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水曜イラスト企画⑩ 絵師 まさきねむさん(2)  仮名:竹内ひでのぶ

一行キャラ設定 竹内ひでのぶ キモオタ。人間の女性に不信感。女性化時はナイスバディの美女へ。
He is otaku. He has distrust toward a human woman. When he transformed himself into a woman, he becomes a beautiful woman of the nice body.
他是被迷住而不可自拔的爱好者。
他有趋向于一位人类的妇女的不信任。
当他把他自己变成一位妇女的时候,他变成一条这个好的身体的娥眉。

takeuti.jpg


絵師:まさきねむ みうみう

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。

本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。

20080507初出

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第8回

 
「これで大丈夫でしょう。部屋に来て」
「あ、ああ」
ここで振り切って帰っても後で困る。男に戻してもらわないと。
 言っておくけど冷静さを保っているように見えるならお門違いだ。かろうじてパニックを起こさずに済んでいるのはシンちゃんにそれなりの考えがあって起こした現象だと確信しているからだ。それでも女の子の体をいろいろ試したい気持ちが湧くほどの落ち着きはない。
 シンちゃんに案内されてマンションの彼女の部屋に入った。別に変な所はない。強いてあげれば、センスのいい家具があって生活臭がないのでモデルルームのような感じを受ける点くらいだ。まあ4人家族でも十分暮らせるスペースにシンちゃん1人なのだから当たり前かもしれない。
 ソファーに座った後の最初の質問が自分のことだったのは状況から許して欲しい。もちろんその後にひでのぶのことも聞いたのだから。
 安心したことに俺の女性化は簡単に戻せると言うことだ。これはこの部屋で話し合いたかったシンちゃんの苦肉の策らしい。ここにはバリアだか結界のようなものが張られている。
「盗み聞きされる可能性があるのか?」
「これから話すことは極秘事項になるし」
いつもよりなめらかな口調は自宅にいるためなのだろう。
「極秘?」
「私が竹内ひでのぶを調べていたのは」
「小鳥端末を使って?」
「ええ。それは今回の世界改変を調べるためだった」
「世界改変」
「そう。今あなたの身に起こった現象と彼の場合は全く違う」
「記憶や記録まで変化した件だな」
「そうよ。でも全力をあげても変化の1週間前にあの小鳥を送り込むのが精一杯だったの」
「神名や集合体やらと張り合うほどの存在か」
「おそらくこの宇宙に根ざした存在だと思う」
「率直に聞くが、神名たちは外様なんだろう」
「この世界が不安定になれば私たちの世界も大きな影響を受ける」
「なるほど」
話だけならとても信じられないけど今の自分の肉体を見れば嘘だとも言い切れない。それに俺は最初からどうも神名の肩をもつ傾向があった。
「わかった。それで俺にどうしろと?」
「できるだけ竹内ネムの自由にさせたい。だからこのまま自然に振舞っていて欲しい」
「普通に生活すれば良いわけだ」
「そうよ。それと時々この部屋に来て欲しいの。その姿なら問題ないでしょう?」
「ああ、まあ、しかし。いちいち神名を呼んで木陰で変身じゃ、そのうち見つからないかなあ。かえってまずいだろう」
「あなたの意思で変われるように申請しておく」
「集合体様にか?」
「ええ」
 まあ自分の意思での変化なら男のままでもいられるわけだし。
「じゃあ、お願いしてもらおうかな」
「うん」

 重要な用件は終ったようなので一旦男に戻してくれというとシンちゃんはこう言った。
「他の人の目にも触れる可能性があるから、あなたの立場を決めておいたほうが良いとおもうなあ」
「立場って?」
「私との関係」
「ああ、友人とか?」
「転校してきた帰国子女の友人?」
「ちょっと変か」
「ずいぶん変よ。私の妹で良いんじゃない?」
確かにシンちゃんより若く見えなくもない。
「任せるよ」
 シンちゃんの説明によると全く新しい人物をこの世界の情報に割り込ませるのは比較的簡単で周囲に与える影響も少ないと言うことだ。
 俺は変身の仕方とその条件の説明を受けた。衣服も変身前の状態に戻るので便利そうだ。いくつか条件はある。例えば男性化女性化とも1日1回が限界である。何でも例の5分先の時空にいる宇宙船のエネルギー充填に時間がかかるのが理由らしい。もちろんその船の出力が低いわけでなく俺のために使用が許される量に限界があるのだ。
「なるほど今男に戻ると丸1日は女の姿は取れないと」
「もう少し正確に言えば約23時間30分ね」
「ああ、約23時間30分は男のままなんだな」
「そうよ」
「今日の話しがこれで終わりなら、外へ出て元に戻るよ」
「まだだめよ」
「どうして?」
「服を買っておかなければ」
「変身の時服も再構成されるんだろう?」
「でもいつもその服じゃ誰かに会ったとき変に思われるもの」
たいてい制服で通すシンちゃんに言われたくない気もしたけど、制服を着せられるのもなんだか恥ずかしい。
「なるほど」

 俺はなんだか嬉しそうなシンちゃんと学校の坂の真下にある大型衣料品店に入った。高級なものは見当たらないけど種類は豊富だ。最新のカジュアルなデザインは、女竹内ほどキュートでなく、シンちゃんほど清楚でもない不良な外見の俺には似合っている。なぜだかゴールドなシンちゃんのカードで支払いを済ませて外に出た。
 坂を登り始めるとすぐ広田に呼び止められた。この太腿筋肉バカは休日も自転車で走っているのだ。もちろん呼びかけたのは初対面の俺にでなくシンちゃんのほうだ。
「やあ神名さん。買い物? こちらお友だち?」
こちらと言うのは俺のことだ。シンちゃんはいつもどおり快活だった。
「ええ、広田君。これは妹の遥なの。遊びに来たんだけど急にしばらく滞在することになったので着替えを買ったの」
俺の名は遥と言うらしい。
「はじめまして。お姉さんのクラスメイトで広田ノボルと言います」
「え?」
「遥、ほら」
「あ、ああ。はじめまして妹の遥です」
広田が持ってあげるとうるさいので荷物を渡した。だいたい奴のロードレーサー(ロードバイク)には荷台などないから俺のママチャリほど実用性はない。俺は楽しげに話すシンちゃんと広田の後を着いて行った。
 それにしてもシンちゃんは楽しそうだ。いや俺といるときが嫌そうだというわけではない。しかし堅苦しい感じなのは否めなかった。そういえば広田はシンちゃんにアタックしたいと言っていたっけな。NGO団に巻き込まれたシンちゃんを追って文芸部に入ろうとした広田はネムに拒否されていたっけ。何しろ教科書さえ読まずに済ませたい男なのだからしようがない。ひょっとしてこいつ、休日はシンちゃんの家の周りを流しているのだろうか。
「ところで遥さん」
「ほえ?」
「いつまでご滞在ですか」
「ご滞在って言われても」
「妹はしばらくいますわ。元々9月からあちらのハイスクールに進学予定だったんですけれど、できれば日本の高校に来たいと言うのでしばらく見学の予定なんです」
「なるほど」
「そんなんですの。おほほほ」
シンちゃんににらまれたので俺は笑うのを止めた。なんだか本当の姉に怒られた気分だ。
 広田と別れてマンションに入り、買った服をシンちゃんに言われるままクローゼットにしまう。下着は少し恥ずかしい。
 片づけが終るといい時間になっていたので家に帰ることにする。聞きたい事はまだたくさんあるけど教えてもらった女性化をすればいつでも訪れることが出来る。何しろ妹なんだから。
 エレベーターの防犯カメラに背を向けて少し胸に触れてみた。変な感じだ。なんだかエレベーターがいつもより速い気がした。
 ホールに出てエントランスへのドアに向かいそのまま出ようとして考え直した。駐車場への通用口を使い外に出る。駐車場は車の出口は表への一ヶ所しかないけれど徒歩なら裏道にも抜けられる。これは駅への近道になっていた。
 植え込みの影で恐る恐るシンちゃんに教わった手順をふむ。女の体を試したい気も十分あったけど、男に戻れるとわかって初めて楽しめるというものだ。俺はひでのぶほど女性でいることに達観できない。女性化しても確かに俺は俺だ。しかし元の俺と女性化した俺には何かちがいがある気がする。例えば――少なくともシンちゃんの俺に対する態度は男と女でずいぶん違うじゃないか。対人関係の相違は時間と共に影響を与えて俺を変えていくだろう。
 う~ん。これって、ひでのぶにも言えるんじゃないのかな。あいつ、わかっているんだろうか。
 表通りに出て考えながら歩いていると広田と出合った。
「広田、日曜日も走っているのか?」
「あ、ああ、まあな。後藤はなにをしている。ひょっとして神名さんの家にいくつもりか?」
「いや部室に少し用があっただけだ。もう帰るよ」
「そうか」

 その後は普通の日曜日だった。もちろん制限のため女性化は不可能だ。
 それにしてもシンちゃんの言った事が正しいなら、ひでのぶを女性化して世界に馴染ませたのは別の存在ということになる。どうも今ひとつ納得できない。ネムに直接聞けばわかるのだろうか。しかしそれならシンちゃんが調査に来る必要はない。おそらくネムはシンちゃんの力だと信じているのだろう。てことは俺の彼女になると思っているのかなあ。全然そうは見えないけど……。

そう来ましたか。これは楽しみです。

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第7話


 翌日から俺は忙しくなった。やっと爺ちゃんから離れてのんびりとした学生生活が始まった所だったのになあ。おまけにネムになった竹内は俺には厳しいし。
 だがどれだけネムに責められようと出場すると決めた以上剣道の試合はベストを尽くすつもりだ。それは祖父に叩き込まれた俺の第二の天性である。
 実の所おそらくアベサダが思っているほど剣道の試合で俺は有利ではない。むろん相手を拘束するとか戦闘不能にすれば勝ちの戦いならば俺のものだ。しかしきれいに一本とるのは俺の訓練外のことである。だいたい日本刀の戦いのシミュレーションと考えれば無意味な動きが多すぎる……。いや、それを言っても仕方がない。ルールは決められているのだ。それに乗っ取って戦うのがスポーツなのだろう。
 もちろん教わったことが全く役に立たないわけではない。
 間合いの見切りや相手の動きの予測などは近接戦闘より易しい。ただ動きの選択肢が少ない分ある程度の相手なら俺も動きを読まれる。
 また相手のラフプレイも俺には通じないのも強みだ。
 格闘技系のスポーツの経験がない諸君でも審判の目を盗んで……例えば野球でスパイクをしたり、サッカーで相手のファウルを強引にとる場面を見たことがおありだろう。スポーツとはいえ格闘技ではもっとたくさんのルール無用の試合が行われている。むろん素人には分からない高度なレベルの話だ。例えば、俺自身はボクシングの経験はないが、チャンピョンが相手を誉めてこう言ったのを聞いたことがある。レフリーにも偶然としか思えないタイミングで相手が足を踏んでパンチを出したと。
 祖父は各種格闘技の巧妙な反則技を詳しく研究して自らの近接戦闘技術に付け加えた。相手に裏をかかれないようにすること、それが近接戦闘の訓練の最終目的相手を倒すことへの近道だからである。
 しかし近代剣道ではこの手の技術は発達していない。祖父は弱体化と嘆く反面、それこそ真の武士道だと考えていた節がある。
 しかし個々の剣士の個性の差は大きい。高校の地方大会レベルでは腕力や体格にものをいわせる戦い方をするものが多くいる。明らかに籠手をはずして俺の腕を打った者や脇に竹刀を入れた者は覚悟した方がいい。祖父に鍛えられた俺はその程度の打撃でひるみはしない。

 まあこのように話すと俺の練習はいかにも勇ましそうだけど、ネムに許された2時間のうちのこれは30分にすぎない。次の1時間を俺はシンちゃんの指導に当て、最後の30分は女子部員の相手だ。言っておくが剣道で女子の相手をしても甲高い気合で耳が痛くなるくらいで何もおいしいことはない。
 1日1時間の練習でも身体能力の高いシンちゃんはめきめき上達した。だからといって、クラーク・ケントいやリンダ・リーやダイアナ・プリンス程の超人ではなく、あくまでも優れた女子高生の範囲内である。

 そして剣道部が終ると文芸部に集合してネムの指示のもとコスプレの練習が始まる。着替え方の練習かって? 俺もアニメキャラの着ている架空の高校の制服を着れば良いと簡単に考えていた。ところがそうじゃないんだ。なんとダンス付だとい言う。確かにそれは俺でも知っているものだった。一時期インターネットでもてはやされた作品だったからね。もう下火ではないのかと言う俺は後れているそうで、なんでも原作かアニメの新作が近々出るそうだ。
 ひでのぶ一押しの作品の一つだから情報は確かだろう。気合の入れ方はキャラの選択でもよくわかる。てっきり団長様を演じると思っていたネムは巨乳キャラになる。団長はユリアさんで、俺と対になる男役はリラだ。シンちゃんが宇宙人の無口キャラをするのははまりすぎで恐い。
 練習はネムの掛け声で始まる。
「いいこと、練習終了までキャラになりきるのよ。はい、スタート! ここでなにするんですかぁ~。こわいですぅ~」
 ネムとなったひでのぶが現状を楽しんでいることがよくわかる瞬間だ。

 俺は決して怠けたわけじゃない。しかし本番まで数日ではどれだけ出来ると思う? 
 そんなわけで土曜の本番当日俺はほとんどでくの坊状態であった。ただそれは他の4人と比較してのことだ。コスプレイヤーの3人と一度で振り付けを覚えてしまったシンちゃんと比べられては立つ瀬はない。
 それでも好評だったのは、ネムによれば美少女3人が役にはまっていたこと、男装のリラの魅力、それに俺のやや投げやりな態度がかえってキャラとあっていたことだそうだ。投槍でわるうござんしたね。これからはハンマー投げに出場するよ。
 生まれて初めてのコスプレ体験の話はこれくらいにしよう。言えば言うほど当日を思い出してまた恥ずかしさが再燃する。

 そういうわけでコスプレが終った翌日の日曜の朝、俺はとても気分よく目が覚めた。少し前まで休日は惰眠をむさぼっていたものだが、一応毎日早起きして素振りをしている。アベサダとの手合わせやライバルのビデオを思い出し一本をとるイメージトレーニングをする。
『充実した気勢、適正な姿勢を持って、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し残心あるもの』
こんなの実際には……いやいやスポーツスポーツっと。
 シャワーを使ってキッチンに向かうと妹も起きてきた。もともと早起きの奴だが今日の約束も心配なのだろう。
「忘れてないからな」
「当然です」
「何か食うか?」
「フレンチトースト!」
「了解」
「走るの?」
「軽く食べてからだけど」
「コーチしてあげる」
「ああ、たのむよ」

 ランニングコースはシンちゃんを放した河原だ。妹の元気な掛け声で走る俺の頭の中に疑問が渦巻き始めた。
 シンちゃんが人間以上の力を持っているのは確かだ。しかし神鳥のシンちゃんと同一の存在だとは誰も言っていない。それにあの小鳥が神鳥だとなぜひでのぶにわかったのだろう。
 そして今までたいして疑問に思わなかったのはなぜだ。余りに不可思議なことが起こったので惑わされたのか。あるいは精神操作を受けたのか。一度ひでのぶかシンちゃんに聞いてみる必要がありそうだ。

「ペース落ちてるよ」
「おう!」

 ランニングを終え家で少し休憩するうちに店の開店時間になった。俺は妹に命じられ普段着よりはましなものを着ている。
 2人で駅西口へ向かった。ビルの2階にある店は俺1人ではとても入れない雰囲気だ。妹は下調べも万全のようでメニューを見てさっと注文し、俺の許可を得てお持ち帰りの品まで選んでいた。なんでも友人の家に何人かで集まる約束があるらしい。
「ここで食べてからまた食べるのか?」
「ほら二段腹だから」
俺がコーヒーとチーズケーキを片づける間に妹はコースとか言うものを食べていた。まあケーキをおかずにケーキを食べるようなものだ。うへっ。
 それでも嬉しそうな妹を見るのは楽しい。爺ちゃんのせいでこれまであまり2人で遊ぶことはなかったし、もう少し大きくなれば妹は俺に見向きもしなくなるだろう。しばらくの間甘い兄でいるのも良いだろうさ。
 店を出て約束の時間までぶらぶらする妹がショーウィンドウを見て立ち止まった店で小さなブローチとポシェットを買ってやる。ケーキはもともとの約束だから何か別のものもプレゼントしようと思い金は余分に持ってきていた。妹の笑顔は、財布から消えたものよりはるかに俺には貴重なものだ。
 夕方にはまた会うのに千切れるように腕を振って立ち去る妹を見送ってから俺は家に向かう。駅よりかなり西に来ていたので最初のケーキ屋の近くを通る。
 そこにはシンちゃんがいた。見上げる視線の先には例のケーキ屋がある。一瞬迷ったが声をかけた。
「やあ、神名。まだおはようでいいのかな」
「おはよう」
例によって2人だけモードのシンちゃんだ。無表情でも可愛く見えるのは俺が慣れたせいなのだろうか。
「なにしてるの?」
無言のまま視線はケーキ屋に戻る。やれやれ、だから声をかけるかどうか迷ったのさ。
「食べるか?」
微笑んでうなずかれては男一匹後には引けない。俺は2個目のチーズケーキとご対面することになった。
 さすがにシンちゃんは二段腹になりたくないのか、もと小鳥のためなのか、少食でケーキ4個で終了した。えっ、妹はいくつ食べたかって? 言ったら殺されそうだ。

 店を出て家に帰ると言うシンちゃんを送っていくことにした。チャンスなので質問しようと言う下心もある。
 なんだか少し楽しそうに見えるシンちゃんに人通りが減った所で話しかけた。
「少し聞きたいことがあるんだけど、立ち入ったことで」
「ええ」
「まずだな。違ったなら笑っていいぞ。竹内ネムがひでのぶという男だったという俺の記憶は正確なのか。俺と奴以外は誰も記憶していないし全ての記録からもその存在が消えているらしいが」
「まちがいない」
「それとだな。あの小鳥、ひでのぶが助けた小鳥」
「助けたのはあなた」
確かに1日面倒を見たけど、その時は怪我は治っていた。まあ、なにをして良いかわからないから話をしていただけだ。知的生命体と思わず話したから、思い出すだけで恥ずかしい。
「あれは神名なのか」
「そのものではない。しかし視覚や聴覚は直結されていた」
「動くビデオカメラのようなものだな」
「そう」
「ひでのぶは小鳥が特製品だと気付いていたのか。神鳥とか言ってたけど」
「彼の知識は私たちの偽装を見破った」
さすが竹wikiひでのぶ。あとはネムに聞いたほうが良いかと悩むうちにシンちゃんのマンションの下に着いた。
「じゃあ」と帰ろうとすると引き止められた。
「部屋に」
「それはまずいよ」
広田以外の男どもにもシンちゃんの人気は高い。俺と2人のときとはうって変わって普段の彼女は誰にも好かれる明るい女子高校生である。女性化しても変わり者と認識されているネムとは違って誰かに見られたらえらいことになる。
「なぜ?」
「神名は1人暮らしと言ってるだろう皆に」
シンちゃんは小首をかしげた。これを見るとつい希望通りにしてやりたくなるがここはまずい。
「1人暮らしの女性の部屋にいきなり押しかけるわけにはいかないよ。ネムは別だぞ。この世界でも腐れ縁らしいから」
「男女間の生殖行動についてなら調べてある」
「いやいや」かえってまずかろう。
「じゃあこっちへ来て」
シンちゃんは俺を植え込みの影に引っ張り込んだ。貞操の危機を感じた俺は振り切ろうとしたが、シンちゃんは恐るべき力で目的を果たした。
 そして問いただす暇もなくもとの玄関先に。
「ちょっと!」
という自分の声に驚きドアのガラスを見るとシンちゃんの横にちょっと不良っぽい少女がいた。
 それが俺らしい。

第6話


 翌日俺は早く起きて家を出た。もっとも妹に起こしてもらってのことなので大きな顔は出来ない。おまけに日曜のおごりが1皿増えてしまった。
 門を出たところで妹と別れる。
「じゃあな」
「いってきまぁーす」
「ああ、行ってらっしゃい」
「ごちになります」
「うるさい」

 早起きのおかげで余裕を持ってネムのマンションに着いた。少し前にメールをしたのですぐにネムは出てきた。
「おはよう、まさし」
ネムは1人でなくリリーズも一緒だ。
「おはよう。君たちも?」
「ええ」
「打ち合わせさ」
少しボーイッシュな方がリラ、日焼けしたテニス部員の方。
「そうかい」
意味はわかる。コスプレのことだろう。そのまま4人で歩き始めた。この先は坂が急なので広田のような筋肉腿でなければ押した方が早い。
 俺の左にはネム、右は自転車でリラ、ユリアは俺の自転車の籠の使用権を昨日奪取した気らしく鞄を入れ手ぶらで俺の後ろにいた。
 昨日あの後いろんなことをネムと話したが、コスプレのことはすっかり忘れていた。
「ところで俺は土曜日なにをすればいいのかな」
答えてくれたのはリラだ。
「主にカメラマンよ」
まあそんなところだろう。でも、
「主って?」
「衣装は用意したから参加すれば?」
「え!」
「参加料も安くなるし、かえって目立たないよ」
「いいさ少しくらいなら。バイト代はいるから」
「でもね、まさし」
首を左に向けるとネムと目が合う。
「なんだよ」
「今回は市内だからそのままだと誰だか簡単にばれるよ」
「知ってる人が見ればどうせ分かるだろう?」
「私服で私たち3人のお尻を撮影してるより、着替えて参加しているほうが健全ではないでしょうか?」
いやいや、コスプレ自体が現状では不健全かと……とは言えないよなあ。
「そうかなあ」

 通学路に出たところにシンちゃんが待っていた。ちょっと意外な展開だけど3人にはそうでもないらしく挨拶を交わす。俺も挨拶はした。しかしだな……。
「えーっと神名さん?」
3人は少し先で立ち止まって振り向いて待っている。シンちゃんは俺の正面から動かず、じっと自転車を見ている。なんだいったい。
「ひょっとして乗りたいのか?」
シンちゃんが肯いたので3人分の鞄を持ってハンドルを渡す。ハンドルをこわごわ持ったシンちゃんは真摯な目で俺を見た。
「えー?」
乗り方わからないのかなあ。
「そうだあれ」
俺はちょうど来た広田を顎で示した。再び肯いたシンちゃんはサドルにまたがるとこぎ始める。
 あれ、俺の自転車って電動アシスト付だっけ?


 午前中の授業は移動が多かったのでゆっくり4人で話すのは昼休みになった。例によって早弁の俺ともともと弁当のないネムは購買のパン、リリーズは自作の弁当だ。
 結局俺は普段とあまり変らぬ男子高校生の衣装で妥協した。これでは俺であることはバレバレなのだが、これ以上濃い変身だと抵抗がある。まあ参加費1000円引きは獲得したわけだ。
 話しがまとまったところで昼飯に集中しようと牛乳を口に含んだ俺は驚きで噴出しそうになった。俺の目の前、3人の後方にシンちゃんがジャンプして来たのだ。
 いくら超能力者で未来人で、宇宙人で、異世界人だと俺に明かしたとはいえこれはあんまりだ。心臓の予備でももらわないと破裂してしまいそうだ。
 3人もシンちゃんに気付く。出現時に空気を押しのけるので風が吹くんだ。
 3人に勧められ俺の横に座った(正面がネム、リリーズはその両脇にいる)シンちゃんは大事そうにパンとリンゴジュースのパックを持っていた。パンは小さなフランスパンでリンゴジュースと共にいつも最後まで残る商品だ。あまりにも硬すぎる。歯が欠けたという伝説があるくらい。
 さすがにもと鳥と言ってもちょっとなあ。俺は秘蔵のメロンパンを差し出した。
「よかったらこれ食いなよ」
シンちゃんは鳩のように小首を傾げてから嬉しそうに受け取った。

 転校の挨拶をしたときとはずいぶん性格が変わったように感じるのは気のせいなのか。ネムの話では歓迎会では騒いでいたらしいのに。

「まさにそれよ!」
ネムが叫んだ。また団長モードなのか?
「なんだよネム、突然」
「シンちゃんにはメロンパン! あんた良く分かってるじゃない」
「あ? ああ」
確かにネムの巨乳は別格としてもシンちゃんはリリーズより胸が小さい。しかしそれならお前のチョココロネでもいいじゃないか。
「あまい!」
まあシンちゃんは確かにただの女子高生ではないからなあ。
 さてここで俺はチョココロネのどちらが前か尋ねなくてはいけないのかな?

 わいわい話すうち、恐ろしいことにシンちゃんもコスプレに参加することになった。ネムの誘いに簡単に肯いたのだ。良いのかネム。その気になったらほんとに目からビームとか出すぞ、シンちゃんは。
 かといって頭から反対も出来ない。何しろなぜだかシンちゃんは嬉しそうなのだ。
「あのなあネム。これだけの人数、お前の家で準備するのは無理じゃないか。それに俺は男だし」
「あんたのことは誰も気にしていないわよ。大和魂は女性に優しいんでしょう?」
「まあ、そりゃそうだが」
何か馬鹿にされた気がする。
「でも狭いのは確かね」
俺以外には普通に話すらしいシンちゃんがこう提案した。
「部室を使ったらどうかしら」
「テニス部は無理よ。新入部員が多すぎて手狭なの」
「後藤君でも新体操部にはさすがに入れられないわ。うちは男子いないもの」
いったい俺はユリアさんにどう思われているんだ。俺は別に三次元、いや普通の女性を拒否したことはないぞ。ネムは例外……まさか2人に話したわけではあるまいな。
「文芸部に入ったんだけどもう1人の部員の3年生が突然転校して私1人きりなの」
転校先はきっとホンジェラスかカナダだろう。
「まさにおあつらえ向きね」
俺もやけくそで提案した。
「で、5人の集団に名前でも付けるのか、SOS団とか」
「まさか」
「安心したよ」
「NGOよ」
「はい?」
「ネムちゃんGO! GO! NGO団」
「やれやれ」


 その日の放課後俺たちはさっそく部室に集合した。旧校舎の教室を半分に仕切ったスペースは相当広い。部室は廊下の端にあり間仕切りの隣は物置なので少々騒いでも大丈夫だ。というか文芸部なので静かな場所にあるのだろう。
 部屋が気に入ったネムは全員に文芸部に入るよう命じた。ひでのぶの話なら即座に断ったと思うが、どうもネムだと引き受けてしまう。大和魂は女性に寛大なのだ。
 1年生が5人いれば部室確保は間違いないらしい。俺とネムは帰宅部だったし、体育系と文科系は兼任可能なのでリリーズも問題ない。
 部長の話しが出たときてっきりネムがでしゃばるのかと思ったが、彼女はシンちゃんに希望を聞いた。考えてみれば某作品の団長キャラを演じることはあってもネムの中身はひでのぶなのだ。優しいあいつが他人をないがしろにするわけがない。ただ女性化してから俺に対してだけはきつい気もする。
「私は良く分からないからどなたかに」
とシンちゃんは答えた。俺は自分の意思で文芸部を選んだシンちゃんが良いと思う。
「転校生と言ったって、俺たちだってまだ入学したばかりだから」
「馬鹿ねえ、まさし。シンちゃんは帰国子女だって」
「あ、ああ」
て言うかエイリアンだったっけ。
「後藤君に」
「それが良いわ」とネムが言う。
「私たちは」
「クラブ兼任だし」とこれは息のあった双子。
「まてよ2人はともかくネムは暇だろう」
「私はNGO団で忙しいの」
「そうですか」
「そうだ。シンちゃんが副部長で手伝えばいいじゃない」
「え゛」
「はい」
「不満なの?」
シンちゃんの目を見ると断れなかった。
「よろしく神名」
「うん」

 その日はそれで解散し、俺とシンちゃんはみんなの分の入部届けを持って担当教師に手渡した。慣れないシンちゃん1人になったのをその女性教師は心配していたらしく嬉しそうに誉めてくれたので少し照れくさい。
 校舎の玄関口で今日もアベサダが待っていた。例の剣道部の試合への参加要請だ。
「先生、もう勘弁してくださいって」
「そう言うな。次の試合だけで良いから」
「別に剣道経験が豊富なわけじゃありませんって」
「剣道ルールでも強かったじゃないか」
「しかし」

 事情は複雑だ。軍人や警官になったものが多いうちの家系で祖父は少々変わり者だった。武芸全般に才能があったためかスポーツになった剣道や柔道に飽き足らず。自分なりの実践的武術を作り上げたのだ。変わり者の道楽と親戚一同から冷たい目で見られていたのも今は昔、いくつかの国で近接戦闘の正式訓練に採用され祖父は忙しく世界を飛び回っていた。今では優等生タイプで警官になった父の方が肩身が狭い。
 俺は祖父に中学までずいぶん痛めつけられた。だから竹刀や木刀を扱うことが出来る。しかし祖父が教えたのはスポーツとは程遠い戦いだ。何しろ竹刀を持っても足掛け肘打ちなんでもありの喧嘩まがいなのだ。あっと祖父が言うには古武士の戦いだっけかな。まあとにかく中学を出れば元服で一人前とかで俺は解放された。祖父の担当国が増えたらしくますます忙しくなったこともある。
 俺の剣道姿をアベサダに見られたのは偶然からだ。祖父がいる頃から俺は県警の逮捕術の訓練に内緒で参加することがあった。バイトの犯人役なんだけどね。今年の春休み父に言われて防具をつけて剣道場で練習試合をしたときたまたまアベサダと会って少し話をした。そのおっさんが高校のクラス担任になったのだから世の中は狭い。

「しかし今年は新入部員多いんでしょう?」
「男子は数はいるけど経験者がいず、女子は経験者は入ったけど数が足りないってとこだな。そうだ神名はどうだ?」
「剣道?」
「そうだ」
シンちゃんにさせたら竹刀はスターリングインフェルノになって切っ先から何とか言う怪しげな光線が出ますよ、先生。
 横を向くとシンちゃんと目があった。この目に弱いんだよなあ。
「やりたいのか、神名」
「うん」
「1人じゃ」
「いや」
だよなあ。
アベサダにも話しが見えたらしい。
「お! 神名が弱点か」
普通担任が言う言葉かよ。
「今回の試合だけですから」
「分かってるって、登録してくる」
「それから俺たちは文芸部の」
「じゃあ行ってくる」
聞いちゃいない。

 シンちゃんと肩を並べて自転車置き場に行く。
「乗るだろう?」
「うん」
シンちゃんは楽しそうに自転車をこいだ。俺の歩く速さじゃ面白いとは思えなんだが。
 俺は3人のシンちゃんを知っている。俺と2人のときの大人しいシンちゃん、クラスメイトといるときの明るいシンちゃん、そして先日屋上で会った理屈っぽいシンちゃんだ。とりあえず最後のだけは願い下げだね。
 朝会った所で俺は聞いた。
「どこまで行くの?」
「お家」
そう言ってシンちゃんは少し離れた新築のマンションを指差した。宇宙船からジャンプしてくるのではないらしい。
「玄関まで送るよ」
「ありがとう」
少し笑みを浮かべた顔は可愛らしかった。





「少年の明るい笑顔が孤独な少女の魂を救う。2人の間に真の愛は芽生えるのか! 『おたく、おたく?』第7話 『ボーイミーツガール』次回もサービス、サービス!」
「今の神名か?」
「あっ!」
「今さら『あっ!』って言われても」
「ごめんなさい」
「え?」
「こういう時どんな顔をすれば、いいのか分からないの」
「笑えば良いと思うよ」

第5話


 ユリアさんのコスプレ話は俺の度肝を抜いた。
 まず、ひでのぶ=ネムは自らもコスプレイヤーらしい。しかも俺にも来いと言う。ひでのぶ=ネムになら言下に拒否する所だけどユリアさんには言い難い。『そんなぁ~』とか『どうしてぇ~』とか言われたら日本男児の俺でさえ悶え、いや萌だえ死ぬ。俺は現代っ子日本男児なのだ。
 バレエ教室のあるビルの前に着いたとき、
「明日まで少し考えさせてください」
と言うのが精一杯だ。
「期待してるわね」
と言われてしまう。明日断れるのか、俺。
 参ったなあ~。

 手をふりながらユリアさんがビルの玄関に入っていくのを見送ってから俺は自転車にまたがった。ここから非私鉄駅の東に広がる旧市街までは平坦だ。通学路からも外れているのでトラブルなく自宅に着いた。
 自室でうだうだしていると妹が帰って来て勢い良く扉を開けた。
「ただいま!」
「ここは俺の部屋だ。お前のじゃない。ノックぐらいしろ」
「だってぇ、おなかすいた」
お前のおなかとノックにどういう関係だあるのだ。それにだいたい小学生のくせに、
「高校生の兄より帰宅が遅いなんて」
不良じゃあるまいか。
「スポーツ少女団」
「スポーツ界(S)を大いに(O)盛り上げるための少女(S)の集団か?」
まあ確かにある種のお兄さんおじさんの一部分は盛り上がりそうだな。
「意味わかんな~い」
いかん、ひでのぶの影響だろうか……というか奴が女性化してからどうもかえって気になり常にあいつのゴーストの囁きが聞こえる気がする。

 あきらめた俺は妹とキッチンに行き母親の用意したおやつを温めた。兄妹仲良くと言うのは別に悪い考えではないとは思う。俺だって嫌われるよりはずっといい。しかし我が家のこの習慣はまるで妹を餌付けしているような気がする。だいたい現在専業主婦の母親がどうしてこの時間にいないんだか。
 帰宅部をやめて何かするべきか。幸いまだ5月、クラブも同好会の門も全てが閉じられたわけじゃない。
 その時ユリアさんの顔が浮かび嫌な連想が続く。いやいや、新体操部に入ろうって言うんじゃない。コスプレの方さ。
「お兄ちゃん、食べないの?」
「食べるか?」
「うん!」
体重を気にしなくていい年令なのだろうか、妹は軽々と俺の分も平らげた。
「そんなに食べて夕食大丈夫なのか?」
「あら甘いものは二段腹なのよ」
「なんだって?」
いやまあ、結局そうなるんだろうけど……
「ちがったっけ?」
「別腹か?」
「ああ、それそれ」

 しばらくすると妹は宿題があるからいつまでも遊んではあげられないと言って去る。どうも孤独な兄を慰めてくれたらしい。確かにいつもより帰宅は早かった。ひでのぶがいないからだ。
 部屋に戻ってひでのぶから借りているアニメを見ようと思ったが集中できない。借りているDVDに変化はなく、女性化してもあいつの趣味が変っていないのが良く分かる。
 外が暗くなるころ母親が帰宅して夕食になる。今日も父親の帰宅は遅いらしい。
 夕食後勉強するから部屋に来るなときつく妹に言い渡して引き上げる。日本男児にだっていろいろ都合はあるのさ。

 しばらくしてベッドに寝転がり昨日から連続する突拍子もない出来事を思い返していると携帯がなった。ひでのぶだ……しまった! 部屋の鍵はともかく、待っていなかった言い訳の手紙もおかず、メールするのさえ忘れていた。
「もしもし」
『ちょっとどういうつもりよ』
本人は声優気分なのだろうけどこの声でこの口調だとひでのぶは感じられない。
「悪かった、団員として」
『ふざけるんじゃないわよっ!』
何か少し感じが違うぞ。
「え? えーっと」
『無能ね』
金髪科学者かな。
「先輩?」
『やっと気がついたか、糞虫』
「あれ?」
『あれじゃない』
「すぐ行くから」
『お前なんて猫のう』
慌てて切って上着を着る。また携帯が鳴った。
「はい?」
『んこ踏め』

 俺は笑い声をあげて部屋を出た。あれはひでのぶに間違いない。
 廊下に出たとたん妹に出くわした。なぜここにいる。
「おかあさん、お兄ちゃんが壊れた」
「しーっ、ちょっと友達のところへ行くから内緒で」
「わかった。でも駅西口に出来た甘いもののお店に」
「了解、日曜日だぞ」
「は~い」
 自転車を引き出しこぎ始める。あいつのアパートまでは上り坂だがかまうものか。
「アイ・キャン・フライ」


 最後の坂を自転車を押して登っているときメールがあった。コンビニに行くから勝手にあがっていろと言うことだ。もと男とはいえネムの部屋に勝手にあがりこむのは気が引けるが、ドアの外で待っている方が目立つに違いない。そう思って俺はドアフォンに返事がないのを確かめてドアを開けた。まず気付いたのは玄関、当たり前だがほとんど女物の靴だ。1DKの奥に入る。部屋はもとから片付いていた。そして趣味のものに大きな変化はない。しかしインテリアはピンク系に埋め尽くされていた。元々男の部屋としてはピンクや赤系が多かった。しかしこれを見ると彼なりの男としての遠慮があったのだろう。今やリミッターが外れ暴走中といったところだ。
 チェストの上にメガネがあるのに気づいて手に取った。ひでのぶのものだ。微妙なデザインだけどどちらかといえば男性用だろう。そういえばネムはメガネをかけていない。コンタクトなのだろうか。
 ふと下を見るとコンビニの袋があり何本かペットボトルが入っているのが見えた。
 そして後ろでドアの開く音、俺はメガネを持ったまま振り返った。しまったこれは……。
「げ!」
目の前には全裸でタオル1枚を首にかけたネムがいた。これは冗談なのだろうけど、全裸は本物なので頭の中は真っ白だ。
 立ち尽くす俺を相手にネムは寸劇を進める。メガネを取り上げ俺を引っ張って這わせ、左手を巨乳に誘導した。俺は木偶状態だ。胸、本物なんだぞ。
 沈黙はどのくらい続いたのだろう。
「どいて」
「あ、なあ、ネム」
ネムは笑い始め、止まらないまま下着を身に着け始めた。さすがに色気のない男っぽい着方だ。でかいトレーナーが部屋着代わりらしい。長い髪を両側でまとめたあと、床にへたり込んでいる俺の横のコンビニ袋を取り上げて笑ったまま冷蔵庫に向かう。
「あはは、これ片づけるの忘れたからばれるかと思ったよ」
冷静さの戻ってきた俺に怒りがこみ上げてきた。
「どういう気なんだ!」
「やってみたかっただけ。私だってできれば男役がよかったんだよ。いやだった?」
「好きとか嫌じゃなくて、これはあんまりだ」
「どうして」
「例えば、例えばだぞ、万一にでも俺が……そのーその気になったらどうする気だ」
笑っていたネムが真顔になる。そこにはネムではなく、ひでのぶがいた。
「それならそれでかまわないと思ってた」
「なんてこと言うんだ」
「そうは言うが、今日ここで待っていなかったのは僕が竹内ひでのぶじゃなくて竹内ネムになったからだろう」
話題を変えよう。
「それより、シンちゃんに頼めば元に戻れると思うけど、どうだ?」
「少なくとも当分の間はこのままでいい」
「なんてこと言うんだ」
「僕にとって何の不都合もないんだ。ただ一つをのぞいては」
「一つ?」
「ああ、他でもない君、後藤まさしのことだよ」
「なんのことだ」
「女性化しても僕は僕だ。外見以外変化はないし、そのおかげで周りに溶け込み易い。同じことをしていてもね」
「俺は」
「まさしだけが例外なんだ。僕にとっては今でも親友だけど、君にとっては僕が元男だから友人なんだよ」
「そんなことはない」
「でも男に戻れというんだろう?」
もっと何か言えないのか俺には。そうだ。
「シンちゃんへの願いでネムには強制力が働いているんじゃないのか?」
「え?」
「そのーさあ。たしか願いは『後藤まさしに彼女をつくってやってください、シンちゃん』だったろう」
「夢を壊すようで悪いけど、心をいじられたとは思えない」
「じゃあ」
「言っただろう。僕にとっては君は今も親友だって」
「ありがとう」
「でも君から見た僕は親友じゃあるまい」
俺はため息をつきながらネムを見た。男物の、なぜそれが男物のまま残っているのかも不思議だが、トレーナーのミクルちゃんが泣き顔に見えるのはネムの巨乳のせいだ。その視覚情報を無視して男同士の友情だけを頭の中で抽出するなんて離れ業は俺には無理だ。
「2人が同一人物と理解はしても、心の奥ではネムイコールひでのぶと感じられないのさ」
「この体を好きにしていいぞ。友人でいてくれるなら」
「止めろ」
「すまない。そんなことは嫌いだよなあ」
ひでのぶが当分女でいたいというならしかたない。
「じゃあ、こうしよう。彼氏彼女の関係が俺たちの間に成立するかどうかは別にして、なるべく今までどおり過ごして遊ぼう」
「うん!」
「ただしシンちゃんに戻す方法があるかどうかは聞いておきたい。むろんネムに無断でひでのぶを呼び出したりはしないよ」
「わかったわ」
「それから糞虫は止めてくれ。そのツインテールは良いけど」
「グドンの餌?」





「次回『おたく、おたく?』第6話 《 『運命の選択』みたいな 》 お楽しみに」
「……」
「もしもし?」
「バカばっか」
なんだかなあ

あむぁい様へ
 『おたく、おたく?』の回数表示は便宜上のものですので、表示さえしていただければまとめてもらって結構です。

第4楽章

 昼休み、俺は購買でパンと飲み物を買って屋上にあがった。別に母親が怠け者ってわけじゃない。俺の弁当は3時間目の休み時間に昇天しちまったのさ。

 屋上は本来立ち入り禁止なので誰もいない。いつもならひでのぶの五月蝿いほどの薀蓄が聞けるのだが、静かだ。ネムは転校生の神名を取り囲む女子集団に連れ去られていた。少し寂しい気もするけれど、今日はいつもの3倍は疲れたから静寂もまた好ましい。それに考えたいこともあった。
 休み時間といわず授業時間といわずネムがつぶやいていたアニメのセリフの意味を俺はこう考えている。あれは全て俺がひでのぶに見ろと勧められて借りた作品ばかりなのだ。別にアニメが嫌いなわけじゃないけど、レンタルしたりましてやDVDを買ってまで見たいと俺は思わない。ネムは平気そうに見えるが、親友が女性化しただけの俺と違い、自分自身が変身し周りの人全てが元の自分を知らない全く異なる世界に放り出されたのだ。今朝も言っていたではないか、俺からのメールでほっとしたと。
 もちろん最初は分からなかったのだが、セリフはきっとネムのサインなんだ。『俺は、竹内ひでのぶはここにいる』という。それが分かるのは俺だけだし、俺が疑えばのぶひでは本人の心の中以外では消滅してしまう。このことに気付いてからは時々振り向いてネムのセリフをからかった。ネムは微笑んだが、教師には何度か怒られた。授業中だったからね。
 コロッケパンを食べ終えたので、すかさず焼きそばパン攻略に移る。優柔不断は俺の趣味じゃないし、メロンパンは最後だろう、常識的に。

 俺はただ食べるだけの無意味な時間を過ごしていたわけじゃない。メロンパンが成仏したときには既にこの事態の解決方法を見出していた。その鍵はシンちゃんだ。昨日のひでのぶの願いが歪んで実現したのなら。シンちゃんに修正してもらえばいい。広田によればリリーズのどちらかが俺の彼女になるらしい。これじゃあひでのぶが女性化する意味はなんだったんだ。いやいや、ネルとつきあいたいって意味じゃない。可愛いのは認めるけど親友をなくすのは嫌だ。
 修正がだめなら俺が願いをかけてもいい。1日だけとはいえ俺だって鳥のお世話をしたのだ。

 急に変な気配を感じて俺は振り向いた。大和魂をもつ日本男児を目指す俺は武道の訓練をしている。というか実際には小さいときから爺ちゃんに無理やりさせられていたというのが真相だ。結果は同じだからいいだろう? とにかく振り向いたんだ。

「おまえ!」
そこにはシンちゃんこと神名美鳥がいた。浮かべる笑みが非人間的に思えるのは先入観なのだろうか。
「どこからきた」
「ジャンプしてきた」
うへ、超能力者かよ。まあひでのぶの周りの世界を改変するくらいだからこのくらいは当然か。
「転送とかテレポートというやつか?」
「理論的には全く違うが、現象だけをいうならほぼ正解だ」
「んなことをしたら周りの人間がたまげるだろう」
「心配ない。ジャンプした時刻に戻るから」
空間だけでなく時間も跳べるのか……。
「お前、未来から来たのか!」
「私の種族の存在確率の中央値はあなたの時間で約1万年先にある」
「じゃあ他にもいるのか、お前と同じような奴が」
「母船にいる。常に5分先の時空で待機中だ」
母船て宇宙船か。
「宇宙人?」
「地球外生命体という意味なら然り」
「まさか異世界人ってことはないよな」
「お前たちの理論で例えれば隣の膜宇宙というのが近い」
大和魂では理解できん。
「なあ転校の挨拶のときや教室での様子と全然違うな、お前」
「現在集合体とリンク中だ。この状態では個体の意識は砂漠の砂の一粒にすぎない」
「実に分かりやすいたとえ話で嬉しいけど、そんな集合体様が俺に何のようだ」
「興味があって見に来たではだめなのか?」
「珍妙な野生動物なのか、俺は」
「そうではない。君は――すまない説明はまたの機会にする」
「そんな勝手な」消えた。「ちっ」

 中庭が賑やかなので北側の金網に近づくと池の近くに人が群れていた。俺のクラスの女子の顔が多い。中央に当然のようにいる神名の側に女竹内がいるのは妙な気がする。
 男が避け、女を避ける竹内ひでのぶはもう存在しない。この世界で孤独なのは時代錯誤の大和魂を磨いている俺だ。
 この非現実的出来事が夢なら覚めて欲しい。俺はキモヲタの男竹内が懐かしかった。
 あの鳥の恩返しがこの世界なら、ひでのぶの望みがかなったのだろう。
 俺はひでのぶが言った『後藤まさしに彼女をつくってやってください、シンちゃん』に騙されたのだと思う。確かにリリーズの片割れやネムが彼女になってくれれば嬉しい。でも親友がいない世界じゃ意味がない。言葉で発せられなかったひでのぶの望みを鳥はかなえたのだ。
 残るチャンスはやはりあれしかない。シンちゃんを世話したことを恩に着せて、ひでのぶの望みを相殺するのだ。

 放課後、女子は神名の歓迎会を私鉄駅西口にできた甘い物所ですると言う。自分も行くといった後、竹内ネムはこう付け加えた。『先に帰って待っていて』と。
 俺は軽く手を上げたけど、行く気はない。いや、行くけど合鍵を使って部屋には入らない。鍵を郵便受けに鍵と理由を書いた手紙を入れてそのまま帰るつもりだ。だってどう考えてもまずいぞ、ネムの部屋の合鍵を俺が持っていて先に帰ってネムを待つなんて。
 夜、夕食後に訪ねた方が無難だろう。

 帰宅間際、もはや恒例になっているアベサダの剣道部勧誘に付き合ってから自転車置き場へ向かう。いつもならうんざりするやり取りが今日はなんだか妙に懐かしい。
昨日も聞いたんだけどね。アベサダは竹内ネムを中心にすっかり変わってしまった俺の世界の不動の灯台だ。他が変わりすぎたからかえって新鮮にさえ感じるぜ。


 ありとキリギリス(セミだっけ?)の寓話のごとく、登校時の苦労は帰りに報われる。タイミングさえ良ければ市の中心部まで一気に……。
 ちょっと待て、その信号! ここで止めるな! 俺の朝の血と汗が。
「ぐぁ」
俺は止むを得ずブレーキをかけた。高速のインターに通じる交通量の多い道でロシアンルーレットをする気はない。まだ死にたくないからな。無理したら今通ったトラックにアッタクしたところだ。
「後藤君?」
信号ばかり見ていて気がつかなかった。話しかけて来たのはリリーズの片割れユリアだ。もう忘れたって? 白い方で、姉、新体操部だよ。

 ここで少し説明が必要かもしれない。女に無縁な俺だってクラスメイトなら話くらいはすることがある。それにリリーズは全く無縁とも言い切れないんだ。
 ひでのぶが女性化したこの世界でリリーズを俺に紹介したと広田から聞いたとき驚きはしたが、全く意外というわけではなかった。
 頭の中が平面ガエル――じゃなくて平面女で一杯のひでのぶが例外的に認める3次元が2つある。もちろん2次元よりかなり下だけど、声優とコスプレ女だ。リリーズは声優デビューはしていない。驚いたことに2人はコスプレイヤーなんだそうだ。ただ今のところ見破ったのはひでのぶだけである。また2人も彼が女性に対して無害だと理解しているようで共通の趣味で結ばれたわけさ。おれ? ひでのぶとずっと一緒だから自然に知ったわけ。

 いつも優雅なリリーズ姉は俺の大和魂よりまぶしく見える。
「やあ、クラブは?」
入学して1ヶ月でエースの座についた彼女が休むのは珍しい。
「今日はバレエのレッスンの日だから」
「そうか」
そういえばそんな話を聞いた気もする。ひでのぶ抜きなら普段ここで会話は終わりだ。俺は勇気を振り絞って続けた。
「荷物、か、かごに入れるか」
勇気を振り絞ってこれかよと笑わないでくれ。大和魂に男女交際は含まれていないんだぞ。
「ありがとう」
言っておくが口説こうと言うんじゃない。この世界での俺とリリーズの間合いを計っておこうと思ったんだ。他人の目は気にならない。ひでのぶを男に戻せば関係はきっと元に戻るから。
 彼女の向かう教室は神名の歓迎会のある駅から1駅の南駅前にある。ただ学校から両駅はほぼ同じ距離にあるので直接南駅に向かう。
 俺と彼女の話題と言えばひでのぶ=ネムしかない。しかし会話していて全く違和感がない。どうもキモヲタは性転換しても全く生活が変わらないのかなと考えたときユリアがそれを覆した。
「次の土曜日3人でコスプレをするんだけど」
「なんですとぉ!」





「次回『おたく、おたく?』第5話『やる気の問題』お楽しみに」
「あら4話じゃなくって?」
「ユリアさん、いろいろ都合が」
「ばいに~」
「ユリアさんの『イメージ』が」
「それは7話では?」
なんだかなあ。

おたく、おたく?

第三回

 詳しい相談は放課後にすることにして俺と竹内は教室に戻った。なぜ竹内かだって? 今のこいつをひでのぶと認識するのに違和感があるし、ネルじゃひでのぶが消えたようで嫌だからだ。
 教室に戻ると転校生の噂で持ちきりだった。次の授業は担任のアベサダ(安部さだお)の数学だからありえる。竹内と顔つき合わすのも気詰まりなので窓の側にたった。広田が寄ってくる。俺と広田の関係には大きな変化はなさそうなので気が楽だ。
「後藤、転校生は美人だぞ」
「お前見たのか」
「ああ忘れ物をとりに職員室に入った時に偶然ね」
「ほーう」
いつから偶然の意味が『計画的』になったのだろか。日本語って難しいね。
「俺が狙うからな」
「え?」
確かこいつはリリーズ狙いだったはずだ。
「優柔不断なお前が悪い」
「俺は常に即断即決だぞ」
「女にも?」
「あ、いや、しかし」
この世界の俺は竹内と付き合っていると思われているんじゃないのだろうか。
「とっとと、どちらにするか決めるんだな」
「何のことだ」
「リリーズのどちらを選ぶかさ」
「なにを言ってるんだ。お前が」
「まさか隠しおおせてると思ってるわけじゃあるまいな。お前がネムちゃんを通じてリリーズに接近したのは周知の事実なんだぞ」
「えー!」
「まあハーレムを楽しんでくれ。俺は転校生にチャレンジするぜ」
「勘違いとは思わないのか」
「いや。ただ一つ疑いはある」
「なんだ」
「リリーズの相手はお前1人じゃないかもってな」
「え?」
「ネムちゃんって女の子が好きなんじゃないのか?」
「心配するなそれはない」二次元じゃないからな。
「そうか」
チャイムが鳴り俺たちは席に戻った。後ろが女竹内だと思うと落ち着かない。

 アベサダは1人の可愛い女子転校生を連れて来た。クラスは騒がしくなる。広田は騒ぐ男どもの一群に混じっていた。
 俺だってそれが今日じゃなければ興味を持っただろう。もちろん日本男児としての誇りを失うような真似はしない。しかし後ろの席に女性化した竹内がいて、さらにリリーズとわけのわからない関係になっているのが気がかりでそれどころではなかった。
 少しの間騒ぐままにさせたアベサダもさすがに授業時間中にはまずいと気付いたらしく、剣道部顧問らしい気合で皆を黙らせた。
「静かにしろ。自己紹介もまだじゃないか。君、いいかな」
「はい」
一歩前へ出た少女は竹内に負けないくらい可愛かった。
「神名美鳥といいます。帰国子女なので分からないことが一杯です。いろいろ教えてください」
確かに少し変わったイメージを受ける。例えば言葉も妙に訛りのない標準語だ。そう日本語学校で教わったような。
 その時神名が俺を見たような気がしたので驚いた。
「竹内さん、また泊めてね」
男竹内の顔見知りなら俺は全員知っている。女竹内の知り合いかな。女性化で過去の記録が書き換えられたのだろう。しかし振り向くと竹内も驚いた顔をしていた。
 俺はささやいた。
「知らない奴か?」
「うん。ぜんぜん」
そのとき神名が爆弾を落とした。
「後藤君もまた一緒に泊まろうね」
冗談にしても何てこと言いやがる。俺は呆然、クラスは騒然、神名は泰然としていた。
「それから親しい人にはシンちゃんって呼ばれます」
何てことだ!

 赤鬼のようになったアベサダやリリーズににらまれたが、俺はやましいことをした覚えはなくその目を見返したと信じたい。混乱したその時の状況は良く覚えていないんだ。
 混乱は神名の日本語間違いということでけりがつく。そして真実は、転校前に下見に来た神名が道に迷ったとき俺と竹内が助けたということになった。
 俺はほっと一息つき、竹内は後ろの席で『ラー』と歌っていた。なんのこっちゃ。


 気になるので振り向いた。
「なに言ってるんだ、竹内」
「名前で呼んで」
「ネム?」
「ささやかな嘘。海より出し者。二つの結果。震えるは少年の音色なり……」
「はあ?」
「次回『おたく、おたく?』第4楽章『自分の腹時計』……世は文字に満ちて」
なんだかなあ。

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本格投稿ありがとうございます♪
頃合いを見て独立でページ作りますね。
二人のこれからに期待ー。

第二回

 シンちゃんを放鳥した翌朝、俺は自転車を超スピードでこいで学校に到着する前になんとかいつものペースに追いついた。
 普通なら ひでのぶ を迎えに行って一緒に登校するのだが、今日は寝坊をしたのでメールで謝り1人でとばして来た。俺は家族と旧市街の自宅に住んでおり、ひでのぶは優雅に学生用のワンルームマンションに住んでいる。その事情についてはまたいつか話す機会もあるだろう。
 俺の通う西高は文字通り市の西側、西部丘陵地帯の学園地区にある。ということは丘の上だ。ああ、だが俺の目にそれはアイガーの北壁に見える。まあグランド・ジョラスでも、マッターホルンでもいいんだけどね。
 とにかく俺は自転車からおり押し始めたというわけ。もちろん坂道も欠点ばかりではない。例えば今俺の目の前にはすらっと伸びた白い脚と鍛え上げられ日焼けした小麦色の脚が規則正しく動いている。クラスメイトの双子のリリーズ、綾波姉妹だ。白い方が新体操をしているユリア、黒いほうがテニス部のリラである。どうしてリリーズなのかって? さあ、リラとユリアでリが2つだからじゃないのかな。俺は知らん。興味は……あるけど恥ずかしくて聞けない。
 あまり後ろをつけていらぬ疑いを受けるのも嫌だと思い、横を駆け抜けようとしたとき、声をかけられた。
「おはよう!」
可愛い女子の声に反射的に振り返りながら俺はどじを踏んだと確信した。これはきっとリリーズへの挨拶だ。気まずいぞ。
 振り返った視線の先には超巨乳の超美女が笑っていた。俺は気まずさを隠して前を向きなおす。あ~やれやれ。しかしリリーズは歩みを緩めもせず遠ざかって行く。ありゃま?
 少し驚いて立ち止まると巨乳美女が横に並んだ。
「一緒に行こう」
「俺?」
「ふふふ、そうです」
見ればうちの制服だ。しかしこれほどの美女を見逃していたはずはない。いや、それよりなぜ俺を知っている。ドッキリか? 確か海外ではそんな番組が今もあるはず。てか、ありえないわな。俺は有名人じゃないんだし……いかん、遅刻するぞ。
「と、とにかく歩きましょう。時間に余裕があるわけじゃない」
「はいはい」
巨乳は平然と歩いているが俺はそれどころではなかった。
「よぉー、お宅らはいつも仲いいねえ」
いつもの俺たちをからかう広田だ。進学校である西高の進路希望で競輪学校と書いた猛者だ。こいつはこの坂道をものともせず自転車で登っていく。
「うるさい。俺はオタクじゃない」
いつもの返事をしながら俺は周りを見回した。ひでのぶがいると思ったのだ。しかし巨乳のほかには前方にリリーズがいるだけだ。
「へんだなあ」
「どうして」
「いや、なんでもない」
「ふふふ」
「うん?」
「なんでもない」

 その後も巨乳は俺に並んで歩いた。下足室で一瞬いなくなってほっとしたが、廊下でまた並ぶ。さすがにまずい。これでは後でなんと言われるかわからない。
 しかしなあ、走って逃げるのは変だし、離れてくれって言うのも妙だ。女性には優しくすべしが俺の身上だ。彼女がいないからあまり実践したことはないけれど。
 教室の前で巨乳は俺の横をすり抜けて先に入って行った。同じクラスなのか? 転校生? それも変だろう。
 見てると巨乳が俺の後ろの席につきあがった。
「て、お前、どこに座ってる」
「自分の席です」
「バカやろうそこは」ひでのぶの席だと言う前に広田が割り込んできた。
「朝から夫婦喧嘩かよ」
「何言ってるんだ、広田。この席は」
「はいはい。後藤の後ろはいつも奥様の指定席ですよ」
「奥様って」
「ねえ、竹内ネムちゃん」
「ふふふ」
ふふふ? ふふふってまさか!
「おまえ!」
立ち上がった巨乳が俺の耳元でささやいた。くそ! いい匂いだぞ。
「シンちゃんがまさしの願いかなえてくれたみたい」
「まさか」
「へへへ」
聞きたいことが山ほどあったが、ここで予鈴がなった。

 休み時間を待ちかねて、巨乳いや竹内ネムと名乗る女を強引に教室から連れ出した。
 誰かに止められるかもとの予想は外れた。
「いってらっしゃ~い」
「いってらっしゃ~い」とハモったリリーズ。
「学内じゃキスまでにしとけよ」
これは広田。どうなっているんだ、この世界は。それとも俺の記憶がおかしいのだろうか。

 ネムの手を引き屋上に上る階段の踊り場に連れて行く。ネムは嬉しそうに言った。
「なんだか学園アニメのよう」
ああ、頭痛が痛い。このセリフはまさにひでのぶのものだ。
「どういうことだ。説明しろ!」
「まず」ネムは自分を指差して続ける。「竹内ひでのぶである――あったことは認めるか?」
「クラスの他のメンバーは俺も含め同じだ。消去法ではそうなるな」
「そのとおり! 真実は1つ」
あ~やれやれ。
「見た目は少女、中身は高1」
「おいおい」
「確かにこれじゃ、あまり賢そうに聞こえないか」
「お前の中身がひでのぶなのは認める。何が起こったんだ」
「その前にいいかな」
「どうぞ」
「女子高生らしく話そうと思うからよろしく」
「まあその外見ならその方が違和感ないだろうな」
「朝目が覚めたらもうこの体で、おまけに部屋の内装から服まで、制服も含めて、それに見合ったものになっていたのよ」
「あの鳥のせいなのか」
「他に考えられて?」
「いや別に。しかしあの鳥の力って言うのもなあ」
「アルバムやデジカメのデータも変わっていたわ」
「徹底してるな」
「それに両親と妹の記憶もね」
その言葉には沈黙するしかない。過去の自分を全て消された悩みはいかばかりだろう。
「だからまさしのメールが来たときはとても嬉しかったの」
「そ、そうか……」俺の携帯の登録は確かに竹内ひでのぶのままだった。「ところでだな」
「なにかしら」
「女子高生らしく話すのに違和感が無いのはどういうわけだ」
「団長の能力を信じられないっていうの! 団員にあるまじき行為ね」
「声優かよ」

 おたく、おたく?

第一回

 俺の友人、いや親友の竹内ひでのぶは自他共に認めるキモヲタだ。
 ちょっと、そこ! 誤解しないように、俺は違うぜ。俺はいまや絶滅寸前の大和撫子じゃないや、大和魂を持つ日本男児だ。
 あ、いや、俺の話じゃなかったんだっけな。
 そうそうひでのぶのことだ。まあ存在自体がキモイんだが、特に酷いのが女嫌い。ん~っと三次元のやつな。ありていに言えば現実の女を嫌い二次元の女を求めてるわけだ。俺は絶対に納得できん!
 そんな男と俺が親友なのは、わが西高の7不思議の一つなのだが、幼馴染であるからだけでなく、お互いを認めているからなんだ。ここでも注意が必要かもしれない。言っておくが俺もひでのぶもBLっ気はないからな。
 まあ、あいつが俺のどこを認めているかなんて聞いたことはない。たぶん俺の魂に惹かれるのだろうさ。
 俺はあいつの優しさを認めていた。俺よりアニメの少女を大事にするのはけしからんが、一番嫌っているはずのリアル女子にも結構優しい。接触を最小限にしたがるのは止むを得ないだろう。
 今日も今日とて、1週間前に拾った小鳥の怪我が治ったとかで河原に来ている。ここで放すのだそうだ。俺? 見学さ。
 鳥の種類は分からない。雀じゃ無いのは確かだけどな。
 ひでのぶは籠を地面に置いて、
「まさし、放すよ」と言った。

 これは俺の名だ。後藤まさし。今日のひでのぶはアニメキャラが前後に描かれたピンクのトレーナーを着ている。アニメオタクでない俺でも見分けがつくミクルちゃんだ。横に居るだけで恥ずかしすぎるぞ。こんなだから見てくれも良いのにもてないんだ。まあ女にもててもこいつには関係ないか。

「ああ、どうぞ。俺には関係ねえ」
「いや、だって僕がアキバに行ったとき面倒見てくれたじゃないか」
「お前が泣いて頼むからだ」
「泣いたっけ?」
「俺の記憶ではそうなっている」
「じゃあ、そうなんだろうな」
「ところでだな」
ジョギングの爺さんが近づいてきたので、ひでのぶと微妙な距離をおいてから話を続ける。ミクルちゃんを着た奴と知り合いと思われたくない。
「その鳥の名前って分かったのか?」
「いや」
「そうか」
ひでのぶのことで言い忘れたことがあった。こいつは博覧強記、歩くwikiペディア、息をするグーグルなんだ。
「強いて言えば、迦楼羅かガルダだな」
「なんだ航空会社の回し者か」
「ふふふ」
「その笑い止めろ」
「いや面白いから」
「それで、それは?」
「まあ、神鳥ってとこかな」
「明日発売か?」
「ふふふ」
「だからぁ!」
「神の鳥ってことさ」
「願いをかなえてくれるとか?」
「かなえてくれるかもな。後藤君は、なにを願うの?」
「別にない」
「ふふふ」
「止めろって」
「へへへ、彼女だろう」
「ん?」
「正直に言えよ」
「ち、違う!」
「しょうがない奴だなあ。じゃあ僕が頼んでおいてあげよう。後藤まさしに彼女をつくってやってください、シンちゃん」
そう言って奴は鳥を放した。ちょと恥ずかしい奴でもあるけど、優しいのは間違いないだろう? 
「ところでシンちゃんってだれだ。象さんの子か」
「神鳥のシンちゃん」
「ばかばかしい」
これが事件の前日のことだった。

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  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
    二次著作は禁止しません。改変やアレンジ、パロディもご自由に。連絡欲しいですし、投稿希望ですけど。

 

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