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投稿TS小説第148番 鶉谷くん、インデンジャー外伝 奇譚 「Zaubermedizin」(6) (by.ありす)

女は淫気に咽ぶような部屋の空気を入れ替えようと、ベッドの横の窓を開けた。夜明けが近いのか、地平線近くの空が白みかけていた。濡れた植物の匂いのする、少し湿った冷気とともに、鳥の声が部屋の中に流れてきた。

「お前たち、どのぐらい生きているんだ?」
「さぁ……。忘れたわ」
「一つ聞きたいんだが……」
「何?」
「この教会にまつわる伝説では、若返りの薬を飲んだ夫婦がいたって話だったが、お前たちがそうなのか?」
「違うわ。その人たちは、もう何百年も前に亡くなっている」
「何故だ? 何度でも若返って、そのまま暮らしていけばよかったのに。殺されたのか?」
「違うわ。寿命よ」
「寿命?」
「そう、彼らは若返りの薬を飲んで一度は若返ったけど、寿命が来て死んだのよ」
「どうして?」
「若返りの薬といっても、若返ったのは見かけだけで、寿命が伸びたわけじゃない。でも健康だったから、生まれてから100年ぐらいは生きたらしいわ。記録ではそうなっている。彼らは若い姿のまま、老衰で死んだのよ」
「ふうん。それで、お前がその薬を改良したのか」
「いいえ、言ったでしょう。私は魔法使いじゃない。無から何かを作り出したり、死んだ人間を生き返らせたりとか、尽きるはずの命を永らえさせたりなんてできないの。あなたが最初に飲んだ新しいほうの瓶に入っていた薬、あれが私が資料のとおりに作った物よ。でも、やっぱり何の効果も無かった。材料が同じなだけでは、駄目なのね」
「じゃあ、後から飲んだ、あのぼろぼろのラベルがついていたほうの薬は……」
「その伝説の夫婦が飲んだと言われている方の、オリジナル」
「何だって? それじゃ、俺は……」
「だから言ったでしょう。考え直したほうがいいって。あれは確かに“若返りの薬”だけど、病気が治ったり、寿命が延びたりするようなものなんかじゃないわ」
「ちくしょう! 俺を騙しやがって!」
「あなたはヴァハテルに危害を加えようとした。そして『若返りの薬をよこせ』と脅迫した。だから私はあなたに従っただけよ」
「うるさい! こうなったらお前も、あの小娘も道連れにしてやる!」

椎田は女をベッドに押し倒し、暗闇に浮かぶ白い首に絡めた手に力をこめた。

大変だ! 先輩の悲鳴を聞き、僕はあわてて枕もとの引き出しから布を取り出した。いつもは付けっぱなしの口紅を、先輩が編んだハンカチで拭き取った。
魔法の口紅、テイレシアス。唇に塗ると誰だろうと関係なく姿を変えてしまう、不思議な口紅。不完全な複製品だけど、つけた者はみな口紅の色に合わせた女性の姿になる。作った者には効果が無く、作った者にしか解呪の術が無い、厄介な口紅……。

僕は鏡を見て、元の自分に戻ったのを確かめて部屋を飛び出した。
先輩の寝室の戸を足で蹴破るように開けると、ベッドの上には蒼褪めた表情の裸の先輩と、床にはあいつによく似た若い男が大量の血を吐いて転がっているのが見えた。

「先輩?」
「ヴァハテル、いえ……あなた、口紅取っちゃったの?」
「先輩の悲鳴が聞こえたから、こいつをやっつけてやろうと思って」
「心配しなくても、私は大丈夫よ。……もう、終わったわ」
「殺しちゃった……んですか?」
「いいえ、寿命が尽きたのよ。この男はもともと肺と心臓を患っていた。薬が無ければ、発作を抑えることは出来なかったそうよ。でも、この男はそれを自分で棄ててしまったから……」
「発作を抑えられずに、ですか? 馬鹿な奴だ。せっかく若返ったのに」
「若返るといっても外見だけよ。その人の命数が変わるわけじゃない。少なくともあの薬のレシピにはそう書いてあったわ」
「先輩は、それを知っていて……?」
「この男は、『男の姿で若返りたい』といっただけ。だから薬をあげた。それだけのことよ。テイレシアスだけで満足していれば、よかったのにね」

先輩は簡単に身づくろいを済ませると、男の遺体を抱き上げて教会の前庭に置いた。
夜が明けて朝日が差すと、男の遺体はさらさらと砂のように崩れて細かい粉になり、風に舞いながら消えてしまった。
ざまあみろだ! あんな男、最初からこうしてやればよかったんだ! 先輩を酷い目に合わせて!
錬金術で作ったものに触れたものは、死ぬとこんな風に跡形も無く消えてしまう。僕にはさっぱりわからなかったが、先輩はそういった不思議な力を少しだけ操ることができた。

「なんで先輩は、あんな男の為に、いろいろしてやったんですか?」
「そうね……。あなたが、椎田さんを嫌っていたのと、同じ理由かも知れないわね」

そうだ、そういえばあの男は、どこと無くあいつに似ていた。

「先輩……。先輩はまだ、あの時の事……。あんな大昔のこと」
「私には、今も昨日の事の様に、思い出されるわ。 いなくなってしまった、あの人たちのこと」
「先輩が僕に小さな女の子の姿をさせているのは、あの子の代わりなんですか?」
「誰も、誰かの代わりになんか、なれないわ」

先輩は男をくるんできた布をぱんぱんと叩いて、残っていた粉を払うと丁寧にたたみ始めた。

「薬、失敗だったんですね」
「そうね。でも、また試してみればいいわ。新しく材料も手に入ったし」
「こういうことを繰り返しているから、村人から変なうわさを立てられるんですよ」
「あら、こんなことしなくても、私たちに変なうわさが立つ理由は、十分じゃないの?」

先輩は誰も見ていないのをいいことに、僕の上着を脱がせた。いつもなら、形ばかりの抵抗をするのだけど、少し寂しそうに見える先輩の顔を見ていたら、されるがままになっていた。

「先輩、僕たち……本当はもう死んでいるんでしょうか?」
「さあね。でもあれから、……ずいぶんと長い時間が過ぎたわ」

そういいながら、僕の下着に手をかけた。人の寄り付かないオンボロ教会だとはいえ、こんなところで……。

「やめてください。ここじゃあ」
「あら、いいじゃない。誰も見ていないわ」
「でもほら! あそこ、なんか動いてる」

崩れた外門のそばを、小さな茶色い斑の影がさっと横切った。
先輩はふっと笑いながら言った。

「あれは wachtel(鶉)よ」

                       (DAS ENDE)


<解説めいたあとがき>
タイトルの「Zaubermedizin」というのは“魔法の薬”という意味です。ドイツ語って語感の響きが好きです。でもほとんど話せないですけどね。
・登場人物について
椎田氏はエルとはまったくの無関係で、いわば他人の空似。(もう! エル姉さまってば勝手に逝っちゃうんだから!)
話の都合上、アーデルハイト=有栖川ですが、ヴァハテルについては、”元の姿”も含めて、あいまいな形で書いてみましたw。
・“テイレシアス”の設定
ありくいさんの元設定では「男性を女性に変える」だけなので、“インデンジャー”で甘井教授があずみちゃんを元に戻したのは、教授のオリジナル品ということにしておきました。アーデルハイトとヴァハテルが「不完全」と言っているのは教授オリジナルの”謎のルージュ”を見ているので、本来そういうものだと勘違いしているのです。だからアーデルハイトが「資料のとおりに作った」のなら、正しく再現できているわけなのですね。“重ね塗り可能”なのと“塗った人物は永遠にその姿をとどめる”のはワタシのオリジナル設定です。でも甘井教授は”永遠のハーレム”を作ろうとしていたから、この効能も知っていたのかもしれませんね。
“若返りの薬”を使うと、テイレシアスの効果は相殺する形で消えてしまいます。だから、アーデルハイトもヴァハテルも、永い時間を彷徨い続けているのです。

短時間でプロット作った作品はあっさり出来上がるのに、時間かけて作ったプロットの作品はなかなかできませんねw。
ビル建築で言えば、内装の作業が残っているだけなんですが……。





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コメント

楽しんでいただけたみたいで一安心です。
でもご主人さま的には、不満?(出番無かったしw)

オカルト系小説というのは、独善的か説明調になりやすく、それを如何に避けるかが一つの壁でもあります。今回は古典的手法をいくつも使いながら、比較的オーソドックスにまとめたつもりですが、どうでしたでしょう?
ドイツ語のうずら(wachtel) には = watch + el というアナグラムもあったりしてw。
アーデルハイトはヴァハテルのことを常に気にはかけていますが、エルのこともずっと忘れられずにいるんですね。

え、えいえんはあるよ。
ここにあるよ。

上手い、ですねぇ。
話の魅せ方が。
切なかったです。

luciさんと同じく、僕も調べていたので、あぁ、そうなんだぁ、っと……。

しっとりしてて、楽しめました。

六話を読む前にWachtelの意味を調べたので、余計に楽しめました。
センセには逢えてないんですね。

こっちの話で、有栖川先輩に抱き締められたエルの最期の言葉を書くので、余計にアリスの拘りが増幅されるかもです。

さすがありすちゃ。面白かった。
(エルの話がアレな故にorz)

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