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【投稿小説】とある温泉宿で起きたこと 前編 

作 ととやす
挿絵 海渡ひょう  https://skima.jp/profile?id=92480

1
「ふぅ〜やっと着いたな正樹!」
「いや・・・覚悟はしてたが遠すぎるだろ・・・」
呑気に笑う海斗に愚痴をこぼしながら、俺はここまで二人を運んでくれたオンボロの中古車から身を下ろす。貧乏学生の俺たちにとってはエンジンがなかなかかからないこんな車だって大切な相棒だ。
「ここまで俺たちを連れてきてくれてありがとう〜愛しのベーたん号よ〜」
「こないだまでべーくん号じゃなかったか?」
「そだっけ? 正樹が言うなら・・・そうなのかも?」
バイト代を貯め込んで買ったはずの自分の愛車のニックネームすら満足に覚えてない・・・いつも通りの海斗の雑さに思わず吹き出してしまう。
「しかし本当に遠かった・・・まさかお前の家から半日かかるとは・・・尻と腰が・・・」
「正樹は乗ってるだけだったじゃねぇかよ〜」
「はぁ!? 道順とかガソスタの位置とか、ちゃんとナビゲートしてやっただろうが!?」
何時間も車に乗っていたとは思えない程に騒々しく喋りながら、俺たちは後部座席に投げ込んであったカバンを取り出して旅館へと歩き出した。そこまできて、ふと俺は今日何のためにここまで来ることになったのかを思い返していた。友人になってからこっち、きっかけはいつもそう。海斗の急な思いつきだったのだ。

2
海斗>明日暇か?

海斗からメッセージが届いたのは昨夜のことだった。その時の俺はバイト明けで疲れ切った身体をなんとかやりくりしながら下宿までの帰路に着こうとしていたところ。ぶっちゃけ面倒で一瞬の逡巡があったことはこの際否定すまい。だが、こいつが急に思いついてメッセージを送ってくるということは・・・

正樹>行ける

直ぐに既読が付き、返事がやって来る。

海斗>やったぜ!まぁ無理って言っても勝手に車で乗り付けるつもりだったけどなw

やっぱりかよ。大学の入学式で知り合ってから早二年。こいつは一度やると決めたらテコでも変えない。海斗の中で「明日俺と何かする」ということは、思いついた時点で既に実行が確定事項なのだ。これで断ったりすると面倒なことになるから、俺もある時を境にこいつの言い出すことには敢えて流されるようにしている。ガキっぽいなとも思うけど、何かと出不精で篭りがちな俺を無理矢理引っ張り出してくれるという点で感謝する部分もある、というのが正直なところ。・・・無論面と向かって伝えたことなんてないが。

正樹>何するんだ?
海斗>車買ったからドライブの練習付き合って!!!
正樹>いいけど、目的地どうする?

既読は付けど、返事は来ない。海斗のやつ、何も考えてなかったな。顔も体格も良いくせに、こういう大雑把で能天気なところがあいつのモテない理由なんだろうな。

正樹>例えばだが温泉でも行くか?

深い理由なんてなかった。ただなんとなし、男同士ゆっくりと湯に浸かって語らうのも一興かと思った。ただそれだけだった。が、それは想定以上に海斗の琴線に触れたようで。

海斗>めっちゃいい!!!名案すぎ!!!

派手なスタンプとともに返事がやってくる。続けて地図アプリの位置情報が。

海斗>ここ行こ!

リンクを開いてびっくり。どう軽く見積もっても日帰りなんて無理な距離。都市部からも離れていて、まさに秘湯といった面持ちだ。こんなところ、いきなり初心者ドライバーで行けるものか?
そう懸念を呈したものの、やはり海斗はここにすると決めてしまったらしい。あらゆる角度から説得を試みたが、
「二人とも講義のない金曜に出発して一泊して帰ればいい」
「日曜日に休めばいけるいける!」
「運転は気合いで何とかする!」
「レビューとか少ない秘湯の方が面白そうじゃん!」
などと言って聞く耳を持たない。今回も海斗とのやり取りのいつものパターンに入ってしまったようだった。結局俺が折れて

正樹>分かった。行くよ、行けばいいんだろ!
海斗>楽しみ〜

「あのバカめ・・・」
なんて呟きながらも、未知の秘湯に海斗と乗り込んでいく高揚感があった。明日は朝イチで出発だから、と頭の中で準備すべきことを整理しながら、俺は下宿までの帰路を急いだのだった。

3
こうしてたどり着いた(ここに至るまでの道のりにも相当な数のトラブルや事件に巻き込まれたのだが、それは割愛する)温泉宿『ていえ荘』は、まさに秘湯と呼ぶに相応しい佇まいだった。山に囲まれた人里離れたロケーションに、歴史を感じさせる木造りの建物。聞こえてくるのは鳥に風、虫や水の音だけだった。
「おい、これは・・・」
「あぁ、当たりだな」
旅の疲れも吹き飛ぶ素晴らしい雰囲気だった!
「いらっしゃいませ・・・遠いところをわざわざ起こしいただきまして・・・どうぞこちらに・・・」
俺たちを出迎えてくれたのは、和服姿の女性。まだ30歳前後だろうか。田舎の温泉宿には似つかわしくないと言っては失礼かもしれないが、およそこの辺りの人とも思えないほどの美女だった。
「こちらの部屋でございます・・・」
「「・・・」」
ともに彼女いない歴=年齢な俺たち(二人とも男子校出身だからしょうがない!)は、ドギマギしながら女性に案内された部屋に通された。そこは年代を感じさせる落ち着いた雰囲気の和室だった。
「いい部屋ですね・・・」
俺は窓の向こうに映る美しい山々の姿に思わず声を漏らしていた。
「今日は、お客様以外いらっしゃりませんので・・・このお部屋は、当館では一番景色の良い部屋でございます・・・また、部屋付きの露天風呂も備えておりますので、よろしければ・・・」
恭しい仕草で指差した先を見やれば、部屋の隅に小さな扉が。曰く、その先に小さな脱衣スペースがあり、さらにその奥に大人二人程度が入れる露天風呂があるとのことだった。
「共用の大浴場も露天のお風呂です。お湯の質がそれぞれ違いますので、お気分に合わせてお試しください・・・」
そう言うと、その女性は部屋の入り口できちんと姿勢を正して座りなおすと、
「申し遅れました・・・私、本日お客様のお世話をさせていただく、当館の若女将でございます」
そう言って彼女は俺たちに深々と頭を下げた。
「こちらこそ、お世話になります」
「お、お世話になります! マジかよ・・・若女将・・・アテッ!」
余計なことを口走りそうな海斗に一発食らわせてやりながら、俺も正座して頭を下ろす。
彼女はそんな俺たちを見てニコリと微笑み、静かにふすまを閉めて部屋を後にした。
「正樹〜やってくれたなテメェ〜」
「お前なぁ・・・若女将に色目なんて使ってみろ、ややこしくなっちまうじゃねぇかよ」
「別にそんなつもりじゃねーし! ったくよぉ・・・さてと、食事前にさっそく温泉に入ろうぜ!」
俺たちは浴衣と着替えを持って大浴場に向かったのだった。
4
「はあ~~~・・・気持ちいいよなぁ! 正樹!!」
俺は、露天風呂でまわりの景色を見ながら湯船に浸かっていた。ふと、海斗に視線を移すと・・・彼は、何やら神妙な顔で俺を見つめていた。
「ありがとよ、ここまで付き合ってくれて・・・」
「何だよ急に」
「俺の思いつきにぶー垂れながらも何だかんだで乗っかって来てくれるのは正樹くらいだ。これでも、一応感謝してんだぜ?」
「・・・明日は槍でも降ってくるのか?」
「あ〜!!せっかくマジメに話してるのにバカにしやがって!テメェ〜!」
お湯を顔にかけてくる海斗はいつも通りの馬鹿面だ。だけど、さっきの表情は・・・。
(まだまだ俺もこいつのこと全部知ってるって訳じゃないんだな。当たり前だけど)

「うわはははは!!すげぇ料理!!」
部屋に戻ると、俺たちの部屋には夕食の準備がされていた。
「当館の料理長が腕によりをかけておりますから・・・きっとお気に召して頂けるかと」
「やべ〜早くいただこうぜ、正樹!」
「がっつくなよ、みっともない・・・なんかすみません」
「うふふ、さあ、召し上がってください・・・」
彼女は慣れた手つきでビール瓶の栓を抜くと、手を添えて持ち上げる。
「さぁ、どうぞ・・・」
「あっ、ありがとうございます!」
若女将は俺たちのグラスにビールを並々と注いでいく。俺も海斗もドキドキしながら乾杯し、その中身をグッと一息に飲み干す。
「まぁ!」
気品ある仕草で口を抑えた若女将。すぐに二杯目を注いでくる。それを即座に空にする海斗。
「お、おい海斗・・・」
「なんだぁ〜正樹?」
はぁ。溜息をついて俺も勢いをつけグラスを空ける。このペースだと、早々に二人とも潰れるのは確定だな。疲れも溜まっているし、明日の出発は予定より遅くなるかも。
なんてことを考えつつ、次々と運ばれてくる美味珍味に舌鼓を打ち、俺も海斗もバクバクとよく食べ、よく飲んだ。
・・・思えば、俺も海斗も旅の雰囲気に当てられておかしくなっていたのかもしれない。間をおかずにビールから日本酒、焼酎へ移行して酒を飲み続ける。普段よく行く学生向けの居酒屋とは比べ物にならない旨い酒に呑まれ、俺たちはあっという間に酔っていったのだ。

5
「フ~ッ・・・美味しかったなあ海斗?」
俺は、ほろ酔い気分で海斗に声をかけた。海斗は横でグーグーといびきを立てて寝入っている。しばらくは起きないだろう。俺はクラクラとした頭を抑えながら、後片付けをしていた若女将に
「本当に美味しかったです・・・ごちそうさま!」
酒のせいもあっていつもより高めのテンションで言った。
「そうですか・・・それは良かったです・・・」
彼女は食器を片付けながらそんな俺に微笑んだ。俺は酔覚ましに窓を開け、すっかり暗くなった窓の外の景色を眺めていた。夜風に当たっていると多少頭の揺れもマシになってきた気もする。そんな時、ふと先ほどの若女将の言葉がよぎった。
「ところでさっき、共同の露天とこの部屋のお湯は性質が違うっておっしゃられてましたけど、どう違うんですか?」
と尋ねてみた。本当に単なる好奇心だった。
「そうですねえ・・・」
彼女は小首をかしげると、
「このお部屋の温泉は、『願掛けの湯』と言われているんですよ」
そうクスクスと笑いながら言った。
「願掛けの湯?」
「ええ・・・この温泉のお湯に浸かりながら願ったことは叶うと、この辺りでは言い伝えられていますね」
「へえ~・・・」
想像よりも胡散臭い・・・もとい、科学的根拠に乏しい話だ。もっと足腰とか、そういうのかと。
「入られるなら、落ち着いてからにされた方がいいかと思いますよ・・・随分と嗜まれておりましたし・・・私が飲ませ過ぎてしまいましたかね?」
「いえいえ、そのような!俺も海斗も、楽しい時間でした!」
「うふふ、仲がよろしいんですね?」
「そう、ですかね・・・?」
言葉を返しながらも、俺はさっきの風呂での海斗の表情を思い返していた。俺の知る海斗は、バカで鈍感で能天気で・・・底抜けに明るくて。だから、あんなことを言って、あんな表情をするなんて、知らなかった。そりぁ、あいつだって人間だ。落ち込んだり、考え込むこともあるのは分かってるんだけど・・・知っているつもりの友人の、知らない表情を見ただけで俺はどうしてこうも心乱される? なんて、酔っ払いすぎか?
「・・・俺はあいつのこと、知ってるつもりになってるだけだったのかもしれません」
答えはなかった。面を上げると、俺がずっと黙っていたからか、眠ったと思ったのだろう、既に若女将は部屋を後にしていた。相変わらず横では海斗が寝息を荒くしている。時計を見ると、結構な時間が経っていたらしい。
「人の気も知らないで、呑気しやがって」
そう独りごち、立ち上がる。時間のおかげか、酒はかなり抜けたようだった。
「気分転換に一風呂浴びるか」
なんとなしにモヤッとしていた俺はそのまま部屋の隅にある小さな戸の前まで歩き、その中へと入っていった。

6
脱衣スペースで服を脱ぐ。といっても、先程共用の温泉に入るのに浴衣へ着替えていたので脱ぐのは一瞬だった。あっという間に俺は生まれたままの姿になって露天風呂への扉を開く。
開けるとひんやりとした空気が肌に触れていく。そこには本当に小さな・・・二人分の大きさと言っていたが男二人ではとても無理だろう。ささやかな木造の湯船に湯気立った温水が満たされている。足を上げて身を浸すと、ジャァァという豪快な音とともに湯が流れていく。仄かに香る木の匂いと温泉の香りが混ざり合い、なんとも言えない深い奥行きを作り出す。時折山間の方から吹き下りる風がひんやりと心地良い。
「あぁ〜〜・・・」
俺はおっさんそのものの声を出していた。いい湯は心と身体に染み渡るな。
「願掛け、ねぇ・・・」
人心地着き、ポツリと言葉が溢れる。何となく湯船に顔をつけてお湯の中で呟いてみる。
(あいつのこと・・・海斗のこと、知ってるつもりで知らないことがいっぱいあった・・・だから、もっと知りたい、色んな面・・・って!)
慌てて水面から顔を出す。
「何言ってんだ俺・・・重っ!キモい・・・よな・・・たかが二年前に知り合った大学の友達のこと、こんな・・・」
無茶をして酔いがまた回って来たのか、全身が湯船の湯を吸ってしまったように重くなってきた。まぶたがゆっくりと閉じていき、頭がかっくんと横に倒れる。
「それ、より、早くあいつ起こし・・・て・・・」
湯船から上がろうとするも、既に俺の身体は言うことを聞いてくれなくなっていた。
俺の意識は、沈んでゆく。
深く、深く・・・どこまでも、どこまでも。
だから、
「よかろう、その願い承った」
そんな声が聞こえていたのに、随分と先になるまで思い出すことなんてなかったのだ。

7
「・・・っ!」
目が覚めた。 同時に慌てて立ち上がった。お湯が全身を伝って滴り落ちていく。
あたしは激しく上下する胸をそっと抑える。思春期を迎えた頃から膨らみ始め、今や世間的には巨乳とまで言われる水準まで大きくなった脂肪の塊の下で、バクバクと心臓が波打っている。
「うわー、なんか夢見たなぁ」
完全に寝落ちしてしまっていた。このまま気づかずに眠りこけていたら、湯冷めして風邪を引いちゃったり、最悪の場合は・・・。
ふるふる!
うーん、縁起でもない!頭を振ると、数年がかりで伸ばした黒髪が顔や肩にへばり付く。
「あれ、あたし・・・髪まとめるのも忘れてたの!?」
右手に付けたヘアゴムを外し、サッと髪をまとめる。うーん、いくら何でもうっかりしすぎかも。足を上げて湯船から出る。夜風が火照った身体を冷やし、何とも心地良い。
「あ〜しまった、油断したなぁ」
ふと目線を下にやったところ視界に入る黒い茂み。最近はバイトなんかで色々バタついてて、Vラインのお手入れがちょっとご無沙汰になっていた。・・・今のうちにやっておこうかな。
部屋に置いてあるポーチに入れてあるはずだから、そう思って扉へ歩くと、ぶるんぶるんと胸が揺れる。
「・・・?」
そっとおっぱいを下から持ち上げ、手をどける。重量感ある乳が何度か揺れて元の位置に戻る。いつも通りの当たり前のことのはずなのに、何故だか妙に気恥ずかしい。おかしいなぁ。また大きくなった? んー、でもブラのサイズはここ最近変わってないはずなのに・・・。そんな風に考えながら、扉に備えられた窓に反射する自分の姿を眺める。

ぱりん・・・!

あたしの頭の中で、何かが砕けた。 違う。いや、そうだ。 あたしはあたしなんかじゃなくって・・・そう、『俺』だ。 俺だったはずだ。
「・・・え?」
俺って? あたしは『真咲』で・・・いや、発音は同じだけど似て非なる全くの別人だ。だけど、鏡面になったガラスの中に映るのは肉付きの良い全裸の美女だった。自分が本来映るはずの場所に、男の姿は存在しない。
俺は、俺は。
単刀直入に言うと、目が覚める女になっていたのだ。そう理解せざるを得なかった。何故だかは全く以て解らない。自分の脳の理解範囲を完全に越えた現象だ。寝ている間に一体俺の身体に何が起きたというんだ!
「あ、あ・・・」
反射的に俺は慌てて股の間を弄ったが、触り慣れたあの生暖かいモノは無く、代わりに溝が一筋刻まれていた。これは錯覚や虚像なんかじゃない。現実に今ここに立っている俺自身も女だという事になる。
反射する窓に映る一糸纏わぬ女性。呼吸に合わせて、たわわに実った乳房が揺れる。
これは・・・これは果たして本当に本当に俺なのか?
周りの風景は間違いなく、先程までゆったりと過ごしていた小さな湯船もそこにある。
しかし。この外見は。この美しい同年代の女性は。さっきまでの腐れ大学生だった俺とまるで違う。これが、俺・・・
「あ、あぁ・・・い、いやぁ」
そこで漸く俺の口から言葉が溢れ出した。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
それは甲高い、女の声による悲鳴に他ならなかった。

ひょうモザイク1

8
俺はまじまじと自分の姿を見つめた。紛れもなく美女、と言って差し支えないだろう。小さな顔に切れ長の黒い瞳。長い睫毛に濃いめの眉。 目元にある泣きぼくろが印象的だ。
・・・ここまできて、よくよく見ると元の、男の自分の面影が意外と残っていることに気がついた。目の形や泣きぼくろなんかは元々と似ている。しかし、印象を大きく変えるのは豊かな艶のある黒髪に桜色の頬、すうっと形の良い鼻。その下にはやや下唇のぽってりとした小さめの口。何よりその華奢な体型。肩幅は細くなり、身体の厚みがなくなって浮き出た鎖骨が何とも色っぽい。そしてそのラインを辿ってみると、そこには男には無いモノ・・・華奢な体格に似つかわしくない程大きく膨らんだ乳房があった。
ゴクリ
女性と一夜を共にした経験のない俺にとって、こんな間近で拝むおっばいは初めてだった。ましてや、触れるなんて・・・。
俺は男の頃から幾分も小さくなった手を、大きく膨らんだ両の乳房にそっと当てがった。
「・・・んっ!」
思わず声が漏れて赤面する。柔らかい。そして温かい。女性の胸ってこんなに優しいものだったのか。
「んんっ、あっ、はぁっ、やぁん・・・」
手のひらを伝って心臓がドクンドクンと脈打っているのを感じる。そのまま俺は乳房をじっくりと、ねっとりと五本の指を使って弄っていく。ビクッと五体に奇妙な感覚が走った。男の身体では決して味わうことの無かった、痺れるようなくすぐったいような甘いような不思議な感覚。 何度も、何度も乳房に指を押し付け、円を描く。
「あぁ、あっ、き、気持ちいい・・・」
俺は自らの乳房を揉み上げながら、頬を上気させていく。指を回す度に丸い乳はその形を変えていく。その膨らみの先に付いた桜色の乳首は次第に仰け反る様に上を向いていき、固くなっていった。
「やぁん、あんっ・・・っん!」
左手の指先でビンビンに勃ち上がった乳首を転がしながら、右手の指を下腹部のくびれに手を滑らせる。鬱蒼とした柔らかな陰毛に覆われた恥部に指で触れると、いつの間にかそこはしっとりと濡れていた。
「だ、だめぇ・・・興奮しちゃってるぅ・・・自分にぃ」
息を上ずらせながら、無意識で左手を乳房に、右手を恥部にあてがっていた。側から見るとその姿は自分を慰める淫らな女そのものだったろう。
ややあって右手の中指を、黒い茂みの中に滑らせ、赤く染まった女性自身に忍ばせる。
「あぁっ、あっ、やっ、やっ、やらぁ! 俺、女の子のオナニー、しちゃって、るぅ!?」
中指の腹で恥部を押し、撫でる。それを繰り返すたび、
クチュッ、クチュッ、クチュッ・・・
淫靡な液体の音が響いていく。その音にリズムを合わせて右手が乳房を揉んでいく。胸と股座を中心に熱く切ない感覚が広がっていき・・・ふいに頭に海斗の顔が浮かんだ。その瞬間
「あっ、あっ、あぁっ、あんっ、やっ、やだぁっ!指、とまんない・・・よぉっ!?」
何かがもの凄い勢いで全身を駆け、指遣いが速くなっていく。
「やっ、やっ、いやっ、いやぁっ!?」
リズムは止まることなくどんどん早くなり、俺の身体中に快感の連鎖反応を起こしていく。海斗の顔を思い出すだけで、ゾクゾクと快楽が膨れ上がり身体の敏感な部分を震わせる。
(気持ち良い・・・男のときより、ずっと)
「海斗・・・海斗っ!海斗ぉ!」
止まらない。手を動かすのが。 快感が。凄い。手の動きはどんどん速くなる。
クチュクチュクチュクチュクチュ・・・
俺はいつの間にか汗で垂れた前髪を頭を振って掻きあげ、汗とお湯とでぐっしょり濡れた肢体の全てを欲望に委ねている。髪を止めたバンドがどこかへ行ってしまったのなんて知らない。下腹部の中心で見えない何かが跳ね上がり、抜き差しする指を女陰のヒダが絡めとる。
「いやッ!」
ビクンと身体に電流が駆け巡る。
(イく・・・イく・・・イっちゃう・・・)
火照りが頂点に達し、俺は全てを解き放った。
「あっ、あっ、あんッ!あぁぁっ!いやぁぁぁぁッ!!イくっイくっイくっ、イっちゃぅぅぅぅぅ〜〜!?!?」

9
女の快楽ってすごい。 軽くシャワーで身を清めて再び露天風呂に浸かりながら、俺はそう思い返していた。
女性のそれは男がするようなそれとは全く別次元のものだったのだ。 俺はその事実を身を持って知ることになってしまった。絶頂時にはすべてを包み込まれるような・・・そんな気持ちよさだった。 喩えるならば広い広い海に抱かれるような。海、海・・・
(なんで俺は女のオナニーしながら海斗のことを・・・まるで俺・・・)
顔が真っ赤になっているのが自分でもよく分かった。女の子の身体になったから? それとも・・・?
ザブンと波を立てて立ち上がり、肉付きのいい女の身体を見つめる。
「あいつは女になった俺のこと、分かってくれるのかな」
そう俯きながら呟いた時のことだった。不意に脇の下からニョキッと二本の腕が現れ、そのまま俺の乳房を掴んで揉み始めたのだ。
「キャァァァ〜!!」
思わず女の子そのものの悲鳴を上げてしまう俺。気がつくと背後に気配を感じる。振り返ったその先にいたのは・・・海斗だった。
「おいおいおい〜寝落ちしてたからって一人で随分と楽しんでたみたいじゃん?」
「か、海斗・・・!」
「俺も混ぜてくれよ。付き合ってんだからいいだろ、『真咲』?」

10
海斗の一言に頭がクラっとした感覚に襲われた。俺は『正樹』のはずであって『真咲』なんて名前じゃ・・・。女の子なんかじゃ。そう思っていたのに。
(なんだこれは・・・こんなの知らない/知ってる!?)
男の俺と女の俺は同一人物であり、別人でもある・・・矛盾しながらも奇妙に整合性のある記憶が一気に頭の中に溢れてくる。
〜〜〜
大学の入学式。俺は海斗と隣の席で、喋ってみると同じ学科って分かって。そこから顔を合わせるたびに話すようになって。雑だけど行動力だけは一端のあいつに振り回される内に・・・俺(あたし)はだんだんあいつに惹かれていった。女子校出身で同年代の男の子と話なんてしたことなかったのに、海斗とだけは別だった。

(違う・・・違う・・・)

あいつの方も男子校出身だからか中々互いに進展しないまま時間だけが過ぎて。互いを一歩近いところに置いた関係になるまでに一年もかかってしまった。それもきっかけは酔った勢いで。試験明けで深酒が過ぎたあたしは海斗に支えられて夜道を歩いていた。ふらふらと足元もおぼつかないまま、一先ずあたしの下宿に向かういつものコース。
「真咲・・・飲み過ぎだって。・・・そんな無防備だと勘違いしちまうだろ!」
あたしはようやく試験から解放された安心感と海斗との進まない関係に焦ったためか、今にして思うとかなり大胆に事を進めた。足を止めて海斗の逞しい胸板に身体を預け、上目遣いで
「・・・して、くれないの?」
(違う・・・俺とあいつは単なる親友で・・・)
次の瞬間にはあたしの唇は海斗に塞がれていた。
「んん!?んっ、んぁっ・・・」
「真咲ッ!真咲ィッ!」
お互いにファーストキスのはずなのに舌を絡め合い、体液を混じらせる。あたしの全身は悦びと興奮に打ちひしがれ・・・自分でもはっきり分かるくらいにグチョグチョに濡れていた。切なげに太ももを擦り寄せるあたしの様子に気づいたのか、海斗は耳元で
「もう、我慢しねぇからな」
と呟いた。思わず唾を飲み込んだ後、あたしはこくりと頷いた。そのまま無言で歩を進め、下宿まで辿り着いたあたしたちは、部屋に入るや生まれたままの姿になって抱き合った。女の子としては長身のあたしも、大柄な海斗にすっぽりと包まれて・・・そしてその夜、あたしたちは彼氏彼女になったのだ。

後編に続く

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肉体が女体化したというよりは、世界そのものが「自分が女だった場合」に塗り替わった系の話かな

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  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
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