惑いつつもヌーブラに手を伸ばす。これこそ付け方が分からないのだが……と胸に軽く当てると、こちらも意思を持っているかのよう、身体に吸い付くようにぺたっと張り付いた。身体中から肉をかき集めてメリハリができるように体つきが変化していく。それまで平淡だった胸元は特に、脂肪が注ぎ込まれてむくむくっとおっぱいが隆起を始める。変化が止まると、谷間のある立派な乳房が完成していた。
姿見を見ると、どこからどう見ても女性のそれそのものだった。
「すごい、こんな技術があるんだ……。どうなっているんだ」
ただ、局所的に変化がまだ済んでいないらしく、鏡の向こうには不完全な像が映っていた。着替えを進める必要があるらしい。
マニュアルの2番目を見ると、『ストッキングを着用する』と書かれている。こちらもイラストに沿って履いていくと、シュルシュルと脚に絡みつきながら身体を変化させ、ピチッと張り付くとすらっとした女性特有の線を作り出していた。
最後に『バニーコートに脚を入れ、着こんだ後でチャックを閉じて胸元を調整する』とあったので、これもイラスト通りに着用していく。チャックを締め上げると、身体全体がドクンと熱くなり、身体のあちこちが創り変わっていくような感覚があった。帯びた熱が収まると、女性化は完了したらしく、姿見にはスタイルから相貌まで完全に女性のものになり、別人のような存在がそこにはあった。
残っていた小道具の類を指示通りに着けると、先ほどまで見ていたウェイトレスと変わらない恰好が完成していた。
「す、すごい……。どこからどう見てもバニーガールだ……」
声は元から中性的だったとはいえ、放たれたものは女性の高音域になっていて、自分でないみたいで変な気分になる。
最後に、靴が入っているであろう箱を開けた。
「……これを着ないといけないの?」
黒のパンプスだった。
ヒール部分は入門者用なのかやや低めだが、それでも履いたことがなく足元の覚束なさが気になって仕方がなかった。
試しに履いてカツカツと歩いてみるも足元の頼りなさに、身体の変化から重心が変わっていることも相まって何度か崩れそうになる。
慣らすようにそろりそろりと注意をしながら更衣室を出て行った。

669_202111132150185e0.jpg


「アリサさん、着替え終わりました」
「はーい、っておおお!!! 可愛らしいじゃない! どれどれ――」
一気に僕の元へと近づいて、舐めまわすように身体全体を隅々まで見やる。
「は、はぁ。ありがとうございます……」
恥ずかしくて仕方がなかったが、見た目を褒められているのは悪い気がしなかった。
ウィッグも着けてみないかと言われたが、着せ替え人形にされているようでお断りした。
「それにしても、見込みがありそうと思っていたけど、思った以上だったようね」
いつの間にか適正を測られていたみたい。どうやら全員がこうも上手くいく訳ではないようだ。
「ところでこの服って凄い技術なのですね……」
「ふふん、そうでしょ? 詳しいことは秘密なのだけど。とある企業の開発中の技術を使わせていただいているの。手術することなく女性の身体を手に入れることができる代物なのよ」
ただし、普段通りの生活を送りたかったら秘密裏にしていてね、と釘を刺される。
踏み込んではいけない世界だったのかな、とちょっと悔いたが後戻りできそうになかった。
「ところで――、あなたに名前を与えないといけないわね」
「な、名前ですか?」
「そうよ。女の子として働くのだし、何より素性は隠したいでしょ?」
た、確かに。女性の服を着ていることもそうだし、よりによってバニーガールになっているところをクラスメイトや知り合いにバレる訳にはいかなかった。
「そうね……、これからこのお店では『ルイ』と名乗りなさい。いいわね、ルイちゃん?」
「は、はぁ分かりました、アリサさん」
「店長、ね。気を付けてね」
先ほどまでデレっとしていた表情が一気に引き締まり、威厳を漂わせる。
「じゃあまず研修……と言いたいのだけど、仕事を教えようにも今は手が離せなくて。なので代わりにビラを配ってきてもらおうかと。客引きできるならしてきてもらってもいいわ」
ぽふっとチラシを置く。サラっと言われたが、いきなりハードルが高すぎる。
何より、格好が……。
「えっこの格好でですか?? む、無理です……」
モジモジとする僕の姿を、店長は羞恥を愉しむようにニヤニヤとしていた。
「ふぅん……、恥ずかしいんだぁ。それじゃあちょっと待ってね」
そう言って、メイド服のポケットから錠剤らしきものが入った瓶を取り出した。ラベルはウサギのマークが描かれているが見慣れないものだった。
「これを飲んでもらえると大丈夫だから」
3錠ほど取り出して、
「ほら、あーん……」
飲むように促してきた。逃げることもできず、言われるがままに口を開ける。ぽいっと錠剤が口に放り込まれる。下の上で溶かすように転がしたが、特に味はしなかった。大丈夫そうかなとごくん、と飲み込む。
身体の中へ成分が溶けだすと、効き目なのか頭が少しじんと熱くなって、ふわっと何かが脳内を包み込むようだった。それと同時に羞恥心がすうっとどこかへ消えて表情が穏やかになり、内から何かが湧き出るような感じがする。
表情の変わり具合を読み取ったのか、店長はニコリとする。
「効いてきたみたいね。さあ、行っておいで。2時間ぐらいしたら戻ってきてくれるとありがたいわ」
「はいっ!」
声はどこか自信に満ち溢れていた。



時刻は15時過ぎ。通りにはそれなりに人の気配がある。
言われるがままに繁華街に出たのだが、そういえば客引きもビラ配りもしたことがなかったのだった。
どう誘ったらいいんだ……?
と戸惑っている感情とは裏腹に。目の前を行く買い物帰りと思われるオタク風の若い男性を見かけると。
身体は自然と動いていた。
「ねぇねぇ、そこのおにいさん?」
女性に声掛けされたことへの戸惑いなのか、男性は不慣れな声を出してはっとこちらを振り返った。
「お、俺のことを呼んだのかな?」
「そうそう、お兄さんのこと。この後のご予定どうなのかな?と」
言いながら、屈んで胸元を強調するようなポーズを取っていた。
な、何やってるんだ……と理性が働くよりも、脳が操られているかのように迷いなく誘惑し、淀みなく言葉が出てくる。
男性はちらっと谷間に目をやった後、恥ずかしそうにさっと逸らした。
「ちょ、ちょっと疲れたから休もうかと」
「わたし、いい場所知ってるんだ。ラビットアワーってカフェなのだけど…? よかったら、チラシをどうぞ」
満面の笑みを浮かべながらチラシを差し出した。男性は恥ずかしそうに顔や胸元をキョロキョロとしながらもチラシを受け取ると、軽く会釈をして、チラシを見ながら立ち去って行った。
小さくなる背中に向けて「是非来てくださいねー」と声をかけて、男性を見送った。

ふぅ上手くいったかな……、と一息つくと。ようやく理性が戻ってきて、自分の行いにかぁぁぁっと紅潮し始めて、不慣れなパンプスであることも忘れて一目につかない場所に逃げ込んだ。
「(僕は何やってるんだ??? 身体を突き出して、見せつけるようなポーズを取って……。まるで)」
まるで痴女じゃないか――。
男性が胸元や顔に向けて放っていた視線を思い出した。ああ今考えてもおぞまし……。
あれ……?
ぎゅんと気持ちが昂った。そして身体の随所が熱くなり、お腹の奥辺りがきゅんと変な気持ちになる。ぜんぜん悪い気はしなかった。
「(そんな、注目されるのが心地いいんだ……?)」
思えば、学校では地味な存在だった。誰かに話しかけられることもなく、話しかけても反応もされず。誰かに注目されることもなく、まるで空気のような存在で退屈だったのは言うまでもない。
でも今は違うんだ――。
一つ深呼吸をして、何も持ってない手をぎゅっと力を込める。よし。
もう一度、賑わいのある通りへと戻っていく。良さそうな人を見つけると自然と身体が動いていた。
「おにいさーん、ねぇ、遊んで行きませんか?」
恥ずかしさは気にならなかった。
何よりも、話しかければチヤホヤされるのが楽しくて仕方がなかった。
無我夢中でビラを配っていたら、2時間なんてあっという間に過ぎて行った。



裏口からスタッフルームに戻ると、店長はずっとパソコンとにらめっこをしていた。
カタカタとタイピング音が鳴り響いていた。
「ただいま戻りましたー」
「あら、ルイ。おかえりなさい、どうだった?」
「好意的にチラシ受け取って貰えました!」
「それはよかったわ。……ところで、もう恥じらいはないみたいね?」
言われて理性が蘇った。
「あ、あ、あれ??」
自分のあられもない行いの数々を思い出して、顔がかぁぁっと熱くなった。
それと同時に、それまで抑えていた身体の疼きが一気にぞわっと身体を襲う。
頭がぼうっと火照って思考もままならなかった。
「て、店長……、頭がぼんやり、身体がむずむずジンジンとして仕方がないです……」
あらら、と手を当てる。
「『ウサギ二ナール』というお薬でね。飲むと前向きな人格を作り出すお薬なのだけどね――。ほら、ウサギってね……、副作用的な……?」
隠してることがあるからなのか、申し訳なさそうに歯切れが悪くなる。
「この後に研修も兼ねてお給仕を手伝ってもらおうと思ったのだけど、その前に身体を休めた方がよさそうね」
ちらりと時計を見やる。
「30分ぐらいそこで横になってるといいわ」
そこのソファーを使っていいからね、と指で示される。
まともな思考力が残っておらず、促されるがままに眠りについた。


「……ねえ、ルイちゃん」
揺らされて意識が戻った。
「……はっ!」
見ると、初めてお店に入った時に案内してくれたウェイトレスが傍にいた。
「す、すみません! 寝すぎました?」
「ううん、大丈夫だよ。それに、あのお薬飲んでいる訳だし……」
あのお薬というのは、『ウサギニナール』のことだろう。そういえば、変な感じは治まっていた。
「これから中でお給仕の手伝いをしてもらおうかなーと思って。あ、挨拶遅れたけど、カリンって言います。教育係を任されているわ」
「ルイです、よろしくお願いします」
「それじゃあ行こっか」
こくと頷いて、フロアへと向かった。

カフェはピークの少し前なのか空席こそあるが、それでも盛況していた。
ちらちらと様子を伺うと、ウェイトレスの方が給仕に尽くしていた。お客の中には自分がチラシを配った方もいたようで、目線が合うと軽く愛想を振る舞った。
「それで、お仕事って何をすればいいのでしょうか?」
「詳しいことは明日以降教えるから、まずはテーブルの片付けだったり、空いたグラスに水を注いだりしてくれると嬉しいかな?」
布巾を渡された。忙しさの名残か、まだ片付いていないテーブルがちらほらとあった。

テーブルを片付けたり、空のグラスを水で満たしたりしながら、合間で先輩方の仕事ぶりをチラチラと見ていた。料理を運ぶだけじゃなく、その後はお客さんと談笑したり、チェキを取ったりと忙しそうにしていた。
片付けやフロアを歩き回っている途中、恰好のせいからかチラチラとこちらを見られている――そんな気がした。顔ならまだ良かったが、あらぬ箇所に視線が飛ぶ。
最初は気を逸らしていたが、一度気になるとだんだんむずむずと疼くような感覚に襲われた。
「キミ新人さん?」
お水を配っていると、お客の一人に呼び止められる。
「はい! 今日から入りましたルイと言います」
「そうなんだ、可愛らしいね」
「ありがとうございます!」
軽く会釈をしてその場を立ち去る。
隠すようにチラチラと、ねちっこく刺さる視線が身体を刺激して仕方なかった。
「(さっきからずっと見られていたよね……)」
刺激された身体は発散を求めていた。
こちらへの注目が途切れた隙に、ひょいと裏口に駆け込む。

「(ここなら誰にも見られていない……)」
もぞもぞと身体をくねらせている。トイレの感覚とも違う、さっきからじんと疼く股間部が気になって仕方がない。
「(アソコが勃ってるとも違った感覚……身体も女の子のものになってるのかな)」
少しまさぐろうかと思ったタイミングで、耳元から「仕事中に悪いことをしているのは誰かな?」と囁かれて釘を刺された。
ぞわっとびっくりして振り返ると、カリンさんが居た。
「うわっ……?? どうしてここに?」
「そろっと抜け出るのが見えたからね、後を付けてきちゃった」
そういえばお客さんの視線はかわしたが、ウェイトレスの方にまで注意が回らなかった。
「仕事中に勝手に抜けちゃダメでしょ?」
ふぅっと1つ息を吐いた。
「というのは別として、“あれ”を飲んで“それ”を着用しているときにヤッちゃうと身体が酷いことになるからね??」
声のトーンが洒落にならなかった。ぶるっと背筋を伝うものを感じてすうっと伸びる。
「感じてるのかもしれないけど、我慢しなきゃダメだよ」
威圧されたかのように、こくこくと頷いた。
「分かればよし! 少し心を落ち着かせたら戻ってきてね!」

827.jpg


夜の部と切り替わるちょうど境目ぐらいで、初日のお仕事が終わった。
フロアに戻ったタイミングでお客の入りが増えて仕事に追われ、視線を気にするどころじゃないのが幸いした。それでも何度か変な気分になったが、その度に『酷いこと』を思い出してぶるぶるっと身体を律して事なきを得た。

スタッフルームに入ると店長が待ち構えていた。
「ルイちゃん、お疲れ様。これ今日のお給与ね」
店長から手渡された封筒を見やると、どう考えても時給と働いていた時間をかけたものより多く包まれていた。
「店長、多すぎませんかこれ??」
「ルイちゃん頑張ってくれていたからね。それに呼び込みもあってか、盛況していたので心ばかり上乗せしておいたよ」
それだけではないような気がしたが、ご厚意に甘えた。
こんなに貰えてしまうと1週間でフィギュアの代金を達成するどころか、もっと上積みすることができそうだ。
「ところで、明日も空いてたりするかな?」
「ええ、授業が終わってからなら……」
「そう、良かったわ。待ってるからね? ああ、それと、これも忘れずに飲んでおいてね」
お昼のものとは違う、錠剤が3つ手渡された。
「これは?」
「『ウサギニナール』の効果を打ち消して、副作用も抑えてくれるお薬。これを飲まないとお仕事後が大変だからね……?」
想像するだけでぶるっと寒気がした。慌てて口に放り込む。
飲んで成分が身体に浸透してくるとすぅぅっと意識が戻されたようだった。理性とともにバニー服に身を包んでいる恥ずかしさを感じ、かぁぁとなって慌てて男性更衣室に駆け込む。遠くでくすくすと笑う声が聞こえたような気がした。
これからは脱いでから飲もう……、そう心に誓った。

服を脱いでいくと、不思議なことに身体は元に戻っていた。
コートを脱ぐと身体つきが元通りになるように熱くじぃんとして、着用していた下着を脱ぐとおっぱいの膨らみはすぅぅと縮んでなくなり、Tバックを脱いだら元あった肉棒がどこからともなくしゅるしゅると生え伸びてきた。
中和薬のおかげか、『ウサギニナール』の効き目もなくなって、昂っていた気持ちも身体の疼きもなくなってはいた。
ただ、どうしてもチヤホヤされていた視線の心地よさだけは忘れることができなかった。



更衣室を出ると、カリンさんがちょうど出てきて目があった。
バニー服とは違って、制服に着替えると心なしかすらっとしたした印象がある。
「ああ、ルイちゃん……じゃなくて軽井沢君か。一緒に帰らない?」
「はい、駅の方ですかね?」
「それだと途中までだね」
カリンさんに着いていくように半歩遅れで裏口から出た。人通りの少ないであろう道を選んでくれているのがありがたかった。
「カリンさんって女性だったのですね、てっきり全員男性が働いているのかと」
「ちょっとひどくない? っていうのは嘘。謎のハイテク技術のおかげで男性も働けるってだけでね」
ほら、わたしのおっぱいだって――、と平たくなった部分を誇示してきたのは恥ずかしくて目を逸らした。
「ところで、カリンさんはどうしてここで働いているのですか? いかにも怪しそうな雰囲気ですけど」
「あはは、怪しそうっていうのはそうね」
立ち止まって視線を宙にやって考える。
「んーー、そうね……」
くるっと振り向く。
「女の子はいろいろお金がかかるっていうのはあるけど、もてはやされるのって楽しいからね?」
ニヤッと怪しげな表情を見せた。
「じゃあわたしはここで。またね!」
「……さようなら」
彼女の姿が見えなくなるまで見送った。

――もてはやされるのって楽しいからね。
1人になった帰り路。その言葉がなぜか頭の中で響いていた。


それから。
授業が終わると、ラビットアワーに通う日々が始まった。
『ウサギニナール』を処方され、バニー服を着て女の子の身体になって、別人のようにお給仕をして、お給料を手渡されて、脱いで元に戻って、処方されたお薬で緩和する。
お薬のおかげか、仕事では別人のように積極的に振る舞うことができた。
相変わらず仕事中に疼いて感じてしまうのは慣れなかったが、制御できるようになるとそれさえも心地よく思えていた。

だが、4日目に異変を感じた。
この日は休日で学校が休みということもあって、長めにシフトを出していた。
それまでとは比べ物にならない盛況ぶりに、行列もできて時間制限の札を掲げないといけなかった。
効果が切れないようにと、店長から途中で『ウサギニナール』を再度処方されてバリバリと働き、時には休憩を貰って山場を乗り切った。
お仕事が終わった後にバニー服一式を脱ぎ、処方される中和薬を飲んで頭も身体も元通りに戻った。
――のだが、それまで得ていた達成感はなく。
心にぽっかりと穴が空いたような感じだった。
「何かが物足りない……」
正直なところ、今日のお給与でフィギュアの代金は達成するどころかお釣りが出るぐらいになった。もう辞めて元の生活に戻っても問題はない。
が、別人になってチヤホヤされる事への優越感は身体に染みついて癖になっていた。
姿見に映る、地味で冴えない姿にウンザリするような失望感さ覚える。
「あと3日か……」
優越感と失望感の入り混じった感情は、日に日に増していった。



そして最終日。

「はい、1週間お疲れ様でした。短い間だったけどとても助かったわ」
「ありがとうございます、わたしもお給料を弾んでもらえて助かりました」
「ルイちゃんの働きぶりがよかったからね、逸材だっただけにお別れなのが惜しいわ」
残念そうな表情を見せる。
どれだけ力になれていたのか分からなかったが、必要としてもらえていたことを実感して嬉しくなった。
ただ、辞めると元の後ろ向きで冴えない生活が待っているのだろう……。
俯いて考える。
「それなのですけど、店長」
「ん、なあに?」
ぐっと意を決した。
「これからも働かせてもらえると嬉しいのですが」
店長の表情がぱぁっと晴やかになった。

もう普段の生活では満足ができない身体になっていた。

そういえば次にお金が貯まったら何をしよう?
化粧道具を買って、カリンさんに教えてもらおうかな。
あるいは、あのアニメキャラのコスプレも気になる。

考えるだけでワクワクが止まらなかった――。
(完)

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