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【投稿小説】「目には目を。歯には歯を。覗き魔には…」前編
「とある冒険者の受難」が好評な馬耳エルフさんの投稿作品!挿絵はこじかさん♪
社会人3年目を迎えた俺、仲岡依月は大型連休と有給休暇を利用し北陸の片隅にある温泉宿を訪れていた。
特段、俺は温泉好きでもなければ旅行が好きというわけでもないが、今年度のノルマが前年度に比べ1.5倍ほどに跳ね上がっていたこと、その癖給料に関しては大して上がらなかったことで沈んだ気持ちを強制的に立て直すために普段の生活とはかけ離れた行動に出たかった。
いつもなら、有給届を提出するとあからさまに眉をひそめる上司も厳しい目標数値を課せられた俺に同情の念を抱いたのだろうか。珍しくあっさりと有給の承認をしてくれた。
訪れた温泉宿は、良くも悪くも何の変哲もない普通の宿泊施設だった。
個性に溢れた設備やサービスがあるわけでもなく宿の周囲に目ぼしい観光スポットがあるわけでもない。
まるで、日本人の思い描く「温泉宿」というイメージを最大公約数的に抽出して、図面に印刷した設計図を元に建設したかのような無個性っぷり。
期待外れというものではないが、肩透かしな印象は否めなかった。
宿を散策していると、同じ宿泊客と思しき若い女性客2人が並んで歩いてきた。
ふんわりとした長髪と黒髪のショートが特徴的な2人はバスタオルやシャンプー、ボディーソープといった所持品から察するに、これから露天風呂へ向かうようだ。
そう言えば、である。
温泉宿の主役たる露天風呂を確認していないことに今更ながら気付いた。
ひょっとしたら、この平凡な温泉宿に似合わぬ名湯が味わえるのかもしれない。そう考えた俺は部屋で支度を整え、温泉へと向かった。
しかし、期待に胸を高鳴らせ足を踏み入れた俺を待ち受けていたのは、ごくごく普通の温泉だった。
露天風呂の大きさや出で立ちも没個性的、さして目を引く設備があるわけでもなし。
男性客と思しき中年男性が1人浸かっているだけの凡庸な温泉だ。
まるで、今回の旅行そのものを象徴しているかのような光景に思わずため息が出た。
その瞬間、開いた古傷から血が滲み出すように心の片隅にしまい込んでいた仕事のストレスが押し寄せてきた。
このまま金と時間を空費して、さして楽しくもない旅行を終え暗澹たる気持ちで仕事に戻る自分の未来を予感すると胸が重くなった。
そんな不快な思いを引きずりながら体を洗おうとした時だ。
(あれっ。何だあれ…)
視界の端に違和感のあるものが映った。その正体を確認するために視線を移動させる。
穴だ。
壁に2cm程度の大きさの穴が開いている。
もし、これが廊下の壁に開いていたものなら施設の所々にガタがきてるんだな、と軽い気持ちで無視できたに違いない。
ただ、穴が空いた場所が問題だった。
よりにもよって穴の空いた場所は男湯と女湯を隔てる壁だったのだ。
男湯には俺以外には1人の中年の男が湯に使っているだけで他に人目が無かった状況も俺の背を押したのかもしれない。
気が付くと、俺は穴を覗き込んでいた。
平凡な旅行にうんざりして刺激を求めたのか、それとも単に目の前の誘惑に負けた結果なのかは分からない。
俺は穴の先に広がる景色に全神経を集中させた。
それは、まるで未知の世界だった。
まず最初に目を引いたのは、先程廊下で俺とすれ違った2人の女性客の裸体だ。覗かれているなど夢にも思わないのだろう。
長髪の女性客は左手で髪をかきあげ、隣にいる連れのショートの女性とにこやかに雑談している。会話の内容は分からなかったが、互いに無防備だ。
2人共器量が良く、スタイルもなかなかだ。俺は生まれて初めての覗きを心ゆくままに堪能した。
残念なことと言えば、穴から一番近い場所にいる女客が年配であること。
そして、2人組の若い客よりもさらにスタイルの良い美しい顔立ちの女性が体にタオルを巻いており裸を拝めなかったことだろうか。
ひとしきり楽しんだ後、一旦穴から目を離し一息ついた。
(思った以上に刺激的だったな…)
犯罪スレスレの、と言うか犯罪そのものに手を染めてしまったにも関わらず特に後味の悪さを感じることもなく、むしろ爽快感すら覚えていた。
もし、今俺がやったことが世間にバレたら会社も解雇されるかもしれない。
それでも俺の自制心は働かなかった。
周囲を見渡してみると、俺以外には中年男性が湯に使っているだけだ
なぜかニヤニヤしていることは気がかりだが俺はさらなる刺激を求め穴を覗き込んだ。
その瞬間、俺の体に異変が起きた。
「な、なんだ…。体が熱い…!」
体の奥底から得体のしれない熱が全身を駆け巡った。頭から爪先まで衝撃にも似た痺れが走り体から力が抜けていく。
「おっ。ようやく始まったか」
湯に浸かっていた男が妙なことを口走ったが、俺にはその言葉の意味を考えるだけの余裕はなかった。
全身を覆う痺れのような感覚が収まり出した頃だ。
俺の短髪がショートボブほどの長さに伸びていることを自覚した。角張った体が柔らかな丸みを帯びたラインへと変わっていく。
真っ平らだった胸板が見る間に大きくなり張りのある形の整った双丘へと変化していった。
腰はくびれ、尻はゆっくりと尻幅を増し丸く大きな形へと変わっていく。
股間にあったモノは消え失せ、代わりに新たな器官が形成されようとしていた。
体に起きた異変が終わった時、俺は呆然としていた。
自分が一体どうなったかを理解できなかったからだ。
「う、嘘だろ……」
声帯が震え、聞き慣れた自分ではない女性の声が口から漏れ出した。
恐る恐る股間に触れてみる。
そこには、本来あるべきはずのものが無くなっていた。
続いて視線を下へ移す。
大きく膨らんだ胸のせいで足元が見え辛い。
いつの間にやら床に落ちた腰に巻いていたタオルを拾い上げ、途方に暮れる。
俺が長年見続けてきたもの喪失。それとは対象的に存在感を主張する大きく膨れた胸。
あまりに受け入れがたいことだが、俺は自分の体に何が起きたのかようやく理解できた。
「俺、女になったのか…!?」

「お客さん。今何が起こったか説明しようか?」
「えっ?」
湯船の方から急に俺に話しかける声が聞こえ、思わずビクッとしてしまう。
「…?」
「ほらほら、そんなところで突っ立てたら風邪ひいちゃうよ。こっちこっち」
中年男性は湯に浸かり、笑いながら俺に手招きしている。
いかにも怪しげだが、俺はその誘いに応じ湯船へと向かった。
この怪しげな中年男は、この温泉旅館の主人だった。
暇な時間を見計らって設備の点検も兼ねてこうして湯に浸かっているそうだ。
「あのっ、なんて言うか、何で俺の体はこんなになっちゃったんですか」
「ざっくり言っちゃうとね、お客さんがあの穴から女湯を覗いた罪の返し風で呪いが降り掛かった結果なんだ」
「えっ…」
「ははは。今更隠すことはないよ。お客さん以外にも居るんだよ。あの穴から女湯を覗いて女になっちゃった人」
「そ、そうなんですか」
「いるいる。女風呂を覗く男なんてごまんといるからねぇ。俺がここの主人になってから女になったのは、お客さんを入れて18人くらいかな」
確かに言われてみると、俺もすぐに気づくほどの穴が開いているのだ。俺以外に覗きを行った人間が居てもおかしくない。
そう思うことで俺は少しだけ落ち着きを取り戻した。
もちろん、呪いなんて非科学的な話を信じろと言われても無理があるだろう。
しかし、実際に俺が女になってしまった以上信じるしかない。
ただ、まだ納得できないことがある。
なぜ俺だけがこのような目に遭わなければならなかったのだろうか。
「そのですね、俺は元の男の姿に戻れるんですか。呪いで女になったってことは、まさか一生…」
「元に戻れるよ、と言うのが結論なんだけど、その辺のことを詳しく知ってもらうために少し昔話をしていいかな」
そこから、主人によるこの温泉にまつわる開湯伝説を語り出した。
時代は今から400年ほど昔。一人の高僧がこの温泉を発見したのが始まりだと言う。
仏教の世界において入浴は病と災禍を退け福をもたらす営みと位置づけられたいるらしく、この高僧はこの温泉が民草が楽しめるよう普請したそうだ。
結果、近隣の人間のみならず遠くからも足を運ぶ者が後を絶たない名湯が完成した。
「でも、そこで話は終わらなかったんだよね」
いつの間にやら、俺の肩を抱くように主人の腕が回っていた。
気味が悪かったが、俺の注意は主人の話へと注がれていく。
さて、名湯として名を馳せたこの温泉だが一つの問題が発生した。
高僧が名湯を作り上げた結果、多くの人が集まった。そして、人が集まる場所には古今東西トラブルの発生がつきものだ。
当時は、男湯と女湯という隔てはなく男女が同じ湯に入っていたわけだが客の中にならず者が目立ち始めたのだ。
何をしでかしたのかと言うと、女性客に下劣なちょっかいをかけて風紀を乱していたそうだ。いつの時代も悪評は好評より広まるのが早い。
悪質な客の出没するという噂は、すぐさま周囲に知れ渡ったそうだ。
そうした問題もあり、名湯から客足は遠のいてしまった。
「苦労して普請した温泉を荒らされて、その坊さんもお怒りだったんだろうな。即座に一計を案じたそうだ」
「それは、具体的にはどんな?」
「女人に迷惑をかける煩悩の塊に覿面の呪いがかかるようにしたのさ」
主人が語るには、まず温泉の湯口に呪符を貼った。
女人に対して粗相をしようとするような真似をした者は、呪いによって女性化してしまうようになった。
「こうして、女性客に粗野な男どもが迷惑をかけることは無くなったそうな。めでたしめでたし」
「いや、待ってくださいよ。元に戻る方法が出てきてないじゃないですか」
「慌てないで。この話には続きがあるんだよ」
月日は400年ほど経つ。
その名湯は何やかんやあって、高僧の子孫が経営する温泉宿に形を変えて存続していた。
そんな温泉宿に事件が起きた。
女湯の盗撮被害が発生し、その盗撮動画が海外のアダルトサイトに投稿された挙げ句、その件が新聞記事として取り上げられたのだ。
「幸い、報道の規模は大したことなくてね。記事そのものは地方紙の片隅に載っただけだったよ。でも、掲載翌日は電話がすごかったな」
主人がこの一件にムシャクシャして敷地の片隅にある倉庫でヤケ酒を飲んでいると、足を絡ませ転倒した。
その時の衝撃で落ちてきた文献。
そこには、かつて高僧が施した呪いの詳細が記されていた。そして呪いの解き方も。
「じゃあ、この温泉に呪いをかけたのは…」
「俺だよ。呪いを編み出した坊さんの子孫が俺なわけだからそっち系の素養があったのかな、やってみたら予想以上に簡単なもんだったよ」
「それで、その呪いの解き方は…」
「おっと、ごめんよ。お客さんも気になっている解呪法なんだけど、これが面白くってさ」
主人曰く、不届き者を懲らしめるために女体化する呪いを完成させた高僧はある解呪法を盛り込んでいたらしい。
「お客さんが今回しでかした一件に対する罰を呪いをかけた人物、つまり俺から直々に罰を受けて償うこと。それで元に戻れるよ」
「えっ?その、それってどういう…」
「要するに、ね。俺がお客さんが今回やらかした覗き行為に見合った罰を与え、お客さんがその罰を全うする。この温泉が罪を償ったと判断すれば男に戻れるってわけだ」
「あの、俺が受ける罰って具体的にはどういうものになるのかな?」
「その辺に関しては、これからもっと詳しく教えてあげるよ」
「ひゃわっ!?」
俺の肩を抱くように回されていた左腕が一気に下に移動して、俺の胸を鷲掴みにした。
「なっ、何をやってっ…くうっ!」
「いいから、いいから。おおっ、お客さんオッパイ大きいねー。」
得体の知れない感覚に身を捩らせて俺は主人の腕を振り払った。
「このっ、何してんだ!?」
「つれないなーお客さん。ちょっとしたスキンシップなのに」
「ふざけるな!」
乳房を掴まれたことで生まれて初めて体感した得体の知れない不快な感触に思わず身を強張らせていた。
思わず俺は、温泉から立ち上がり主人を睨みつけた。
「おおっ、いいもん見せてくれるね。サービス精神旺盛だ」
「何を言って、…あっ!」
言葉の意味が分からなかった俺だが、次の瞬間はっとした。
今の俺は、女の体で、しかも何も身につけていない裸体なのだ。
その状態で湯船から立ち上がることが何を意味しているか。気がついたときには手遅れだった。
主人の視線は既に俺の布一つ纏っていない肢体に絡みついていた。
まるで透明な舌に全身を舐られたような感覚は俺の人生24年で味わったことのない、言葉に言い表せないほどの気持ち悪さが背筋を駆け巡った。
「ひっ!」
俺は一目散に温泉の出入り口に向かった。
これ以上この場にいるのが耐えられなかった。
「お客さーん。いいんですかー、罰を受けなきゃ一生女のままだよ」
出入り口の扉に手をかけた俺の背中に主人の声が響く。
「そのままずっと男に戻れず終いで残りの人生を送るのがお望みなら止めはしないけどね」
俺の頭には色んな考えが駆け巡った。
女のままなら戸籍や仕事はどうなるんだろう。
医者にでも行けばなんとかなる可能性はあるだろうか?いや、もはや俺の身に起きた状況は非科学的すぎて望み薄だ。
仮にこのまま体が女のまま男に戻れなければ、俺の人生はどうなる?冷静に考えれば仕事は続けられないし、それどころか普通の生活だってこれまで通り送れるかも怪しい。
戸籍も24年間男として生きてきた俺が女になっても通用するのか分からない。
いや、そもそも他人にこの事態をなんて説明すればいいんだ。
旅行先の温泉で女湯を覗いたら呪いが降り掛かって女になったと真実を説明したところで取り合ってくれるとは思えない。
まずい。
考えれば考えるほど、俺にとって選択肢の余地が主人の言うことを聞く以外に無いことを思い知らされてしまう。
俺は観念して湯船へと戻った。
主人は俺の隣にずいと身を寄せ、なにやら勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言った。
「そう言えば、お客さんの名前は何だったっけ?
「…仲岡依月」
「ああ、そうそうそれ。そうだ、男に戻るまでの間はお客さんのこと“依月ちゃん”って呼んでいいかな?」
「好きにしてくれ…」
「じゃあ、改めましてよろしくね。依月ちゃん」
主人の手が湯船の中で人差し指を作り、俺の胸をつんつんと突いてくる。
俺はこの先一体どんな辱めを受けることになるのだろうと気が気でなかったが、とりあえず今は男の体に戻りたい一心で従うしかなかった。
「で、俺に何をさせるつもりなんだ?」
「まあまあ焦らないの。時間はたっぷりあるから」
「……」
「まずは、依月ちゃんの体がどのくらい女の子になってるのかを確かめさせてもらおっかなー」
主人の左腕が俺の肩に回されたと思うと、そのまま俺の左胸に手のひらが降りてくる。
そして、容赦なく俺の胸を揉みしだいてきた。
「ちょっ!おい!」
突然の出来事に俺は声を上げた。
「ふわぁっ!」
今まで感じたことのない刺激が全身を駆け巡り、思わず変な声が出てしまった。
「いやーこりゃまたご立派なものをお持ちで。手のひらに収まりきらないや。女になった男客は色々見てきたけど、その中でも間違いなく依月ちゃんのは一番の大きさだね」
「な、何を言ってるんだ」
「おっと。こっち側をお留守にしてるのは申し訳なかったね」
その瞬間、湯船から何かが浮上して俺の左胸の乳首に擦り付いてきた。
その正体が、主人の右手の人差し指であることに築いたのは乳首をスリスリと刺激する感覚が届いてからだった。
「くうっ、何を…。ひっ!?」
困惑する俺にお構いなしに、主人は右手で俺の右乳首を摘むように弄ってくる。
くすぐったいような快感のようなよくわからない感覚が襲ってきて、俺の体は無意識のうちにびくんと跳ね上がった。
「ひうっ……んあっ、やめろぉ」
「ほほう。依月ちゃんはこっち側の方が敏感みたいだねぇ。いい反応だよ。やっぱり女体化の影響なのかな。それとも依月ちゃんが元々こういう素質を持っていたのかな」
「そんなわけないだろっ……」
主人の言葉を否定するものの、俺の口から漏れ出す吐息は熱を帯びていた。
「でもさっきより顔つきが変わったよ? もしかして気持ち良くなってきちゃったのかな?」
「そ、それは……」
否定できない自分がいた。
確かに主人に触られる度に、自分の中の知らない感情が湧いてきているような気がした。
(どうして俺はこんなにドキドキしているんだよ)
「ふぅっ、ああんっ……」
俺の口から出た甘い喘ぎに、俺は自分でも驚いた。
まるで媚薬を飲まされたかのように体が火照って仕方がない。
主人の手の動きは男の俺も呆れるほど器用で巧妙だった。
女性の胸を余程いじりなれていなければ出来ないであろう熟練の動きが生み出す甘い刺激に俺の脳髄には痺れような感覚が走る。
俺は恥ずかしくなり顔を逸らす。
すると、主人はニヤリとした表情で俺の顔を見つめてくる。
主人は俺の反応を楽しむようにして、さらに胸への愛撫を続けていく。その手は止まることなく、両方の乳房を同時に刺激を与え続ける。
左胸は荒々しく力任せに握力を加えられ痛みすら感じる。
対象的に右胸は固くなった乳首のみを赤ん坊の頬にでも触るかの如き優しいタッチで擦るように刺激してくる。
そして、俺が体を捩らせるたびに、湯に浸かっている大きな乳房によって波打ち水面が揺れ動く。
その光景を見て、俺は改めて今の自分は女なんだと自覚させられるのであった。
「はぁっ、んっ、ああぁ…」
俺の意思とは関係なく、口から漏れ出る艶かしい声に羞恥心を感じながらも、主人にされるがままになっている。
「うんうん。依月ちゃんの感じてる姿はとても可愛いね」
俺はもう抵抗する気力がなくなっていた。
むしろこの快楽に身を委ねたいと思っている自分さえいる。
だが、ここで流されてしまってはダメだと頭の中で警報が鳴り響く。
俺は必死で理性を保とうとする。
気がつけば俺の目は涙で潤み、呼吸が荒くなり体を小刻みに震わせていた。
「ふうっ、ああ、だめぇ、そこはぁ」
「どうだい依月ちゃん。女として味わう初めての快感は?」
「く、狂ってしまう。俺の体、おかしくなっちゃう」
「いいじゃないか。素直に気持ちよくなれば。こんな経験、絶対に他じゃ味わえないよ」
主人の右手は俺の右乳首を摘んでは離してを繰り返している。左手は俺の左乳首を執拗に責め立て続けている。
両手の動きに合わせて、俺の体はビクビクと痙攣する。
さらに熱を帯びていく主人の愛撫の前に俺は為す術がなかった。
徹底的に未知の快楽を与えられ続け、ようやく開放された時には糸の切れた人形のようにぐったりとしていた。
力なくへたりこんでいる俺に対して主人は耳元で囁く。
「今日の罰はこれでおしまい。お疲れ様。次の罰も楽しみにしててね」
そう言って、主人は風呂場から去っていった。
残された俺は、しばらくの間、何も考えられずボーッとしていた。
やがて、俺は我に帰る。
慌てて立ち上がろうとするものの体にうまく力が入らない。
それでもどうにか立ち上がり、ふらつく足取りで脱衣所に向かった。
俺は部屋に戻ると、すぐに畳の上に敷いてあった布団に倒れ込んだ。枕を抱きかかえながら、先ほどの出来事を思い返す。
今まで生きてきた中で、一番と言ってもいいくらいの衝撃的な出来事だ。
まさか、あんなことになるなんて。
俺は自分の胸に手を当てる。そこには、自己主張の激しい確かな2つの膨らみがあった。
逆に股間には、24年間慣れ親しんでいたモノは消えてなくなっていた。
俺は今女になっているんだという実感が沸々と湧いてくる。仰向けになり天井を見上げる。先程の出来事はとても現実のものとは思えなかった。
俺の目の前には、さっきまで見ていた光景が広がっていた。
あの時、俺は女になった主人に散々弄ばれていた。
(認めたくないけど、あれは夢じゃないんだな…)
女湯を覗き、呪いを受け女になった挙げ句、乳房を徹底的に愛撫された。その時の感覚が脳裏に蘇ってきた。
思い出しただけで顔から火が出そうになる。
同時に、女として感じてしまったことも思い返される。男だった時の自分が知っている性知識とはかけ離れた世界だ。
俺は一体これからどんな目に遭うのか不安になる一方、期待している自分もいた。
大きな胸にくびれたウエストと肉付きの良いヒップ。そして、長い脚。
俺の体は、どこをとって見ても女性として完璧なプロポーションをしている。
その事実を再認識すると、俺の鼓動は徐々に高まっていった。
24年間生きてきた男としての自意識を捨て去ったわけでもない。しかし、男の体を無くした喪失よりも女の体を得た充実の方が大きいことに気付いた。
何より、女になる前に感じていた退屈はどこかえ消え去っていた。
ひとまずは、この体で色々と活動してみたい。
内から湧き出る好奇心に従い、俺はタンクトップとショートパンツという出で立ちで部屋の外に出ることにした。
部屋を出発して、まず最初に廊下ですれ違ったのは若い女性の2人組だ。
片方は黒髪ショートの引っ込み思案そうな女性、もう片方はウェーブのかかった長髪が特徴的な明るそうな雰囲気の女性だった。
2人共見覚えがある。
俺が風呂で裸を覗いたあの女性客だ。
俺とすれ違う瞬間、長髪の方の女性は俺に視線を走らせた。
その目はまるで、プロ野球のスカウトが高校球児を見るような値踏みの眼差しを向けていたのを俺は見逃さなかった。
少し距離がついたところで、2人のひそひそ話が聞こえてきた。
「さっきの人スタイル凄かったね、ひょっとしてモデルとか?」
「背も高いし、羨ましいな…」
「それにしても、あれ大胆すぎない?私、自分の部屋でもあの格好はしないよ」
「う、うん。確かにね。その、言いにくいけど、あの人ブラジャーもつけてないみたいだし」
「まさか、ノーブラ!?信じられない、あんな大きなおっぱいなのに。ちょっと触ってみたいなぁ……ねぇ、どう思う?」
「さ、流石にそれはダメだよ!!」
「分かってる、冗談だってば」
俺は遠ざかっていく2人に背中を向けたまま、その場に立ち尽くした。
女が知り合いでもない通りすがっただけの同性をそこまで目ざとくチェックしているとは思わなかった。
そのことに思い至った瞬間、俺は急に恥ずかしくなった。
まさか、女になった途端、下着をつけていないというだけで女から注目されるとは思ってもなかったからだ。
とりあえず、このままここにいるわけにもいかないので、俺はその場を離れることにした。
しばらく歩くと、今度は中年の男が1人で前から歩いてきた。
温泉宿の客と思わしきその中年男性は、俺の姿を前方に認めると先程の若い女性とは性質の違う視線を向けてきた。
その目が物語っているのはただ一つ。俺に対する性的な興味だ。
顔、胸、腰、脚をいやらしくなぞる視線は遠慮というものを一切感じさせない雄の欲望そのものだった。
舐め回すような視線に耐えながらすれ違うと、俺の尻を見て舌なめずりをしていたことに気付いた時は、思わずゾッとした。
(こいつ……俺のことを狙っているのか?)
俺の脳裏には、主人に散々弄ばれた時の記憶が蘇っていた。男の体では感じることのなかった不気味な感覚。
そして、快感を覚えてしまった自分への嫌悪感。
そういった負の感情を強引に振りほどくように、俺はその場をそそくさと後にした。
ロビーに到着して自販機で買ったビールを口へ運ぶ。冷たい液体が喉を通る度に心地よい刺激を感じた。
こうして、ひと息つくことで冷静になれた気がする。しかし、女としての生活に慣れるまでは時間がかかりそうだ。
それにしてもだ、女であれ男であれ俺に向けて好奇の目を向けてくる。
正直に言うと、それが自分の中で快感に変わっていることを感じていた。
まるで、自分がこの世の中心になったような達成感と優越感すら芽生えていた。俺が今感じているこの気持ちは、きっと男だった時には絶対に味わえなかったものだろう。
そんなことを考えていると、突然、背後から声をかけられた。
「おっ、依月ちゃん。何してるの?」
振り返ると、ロビーに設置してある受付カウンターの奥から温泉宿の主人が温泉で見せた粘着質な笑みを浮かべ手招きしていた。
俺の中に芽生えた度し難い感情、それを満たすためには事情を知る主人と協力関係を結ぶのが一番手っ取り早いのではないか。
この状況は渡りに船と言えるのかも知れない。俺は内心そう考えつつ、主人の元へ向かった。
俺の胸中には、身震いするような恐怖と黒い好奇心が同時に渦巻いていた。
温泉宿の主人の後についていくと、そこは主人専用の休憩室だった。
部屋の8畳の和室で程よく片付いて過ごしやすそうな雰囲気だった。
気になるものと言えば大きめの洋服ダンスが備え付けられていることくらいだ。
小さなちゃぶ台の上には日本酒の瓶が無造作に置いてあった。おそらく、主人はここで晩酌をしていたに違いない。
部屋に通されると、俺は勧められるままに座布団の上に正座をした。主人も対面の座椅子に腰掛ける。
「今日は仕事も片付いたんで一人で飲んでたんだけど、つまんなくてね」
「はあ……」
俺にはその一言で主人が言わんとしていることが何なのか概ね理解できた。
要するに、晩酌に俺も付き合えということだろう。
勿論、一緒に酒を飲むだけで終わるとは到底思えない。先程の温泉での態度から鑑みるにこの男は相当な女好きだ。
ある程度は覚悟せねばならないなと思いつつも、俺はとりあえず相槌を打っておく。
「それでさぁ、君みたいな可愛い子が来てくれたら嬉しいなーって思ってたところなんだよね?」
「あの……俺、男なんですけど」
俺は苦笑いしながら言った。
「数時間前までは、ね。それにさ、依月ちゃんとこうした形で知り合えたのも何かの縁だし腰を据えてお話してみたかったんだ」
「ははは……。まあ、そういう事ならいいですよ」
俺は主人のペースに乗せられないように注意しつつ、なるべく愛想良く返事をする。
きっぱりと断ろうとも思ったが、そんなことをすればそれを口実に何をされるのか分かったものではない。
何より、俺自身もこの主人に話したいこともあったので少しだけ酒に付き合うことにした。
「へぇ、依月ちゃんは営業マンなんだ。知り合いにそういうお仕事の人っていないから分からないけど、大変そうだね」
「そうなんですよ。毎日残業ばっかりでも給料は上がらないし、数字を上げないと即呼び出しを食らうし」
話の流れで、簡単な自己紹介をした。
俺の職業や仕事、なぜ温泉旅行に来たのかなどをざっくりと話した。
「ストレスの解消のための旅行がとんでもないことになっちゃったね」
「全くです。旅行先で女になるなんて、もう最悪」
俺は溜息をつきつつも、主人のことをそっと横目で見た。
仕事柄、とりとめのない会話の中で相手を観察する技術には少し自信があった。
この主人、少なくとも表面上は穏やかで人当たりが良さそうな温和な中年といった印象だ。
しかし、時折見せる粘着質な視線がどうしても気になって仕方がない。
そして、その視線が向かう先は俺のタンクトップから覗く胸であり、張りのある白い太ももであり、顔なのだ。
温泉であれだけ俺の乳房を弄んでおいて、まだこの男は満足していない様子だ。
いや、ひょっとしたら今の俺の格好を見て新たに欲望が生まれたのかもしれない。
俺はふと、今の自分の出で立ちを自らが男ならどう感じるか俯瞰した視点で考えることにした。
控えめに言ってスタイル抜群の若い女がブラもつけず、タンクトップとショートパンツで目の前にいる。
なるほど、確かにこれは全裸とはまた違った女性の肢体の魅力を引き出す格好と言えるだろう。俺が男だったら間違いなく欲望を掻き立てられるに違いない。
不思議なもので、主人が俺に向けるおぞましい欲望に満ちた視線も理解可能なものとして冷静に己の中で処理することが出来た。
やがて時間が経つに従って酒も進んだ。
俺は主人から勧められるままに杯を重ねていた。
最初はビールから始まり、今は日本酒をちびちび舐めるように飲んでいる。
一方の主人は完全に出来上がっているようで、顔を赤くしてガラスのコップに入った日本酒を勢いよく煽っている。
「あぁー、美味しいねぇ。やっぱり依月ちゃんみたいな美人と一緒に飲む酒は最高だよ」
「…それはどーも」
俺は適当に相槌を打ちつつ、再びグラスを傾けた。
「そう言えば、依月ちゃんに見て欲しい物があるんだ。ちょっと待っててよ」
そう言って主人は3分ほど席を外したかと思うと、大きく硬そうな素材を表紙に使っているのが特徴の本を持ってきた。
それがアルバムであることは近くで見せてもらってようやく気がついた。
主人に促されるままにぱらぱらとページをめくると、そこに綴じられていた写真に思わずぎょっとした。
写真に写っていたのは一様に女性ばかりだ。
しかも、俺個人の感想としては皆器量が良い。
そんな女性たちが水着やセーラー服やナース服、バニースーツ、果ては際どいランジェリーを身に纏い引きつった表情でカメラに向かってポーズをしている。
「な、なんですかこれ?」
「見ての通り、写真集さ。僕のコレクションなんだ」
「……え? じゃあ、この人たちは……」
「もちろんみんな依月ちゃんと同じ事情のお客さんたちだよ」
「…………」
俺は絶句した。こんなことがあっていいのだろうか。
そう言えば、温泉での主人の口ぶりから女湯を覗いて女になった客が過去に何人か居たよな口ぶりだったがこの写真の女性たちがそうなのか。
まさか温泉宿に来て、女体化した男たちの写真集を見させられる羽目になるとは夢にも思わなかった。
「みんな可愛くて綺麗な子ばかりでしょう?俺が撮ったんだけどね。でもほら、女体化するとみんな可愛いし美しいじゃない。だからつい記録に残しちゃうんだよ」
「えぇ……まぁ」
あまりに悪趣味な所業に俺は言葉を濁すしかなかったが、その一方で少しだけ納得していた。
確かに主人が言う通りどの女体化した元男性たちも美しく、魅力的な容姿をしている。
世の男たちから見たらさぞ興味をそそられることだろう。
「さて、じゃあ依月ちゃんの写真も撮らせてもらおうか」
突然の提案に思考は完全に停止したが、俺に拒否権が無いということだけは理解できた。
善は急げ、と言わんばかりに主人は立ち上がり洋服ダンスへと近付いた。
そして中を開けると、そこに吊るされていた衣服に思わずぎょっとした。
セーラー服にバニースーツ、まるでピンクコンパニオンのコスプレ衣装のような顔ぶれではないか。
なるほど、今まで女体化した他の客もこれを着せられて撮影されていたのか。
「どれがいいかな~」
主人はハンガーを手に取りながら、うきうきとした様子で呟いた。その目は欲情の色に染まっており、これから行われるであろう行為に俺は背筋に寒気が走るのを感じた。
ふと、その手がピタリと止まり俺の方へ振り返った。
「そう言えば、まだサイズを測ってなかったな」
主人はメジャーを片手に、下卑た笑みが浮かべてこちらへ近付いてきた。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!」
俺は主人を静止しようと慌てて立ち上がったが、時既に遅しだったようだ。
主人は俺を逃さないよう肩に手を回し優しく耳元で呟いた。
「大丈夫、依月ちゃんならきっと似合うから恥ずかしがることは無い。それにさ、お風呂で裸見たときから気になってたんだよね、依月ちゃんって何カップあるのか」
主人はそう言いつつ、俺の背後に回り込んだ。
「ふあっ!?」
主人は俺のタンクトップの裾に手をかけ、そのまま強引にめくり上げた。俺は抵抗しようとしたが、主人の力が強く振り払うことができなかった。
主人は手慣れているようで、するすると素早く捲り上げていく。
やがて、ぷるりと大きな胸が姿を現してしまった。
咄嵯に両手で隠そうとしたが、それよりも早く主人の手が伸び恐るべき手際の良さでメジャーを俺の胸に巻きつけてきた。
「ふむふむ、トップは94センチか…。大きいね、グラドル顔負けだ。アンダーバストが68、と。凄いよ依月ちゃん、Gカップだ」
「や、止めろっ!!」
「はいはーい、動かないでね。それにこれも、依月ちゃんが元に戻るための罰の一貫だってこと忘れないでね」
「くぅっ……」
俺は悔しさに歯噛みした。
「ウエストが58センチか、見事にくびれてるね。さて、最後に…」
主人はしゃがみ込み、俺のショートパンツに手をかけ下着ごと容赦なくずり下ろした。
露わになった下半身を手で隠したかったが、両腕を掴まれ身動きが取れなくなってしまった。
俺は羞恥心で顔を真っ赤にして俯いていたのだが、そんなことはおかまいなしに主人は俺の尻の採寸を始めた。
「依月ちゃんの巨乳ばっかりに気を取られてたけど、お尻も見事だね。大きくて張りがあって、こういうのを安産型って言うんだろうな」
「ううっ……頼むからもう勘弁してくれぇっ…」
「依月ちゃんのスリーサイズは上から94-58-92でブラのサイズはGカップ……。これでよし、と」
主人は満足げな表情を浮かべると、ようやく俺を解放してくれた。
「いやー、よく似合うね。見込んだ通り素晴らしい着こなしぶりだ」
「……この変態」
「ふふ、女湯覗いた君にそれを言う資格はあるのかな。さて、それじゃお酌でもしてもらおっかなー」
俺が主人に着せられたのは黒を基調としたランジェリーだった。
俺の大きな胸をしっかりと包み込む体積の大きなカップを備えたセクシーなブラ。面積の少ないTバックのショーツ。
どれも露出度が高く、女体化した俺の肢体をこれでもかというくらい強調していた。俺は渋々といった様子で立ち上がり、主人のお猪口に酒を注ぐべく近づいた。
だがその瞬間、突然視界がぐらついたかと思うと俺は主人の方へと強い力で引き寄せられ密着状態になった。
その力の正体がいつの間にやら俺の腰に回された主人の腕によるものだと気付いたのは、主人の手が俺の尻を撫で回し始めたときだった。
「ひゃうん!?ちょっ!?何してんだよっ!」
「まあまあ、いいじゃないか。それよりほら、早くお酌してよ」
「んなっ……このエロオヤジっ…」
俺は怒りを覚えつつも主人に言われた通りに酒瓶を手に取り、主人の持つ杯へ注いだ。
酒を注ぎ、それを飲んでいる間も主人の手は俺の臀部を容赦なくまさぐり続けた。
「うーん、やっぱり大きさも相まってさわり心地最高の良い尻だ。依月ちゃんのお尻を肴に飲む酒は実に美味しいよ」
「ううっ、もう、やめっ…」
「豊満な胸、大きくて肉付きのいい見事な安産型。依月ちゃんの体には女の魅力が見事に満載だね」
そしてそのまま揉みしだき始めたのだ。尻を触られる恥ずかしさと気持ち悪さに、思わず鳥肌が立った。
しかしそれでも抵抗することができず、ただひたすら耐えるしかなかった。
やがて主人は俺から手を離すと、今度は俺の胸に手を伸ばしてきた。
結局そのまま、胸まで揉まれてしまった。俺が開放されたのは胸と尻を徹底的に触り尽くされた後だった。

「さて、じゃあ今日はこれくらいでお開きにしようか」
その言葉に反応して、俺はぐったりとした体を無理矢理起こした。
「ああ、そのブラとショーツは依月ちゃんにプレゼントするよ。それを着こなせそうなのはサイズ的に依月ちゃんくらいだし、そんな巨乳を何の保護も無しにするのは他のお客さんの目の毒になるしね」
俺は黙ってタンクトップとショートパンツを着て部屋から出ようとした。
「ああ、そうだ。罰を受ける以外の時間は依月ちゃんの自由に行動してもいいから。観光するなり、女湯に入るなり好きに振る舞っていいよ」
まるで俺の心の中にある欲望を見抜き後押しするような言葉を俺の背中に主人はぶつけた。
俺は振り返らず無言のままその場を去った。
部屋に戻るまでの廊下を歩いている時も、主人の言葉は俺の頭に響き続けた。
そうだ、どうせなら男に戻るまでの間はこの体を使って楽しんでみようか。
俺の中にある小さな黒い願望が小さく胎動するのを感じた。
後編はこちら
社会人3年目を迎えた俺、仲岡依月は大型連休と有給休暇を利用し北陸の片隅にある温泉宿を訪れていた。
特段、俺は温泉好きでもなければ旅行が好きというわけでもないが、今年度のノルマが前年度に比べ1.5倍ほどに跳ね上がっていたこと、その癖給料に関しては大して上がらなかったことで沈んだ気持ちを強制的に立て直すために普段の生活とはかけ離れた行動に出たかった。
いつもなら、有給届を提出するとあからさまに眉をひそめる上司も厳しい目標数値を課せられた俺に同情の念を抱いたのだろうか。珍しくあっさりと有給の承認をしてくれた。
訪れた温泉宿は、良くも悪くも何の変哲もない普通の宿泊施設だった。
個性に溢れた設備やサービスがあるわけでもなく宿の周囲に目ぼしい観光スポットがあるわけでもない。
まるで、日本人の思い描く「温泉宿」というイメージを最大公約数的に抽出して、図面に印刷した設計図を元に建設したかのような無個性っぷり。
期待外れというものではないが、肩透かしな印象は否めなかった。
宿を散策していると、同じ宿泊客と思しき若い女性客2人が並んで歩いてきた。
ふんわりとした長髪と黒髪のショートが特徴的な2人はバスタオルやシャンプー、ボディーソープといった所持品から察するに、これから露天風呂へ向かうようだ。
そう言えば、である。
温泉宿の主役たる露天風呂を確認していないことに今更ながら気付いた。
ひょっとしたら、この平凡な温泉宿に似合わぬ名湯が味わえるのかもしれない。そう考えた俺は部屋で支度を整え、温泉へと向かった。
しかし、期待に胸を高鳴らせ足を踏み入れた俺を待ち受けていたのは、ごくごく普通の温泉だった。
露天風呂の大きさや出で立ちも没個性的、さして目を引く設備があるわけでもなし。
男性客と思しき中年男性が1人浸かっているだけの凡庸な温泉だ。
まるで、今回の旅行そのものを象徴しているかのような光景に思わずため息が出た。
その瞬間、開いた古傷から血が滲み出すように心の片隅にしまい込んでいた仕事のストレスが押し寄せてきた。
このまま金と時間を空費して、さして楽しくもない旅行を終え暗澹たる気持ちで仕事に戻る自分の未来を予感すると胸が重くなった。
そんな不快な思いを引きずりながら体を洗おうとした時だ。
(あれっ。何だあれ…)
視界の端に違和感のあるものが映った。その正体を確認するために視線を移動させる。
穴だ。
壁に2cm程度の大きさの穴が開いている。
もし、これが廊下の壁に開いていたものなら施設の所々にガタがきてるんだな、と軽い気持ちで無視できたに違いない。
ただ、穴が空いた場所が問題だった。
よりにもよって穴の空いた場所は男湯と女湯を隔てる壁だったのだ。
男湯には俺以外には1人の中年の男が湯に使っているだけで他に人目が無かった状況も俺の背を押したのかもしれない。
気が付くと、俺は穴を覗き込んでいた。
平凡な旅行にうんざりして刺激を求めたのか、それとも単に目の前の誘惑に負けた結果なのかは分からない。
俺は穴の先に広がる景色に全神経を集中させた。
それは、まるで未知の世界だった。
まず最初に目を引いたのは、先程廊下で俺とすれ違った2人の女性客の裸体だ。覗かれているなど夢にも思わないのだろう。
長髪の女性客は左手で髪をかきあげ、隣にいる連れのショートの女性とにこやかに雑談している。会話の内容は分からなかったが、互いに無防備だ。
2人共器量が良く、スタイルもなかなかだ。俺は生まれて初めての覗きを心ゆくままに堪能した。
残念なことと言えば、穴から一番近い場所にいる女客が年配であること。
そして、2人組の若い客よりもさらにスタイルの良い美しい顔立ちの女性が体にタオルを巻いており裸を拝めなかったことだろうか。
ひとしきり楽しんだ後、一旦穴から目を離し一息ついた。
(思った以上に刺激的だったな…)
犯罪スレスレの、と言うか犯罪そのものに手を染めてしまったにも関わらず特に後味の悪さを感じることもなく、むしろ爽快感すら覚えていた。
もし、今俺がやったことが世間にバレたら会社も解雇されるかもしれない。
それでも俺の自制心は働かなかった。
周囲を見渡してみると、俺以外には中年男性が湯に使っているだけだ
なぜかニヤニヤしていることは気がかりだが俺はさらなる刺激を求め穴を覗き込んだ。
その瞬間、俺の体に異変が起きた。
「な、なんだ…。体が熱い…!」
体の奥底から得体のしれない熱が全身を駆け巡った。頭から爪先まで衝撃にも似た痺れが走り体から力が抜けていく。
「おっ。ようやく始まったか」
湯に浸かっていた男が妙なことを口走ったが、俺にはその言葉の意味を考えるだけの余裕はなかった。
全身を覆う痺れのような感覚が収まり出した頃だ。
俺の短髪がショートボブほどの長さに伸びていることを自覚した。角張った体が柔らかな丸みを帯びたラインへと変わっていく。
真っ平らだった胸板が見る間に大きくなり張りのある形の整った双丘へと変化していった。
腰はくびれ、尻はゆっくりと尻幅を増し丸く大きな形へと変わっていく。
股間にあったモノは消え失せ、代わりに新たな器官が形成されようとしていた。
体に起きた異変が終わった時、俺は呆然としていた。
自分が一体どうなったかを理解できなかったからだ。
「う、嘘だろ……」
声帯が震え、聞き慣れた自分ではない女性の声が口から漏れ出した。
恐る恐る股間に触れてみる。
そこには、本来あるべきはずのものが無くなっていた。
続いて視線を下へ移す。
大きく膨らんだ胸のせいで足元が見え辛い。
いつの間にやら床に落ちた腰に巻いていたタオルを拾い上げ、途方に暮れる。
俺が長年見続けてきたもの喪失。それとは対象的に存在感を主張する大きく膨れた胸。
あまりに受け入れがたいことだが、俺は自分の体に何が起きたのかようやく理解できた。
「俺、女になったのか…!?」

「お客さん。今何が起こったか説明しようか?」
「えっ?」
湯船の方から急に俺に話しかける声が聞こえ、思わずビクッとしてしまう。
「…?」
「ほらほら、そんなところで突っ立てたら風邪ひいちゃうよ。こっちこっち」
中年男性は湯に浸かり、笑いながら俺に手招きしている。
いかにも怪しげだが、俺はその誘いに応じ湯船へと向かった。
この怪しげな中年男は、この温泉旅館の主人だった。
暇な時間を見計らって設備の点検も兼ねてこうして湯に浸かっているそうだ。
「あのっ、なんて言うか、何で俺の体はこんなになっちゃったんですか」
「ざっくり言っちゃうとね、お客さんがあの穴から女湯を覗いた罪の返し風で呪いが降り掛かった結果なんだ」
「えっ…」
「ははは。今更隠すことはないよ。お客さん以外にも居るんだよ。あの穴から女湯を覗いて女になっちゃった人」
「そ、そうなんですか」
「いるいる。女風呂を覗く男なんてごまんといるからねぇ。俺がここの主人になってから女になったのは、お客さんを入れて18人くらいかな」
確かに言われてみると、俺もすぐに気づくほどの穴が開いているのだ。俺以外に覗きを行った人間が居てもおかしくない。
そう思うことで俺は少しだけ落ち着きを取り戻した。
もちろん、呪いなんて非科学的な話を信じろと言われても無理があるだろう。
しかし、実際に俺が女になってしまった以上信じるしかない。
ただ、まだ納得できないことがある。
なぜ俺だけがこのような目に遭わなければならなかったのだろうか。
「そのですね、俺は元の男の姿に戻れるんですか。呪いで女になったってことは、まさか一生…」
「元に戻れるよ、と言うのが結論なんだけど、その辺のことを詳しく知ってもらうために少し昔話をしていいかな」
そこから、主人によるこの温泉にまつわる開湯伝説を語り出した。
時代は今から400年ほど昔。一人の高僧がこの温泉を発見したのが始まりだと言う。
仏教の世界において入浴は病と災禍を退け福をもたらす営みと位置づけられたいるらしく、この高僧はこの温泉が民草が楽しめるよう普請したそうだ。
結果、近隣の人間のみならず遠くからも足を運ぶ者が後を絶たない名湯が完成した。
「でも、そこで話は終わらなかったんだよね」
いつの間にやら、俺の肩を抱くように主人の腕が回っていた。
気味が悪かったが、俺の注意は主人の話へと注がれていく。
さて、名湯として名を馳せたこの温泉だが一つの問題が発生した。
高僧が名湯を作り上げた結果、多くの人が集まった。そして、人が集まる場所には古今東西トラブルの発生がつきものだ。
当時は、男湯と女湯という隔てはなく男女が同じ湯に入っていたわけだが客の中にならず者が目立ち始めたのだ。
何をしでかしたのかと言うと、女性客に下劣なちょっかいをかけて風紀を乱していたそうだ。いつの時代も悪評は好評より広まるのが早い。
悪質な客の出没するという噂は、すぐさま周囲に知れ渡ったそうだ。
そうした問題もあり、名湯から客足は遠のいてしまった。
「苦労して普請した温泉を荒らされて、その坊さんもお怒りだったんだろうな。即座に一計を案じたそうだ」
「それは、具体的にはどんな?」
「女人に迷惑をかける煩悩の塊に覿面の呪いがかかるようにしたのさ」
主人が語るには、まず温泉の湯口に呪符を貼った。
女人に対して粗相をしようとするような真似をした者は、呪いによって女性化してしまうようになった。
「こうして、女性客に粗野な男どもが迷惑をかけることは無くなったそうな。めでたしめでたし」
「いや、待ってくださいよ。元に戻る方法が出てきてないじゃないですか」
「慌てないで。この話には続きがあるんだよ」
月日は400年ほど経つ。
その名湯は何やかんやあって、高僧の子孫が経営する温泉宿に形を変えて存続していた。
そんな温泉宿に事件が起きた。
女湯の盗撮被害が発生し、その盗撮動画が海外のアダルトサイトに投稿された挙げ句、その件が新聞記事として取り上げられたのだ。
「幸い、報道の規模は大したことなくてね。記事そのものは地方紙の片隅に載っただけだったよ。でも、掲載翌日は電話がすごかったな」
主人がこの一件にムシャクシャして敷地の片隅にある倉庫でヤケ酒を飲んでいると、足を絡ませ転倒した。
その時の衝撃で落ちてきた文献。
そこには、かつて高僧が施した呪いの詳細が記されていた。そして呪いの解き方も。
「じゃあ、この温泉に呪いをかけたのは…」
「俺だよ。呪いを編み出した坊さんの子孫が俺なわけだからそっち系の素養があったのかな、やってみたら予想以上に簡単なもんだったよ」
「それで、その呪いの解き方は…」
「おっと、ごめんよ。お客さんも気になっている解呪法なんだけど、これが面白くってさ」
主人曰く、不届き者を懲らしめるために女体化する呪いを完成させた高僧はある解呪法を盛り込んでいたらしい。
「お客さんが今回しでかした一件に対する罰を呪いをかけた人物、つまり俺から直々に罰を受けて償うこと。それで元に戻れるよ」
「えっ?その、それってどういう…」
「要するに、ね。俺がお客さんが今回やらかした覗き行為に見合った罰を与え、お客さんがその罰を全うする。この温泉が罪を償ったと判断すれば男に戻れるってわけだ」
「あの、俺が受ける罰って具体的にはどういうものになるのかな?」
「その辺に関しては、これからもっと詳しく教えてあげるよ」
「ひゃわっ!?」
俺の肩を抱くように回されていた左腕が一気に下に移動して、俺の胸を鷲掴みにした。
「なっ、何をやってっ…くうっ!」
「いいから、いいから。おおっ、お客さんオッパイ大きいねー。」
得体の知れない感覚に身を捩らせて俺は主人の腕を振り払った。
「このっ、何してんだ!?」
「つれないなーお客さん。ちょっとしたスキンシップなのに」
「ふざけるな!」
乳房を掴まれたことで生まれて初めて体感した得体の知れない不快な感触に思わず身を強張らせていた。
思わず俺は、温泉から立ち上がり主人を睨みつけた。
「おおっ、いいもん見せてくれるね。サービス精神旺盛だ」
「何を言って、…あっ!」
言葉の意味が分からなかった俺だが、次の瞬間はっとした。
今の俺は、女の体で、しかも何も身につけていない裸体なのだ。
その状態で湯船から立ち上がることが何を意味しているか。気がついたときには手遅れだった。
主人の視線は既に俺の布一つ纏っていない肢体に絡みついていた。
まるで透明な舌に全身を舐られたような感覚は俺の人生24年で味わったことのない、言葉に言い表せないほどの気持ち悪さが背筋を駆け巡った。
「ひっ!」
俺は一目散に温泉の出入り口に向かった。
これ以上この場にいるのが耐えられなかった。
「お客さーん。いいんですかー、罰を受けなきゃ一生女のままだよ」
出入り口の扉に手をかけた俺の背中に主人の声が響く。
「そのままずっと男に戻れず終いで残りの人生を送るのがお望みなら止めはしないけどね」
俺の頭には色んな考えが駆け巡った。
女のままなら戸籍や仕事はどうなるんだろう。
医者にでも行けばなんとかなる可能性はあるだろうか?いや、もはや俺の身に起きた状況は非科学的すぎて望み薄だ。
仮にこのまま体が女のまま男に戻れなければ、俺の人生はどうなる?冷静に考えれば仕事は続けられないし、それどころか普通の生活だってこれまで通り送れるかも怪しい。
戸籍も24年間男として生きてきた俺が女になっても通用するのか分からない。
いや、そもそも他人にこの事態をなんて説明すればいいんだ。
旅行先の温泉で女湯を覗いたら呪いが降り掛かって女になったと真実を説明したところで取り合ってくれるとは思えない。
まずい。
考えれば考えるほど、俺にとって選択肢の余地が主人の言うことを聞く以外に無いことを思い知らされてしまう。
俺は観念して湯船へと戻った。
主人は俺の隣にずいと身を寄せ、なにやら勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言った。
「そう言えば、お客さんの名前は何だったっけ?
「…仲岡依月」
「ああ、そうそうそれ。そうだ、男に戻るまでの間はお客さんのこと“依月ちゃん”って呼んでいいかな?」
「好きにしてくれ…」
「じゃあ、改めましてよろしくね。依月ちゃん」
主人の手が湯船の中で人差し指を作り、俺の胸をつんつんと突いてくる。
俺はこの先一体どんな辱めを受けることになるのだろうと気が気でなかったが、とりあえず今は男の体に戻りたい一心で従うしかなかった。
「で、俺に何をさせるつもりなんだ?」
「まあまあ焦らないの。時間はたっぷりあるから」
「……」
「まずは、依月ちゃんの体がどのくらい女の子になってるのかを確かめさせてもらおっかなー」
主人の左腕が俺の肩に回されたと思うと、そのまま俺の左胸に手のひらが降りてくる。
そして、容赦なく俺の胸を揉みしだいてきた。
「ちょっ!おい!」
突然の出来事に俺は声を上げた。
「ふわぁっ!」
今まで感じたことのない刺激が全身を駆け巡り、思わず変な声が出てしまった。
「いやーこりゃまたご立派なものをお持ちで。手のひらに収まりきらないや。女になった男客は色々見てきたけど、その中でも間違いなく依月ちゃんのは一番の大きさだね」
「な、何を言ってるんだ」
「おっと。こっち側をお留守にしてるのは申し訳なかったね」
その瞬間、湯船から何かが浮上して俺の左胸の乳首に擦り付いてきた。
その正体が、主人の右手の人差し指であることに築いたのは乳首をスリスリと刺激する感覚が届いてからだった。
「くうっ、何を…。ひっ!?」
困惑する俺にお構いなしに、主人は右手で俺の右乳首を摘むように弄ってくる。
くすぐったいような快感のようなよくわからない感覚が襲ってきて、俺の体は無意識のうちにびくんと跳ね上がった。
「ひうっ……んあっ、やめろぉ」
「ほほう。依月ちゃんはこっち側の方が敏感みたいだねぇ。いい反応だよ。やっぱり女体化の影響なのかな。それとも依月ちゃんが元々こういう素質を持っていたのかな」
「そんなわけないだろっ……」
主人の言葉を否定するものの、俺の口から漏れ出す吐息は熱を帯びていた。
「でもさっきより顔つきが変わったよ? もしかして気持ち良くなってきちゃったのかな?」
「そ、それは……」
否定できない自分がいた。
確かに主人に触られる度に、自分の中の知らない感情が湧いてきているような気がした。
(どうして俺はこんなにドキドキしているんだよ)
「ふぅっ、ああんっ……」
俺の口から出た甘い喘ぎに、俺は自分でも驚いた。
まるで媚薬を飲まされたかのように体が火照って仕方がない。
主人の手の動きは男の俺も呆れるほど器用で巧妙だった。
女性の胸を余程いじりなれていなければ出来ないであろう熟練の動きが生み出す甘い刺激に俺の脳髄には痺れような感覚が走る。
俺は恥ずかしくなり顔を逸らす。
すると、主人はニヤリとした表情で俺の顔を見つめてくる。
主人は俺の反応を楽しむようにして、さらに胸への愛撫を続けていく。その手は止まることなく、両方の乳房を同時に刺激を与え続ける。
左胸は荒々しく力任せに握力を加えられ痛みすら感じる。
対象的に右胸は固くなった乳首のみを赤ん坊の頬にでも触るかの如き優しいタッチで擦るように刺激してくる。
そして、俺が体を捩らせるたびに、湯に浸かっている大きな乳房によって波打ち水面が揺れ動く。
その光景を見て、俺は改めて今の自分は女なんだと自覚させられるのであった。
「はぁっ、んっ、ああぁ…」
俺の意思とは関係なく、口から漏れ出る艶かしい声に羞恥心を感じながらも、主人にされるがままになっている。
「うんうん。依月ちゃんの感じてる姿はとても可愛いね」
俺はもう抵抗する気力がなくなっていた。
むしろこの快楽に身を委ねたいと思っている自分さえいる。
だが、ここで流されてしまってはダメだと頭の中で警報が鳴り響く。
俺は必死で理性を保とうとする。
気がつけば俺の目は涙で潤み、呼吸が荒くなり体を小刻みに震わせていた。
「ふうっ、ああ、だめぇ、そこはぁ」
「どうだい依月ちゃん。女として味わう初めての快感は?」
「く、狂ってしまう。俺の体、おかしくなっちゃう」
「いいじゃないか。素直に気持ちよくなれば。こんな経験、絶対に他じゃ味わえないよ」
主人の右手は俺の右乳首を摘んでは離してを繰り返している。左手は俺の左乳首を執拗に責め立て続けている。
両手の動きに合わせて、俺の体はビクビクと痙攣する。
さらに熱を帯びていく主人の愛撫の前に俺は為す術がなかった。
徹底的に未知の快楽を与えられ続け、ようやく開放された時には糸の切れた人形のようにぐったりとしていた。
力なくへたりこんでいる俺に対して主人は耳元で囁く。
「今日の罰はこれでおしまい。お疲れ様。次の罰も楽しみにしててね」
そう言って、主人は風呂場から去っていった。
残された俺は、しばらくの間、何も考えられずボーッとしていた。
やがて、俺は我に帰る。
慌てて立ち上がろうとするものの体にうまく力が入らない。
それでもどうにか立ち上がり、ふらつく足取りで脱衣所に向かった。
俺は部屋に戻ると、すぐに畳の上に敷いてあった布団に倒れ込んだ。枕を抱きかかえながら、先ほどの出来事を思い返す。
今まで生きてきた中で、一番と言ってもいいくらいの衝撃的な出来事だ。
まさか、あんなことになるなんて。
俺は自分の胸に手を当てる。そこには、自己主張の激しい確かな2つの膨らみがあった。
逆に股間には、24年間慣れ親しんでいたモノは消えてなくなっていた。
俺は今女になっているんだという実感が沸々と湧いてくる。仰向けになり天井を見上げる。先程の出来事はとても現実のものとは思えなかった。
俺の目の前には、さっきまで見ていた光景が広がっていた。
あの時、俺は女になった主人に散々弄ばれていた。
(認めたくないけど、あれは夢じゃないんだな…)
女湯を覗き、呪いを受け女になった挙げ句、乳房を徹底的に愛撫された。その時の感覚が脳裏に蘇ってきた。
思い出しただけで顔から火が出そうになる。
同時に、女として感じてしまったことも思い返される。男だった時の自分が知っている性知識とはかけ離れた世界だ。
俺は一体これからどんな目に遭うのか不安になる一方、期待している自分もいた。
大きな胸にくびれたウエストと肉付きの良いヒップ。そして、長い脚。
俺の体は、どこをとって見ても女性として完璧なプロポーションをしている。
その事実を再認識すると、俺の鼓動は徐々に高まっていった。
24年間生きてきた男としての自意識を捨て去ったわけでもない。しかし、男の体を無くした喪失よりも女の体を得た充実の方が大きいことに気付いた。
何より、女になる前に感じていた退屈はどこかえ消え去っていた。
ひとまずは、この体で色々と活動してみたい。
内から湧き出る好奇心に従い、俺はタンクトップとショートパンツという出で立ちで部屋の外に出ることにした。
部屋を出発して、まず最初に廊下ですれ違ったのは若い女性の2人組だ。
片方は黒髪ショートの引っ込み思案そうな女性、もう片方はウェーブのかかった長髪が特徴的な明るそうな雰囲気の女性だった。
2人共見覚えがある。
俺が風呂で裸を覗いたあの女性客だ。
俺とすれ違う瞬間、長髪の方の女性は俺に視線を走らせた。
その目はまるで、プロ野球のスカウトが高校球児を見るような値踏みの眼差しを向けていたのを俺は見逃さなかった。
少し距離がついたところで、2人のひそひそ話が聞こえてきた。
「さっきの人スタイル凄かったね、ひょっとしてモデルとか?」
「背も高いし、羨ましいな…」
「それにしても、あれ大胆すぎない?私、自分の部屋でもあの格好はしないよ」
「う、うん。確かにね。その、言いにくいけど、あの人ブラジャーもつけてないみたいだし」
「まさか、ノーブラ!?信じられない、あんな大きなおっぱいなのに。ちょっと触ってみたいなぁ……ねぇ、どう思う?」
「さ、流石にそれはダメだよ!!」
「分かってる、冗談だってば」
俺は遠ざかっていく2人に背中を向けたまま、その場に立ち尽くした。
女が知り合いでもない通りすがっただけの同性をそこまで目ざとくチェックしているとは思わなかった。
そのことに思い至った瞬間、俺は急に恥ずかしくなった。
まさか、女になった途端、下着をつけていないというだけで女から注目されるとは思ってもなかったからだ。
とりあえず、このままここにいるわけにもいかないので、俺はその場を離れることにした。
しばらく歩くと、今度は中年の男が1人で前から歩いてきた。
温泉宿の客と思わしきその中年男性は、俺の姿を前方に認めると先程の若い女性とは性質の違う視線を向けてきた。
その目が物語っているのはただ一つ。俺に対する性的な興味だ。
顔、胸、腰、脚をいやらしくなぞる視線は遠慮というものを一切感じさせない雄の欲望そのものだった。
舐め回すような視線に耐えながらすれ違うと、俺の尻を見て舌なめずりをしていたことに気付いた時は、思わずゾッとした。
(こいつ……俺のことを狙っているのか?)
俺の脳裏には、主人に散々弄ばれた時の記憶が蘇っていた。男の体では感じることのなかった不気味な感覚。
そして、快感を覚えてしまった自分への嫌悪感。
そういった負の感情を強引に振りほどくように、俺はその場をそそくさと後にした。
ロビーに到着して自販機で買ったビールを口へ運ぶ。冷たい液体が喉を通る度に心地よい刺激を感じた。
こうして、ひと息つくことで冷静になれた気がする。しかし、女としての生活に慣れるまでは時間がかかりそうだ。
それにしてもだ、女であれ男であれ俺に向けて好奇の目を向けてくる。
正直に言うと、それが自分の中で快感に変わっていることを感じていた。
まるで、自分がこの世の中心になったような達成感と優越感すら芽生えていた。俺が今感じているこの気持ちは、きっと男だった時には絶対に味わえなかったものだろう。
そんなことを考えていると、突然、背後から声をかけられた。
「おっ、依月ちゃん。何してるの?」
振り返ると、ロビーに設置してある受付カウンターの奥から温泉宿の主人が温泉で見せた粘着質な笑みを浮かべ手招きしていた。
俺の中に芽生えた度し難い感情、それを満たすためには事情を知る主人と協力関係を結ぶのが一番手っ取り早いのではないか。
この状況は渡りに船と言えるのかも知れない。俺は内心そう考えつつ、主人の元へ向かった。
俺の胸中には、身震いするような恐怖と黒い好奇心が同時に渦巻いていた。
温泉宿の主人の後についていくと、そこは主人専用の休憩室だった。
部屋の8畳の和室で程よく片付いて過ごしやすそうな雰囲気だった。
気になるものと言えば大きめの洋服ダンスが備え付けられていることくらいだ。
小さなちゃぶ台の上には日本酒の瓶が無造作に置いてあった。おそらく、主人はここで晩酌をしていたに違いない。
部屋に通されると、俺は勧められるままに座布団の上に正座をした。主人も対面の座椅子に腰掛ける。
「今日は仕事も片付いたんで一人で飲んでたんだけど、つまんなくてね」
「はあ……」
俺にはその一言で主人が言わんとしていることが何なのか概ね理解できた。
要するに、晩酌に俺も付き合えということだろう。
勿論、一緒に酒を飲むだけで終わるとは到底思えない。先程の温泉での態度から鑑みるにこの男は相当な女好きだ。
ある程度は覚悟せねばならないなと思いつつも、俺はとりあえず相槌を打っておく。
「それでさぁ、君みたいな可愛い子が来てくれたら嬉しいなーって思ってたところなんだよね?」
「あの……俺、男なんですけど」
俺は苦笑いしながら言った。
「数時間前までは、ね。それにさ、依月ちゃんとこうした形で知り合えたのも何かの縁だし腰を据えてお話してみたかったんだ」
「ははは……。まあ、そういう事ならいいですよ」
俺は主人のペースに乗せられないように注意しつつ、なるべく愛想良く返事をする。
きっぱりと断ろうとも思ったが、そんなことをすればそれを口実に何をされるのか分かったものではない。
何より、俺自身もこの主人に話したいこともあったので少しだけ酒に付き合うことにした。
「へぇ、依月ちゃんは営業マンなんだ。知り合いにそういうお仕事の人っていないから分からないけど、大変そうだね」
「そうなんですよ。毎日残業ばっかりでも給料は上がらないし、数字を上げないと即呼び出しを食らうし」
話の流れで、簡単な自己紹介をした。
俺の職業や仕事、なぜ温泉旅行に来たのかなどをざっくりと話した。
「ストレスの解消のための旅行がとんでもないことになっちゃったね」
「全くです。旅行先で女になるなんて、もう最悪」
俺は溜息をつきつつも、主人のことをそっと横目で見た。
仕事柄、とりとめのない会話の中で相手を観察する技術には少し自信があった。
この主人、少なくとも表面上は穏やかで人当たりが良さそうな温和な中年といった印象だ。
しかし、時折見せる粘着質な視線がどうしても気になって仕方がない。
そして、その視線が向かう先は俺のタンクトップから覗く胸であり、張りのある白い太ももであり、顔なのだ。
温泉であれだけ俺の乳房を弄んでおいて、まだこの男は満足していない様子だ。
いや、ひょっとしたら今の俺の格好を見て新たに欲望が生まれたのかもしれない。
俺はふと、今の自分の出で立ちを自らが男ならどう感じるか俯瞰した視点で考えることにした。
控えめに言ってスタイル抜群の若い女がブラもつけず、タンクトップとショートパンツで目の前にいる。
なるほど、確かにこれは全裸とはまた違った女性の肢体の魅力を引き出す格好と言えるだろう。俺が男だったら間違いなく欲望を掻き立てられるに違いない。
不思議なもので、主人が俺に向けるおぞましい欲望に満ちた視線も理解可能なものとして冷静に己の中で処理することが出来た。
やがて時間が経つに従って酒も進んだ。
俺は主人から勧められるままに杯を重ねていた。
最初はビールから始まり、今は日本酒をちびちび舐めるように飲んでいる。
一方の主人は完全に出来上がっているようで、顔を赤くしてガラスのコップに入った日本酒を勢いよく煽っている。
「あぁー、美味しいねぇ。やっぱり依月ちゃんみたいな美人と一緒に飲む酒は最高だよ」
「…それはどーも」
俺は適当に相槌を打ちつつ、再びグラスを傾けた。
「そう言えば、依月ちゃんに見て欲しい物があるんだ。ちょっと待っててよ」
そう言って主人は3分ほど席を外したかと思うと、大きく硬そうな素材を表紙に使っているのが特徴の本を持ってきた。
それがアルバムであることは近くで見せてもらってようやく気がついた。
主人に促されるままにぱらぱらとページをめくると、そこに綴じられていた写真に思わずぎょっとした。
写真に写っていたのは一様に女性ばかりだ。
しかも、俺個人の感想としては皆器量が良い。
そんな女性たちが水着やセーラー服やナース服、バニースーツ、果ては際どいランジェリーを身に纏い引きつった表情でカメラに向かってポーズをしている。
「な、なんですかこれ?」
「見ての通り、写真集さ。僕のコレクションなんだ」
「……え? じゃあ、この人たちは……」
「もちろんみんな依月ちゃんと同じ事情のお客さんたちだよ」
「…………」
俺は絶句した。こんなことがあっていいのだろうか。
そう言えば、温泉での主人の口ぶりから女湯を覗いて女になった客が過去に何人か居たよな口ぶりだったがこの写真の女性たちがそうなのか。
まさか温泉宿に来て、女体化した男たちの写真集を見させられる羽目になるとは夢にも思わなかった。
「みんな可愛くて綺麗な子ばかりでしょう?俺が撮ったんだけどね。でもほら、女体化するとみんな可愛いし美しいじゃない。だからつい記録に残しちゃうんだよ」
「えぇ……まぁ」
あまりに悪趣味な所業に俺は言葉を濁すしかなかったが、その一方で少しだけ納得していた。
確かに主人が言う通りどの女体化した元男性たちも美しく、魅力的な容姿をしている。
世の男たちから見たらさぞ興味をそそられることだろう。
「さて、じゃあ依月ちゃんの写真も撮らせてもらおうか」
突然の提案に思考は完全に停止したが、俺に拒否権が無いということだけは理解できた。
善は急げ、と言わんばかりに主人は立ち上がり洋服ダンスへと近付いた。
そして中を開けると、そこに吊るされていた衣服に思わずぎょっとした。
セーラー服にバニースーツ、まるでピンクコンパニオンのコスプレ衣装のような顔ぶれではないか。
なるほど、今まで女体化した他の客もこれを着せられて撮影されていたのか。
「どれがいいかな~」
主人はハンガーを手に取りながら、うきうきとした様子で呟いた。その目は欲情の色に染まっており、これから行われるであろう行為に俺は背筋に寒気が走るのを感じた。
ふと、その手がピタリと止まり俺の方へ振り返った。
「そう言えば、まだサイズを測ってなかったな」
主人はメジャーを片手に、下卑た笑みが浮かべてこちらへ近付いてきた。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!」
俺は主人を静止しようと慌てて立ち上がったが、時既に遅しだったようだ。
主人は俺を逃さないよう肩に手を回し優しく耳元で呟いた。
「大丈夫、依月ちゃんならきっと似合うから恥ずかしがることは無い。それにさ、お風呂で裸見たときから気になってたんだよね、依月ちゃんって何カップあるのか」
主人はそう言いつつ、俺の背後に回り込んだ。
「ふあっ!?」
主人は俺のタンクトップの裾に手をかけ、そのまま強引にめくり上げた。俺は抵抗しようとしたが、主人の力が強く振り払うことができなかった。
主人は手慣れているようで、するすると素早く捲り上げていく。
やがて、ぷるりと大きな胸が姿を現してしまった。
咄嵯に両手で隠そうとしたが、それよりも早く主人の手が伸び恐るべき手際の良さでメジャーを俺の胸に巻きつけてきた。
「ふむふむ、トップは94センチか…。大きいね、グラドル顔負けだ。アンダーバストが68、と。凄いよ依月ちゃん、Gカップだ」
「や、止めろっ!!」
「はいはーい、動かないでね。それにこれも、依月ちゃんが元に戻るための罰の一貫だってこと忘れないでね」
「くぅっ……」
俺は悔しさに歯噛みした。
「ウエストが58センチか、見事にくびれてるね。さて、最後に…」
主人はしゃがみ込み、俺のショートパンツに手をかけ下着ごと容赦なくずり下ろした。
露わになった下半身を手で隠したかったが、両腕を掴まれ身動きが取れなくなってしまった。
俺は羞恥心で顔を真っ赤にして俯いていたのだが、そんなことはおかまいなしに主人は俺の尻の採寸を始めた。
「依月ちゃんの巨乳ばっかりに気を取られてたけど、お尻も見事だね。大きくて張りがあって、こういうのを安産型って言うんだろうな」
「ううっ……頼むからもう勘弁してくれぇっ…」
「依月ちゃんのスリーサイズは上から94-58-92でブラのサイズはGカップ……。これでよし、と」
主人は満足げな表情を浮かべると、ようやく俺を解放してくれた。
「いやー、よく似合うね。見込んだ通り素晴らしい着こなしぶりだ」
「……この変態」
「ふふ、女湯覗いた君にそれを言う資格はあるのかな。さて、それじゃお酌でもしてもらおっかなー」
俺が主人に着せられたのは黒を基調としたランジェリーだった。
俺の大きな胸をしっかりと包み込む体積の大きなカップを備えたセクシーなブラ。面積の少ないTバックのショーツ。
どれも露出度が高く、女体化した俺の肢体をこれでもかというくらい強調していた。俺は渋々といった様子で立ち上がり、主人のお猪口に酒を注ぐべく近づいた。
だがその瞬間、突然視界がぐらついたかと思うと俺は主人の方へと強い力で引き寄せられ密着状態になった。
その力の正体がいつの間にやら俺の腰に回された主人の腕によるものだと気付いたのは、主人の手が俺の尻を撫で回し始めたときだった。
「ひゃうん!?ちょっ!?何してんだよっ!」
「まあまあ、いいじゃないか。それよりほら、早くお酌してよ」
「んなっ……このエロオヤジっ…」
俺は怒りを覚えつつも主人に言われた通りに酒瓶を手に取り、主人の持つ杯へ注いだ。
酒を注ぎ、それを飲んでいる間も主人の手は俺の臀部を容赦なくまさぐり続けた。
「うーん、やっぱり大きさも相まってさわり心地最高の良い尻だ。依月ちゃんのお尻を肴に飲む酒は実に美味しいよ」
「ううっ、もう、やめっ…」
「豊満な胸、大きくて肉付きのいい見事な安産型。依月ちゃんの体には女の魅力が見事に満載だね」
そしてそのまま揉みしだき始めたのだ。尻を触られる恥ずかしさと気持ち悪さに、思わず鳥肌が立った。
しかしそれでも抵抗することができず、ただひたすら耐えるしかなかった。
やがて主人は俺から手を離すと、今度は俺の胸に手を伸ばしてきた。
結局そのまま、胸まで揉まれてしまった。俺が開放されたのは胸と尻を徹底的に触り尽くされた後だった。

「さて、じゃあ今日はこれくらいでお開きにしようか」
その言葉に反応して、俺はぐったりとした体を無理矢理起こした。
「ああ、そのブラとショーツは依月ちゃんにプレゼントするよ。それを着こなせそうなのはサイズ的に依月ちゃんくらいだし、そんな巨乳を何の保護も無しにするのは他のお客さんの目の毒になるしね」
俺は黙ってタンクトップとショートパンツを着て部屋から出ようとした。
「ああ、そうだ。罰を受ける以外の時間は依月ちゃんの自由に行動してもいいから。観光するなり、女湯に入るなり好きに振る舞っていいよ」
まるで俺の心の中にある欲望を見抜き後押しするような言葉を俺の背中に主人はぶつけた。
俺は振り返らず無言のままその場を去った。
部屋に戻るまでの廊下を歩いている時も、主人の言葉は俺の頭に響き続けた。
そうだ、どうせなら男に戻るまでの間はこの体を使って楽しんでみようか。
俺の中にある小さな黒い願望が小さく胎動するのを感じた。
後編はこちら
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