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水曜イラスト企画⑥ 絵師 そら夕日さん(3)  仮名:勇者 ウィル

一行キャラ設定  勇者ウィル   父が勇者で母が姫と言う血統正しい勇者。世間知らず。
He is a noble hero whose father is a hero and whose mother is a princess. He is innocent.
他是父亲是一位英雄并母亲是一位公主的一位贵族的英雄。他是天真的。

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絵師: そら夕日さん いちご色素

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。

本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
なお、そら夕日さんはまいるど志向ですので過度にHなお話はイラスト化確率が激減しますw

20080326初出

コメント

勇者ウィルの冒険の登場人物

登場人物

ウィル・サンダース=ウィラ
 本編の主人公。剣の腕も頭も冴えた少年……少女?


《ウィルの3人の仲間》

アトラン
 3人の中ではリーダー格でウィルを息子(娘)のように愛している。勇気と正義の人。

シマラ
 ことにウィラになってからのウィルを愛している。智と冷静の人。

ロック
 ウィル(ウィラ)を愛することにかけては他の2人に引けをとらない。武勇と熱血の人。

《ウィルの血族》

ロック・サンダース
 ウィルの父親。『大乱』時代の救国の英雄。魔王ルゲイル討伐後、真の英雄は俺じゃないと謎の言葉を残し家族と共に領地に隠棲する。

クレア・コンティ・サンダース
 ウィルの母親。大公の妹。

エリック・コンティ大公
 ウィルの叔父。母クレアの兄。この兄妹にはある秘密がある。

エレ・コンティ
 エリックとクレアの母親。夫クラノは『魔王様と私』の主人公。

《ウィラの仲間》

フレッド=フリーダ(フレデリック・ザリエル)
 力を求めるフレッドが手に入れた魔剣ディアボロスレイヤーは持ち主の男性源を吸収するかわりに超人的力を与える。。

ノウズカット・フォウ=シフ
 極悪非道の盗賊……のはず。


《その他》

国王
 無能らしいが、人気はある。

ヘクター王子
 跡継ぎ

ロンド・ブレスリン宰相
『大乱』後の王国をウィルの父ロックと支えた。ライバルのいない今王国内に権勢並ぶものがない。

ルゲイス=アビゲイル(アビー)・ブレスリン
 魔王ルゲイルの息子。ルゲイルはウィルの父ロックに倒された。

アン・キュモン女男爵
 『大乱』時代の英雄の1人で元男性。今は新興貴族のつくる東方議会の重鎮。

(9)

 大河を離れ東に向かうと徐々に町の規模が小さくなる。小さな宿では豪勢な晩餐ともいかないのでロックは少し機嫌が悪い。ただ量は充分出るので夕食の席で怒り出したことはなかった。
 それでも国境はもっと東にある。そのあたりには大きな鉱山があった。鉄や銀を産する鉱山を持つ領主は裕福でその町も大きい。シフが言ったコロンもそんな町の一つであった。

 昼過ぎ峠を上り詰めたところでウィラは馬を止めた。眼下に広がる山の中腹から始まる森は欝蒼と繁っており地平線まで続くように見える。
 仲間たちも徐々に追いつきまわりに集まってきた。
「昼飯か?」
とロック。フリーダは心得たとばかりに馬から飛び降りた。
「ええ、そろそろお昼ご飯にしましょう」
ウィラはそう言いながら左のアブミに体重をかけ馬から下りる。
「でもその前に相談しておきたいことが」
「食べながらじゃまずいのか」
とこれもロック。ロックの食欲を忘れていたウィラは詫びて続けた。
「では準備をしましょう」
フリーダとシフは枯れ枝を集めに行きロックは燃え易い木を切り倒す。
 食いしん坊たちが走り回るのを見ながらウィラは材料を選ぶ。午前中に倒した鹿の肩肉、キジ1羽、塩漬けの川魚、野菜は芋に人参、たまねぎである。ドライフルーツも多めに出す。通常昼を軽く済ませるのだが、今日はウィラには別の考えがあった。
「今日は豪勢だな」
とロックが戻ってきたときにはフリーダとシフはきれいに枝を積み上げていた。
 ウィラが呪文を唱えて火をつけるとシフが少し大きな薪をくべていく。ウィラは野菜スープの準備をしてから今朝宿で買い求めておいたパンを出した。肉類はウィラが手を出す前に串にさされていた。こった料理を作る時間はあるけれど皆その時間をまてないようだ。
 火が収まり熾火になったところで肉をさした串がかけられる。ウィラが作ったスープは香草の香のする湯気を上げていた。
 ロックが肉はレアが美味いと言って串に手をかけたのが合図になり食事が始まった。毎度のことながら3人の食欲に呆れながらウィラはパンを配る。最近のシフは最初の頃の遠慮が嘘のようだ。

 岸で手を洗い船に戻ると船頭と見習いは逃げていて無人だった。着替えて荷物を持ち馬を降ろす。ウィラはシフを送り届けるつもりなので東の港町に向かうことにする。


 シフこと盗賊フォウはフリーダ変身の秘密をウィラから聞きながら素早く考えをめぐらせた。先ほど船内で着替えるとき教えられていた男に戻る呪文を唱えたが効果がなかった。もちろん予想はしていた。おそらく契約を果たさなければ無効なのだ。
(怪しい娘にこいつらを引き渡すか、奴を倒す以外に元の姿に戻るすべはない。どちらにしてもこいつらと一緒にいる必要があるわけだ。奴がこいつらを狙っているなら……)
「だからね、シフ」
「え?」
「だからフリーダ……いえフレッドを許してあげて欲しいの。なんと言っても立派な殿御なんですから」
「は、はあ」
当のフリーダは肩をいからせてずっと先を進んでいた。
「じゃあ残り少ない旅路だけど仲直りをね」
「あのー」
「なにかしら?」
「皆様は東方領の奥地まで行かれるようですけど?」
「ええ。南東地方まで」
「実は私の目的地も南東地方の町コロンなのでご一緒させていただきたいのです」
「でもねえ」
ウィラは難しげな表情を浮かべている。
「だめでしょうか」
「さっきの化物たちのことだけど私たちを狙っていた可能性があるのよ。だからかえって危険かも」
「でも一緒に戦いましたし、奴らにしてみれば私も皆様の仲間。別行動をしていて捕らわれてはかえって足を引っ張るかと。もちろんそんな際には見捨てていただいてもかまいませんが」
ウィラはしばらく無言で考え込んでいたが最後にシフの同行を了解した。

はーい。お待ちしておりますー。

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執筆がんばってー♪

 戦いは熾烈を極めた。何とか前進が可能になったのはロックの手柄だ。
「こいつら頭を砕けば動かなくなるぞ」
そう言いながら大剣の柄頭を2体目のゾンビに叩き込む。それまで勇敢に剣を振るっていたシフもあまりの光景にしゃがみこんで吐いた。
「無理ならさがって」
ウィラの言葉に感謝しながらもシフはこう答えた。
「大丈夫です。我が身は守れますから」
実際シフを守るために1人抜ければ危ない状況なのだ。
「じゃあフリーダ、シフをお願い。私とロックで」
「ちょっと待った。何とかなりそうだから黒の乗り手は任せろ」
自信満々のフリーダを見てウィラは男性化の目途がたったのだと直観した。
「ロック、フリーダと2人でお願い」
「ふん、1人でも十分だぜ」
そして言い終わる前にとび出す。フリーダも無言で続く。無口なのは男性化に必要な集中を保つためだ。
 女性化のため弱くなっている腕力を改めて恨めしく思いながらウィラは細身の剣を振るっていた。細身の剣ではゾンビの動きを止めるのが精一杯なのでそのあとバックラー(小型の盾)を叩きつける必要がある。しかし軽量のバックラーでは一撃では難しかった。それを見ていたシフが声をかけた。
「ロックさんからメイスを借りましたので私がゾンビの頭部を」
「大丈夫なの?」
「好きじゃありませんけど死ぬのはもっと嫌です」
「じゃあお願い」
会話中もゾンビの勢いが落ちているわけではない。返事をしながらもウィラはゾンビのパンチをバックラーで受け流し剣をその目につきたてた。ゾンビは方向を失いウィラの横でたたらを踏む。ただの窪みにしか見えぬその眼窩から魔力で視界を得ているのだろう。そこをすかさずシフがメイスをふるい頭部を破壊する。休むまもなく次のゾンビと向かい合ったウィラは視線の隅でロックとフレッドが黒の乗り手たちのいる森に到達したのをとらえた。
「もう少しの辛抱よ、シフ」
「は、はい」
 少し時が過ぎ黒の乗り手たちが倒されるに従い立ち向かってくるゾンビの数も減ってくる。余裕ができたウィラがシフを連れ助太刀に向かおうとしたときロックとフレッドの勝どきが上がった。
 すぐに4人は合流するが、息も荒くつかれきっているので無言のままだ。男性化したフレッドにシフは驚きを隠せない。しかし他の3人と同様とりあえずは先に返り血を洗い流したかった。あまりにも臭い。

 入り江は緊急の船着場として使われているらしく、簡単な浮き桟橋が設置してあった。一足先に岸に上がったウィルが急に立ち止まる。
「どうなすった。なにか変かね」
見習いに繋留の指示を出していた船頭が気付いて声をかけた。
「いえ」
そう。確かに変な気配がしているわけではない。気配がなさ過ぎた。ロックをたたき起こして引っ張って来たフレッドもウィルの横に並ぶ。2人は昼ごはんのメニューでもめていた。そのすぐ後ろにシフ立っている。シフがとまどいげな表情を浮かべているのはウィルと同じ理由なのだろうか。
「シフ、どうしたの」
「え? ああ、ウィラさん。妙に静か過ぎるかなって」
ウィルが同意しようと口を開きかけたとき、4人を取り囲むように多数の黒い影が立ち上がった。船頭たちの悲鳴があがり、ウィルたちは鞘を払った。
 シフの顔は恐怖に引きつっている。
「これはいったい……」
ウィルはシフをかばう位置に足を運びながら声をかけた。
「リビングデッドよ。心配ない、操っているものが近くにいるはずだからそれを倒せばいいの。ロック!」
「おう! しかしそう簡単にいかないかも知れんぞ。森を見ろ」
「ああ」
そこには九つの騎馬の姿があった。黒の乗り手である。腰の短剣を抜いたシフにウィラは声をかける。
「あの者どもの馬は不死身です。乗り手のマントをはぎ陽光を当てれば人馬とも消滅しますよ。ただ剣は一流ですから」
シフことフォウはゾンビの中にバズがいないのを感謝しながら叫んだ。
「心得た。俺に任せろ!」

(8)

 船首に立っていたウィルは後ろを振り返った。既に大河の中央を越えており、ここまでの所は順調に来ている。すぐ後ろにいるシフが微笑んでいた。ロックは船室でいびきをかいているはずだし、どういうわけかシフを嫌っているフレッドはともの方で舵を操る船頭の側にいる。他には帆の操作をする見習いが1人いるだけだ。
「どうされました?」
シフの問いに応えようとしたとき妖気と共に風が止み船が下流へ流され始めた。船頭がのろいの言葉をはいたのでウィルは船尾に向かう。
「何か不都合でも?」
「なにかどころじゃありませんですぜ。ごらんのように風が止んじまったので」
「それはわかりますが」
「この季節のこの時刻に風が止むなんざぁ考えられない。きっと何かの呪いに違いねえ」
船頭は手で十字をきった。東方教会の信者らしい。船上を沈黙が支配した。ウィルが妖気のことを聞こうとしたとき再び風が吹き始めた。ただし今までとは向きが逆だ。再び船頭がのろいの言葉を吐く。どうもまだ神に任せきるほど教会に帰依していないようだ。
「風は吹き始めたようですけど」
「素人さんにはわかるまいが、上り性能の良いこのボートでもこの流れじゃかなり下流に流されるんでさあ」
船頭は簡単にタッキングの説明をしてくれた。
「予定の船着場は難しそうですね。下流は危険なんですか」
「まあ街道筋からは見えねえ入り江を知っているからそこに泊めまさあ」
向こう岸を見ていたシフがこう言った。
「あちらに見える森のところですか?」
「へい、さようで」
不機嫌そうにフレッドかくいつく。
「なぜわかったのさあ」
「フリーダ、やめなさい。失礼でしょう、言い方が」
「だってぇ」
「かまいませんわ。帆船のこと少しは知っていますの」
船頭とシフの帆船の話を少し聞いてからウィルは話を戻した。
「あそこなら盗賊からは安全なのですか」
「まあ見なせえ」
「はあ」
そういわれて見ても入り江の奥に小さな林があるだけで何の変哲もない。
「木は生えているものの回りは草地で見通しがいい。盗賊どもがこの船を見つけて入り江に向かえば一目瞭然、船をつけなければ良いんで。まあ到着は遅れてしまいますがね」
「なるほど」
確かにあらかじめ木陰に潜んでいない限り襲うのは無理な地形だ。疑り深かったフレッドもどうやら納得した。

 翌日の明け方フォウが持ち物の点検をしていると後ろから声をかけるものがいた。
「お頭」
昨夜も質問したバズだ。ごつい見かけに関わらず優れた知性の持ち主なのでフォウは高く買っている。ナックルダスターを胸の谷間に隠しながら返事をした。
「どうした?」
「あ、あ、あのぉ~」
「なんだ?」
「胸を」
「あ」
顔を赤らめたフォウは慌てて手で隠す。
「ちょっと横を向いていろ」
「へい」
武器の固定を確かめて上着を羽織った。
「いいぞ。どうだ上手く隠れたかな」
「はい。しかし腰のナイフは」
「旅の女だ。自衛の短剣の一振りはないほうが不自然さ」
「なるほど」
納得顔でしきりにうなづくバズであった。
「で、なんのようだ」
「へい、今日の獲物のことで疑問があるんで」
フォウは真顔になりバズを見つめなおした。
「それで?」
「一つはどうしてこの3人に目をつけたかということ、もう一つは金貨5000枚は大金とはいえ、どうしてお頭みずから危険を冒しなさるかってことです」
(こいつの評価を上げるべきかもしれないな)
「実はな、ややこしくなるからみんなの前では言わなかったが、これは依頼された仕事なんだ」
「殺しですかい?」
「そうでもない。年上の女は生きたままとらえる必要があるんだ」
「報酬はたんまりと?」
「もう半金は受け取ったさ」
「奴らの金貨と仕事後の半金で大儲けってわけですかい」
「その辺りは微妙だな」
「と言いますと? ああ、そういえば昨日お頭は変なことを言いなすったですな」
フォウは興味深く聞きなおした。
「どんなことだ?」
「俺たちの退却の合図を決めなすったじゃないですかい」
「ほー、それがそんなに変かな。奴らは、少なくとも男は手ごわそうだぞ」
「お頭が選んだ10人は腕っこきですぜぃ」
「なあ、バズ」
「なんです、お頭」
「お前は実に素晴らしいな」
「お褒めに預かって光栄です」
「それでお前はどう推理するんだ、俺の考えを」
「依頼人より獲物の方が金持ちなら」
「ほほーう」
「はるかに多く搾り取れるかもと」
「ふふん。まあそういうことだ。それに」
「それに?」
「なんでもない」
フォウは依頼人である名も名乗らぬ怪しげな娘のことを思い出していた。へりくだった態度の中になんともいえぬ怪しさと冷たさを感じさせる人物だ。
(人物? あれで人なのだろうか、あるいは噂に聞く魔物の一族なのだろうか)
金のために人を殺すこともあるとはいえ、フォウは魔物の手伝いをするなど真っ平であった。

(7)

 アトランとシマラが新都から大公爵領に向かった頃、ウィルたちは真直ぐ東方領を目指していた。目的地は東方領の最南端なので渡河地点は3つある大きな渡しの最上流になる。
 怪しげな影に襲われることもなく旅路はつつがない。3人は観光客気分で河畔の町までたどり着いた。
「どうする、ウィラ」
そう言って渡しの時刻表の前でロックが振り返る。日はまだ高いが流れと風向きが不都合なので今日の最終便は出たあとだった。
「どうするって言われても……」
「船をチャータすれば渡れぬこともあるまい」
確かにバロネスから必要経費だといわれてたくさんの金貨を受け取っており贅沢に旅をすることは可能だ。ただウィルには気になることがある。ロックとフレッドは気付かないようだが、この町に入ってからこの船着場に来るまで見張られているような奇妙な気配がしていたのだ。逆風をついて船出して日没後に水上でトラブルに会うのは避けたい。泳げないわけではないものの荷や服をなくしてしまってはこれまで順調だった旅も後戻りすることになってしまう。
「止めておこうよ。逆風だから東岸到着は夜になる」
「まあ、あわてる必要もないがな」
ロックの視線は向かいの食堂のメニューに釘付けになっているフレッドの方に向けられた。前の町で賭場に行くため男性化した反動で女性化している。
「どうだい?」
「スズキが美味そうですわ」
「ほほ~」
そう言いながらロックはベルトに手をかけた。その隙間に手を入れたのは空腹をアピールしているのだろう。ウィルはあきらめて早めの食事を取ることに決めた。ロックの空腹に理屈をこねても無駄だ。

 ロックとフレッド、今の外見ではフリーダと言ったほうが正確であるが、2人がその食欲を満たすには小一時間程もかかった。ウィルはずっと前に食べ終え、夕食にはまだ早い時間で手持ち無沙汰なウェイトレスに町の噂話を聞いていた。チップの払いの良さそうな上客のテーブルにいるのを店主もとがめることはできない。彼女たちの収入は主にチップによっているからだ。
「盗賊がいるってこと?」
「はい、旅のお方」
「この辺りは公爵領にも近いし治安もいいはずだけど」
「もちろん街中や王国や公爵領の街道筋で大胆な行動に出るわけではありませんわ」
「とすると」
「流れの速いときや風の向きによっては渡し舟ははるか下流に流れつくことがあるでしょう」
「なるほど、人目につかないところへね」
ウィルは窓の外に見える渡し舟乗り場に視線を向けた。
「それで今日は早々と店じまいと言うわけなのか」
「ええ、安全なら夕刻まで船を出せますもの」
「でもこれだけ用心してれば盗賊も干上がってしまうでしょうね」
「そうでもありませんわ、お嬢様」
「どうしてなのかしら」
既にウィルはお嬢様と呼ばれるくらいでは違和感を感じない。
「お急ぎの方は船を仕立ててお渡りになりますし」
船のチャーターを提案したロックはデザートのケーキを咽喉に詰まらせ、フリーダが慌ててクラスを渡した。
「正規の料金より安い無鑑札の業者もお多うございますから」
「その人達も危険でしょうに」
「盗賊どもも普段はどこかに暮らしているわけでしょう」
「なるほど」
同行者2人がそれぞれ3人前のデザートを食べ終わるのを待ち、ウィルはウェイトレスに礼をいって料金と共に十分なチップを手渡した。彼女の顔が輝いたところを見ると期待をはるかに上回っていたのだろう。

 3人が店から出て宿屋街に向かおうとすると後ろから声をかけられた。
「あの~、もし」
それは同じ店にいた少女だ。店が空いていたので窓際でずっとお茶を飲んでいたのに3人とも気付いていた。
 彼女はウィルに向かっていたのでウィルは少し驚いた。3人だと見知らぬ人はたいていロックに話しかける。どう見てもリーダー格だから。
「なにかしら」
名をシフと名乗ってから少女は続ける。
「実は盗み聞きする気はなかったのですが、先ほどの貴女とウェイトレスとの話を聞いていて恐くなりまして……」
聞けばシフは先を急ぐので明日早朝出発できる小船を予約したのだと言う。
「鑑札を持った業者なのでしょう」
「はい。でも大河の流れはまだ数週は早いままだと……」
「それで?」
「皆様に同乗していただければこれほど心強いことはありません」
視線を受けたロックは胸を張った。シフは続ける。
「ノウズカットが恐ろしくて」
「それは誰ですか」
「大盗賊のフォウをご存知ありませんの? 顔の傷でノウズカットと呼ばれている」
 ウィルは時間を遅らせて自分たちと大きな船で渡河するように勧めてみた。しかしシフは一刻を争うようだ。
「大型の渡しだと出港時間が遅いだけでなく、乗船と下船にも時間がかかりすぎます。何しろ馬車や貨物や家畜まで乗せるのですから」
女性に優しいロックが同調する。ウィルも必死な願いを断りづらかった。フリーダは不審気な顔をしているものの無言である。結局明日早朝に桟橋で会うことになった。


 その夜河岸にある使用されていない倉庫に盗賊が集まった。
「てめえら、上玉をつかまえたぞ! 金貨だけで5000枚はくだらない」
一段高い樽の上でそう声を張り上げたのはウィルたちに窮状を訴えていたシフだ。
「お頭」
側にいた人相の悪い男が話しかける。
「なんだ、バズ。話の腰を折るな。これから作戦の話だっていうのに」
「その恰好なんとかなりませんかい」
「恰好?」
「小娘に指揮されているようでしまりませんや」
「そうは言うが明日の朝にはこの恰好で獲物たちに会う必要がある。この変装は大変なんだ」
子分たちは顔の真ん中にある傷あとまできれいに消えた盗賊フォウの顔をまじまじと見て確かに魔法を使うにしても難しそうだと納得した。

おお、久々のamahaさんだー。
またよろしくお願いします。

(6)

 アトランとシマラにとって人狼退治は手馴れたクエストの一つに過ぎない。しかし上手く片づけたものの長く4人で行動してきた2人は少し寂しさを感じた。なんだか物足りないのだ。
「さてと終ったな」
そう言ってアトランはワインのボトルに手を伸ばし自分の杯を満たした。仕事を終えた夜2人は宿の部屋で祝杯をあげている。
「まあな」
「何か気に入らないのか」
「そんなことはないさ、君。しかし君だって寂しそうじゃないか」
「ロックとウィル抜きじゃ今ひとつ盛り上がらないな。別にシマラに不満があるわけじゃないぜ」
「僕も同じとだけ言っておこう。それより午後の調査の結果はどうだった?」
早朝に人狼を片づけた2人は別々に魔族ルゲイスの情報を探ったのだ。
「ルゲイスはここ半年ほど、黒の乗り手もここ数週の間この辺りで活動した様子はない」
「なるほど……。僕の集めた情報もほとんど同じだな」
「ほかに何かあるのか?」
「集めた情報ってわけじゃないけれど、半年前に大司教がこのあたりを視察したのを知ってるかい?」
「ロンドが?」
「他にいないだろう」
「うむぅー」
「どうしたね、君」
「同じ考えじゃないのか」
「さてさて、なぞなぞごっこはごめんだね」
「ロンドか訪れた後、魔王の痕跡が消えたわけだろう」
「僕は君の言った別の言葉も覚えているぞ」
「俺の?」
「ほら舞踏会で言った言葉さ。『アビゲイル嬢は見た目で判断できぬ強力な存在らしいぞ』ってね」
「覚えている。ウィラ、ウィルの勘は正しいのだろうさ。あの妖艶な女は魔王の一味なんだろう」
「うん。僕も魔王に負けぬ魔力の持ち主だと思うな」
「鍵は新都の王宮ってわけか……。どうする?」
「とりあえず人狼を退治した報告をギルドにしてウィルたちと合流すべきだろう」
「賛成だ」
「ではこのボトルを空けてさっさと寝ることにしよう」
「もう2本買ってあるぞ」
「やれやれ」

 アトランとシマラの新都への旅は何のトラブルもなく終った。ギルドで報酬を受け取った2人はいつも4人の定宿をのぞき、行き違いになった場合に備え宿の主人に伝言を託してから大公爵領に向けて出発した。

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(4)

 北の町ノームに着いたアトランとシマラは二手に分かれて情報を集めた。
 夕方シマラが待ち合わせ場所の『金の斧亭』で待っているとアトランは約束よりずいぶん遅れてやってきた。
「遅いじゃないか、君」
「いろいろあったのさ。そのワインを私ももらおう」
「うん、これは西海岸産だがなかなかいけるよ」
アトランは店主に大きなゴブレットを用意させて一気に飲む。
「確かにこれは美味いな。咽喉にしみわたるようだ」
「だろう。ところでだ。君は調査にずいぶん時間をかけたうえ僕を待たせたわけだから当然僕より多くの情報を得たと期待しているんだが」
「じゃあこうしよう。君は食べ始めているようだし、ワインも口がなめらかになるほど飲んでいる。君の報告を先に聞いて、僕が新情報を付け加えることが出来れば期待に応えたことになるだろう?」
同意したシマラは杯のワインを飲み干すと優雅に口を拭ってから話し始めた。
「襲われる荷馬車の数は確実に増えている。襲われた荷馬車部隊はたいてい全滅なので目撃者に会うことは出来なかったが、修理中の馬車をいくつか見せてもらったよ」
口の中が肉で一杯だったのでアトランは手振りで先を促した。
「うん。僕の見立てではあれは人狼の仕業だな。もちろん王国内の人狼族が数百年前に西の海を渡ったと言う話は知っている。しかし残ったものがいるかもしれないし、王国の北の森のことを僕たちは知らない。トナカイを狩る種族の中に人狼族がいても不思議じゃあるまい」
肉をワインで飲み下してアトランは質問する。
「じゃあ今になって人狼が王国の商人の馬車を襲う理由はなんだい?」
「それはわからないけど、南からの穀物や北の塩漬け肉などがたくさん襲われているから、今年は森の獲物が少ないんじゃないかな。それで君の調査結果はどうなんだい?」
「確かに襲われた荷馬車の数から言えば食料品を乗せたものが多い。それはノームを初めとする北の町の穀類の価格を引き上げており住民を困らせている」
「この辺りじゃ芋くらいしかとれないからね」
そう言ってシマラは新しいボトルを注文する。
「しかしそれで都の商人ギルドが困ると思うかい?」
「う~ん、保険や価格上昇で吸収できるかな」
「御明算。彼らが困るとすればもっと高額の品や極秘に運んでいる品だろうね」
「高額な品?」
「大河東のものに比べれば小規模だが金山もある」
「なるほど。金だとさすがに度重なれば保険は利かないか、あるいは王家の鉱山からの横流し品なら盗られても表ざたに出来ないな」
「それに食料を運ぶ荷馬車と違いそれらには爪や牙の痕がないんだ。と言うより荷馬車後と消えているのさ。巨大な蹄の後だけ残してね」
「やれやれ、さては君の言っていた魔族の生き残りかい?」
「うん。黒の乗り手じゃないかと考えている」
「ルゲイルの?」
「ああ。あれには子供がいたはずだ」
「ルゲイスといったっけな」
「魔族は長命だが、あれはまだ実年令で20才になっていない」
「恐るるに足らずってとこか?」
「逆だ。手加減を知らず無茶をしそうで恐い」
「おいおい、魔族が人間に情けをかけるとでも? 君の魔族びいきもここに極まれりってとこか」
「そうとられてもしかたないが、魔族が大挙して人を襲うことはないだろう?」
「古今東西、僕の知る限りではそのような例はないようだな。同族や神族との争いは叙事詩に歌われているけどね」
「私闘は別にして彼らは集団として人類に直接手を出さないって言うのが私の考えさ」
「どういうことだい?」
「彼らなりのルールや禁忌があるんだと思うな」
「君が言っていたように魔族同士が争っているなら、親人類的魔族集団がくびきになっていただけじゃないのかな」
「確かにその可能性もあるけど、君の言う通りならその親人類的魔族には私の言う信条があるってことだろう?」
「折れないね、君は」
「智のシマラ殿にお褒めいただいて光栄です」
「やれやれ、ところでこれからの具体的な作戦だけど」
「とりあえず人狼を狩ろう」
「ギルドの考えが君の言ったとおりなら黒の乗り手こそ我々の相手じゃないのかな」
「ここしばらく、数週間、人狼以外に襲われたらしい事件はないんだ」
「確かに」
「それに相手が黒の乗り手ならロックの手も借りたい。ウィルのことも気になるし」
「決まりだな。まず人狼をやろう」
「ああ」

(3)

 次の町でウィルたちは宿泊することにし、サラと別れた。フリーダ化したフレッドの疲労がひどかったのだ。アムシャが駆けつける前に黒の乗り手の弱点を知らないまま2騎を倒したフレッドは男性源をかなり消耗したらしかった。
 2日目復活したフレッドは朝食中も反省することしきりだった。
「日光が弱点かあ。1人目で気付くべきだったなあ」
「でもそれを知らずに2騎を倒したのはすごいってサラさんもアムシャさんも言ってたわよ」
ウィルのほめ言葉にフレッドは嬉しそうだ。
「まあ奴らは軽量だったからカラットの一撃で吹っ飛んだよ。まあ思ったより一振りで消耗したんだけどさ」
「それでどうして戦いになったわけ?」
ウィルは黒の乗り手の狙いはサラたちではないかと疑っている。
「どうしてって」
「だって旅人たちはその姿を見ても襲われなかったじゃない」
「なんて言うか、目が、いや奴らに目はなかったかなあ、視線があった瞬間に奴らは飛び出してきたし、俺も何となく敵意があるのは感じた」
「どういうことかしら」
フレッドがウィルに食べさせてもらっているのを羨ましげに見ていたロックが口を挟む。
「フレッドを強敵と認識して襲ったんじゃないかな」
「どうしてロック?」
「奴らはさほど頭が良いとは思えなかったし、ほら俺たちの戦いでも俺の方に2体来ただろう」
意識がなかったフレッドが戦いの様子を知りたがったので2人は交互に話して聞かせた。
「サラスヴァティーってご婦人に会いたかったなあ」
「あら残念。お付のアムシャさんは奥様って呼んでたわよ」
「浮気する気はないさ。きれいなご婦人に会いたいって言うのは別にかまわないだろう」
本当は男だと知らないフレッドがウィラを好きらしいのに気付いていたので、ウィルは顔を赤らめた。

 大事をとってもう1日休んでから3人は出発した。街道は整備されており、都のような華やかさはないものの、村も町も豊かに見える。地道に開発を続けた住人と大公家の努力の賜物であろう。
 北出身のフレッドは平和で豊かな大公領の様子に感銘を受けたようだった。
「北は違うの?」
ウィルは鞍の前のに乗るフレッドにたずねた。
「北の町に行ったことはないのか?」
ウィルは旧都から100kmほど離れた町の名をあげた。
「そこはまだ北の国とはいえない。ノームからだな」
ノーム以北は妖精の国とも言われフレッドやアビゲイルのように耳の尖った人が多い。
「寒いの?」
「まあね。それにここほど土地が肥えていないんだ」
「でも珍しい物産があるでしょう?」
「大河東ほどは利益が出ないからね。大商人が来なくなって久しいのさ」
「この辺りも主な貿易相手はアルゴスのはず。北の町の商人も少し考えた方がいいかもね」
「なるほどなあ」

 数日後大公国の首都に着く前にその家臣がウィルの前に現れ、私邸に招待することを伝えた。3人とも堅苦しい官廷での会談を望んでいなかったのですぐさま同意を伝える。
 それでもフレッドは心配らしい。
「私邸たって大公様なら豪華なんだろう?」
「領地は広いけど大きめの田舎屋敷って所だよ。辺境伯だった大公のお爺様の持ち家の一つだったそうだ」
「ふーん。ウィラはお姫様なんだなあ」
「そんなことないって」
そう言いながらウィルは今にも笑い出しそうなロックをひとにらみした。
 彼らが馬を進める街道からはよく耕された耕地が大河まで続いているのが見て取れる。そしてお伽噺の中に出てくるようなきれいで小さい村を抜けると遠くの丘に屋敷が見えてきた。ウィルは懐かしさのあまり声を上げる。
 屋敷に入り3人で大公に拝謁した後、ウィルは大公に私室へ2人は祖母エレに食堂へ案内された。
 大公の私室に入るとウィルは挨拶も早々にこれまでの経過や母クレアの推理などを説明した。そして叔父の持つ雄性のクリスタルに触らせて欲しいという願いも話す。
 まだ20才代に見える大公はまずクリスタルを試すように言った。
「雌雄同時にかけぬほうが良いらしい」
そう言われウィルは自分のネックレスを近くのテーブルに置き、大公に手渡されたものを首にかけ防御の呪文を唱えてみた……。何も起こらない。それだけではなく奇妙な違和感があった。
 しばらく待ってから大公は話しかける。
「変化はないようだな」
「はい。残念ですが」
「ところで自分のものと比べて違いはあるかな?」
ウィルはネックレスを大公に手渡しながら感じた違和感を正直に説明した。
「なるほどなあ」
「叔父上、理由がお分かりなのですか?」
「いや、正確なところは知らない。しかしもともとその2つはクレアと私用の護身アイテムだから、親子のほうが最適に近づくんだろう」
「なるほど」
「それと妹のいった雌性の影響と言うのは考えにくいと思う。雌雄があると言うより、先ほども言ったように、クレアと私専用という説明だったからな。それとあくまでも護衛効果を上げるためのものだから君の体の女性化に積極的に関与したとは思えないな」
「そうですか……2つのネックレスの送り主は誰なんでしょう。母は教えてくれませんでしたけど」
「さる貴人なのだが、ゆるしなく教えて良いかどうかわからない。つい先日王国の東方領の視察に向かわれたから私から手紙を出しておこう。返事が来次第お前にも伝えるよ」
「お願いいたします」
「ところで都の様子はどうだった」
ウィルは舞踏会の様子と王子の相手がアビゲイルに決まりそうなことを伝えた。
「なるほどライバルがそなたでは換われとはいえないが、厄介なことになったな」
ウィルにはわけが分からない。
「なにがでございましょう?」
「クレアは何か言っていなかったか」
「母上は何も」
「今の王国には王と宰相以外にも権力を持つものがいる。旧貴族ではない」
旧貴族は年金を目当てに王宮に集う宮廷貴族という王冠の飾りになっている。
「大河東に土地を持った軍人や大商人出身の新興貴族たちだ。爵位はまだ男爵や準男爵と低いが、圧倒的な経済力を誇っている」
「確かに東方領の領主は羽振りが良いと聞いています。でもそれに何か問題があるのですか?」
「20年前の勝利の後、大河東に移住した彼らは現国王への忠誠心が高い。それだけに宰相が実権を握っている現状を憂えている。国王が宰相に対して不満を表明しないのでトラブルまでいかないというのが正しいだろう。王は政務より享楽を愛しておられるからな」
「宰相の養女が妃になると内乱が起きるといわれるのですか?」
「すぐにではないさ。しかしきな臭くなるのは間違いない。わが国もな」
「叔父上の領地まで?」
「世界は天秤の上で微妙に揺れているのだ。東方の領主たちが王室や宰相から離れれば、今は押さえられている旧王国領の住民は立ち上がるかもしれない。そして各勢力も私に合力を求めてくるであろうな」
ウィルは相手の顔をまじまじと見つめた。
 20年前の戦乱が起こったときまだ10代だった叔父は先代からの家臣オットー・ロートリンゲンらの協力があったとはいえ一代でこの大公国を築き上げた。その叔父の予測は信頼できるようにウィルには思える。
「内乱を避ける手を打たれないのですか、叔父上は」
「むろん戦乱など私は望まない」
「では」
「私は動けないのだよ」
「なぜなのですか」
「私の発言や行動は全てこの大公国を背負ってのものになる。中立をうたっても、そうは思ってもらえないのだ」
そんなものかもしれないとウィルは納得した。
「そうだウィル。君なら出来るのではないか?」
「しかし」
「確かに引退したとはいえロック・サンダースの息子ならあまりにも国王に近い。しかしウィラならどうかね」
「それも叔父上の」
「確かに養女にはしたが私には実子もいるし、君はアルゴスの出身ということになっている。王子の相手が決まればフリーの立場と言っても良いだろう。頼めないかね」
「わかりました。情報だけでも集めてみましょう」
「うん。ネックレスの送り手からの返事がきたら連絡する」
「お願いします」
「そういえば」
「なんですか?」
「ウィルが女性化した後、まあ女性の体になったのは別にして、男のときと変わったところはないかな」
「変わったと言いますと?」
「痣とかほくろとか――そんなものさ」
ウィルは一つ思い出した。
「そういえば……」

Ⅱ 妖婦アビゲイルの秘密

(1)

 舞踏会は各自の思わくを秘めたまま盛会のうちに終った。ウィルは約束は果たせなかったものの、国王が結果に満足しているのを見てほっと一息ついた。
 ウィルの母クレアは3日ほど親子水入らずで過ごした後、自宅へ戻った。
 その3日間でクレアはウィルに女として重要なことを教えた。それは必要なことであり、タイミングは絶妙だった。初日赤い顔をして説明を聞いていたウィルが2日目は青い顔をして教えられたことを実践するはめになったのだから。
 女になったことを徹底的に実感したウィルは一刻も早く叔父のもとへ行こうと思った。

 ウィルが母を見送った日の夜、4人は宿の食堂に集まって今後のことを相談した。
 アトランは4人一緒を提案する。
「私たち4人は4人でいてこそ最強なんだ」
「でもこれは僕個人の問題なんだし」
ウィルが4人で行くのに消極的なのは都の商人ギルドからの依頼があったのを知っているからである。アトランもそれに気付いた。
「僕たちの資金は潤沢なはずだ。前回の国王の支払いだけでもたいした額だろう?」
と言って数理に明るく一行の会計係でもあるシマラを見る。
「ねえ君。確かにそのとおりだけど、ここは金だけの問題じゃない。こういった依頼が来るのは信頼あればこそなんだよ」
そう言ってまだ意見を述べぬロックを見た。
「諸君、この店の鴨は最高だぞ!」

 結局、ウィルにはロックが同行することになった。ウィルは親戚に行くくらい1人でもよいと主張したのだが、旅慣れた3人は女性の1人旅の難しさを知っている。それに今回のクエストをこなすのにアトランとシマラの組み合わせはむいていたし、2人も相手が1人でウィラに同行するのを互いに牽制した。そのてんロックなら安心だ。

 翌日早朝、出発するウィルとロックを見送りに出た2人は見通しの甘さを思い知らされる。そこにはもう1人の旅の仲間フレッドの男性化した姿があった。
「ウィラのことは俺にまかせな」
「あなたが、あのフリーダ?」
ウィルが驚くのも無理はない。大剣を背に颯爽と馬にまたがる若者は北の種族の特徴である尖った耳をもつ美丈夫でウィルが男の目で見ても凛々しかった。
「そうさ。もうかなり男性源がたまったからなあ。昼の移動中の間くらいは大丈夫なのさ」
 昨夜のうちに商人ギルドにクエスト受諾の返事をしてしまったアトランとシマラは歯噛みをして見送るしかなかった。
「まあ俺に任しておくんだな」
と言うロックの発言に、
「頼むよ」
アトランは心の底からそう言った。
「僕からも頼む」
シマラは食べていないときのロックは頼りになると自分を慰めた。だが実際にはそれは問題にならない。フレッドも負けずに大食いなのだから。


 馬に乗ったウィルたち3人は南の城門から都を出てそのまま南下する。
 20年前戦場になった王国はその傷からまだ完全に回復していない。時間が足りなかったのではなく、投資や開発が利益率の高い大河の東に集中したためである。
 旧王国領ではコンティ大公領だけが戦前を凌ぐ繁栄を誇っていた。大河東の利益を享受する新興軍閥と大商人を除く国民に王家の人気が無い理由の1つがこれである。
 街道網の整備も戦前を下回っている。完備しているのはいまや王国の大動脈である東街道と今ウィルたちが使っている南街道だ。南街道には王家の許可を得てウィルの叔父が敷設し管理しているコンティ街道が途中東から合流しており、そのまま南の山脈をこえアルゴスに至る。アルゴスは王国が混乱している間に異教徒の国ウスルを倒し出来た新興国で王国とも大公領とも友好関係にあり貿易が盛んだ。

 絶好の旅日和で気持ちのよい日差しのなかウィルの表情は今ひとつさえない。街道脇に小さな茶店を見つけて同行の2人に頼んだ。
「悪いけど少し休ませて」
「いいとも」
ロックは鷹揚にうなずき、フレッドは
「俺が先に席を押さえてくるぜ」
と言って馬に鞭を当てた。そろそろ昼が近いので周りの旅人も休みたい頃である。

 ウィルは茶店の老婦人に白湯を頼み薬を飲んだ。クレアから分けてもらったものである。ロックは人生経験からフレッドは自らの体験でウィルの不調の原因を察していたのでいらぬ発言はしない。
 ウィルが落ち着いたところで昼食になる。最初はまだ空いていた席もその頃にはほぼ埋まっていた。
 ここの名物はごく薄く焼いたパンで具を巻いて食べる料理である。ウィルは卵と野菜を、フレッドは鳥のもも肉焼いたものを、ロックは豚の肩ロースの燻製を注文した。
 料理が届いたときには気分も良くなっていたのでウィルも食が進む。残りの2人は食事に夢中だ。話し相手のいないウィルはきれいな景色を見ながら聞くともなく旅人の会話を耳に入れていた。
 他愛のない話の中に一つ気になるものがあった。南街道とコンティ街道が合流する辺りに目つきの悪い騎馬武者がうろついていると言うのである。
 ウィルは失礼にならぬように声をかけてから質問した。
「私どもはこれから南へ向かうので気になるのですが、その怪しいやつらの数は?」
「これは美しいお嬢さん」ウィルは顔を赤らめながらも会釈した。「1,2騎でないのは確かですが、一堂に会していたわけじゃないのでわしにはなんとも。おい、お前は義勇軍にいたんだろう昔」
男は話し相手でもある相棒に声をかけた。
「そうさなあ。俺も自身はないが10騎前後だろうさ、あれは」
「盗賊でしょうか」
「治安の良い昨今でも高価な荷を運ぶ商人たちは十分な武装をしております。10騎ではねえ。お嬢さんたちは気をつけたほうがよかろうな」
ウィルが頼りになる2人と一緒と説明するために横を見ると2人は10皿ずつ積み上げて大食い競争中だった。
「あら。えーっと気をつけますわ」
「それがええ。何しろまだ悪さをしたわけじゃないから、わしらぁ役人に訴えることもできない。それにあの黒ずくめの連中は変だったな。なあ相棒」
「ああ、あの頭巾の中の顔は昼間でも黒くて判別できない。まるで黒い霧で出来ているようだった」
「人ではないのでしょうか」
「そうかもしれないとわしは思いますのう」
「魔族じゃないのか?」
と食べ終えたフレッドが質問する。昔義勇軍にいたという男が反論した。
「お侍様、こう言っちゃなんですが、魔族と言うのはあんなもやもやしたモノではありません。物の怪や霊と違ってちゃんとした生き物なんですぜ」
「北方の魔族は陰気だったし、少し輪郭がぼんやりすることもあったけどなあ」
「わしは南の山脈近くの村の出身ですが、魔族は確かに陽気でしたな」
ウィルは話題を戻したくてたずねた。
「黒い騎士たちはなにをしていたとお考えですか?」
「わしにはとんと」
「俺は誰かを捜しているんだと思うぜ。狙われる恐れがある身なら十分な備えをしていきなさるが良い」
「これだけ食べれば10騎程度大丈夫だ!」
食べ終わったロックはそう言って分厚い胸を叩いた。


 その後3日間は何事もなく過ぎ、3人はコンティ街道との分岐に近づいた。旅人の話を思い出して3人は警戒を怠らない。気になるのは昼過ぎで往来の多い時間のはずなにに人影が見当たらないことであった。
 堂々と馬を進める巨漢ロックのそばにフレッドは馬を近づけた。旅を共にしてから何度か手合わせした回避型のフレッドは、パワーに特化したロックを尊敬するようになっていた。ロックのレベルになれば敏捷性は無意味に近い。なにしろフレッドのカラット顔負けの大剣を片手でレイピアのごとく扱うのだ。
「ロックさん、少し周りを見てきます」
「ああ、頼むよ、フレッド君」

 馬に拍車をあて一気に南下したフレッドは三叉路まで来た。左に折れれば目的地の大公国、直進すればアルゴスである。見回しても怪しい影はない。一瞬迷ったあとフレッドは南に進んだ。
 北からの旅人は彼ら3人しかいない。とすれば怪しい黒の騎手たちの目標は南か東から来る。東へはどうせ行くのだからフレッドは南を見ておこうと考えたのだ。若いフレッドは冒険を求めていた。

 ウィルたちが三叉路に着いたとき周りに人の気配はなかった。
「フレッドもいませんね、ロック」
「周辺を見回っているんだろうな」
「来るまで待ちましょうか?」
「いやこのまま移動した方が良かろう。あいつも俺たちがここで待つとは思っていまい。街道以外に入ったなら途中で合流しようとするだろう」
「なるほど」
「まあしかし、5分ほど休んで水を飲むのもよかろう」
2人はコンティ街道に少し入り路傍の石に腰かけた。馬も草を食み始める。東から気持ちの良い風が吹いていた。
 ウィルは水の入った皮袋とロックのために干し肉を一塊雑のうから出す。乗り手の体重差のためウィルの方に余分の荷は積まれていた。
「ロック、お肉は?」
「これはありがたい」
 木陰で汗を拭き水を飲んだ2人はそのまま黙って過ごした。
 
 2人は決して油断していたわけではない。旅人の忠告もあったしフレッドも戻っていないのだ。だから突然後方に気配を感じたときは跳び上がるほど驚いた。
 立ち上がり振り向いた2人の視線の先には馬に乗った2人の人物がいた。ちょうど三叉路のところである。いくら風上にいたとはいえ蹄の音もしなかった。街道脇の森は深く馬の歩める道はない。とすれば手前の草地に虫に刺されながら潜んでいたことになる。それもありえないとウィルは思った。何しろ1人は美しく身分の高そうな貴婦人なのだ。
 意外なことに相手の2人もウィルたちに少し驚いたらしい。木陰にいたから気付くのが遅れたのかもしれない。2人もコンティ街道に入ってきた。異国風の装束からするとアルゴスからの旅人なのだろう。王国とも大公国とも友好を保っているアルゴスだが、より大公国と親しいと世間では認識している。
 2人が目の前を通り過ぎようとしたときウィルは立ち上がって声をかけた。
「見知らぬものの忠告を聞いていただけますでしょうか」
驚いたことに貴婦人が直接答える。
「近き者のみの言葉しか受け入れぬは愚者の行い。どのような助言をしていただけるのでしょう」
顔を上げて間近に見ると金髪を結い上げた美女はまだ20代前半らしく見える。お付の者も整った顔をしているが身のこなしからなかなかの使い手と思えた。
 ウィルは名を名乗り、旅人から聞いた怪しい騎馬の集団の話をして同行のフレッドがまだ戻らないことも付け加えた。
「頭巾を被った10騎ですか」
「はい。頭巾の中身は黒い霧のようだと申しておりました」
貴婦人は供に話しかけた。
「アムシャ、ちょっと見てきてくれるかしら」
アムシャというのがその名らしい。
「かしこまりました」
そう答えるとアムシャは馬をとばし街道を南へ向かった。ウィルの横に立っていたロックが貴婦人に質問した。
「私はウィラと共に旅をしているロックと申す。貴女は黒い奴らについて何かご存知なのですか?」
「これは失礼いたしました。私はアルゴスのサラスヴァティーと申しコンティ大公領の知人を訪ねる途中なのです。サラと呼んでいただければ結構です」
丁寧な挨拶に対しロックはウィルが見とれるくらい優雅にお辞儀をした。
「おたずねの者たちは黒の乗り手と私が呼んでいる存在と思います。さすれば9騎いることになります」
「何者なのでしょう」
「魔族のことはご存知ですか?」
「少しは。20年前まで南の山脈一帯に数多くいたことや最後の魔王をロック・サンダースが倒したことは承知しております」
「これは噂ですが魔族も2派に分かれて戦いを始めたそうです。そして異界では今も戦いが続いているともいいます。また人間界に残った魔王ルゲイルは倒されましたがその子にルゲイスというものがいる様子。黒の乗り手はルゲイルの手先でしたからルゲイスが活動を始めたと言うことでしょう。ただ……」
「ただ?」
「なにを捜すために派遣されたのかが良く分かりませんね。おやアムシャが戻るようです。お連れが無事だといいのですが」
ウィルとロックは馬を西に向けた不思議な美女サラを黙って見上げていた。不思議な話だが、法螺とは思えぬ説得力を感じていた。
 それにしても耳には自身のあるウィルには何の音も聞こえない。数分してサラに聞きなおそうとしたとき微かな馬蹄の音が聞こえてきた。
「お二方、武器の用意を」
サラはそう言いながら取り出した弓に弦を張っていた。2人も馬にまたがり武器を用意してから質問する。
「どういうことですかな?」
「何が起こったのです?」
「先行する馬が2頭、1頭はアムシャでもう1頭は空馬、追跡するのは6騎でおそらく黒の乗り手です」
シマラの魔法に慣れている2人は説明を受け入れる。ただサラの魔力の大きさに内心驚いていた。
「私は近接戦闘は苦手ですが高速で移動できます。ロック殿はウィラさんをよろしく」
「心得た。相手の弱点は?」
「馬は不死身です。乗り手のマントをはぎ陽光を当てれば人馬とも消滅します。ただ剣は一流ですよ」
「一流がどんなものか、これからお見せいたしましょう。なあ、ウィルァ」
「ウィルァって」
「すまんすまん、ウィラ。来たぞ!」
ロックはそのまま突撃し、ウィルは聖なる護衛の印を結んでから飛び出した。
 既にアムシャは角を曲がっていた。懐には何か抱いており、乗り手のいないフレッドの馬を引いている。
 最初の攻撃は近くの木の枝に突如出現したサラである。速射で1人の乗り手のマントをはぎ消滅させた。
「奥様!」
アムシャの呼びかけでサラは近くにより懐のものを受った。すれ違いざまウィルにはそれが幼女となったフレッドだと見て取れた。
「大丈夫、息はあります」
サラはそう叫ぶと消え、余分の馬の手綱を手放したアムシャは馬を止め向きを変えた。
 最初に敵に近づいたロックの大剣を受けようとした敵はその怪力を止めきれず剣とマントをとばされて消えた。構えなおす暇もあらばこそロックは次の敵に跳びかかり共に馬から転げ落ちた。あと3騎。
 馬ごとぶち当たり間合いを詰めたウィルは相手の剣を受け止めると左手に持った鞭をマントに絡めてずり脱がせ敵を消し去った。
 残りの敵とすれ違ってしまったウィルとロックが振り向くとアムシャは既に1騎を消し去っている。
 最後の1騎が馬首をめぐらした背後にサラが出現して見事にマントを剥ぎ取り皆に優雅に一礼をして戦いは終結した。

(2)

 ウィルと別れたアトランとシマラは北へ向かっている。ギルドの依頼は北方の交易路に出現した魔族の生き残りの退治である。2人は早く片づけようと馬を急がせていた。
「それにしても魔族の生き残りとはね。ルゲイルが最後の魔族じゃあなかったのかい?」
シマラはぬかるみに馬が脚を踏み入れたので顔をしかめながら言った。街道はところどころ石畳がはがれ傷みが激しい。
「20年前手ひどい打撃を受けた東の蛮族とて全滅したわけではあるまい。しかも一部は東方領で陛下の臣民になっているぜ」
「ねえ、君。それは穏やかならざる例えじゃないか。魔族が我々の間に入り込んでいると?」
「では逆に聞こう。どうして入り込んでないと言い切れるのかな」
「そうだなあ。魔族には翼手や尾があるじゃないか」
「君は得意の魔法変身で尾や翼を生やせないのかい?」
「なかなか言うね。では彼らのもつ邪気はどうだい」
「邪気のないものが生き残ったとすれば?」
「確かにそれじゃ区別はつかないな。しかし君がそんなに魔族の肩を持つとは思わなかったよ」
「そういうわけじゃない。現に今回の相手を私は魔族だと思っているし、確実に倒すつもりだ」
「ますます分からないな」
「私の父の領地は南の国境に近くて昔は魔族は身近な存在だったのさ」
「今はいないんだろう?」
「どうかな。魔族同士で戦ったと言う噂はあるんだが」
「ははあ、その時邪悪な魔族は消滅したと?」
「なんとも言えないね」
「では君は魔族をどうとらえているのかな?」
「人とは異なる種族、元々はいわゆる魔界の住人なんだろうな」
「平凡な回答だね」
「私の言いたいのは人にもいろいろあるように、魔族にもいろんな奴がいるだろうってことさ」
「魔族に知り合いでもいるのかい?」
「さあ、どうかな」

勇者ウィルの冒険

『勇者ウィルの冒険』 第2章の前に

 支援所図書館及びわかば板にある『魔王様と私』は関連作品です。説明は第4章にあります。
 ただあちらはキスより先まで書かれていますのでご注意ください。

 

あむぁい様
 ありがとうございました。楽しみに待ちます。

イラストの作成交渉に成功しました。2週間から1ヶ月ほどお待ちくださいませ。

お疲れ様です。
TS娘3人セットですね。他のキャラをからめて映像化も良いかと思ったのですが、娘たちのコントラストを取るためにそれも良いかもしれませんね。依頼してみますー。

続きもぜひよろしくー。

あむぁい 様へ

 お話がここの雰囲気に合うかどうかとても気になっていたので御提案とても嬉しいです。
 差し支えなければ、絵師様も良ければですが、女性化したキャラ3人がテーブルのそばにいるところなどいかがでしょう。
 大食いの2人、食べられないウィラ。
 妖艶な2人、幼いフレッド。
 善の2人、闇のルゲイス。

 絵になりませんでしょうか。ご検討ください。

 PS
 《Ⅰ 妻をめとらば勇者様》は(12)までの予定だったのですが、この後旅立ちますので(Ⅰ)はここで終了になります。
 続けて良いのでしょうか。
 良ければ、(Ⅱ) 仮題 『妖婦アビゲイルの秘密』始めます。

amahaさん、連日の投稿ありがとうございます。
役者も揃ってきて目が離せません。

(6)の「ウィラと王子」、(7)「宰相とアビゲイル嬢の密談」、(9)の「ウィラのはじめてのコルセット」、(11)の「舞踏会」などイラスト化しても楽しげに思いますが如何でしょうか?ご希望あれば、そら夕日さんに依頼してみますが。いや、とりあえず一つか二つーw

描写外の事や、描写があっても場所が離れている場合は反映されない場合がありますので詳細説明があったほうがイラスト作成上は良いです。なければわたしが適当に指示しちゃいますが。
あと、ラフの段階でチェックしたければメルアドをこっそり教えてくださいませ。


(11)

 昔からヘクターはウィル・サンダースが大嫌いだった。ウィルは王家と並ぶ富と力を持つコンティ家出身の母と今をときめく宰相と一時は権力を二分した男を父に持つ王国一のスターだ。おまけに父親の元を離れてからも冒険者としての殊勲は目覚しく勇者としても名高い。
 そのウィルが女性化したと聞いたとき真っ先に思い浮かんだのは、恥じているだろうウィルを思い切り嘲ることだった。実際そのつもりで父である王についていったのだ。舞踏会の話はそのための方便だった。
 ところが目の前に現れたのはこれまで見たこともない可憐な美少女で、ヘクターは最初純粋に彼女を手に入れたいと思った。
 しかし徐々に欲望の黒い炎がヘクターのわずかに残った良心を焼き尽くした。ウィラを妻にし夜伽をさせること、それはウィルを憎む男にとっては二重の喜びである。

 舞踏会は始まり、ヘクターは自ら描いた筋書きを思い返して悦に入っていた。
 まず宰相の意をくんでその養女アビゲイルが近寄ってくる。氷山のようなとけなしはしたが、美しいのは確かだ。いくら王子だからといえ女性に恥をかかせるのはまずい。一度は踊りを申し込まなければ失礼だろう。そうすれば次は約束したウィラがそばに来る。そうだ! その時は音楽を変えさせよう。ムードがあり体を密着させるダンスを選ぶのだ。そして……
 しかし踊りが始まる時間が近づいてきてもアビゲイルとウィラは近くにいない。
 周りは宮廷貴族の娘ばかりだ。先の大戦のあと大河東に領土を広げたことで王家は富んだ。しかし戦場となり荒廃した大河西の旧領土は疲弊し経営の才がない封建貴族の多くは王宮で王に養われる存在になる。王家は彼らを養い直臣として武官や文官の地位を与えて手なずけた。それが宮廷貴族である。
 広い会場を見回したヘクターは2人を見つけたが、娘たちに取り囲まれているので簡単に動けない。
 ヘクターの忍耐は尽きかけていた。


 アビゲイルとフレッドが次々と大皿に挑むのをウィルはあきれてみていた。ウィル自身はきつくコルセットをはめられているので干した果物を少し食べただけだ。腹部が締め付けられて食べ物が通らないし、トイレに行きたくなっても困る。会場のトイレにメイドの集団と入るのは避けたい。
 しかし、あきれてばかりもいられない。鐘がダンスの時刻が近づいているのを知らせている。ウィルは先に挨拶をしておこうと思った。もちろんアビゲイルにだ。
 近寄るとどう声をかけようかと迷う前にフレッドが紹介してくれる。思いのほか女性が板についていた。考えてみれば名前は別にしてフレッドの少女経験はウィルよりはるかに長い。切り替えが早いのは当然かもしれない。
「こちらはブレスリン宰相猊下の御息女、アビゲイル様です」
「アビゲイル・ブレスリンです。フリーダはアビーと呼んでくれますわ」
ウィルは相手を再評価した。冷たい感じを受けるのは変わらないけどとても知的で魅力的なのだ。
「こちらはお友だちのウィラ」
「よろしくお願いします。ウィラ・コンティと申します」
アビゲイルとフレッドはお腹が落ち着いたのか食べる速さをゆるめウィラと話し始めた。王国北の事情や大河周辺の話題が続く。夢中で話すうちにダンス音楽が始まった。
 音楽に気付いてアビゲイルが動きかけたのでウィルも追いかけるためにテーブルに背を向けた。ヘクターと踊りたくなどないが、約束は約束だ。振り向くとき裾を踏まぬよう足元を見ていので視線を上げたウィルは驚くことになる。回りは3人にダンスを申し込もうと待ち構える男たちであふれていた。さすがに誰とも踊らず切り抜けることは出来ない。一瞬顔を見合わせた3人の乙女はそれぞれ気に入った男性に手を差し伸べた。


 アトランとシマラは交代に踊りながらウィルの様子を見ていた。ご馳走のあるところではロックは役に立たない。
 適当なところで踊りを切り上げて2人揃ってウィルの見える壁際による。ウィルは壁にもヘクターにも近寄れず踊り続けていた。フレッドはテーブルの皿にもどり、アビゲイルはヘクターのそばまでもう少しの所にいる。
 運ばせた大杯を飲み干してアトランがつぶやく。
「俺たちのお姫様は勇者ウィルほど器用じゃないらしい」
シマラはちゃんと聞いていた。
「ねえ君。どじな戦士は顧みられないだろうけど、ダンスの申し込みを断らない娘を悪く言うものはいないよ」
「そりゃそうだが……。ところでどうなんだ、宰相猊下の作戦とやらは」
「うん。昨日までに集めた情報と会場で集めた噂話からするとアビー嬢と王子をくっつけるのはまず間違いないな」
「待ちたまえ。そんなことは最初から分かっていた事だろう。縁談の申し込みがあったと王子自身が陛下の前で言ったのだからな」
「だからだねぇ、君。国王陛下ご自身も縁談に反対していない、いやそれどころか乗り気だとしたら?」
「何を言っているんだ。じゃあ俺たちへの依頼はどういうことだ?」
「王子がアビー嬢を避けたいのは本当だろう。君も見たろう?」
「尻にひかれるのは間違いなさそうだ。しかし国王陛下が妨害工作を止めなかったのはなぜだい」
「こういう問題は本人同士の気持ちもある。王子が納得した上でないとまずかろう」
アトランが口を開きかけたのをシマラは遮った。
「待ちたまえ、確かに王族や上級貴族に政略結婚は珍しくない。しかし今回の相手は王国の全権を掌握し、かつ宗教界の最高権威である宰相猊下が相手だ。遠い異国の姫より夫婦仲が問題になるのは目に見えている」
「妨害工作のほうがまずいだろう」
「君、相手のことをお忘れかな」
「ウィルか?」
「正確にはウィラだな。国王は王子とウィラの結婚も視野にいれていると思うな」
「確かにサンダース家とコンティ家によしみを通じれば宰相を蹴落とせる。しかしだな、ウィラが本来男と知っていればありえないだろう」
「過去に同様の例があるのを王家の者が知っているとしたらどうだ」
「私は聞いたことがない」
「僕だってさ。しかしこの女性化魔法に永続性があると王や王子が知っていれば」
アトランは若い貴族に何か耳打ちされて真赤な顔のウィラを見ながらうなった
「むぅ」


 次々に相手が現れ進めないのでウィルは途方にくれていた。気がつけばアビゲイルは既に王子と踊り始めている。やっと新しい相手と踊り終えてお辞儀をして振り向くとまた男がいた。
「お嬢さん、御相手お願いできますか」
相手はまだ若く少しおどおどしている。これなら拒否できるかもしれない。
「でも、わたくし」
「あ、あのー、友人たちは皆あなたと踊ったので……」
男の視線の先にはにやけた笑いを浮かべた3人の男がいた。1人はウィルにキスを迫った奴だ。気の弱い友人が拒絶されるのを期待しているのだろうか。
 ウィルは相手に聞こえない程のため息をついてこう返事をした。
「一曲お願いいたします」
「ありがとう!」
 背中が大きく露出して胸を強調するドレスを着て男のリードで踊るのはとても恥ずかしい。体を密着させるダンスでなくともだ。見上げれば今の自分の体と男たちとの身長の差を意識するし、男に握られた自分の手はあまりにも小さく非力に感じられる。これほどの体格差で女たちは男が恐く無いのだろうかとウィルは不思議に思った。
 音楽がスローテンポになり男の手が腰に当てられるとウィルは顔が熱くなるのを感じた。おとなしそうな男が大胆な行動に出たわけではない。これがこのダンスの型である。
「ご気分でも悪いのですか。お顔が赤いですが」
「いえ」
「休憩されますか?」
確かに少し疲れたかもしれない。モンスターとの戦いなら長時間がんばれるウィルも男とのダンスには苦戦していた。
「よろしいですか?」
「もちろんです」
2人がテーブルに向かおうとすると男の友人3人も動き始めたのでウィルは近くにいたアトランとシマラに目配せした。

「君たち、野暮なことは止めたまえ」
「大人しくした方がいい。シマラはウィラのことになれば容赦しない男だからな」
「彼はアトラン、あっちで牛を丸ごと食べているのがロックだ。名前くらい聞いたことがあるだろう?」
3人はすごすごと引き下がった。

 ウィルよりはるかに緊張しているおとなしそうな男と話しているとウィルはかえって落ち着いてきた。今までの自分がバカに思える。何もウィルが緊張する必要はない。クエストでは勇者が、戦場では騎馬武者が、そして舞踏会では高貴な姫が華なのだ。
 ウィルが求めたジュースの杯を手渡して男が言った。
「もう大丈夫ですか?」
「ええ」
そう言いながらウィルが浮かべた笑顔に今度は男のほうが赤くなる。
「そ、それならいいんです」
「ところでお名前は? 私は」
「存じ上げています。おそらく会場の全員が」
「あら」
「わが名はコンラッド。コンラッド・ロートリンゲンと申します」
「コンティ家にお仕えのオットー様とご関係が?」
「自慢の祖父です」
「まあ! あなたは今なにを?」
「陛下の近衛部隊の……」
 そのまま話し込んでしまったウィルがふとヘクターに目を向けるとアビゲイルとのダンスを終えたところだった。おそらく2度目になる。コンラッドに礼を言い急いでヘクターのいる会場中央に向かおうとするとまた引き止められた。
「申し訳ありませんが……シマラじゃあ」
「一曲お願いいたします」そして小声で付け加える。「しぃー、少し話しがある」
「こちらこそお願いいたします」


 アビゲイルとの2度目のダンスを終えたヘクターは焦っていた。氷山のように冷たくて貧乏性で大嫌いなはずの女だのに、ダンスをして目をのぞきこんだとたん魅入られたようになってしまう。1度目はともかく2度目はかなり効いていた。
 1人勝手に歩き去るのは無作法で無様なのでダンス相手が欲しかった。誰かと踊りながらアビゲイルから遠ざかればよい。宰相の娘であるアビゲイルに遠慮して宮廷貴族の娘たちは離れていた。
 ヘクターはウィルが近づこうとしているのに気付き小躍りする。しかしそれはシマラによって防がれた。その時ヘクターはアビゲイルと行動していた小娘がいることを思い出した。社交界デビューぎりぎりの年令でまだ結婚話が出るには幼い。そばに行き声をかけた。
「お嬢さん、踊りませんか?」
振り向いた娘は良く見るとかなり可愛いのでヘクターは喜んだ。しかしなかなか承諾の返事はこない。皿の無花果とヘクターを見比べているのだ。
「では腹ごなしにお受けしましょう」
何かの侮辱かとヘクターは身構えたが、女はごく自然体だった。何か地方で流行っている冗談なのかもしれない。
「お名前は?」
「フレデリカ・ザリエル」


 ヘクターがフレッドと踊り始めるとシマラはウィルをアトランの元にともなった。まだ食べ続けているロックが壁代わりである。
 ウィルはアトランとシマラの顔を交互に見てから不審げに質問する。
「どうして邪魔を? 約束は破りたくないんだけど」
 アトランは説明した。それは、王子がアビゲイルとの婚姻を嫌っているのは事実だが、国王と宰相はそれを望んでいるらしいこと、国王がこの妨害工作に反対しなかったのはどうやらウィラなら宰相の娘に負けない好条件なので乗り換えても良いと考えたと推測できること、などである。
「でも僕は男だよ」
とウィルは小声で2人に主張した。
「しかし魔法探知では君の体は完全な女性なんだよ」
「それはそうだろうけど」
「結婚も出産も可能ってことさ」
「それは」極力ウィルが考えないようにしている事実だ。
アトランも小声で参加した。
「君が王子と踊れば、アビゲイル嬢に対する王子と同じ立場になるのさ」
「どう?」
「王家がコンティ家の養女を嫁に望めばコンティ家の拒否は戦争の火種になりかねない。それにそうなったら本当のご両親であるサンダース家も今度は何らかのお咎めを受けるだろう。君の父上はかなり強引に辞職したからね」
「そんな」
「おいシマラ、あれも話せよ」
「焦るなよ、君。これから話すところさ。アビゲイル嬢を間近で見るのは今回が初めてなんだが、どうも怪しい」
「魔力は少し感じたけど邪悪な物ではなかったよ」
「ウィラの言う通りなんだがな。じゃあ聖魔法か?」
「王国教会の使うものじゃなかった」
「ではなんだ?」
「良く分からないや。巨大なものの一部で全体が見えない感じだった」
「諸君、ウィラの意見は傾聴に値する。どうやらアビゲイル嬢は見た目で判断できぬ強力な存在らしいぞ」
「確かにこの会場のベストスリーの一角に入るな」
と、いつの間にか会話に参加していたロックが言った。テーブルの食べ物がなくなったのが参加理由だ。アトランがロックの巨躯を見上げてたずねる。
「後の2人は誰だ」
「もちろん1人は俺、もう1人はフレッドさ」
シマラは空の皿しかないテーブルを見て言った。
「大食選手権じゃないんだぜ」

 4人の前方では魅入られたような目をしたヘクターがアビゲイルと3度目のダンスをしていた。アビゲイルを気に入ったフレッドが一肌脱いだのだ。もちろんシマラの合図も受けてのことである。それに未来の妻のウィラをヘッポコ王子に渡す気はさらさらなかった。

言及、リンク、いずれもまったく問題ありません。

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(9)

 舞踏会までの1週間、ウィルの最大の敵は母親であった。断れば無理強いしない侍女と違い母は強引にウィルを従わせた。
 まずは下着、女性化しても断固拒否していたセクシーなデザインのもの以外今のウィルの引き出しにはない。たくさんの枚数が用意されているもののどれもこれも小さくて薄くて頼りなかった。
 次にコルセット、ただでさえ細く頼りなくなった腰を母はぐいぐい締め上げた。おかげでウィルは出来上がっていたドレスまでまた試着しなおして補正を受ける始末だ。
 そして化粧にヘアメイクにアクセサリー……親孝行のウィルも最後にはさすがに苦情を言った。
「母上、ここまでしなくてもよろしいでしょう。僕は男にもどるつもりですし、国王陛下もそこまで要求されますまい」
「お父様の教育方針が全て良かったとは思いません。確かにあの人は正直に真直ぐにあなたを育てました。しかしそれが今のお父様の」
「父上も母上も尊敬しております」
「わかっています。でも言いたかったのはあの人がいつも言うベストを尽くせをなぜ今はしないかということです」
「今のベスト?」
「今のあなたは舞踏会に招待された女の子なんですよ」
「ですから男に戻ると」
「女を気に入ったら?」
「魔法で変えられた者はみな元の肉体にもどりたいと思うに違いありません」
「そうかしら」
「え?」
「とにかく舞踏会終了までは女の子なんだから」
そこまで言われてウィルは逆らえなかった。
「では舞踏会まで」
「いい娘ね」


 舞踏会当日、会場についたウィルの心中は緊張感というより、やっとこれで終るという安堵感で一杯だった。即終ってくれるなら始終笑顔でヘクターとダンスしても良いと思うくらいだ。
 それにしても……馬車を降りたウィルは豪華さに目を見張る、そこはまだ会場の外に過ぎないのに。舞踏会はウィルの知らない世界であった。たくさんの人々が集まり群集のざわめきと熱気が会場周辺を包んでいる。そこにいるのは招待された客ではなく、集まる著名人を一目見ようという人々だった。
 ウィルは仲間たちと絨毯の上を進んだ。先頭はロックにエスコートされたウィルの母親である。
「クレア・コンティ・サンダース様とロック卿」
群集の大歓声にウィルは驚いた。2人はそれほど有名なのだ。
「ウィラ・コンティ嬢とアトラン卿」
ウィルは自分の歓声にも驚いた。
「フレデリカ・ザリエル嬢とシマラ卿」
黄色い悲鳴はシマラのファンらしい。

 会場内も騒然としていた。招待客が多いため開演までもう少しかかるのだろう。さっそく料理のあるテーブルに向かっていくロックとフレッドがウィルは少し羨ましかった。別に任務があるから遠慮しているのではない。母が締めたコルセットがきつくてとても食べられないだけだ。しかたなく給仕からソフトドリンクを受け取る。酒に強いアトランは最初から蒸留酒を飲んでいた。
 時間をもてあましたウィルは入場してくる招待客の紹介を聞いていた。さすがに知った名が多い。そして、
「アビゲイル・ブレスリン嬢とロンド・ブレスリン宰相猊下」
娘を見たウィルは生まれて初めてヘクターと意見が一致したのを認めざるを得なかった。

(10)

 フレッドは反省していた。これまで女性化していた時のほとんどを隠れてすごしてきた。理由は恥ずかしいこともあるけれど、主に戦闘力が極端に落ちるためである。確かに田舎の治安の悪い山道なら小娘の体でうろつくのは危険だ。しかし逆に有利なときもあるのをウィラたちに会って初めて知った。例えばこの舞踏会だ。ここではフレッドのフリーダは皆に大切にされ美味いものが食い放題! もちろんいつものように大口を開けて食べるわけにはいかない。でもすき放題食べられるなら少々エチケットのことを言われるくらい気にならなかった。

「シマラ様、あの猪の丸焼きのテーブルにまいりましょう」
「鶏は?」
「もう骨しかありませんわ」
「う……」
それでも紳士的なシマラは恭しくフレッドに手を差し出した。
「ご苦労様」
テーブルをまた独占かと思って近づくとライバルがいた。華やかな舞踏会に黒を基調としたドレスを着ているやせた女だ。まるで喪服ではないか。フリーダは女の反対側に陣取って給仕に切りわけを依頼した。
「かしこまりました」
切られた肉を口に入れると予想に反してとろけるようだ。まだ若い猪の肉はとても上手に焼いてあったし、ソースも絶品である。野趣あふれる味を期待していたけどこれはこれでおいしいと思った。締まった猪肉なら旅の途中でいくらでも食べられる。
 何度目かのお替りを頼もうと思ったフレッドは向かい側の女の前にも皿が積み上げられているのに気付いた。どうやらやせた体に似合わぬ大食いらしい。フレッドはライバルに挨拶しておくことにした。シマラはどこかへ逃げてしまっている。
「フレデリカ・ザリエルと申します。よろしければフリーダとお呼びください」
相手はフォークを休めてフレッドに目を向けた。
「アビゲイル・ブレスリン、アビーと呼ぶが良い」
失礼な言い草にフレッドは切れた。瞬間湯沸かし器である。
「なに威張ってるのよ、ぎすぎす女」
「え?」
どこからともなくシマラが飛んできてアビーに詫びる。
「申し訳ありません、アビゲイル様。まだ世間知らずでして」
文句を言おうとしたフレッドには耳打ちをした。
「おい、名前に覚えがないのか。こいつがウィラのライバルだってば」
ウィラが国王に頼まれてヘクター王子とアビーの妨害をすることは聞いていた。有名な3人冒険家のエスコートで現れたウィラとフレッドそれにクレアは当然知り合いと思われる。ここで諍いはまずいし、フレッドも将来の嫁と決めたウィラの邪魔はしたくない。
「ごめんなさい、アビー様」
 アビーことルゲイスにとっても争いになるのはまずい。高飛車な対応はつい地が出たのだ。
「こちらこそ失礼しました。父の威をかるつもりはありませんのよ。それにしても見事な食欲ですね」
誉められてフレッドのなかのアビー好感度は急上昇した。少々顔色が悪いのがどうしたと言うのだ。きっと上流だから日に当たらないのだ。
「アビー様こそ、次はあちらの大マグロはいかがですか?」
「あれは私も目をつけていました」
「参りますか?」
「参りましょう」
取り残されたシマラは食べつくされた皿をにらんで呻いていた。
「どこに入ったんだ」

(8)

 舞踏会への出席を決めると一行は直ぐに準備を始めた。まず調べられても良いようにウィルの自宅の両親それにコンティ家の祖母と叔父に連絡する必要がある。招待者名簿に載れば目立つので必ず両家に問い合わせが行くはずだ。何しろウィラは誰も素性を知らない娘なのだから。
 人選は最初もめたが、コンティ家にはアトラン、サンダース家にはロックと決まった。聖魔法を使う宰相が相手なのでシマラの参加は必須である。だから使いに行ってトラブルで戻れないと困る。そして大公家への使いは堅苦しいとロックがごねたので自然にアトランがコンティ家に決まった。

 次の問題は衣装である。国王も参加する大規模な舞踏会なので都は大騒ぎ、仕立て屋は予約で一杯になっていた。むろん皆新調しようとしているのだ。
 ウィルは困ってしまった。別にヘクターの気を引きたいわけではないけれど、嘘でもコンティ家の一員と名のるのだからへたなドレスをきるわけにはいかない。ウィルの大好きな祖母の顔に泥を塗ることになるだろう。にわか女で買い置きのドレスもない以上何とかつてを頼るしかない。
 その日も何軒か仕立て屋を回ってウィルたち3人は宿に引き上げてきた。3人と言うのはフレッドもまだ一緒にいるからである。フレッドが舞踏会への参加を熱心に希望したためだ。別にドレスが着たいとかではなく、貴婦人たちを見物したいというのが理由だ。忙しいウィルはフレッドの行動を黙認すると言う楽な道を選んだ。

「さてどうしようかな。あと2週間だぞ」
こう言ったのはシマラだ。都でも顔の広い彼はウィラ用のドレスを何着かそろえてはいた。しかしそれは小金持ちの徴税師か代訴人の娘にならともかく大貴族の姫様のパーティードレスにはふさわしくなかった。
「僕に言われても」
とウィルは困惑顔だ。
「この前買ったやつでいいだろう。俺とおそろいだし」
貴婦人見物を決め込んでいるフレッドは気楽なものだ。
「そうだ! ねえシマラ、実は」
ウィルは渡し舟で知り合ったワイルダーのことを話した。都で顔が利くかもしれないと。
「いや、ウィラ。それは無理だろう」
「なぜ?」
最初の頃は内輪だけの時はウィルと呼んで欲しいと言っていたが、最近はウィラ呼ばれても本人は自然に返事をしている。
「ウィラ・コンティの名が招待客名簿に載った時点で君は重要人物だからさ。雇い主の養女のライバルに手を差し伸べることはないだろう」
「そうか……」
2人がため息をつき、フレッドがあくびをしたとき宿の表が騒々しくなった。身軽なフレッドは窓に駆け寄りカーテンの隙間からのぞく。
「大名行列かな……あ、アトランのおっさんだ。アトラン様ぁ~、ここです。フリーダはここですよぉ~」
興味を持った2人も窓際まで移動した。確かに大きな馬車が何台もとまっていた。
「おい、ウィラ」
「ええ、コンティ家の紋章ですね」

 待つほどもなくアトランがやってきた。
「どうしたんだね、あの行列は、君」
「ああ、ドレスで困るだろうとご隠居様がつかわされたお抱えの仕立て屋と侍女たちさ」
「ほー、さすがだなあ」
「まあ、あのお若さをご隠居様と呼ぶと怒られそうだがな」
「それほどか」
「ああ、お若いぞ」
「自慢のお婆さまです。それでは服はもう心配ないんですね」
「いや、これからさ」
「え?」
「採寸だけで1日かかるだろうな」
「とほほ」

 数組の仕立て屋たちが採寸を終えるのに言われたとおり丸1日かかった。しかしそれで終わりではない。最後の採寸が終ると最初の仮縫いが終わり試着して補正する。しかも各組ともドレス以外に何着かつくる予定でいた。大好きな祖母の依頼と聞けばウィルは断ることもできない。
 そしてこの頃からウィルの女性化への戸惑いは大きくなっていた。確かに変身した当初にも違和感はあった。トイレだって違うしアトランたちの接し方も変化した。しかしシマラの提供してくれた外出着は乗馬を前提に作られたもので動き易く多少のレースの飾りをのぞけばシンプルなデザインである。
 その後は急ぎ旅のせいもあり仲間3人以外で多少なりとも接したのはフレッドとワイルダー男爵だけであり、それほど女であることを意識せずにすんだ。もちろん極力それを考えないようにしていたこともあるだろう。
 しかしドレスの目途がたち心に余裕ができた今、毎日のように女性らしい衣装(もちろん侍女たちはランジェリーもそれなりのものを用意する)を着ていると女であることを意識せざるを得ない。何しろ奥手のウィルでも思わず告白したくなるほど鏡の中の少女は可愛いのだ。この姿を見たヘクター王子のにやけた笑い顔を思い出すたび背筋が寒くなる。

 1週間前になり何着かドレスが出来上がった頃、試着とダンスレッスンで疲れたウィルに来客が告げられた。
「後にしてもらえないかなあ」
と仕立て屋とともに来た侍女に告げると彼女は困った顔をした。しかし来客は案内を待たずに入ってきた。めったに怒らないウィルも疲れからか機嫌が悪かった。
「一体どういう」
「教育を受けたのかしら」
「母上!」
「あらすっかり可愛くなったけど私のウィルに間違いなさそうだわ」
「あ、あのー」
ウィルは侍女がいるので焦ってしまう。
「心配ないわ。母上、あなたのお婆様の派遣した者たちは信用できるし世界の不思議にも慣れていますから。もちろん仕立て屋さん達は別よ。ねえ、あなた」
侍女は深々と礼をして同意を示した。
「でもどうして母上が」
「ロックさんが余りに可愛い可愛いと言うので会いたくなったし、それに妹の社交界デビューを手伝いたくってね」
「妹?」
「さすがに我が家の家族構成はばればれだし、あなたはコンティ家を名乗ったのでしょう?」
「はい」
「かといって私の兄の子たちはまだ幼い。だから妹が妥当じゃない?」
「はあ、しかし」
いくらなんでも祖母の娘では通じまい。もちろん魔法がかけられていると噂されるほど祖母が若く見えるとしてもだ。
「連絡ではアルゴルからの養女ということになるそうよ」
「アルゴル?」
「妃殿下がお婆さまや私のお友達なの。いつかあなたも紹介するわ」
「どうせなら男に戻ってからに」
「そんなこと気になさる方ではないわ」
「そうなのですか」
いつもは母親に従順なウィルも相手はともかく自分の方が気にすると思った。
「そういえばアトラン殿から事情はききましたよ」
「はい。宰相猊下の養女の」
「それは政治的な問題、引退したお父様や私にはもう関係ありません」
「では?」
「そのネックレスのクリスタルについてです」
「原因がわかるのですか! 元に戻せますか」
「私が正規の魔法使いでないことをあなたは良く知っているでしょう」
「ではわからないと」
「ええ」
「ああぁ」
「でもヒントはあるの」
「何ですか、母上」
「ネックレスはある方から私がいただいたものなのよ」
「それが何か問題なのですか?」
「あなたの事件をきいて思い出したんだけどそれは雌雄一対の護符なの。あなたの身に降りかかった危機が大きすぎたので雌性の影響がでたんじゃないかしら。もう一つは兄上が持っていらっしゃるわ。これが終ったらお訪ねして兄上のクリスタルを試してみてはどうかしら」
「ありがとうございます。希望が持てました、母上。叔父上の所をお訪ねします。お婆様にもドレスのお礼を言わないといけませんし」

(6)

 都に入る3日目にはフリーダことフレッドはすっかりウィルに馴染んでいた。今もウィルの鞍の前に乗りはしゃいでいる。
 まるで妹、いや弟ができたようだ。そう考えたウィルは慌てて頭の中で否定した。シマラの魔法探査ではもとのフレッドはウィルと変わらぬ年令だという。この姿になっているのは、本人は聖剣カラットの力と呼ぶが、魔剣の呪いのためだ。
 剣自体は雌性で男と共生関係になり、ホスト(宿主)を強化してくれる。ここまでならフレッドの言うように聖剣と言っても良いのだけれど、力を発揮するとホストの男性力を大量に消費してしまうのだ。その時ホストが死なぬよう剣が吐き出す雌性力でフレッドはフリーダになる。幼女なのは剣がまだ幼いためらしい。

「ウィラ、何か考え事?」
フレッドは振り向いてウィルの顔を見上げていた。
「ええ、ちょっと」
「カラットもウィラが気に入ったってさ」
「あら」
「こいつが女の子を誉めるのは初めてだぞ」
フレッドは鞍に固定してある剣の柄を軽く叩きながら言った。
「その剣、お話ができるの?」
「会話って言う意味ならできない。でもイメージは伝えてくれるんだよ」
「ふーん」
「俺のこと」
「え?」
「俺のことを考えていたんなら、質問してくれれば答えるぜ」
「いいの?」
フレッドはこれまで自分のことを話すのを嫌がっていたのだ。
「いいさ。もう仲間じゃないか」
「え、ええ、まあ」
ウィルたち4人は都で別れるつもりでいる。ただフレッドがこのままの姿なら養い親を見つける必要があった。はっきり聞いておく必要がある。
「最初に会ったとき当分男にならないとか言ってたけど、どのくらいの期間なの? それにこれまではどんな間隔で」
「いざって言うとき俺様の助けが借りたいってことだな」
「ええ、まあ、それも含めて。それより人通りも増えてきたから口調に気をつけて。目立ちすぎるわよ」
「ああ、うん。普段特に何もしていないときは半々だな」
「半日はその姿なの?」
「ああ、まあほとんど寝て過ごすから問題ねえ、わ」
「それで戦った後は?」
「言っておくが今でも男に戻れるぞ、わ」
「それは聞いたけど、たしか女で固定する可能性があるって」
「ああ、そのー俺、私は男性源と呼んでいるんだけど、そいつを使い切るとやばいらしい、わ」
「その姿だと男性源が早く溜まるってことね」
「そうさ、よ。男性変化に結構消費するから常に満タンを心がけているのさ。普通でも半日女なのはそのため」
「それで今回は満タンまでどのくらいかかるのかな?」
「山賊が余りに失礼だったので怒りに任せて全開しちゃったので」
「しちゃったので?」
「1ヶ月くらいだな」
「1ヶ月か……首、大丈夫?」
会話の間フレッドは首を後ろに捻ったままだ。
「柔らかいから大丈夫、それに」
「それに?」
「ウィラの良い匂いを嗅いでいたいし」
「まあ!」


 都の城門で詰問されることもなく5人は町に入った。十数年前に建設されたこの都は以前の都に対して新都とか東遷されたので東都と呼ばれることもあった。王国の領土が大河の東まで広がったための遷都である。
 報告を急ぐのでとりあえずフレッドも城に連れて行き入り口であずける。さすがのフレッドも2,3度文句を言っただけであきらめた。
 国王は第一王子とともに会議室で待っていた。ウィルの変身のこともあり予め極秘の謁見を求めてある。衛兵はいないがウィルたちは武装を解いていた。
 ウィルは自分の身に起こったことも含め報告すると持ってきた宝を王に手渡した。
「これはまさしく東の竜王の宝玉である。ご苦労であった。約束の金子は財務卿のところで受け取るが良い」
ウィルがお礼を述べ4人が頭を下げた後国王は続けた。
「爵位は受けてくれないのであろうな」
「名誉と金貨だけで充分でございます。それに爵位は父が返上したものゆえ」
「この話はよしにしよう」
これは国王と会うたびに繰り返されるセリフである。
「その身にかかった呪い、早く解けることを祈っておるが、旅立つ前に一つ助けてもらいたいことがある」
「ありがたきお言葉、感謝します」
「ところでウィル」
「はい」
「今はなんと名のっておったかな」
「ウィラ・コンティと」
「たしか母親の実家の名だな」
「さようでございます」
「それは好都合やもしれぬ」
その時王子がにやけた笑いを浮かべて前に出たのでウィルはいやな予感がした。第一王子ヘクターに嫌われていることはウィルも知っている。
「どういうことでしょう」
「実は近々都の市長主催の舞踏会がある」
都は特別区なので市長は王族を招待できるほど高位だ。
「父上陛下、自分で説明いたします」
「その方が良かろう」
「実は宰相殿から僕に縁談の話しが来ていてね」
さっぱりわけが分からないのでウィルは黙っていた。
「知ってるかもしれないが、宰相に娘はいない。北方の貴族の娘を養女にしたらしいのだけど、これがもう氷山なみの冷たさ、おまけにひどい貧乏性ときている。踊るくらいなら我慢するけど宰相の養女につきまとわれたら他の娘は遠慮して近づけないだろう。そうなれば世間的には婚約したも同然、他の縁談話は立ち消え、あれと結婚せねばならなくなる」
相手の娘のことは知らないけど王子の言い方はあまりにもひどすぎるとウィルは思った。王子は話を続けている。
「そこでだ。コンティ家の女なら充分張り合えるだろうし、現状王家と疎遠になっているから接近の為に婚姻を望んでもおかしくはあるまい」
「コンティ家に、叔父上のご家庭には適齢期の娘子はおりませんが」
「お前だよ、ウィル」
「へぇ?」
「どこの馬の骨とも判らぬ娘を、例え芝居でもコンティ家は娘と認めまい。お前なら事情を話せば隠し子とでも養女としてでも認めてくれるに違いないさ」
ウィルは即座に断ろうと思ったが、後ろでアトランの咳払いが聞こえたのでこう言った。
「1人では予定を決められません。少し仲間と相談したいと存じます」
「良かろう。隣室をつかえ」
と王は言い、王子は薄ら笑いを浮かべていた。

 小さな会議室に4人は集まった。ロックは隅のキャビネットでワインのビンを見つけたので3つの杯にそれを注いで残りを直接口に流し込んだ。
 ウィルは渡された杯に手をつけない。
「どうして止めたのさ、アトラン。意味もなく人を嫌うのは趣味じゃないけど、ヘクター王子は苦手だし、ましてや女として彼と踊るなんて嫌だよ」
「それは私にも理解できる」
「じゃあどうして?」
「宰相が関わっているというのが気にならないか?」
「宰相猊下に悪い噂があるとは誰かが言っていたけど、権力者を悪く言う人っているものでしょう」
あきれたアトランが天を仰いで口をつぐんだので止む無くシマラはワインで口を湿して語り始める。ロックは3本目のワイン瓶を開けていた。
「なあウィル、君は父上から何か話を、あるいは父上と今の宰相の噂を聞いたことがないのか?」
「父上は冒険者時代のことや軍の任務のことは何も仰らない。それに父上と宰相猊下の係わり合いなど誰も教えてくれなかったよ」
「そう言われれば僕も話し難いな」
シマラがアトランの方をみるとまだ天井を見ている。ロックは早くも4本目らしい。
「それなりのわけがないならこの話は断るよ。あいつのリードで踊るなんて嫌だ」
「一つ昔話をしよう。お伽噺のようなものだ」
と視線を戻したアトランが話す。
「お伽噺なの?」
「ああ、東の蛮族を退け大魔王を退治した直後の話だ」
「それはお婆様にきいたよ」
「そうだったな。君の祖母のエレ・コンティ様が亡夫の部下とご友人の助けを借りて王国を救った……その直後のことだ」
「うん」
面白そうな話にウィルは夢中になった。
「戦後の混乱で王国内は疲弊していた。それは政府の中枢にいた前大司教を初めとする国教教会の幹部はほとんどが行方不明になったことや軍部の主だったものが戦死したのも大きく影響したのだろう。戦後なぜ王家とコンティ家の関係が冷えたのかは知らない。ともかく大公爵として反独立状態になったコンティ家の助けなしで王国はやっていく必要があった。その時文武の2本柱になったのが今の宰相ロンドと君の父上だ」
「へー、そんなに偉かったんだ」
「そうさ、知らなかったのか」
「うん」
3人のあきれたような視線にさらされてウィルは小さくなった。
「とにかく2人の活躍で国内が落ち着き始めた頃大魔王の配下で北に逃げた魔王が蠢動を始めた。名をルゲイルという」
「父上が倒した魔王だね」
「ああ、そうだ。そして魔王を退治した直後から2本柱の関係が悪くなる」
「なぜ?」
「それはわからない。2人とも誰にも何も話さないからな」
「それで父上は引退したのかな」
「ところが直ぐじゃない。しばらくして、確か2年ほどして征東大将軍に任じられたときだ。これは実質的な左遷なんだ。そして直後ロンドは人臣を極める」
「一体なにが」
「わからない。しかし藪の中だけにいろんな噂がある。有名なのは例えば宰相が魔王と通じていたというものだ」
「まさか、そんな」
「かつての大司教が滅んだ大魔王と通じていたという話もある」
「それー知ってるぞぉ」
部屋にあったワインを全部飲んで暇になったロックが割り込む。
「しょれが王家とコンティ家の断絶のげいいんなんだろう」
「鯨飲はロックじゃないかな」
「ウィラちゃん、洒落がじょぉるですねえ!」
「僕はウィルだよ、しっかりして」
「女の子にしかみえましぇん」
あきれたウィルはロックを無視した。
「アトラン、僕には初めての話で面白かった。でも舞踏会とどう関係あるのさ」
「宰相猊下の動き、冗談とは思えないだろう?」
「僕もこれはアトランに賛成する。人臣を極めた宰相が養女を王子に嫁がせたら国王の」
ウィルにも問題は見えた。
「お命が狙われたらヘクターが……。嫌だけどやりましょう」」

(7)

 ウィルが国王に舞踏会参加の決心を伝えに戻った頃、宮殿内の別の1室でも舞踏会の話題になった。
 それは宰相の私室に1人の少女が入り始まる。
「ロンド殿、貴公は舞踏会まで自由にしろと言ったはずだな」
少女が入ると直ぐに宰相は人払いをしたので部屋には2人しかいない。
「さよう。しかしそれよりまず言葉遣いを改めていただかないと。これも約束のはずですぞ」
「約束はしたが貴公の家来になったわけではない」
「それは良く承知しております。あなたは誇り高き魔王なのでしょう」
宰相の声に潜む嘲りに若い相手は気付かない。
「そうだ! 魔王ルゲイスは人間の家来にはならん」
「しかし今のあなたはルゲイスではありますまい」
「詭弁を弄するな」
「ほーう。あの鏡を見ながらそういいきれますかな」
「なんだと」
鏡には少し線の細い薄幸そうな美少女が映っている。
「そしてあなたは何を言いにまいられたのですか?」
「あ、ああ、舞踏会まで少し羽目をはずそうとしたのだが、変身が解けないんだ」
「私どもの魔法は魔族には解けませんよ」
「なぜだ!」
「種類が違うのだそうです。まあ聖と悪ですから」
「くそ、騙したな」
「人聞きの悪い。あなたは私の孫を王位につけるまで協力すると約束しましたよ」
「それは確かに」
「約束を果たすまであなたはロンド・ブレスリンの養女アビー(アビゲイル)・ブレスリンなのです」
「くそ、わかったよ。約束したのは確かだからな。しかし他の魔法も上手く使えないんだが……」
「その魔法は単に別人に見えるだけのものではありません。その手の変身は魔力の強いものには見透かされてしまいますからね」
「単純な変身でないのはもうわかっている」
「あなたを根本から作り変えたのです」
「では魔族でさえないと?」
「魔族なのがばれでもしたら偽装結婚もできますまい。人間の娘に変身していただくとはっきり申し上げたはずですよ」
「ちっ、貴公の作戦に乗るしかないらしい」
「そろそろ日常から言葉遣いにお気をつけ下さい」
「はい、わかりましたお養父様」
スカートをつまみお辞儀をしたアビゲイルにはロンドの邪悪な笑みが見えなかった。
 やれやれ、どちらが魔族なのやら。

コメント

 あむぁい様、感想ありがとうございました。序章というか助走というか、離陸に手間取っております。
 勇者ウィルの冒険、北の魔王ルゲイルは魔王ルゲイスの父親、フレッドはそのままそら夕日さんのキャラです。複数出演がだめなら名を変えます。 
 欲張りすぎかなあ。

(4)

 4人での話し合いでウィルは人前ではウィラ・コンティと名のることになった。コンティと言うのはウィルの母方の姓なのでまんざら嘘というわけでもない。
 ウィル改めウィラはロックと馬を並べて少し先を進んでいる。笑い声が聞こえてきた。どうやら巨人ロックを乗せた馬がへばりかけているのをからかっているらしい。10mほど後方でシマラと共に駒を並べて進むアトランはそれを見て微笑んだ。
「ねえ、君」
言われて隣にいるシマラに注意を向ける。
「どうした」
「その笑みさ。君までウィラちゃんに惚れたんじゃあるまいな」
「そうじゃない。ただ女性化したショックを乗り越えてくれたようなので嬉しかっただけさ」
「そのことなんだが」
「うん?」
「僕が彼に説明したように女への変化があのネックレスの働きで起こったのは間違いない。母上の贈り物の力を信頼してるからこそ、ああして暢気に旅をする気になったのだろうさ」
「確かに魔物の力で変身させられたより安心だろうな」
「僕がウィルに強力な力が働いたと言ったのを覚えているかい?」
「無論だ。第一普通の変身魔法なら君が解いているだろう」
「うん。でも実はそれだけじゃないんだ。邪悪な気配こそないけれどあれは魔族の使う魔法に近いと思う」
「もう少し詳しくウィルに聞くか」
「ウィラちゃんだろう」
そのとき少女の悲鳴が聞こえたので2人は慌てて馬腹を蹴った。

 近寄ると2人が互いに謝りあっている。
「すまない。わざとじゃないんだ、ウィル」
「こちらこそ悲鳴をあげてすいませんでした。ちょっと驚いたので。それからウィラと呼んで下さいね」
「ああ、ウィラ。俺が悪かった」
事情を聞こうとアトランは割って入る。
「2人ともどうしたんだ」
「冗談を言い合っていて俺がいつものつもりで抱き上げてしまったのさ、そのーウィラを」
「あーっと、えーっと、あのー、ちょっと手が胸に来て驚いたのでー」
その恥らう可憐な様はアトランを直撃した。
「そ、そうか」
強い視線を感じて横を見るとシマラがねめつけている。
「君?」
アトランはシマラの耳元でささやいた。
「ウィラが可愛いのに改めて気付いただけさ」
「遅すぎるぞ、君」
 2人が内緒話をしている間にウィルとロックは仲直りをしていた。
「あのー少し驚いたけど以前どおりにして下さるほうが嬉しいです」
「そうか! でもそのーこれからは気をつけるよ。敏感な部分に」

(5)

 数日後大河の東岸に着いた一行は渡し舟に乗り込んだ。渡し舟と言っても川幅も広く王国の東への街道の一部で交通量も多いのでかなり大きい。船倉もあり馬や馬車もそのまま乗れるようになっていた。
 ウィルは1人で甲板に出た。時間ぎりぎりに乗船したので他の3人は手続きや馬と荷物の固定に行っている。大幅に雑用が減ったのは女性化したおかげだ。
 手すりに身をあずけてウィルは西岸をながめていた。この辺りは彼にとっておなじみの場所だ。西岸の港から南に向かえば母の兄が治める広大な領地がある。幼いとき父親が冒険の旅に出るとよく母とそこで過ごした。そうだ西の領地に住む母の元で男に戻ったら一度叔父を訪ねよう。兄思いの母は父の引退で住居が遠くはなれたことをいつもぼやいていた。
 良いことを思いついたと体を動かし手すりが胸をこすり、ウィルの心は自分が女性化したことに向けられる。
 冒険者としては筋力が、特に上半身のそれが大幅に落ちたのが痛い。持久力も、これはわずかだが、落ちた。両手剣はもちろん長剣も扱いかねる今のウィルが帯びているのは護身用の小太刀だ。
 素早さは短時間なら遜色ない。体の柔軟性は増したが、戦いの役に立つとは思えない。シマラは魔力は増したというが、今さら魔術を学んでも男に戻れば役にたたないだろうからそんな気も起きない。
 母にクリスタルのことを聞くまでこの体でがんばるしかないらしい。そう思いながらウィルがため息をついたとき話しかけてくるものがあった。
「お嬢さん、お一人ですか?」
「ほへ?」
横を見ると従者を連れた若い貴族が手すりに寄りかかってウィルを見ていた。
「お供とはぐれられたのですか?」
「供というか、仲間はいます。今たぶん船倉にいると思いますワ」
これでいなくなるかとウィルは期待したのだが、相手は逆に間合いを詰めてくる。女性化して最初の敵キャラらしい。
「拙者は宰相猊下のお役目を勤めますジャック・ワイルダーと申すもの」
「はあ、えーっとウィラ・コンティです」
宰相猊下というのは国教の最高指導者ロンド大司教のことだ。政教のトップに上り詰めたロンドはいまや国王をも凌ぐ勢いである。ただ物事にうといウィルは知らなかったが、ロンドには魔族と裏で通じているという黒い噂が昔からある。先代の北の魔王ルゲイルを倒したウィルの父親が左遷されたのもロンドの差し金といわれていた。これこそウィルの父親が全ての職を辞し西の領地に引きこもった原因である。
 男がさらに一歩近づいてきたのでウィルがオロオロしている所に助けが現れた。
「この小さい紳士はどなたかな、ウィラ」
「ああ、ロック。私に挨拶してくださったワイルダー卿よ」
ワイルダーは決して小さくはない。女性化する前のウィルと同じくらいの身長だ。しかし雲をつくようなという言葉を体現するような大男ロックの前では確かに小さく見えた。
「拙者は宰相猊下のお役目を勤めますジャック・ワイルダー男爵」
「ふん。拙者は国王陛下の命を果たして都に戻る途中のロック・ダンカン男爵だ」
「お供の方も戻られたようだから退散するとしよう。お困りのことがありましたらいつでも相談に来てください。都でなら宰相家の家宰に言えば私の居場所は分かります」
従者を連れてすごすごと立ち去ったワイルダーの立っていた場所にロックは『けっ』と言いながら唾を吐いた。ウィルはおかしくてたまらない。
「ロック、かわいそうよ。彼はさほどの使い手じゃなさそうだし」
「そんなへなちょこがウィラを無力な少女扱いするのが我慢ならなかったんだ」
「そういえばロックって男爵だったの」
「そのうちな」
「え?」
「出世街道の途中でちょっと休憩中なのさ」
「まあ」


 西岸の港に上陸した一行はウィルの希望もあり先を急ぐことにした。通常なら5日かかる都までの旅程を3日でこなす予定である。
 しばらくするとウィルは他の3人を引離し少し前に出ていた。女性化してからは少しでも早くと気がせくため拍車を加えることが多い。幸い軽量化しているので馬にたいして負担はかからなかった。
 しばらく駒を進めているとウィルは気になる人物を街道脇に見つけた。それは小さな少女である。この辺りは街道の近くまで山が迫っており一番近い町からもずいぶん離れていた。だぶだぶの服を着せられたおさなごが1人でいるのは不自然だ。しかも荷物といえば少女の力では持ち上げるのがやっとの巨大な剣のみである。
 ウィルは思わず巻き乗りして少女の顔を覗き込んだ。その目に涙があるのを見て慌てて馬を止めこう話かける。
「お嬢さん、どうしたの」
「うるせー、俺は男だ!」
「はいぃ?」
その時には他の3人も追いついており、2人の喜劇をニヤニヤと見つめていた。
「言った通りさ。お前のような小娘に助けを請う俺じゃねえ」
「まあ、ひどい。でも私より小さく見えるのは気のせいなのかしら」
「後ろの小山の向こうで山賊どもを退治した反動さ」
アトランの合図でロックが山に向かう。
「おっさんたちは俺の言うことを信じないのか?」
じっと少女を見ていたシマラはこう指摘した。
「君は何か対価を必要とする術を使ったわけだ」
「辛気臭いおっさんだが頭は切れるようだな」
「これはどうも、お褒めいただいて」
その時馬蹄の音とともにロックが戻ってきた。
「20人ほど死んでるぜ」
「ほーら、ほんとだろう」
「なるほど」アトランは続ける。「次の宿場まで連れて行ってやろうか?」
「1人で大丈夫さ」
3人が口々に勧める誘いを少女はけんもほろろに断った。
 シマラが言うなら生意気な口をきく少女が元男なのは確かだろう。でもウィルには何かが引っかかる。よく思い出してみると少女は最初から道端にいたのではない。ウィルがよそ見している間に現れたはずだ。そして目の涙。態度がかたくなのなったのは……。
「あなたいつ男に戻るの?」
「え? ああ、今でも可能だけどやりすぎると女で固定する可能性があるから当分使いたくねえ」
「ふーん。女1人だと不便なことも多いの。都まで付き合ってくれないかな」
「あんたに?」
「ええ」
「俺は男だぞ」
「当分は女の子でしょう」
「ま、まあ、そうだが……」
「お願い」
「女の願いを無下にはできねえな」
「ありがとう。名前は?」
「俺はフレッド」
「フレッド?」
「姓もあるちゃんとした家のでだぞ。フレデリック・ザリエルって言うんだ」
「良い名だけどその姿の時はつかえないわ」
「うーん。言われて見れば」
「フレデリックならフレデリカね。フリーダでどうかな」
「我慢してやらあ、あんた良い人そうだし」
「ありがとう」
「俺の嫁に……あっ」
ウィルの後ろでにらみつける3人に気付いてフレッドは沈黙した。

 フレッドがアトランとロックに伴われ荷物を取に戻ったのでウィルはシマラと道端で待っている。フレッドは相当若年化しているというシマラの話をきいてウィルは自分の判断は正しかったと思った。幼い女の子となったフレッドは安心して旅をともにできる人が来るのを草むらで待っていたに違いない。それがウィルだった。その後現れた3人を見てから文句を言い始めた。
「なあウィラ」
「なあにシマラ」
「ウィルのことはフレッドには言わない方が良いと思う」
「どうしてかしら」
「他の2人も同じ意見なんだが」
「じゃあ従う」
「君の母上の贈り物も関わる以上知るのは最小限が良いと思うんだ」
「わかったわ」

こんばんは。さっそく表の方にUPしました。
やっぱり、このキャライラいいですよね。

マイルド志向に関しては、イラスト所望を気にしなければ愛のあるHであればまぁいいかなと。ストーリー上の説得力でしょうかー。
イラスト所望であればキスぐらいまでが無難かもしれません。

お話の方、いい感じの離陸かと思います。期待しております。

勇者ウィルの冒険

Ⅰ 妻をめとらば勇者様

 勇者ウィル・サンダースは剣をおさめたまま前方を凝視している。
 ここはダンジョンの最深部、目的の宝箱を守る竜ももういない。何を迷うことがあろう。しかしウィルの視線は宝箱に刻まれた呪いの文字を見つめていた。そこには彼の父と戦った悪竜ファフナーの名もある。いやな予感がしたが、ウィルは手ぶらで引き返すわけにはいかない。この冒険に参加し、彼を先に進めるため強敵を引き受けてくれた3人の仲間になんといいわけをするのだ。ウィルは母親から贈られた護身のネックレスについたクリスタルを握り防護の呪文を唱えると思い切って蓋を開けた。

(1)

 ウィルの3人の仲間たちはそれぞれの方法でダンジョンを脱出して入り口の近くに集まった。力のロックは岩を砕いて、智のシマラは既知のポイントへの帰還魔法で、技のアトランは空間をくりぬいたのだ。いずれも往きには使えない技なのが惜しい。
「遅すぎないか、ウィルの奴」
雑のうから取り出したワインを他のものに勧めながら、ロックが最初に口を開いた。
「経験こそ浅いが、あいつの勇気は折り紙つきさ」
アトランは自分に言い聞かせるように答える。
「その経験こそ、ダンジョンの奥で必要なものじゃないのかな」
皮肉な口調で答えたのはシマラである。
「シマラの言う通りだ。それに力なら俺が、魔法ならシマラが、剣技ならアトランのほうが上だろう」
「くそ、どうしろというんだ。1人で行かせねばその経験もつめないじゃないか」
そういうと杯の酒を飲み干して地面に投げつける。ロックとシマラは顔を見合わせた。冷静なアトランがこれほど感情を見せるのは珍しい。酒のせいではない、彼はとても強いのだ。
「悪いアトラン、僕もウィルのことが心配なのはかわらないんだ」
自分の非を認めてシマラは詫びた。
「それなら捜しに行こうぜ!」
「まあ待て」
「なぜ止めるんだアトラン。君だって心配なんだろう?」
「最後の関門を越えたとき妖精は消えたから案内するものがいない。それに私たちが今捜しに入ればウィルを信じなかったことになるだろう」
「それはそうだが……。おい、シマラ」
「僕はアトランに賛成だな。ウィルの為にお祈りをしよう」
「え~い、縁起でもない」

 誰も話さなくなり、杯だけが重ねられた。4本目の栓をロックが抜いたとき矢が空気を切り裂くような音がした。
「ウィルか?」とロック。
「彼の脱出魔法の疾風(はやて)だな」
冷静なシマラも既に立ち上がっている。彼も心配していたのだ。
「無事だったか……」
アトランの口調はその内心を示していた。
 しかしいつもならぴたりと3人の前で止まるはずの風切り音が巡回を始めた。
「おい、こりゃあ」
「暴走じゃないのか、シマラ」
「アトランの言う通りらしいな」
「おい!」
「もう始めてる」
シマラは素早く呪文を唱えて印をきった。音が止みもうもうと土ぼこりが舞い上がる。
ひどいなあとぼやき始めたロックも視界が戻ると黙り込んだ。そこに倒れているのは会ったこともない少女だ。いや3人ともどこかで会った気はしていた。
 素直なロックが最初に沈黙を破る。
「ウィルに妹がいたっけ?」
「やれやれ、着ている男物の服に見覚えがあるな」
「アトランの指摘は正しい。それに手にあるのはこのダンジョンの宝物らしいぜ」

(2)

 ウィルが目を覚ますと頼りになる3人の仲間が心配そうに覗き込んでいた。
「ああ、不思議な夢をみたよ……あれ?」
慌てて手を上げ繊細になった指を見る姿を見て3人は心配が的中していることを知った。
 ロックが直ぐに思いを口にする。
「やっぱりお前さん」
「ウィルか……」とアトランは思案顔。
「その変化、変身魔法にしては強力だぞ」
シマラの言葉に不審を感じたアトランが聞きただす。
「どういうことだ」
「僕だって一通り魔法の勉強はしている。自分の力で解けなくても普通解法の糸口くらいは見えるものさ」
「むぅ」

「ど、どうしよう。女の子になっちゃったよ」
ウィルには3人の会話を聞く余裕はなかったらしい。3人でしばらくなだめてやっとウィルは冷静さを取り戻した。
「君が質問した方が良さそうだな」
とアトランはシマラに言った。
「光栄な指名だね。さあウィル、起こったことを順序だてて話してごらん」
ウィルは守護竜を倒す所までを簡単に話してから宝箱のことを詳細に説明した。最後まで聞き終えてからシマラはたずねる。
「その書かれていた言葉はわかるかい?」
「細かい意味はわからないけれど書けるよ」
ウィルはシマラから筆記用具を受け取り可愛い手でのろいの言葉を書き始めた。
 頬を赤らめたシマラを横目で見ながらアトランはそっとつぶやいた。
「やれやれ、やっこさん、女性化したウィルにもうご執心かな」
シマラは女に手が早い。
 ウィルの書いた文章を読んだシマラは首を捻った。
「これは確かに強力な呪いだけど、変だなあ」
「俺も変だと思うぞ。その字は読めないけどな」
「確かにそうだな」
「えーアトランには俺の考えがわかるのかい。まだ説明してないのに」
ロックのいつもどおりのとぼけた様子を見てウィルに笑みが戻った。
「そりゃあロック。敵を女性化しても宝の守りにはならないって言うんだろう?」
「ウィルにもわかるのかよ」
「ところでその内容は?」
「ああ、アトラン。こいつは宝を奪おうとしたものを魔物に変えようという恐ろしい魔法さ。悪から奪い返すという名目があっても盗みは盗みだ。どんな英雄もその瞬間だけは神のご加護を受けられなくなる。暗黒面に落ち易く落としやすい一瞬を狙ってそのものを宝を守る魔物にするわけさ」
「どうりでダンジョンの守りがかたいわけだ」
「おいおい俺たちは人間と戦ったのか?」
「魔物と化した者は永遠の闇の中にある。あれは慈悲だよ。彼らの魂の為に祈ろう」
「えー僕は魔物なの? じゃあ早く3人で殺してよ」
「馬鹿言え、邪気が感じられん」
「敵の魔手に落ちたなら、宝を奪ってくることはないだろうさ」
「2人の言う通りだ。ところでウィルは何かしたのか。そのー変身の前に」
「母上にいただいた護身のネックレスを握って呪文を唱えただけだよ」
「守りきれなかったということかな、超強力なそのネックレスの魔法でも。落ち着いたら一度君の母上の所に伺った方が良さそうだな」
「直ぐに行きましょう」
「そうはいかないよ」
「なぜです」
答えたのは珍しくロックだった。
「このクエストは王家の依頼なんだろう」
「ええ、まあ」
「報告が先だ」
「で、でもー」
「勇者の苦難だ。後の世の名高い伝説になるだろう」
「えー女の子になったことがですか?」
「ほら古の英雄ヘラクレスも女になる苦難を乗り越えただろう」
「それって女装じゃないですか?」
「なあに男の心を失わなければ同じことさ」
「そうかなあ」
「もう女々しいぞ」

(3)

 まず都へ向かうことで意見が一致すると、アトランが毛布に包まったままのウィルを見つめながら言った。
「さてそうなるとウィルの着替えがいるな」
「旅の間の名前も要るだろう。ウィルじゃ変だし」
これはロック。
「着替えならたくさん持っていますし、名前まで変えなくても」
「2人の言うことが正しいと思うな。王家の方には真実を話すにしても道々勇者ウィルが女性化したと宣伝して歩く必要はないだろう? それに着替えの件は試してみればわかるさ。さあ僕たち3人は背を向けているから」

 ウィルは毛布から抜け出して自分の荷物の側まで歩いた。着慣れたはずの鎧下がこすれて痛い。
 3人が背を向けているのを確認して旅装を取り出して着替えてみる。上着の前は合わず、ゆきは長い。ズボンはお尻でつかえてはけなかった。なんだか悔しくて悲しくて涙が目からあふれ出す。
 長い沈黙の後聞こえてきたすすり泣きに3人は背を向けたまま顔を見合わせる。無言のやり取りがあり代表してシマラが話しかけた。
「どうだい」
「無理です。裸で旅しなきゃいけないらしいです。グスン」
「慌てるなって。俺の鞍嚢の横の包みを開けてみろ」
「シマラの方が僕より、元の僕より背が高いから無理ですよ」
「まあ、見てみろ。そして聞け。そのー俺には1人の従妹がある」

 横のアトランが困ったようなため息をついたのでシマラはその足を踏んだ。
「痛いな」
「ため息は止めろよ」
「お前、あれは自分の女のために買ったんだろう」
「女のことはウィルに秘密にしてくれ」

「シマラ、これって女性の衣装ですよ」
「従妹の背格好は今のウィルと同じくらいなんだ。この前の町でなかなかデザインの良い外出着を見つけて買ったのさ、従妹のためにね。そのーとりあえず着てみろよ」
「女物を?」
「裸で旅を?」
「わかりましたってば」
 ウィルはしばらく下着を持ち上げたまま固まっていたが、思い切って着始める。
「着方わかるか?」
「僕だって子供じゃありません。知ってますよ。えーっと」
「前ではめてから後ろへ回せ」
「あ、はい。え!」
「見てないってば」
確かにシマラが盗み見した気配はない。
「じゃあどうして」
「音でわかるのさ」
「蛇の道は蛇ってね」
「おいロック」
「シマラは女装の趣味が?」
「そのサイズじゃ僕は着れないって」
「ああ、そうか……」
しばらく衣擦れの音だけが続いた。
「外套以外は着ました。いいですよ、こっちを見ても」
振り向いた3人は地上に降り立った天使を目の前にして声が出なかった。

 早いご解答ありがとうございました。
 とりあえず序章部分を書き(打ち)なぐり開始します。
 絵師様のHPも拝見しました。『まいるど志向』を肝に銘じて書き始めてみます。(キスくらいということでいいのかな)

おはようございます、amahaさん。
ここにあげていただければOKですし、掲示板に書いていただいてもOKです。
よろしくお願いします。

 既にお話が始まっているようですが、一つの絵に複数でも可ということですので書かせていただきたいと思います。
 ここにあげればいいのでしょうか?  

了解です。気に入ったのから書いてやってくださいませ。

返信ありがとうございます。

現在、石井剛毅君(イラスト:少年刑事)の話を書いてるので、勇者と魔王の話はその後に書くつもりです。
どっちも話のオチまで決めているのですが、石井剛毅君の作品の内容が気に入らないのでリテイクしまくりでして・・・。

とりあえず4/9の時点ではまだ勇者と魔王の話は執筆開始しない予定ですので、掲載の順番を変えたりとかしなくていいです。

イラスト付きだとネタがどんどこ浮かべていいですよねー。実はいじめられっこ君以外のイラストのネタは全てネタ帳に記載したのですが、文章を書くのが遅いので全てSS化できる自信がありません・・・。性行為描写書くのも苦手だし。

こんばんはDEKOIさん。
いいでしょ、このイラスト。

ぜひぜひ投稿お待ちしております。

魔王の方の公開はもうちょい後の予定ですが、まぁ順番入れ替えてもいいですし、なんでしたらメール頂ければ個別に公開したりも構いません。(剣士ともども)

超巨大性転換物文庫ホームページででチンタラ作品を書いてる者です。

素晴らしいイラストですね。とりあえず魔王のイラスト出たら新作を書いてみようかなと思ってます。
あ、もちろん全年齢対応で(笑)。

ちなみに今は「石井 剛毅」君の作品書いてます。そっちも全年齢対応なんですがすげぇダークになってます・・・。

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