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おたく、おたく?(第七回)

作.masamune
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第7話


 翌日から俺は忙しくなった。やっと爺ちゃんから離れてのんびりとした学生生活が始まった所だったのになあ。おまけにネムになった竹内は俺には厳しいし。
 だがどれだけネムに責められようと出場すると決めた以上剣道の試合はベストを尽くすつもりだ。それは祖父に叩き込まれた俺の第二の天性である。
 実の所おそらくアベサダが思っているほど剣道の試合で俺は有利ではない。むろん相手を拘束するとか戦闘不能にすれば勝ちの戦いならば俺のものだ。しかしきれいに一本とるのは俺の訓練外のことである。だいたい日本刀の戦いのシミュレーションと考えれば無意味な動きが多すぎる……。いや、それを言っても仕方がない。ルールは決められているのだ。それに乗っ取って戦うのがスポーツなのだろう。
 もちろん教わったことが全く役に立たないわけではない。
 間合いの見切りや相手の動きの予測などは近接戦闘より易しい。ただ動きの選択肢が少ない分ある程度の相手なら俺も動きを読まれる。
 また相手のラフプレイも俺には通じないのも強みだ。
 格闘技系のスポーツの経験がない諸君でも審判の目を盗んで……例えば野球でスパイクをしたり、サッカーで相手のファウルを強引にとる場面を見たことがおありだろう。スポーツとはいえ格闘技ではもっとたくさんのルール無用の試合が行われている。むろん素人には分からない高度なレベルの話だ。例えば、俺自身はボクシングの経験はないが、チャンピョンが相手を誉めてこう言ったのを聞いたことがある。レフリーにも偶然としか思えないタイミングで相手が足を踏んでパンチを出したと。
 祖父は各種格闘技の巧妙な反則技を詳しく研究して自らの近接戦闘技術に付け加えた。相手に裏をかかれないようにすること、それが近接戦闘の訓練の最終目的相手を倒すことへの近道だからである。
 しかし近代剣道ではこの手の技術は発達していない。祖父は弱体化と嘆く反面、それこそ真の武士道だと考えていた節がある。
 しかし個々の剣士の個性の差は大きい。高校の地方大会レベルでは腕力や体格にものをいわせる戦い方をするものが多くいる。明らかに籠手をはずして俺の腕を打った者や脇に竹刀を入れた者は覚悟した方がいい。祖父に鍛えられた俺はその程度の打撃でひるみはしない。

 まあこのように話すと俺の練習はいかにも勇ましそうだけど、ネムに許された2時間のうちのこれは30分にすぎない。次の1時間を俺はシンちゃんの指導に当て、最後の30分は女子部員の相手だ。言っておくが剣道で女子の相手をしても甲高い気合で耳が痛くなるくらいで何もおいしいことはない。
 1日1時間の練習でも身体能力の高いシンちゃんはめきめき上達した。だからといって、クラーク・ケントいやリンダ・リーやダイアナ・プリンス程の超人ではなく、あくまでも優れた女子高生の範囲内である。

 そして剣道部が終ると文芸部に集合してネムの指示のもとコスプレの練習が始まる。着替え方の練習かって? 俺もアニメキャラの着ている架空の高校の制服を着れば良いと簡単に考えていた。ところがそうじゃないんだ。なんとダンス付だとい言う。確かにそれは俺でも知っているものだった。一時期インターネットでもてはやされた作品だったからね。もう下火ではないのかと言う俺は後れているそうで、なんでも原作かアニメの新作が近々出るそうだ。
 ひでのぶ一押しの作品の一つだから情報は確かだろう。気合の入れ方はキャラの選択でもよくわかる。てっきり団長様を演じると思っていたネムは巨乳キャラになる。団長はユリアさんで、俺と対になる男役はリラだ。シンちゃんが宇宙人の無口キャラをするのははまりすぎで恐い。
 練習はネムの掛け声で始まる。
「いいこと、練習終了までキャラになりきるのよ。はい、スタート! ここでなにするんですかぁ~。こわいですぅ~」
 ネムとなったひでのぶが現状を楽しんでいることがよくわかる瞬間だ。

 俺は決して怠けたわけじゃない。しかし本番まで数日ではどれだけ出来ると思う? 
 そんなわけで土曜の本番当日俺はほとんどでくの坊状態であった。ただそれは他の4人と比較してのことだ。コスプレイヤーの3人と一度で振り付けを覚えてしまったシンちゃんと比べられては立つ瀬はない。
 それでも好評だったのは、ネムによれば美少女3人が役にはまっていたこと、男装のリラの魅力、それに俺のやや投げやりな態度がかえってキャラとあっていたことだそうだ。投槍でわるうござんしたね。これからはハンマー投げに出場するよ。
 生まれて初めてのコスプレ体験の話はこれくらいにしよう。言えば言うほど当日を思い出してまた恥ずかしさが再燃する。

 そういうわけでコスプレが終った翌日の日曜の朝、俺はとても気分よく目が覚めた。少し前まで休日は惰眠をむさぼっていたものだが、一応毎日早起きして素振りをしている。アベサダとの手合わせやライバルのビデオを思い出し一本をとるイメージトレーニングをする。
『充実した気勢、適正な姿勢を持って、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し残心あるもの』
こんなの実際には……いやいやスポーツスポーツっと。
 シャワーを使ってキッチンに向かうと妹も起きてきた。もともと早起きの奴だが今日の約束も心配なのだろう。
「忘れてないからな」
「当然です」
「何か食うか?」
「フレンチトースト!」
「了解」
「走るの?」
「軽く食べてからだけど」
「コーチしてあげる」
「ああ、たのむよ」

 ランニングコースはシンちゃんを放した河原だ。妹の元気な掛け声で走る俺の頭の中に疑問が渦巻き始めた。
 シンちゃんが人間以上の力を持っているのは確かだ。しかし神鳥のシンちゃんと同一の存在だとは誰も言っていない。それにあの小鳥が神鳥だとなぜひでのぶにわかったのだろう。
 そして今までたいして疑問に思わなかったのはなぜだ。余りに不可思議なことが起こったので惑わされたのか。あるいは精神操作を受けたのか。一度ひでのぶかシンちゃんに聞いてみる必要がありそうだ。

「ペース落ちてるよ」
「おう!」

 ランニングを終え家で少し休憩するうちに店の開店時間になった。俺は妹に命じられ普段着よりはましなものを着ている。
 2人で駅西口へ向かった。ビルの2階にある店は俺1人ではとても入れない雰囲気だ。妹は下調べも万全のようでメニューを見てさっと注文し、俺の許可を得てお持ち帰りの品まで選んでいた。なんでも友人の家に何人かで集まる約束があるらしい。
「ここで食べてからまた食べるのか?」
「ほら二段腹だから」
俺がコーヒーとチーズケーキを片づける間に妹はコースとか言うものを食べていた。まあケーキをおかずにケーキを食べるようなものだ。うへっ。
 それでも嬉しそうな妹を見るのは楽しい。爺ちゃんのせいでこれまであまり2人で遊ぶことはなかったし、もう少し大きくなれば妹は俺に見向きもしなくなるだろう。しばらくの間甘い兄でいるのも良いだろうさ。
 店を出て約束の時間までぶらぶらする妹がショーウィンドウを見て立ち止まった店で小さなブローチとポシェットを買ってやる。ケーキはもともとの約束だから何か別のものもプレゼントしようと思い金は余分に持ってきていた。妹の笑顔は、財布から消えたものよりはるかに俺には貴重なものだ。
 夕方にはまた会うのに千切れるように腕を振って立ち去る妹を見送ってから俺は家に向かう。駅よりかなり西に来ていたので最初のケーキ屋の近くを通る。
 そこにはシンちゃんがいた。見上げる視線の先には例のケーキ屋がある。一瞬迷ったが声をかけた。
「やあ、神名。まだおはようでいいのかな」
「おはよう」
例によって2人だけモードのシンちゃんだ。無表情でも可愛く見えるのは俺が慣れたせいなのだろうか。
「なにしてるの?」
無言のまま視線はケーキ屋に戻る。やれやれ、だから声をかけるかどうか迷ったのさ。
「食べるか?」
微笑んでうなずかれては男一匹後には引けない。俺は2個目のチーズケーキとご対面することになった。
 さすがにシンちゃんは二段腹になりたくないのか、もと小鳥のためなのか、少食でケーキ4個で終了した。えっ、妹はいくつ食べたかって? 言ったら殺されそうだ。
 店を出て家に帰ると言うシンちゃんを送っていくことにした。チャンスなので質問しようと言う下心もある。
 なんだか少し楽しそうに見えるシンちゃんに人通りが減った所で話しかけた。
「少し聞きたいことがあるんだけど、立ち入ったことで」
「ええ」
「まずだな。違ったなら笑っていいぞ。竹内ネムがひでのぶという男だったという俺の記憶は正確なのか。俺と奴以外は誰も記憶していないし全ての記録からもその存在が消えているらしいが」
「まちがいない」
「それとだな。あの小鳥、ひでのぶが助けた小鳥」
「助けたのはあなた」
確かに1日面倒を見たけど、その時は怪我は治っていた。まあ、なにをして良いかわからないから話をしていただけだ。知的生命体と思わず話したから、思い出すだけで恥ずかしい。
「あれは神名なのか」
「そのものではない。しかし視覚や聴覚は直結されていた」
「動くビデオカメラのようなものだな」
「そう」
「ひでのぶは小鳥が特製品だと気付いていたのか。神鳥とか言ってたけど」
「彼の知識は私たちの偽装を見破った」
さすが竹wikiひでのぶ。あとはネムに聞いたほうが良いかと悩むうちにシンちゃんのマンションの下に着いた。
「じゃあ」と帰ろうとすると引き止められた。
「部屋に」
「それはまずいよ」
広田以外の男どもにもシンちゃんの人気は高い。俺と2人のときとはうって変わって普段の彼女は誰にも好かれる明るい女子高校生である。女性化しても変わり者と認識されているネムとは違って誰かに見られたらえらいことになる。
「なぜ?」
「神名は1人暮らしと言ってるだろう皆に」
シンちゃんは小首をかしげた。これを見るとつい希望通りにしてやりたくなるがここはまずい。
「1人暮らしの女性の部屋にいきなり押しかけるわけにはいかないよ。ネムは別だぞ。この世界でも腐れ縁らしいから」
「男女間の生殖行動についてなら調べてある」
「いやいや」かえってまずかろう。
「じゃあこっちへ来て」
シンちゃんは俺を植え込みの影に引っ張り込んだ。貞操の危機を感じた俺は振り切ろうとしたが、シンちゃんは恐るべき力で目的を果たした。
 そして問いただす暇もなくもとの玄関先に。
「ちょっと!」
という自分の声に驚きドアのガラスを見るとシンちゃんの横にちょっと不良っぽい少女がいた。
 それが俺らしい。

<つづく>

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