Latest Entries
【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第二十九話 本家と分家2
作 kyosuke
蒼の旧友である遠野 鷹は一ノ瀬家とは家族ぐるみの付き合いである……栄枯盛衰を共に分かち合った仲である。
「飛鳥さんに似ているかな」
「……ああ」
彼女は蒼の従姉で本家長女、男子が産まれずに蒼が本家当主を務める事になりこれにより彼女は他家に嫁入りしたのである。最も嫁入り先の夫も家も宜しくなく苦労をしている事は二人の耳にも入り、夫に“苦言を呈した”事もある。最終的には夫も長年の不摂生が元で死亡、彼女が家を取り仕切り無事に後継者を育て上げた女傑である。
「お祖父さん、失礼します」
応接間に入って来た朱鳥は遠野を見て会釈する、正月の時に幾度もお年玉を貰った事もあるのだ。
「おおっ、朱鳥ちゃんか……その後ろに居るのが」
「はじめまして玲です」
「私は遠野 鷹だ、確か昨年の流派対抗試合の小学生の部で優秀な成績を収めているね」
「はい、ただ今年はエントリー受付期間が入院と重なって」
老紳士は仕事の付き合い上学生を対象にした各種格闘競技会の支援もしており、玲の事は知ってはいたが……今目の前に居るのは髪の毛の一部を編み込みされリボンを付けた可愛い少女だ。
「日下部師範代の背中を見て育ったか……女性になっても辞めてないんだな」
「続けさせないとこの先どんな事になるのやらですからね、遠野さんご無沙汰してます」
将はため息交じりで玲の背後に立ち、頭を下げる。鷹も頷く、建設現場用ヘルメットで空調服姿であるが仕方ない。
「大変だのぉ、嫁に貰う男は」
すると玲は顔を赤らめ、将は苦笑交じりの顔になり鷹は察した……うん既に“開通”させたか、孫には悲報だろうなぁ……こんな可愛い子に異性として認識されない事に……否、将の様な父親に挑める度胸も無いか。
「ボートの格納庫どうですか」
「問題は無い、ドームハウスも好評でな……」
一昨年、別荘にあるボート格納庫が台風により倒壊。木造だった事もあり予想以上に老朽化と白蟻被害が進行していた。建て替えを検討していた矢先だ……取引先の紹介である建築家に相談した所コンテナハウスを提示、更にコテージとしてドームハウスを提案された。この頃はあの双子の親権譲渡で忙しかった事もあり即決、その晩は妻や息子らに白い眼にされた、いざ完成品を見ると一転好評で苦笑した。しかも施工した会社が将の勤め先である事は偶然である。
「先程、移し終えましたので」
「おおっ……ご苦労だったのぉ」
プレジャーボートを所有する事はある程度は持ち主がメンテナンスをする……海難事故は些細な事で発生し、尚且つ被害がでかくなる。それを防ぐにも日頃の点検は欠かせないが……船体を塗装する為の機材一式やら年代物の高圧洗浄機まであり予想外の作業になった。ただ将も正弘も大の自動車好きで世間で言う“ミサワリスト”なので趣味の手入れ道具は揃えたいのは理解している。
「御昼過ぎには同僚と兄がここに来ますので……」
「確か撤去用の重機とオペレーターと作業員だったのぉ」
「はい」
木造であり年式から断熱材としてアスベスト使用も想定していたが幸いにしてアスベストは無い事は事前調査で判明している。アスベストは断熱材として優秀であるが後年人体に重篤な健康被害を及ぼす事が判明しており建築業は解体作業も含まれる……アスベスト除去作業と処分費用だけでも可也の額だ。将は勤め先では現場で使用する建機若しくは機材輸送をしているが時折アスベストが発見し除去の為に関係機関に申請や機材準備で工期が間に合わない事態に陥る程だ。本家では邸宅からプレジャーボートの格納庫も兼ねた倉庫を初めとする建造物が事細かく記録保管し実際に確認している。
「一日もあれば終わりますので」
「その前にお昼ね……明恵も居るしどうしょうかしらね?」
二日酔いの日菜子も復活していたがため息交じりな表情だ。無理もない航の妻である明恵が来て居るのだ……実家が一ノ瀬家以上に格式がある家柄で相当な傲慢ぶり、そんな女性が恋愛は常に末路は悲惨……幼馴染でもある航は明恵の父親に気に入りであるが娘の明恵は好みではない。そんな折に彼女の実家が運営する学園法人も性転換症発症者の通学拒否を指示していた事が発覚、明恵の理事会入りも見送り学園法人運営も手を引かざる得ない状況……明恵が航の元に嫁入りした事情は実家に居場所が無くなったのだ。航もこの無理難題な女性を生涯添い遂げる相手にする事を了承したのは転落する光景を観たくはなく、一ノ瀬本家にも過去に明恵の実家に事業を助けて貰った事もある。
「玲、一応紹介しておくわ……来なさい」
日菜子も出来れば玲を逢わせたくないだろうなぁ、人生設計を狂わせた性転換症発症者……それが親戚に居たのだから。
「俺も同席するよ、明恵は昔から知っているからね」
鷹も哀れと思う、だが学園法人の経営と公共性を考えると創始者一族の理事会入りを避けたのは当然だろう……無論それを指示した保護者にもそれなりの責任を執らせたが彼女は専業主婦を強いられたおり、最近は息子も娘も然程手が掛からない様になったが……彼女のやりたい事をするには遅すぎたらしい。
「……ふぅん、貴方が玲ね」
嫁が嫁ぎ先実家での振る舞いにして、他人から見れば少々癪に障る雰囲気である明恵は玲を見るが視線は厳しく自然と玲も少し身構える。
「陽菜子も面食らったでしょうね……」
「そうね、暫くして貴方に逢わすべきか迷ったけど冠婚葬祭の時に水を差す事は無い様にするのも礼儀よ」
将も航も冷汗が出る程に二人の視線が交差する場所でスパークしている。鷹が居なかったらもっと酷い事になっていただろう。
「もう二人とも……」
陽菜も毎回二人の間に入るのも疲れる。明菜は手元にあったグラスを手に取る、琥珀色に浮かぶ氷が入っており、玲もそれが酒と分かる。
「肴で好みはありますか?」
玲は航から聞いた明菜の好物を調理していた……航も厨房に入り差し入れされた魚を三枚に下ろす。
「申し訳ないね、明菜の実家が興した学園法人でも性転換症発症者の通学拒否をしていた事は事実だ、しかも一部の保護者によってね……寄付金を減らすやら返金しろって迫った事もあったのさ」
「酷い」
「ああ……この事は監督官庁でもある文部科学省も厚生労働省も把握して裏付けされている事実さ……明菜の実家も経済面でも関係が深い御方からの頼まれごとだったから断れなかった」
その結果は彼女の夢を砕いた、教師になる事を……どの学校も採用する事もなく疲れ果てた明菜は航の妻に……優雅な専業主婦を演じるしかなかった。
「教員免許を持っているのに……」
「数年後、私は教員免許を返納したわ……どの学校も雇ってくれないならね」
明恵は空になったグラス用氷を入れるガラス製容器を置く。
「程々にしておけ」
「……事の重大さを理解した時の面々の顔は愉快だったわよ。私はもう好きなようにして生きるから、社会は私を必要にしてないし……」
足取りも少し危ういのは玲も分かる。この分だと明日の朝も御粥を用意しておいた方がいいかもしれない。
蒼の旧友である遠野 鷹は一ノ瀬家とは家族ぐるみの付き合いである……栄枯盛衰を共に分かち合った仲である。
「飛鳥さんに似ているかな」
「……ああ」
彼女は蒼の従姉で本家長女、男子が産まれずに蒼が本家当主を務める事になりこれにより彼女は他家に嫁入りしたのである。最も嫁入り先の夫も家も宜しくなく苦労をしている事は二人の耳にも入り、夫に“苦言を呈した”事もある。最終的には夫も長年の不摂生が元で死亡、彼女が家を取り仕切り無事に後継者を育て上げた女傑である。
「お祖父さん、失礼します」
応接間に入って来た朱鳥は遠野を見て会釈する、正月の時に幾度もお年玉を貰った事もあるのだ。
「おおっ、朱鳥ちゃんか……その後ろに居るのが」
「はじめまして玲です」
「私は遠野 鷹だ、確か昨年の流派対抗試合の小学生の部で優秀な成績を収めているね」
「はい、ただ今年はエントリー受付期間が入院と重なって」
老紳士は仕事の付き合い上学生を対象にした各種格闘競技会の支援もしており、玲の事は知ってはいたが……今目の前に居るのは髪の毛の一部を編み込みされリボンを付けた可愛い少女だ。
「日下部師範代の背中を見て育ったか……女性になっても辞めてないんだな」
「続けさせないとこの先どんな事になるのやらですからね、遠野さんご無沙汰してます」
将はため息交じりで玲の背後に立ち、頭を下げる。鷹も頷く、建設現場用ヘルメットで空調服姿であるが仕方ない。
「大変だのぉ、嫁に貰う男は」
すると玲は顔を赤らめ、将は苦笑交じりの顔になり鷹は察した……うん既に“開通”させたか、孫には悲報だろうなぁ……こんな可愛い子に異性として認識されない事に……否、将の様な父親に挑める度胸も無いか。
「ボートの格納庫どうですか」
「問題は無い、ドームハウスも好評でな……」
一昨年、別荘にあるボート格納庫が台風により倒壊。木造だった事もあり予想以上に老朽化と白蟻被害が進行していた。建て替えを検討していた矢先だ……取引先の紹介である建築家に相談した所コンテナハウスを提示、更にコテージとしてドームハウスを提案された。この頃はあの双子の親権譲渡で忙しかった事もあり即決、その晩は妻や息子らに白い眼にされた、いざ完成品を見ると一転好評で苦笑した。しかも施工した会社が将の勤め先である事は偶然である。
「先程、移し終えましたので」
「おおっ……ご苦労だったのぉ」
プレジャーボートを所有する事はある程度は持ち主がメンテナンスをする……海難事故は些細な事で発生し、尚且つ被害がでかくなる。それを防ぐにも日頃の点検は欠かせないが……船体を塗装する為の機材一式やら年代物の高圧洗浄機まであり予想外の作業になった。ただ将も正弘も大の自動車好きで世間で言う“ミサワリスト”なので趣味の手入れ道具は揃えたいのは理解している。
「御昼過ぎには同僚と兄がここに来ますので……」
「確か撤去用の重機とオペレーターと作業員だったのぉ」
「はい」
木造であり年式から断熱材としてアスベスト使用も想定していたが幸いにしてアスベストは無い事は事前調査で判明している。アスベストは断熱材として優秀であるが後年人体に重篤な健康被害を及ぼす事が判明しており建築業は解体作業も含まれる……アスベスト除去作業と処分費用だけでも可也の額だ。将は勤め先では現場で使用する建機若しくは機材輸送をしているが時折アスベストが発見し除去の為に関係機関に申請や機材準備で工期が間に合わない事態に陥る程だ。本家では邸宅からプレジャーボートの格納庫も兼ねた倉庫を初めとする建造物が事細かく記録保管し実際に確認している。
「一日もあれば終わりますので」
「その前にお昼ね……明恵も居るしどうしょうかしらね?」
二日酔いの日菜子も復活していたがため息交じりな表情だ。無理もない航の妻である明恵が来て居るのだ……実家が一ノ瀬家以上に格式がある家柄で相当な傲慢ぶり、そんな女性が恋愛は常に末路は悲惨……幼馴染でもある航は明恵の父親に気に入りであるが娘の明恵は好みではない。そんな折に彼女の実家が運営する学園法人も性転換症発症者の通学拒否を指示していた事が発覚、明恵の理事会入りも見送り学園法人運営も手を引かざる得ない状況……明恵が航の元に嫁入りした事情は実家に居場所が無くなったのだ。航もこの無理難題な女性を生涯添い遂げる相手にする事を了承したのは転落する光景を観たくはなく、一ノ瀬本家にも過去に明恵の実家に事業を助けて貰った事もある。
「玲、一応紹介しておくわ……来なさい」
日菜子も出来れば玲を逢わせたくないだろうなぁ、人生設計を狂わせた性転換症発症者……それが親戚に居たのだから。
「俺も同席するよ、明恵は昔から知っているからね」
鷹も哀れと思う、だが学園法人の経営と公共性を考えると創始者一族の理事会入りを避けたのは当然だろう……無論それを指示した保護者にもそれなりの責任を執らせたが彼女は専業主婦を強いられたおり、最近は息子も娘も然程手が掛からない様になったが……彼女のやりたい事をするには遅すぎたらしい。
「……ふぅん、貴方が玲ね」
嫁が嫁ぎ先実家での振る舞いにして、他人から見れば少々癪に障る雰囲気である明恵は玲を見るが視線は厳しく自然と玲も少し身構える。
「陽菜子も面食らったでしょうね……」
「そうね、暫くして貴方に逢わすべきか迷ったけど冠婚葬祭の時に水を差す事は無い様にするのも礼儀よ」
将も航も冷汗が出る程に二人の視線が交差する場所でスパークしている。鷹が居なかったらもっと酷い事になっていただろう。
「もう二人とも……」
陽菜も毎回二人の間に入るのも疲れる。明菜は手元にあったグラスを手に取る、琥珀色に浮かぶ氷が入っており、玲もそれが酒と分かる。
「肴で好みはありますか?」
玲は航から聞いた明菜の好物を調理していた……航も厨房に入り差し入れされた魚を三枚に下ろす。
「申し訳ないね、明菜の実家が興した学園法人でも性転換症発症者の通学拒否をしていた事は事実だ、しかも一部の保護者によってね……寄付金を減らすやら返金しろって迫った事もあったのさ」
「酷い」
「ああ……この事は監督官庁でもある文部科学省も厚生労働省も把握して裏付けされている事実さ……明菜の実家も経済面でも関係が深い御方からの頼まれごとだったから断れなかった」
その結果は彼女の夢を砕いた、教師になる事を……どの学校も採用する事もなく疲れ果てた明菜は航の妻に……優雅な専業主婦を演じるしかなかった。
「教員免許を持っているのに……」
「数年後、私は教員免許を返納したわ……どの学校も雇ってくれないならね」
明恵は空になったグラス用氷を入れるガラス製容器を置く。
「程々にしておけ」
「……事の重大さを理解した時の面々の顔は愉快だったわよ。私はもう好きなようにして生きるから、社会は私を必要にしてないし……」
足取りも少し危ういのは玲も分かる。この分だと明日の朝も御粥を用意しておいた方がいいかもしれない。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
http://okashi.blog6.fc2.com/tb.php/32690-1eb68ee1