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投稿TS小説第148番 鶉谷くん、インデンジャー外伝 奇譚 「Zaubermedizin」(1) (by.ありす)
男はある異国の村にあるという、古い教会を目指して歩いていた。
その古い教会には伝説があった。秘薬を飲んで若返った夫婦が、かつて司祭を勤めていたというのだ。若返りの秘薬とは、いかにも疑わしいただの伝説のように思われた。男は半信半疑ながらも、その教会があるという村を尋ねた。そして古史料扱いとなって図書館に保存されていた古い住民票に、確かにそれらしい夫婦が記録されていた。秘薬についての記述は、村の図書館の史料にも詳しいことは書かれてはいなかったが、男は伝説の舞台となっている古い教会を、訪ねてみることにしたのだった。
図書館の司書は、『あそこには今は魔女が住んでいるから、行かないほうがいい』と忠告したが、この現代に魔女なんかいるわけがない、と本気にしなかった。男はなんとしても秘薬の謎を解き、できればそれを手に入れたかった。
(若返りの秘薬を伝えるという伝承を持つ、古い教会に住む魔女。話としては出来すぎだが、確かめてみる価値は十分にあるだろう)
はやる気持ちを抑えながら、男はそう考えていた。
村人が教えてくれた林の小道を抜けていくと、怪しげな雰囲気の朽ちかけた教会があった。
「うわっ! びっくりしたぜ」
崩れかけた門から入ろうとしたら、茶色い鶏のようなものが素早く男の脇をすり抜けて中に入っていった。
「こんなところに、誰が住んでいるって言うんだ?」
男は傾いて半開きになっている門扉に触らないように、敷地内に入った。荒れた感じの前庭の奥には、礼拝堂のようなものがあった。開きっぱなしになっている建物の扉を開けて中に入ろうとしたところで、不意に声をかけられた。
「Wer sind Sie? (誰?)」
とがめるようなきつい口調に振り返ると、黒衣を身にまとった若い女がいた。上から下まで黒ずくめの服。少し茶色がかった腰まで届く波打つ長い髪。掃除でもしていたのか、それとも空でも飛んできたのか、片手には箒を持っていた。
(魔女が住むという話は、本当だったのか?)
「M、Mir……、Mir tut es leid. Ich ……glaubte, das niemand ……hier war.(い、いや、すみません、誰も……いない、と思っていたので……) 」
たどたどしい古ドイツ語で男が弁解すると、黒衣の魔女は意外な言葉を発した。
「あなた……、日本人?」
「日本語がわかるのか!? 君は誰だ?」
「人の家に勝手に入ってきて、『誰だ』も無いでしょう?」
「ま、魔女じゃないのか?」
「魔女? ふふふ、そうね、そうかもね。 あはは」
「何がおかしいんだ」
「うふふ。私は、アーデルハイト」
「アーデルハイト? 日本人じゃなかったのか?」
「あなたの名前は?」
「お、俺は……ミスターLとでも呼んでもらおうか」
「ふざけた名前ね」
「偽名だ。名乗らないと駄目なのか?」
「私は名乗ったわ」
「そっちだって偽名だろう?」
「……まぁいいわ。帰りなさい、偽名の男」
「Lだ」
「エルは女の名だわ。帰りなさい」
「そうは行かない……。俺は、椎田。ロバート・L・椎田」
「ハーフ?」
「ワンエイス(1/8)だ。日本生まれの日本育ち」
「いいわ、ロバート。用件は何?」
「椎田と呼んでくれ。ここに、若返りの薬があると聞いてやってきた」
「若返りの薬? ふふふ、そんな伝説のために、わざわざやってきたの?」
「伝説でもいい。その真偽を確かめたかったんだ」
「どうして?」
「俺はもうすぐ死ぬ。だが俺はまだ死にたくない。まだ、やりたいことがいっぱいあるんだ」
「やりたいことって、何かしら?」
「君には関係ない」
「そう」
「君はここに住んでいるんだろう? ならば何か知らないか?」
「どういう答えを、期待しているのかしら?」
「若返りの薬があるのなら、分けて欲しい」
「そんなものは無い、といったら?」
「俺のカンが、君は何かを知っているといっている」
「へぇ? そう思うの? いいわ、ついていらっしゃい」
椎田はアーデルハイトと名乗る、この謎の女の後について、今にも崩れ落ちそうな建物の中に入っていった。
外見とは裏腹に、中は意外にも綺麗に維持されていた。入ってすぐの礼拝堂を通り抜け、普段は居間として使われていると思われる部屋に案内された。
つづきはこちら
その古い教会には伝説があった。秘薬を飲んで若返った夫婦が、かつて司祭を勤めていたというのだ。若返りの秘薬とは、いかにも疑わしいただの伝説のように思われた。男は半信半疑ながらも、その教会があるという村を尋ねた。そして古史料扱いとなって図書館に保存されていた古い住民票に、確かにそれらしい夫婦が記録されていた。秘薬についての記述は、村の図書館の史料にも詳しいことは書かれてはいなかったが、男は伝説の舞台となっている古い教会を、訪ねてみることにしたのだった。
図書館の司書は、『あそこには今は魔女が住んでいるから、行かないほうがいい』と忠告したが、この現代に魔女なんかいるわけがない、と本気にしなかった。男はなんとしても秘薬の謎を解き、できればそれを手に入れたかった。
(若返りの秘薬を伝えるという伝承を持つ、古い教会に住む魔女。話としては出来すぎだが、確かめてみる価値は十分にあるだろう)
はやる気持ちを抑えながら、男はそう考えていた。
村人が教えてくれた林の小道を抜けていくと、怪しげな雰囲気の朽ちかけた教会があった。
「うわっ! びっくりしたぜ」
崩れかけた門から入ろうとしたら、茶色い鶏のようなものが素早く男の脇をすり抜けて中に入っていった。
「こんなところに、誰が住んでいるって言うんだ?」
男は傾いて半開きになっている門扉に触らないように、敷地内に入った。荒れた感じの前庭の奥には、礼拝堂のようなものがあった。開きっぱなしになっている建物の扉を開けて中に入ろうとしたところで、不意に声をかけられた。
「Wer sind Sie? (誰?)」
とがめるようなきつい口調に振り返ると、黒衣を身にまとった若い女がいた。上から下まで黒ずくめの服。少し茶色がかった腰まで届く波打つ長い髪。掃除でもしていたのか、それとも空でも飛んできたのか、片手には箒を持っていた。
(魔女が住むという話は、本当だったのか?)
「M、Mir……、Mir tut es leid. Ich ……glaubte, das niemand ……hier war.(い、いや、すみません、誰も……いない、と思っていたので……) 」
たどたどしい古ドイツ語で男が弁解すると、黒衣の魔女は意外な言葉を発した。
「あなた……、日本人?」
「日本語がわかるのか!? 君は誰だ?」
「人の家に勝手に入ってきて、『誰だ』も無いでしょう?」
「ま、魔女じゃないのか?」
「魔女? ふふふ、そうね、そうかもね。 あはは」
「何がおかしいんだ」
「うふふ。私は、アーデルハイト」
「アーデルハイト? 日本人じゃなかったのか?」
「あなたの名前は?」
「お、俺は……ミスターLとでも呼んでもらおうか」
「ふざけた名前ね」
「偽名だ。名乗らないと駄目なのか?」
「私は名乗ったわ」
「そっちだって偽名だろう?」
「……まぁいいわ。帰りなさい、偽名の男」
「Lだ」
「エルは女の名だわ。帰りなさい」
「そうは行かない……。俺は、椎田。ロバート・L・椎田」
「ハーフ?」
「ワンエイス(1/8)だ。日本生まれの日本育ち」
「いいわ、ロバート。用件は何?」
「椎田と呼んでくれ。ここに、若返りの薬があると聞いてやってきた」
「若返りの薬? ふふふ、そんな伝説のために、わざわざやってきたの?」
「伝説でもいい。その真偽を確かめたかったんだ」
「どうして?」
「俺はもうすぐ死ぬ。だが俺はまだ死にたくない。まだ、やりたいことがいっぱいあるんだ」
「やりたいことって、何かしら?」
「君には関係ない」
「そう」
「君はここに住んでいるんだろう? ならば何か知らないか?」
「どういう答えを、期待しているのかしら?」
「若返りの薬があるのなら、分けて欲しい」
「そんなものは無い、といったら?」
「俺のカンが、君は何かを知っているといっている」
「へぇ? そう思うの? いいわ、ついていらっしゃい」
椎田はアーデルハイトと名乗る、この謎の女の後について、今にも崩れ落ちそうな建物の中に入っていった。
外見とは裏腹に、中は意外にも綺麗に維持されていた。入ってすぐの礼拝堂を通り抜け、普段は居間として使われていると思われる部屋に案内された。
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コメント
今回はちょっとオカルトっぽい話です。艶話じゃないので、そっち方面はあまり期待しないでくださいまし(^^;
な、なんと
謎を呼ぶ始まりかたー。楽しみです。
名前が、面白いです。ぼびーえるしいだ。なんだか聞いたことがあるようなないようなw。
名前が、面白いです。ぼびーえるしいだ。なんだか聞いたことがあるようなないようなw。
なんか始まってる…
ありすさんだー。
どうなるんだろう、どきどき。
どうなるんだろう、どきどき。
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夜の部はラグナゲドンにがんばって貰って、こちらは昼の12時を目処に公開の予定です。
ありすちゃん、ありがとうね。