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勇者ウィルの冒険 Ⅱ 妖婦アビゲイルの秘密 (第一回目)

作.amaha
キャライラスト作成&挿絵.そら夕日

(1)

 舞踏会は各自の思わくを秘めたまま盛会のうちに終った。ウィルは約束は果たせなかったものの、国王が結果に満足しているのを見てほっと一息ついた。
 ウィルの母クレアは3日ほど親子水入らずで過ごした後、自宅へ戻った。
 その3日間でクレアはウィルに女として重要なことを教えた。それは必要なことであり、タイミングは絶妙だった。初日赤い顔をして説明を聞いていたウィルが2日目は青い顔をして教えられたことを実践するはめになったのだから。
 女になったことを徹底的に実感したウィルは一刻も早く叔父のもとへ行こうと思った。

 ウィルが母を見送った日の夜、4人は宿の食堂に集まって今後のことを相談した。
 アトランは4人一緒を提案する。
「私たち4人は4人でいてこそ最強なんだ」
「でもこれは僕個人の問題なんだし」
ウィルが4人で行くのに消極的なのは都の商人ギルドからの依頼があったのを知っているからである。アトランもそれに気付いた。
「僕たちの資金は潤沢なはずだ。前回の国王の支払いだけでもたいした額だろう?」
と言って数理に明るく一行の会計係でもあるシマラを見る。
「ねえ君。確かにそのとおりだけど、ここは金だけの問題じゃない。こういった依頼が来るのは信頼あればこそなんだよ」
そう言ってまだ意見を述べぬロックを見た。
「諸君、この店の鴨は最高だぞ!」

 結局、ウィルにはロックが同行することになった。ウィルは親戚に行くくらい1人でもよいと主張したのだが、旅慣れた3人は女性の1人旅の難しさを知っている。それに今回のクエストをこなすのにアトランとシマラの組み合わせはむいていたし、2人も相手が1人でウィラに同行するのを互いに牽制した。そのてんロックなら安心だ。

 翌日早朝、出発するウィルとロックを見送りに出た2人は見通しの甘さを思い知らされる。そこにはもう1人の旅の仲間フレッドの男性化した姿があった。
「ウィラのことは俺にまかせな」
「あなたが、あのフリーダ?」
ウィルが驚くのも無理はない。大剣を背に颯爽と馬にまたがる若者は北の種族の特徴である尖った耳をもつ美丈夫でウィルが男の目で見ても凛々しかった。
「そうさ。もうかなり男性源がたまったからなあ。昼の移動中の間くらいは大丈夫なのさ」
 昨夜のうちに商人ギルドにクエスト受諾の返事をしてしまったアトランとシマラは歯噛みをして見送るしかなかった。
「まあ俺に任しておくんだな」
と言うロックの発言に、
「頼むよ」
アトランは心の底からそう言った。
「僕からも頼む」
シマラは食べていないときのロックは頼りになると自分を慰めた。だが実際にはそれは問題にならない。フレッドも負けずに大食いなのだから。

 馬に乗ったウィルたち3人は南の城門から都を出てそのまま南下する。
 20年前戦場になった王国はその傷からまだ完全に回復していない。時間が足りなかったのではなく、投資や開発が利益率の高い大河の東に集中したためである。
 旧王国領ではコンティ大公領だけが戦前を凌ぐ繁栄を誇っていた。大河東の利益を享受する新興軍閥と大商人を除く国民に王家の人気が無い理由の1つがこれである。
 街道網の整備も戦前を下回っている。完備しているのはいまや王国の大動脈である東街道と今ウィルたちが使っている南街道だ。南街道には王家の許可を得てウィルの叔父が敷設し管理しているコンティ街道が途中東から合流しており、そのまま南の山脈をこえアルゴスに至る。アルゴスは王国が混乱している間に異教徒の国ウスルを倒し出来た新興国で王国とも大公領とも友好関係にあり貿易が盛んだ。

 絶好の旅日和で気持ちのよい日差しのなかウィルの表情は今ひとつさえない。街道脇に小さな茶店を見つけて同行の2人に頼んだ。
「悪いけど少し休ませて」
「いいとも」
ロックは鷹揚にうなずき、フレッドは
「俺が先に席を押さえてくるぜ」
と言って馬に鞭を当てた。そろそろ昼が近いので周りの旅人も休みたい頃である。

 ウィルは茶店の老婦人に白湯を頼み薬を飲んだ。クレアから分けてもらったものである。ロックは人生経験からフレッドは自らの体験でウィルの不調の原因を察していたのでいらぬ発言はしない。
 ウィルが落ち着いたところで昼食になる。最初はまだ空いていた席もその頃にはほぼ埋まっていた。
 ここの名物はごく薄く焼いたパンで具を巻いて食べる料理である。ウィルは卵と野菜を、フレッドは鳥のもも肉焼いたものを、ロックは豚の肩ロースの燻製を注文した。
 料理が届いたときには気分も良くなっていたのでウィルも食が進む。残りの2人は食事に夢中だ。話し相手のいないウィルはきれいな景色を見ながら聞くともなく旅人の会話を耳に入れていた。
 他愛のない話の中に一つ気になるものがあった。南街道とコンティ街道が合流する辺りに目つきの悪い騎馬武者がうろついていると言うのである。
 ウィルは失礼にならぬように声をかけてから質問した。
「私どもはこれから南へ向かうので気になるのですが、その怪しいやつらの数は?」
「これは美しいお嬢さん」ウィルは顔を赤らめながらも会釈した。「1,2騎でないのは確かですが、一堂に会していたわけじゃないのでわしにはなんとも。おい、お前は義勇軍にいたんだろう昔」
男は話し相手でもある相棒に声をかけた。
「そうさなあ。俺も自身はないが10騎前後だろうさ、あれは」
「盗賊でしょうか」
「治安の良い昨今でも高価な荷を運ぶ商人たちは十分な武装をしております。10騎ではねえ。お嬢さんたちは気をつけたほうがよかろうな」
ウィルが頼りになる2人と一緒と説明するために横を見ると2人は10皿ずつ積み上げて大食い競争中だった。
「あら。えーっと気をつけますわ」
「それがええ。何しろまだ悪さをしたわけじゃないから、わしらぁ役人に訴えることもできない。それにあの黒ずくめの連中は変だったな。なあ相棒」
「ああ、あの頭巾の中の顔は昼間でも黒くて判別できない。まるで黒い霧で出来ているようだった」
「人ではないのでしょうか」
「そうかもしれないとわしは思いますのう」
「魔族じゃないのか?」
と食べ終えたフレッドが質問する。昔義勇軍にいたという男が反論した。
「お侍様、こう言っちゃなんですが、魔族と言うのはあんなもやもやしたモノではありません。物の怪や霊と違ってちゃんとした生き物なんですぜ」
「北方の魔族は陰気だったし、少し輪郭がぼんやりすることもあったけどなあ」
「わしは南の山脈近くの村の出身ですが、魔族は確かに陽気でしたな」
ウィルは話題を戻したくてたずねた。
「黒い騎士たちはなにをしていたとお考えですか?」
「わしにはとんと」
「俺は誰かを捜しているんだと思うぜ。狙われる恐れがある身なら十分な備えをしていきなさるが良い」
「これだけ食べれば10騎程度大丈夫だ!」
食べ終わったロックはそう言って分厚い胸を叩いた。


 その後3日間は何事もなく過ぎ、3人はコンティ街道との分岐に近づいた。旅人の話を思い出して3人は警戒を怠らない。気になるのは昼過ぎで往来の多い時間のはずなにに人影が見当たらないことであった。
 堂々と馬を進める巨漢ロックのそばにフレッドは馬を近づけた。旅を共にしてから何度か手合わせした回避型のフレッドは、パワーに特化したロックを尊敬するようになっていた。ロックのレベルになれば敏捷性は無意味に近い。なにしろフレッドのカラット顔負けの大剣を片手でレイピアのごとく扱うのだ。
「ロックさん、少し周りを見てきます」
「ああ、頼むよ、フレッド君」

 馬に拍車をあて一気に南下したフレッドは三叉路まで来た。左に折れれば目的地の大公国、直進すればアルゴスである。見回しても怪しい影はない。一瞬迷ったあとフレッドは南に進んだ。
 北からの旅人は彼ら3人しかいない。とすれば怪しい黒の騎手たちの目標は南か東から来る。東へはどうせ行くのだからフレッドは南を見ておこうと考えたのだ。若いフレッドは冒険を求めていた。

 ウィルたちが三叉路に着いたとき周りに人の気配はなかった。
「フレッドもいませんね、ロック」
「周辺を見回っているんだろうな」
「来るまで待ちましょうか?」
「いやこのまま移動した方が良かろう。あいつも俺たちがここで待つとは思っていまい。街道以外に入ったなら途中で合流しようとするだろう」
「なるほど」
「まあしかし、5分ほど休んで水を飲むのもよかろう」
2人はコンティ街道に少し入り路傍の石に腰かけた。馬も草を食み始める。東から気持ちの良い風が吹いていた。
 ウィルは水の入った皮袋とロックのために干し肉を一塊雑のうから出す。乗り手の体重差のためウィルの方に余分の荷は積まれていた。
「ロック、お肉は?」
「これはありがたい」
 木陰で汗を拭き水を飲んだ2人はそのまま黙って過ごした。
 
 2人は決して油断していたわけではない。旅人の忠告もあったしフレッドも戻っていないのだ。だから突然後方に気配を感じたときは跳び上がるほど驚いた。
 立ち上がり振り向いた2人の視線の先には馬に乗った2人の人物がいた。ちょうど三叉路のところである。いくら風上にいたとはいえ蹄の音もしなかった。街道脇の森は深く馬の歩める道はない。とすれば手前の草地に虫に刺されながら潜んでいたことになる。それもありえないとウィルは思った。何しろ1人は美しく身分の高そうな貴婦人なのだ。
 意外なことに相手の2人もウィルたちに少し驚いたらしい。木陰にいたから気付くのが遅れたのかもしれない。2人もコンティ街道に入ってきた。異国風の装束からするとアルゴスからの旅人なのだろう。王国とも大公国とも友好を保っているアルゴスだが、より大公国と親しいと世間では認識している。
 2人が目の前を通り過ぎようとしたときウィルは立ち上がって声をかけた。
「見知らぬものの忠告を聞いていただけますでしょうか」
驚いたことに貴婦人が直接答える。
「近き者のみの言葉しか受け入れぬは愚者の行い。どのような助言をしていただけるのでしょう」
顔を上げて間近に見ると金髪を結い上げた美女はまだ20代前半らしく見える。お付の者も整った顔をしているが身のこなしからなかなかの使い手と思えた。
 ウィルは名を名乗り、旅人から聞いた怪しい騎馬の集団の話をして同行のフレッドがまだ戻らないことも付け加えた。
「頭巾を被った10騎ですか」
「はい。頭巾の中身は黒い霧のようだと申しておりました」
貴婦人は供に話しかけた。
「アムシャ、ちょっと見てきてくれるかしら」
アムシャというのがその名らしい。
「かしこまりました」
そう答えるとアムシャは馬をとばし街道を南へ向かった。ウィルの横に立っていたロックが貴婦人に質問した。
「私はウィラと共に旅をしているロックと申す。貴女は黒い奴らについて何かご存知なのですか?」
「これは失礼いたしました。私はアルゴスのサラスヴァティーと申しコンティ大公領の知人を訪ねる途中なのです。サラと呼んでいただければ結構です」
丁寧な挨拶に対しロックはウィルが見とれるくらい優雅にお辞儀をした。
「おたずねの者たちは黒の乗り手と私が呼んでいる存在と思います。さすれば9騎いることになります」
「何者なのでしょう」
「魔族のことはご存知ですか?」
「少しは。20年前まで南の山脈一帯に数多くいたことや最後の魔王をロック・サンダースが倒したことは承知しております」
「これは噂ですが魔族も2派に分かれて戦いを始めたそうです。そして異界では今も戦いが続いているともいいます。また人間界に残った魔王ルゲイルは倒されましたがその子にルゲイスというものがいる様子。黒の乗り手はルゲイルの手先でしたからルゲイスが活動を始めたと言うことでしょう。ただ……」
「ただ?」
「なにを捜すために派遣されたのかが良く分かりませんね。おやアムシャが戻るようです。お連れが無事だといいのですが」
ウィルとロックは馬を西に向けた不思議な美女サラを黙って見上げていた。不思議な話だが、法螺とは思えぬ説得力を感じていた。
 それにしても耳には自身のあるウィルには何の音も聞こえない。数分してサラに聞きなおそうとしたとき微かな馬蹄の音が聞こえてきた。
「お二方、武器の用意を」
サラはそう言いながら取り出した弓に弦を張っていた。2人も馬にまたがり武器を用意してから質問する。
「どういうことですかな?」
「何が起こったのです?」
「先行する馬が2頭、1頭はアムシャでもう1頭は空馬、追跡するのは6騎でおそらく黒の乗り手です」
シマラの魔法に慣れている2人は説明を受け入れる。ただサラの魔力の大きさに内心驚いていた。
「私は近接戦闘は苦手ですが高速で移動できます。ロック殿はウィラさんをよろしく」
「心得た。相手の弱点は?」
「馬は不死身です。乗り手のマントをはぎ陽光を当てれば人馬とも消滅します。ただ剣は一流ですよ」
「一流がどんなものか、これからお見せいたしましょう。なあ、ウィルァ」
「ウィルァって」
「すまんすまん、ウィラ。来たぞ!」
ロックはそのまま突撃し、ウィルは聖なる護衛の印を結んでから飛び出した。
 既にアムシャは角を曲がっていた。懐には何か抱いており、乗り手のいないフレッドの馬を引いている。
 最初の攻撃は近くの木の枝に突如出現したサラである。速射で1人の乗り手のマントをはぎ消滅させた。
「奥様!」
アムシャの呼びかけでサラは近くにより懐のものを受った。すれ違いざまウィルにはそれが幼女となったフレッドだと見て取れた。
「大丈夫、息はあります」
サラはそう叫ぶと消え、余分の馬の手綱を手放したアムシャは馬を止め向きを変えた。
 最初に敵に近づいたロックの大剣を受けようとした敵はその怪力を止めきれず剣とマントをとばされて消えた。構えなおす暇もあらばこそロックは次の敵に跳びかかり共に馬から転げ落ちた。あと3騎。
 馬ごとぶち当たり間合いを詰めたウィルは相手の剣を受け止めると左手に持った鞭をマントに絡めてずり脱がせ敵を消し去った。
 残りの敵とすれ違ってしまったウィルとロックが振り向くとアムシャは既に1騎を消し去っている。
 最後の1騎が馬首をめぐらした背後にサラが出現して見事にマントを剥ぎ取り皆に優雅に一礼をして戦いは終結した。

(2)

 ウィルと別れたアトランとシマラは北へ向かっている。ギルドの依頼は北方の交易路に出現した魔族の生き残りの退治である。2人は早く片づけようと馬を急がせていた。
「それにしても魔族の生き残りとはね。ルゲイルが最後の魔族じゃあなかったのかい?」
シマラはぬかるみに馬が脚を踏み入れたので顔をしかめながら言った。街道はところどころ石畳がはがれ傷みが激しい。
「20年前手ひどい打撃を受けた東の蛮族とて全滅したわけではあるまい。しかも一部は東方領で陛下の臣民になっているぜ」
「ねえ、君。それは穏やかならざる例えじゃないか。魔族が我々の間に入り込んでいると?」
「では逆に聞こう。どうして入り込んでないと言い切れるのかな」
「そうだなあ。魔族には翼手や尾があるじゃないか」
「君は得意の魔法変身で尾や翼を生やせないのかい?」
「なかなか言うね。では彼らのもつ邪気はどうだい」
「邪気のないものが生き残ったとすれば?」
「確かにそれじゃ区別はつかないな。しかし君がそんなに魔族の肩を持つとは思わなかったよ」
「そういうわけじゃない。現に今回の相手を私は魔族だと思っているし、確実に倒すつもりだ」
「ますます分からないな」
「私の父の領地は南の国境に近くて昔は魔族は身近な存在だったのさ」
「今はいないんだろう?」
「どうかな。魔族同士で戦ったと言う噂はあるんだが」
「ははあ、その時邪悪な魔族は消滅したと?」
「なんとも言えないね」
「では君は魔族をどうとらえているのかな?」
「人とは異なる種族、元々はいわゆる魔界の住人なんだろうな」
「平凡な回答だね」
「私の言いたいのは人にもいろいろあるように、魔族にもいろんな奴がいるだろうってことさ」
「魔族に知り合いでもいるのかい?」
「さあ、どうかな」

<つづく>

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